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学園祭が始まって少し。
一般向けに解放された校舎は、生徒と外部の人間で賑わっていた。
呼び込みの人間も見える中、ある生徒達は廊下を歩く。
人数は3人組。傍から見れば仲の良い生徒達が学園祭をまわっているよう。
上品に笑いながら雑談をする様は微笑ましいものすらあった。
──ただ一つ、普通ではない点があるとするならば。
微かに意識を自身の懐に向けている。
それはまるで──凶器を隠し持っている一般人のそれであった。
とはいえ、見抜ける人間は限られている。
万が一は有り得ない。
見つかってはいけない。しくじってはならない。
この学園のために、綺麗な世界のために。
その報せが来るまで、女生徒達は賑わいの中に身を潜めるのであった。
学園祭開始から1時間。
一夏達の御奉仕喫茶は苛烈を極めていた。
──理由は明白。
世界に2人しかいない男性操縦者。
その姿を一目見ようとする客が内外問わずに押し寄せているからだ。
+αセシリアのように顔の知れた代表候補生達のメイド姿というものが拍車を掛けている。
「地獄か…?」
働きながら一夏が思わず声を漏らす。
それも当然、廊下には長蛇の列が出来上がっている為だ。
現在進行形で追加される列。
客の入れ替わり速度がさほど早くないのもあり、行列は増える一方だ。
「廊下を見る暇あるのかよ」
「あだっ!?いいだろ、今は呼ばれてないんだし!」
一夏はコツンとトレーで叩かれ、頭を抑える。
不服そうに顔を上げる彼にオレンジ髪の執事は意地の悪い笑みを浮かべた。
「あれの何割がお前目当てだろうな、執事様」
「男性操縦者は2人だぜ?執事見習い」
はははと乾いた笑いを浮かべる。
「「はぁ」」
揃えて溜息を漏らす執事2人。
一応喫茶店も兼ねている為、皆が食事に集中する時間が存在する。
気休めにしかならない小休止、もとい無駄口の時間。
それも直ぐに終わってしまった。
次にくる波を想像しつつ、2人は呼び出しに応じる。
身を粉にして働いて更に少し。
入口から入ってきた見知った顔を見て2人は目を丸めた。
「───お。弾と蘭!来たのか──って様子がおかしくないか」
「どうした一夏──っと、五反田兄妹か。…兄貴の方は何凹んでるんだ」
「こんにちは!一夏さんに今宮さん!兄のことはお構いなく。自業自得なので」
客として訪れたのは五反田兄妹。
何故かどんよりしている弾に元気いっぱいの蘭だ。
後者は大方一夏に会える事が楽しみで来たのだろう。
「お嬢様。お席に案内させていただきます」
「お、お嬢様!?あ、お願いします!」
蘭は一夏に座席を案内される形で奥に進んでいく。
一方で、弾はとぼとぼとその後を追う。
幸い他の客に指名されてはいない。
流星は弾を引き止めつつ問いかける。
「何があったんだよ?」
「悪い…そっとしておいてくれ…。どうせ俺は駄目な奴なんだ。どうして咄嗟に上手く言えなかったんだ…」
「余計気になるから。んだよ、失恋でもしたか?」
「うぐっ!?」
「────嘘だろ図星かよ」
胸を抑えつつ精神的ダメージを受ける弾。
流星は思わず苦笑いを浮かべた。
冗談のつもりで言ったのだが───。
「……」
思い返してしまったのか、弾は無言になる。
まるでこの世の終わりと言わんばかりの絶望ぶりに、流星すら言葉を失っていた。
弾を席へと素早く連れて行き、彼は困った様子で視線を蘭の方へ向ける。
蘭は察したのか呆れた様子でざっくり説明をした。
「受付あたりにいた眼鏡の女子に声掛けにいって、撃沈したみたいです」
「受付あたり、ね。撃沈ってなんか言われたのか?」
「いえ、自爆した感じです。でも、お兄の好みってああいう人だったんだ。意外」
「うるせー。俺だってあんなに綺麗だって女子に思ったのは初めてだよ」
蘭の言葉に対し、弾は悪態をつく。
まだ本調子ではないが空元気位は出来るようになってきたらしい。
「今宮くーん!指名入ったよー!」
「今行──承知しました。すぐ参ります」
呼ばれてすぐにそちらへ向かうオレンジ髪の執事。
立ち去る彼をボーッと見つつ、『大変そうだ』と弾は呟く。
覇気も抑揚もない言葉を聞きつつ、一夏は何か思い出したような顔になる。
「流星に聞いたら良かったな、弾」
「何を?」
「ほら、受付あたりに居たんだろ?その人。もしかしたら生徒会の関係者かもしれないし」
「おいアイツは何処に───ってあれ、鈴か?」
一夏の言葉を聞き、立ち上がった弾はあたりを見回した。
直後、目を丸めて固まると大きな溜息をつき椅子に再度腰をかける。
──あれ邪魔すると蹴飛ばされるよなぁ、なんて呟きを彼らは聞いて頷く。
彼らの視線の先にあったのは、座席に座る鈴の姿。
袖のないタイプの
間にあった会話は口調は執事のものなれど、店員と客の簡単なやり取りのみ。
明らかに互いに口数が少なく、ぎこちない。
鈴は露骨に視線を合わせず下を向いているが、ソワソワしている。
メニューもまともに選ぶ余裕が無い。
こうしてちゃんと顔を合わせる(合わせられていない)のは、プールの件以来。
この状態を何とかしたい少年と、恥ずかしくて目を合わせられない少女。
こうしてちょこんと席に座っている少女は随分と小さく見えた。
なんとも言えない空気の中、少年は意を決したように口を開いた。
「
「な、何よ」
「そう目くじら立てるなって。…似合ってるって言いたかったんだよ馬鹿」
正面から褒めるのは恥ずかしいのか、彼の方も視線を逸らす。
その言葉でニヤけそうになるのを抑えつつ、顔をあげた。
誤魔化す為に睨み付けるような表情になっているが、毒気はない。
「そ、そう?──って今更!当然よとーぜん!」
ふふんと胸を張る鈴に流星は安堵の息を漏らす。
やっと調子が戻ってきたな、と胸中で呟きつつ彼女の注文を待つ。
シニヨンで髪を纏め、その身を
何処で調達したのか、見るからに安物では無い為イロモノ感はない。
ほんの、ほんの少しだけ新鮮さと魅力を覚えたのは錯覚だろう。
自身に言い聞かせる───脳裏にプールの件がチラつく。
鈴の方も調子が多少戻ったのか、ようやくメニューにしっかりと目を通す。
「執事のご褒美セット?なにこれ──って何よその顔」
「1部女子達にゴリ押されたメニューだよ。俺や一夏にポッキーを食べさせる感じ」
項垂れる執事を少女は横目で見る。
露骨に嫌そうな横顔──嗜虐心がくすぐられた少女はニンマリと笑みを浮かべた。
「じゃあこれにする」
「─────ちっ」
同じ頃。
蘭の方にもご褒美セットが運ばれて来ていた。
一夏は蘭の隣に腰をかけ、いたたまれなさそうな表情である。
「はい、一夏さん。あーん」
「お、おう…」
差し出されるポッキーを一夏は口に含む。
友人と妹のそんなやり取りを間近で見せられながら、弾は怪訝な顔をすることしか出来なかった。
「何を見せられているんだ。俺」
片手に持ったジュースを口に含む。
複雑な気持ちで再び周囲に意識を向ける。
周囲には気が気でないのか、ふるふると体を震わせながら蘭と一夏を見守る影が3つ。
仕事をこなしながらも、彼女らの視線は一夏に釘付けであった。
「いや、ほんと何見せられてんだ俺」
死んだ魚のような目で弾はメニューを見返すのであった。
「ほら流星、口を開けなさいよ。あーん」
ご機嫌な声色と共に差し出されるポッキー。
店内の視線が集まる中、執事は顔を引き攣らせている。
「くそ、愉しそうにしやがって」
文句を言いつつ、彼はそれを口にする。
既に何人かの客にされているメニューだが、ここまで気恥ずかしくは無かった。
食べさせつつも鈴は疑問を口にする。
どうしてポッキーなのか。
食べさせやすく、作る手間も要らない。
汚れるということもなく、原価も安い。
最後に、ポッキーゲームを押し通そうとした勢力との妥協点でのメニューという側面。
執事が淡々と説明し、中華娘は納得した。
ちらりと鈴はポッキーの残りの本数を確認する。
残り3本、猶予はある。
今更ながらに目的を思い出し、鈴は頬を紅くした。
『休憩時間は暇でしょ?
───切り出すタイミングを窺う。
幸い
簪は4組、当然ここにいない。
何やら先程からこちらをチラチラ見ている少女がいるが、あの様子では警戒するに越したことはないだろう。
気付けば残り1本。
いよいよといったところで、先に少年が口を開いた。
それは、鈴からすれば願ってもないことで───。
「もしこの後空いてるなら一緒に学園祭を見て回らないか?」
唐突な申し出に、彼女はポカンと口を開けていた。
□
「ねぇ、くくる」
校舎の影、壁にもたれ掛かりながら幼い少女は不満げに口を開いた。
黒い長髪に緋色の瞳。
あどけなさのまだまだ残る顔立ちでありながら、少女の声色は凍てつくようである。
明らかに宿る嫌悪に青い髪の少女は気にも留めない。
さも自然と携帯を弄るようにして、外部と連絡を取っている。
「何だよ。
「しってる。それよりどうしてあなたとなの?わたしはオータムとうごきたかったのに」
「
「あといつまでこまかくしじしているの?わたしもうすこしまわりたいのに、これじゃあつまらないわ」
会話の最中も青い髪の少女は、黒髪の少女に目もくれない。
諜報から入る情報をもとに部隊を再編成させているのだ。
笑みを浮かべる彼女に、黒髪の少女はため息をつく。
「いんしつね。あんなしろうともつかえるの?あなたってじつえきもないし、リスクばかり。はめつてきなこうどうがすきなの?」
「いいや、だからこそ誰も想像し得ないってもんよ。──いいかクソガキ。本命ってのはぼかすもんだが、複数あっても問題ねぇのさ。大事なのは優先順位を悟らせねぇ事だ。奇襲、そして混乱の為にはその仕込みを欠かせねぇの」
青い髪の少女はそうとだけ告げると、目前の端末へと向き合い続ける。
一方で黒髪の少女はポカンと口を開けたまま。
青い髪の少女の画面を見ながら、目を丸め呟いた。
「おどろいた。あなたってまめなのね」
「殺されてーの?」
殺気を叩き付けられつつも、黒髪の少女はそれを歯牙にかけずため息をつく。
折角の学園祭──なんて言いたげな顔で、空を見上げながら言葉を漏らした。
「ひまだし、りゅうせいやりんに会いにいこうかしら?」
□
「──巻紙礼子…さん?」
差し出された名刺を前に、思わず執事は面食らったような顔になった。
「はい。宜しければ少しお時間を頂いても宜しいでしょうか?」
対してスーツ姿の女性は微笑みながら、相席を促す。
オレンジの髪、見知った少年のものよりは明るいものだ。
客を無下にするのははばかられる為、一夏は対面に腰をかける。
女性はふわりと優しい表情で資料を取り出した。
始まったのはISの営業トーク、もといセールス。
──どうするべきなんだろうか。
一夏は何とか表情に出すのを抑えつつ、どこか抜けた相槌をうつ。
IS学園という都合、こういったケースは十分考えてはいた。
しかし、今回生徒へのそういった交渉は禁止されている。
完全に決まりを無視した相手方。
どう断ろうかと考える一夏だが、切り出すタイミングが見付からない。
流れなど無視して断るのが1番なのかもしれない。
彼はそうは出来なかった。
下手に刺激したくはない。
なぜなら──────。
「外部スラスターなど如何でしょう?今なら脚部ブレードも───」
考えている中、ポスリと一夏の頭にトレーが乗せられた。
溜息をつきながらもう1人の少年が姿を現す。
「一夏、ご指名だ。行くぞ」
「お、おう。急かすなって」
グイッと首根っこを引っ張られ、席から立たされる執事。
ほんの一瞬だけ女性の視線が鋭くなる──も目撃者はいない。
オレンジ髪の少年は女性の方を一瞥し、その場を後にした。
当然、指名というのも詭弁だ。
流星は仕切りとして置かれているパーテーション裏まで一夏を連れてくると、手を離した。
解放された一夏はホッと一息をつく。
そんな彼へ隣の少年は世間話でもするかのように口を開く。
「あれは営業職の人間じゃないな」
直球な台詞に一夏は驚いた様子を見せない。
むしろ相槌をうちつつ、頭に手をやる。
「え?あぁ、でも確かに変な感じがしたな。上手く言い表せないけど」
「分かってるならいいさ。でも用心はしておけよ?放置してるが、産業スパイっぽいのも多数いた」
「さ、産業スパイ…。そんなのが多数居たのか…?」
フィクションの中でしか聞いたことの無い言葉。
一夏は困惑と反応の遅れで間抜けな表情になっている。
現実感が無いのは仕方がない。
流星は半目であたりを見回しつつ、溜息をついた。
「とは言っても害は無さそうだがな。大半が俺達を見に来ただけだろう」
「俺達を?見たところで何も分からないと思うけど…」
「実物を見る事が大事なんだろうさ。なんせ世界に2つしかない事例だ」
呆れ返るような口調に一夏も苦笑いを浮かべた。
あわよくば何か──とソレらが考えている事までは態々口にしない。
忘れてこそいないが、学園祭の時にまでそんな事情を突き付けられるのは快く──とはいかない。
「っても、特に変なとこは無いんだけどなぁ」
「全くもってその通りだ」
一夏に同意する流星。
実のところ、乗れる理由など皆目見当もつかない──訳でも無い。
簡単なやり取りの中、不意に浮かぶ篠ノ之束の言葉。
──君が特別だからじゃない。君が特別なISに気に入られたからここに居るんだよ──
考えた事など欠片も無かったが、何とも奇妙な話である。
特別なISに気に入られた──『時雨』がそれだと仮定しても腑に落ちない。
『打鉄』など他のISにも流星は乗れるからだ。
(『時雨』がコア・ネットワークを介して何か影響を与えている?確かに、情報を送り合う事は確認されているけど──それでも他のIS全てに直接的な影響を及ぼすなんて有り得るのか?)
『打鉄』こと椛は性質と口にしていた。
ならば想像は出来る。
『時雨』には他のISに影響を及ぼす何かがある。
と、なれば一夏はどうなのだろう
「ん?考え込んでどうしたんだ?」
「なんでもない。些末な事だ」
思考を中断、接客作業に戻る。
──いつの間にか先の女性は店を後にしていた。
話に影響しないので、ただの興味本位ですが…『本作中における、読者の推しヒロインは誰?』
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鈴
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本音
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簪
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楯無
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一夏
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清香