IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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───覚醒した意識、直ぐに感じたものは土の匂いであった。

 

「…」

 

少年は特に慌てた様子もなく周りを見渡す。

視界を埋めつくしたのは鮮やかな(あか)

辺りは紅葉の林になっており、真っ赤な紅葉がひらひらと宙を舞う。

腐葉土の上にもまた、幾層にも積み重なる形で紅葉が敷き詰められていた。

 

見慣れない場所。

普通にベッドで眠りについたというのに、屋外の地面に彼は横たわっていた。

不可解な現象であるが、流星には覚えがある。

起き上がりつつ、身体に被さった紅葉を払う。

 

「『打鉄』、いるんだろ」

 

「ええ、此処に」

 

紅葉の中、彼は問いかける。

現れたのは白く無地の着物に身を包んだ女性だった。

後髪を束ねた長髪。着飾った様子はない。

受ける印象はどちらかと言えば箒と同じ武人のそれだ。

年齢は流星達より10歳程上に見える。

 

「アンタが俺を呼んだのか?」

「いいえ、違います。此度の件に私は関与しておりませんよ。どちらかと言えば…」

「?俺?」

 

首を傾げる流星。

『打鉄』の搭乗時間は現状あまりにも少なく、『同調』も行ってはいない。

───思い当たる節があるとすれば、『時雨』の時のように相性が良いのだろうか。

 

「──相性は普通ですよ。少なくとも『あの子』程、貴方と相性の良いISは居ないでしょう」

 

思考を読んだように『打鉄』が告げる。

なら、と流星は口を開いた。

 

「『時雨』が関係してるんだな。後は…『同調』の影響か」

「聡明ですね。どちらも的を射ています。補足するなら、『あの子』の性質がこのような形で発言したのでしょう」

「性質?」

「今更ですがISはコア・ネットワークにより繋がっています。ただ、『あの子』のコア・ネットワークはひときわ特別──とだけ申しましょうか」

 

『打鉄』は静かに目を伏せる。

中身を言えないのか、言わないのか、はたまた細かくは把握出来ていないのか。

少なくとも現状の理由はぼんやりだが理解出来た。

 

「そうか。なら邪魔したな。どうすれば出れる?」

「問題ありませんよ。時間が経てば自然と目が覚めます」

「成程」

 

言葉を聞き、彼は近くの木々にもたれ掛かる。

時間が経てば──とあるが、それまで暇には違いない。

 

ぼんやりと上を見上げた。

紅葉の隙間から、微かに空が見えている。

虫や鳥、他の植物はない。

寂しさもあるが、周囲の風景は言葉を失わせる程の美しさがあった。

 

 

「あんた、名前は『打鉄』なのか?」

「はい。私は『打鉄』。それ以上でも以下でもない。数いる『打鉄』の1つですが、何か問題が…?」

 

どうしてそのような事を?と彼女は首を傾げる。

 

「個体名がないのは、何か勿体ないな」

 

「勿体ない…ですか?」

 

「こんなに鮮やかなで、落ち着きのある紅は見たことがない。コア毎に性格も世界も違うんだ。数いる『打鉄』の1人(・・)…で片付けるのは勿体ないだろ」

 

「1人……ですか。そう言えば貴方は……私達と人間の境界が曖昧なのでしたね」

 

『打鉄』は彼の目を見る。

言うまでもなく、本心からの言葉だと理解した。

 

「だとしても、あまりみだりにISを口説くのはいけませんよ。『あの子』がヤキモチを焼きますし──何より、ずっと取り憑きたくなります」

 

ふふふ、と口元を隠しつつ妖しげな笑みを浮かべる。

──ぞわりと少年の背すじを悪寒が走り抜けた。

 

取り憑くとはなんだろうか。

あの笑みの意味は何か。

ひとまず、考えないでおこうと少年は思考を止める。

 

 

「感情豊かだな。本当に」

 

「それはもう。我々には恋愛感情は有りませんが…所有欲のようなものはありますから」

 

「……気を付けるよ」

 

「ふふ、お気になさらず。───して、名前が頂けるのでしたね?」

 

「そんな話だったか?」

 

どうにも向こうのペースに乗せられている。

別段、問題が出るわけでも無いため少年も受け入れているのもあるが、イマイチ掴み所がない女性だ。

流星は顎に手を当て、少し考える。

 

「安直になるが…(もみじ)なんてどうだ」

「本当に安直ですね」

「ぐ………、不満なら───」

「いいえ、私は気に入りましたよ?」

 

『打鉄』──もとい椛は愉しげに笑いつつ口元を隠す。

絵になるような美人の上品な笑み。

 

対面する少年は不機嫌そうに口を尖らせていた。

 

 

「はいはい、喜んでもらえて何よりだよ」

「そう拗ねてはいけませんよ。流星様」

 

いじける少年の隣で椛は腰を下ろす。

自然な仕草でいつの間にかそばに居た。

 

1人悠然と上を眺めていた。

流星も同様に上を眺め──彼女の視線の先を見る。

見事なまでの紅葉──木漏れ日と相まってそれは神秘的に見えた。

 

ただ、違和感は拭えない。

椛が見ているものは、これではなく───。

 

 

「なあ、あんたが見ているものって───」

 

流星はふと椛が見ていたものに気が付く。

彼女の見ていた先は、隙間から見えるあの──。

 

振り向こうとした辺りで周囲がブラックアウトする。

鮮やかな世界を離れ、暗闇の中目覚めを待つ。

 

 

一瞬が永遠にも感じる中、彼は静かに瞼を開けた。

 

 

 

 

 

「────、眠…」

 

目覚めた場所は、いつもの自室。

見慣れた天井──窓から射し込む光はまだ弱い。

異様に残った眠気の中。

彼は二度寝を諦め、ベッドから飛び起きるのであった。

 

 

 

 

 

 

織斑一夏は、呆気に取られていた。

 

事の始まりは数分前の全校集会。

突然体育館に集められたかと思えば、学園祭の説明がされる。

学生としては楽しみな行事、IS学園の学園祭はそれなりに大掛かりだと聞いていた為一夏も期待を胸に耳を傾けていた。

 

壇上で説明している人物は──更識楯無こと生徒会長。

ごく最近、一夏の囁かな生活を壊した水色の悪魔(ひとたらし)だ。

 

普段は人をからかうのが大好きな彼女だが、こうした生徒の前での振る舞いは流石としか言いようがない。

 

───常にあれならなぁ、と疲れきった顔の一夏。

練習メニューには特に不満はない、全く無い訳では無いが──自身が望んだことだ。

問題は同居人たる彼女が、事ある事にからかってくる点だ。

 

初日の水着エプロン姿は勿論、胸元をはだけさせたシャツ姿、ナース姿、際どい足の組み換え──等々男子高校生には心が休まらない。

 

余談ではあるが、しれっと代表候補生達の好みや扱い方を彼女は心得ている。

それもあり、皆いつの間にか楯無に気を許していた。

となれば、楯無が一夏を揶揄う際のツケ…及び矛先は自然と一夏へ向かう。

 

混沌とする一夏周辺。

彼がぼやくのも無理はなかった。

そんな中、聞き捨てならない言葉が聞こえた。

 

『以上の通り、今年の学園祭は投票制にて1番を決めるものにします。売上は別枠で例年通りにランキングするから、そっちも頑張ってね。ちなみに投票制の方で1位になった部活には───織斑一夏を生徒会権限で強制的に入部させる事を約束するわ』

 

 

賞品として自身の名前がいきなり挙がったのだ。

理解が及ばずぽかんと口を半開きにするしか、彼には出来なかった。

 

 

そうして、教室に戻る。

 

教室に戻るや否や、クラスの出し物を決める事に。

千冬はクラス代表である一夏にその進行を放り投げると、職員室へ戻ってしまった。

生徒間で決めるものである為、別段おかしくもない。

真耶が見守る中、一夏は前に出て案を募った。

 

 

──のだが───。

 

 

「ウチのクラスの出し物の件ですが────全部却下!!」

 

「「「えええー!」」」

 

「ダメに決まってるだろ!こんなの!」

 

声を荒らげるつつ、一夏は電子黒板を指さす。

そこに書かれていたのは、一部の欲望に忠実なものばかりであった。

 

『男子2人のホストクラブ』

『男子2人とツイスター』

『男子2人とポッキーゲーム』

『男子2人と王様ゲーム』

 

他クラスにはないアドバンテージを活かす気満々である。

ただ、勢いだけの案しかないのは間違いない。

 

「人気だなー」

 

男子の片割れは抑揚のない声で呆然と呟く。

本格的に檻を用意し、中で座っているだけで客が来るのでは無かろうか。

 

 

「おい、流星。他人事じゃないからな!?お前も対象だからな!!反論しようぜ!?」

 

「あー、えー………まず、ツイスター?ポッキーゲーム?王様ゲーム?って何?」

 

「そこからかよ」

 

???と改めて文字を読みつつ首を傾げるオレンジ髪の少年。

少年の経緯からして知らなくても仕方が無い。

 

頼りにならないと判断した一夏は隣の真耶の方へ顔を向けた。

 

「山田先生もそう思いますよね!?」

「えっ?私は3番のポッキーゲームとかが良いかなぁなんて」

「え」

「あれっ!?駄目なんですか?」

 

困惑の表情を露わにする真耶。

女子校出身という事もあり、何処かズレていた。

 

溜息をつきながら、一夏はクラスメイトの方へ向き直る。

 

 

「大体誰が喜ぶんだよ!こんなもん!!」

 

「私は喜ぶけどなー。断言する」

「そーだそーだ!女子を喜ばせる義務を全うせよー」

 

「はぁ!?」

 

何がいいのかさっぱり分からない。

楽しげに反論する女子達に一夏は眉を八の字に。

 

 

『織斑一夏並びに今宮流星は1組の共有財産である──!』

 

 

そうだそうだー!と女子達は盛り上がる。

一夏の苦言など聞く耳持たず──元より桁外れの唐変木相手という認識もあったのだろう。

1組女子の盛り上がりは最高潮にまで達しようとしている。

 

そんな中、捨て置かれていた流星は何かに気が付いたように口を開いた。

 

 

「これ、そもそも客の数に限界がないか?」

 

「確かに、言われてみればその通りですね」

 

「「「え〜、そんなぁ…」」」

 

ホッと胸を撫で下ろす一夏。

真耶の同意により、女子達の希望は潰える。

 

現実的な話になると問題だらけ。

半分目を背けていた女子達も改めてそれを直視し、机に突っ伏した。

 

「こほん、とにかく!普通の意見は無いのか?」

「普通というと?」

 

問いかけるクラスメイト達。

言うからには自身も何か案を出さねばと一夏は顎に手を置き、一瞬考える。

 

「喫茶店とか?」

「普通過ぎるー!」

 

「──じゃあお化け屋敷とか?」

「IS学園と合わなくない?」

 

「──なら───」

「っていうか普通過ぎな気もするんだよねー」

 

ピシリと一夏が固まる。

端々から否定され、彼は大きな溜息をつく。

また奇っ怪な案が出る前にどうにかしたい所ではあるが───。

 

 

「いいだろうか?」

 

クラスの視線が一斉に声のもとへ向けられる。

手を挙げ、意見を述べようとしていたのはラウラであった。

 

 

「メイド喫茶はどうだろうか。客受けもいいだろう」

 

「は?」

「ら、ラウラ?」

 

───聞き間違いか?

ポカンと口をあける男子2人。

意外な単語が銀色の少女の口から出た事に驚きを隠せずにいる。

 

対象的に女子の方は気にしてはいない様子。

『おー』と感心の意を示していた。

 

 

「嫁の言っていた喫茶店というのは悪くない。経費の回収も可能だからな。ただインパクトに欠けると思って一捻り加えた形だ」

 

「織斑君や今宮君はどうするのー?」

「メイド服着てもらう?」

 

 

「えっ…」

「はは、ウケる」

 

1組はラウラの案を聞き、賑やかさを取り戻す。

女子達としては冗談半分の発言も、男子達2人には不穏なものにしか聞こえない。

 

メイド服を着せられる未来を想像し、男子二人はげんなりする。

苦虫を噛み潰したような一夏と現実逃避気味の流星。

 

奇跡的に2人がメイド服を着る未来は回避される事になる。

 

 

「男子二人は執事の格好をして貰うなんてどうかな?一夏だと料理も上手だし、厨房もやって貰うとかどう?」

「いいねそれ!」

「賛成!」

 

シャルロットの案に皆が目を輝かせる。

一夏の執事姿を見たい──なんていうシャルロットの欲望が入っていたりするのは今更な話である。

 

肝心の服の調達や料理のメニュー等の話も、トントン拍子に進む。

皆積極的に役割を申し出る事もあり、かなり細部までの話が纏まった。

 

十分現実的な案にまで成長を果たす。

『御奉仕喫茶』──1組の出し物は決定した。

 

 

 

そうして、一夏は纏められた案を紙媒体にして職員室の千冬のもとへ向かう。

 

 

「───成程、衣装だけ変わった喫茶店か。メニューや準備の構想も出来ている。良いだろう、許可する。ところで───提案者は誰だ?」

 

「ラウラですけど…」

 

「ほう、ラウラか。…────!?」

 

 

 

 

 

激しく叩き付けられる金属の音が辺りに響いた。

ぶつかり合いにより火花が散る。

場所はアリーナの上空──発生源は空を舞う2つの機体。

『紅椿』と『白式』だ。

 

 

「はぁッ!!」

 

「っ!?」

 

箒が振るう二刀を一夏は雪片弍型で切り弾く。

出力は箒が上。

力を横に受け流しつつ、彼は身を反転させる。

 

スラスターの光の輝きが増す。

互いの踏み込み位置、攻撃範囲(リーチ)、手数。

それらを加味しつつ此方が攻める際に有利な位置取りに移ろうとする。

近距離と一括りにするのは愚考だ。

 

(くそ、上手くいかない!)

 

───更識楯無の指導の1つ、自身に有利な位置取りの意識。

多少慣れては来ているが、それでも難しい。

箒程の剣士相手となれば当然の事、相手の決められる間合いで詰められる。

 

 

『そこ!重心が2cmズレてるわよ!』

 

「──っ、はい!」

 

───同時にPIC制御も意識する。

模擬戦の中、それも篠ノ之箒という優秀な剣士との近接戦闘の最中である。

 

「隙だらけだ!」

 

案の定、一夏側の動きに綻びが生じる。

隙を逃すまいと動く箒。

先までの間合い管理も水泡に帰す───のだが、ここからこそ本番であると一夏は自身に喝を入れた。

 

 

「ふ─────ッ」

「!」

 

軽く息を吐き、タイミングを合わせる。

見極めるは体捌き。踏み込む手前から全身、腕、手、と情報は細部に──次第に少なくなっていく。

感覚的にではあるが、次の攻撃が見て取れた。

 

片手で雪片を振るう。

 

 

 

「何!?」

(───なんだ?今の感じ)

 

受け流した瞬間に箒が驚きの声を発した。

無我夢中で凌いだ一夏もまた、結果を見て目を丸める。

 

刹那的ではあったが、異様な立て直しの速度だった。

いつもならば確実にやられていた場面をどうにか出来たのは、大きな前進である。

 

───と、喜びも束の間。

一瞬の攻防に一喜一憂する暇は当然あるはずもなく。

 

 

『そこ!気を緩めない!!』

 

「え…?」

「そこだっ!!」

 

「っ!?ぐはっ!?」

 

 

ハエたたきを食らったハエの如く、一夏は地面に叩き落とされた。

以前までと違い、受け身は取れており機体自体の損傷もほとんどない。

楯無は確認を終えると、呆れた様子で口を開いた

 

 

「戦いの最中に気を抜かないこと!(ペナルティ)としてメニュー追加ね」

 

「分かりました。…あの、何かコツとか無いですか?2つ以上意識するのが難しくて…」

 

「コツ?」

 

楯無に対し、一夏は起き上がりながら尋ねる。

楯無はその質問に対し、キョトンとした表情を浮かべた。

 

「無いわよ。そんなの」

「はい?」

「だから、ないわよ。そんなの」

「ちょ、ちょっとそれは無いんじゃないですか!?」

 

一夏は堪らず抗議する。

楯無は閉じた扇子で口元を隠しつつ困った様子で応じた。

 

「だって一夏くん、並列思考はあまり得意じゃ無いでしょう?あーだこーだ言っても多分無理なのよ」

「うっ…」

「だから並列でやる感覚を体に叩き込む。シンプルだけどこれが一番よ」

「なるほど」

 

あっさり納得する男子に楯無は満足気に頷く。

愚直だが素直、加えてIS操縦者としてのセンスはある。

教え甲斐が有るというもの。

 

 

「さ、すぐに再開して頂戴。このペースだと日が暮れるわよ?」

 

 

 

 

 

 

そしてまた、金属の叩き付けられる音が鳴り響いた。

場所は別のアリーナ上空。

銀灰の機体と黒の機体が空中で交差した瞬間であった──。

 

「「──」」

 

互いを一瞥し、高速の切り返し。

大きな選択肢は二択。

 

空中で反転する無機物が2つ。見た目にそぐわぬ素早さで相手へと仕掛ける。

 

近接を選んだ銀灰の機体は盾を展開。

中距離を選択した黒の機体はワイヤーブレードを射出した。

 

「ちっ」

 

先にワイヤーブレードが少年へ襲いかかる。

旋回しつつ近寄ろうとしていた少年は、軌道を変え頭上からのそれを受け流した。

切っ先を受け流し、そのままワイヤーを掴む。

そのままワイヤーを引っ張り、スラスターを吹かす。

 

少し歪な軌道で接近。

近接ブレードに持ち替え、流星はラウラに斬りかかった。

 

素早く手を翳すラウラ。

──同時に流星は直角に動き、AICのタイミングをズラしていた。

 

「時間差か!」

 

この為に、斜めの慣性を乗せていたのだとラウラは気付く。

ラウラもまた素早くレールカノンの照準を合わせる。

少しの後退により、近接ブレードの間合いからは逃れている。

 

一方で流星は直進という選択をした。

左の盾を全面に押し出し、瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 

「っ!」

 

黒の雨(シュヴァルツァ・レーゲン)』と『打鉄』が衝突。

ラウラは少し飛ばされそうになるも、空中で踏みとどまった。

中距離砲撃機である『黒の雨(シュヴァルツァ・レーゲン)』は純粋に重い。

加速距離の少ない突進なら、出力もあって受け止めきれる。

 

「レーゲンと力比べするつもりか?」

「まさか。そのつもりは無いな」

「意見が合うとはな」

 

AICの射程──とラウラは流星を捕縛せんと動く。

 

「っ!」

 

同時にゼロ距離での銃撃。

思わずラウラの体が仰け反る。

流星は盾の裏にアサルトライフル──焔備を隠し持っていた。

 

展開より一歩早い。

 

レールカノンで反撃するも、掠っただけ。

ラウラは後退しつつ、AICでアサルトライフルの銃弾を止めた。

何も無い筈の空間で突然止まる銃弾の雨。

塗り固められたように、銃弾が止まる奇妙な光景である。

 

 

回り込もうとする少年。

少女はレールカノンを先に撃ち、少年の移動範囲を操作。

 

「!」

 

ワイヤーブレードをけしかけるも避けられた。

 

こうなってしまえば──互いに膠着状態に陥る。

片や避け続け、片や防ぎ続ける流れになる。

集中を切らせば戦況が傾く──我慢比べだ。

 

 

 

 

 

「ラウラ〜流星〜、シュークリーム貰ったんだけどどうかな〜。───ってゴメン、模擬戦中だった?」

 

不意に入口の方からシャルロットの声が聞こえた。

 

「「──!」」

 

───ピタリと空中の2機の動きが止まる。

打ち合わせたかのように同時であった。

ピリピリとした緊張感も消え、互いに構えたまま睨み合う形になる。

 

 

「「…」」

 

 

少し不満そうにだが、2機はそのまま下降した。

想像とは違うリアクションにシュークリームを持参したシャルロットも苦笑い。

 

地面に降り立った彼等はISを解除。

咳払いだけすると、何事も無かったかのようにシャルロットの元へ駆け寄った。

 

 

 

 

────アリーナ内部の休憩室。

1つのテーブルに4人(・・)顔を突き合わせながら、シュークリームを口にしていた。

 

 

「うまうま〜」

「どうして本音までいる」

「それはねー、ビビッときたからだよ〜」

「説明になってない」

 

呆れる流星をよそに黙々とラウラは食べ進める。

流星とラウラはISスーツ姿のままであった。

 

美味しそうに食べる本音を見つつ、まあいいかと彼もシュークリームを口にする。

 

 

「結構白熱してたみたいだけど、どうだったの?」

 

先の模擬戦についてシャルロットが尋ねる。

シャルロットの目から見ても、現在の今宮流星の操縦技術は代表候補生に匹敵する。

更に今まで見せた戦闘スキルに於いては、それ以上かもしれない。

 

そして、軍人かつ代表候補生のラウラとの模擬戦。

シャルロットも興味を持って当然だ。

 

 

「「あのままなら俺(私)が勝って(い)た」」

 

オレンジ髪と銀髪が動きを止める。

ほぼ同じタイミングで発した互いの言葉に、口を尖らせる。

 

「聞き間違いか?近接ブレードの扱いが下手な貴様に、私が負ける筈が無い」

 

「…扱いが下手で悪かったな。というか、AICで満足に俺を捕まえられない奴に言われたくない」

 

「何だ貴様、やるか?」

「俺はどっちでもいいけど、やりたいなら付き合ってやるよ」

 

意地の悪い笑みを浮かべる少年に少女もまた不敵に笑う。

いつもの事ではあるが、何時になく好戦的である。

 

シャルロットはそれとなく話題転換をはかった。

 

 

「そう言えば、『打鉄』のデザインが変わってる気がするけど何かあったの?」

 

「デザイン?」

「確かに少し違ったな。何か調整したのか?」

 

2人の発言に少年は小首を傾げる。

 

「ねえねえ、もう一個食べていい?」

「良いんじゃないか?──見た目が変わってるってことか?」

 

我が道を行く少女は1人余ったシュークリームに手を伸ばす。

 

「うん。一次移行(ファーストシフト)でもニ次移行(セカンドシフト)でもなさそうだけど、すぐ差が分かる位」

 

それをよそに流星は右手を上に上げ、ISを部分展開した。

現れる銀灰色の腕───なのだが、装甲の隙間に紅いラインが走っている。

鮮やかな色、それを見て流星は思わず顔を顰めた。

 

「こいつ、思ったより自由だな…」

 

「「こいつ?」」

 

「気にしないでくれ。イメチェンみたいなものだ」

 

部分展開を解除し、飲み物を口に含む。

特に説明はしない。

説明しても話がややこしくなるだけだからだ。

 

「綺麗な色だったねー」

 

何気にしっかり確認していたらしい。

隣の本音は感想を告げていた。

よく見ると、頬にクリームが付きっぱなしである。

 

「で、本音は何してたんだよ?」

 

話しながら指でクリームを拭う。

自然な動きに誰も違和感は覚えない。

 

「いまみーを探してたんだよ〜。かんちゃんとりんりんの様子がおかしかったから、知ってるのかなって」

「様子…?」

 

本音の言葉に眉を顰める。

そう言えば今日は姿を見ていない。向こうのアリーナにも居なかった筈だ。

思い出したようにラウラも口を開く。

 

「私はここに来る前に見たな。特に鈴が挙動不審というか、何かを避けるような動きだったが──」

 

と、ラウラが少年へ視線をやる。

半目で彼を見つつ、無言でシュークリームを口にした。

大方お前を避けてるのだろう──視線がそう物語る。

 

 

「…」

 

思い当たる節はな───いや、ひとつだけある。

ただ、思い出してはいけない気がして流星は一時記憶を封印する。

思わず眉間を抑える彼をシャルロットは覗き込んでいた。

 

「休日に何かあったとか?喧嘩?」

「聞くな。聞かないでくれ」

 

「───何かあったんだね、いまみー」

 

「……」

 

スっ──と細くなり圧が強くなる本音。

 

ひとまずはこれをどう凌ぐかが、少年の目下の課題となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

───同時刻、某所。

 

「へぇ、思ったより元気そうじゃん」

 

軽やかだが、響く声。

サイレント・ゼフィルスと呼ばれるBT2号機の前に佇む少女は振り返った。

 

「貴様か…」

 

不満げに声を漏らし、機体に向き直る。

彼女の手もとの端末には、以前の灰の機体との戦闘記録が記されていた。

 

先程の声の主──もとい青い髪の少女は口角を吊り上げる。

 

 

「んだよぉ、(ウチ)が折角心配して来てやってんのに」

 

あの女(スコール)には待機と言われている。それに、貴様の悪趣味に関わる気もない」

 

「悪趣味ぃー?」

 

キッパリとした拒絶に対し、とぼけてみせる青い髪の少女。

織斑千冬と瓜二つの少女──エムは目前の情報に意識を向けつつ、口を開く。

普段通りなら会話すらする気はないのだが、今は作業中であり動く気は無い。

ついでに気になった点がひとつだけあった為、気まぐれに尋ねていた。

 

 

女性主義者(ミサンドリー)を焚き付けていただろう」

「エム見てたのー?──なんて冗談だからさぁ、殺気飛ばすのは止めてね」

 

一瞬場をピリピリとした空気が支配した。

青い髪の少女はわざとらしく慌てた様子で彼女を宥める。

 

「理由なんて分かりきったものじゃん?」

「陽動か。貴様の言う更識?とやらに通じるとは思えんな。可能性があるとして──」

「──織斑一夏への奇襲?確かに戦力で考えればそうだよねー。でもでもぉ、ひとつだけ皆抜けてる事があるの」

 

薄気味悪い、顔に貼り付けたような笑み。

青い髪の少女は愉しげに頬に人差し指を当てる。

 

 

「更識は対暗部組織であって、軍じゃない。兵士でも無ければ対テロの武装組織でもない。粒が多少揃っていても──完全な民間人による数の暴力、圧倒的武力──理屈が通じないものには勝てないもんよ。最も──ああいうのは戦いを情報戦で封じ込めてくるのが基本───そこでこの組織のコネが活きるってわけ」

 

だから焚き付けたのよ、なんて青い髪の少女は告げる。

聞かされていたエムは特に興味が無さげに端末の映像を消す。

機体の情報や戦闘の情報を記録し終えたのか、用が終わったとばかりに部屋の扉へ歩き出す。

 

 

力説する少女を鼻で笑いつつ、視線を向けた。

表情の変化こそ少ないが、嘲笑っているのはすぐに分かった。

 

 

「随分な高説だ。対暗部組織の家系というのは嘘ではないらしい」

「────」

「井神家、だったか。更識に長を殺され凋落した───」

 

 

「───それ以上話すと(ウチ)、何するか分かんないから」

 

 

青い髪の少女の表情から笑みが消え去る。

今まで見せてこなかった澱んだ瞳。

先のエムとは違った焼き尽くすような激情がそこにはあった。

 

 

「──くく」

 

エムは見下した視線のまま、声を漏らす。

今までのような取り繕った空気やより余程上等だと言いたげであった。

 

「事実だろう、井神来玖留(くくる)

「チ──ッ」

 

自動の扉が開閉する間の抜けた機械音が聞こえた。

エムが部屋を後にし、静寂が帰ってくる。

立ち尽くす青い髪の少女──もとい井神来玖留。

 

女性主義者(ミサンドリー)を焚き付けた──それは間違っていない。

 

───ただ、正確にはもう1つアクセントを加えている。

対立している男性復権主義組織に、『女性主義者(ミサンドリー)男性操縦者(・・・・・)を狙って動いている』と情報をあえて漏らした。

 

ちょっとした策。

普通なら見抜かれて終わりだが──。

 

「さあて、入念に準備を始めるか」

 

彼女は青い髪をかきあげながら、再び貼り付けたような不気味な笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

話に影響しないので、ただの興味本位ですが…『本作中における、読者の推しヒロインは誰?』

  • 本音
  • 楯無
  • 一夏
  • 清香
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