「───鈴に避けられてる?何したんだよお前」
「出来ればそこは聞かないで貰えると助かるんだが───」
「なんだそれ」
訝しむような視線を向ける一夏に、流星は目を伏せる。
互いに大きなビニール袋を持ちながら街を歩く。
学園祭に備えた買い出し。
食品や大きな物は当日や直前になる為、小物を先に揃えていこうというわけだ。
学校おわりに私服に着替え、近くのレゾナンス内の雑貨屋で調達を終えた。
ズッシリとした重みが両手にかかる。
「喧嘩したのか?」
「喧嘩では無いんだが、やらかしたと言うか。鈴側の自業自得というか」
「歯切れ悪いな」
「詳細を話したら今度こそ刺される」
ましてや一夏に話すなど、八つ裂きにされても文句は言えないだろう。
──簪と鈴はラウラの言う通り、流星を避けていた。
真意は分からないが、前の一件が原因だろうことは間違いない。
ひとまず話し掛けようとした流星であったが、鈴には逃げられた。
簪はかなりたどたどしいが、会話は出来た。
折り合いは付いているのだろう。
鈴程正面から見た訳では無かったのも起因している。
「深刻な感じか?何か手伝える事があったら手伝うぞ」
「ありがとう。気持ちだけ受け取っておく」
流星はそうとだけ返事をすると、近くの店へ視線を移す。
一夏も釣られてその先を見る。
そこにあったのは、なんて事ないアクセサリーショップ。
「…物で釣るのはあんまり効果がないと思うぞ?」
「そんなんじゃない」
一夏の発想を否定しつつ、店に近付く。
巨大ショッピングモール内である為、扉はない。
通路から見えたケース──その中にあった物に見覚えがあったのだった。
ビニール袋を足下に置き、懐から簪に貰ったアクセサリーを取り出す。
「それは?」
「簪に貰ったんだ。裏にあるロゴから見るに、ここで買ってたみたいだな」
「へー。中覗いて行くか?学生向けみたいだし」
「ああ、そうしよう。──って、何ニヤついてるんだよ」
「何でもねえよ」
楽しそうな一夏に流星は首を傾げる。
店内に入りアクセサリーを眺めていると、店員に声を掛けられた。
淡いピンクのカッターシャツを着た女性店員だ。
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」
「貰ったものがここで買われた商品みたいで。ちょっと見て回ろうかなと」
「──そうなんですか!拝見しても?」
「ええ。これですけど」
と、手持ちの物を少年は見せる。
「!こちらですね。成程!」
興味深そうに女性店員はそれを確認すると、直後に微笑ましいものを見るような目になった。
曰く、この店のアクセサリーには元々効果と別に贈り物にした場合の
故に値段的なものだけでなく、贈り物としてもここの商品は人気だという。
『知りたいですか?』と尋ねる店員に流星は『必要ない』と答えた。
態々本人のいない所で意味を調べるなど、気が引けたからだ。
「──」
店内にある幾つものショーケースの中を見る。
種類や形は様々。学生向けを謳っているのもあってか装飾も細かく綺麗だ。
──貰ってばかりだ、少しは何か形にして返した方がいいのかもしれない。
考え込む少年に一夏は小首を傾げる。
一方で───
少年の思い付きに気が付いたのか、女性店員はにこやかに声を掛けるのであった。
「らしくないな」
レゾナンスの一角で流星は独り呟いた。
椅子に完全にもたれかかり、顔を上げてため息をつく。
彼の対面の椅子に一夏の姿はない。
代わりとばかりに置かれたビニール袋──それは一夏の持っていた物である。
彼は現在、買い忘れた物を慌てて買いに行っているところだ。
店が閉まる直前に思い出し、ジャンケンに負けた一夏が走って向かった形になる。
(……学園祭、か)
思えば人生初の体験。
元を辿れば何もかも初めてであるが──。
「───キミが今宮…流星君だね?」
背後から聞こえる男性の声に、少年の瞳は静かに冷たさを宿した。
背後の席に座っている男性は缶コーヒーをテーブルに置く。
対象的に、流星は振り返る事もせず自身の飲み物を飲んでいる。
特に応じようとしない彼に対し、スーツ姿の男性は柔和な笑みを浮かべていた。
「突然ですまない。私は古河、古河大吾。──男性人権保護の会、日本支部の会長だ」
男性人権保護の会──聞こえはいいが、実態は男性復権主義も入り交じった組織だ。
あちら程揉み消す力や世論はないにせよ、各国で活動するだけの規模はあるのだろう。
付けられていたのは気付いていた。
特に危険も無いと判断し、泳がせていた。
勿論、重役であろう古河1人ではない。
護衛に数人私服の男をつけている───周囲の席に座る数人がそれだろう。
一夏の方をつけていった様子は無かった。
「で?そんなお偉いさんが何の用ですか」
心底嫌そうに口を開く流星。
先までの気分が台無しだ、とでも言いたげな様子。
古河という初老の男性は苦笑いしつつ、宥めるような物言いで進めた。
「いやいや、お偉いさんなんて柄でも無いさ。こうしてキミに直接会いに来ているあたりで察しがつくだろう?まあこんな立場だ。警戒されるのは当然だけど、どうか気を楽にして貰いたい」
何をぬけぬけと、と流星は内心呟く。
──男性操縦者2人の突然の外出。それに対応出来ている時点で組織的行動力と情報伝達は油断ならない。
その上、直接来たのは敵意は無いと示すためだろう。
「先に言っておきますが、俺は政治には興味がありません。そもそも立場もふわふわしてる。だから関わる気もありません」
「だろうね。だけど、我々がキミの立場をどうにかして保証すると言えば──話は変わらないかい?」
「保証?随分と都合がいい話じゃないですか」
古河の言葉を流星は鼻で笑う。
反応を示しそうになったのは護衛の数人。
ピクリと不機嫌そうに眉を動かしていた。
「確かに下心がないかと言われれば違うと言い切れない。そうだね、キミとは友好的な関係を築きたいから正直に話そう。キミ自身のデータも欲しいんだ。あくまで常識的な範疇でね。保証はその見返りでもある」
落ち着いた口調で淡々と告げる男性。
ああ面倒だと流星は独りごちる。
「説明になってませんよ」
「ISに男性も乗れるようにしたい。そうすれば今の世の中はひっくり返る。男女の不平等も必ず減るだろう。目的と理由は分かって貰えたかな?」
古河の説明に流星は溜息をついた。
──だからそれは、建前だろう。
彼が告げたのはあくまで綺麗な部分のみ。
嘘はついていないが、まだまだある理由のひとつに過ぎない
どうして流星に声を掛けたのか──織斑千冬や篠ノ之束に警戒した──?
IS学園に任せていればいいものを自身達で行おうとするのか───引き入れること自体に意味がある──?
何にせよ、乗る気などハナから無かった。
「そうですか。───でも、勝手にやっててくれ。俺は知ったことじゃない」
「んだと!?さっきから聞いてればお前!」
「やめなさい。近藤君」
立ち上がる取り巻きの男性。
周り抑えようとする中、近藤と呼ばれた彼は流星の席の隣まで近付く。
「お前は何も分かっていない。自分の重要度も、この不平等故に起きる悲劇も」
「悲劇なんてごまんと転がってる。それに、自分がこの上なく厄介な立場っては理解出来てるつもりだ」
「自分が良ければいいのか!?お前が呑気に女への土産を買ってる間にも、苦しんでる人がいるかもしれないんだぞ」
近藤の物言いに流星の眉がピクリと動く。
耳障り。そう感じた流星の雰囲気を見てとった古河はスっと右手を上げた。
「近藤君」
「あ…すいません、古河さん」
先よりも強い口調の古河に近藤は頭を下げて席へ戻る。
「すまないね。ツレが粗相したようだ。だけどね、キミのISを扱えるという能力は世界でも2つしかない貴重なもの。その上で、何もしない事を勿体無いと感じてしまうのは大衆の性だ。どうか寛容に見て欲しい」
ゆっくりと古河はそう告げた。
近藤という男は、能力がありながら悲劇を静観する姿勢の流星が気に食わないらしい。
大衆の心理故多めに見てくれとの事。
不意に湧き上がるどろりとした黒いもの。
間違いなく『時雨』から出たそれを理解しつつ、流星は嘲笑した。
「──大衆の心理ね。だから皆して、篠ノ之束に愛想尽かされるんだ」
「というと?」
「能力のある奴は相応の事をするのが普通───勝手な話だ。大天才ってだけで世界は博士にあらゆるものを求め縛り付けようとした。そりゃ雲隠れもするだろうな」
「ふむ…?」
最も
だというのに、まるで自身の発言は博士側のようだ──と流星は疑問に感じつつ話題を変えた。
「兎も角、アンタら側に付くことはない。それにこっちのツレももうすぐ戻ってくる。悪いけど、お帰り願うよ」
「そのようだね。私としては非常に残念だが、キミの人柄を少しでも知れたのは大きい。近藤君が立ち上がった時は肝を冷やしたが、キミが真っ当で助かった」
ははは、と愛想笑いを浮かべつつ思っていた事を暴露する古河。
今回の接触の目的は流星の人柄を知る事も含まれていたらしい。
他はあわよくばという所か。
「さて、最後に一つだけ」
ゆっくりと古河は立ち上がり、出口の方向へ足を向けた。
同時に取り巻きの男達も立ち上がり古河と共にその場を後にしようとする。
先程よりも古河の声のトーンが少し変わっていた。
温厚だが真剣な声色。
初めて視線をそちらへやる流星に、古河は鋭い目つきを返した。
「女性権利団体が近いうち何かやる気らしい。男性操縦者を狙っているとの事だ。気を付けなさい」
「…」
それだけ言うと柔和な笑みを浮かべ、古河は立ち去る。
あくまで敵対する気はないというスタンスが見て取れるが、警戒するに越したことはない。
完全に彼らの姿が見えなくなったあたりで遠くから走ってくる人物が見えた。
駆け寄ってくる一夏に対し、流星は缶ジュースを投げ渡す。
──やはり一夏をつけている者は居ない。
改めて買ったものを確認し、2人は帰路に着くのであった。
□
──それからというもの。
ご奉仕喫茶なるものの準備は、思ったよりもすんなりと進んだ。
メイド服や執事服は裁縫が得意──というより、その類いの服を作るのが得意な女子生徒の主導となり、手先が器用な面子で取り掛かる。
時間こそ掛かったが出来上がったものはかなり上等。
1番の難題はあっさりとクリア。
次に料理メニューの手順化、マニュアル作り。
特に手順化とマニュアル作りは味の均一化の為に必須だ。
また、作業効率やリスク回避の面からしても大きい。
──これらは一夏主導で進められた。
料理が得意な女子も多い為、意見も飛び交う。
熱い議論の中、そわそわしているセシリアを抑えるのが大変だったと箒は語る。
後は細かい流れの取り決めや、教室の装飾。
そして何より荒れたのが、休憩時間の配分である。
案の定、一夏の休憩時間と被らせたい女子達の醜い争いが勃発した。
結果、彼女らの休憩時間は少しずつ一夏と被らせる形で落ち着く。
順番に関しては勿論ジャンケンで決められた。
───そうして、学園祭当日。
「わぁー!織斑くんも今宮くんも似合ってるよ!」
歓声を上げるクラスメイトを前に、男子二人は複雑な表情を浮かべた。
褒められるのは正直悪い気はしない。
ただ、これから見せ物になるという点や慣れない格好に落ち着かない部分が大きい。
「ま、馬子にも衣装というものだな」
「我がオルコット家の執事に…というのもフフッ悪くないですわ」
「カッコイイなぁ」
「執事服というのも…悪くないな」
箒、セシリア、シャルロット、ラウラの4人は陰ながら一夏の姿への感想を述べる。
直接本人に言いに行けないあたり、彼女達も恥ずかしいのだろう。
「え?は?着崩せ?ヘアピン?伊達眼鏡?待て。誰だそんな事決めたやつ──ってやっぱり本音か。後で文句言ってやる」
鏡ナギに呼び止められ、流星は一瞬にしてクラスメイトに囲まれる。
あれよあれよと髪と服装を調整され、出てきたのはやさぐれ系執事。
一夏は思わず吹き出してしまった。
「ぷっ、はははっ!似合ってる似合ってるぞ流星!」
「おい皆。一夏がメイド服着たいってよ」
「や め ろ」
一夏が血相を変えて流星の口を抑える。
その必死さと彼の発言を聞いた女子達が怪しげに笑っていた。
「やっぱり織斑くんは…ふふふ、良いものを見させて貰いました!ってな訳で私達はちゃんとこっちの準備もしてたのよ!」
そういう趣味かと勝手に脳内で補完した一部女子達はグフフと涎を垂らしつつ、予備のメイド服をチラつかせる。
一夏の背筋を冷たいものが走り抜ける。
「い、一夏さん?」
「だああ!?絶対着ないからな!セシリアも勘違いするなよ!?」
怪訝な目を向けるセシリアに一夏は全力で否定する。
誤解も解けたのかホッとひと安心するセシリア。
彼女はコホンと咳払いしつつ、自身のスカートの端を持ち少し持つ。
頬を紅潮させつつ、ヒラリと回ってみせる。
「そ、それよりも一夏さんっ!
白のエプロンに黒のシャツ、スカート。
エプロンこそヒラヒラが少しついたサブカルさこそあれど、セシリアの持つ気品がそれを余り余る程正当さ際立つものへと昇華していた。
これがメイドの正装──そう言われれば頷けるレベルで馴染んでいる。
「おお!すっげぇ似合ってる!Theメイドさんって感じの綺麗さだ!」
「────そ、そうですか。ふふ、綺麗、綺麗ですかふふふ」
「セシリアずるい!一夏!僕はどう!?」
「一夏よ!まずは嫁として私の格好から褒めるのが筋ではないのか!?」
一夏のなんの気もない褒め言葉にセシリアは口もとを緩ませる。
そこまで露骨なら普通気付くだろう、なんて口が裂けても言えない流星である。
詰め寄るシャルロットとラウラに一夏は困惑しながらも対応している。
一方で箒は未だ部屋の隅。
物陰から出てこられずにいた。
流星は溜息をつきながら彼女に声を掛ける。
「今行かないと置いてかれるぞ」
「し、しかしだな!私にこのようなヒラヒラは似合わん!もし一夏にも似合わないなんて言われた日には…!私は!私は!」
「あぁもうめんどくさい。巫女服も似合ってるって言われたんだろ。いいから行け」
流星に押され箒は一夏の前に出る。
一夏は突然現れた箒に視線を向けた。
もじもじしながら目を合わせない箒。
一夏は彼女の胸中など知る由もなく、感想を告げる。
───パァァと笑顔になる箒。
一連の流れを見ながら、流星は準備の手伝いに移った。
いつも通りだと言いたげな様子である。
「今宮くん、ちょっとこっち届かないから手伝って〜」
「あぁ、今行く」
高い場所への装飾に困っていた少女と入れ替わり、少年は作業を行う。
慌ただしい教室。
すぐに気が付いた一夏達も他の準備に動いていた。
作業中の流星に眼鏡少女──岸原理子は気が付いたように口を開いた。
「あれ?布仏さんは?あっ、生徒会の仕事なんだっけ?」
「生徒会だな。朝から走り回ってた気がする」
「た、大変そー…。今宮くんはここにいて大丈夫なの?」
「色々理由は聞いたが、多分
不服そうに応じる流星に理子は首を傾げる。
それも一瞬。
理由を想像しつつ、理子はニマニマと笑みを浮かべた。
「布仏さんのメイド服、見られなくて残念だったね」
「何故そうなる」
確かに見れるなら、とは彼も思う。
しかし今の不満はそういったものでは無いだろう、と彼は無自覚ながらも分類した。
流星の反応の薄さにつまらないと口を尖らせる理子。
2人の前に清香が恐る恐る姿を現した。
「い、今宮くん…!何か手伝える事はあ、あるかな!?」
恥ずかしいのか少し屈みつつも清香は勇気を振り絞って話しかける。
クラスメイトに行ってこいとけしかけられた背景を少年は知らない。
逆に理子はそれを察し、少し距離を置く。
「そうだな。少し補強しときたいからテープを取ってくれると助かる」
「これだね、はい!──っ」
テープの受け渡しで微かに触れる指。
手放した直後に清香は勢いよく手を引っ込めた。
見守る癒子達は苦笑いを浮かべている。
普段こそ活発な彼女だが、こういう場ではそうはいかないらしい。
そそくさと退散していった。
理子達は大きな溜息をつく──も執事は首を傾げるのみ。
そうこうしている内に最終の準備も終わる。
同時に開園時刻になり、校内にアナウンスが流れる。
──波乱に満ちた学園祭が幕を開けた。
話に影響しないので、ただの興味本位ですが…『本作中における、読者の推しヒロインは誰?』
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鈴
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本音
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簪
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楯無
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一夏
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清香