IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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正直言おう。

学園祭というものを俺は舐めていた。

 

弁明すると人の多さや規模に驚いた訳では無い。

天下のIS学園。

最新技術、最新の教育。

あらゆる国の人間が在学する此処に人が集まるのは当然のこと。

今年は俺達の存在もあり、話題性は更に富んでいる。

なにやら宜しくないものも紛れ込んでいるが、それを差し置いても───。

 

 

──熱量が、凄まじい。

 

 

それは、自身のクラスにいる時から感じていた。

昼を前に溢れ返る人、人、人。

接客、料理、会計、片付け。

接客の中でも特に異質な俺達を除けば、他のクラスメイトは純粋な仕事の域を出ない。

学生である為厳密なルールや空気はないが、それぞれが真剣に取り組んでいる。

忙しさに追われる中も、皆どことなく楽しげであった。

 

祭りというのは皆こうなるのだろうか。

篠ノ之神社の夏祭りには行かなかった為、そういうものは知らない。

 

この光景は見る限り、廊下の外もさほど変わらなかった。

 

どうにも慣れない。

 

楽しんでいないか、となればそうでは無いだろう。

気分は悪くない。落ち着いているしむしろ気楽だ。

この催しが他人事なのかと言われれば断じて違う。

 

 

 

 

「あら?結構様になっててびっくりよ。不良執事クン」

 

──…。

 

休憩手前で物思いに耽っていると、目の前に見知った水色の影が現れた。

それもなんの間違いか、うちのクラスのメイド服を着ている。

片手にはいつもの扇子。

達筆で書いてある言葉は『悪漢』──喧嘩を売られているのだろうか。

 

 

「…仕事はもう良いのか。生徒会長サマ」

 

「あれ?ひょっとしてのけ者にされたのを拗ねてる?可愛いとこあるのね流星くん」

 

悪態で返した筈が上機嫌に。

ニマニマと笑みを浮かべ、楯無はこちらの顔を覗き込んでくる。

仕舞われる扇子。

メイド服も完璧に着こなしてくるのが、実に楯無らしい。

 

「どう?似合ってるでしょう?」

 

心を読んだのか、一歩引いてくるりと回ってみせる楯無。

モデルさながらの華麗な動き。

俺はいつも通りの笑みを浮かべつつ、口を開く。

 

「似合ってるんじゃないか。お調子者メイドってところだけど」

 

「…素直じゃない男の子はモテないわよ?」

 

呆れた様子で楯無はそう呟いた。

ほっとけ。思ったことなんだからいいだろ。

 

そうこうしていると一夏が接客から戻ってきた。

一夏は楯無を見て目を丸める。

 

「た、楯無さん?どうして?」

 

「お茶しようかなーって思ってねー」

 

「その格好なのに接客しないんですか…」

 

「うん♪」

 

元気いっぱいで肯定する楯無に一夏は何とも言えない表情。

 

本当に何しに来たんだコイツ。

…真面目な観点で考えるなら察しはつく。

俺達とそれ目当ての客を見に来たのだろう。

 

最近振り回されているのがトラウマ地味ているのか、一夏は顔を引き攣らせている。

 

 

「ところでそのメイド服はどこで調達したんだよ」

「確かに。どうやって用意したんですか?」

 

「それはね───」

 

「───どうもー。新聞部でーす!話題の男子2人の取材に来ましたー!」

 

更に面倒なタイミングでやってくる新聞部のエース。

一夏の表情は固まっていた。

 

「あ、薫子ちゃんだ。やっほー」

「わお、たっちゃんじゃん!メイド服も似合うわねー。あ、どうせならそこの男子とのツーショットをちょうだい」

「勿論いいわよ」

 

俺達の返事など聞かずにシャッターが切られる。

楯無は即座に近付くと腕を組んでピースサイン。

いえい♪なんて実に楽しそうである。

腕に何かが当たる感触は気の所為だろう。

 

直後に同じ事をされた一夏は真っ赤になって驚いていた。

からかわれ、疲れた様子の一夏が俺の方に戻ってくる。

 

「なぁ流星。二年生の人って皆あんな感じなのか?」

「俺が知るかよ。おっと、用事思い出し──」

「おい待て流星。1人だけ逃げようとするな」

 

ガシリと一夏に腕を掴まれる。

反応が早かった。最近の鍛錬の成果だろう。

余計な事を。

オーダーも入ったので仕方なくそちらへ。

俺達をよそに自由人2人の会話は続く。

 

「やっぱり女子が写らないとダメねー」

「私写ってるわよ?」

「たっちゃんはオーラがあり過ぎてダメだよー。あ、どうせなら他の子達も一緒に撮ろうかな?」

「それでいきましょう。皆こっちに来てー」

 

箒、セシリア、シャルロット、ラウラを集め撮影会が始まる。

勿論、一夏とのツーショット。

彼の返事など待たずにパシャリパシャリとシャッターが切られる音が聞こえた。

 

 

「楽しんでる?」

 

空いた皿を下げていると隣で作業し始めた楯無がそう尋ねてきた。

一夏や他の女子達を撮影に使う都合、楯無が一時的に店を手伝っている形だ。

 

「どうだろうな。楽しんでると思うけど、イマイチよく分からない」

 

正直に口にする。

楯無を前に嘘をついても意味は無い。

彼女が今回の生徒会の仕事を俺に手伝わせなかった理由は理解していた。

生徒会としての雑務や更識としての厄介な仕事──それらを自身らが引き受け、俺がいち生徒として楽しめるようにとの配慮だろう。

前提が間違えている。俺は────。

 

思考を遮るようにカチャリと皿が擦れる音。

 

「…ふーん」

 

意味深な表情で納得する楯無。

心做しか微かに表情が緩んで見える。

 

テーブルを拭き終わり、新たな客を案内。

ひと通り注文を受け、持ち場に戻る。

 

すぐにコホンと咳払いして楯無は真剣な表情に戻った。

 

「──それはそうと、さっき『時雨』のフレームが届いたらしいわ。整備室に直接搬入されたみたい」

 

成程、楯無がここに来たのはそれを伝えるのも兼ねていたか。

『時雨』が俺の手もとにある為、調整はすぐに行えない。

だが今夜にでも調整すればすぐ『時雨』で戦えるようになるだろう。

 

「早いな。普通ならあと2ヶ月はかかるだろうに」

 

「そこは流石IS学園ってところね。秘密裏に搬入するのにはこっちも協力したケド」

 

扇子を開く楯無。

そこに書かれた文字は偉大。

確かに恩恵は感じるが、その表現はどうなのだろう。

 

 

「おーい流星くーん」

 

黛先輩の声。

意図は言うまでもない。

一夏と箒達の写真が撮り終わったのだろう。

ホクホク顔の先輩は俺を手でこまねいている。

 

「あとたっちゃんもー」

 

「あら?」

 

予想外なのか楯無も小首を傾げる。

呼ばれたままに黛先輩のもとに。

 

「ほらほらー、並んで並んでー」

 

「私と流星くんの組み合わせなら、さっき撮ってなかった?」

 

確かに、と俺も頷く。

最初に撮ったのに何故またこの組み合わせなのだろうか。

先輩は逆に不思議そうに首を傾げてみせる。

表情曰く、何を当たり前のことを言ってるの?らしい。

 

「普通のポーズだけじゃん。まだまだ撮りたい写真が有るんだよねー。ラウラちゃんがやって貰ってたお姫様抱っことか!」

 

「「え」」

 

珍しく楯無とリアクションが一致する。

そもそもなんだ、ラウラのやつそんな事してたのか。

心底願い下げだ。

 

「というか、楯無はオーラがあり過ぎるって先輩言ってませんでしたっけ?」

 

「言ったよ?けど被写体がやさぐれ系執事だから丁度良いの」

 

…なんだその理由は。

助けを求めて隣へ視線を移す。

珍しく反応が同じだったのだ。

楯無も望んではいないだろう───。

 

 

「──私が流星くんをお姫様抱っこ……?」

 

 

──なんて期待したのが間違いだった。

真面目な顔で考え込みつつ、そう呟いた楯無。

 

どうして、そうなる。

 

背景に何故か宇宙が見えた気がした。

 

「それも面白そうだけど、とりあえず逆をお願いするかなー」

 

「仕方ないわね。楽しそうだし出血大サービスよ?後で生徒会の方も頼むわね。薫子ちゃん」

 

「大いに任された。ほら流星くん早く早く」

 

復帰する楯無。

やはり、俺や一夏に決定権はないらしい。

 

「さっと撮って終わりですからね?」

 

「勿論!手間は掛けさせないよー。──じゃあ早速1枚目ー!」

 

デジカメを構える先輩。

撮影会はなんだかんだ10分程続いたのであった。

 

 

 

 

 

 

昼も過ぎ、休憩に入る。

注文用の小型マイクを服から外し、クラスメイトに預ける。

燕尾服は動き辛いがそのまま。着替え直すのも手間だ。

一夏は先に休憩し始めていた。

 

 

 

「ごめん。その、待たせたわね」

 

2組の教室の前の廊下で待っていると、中から鈴が姿を現す。

旗袍(チャイナドレス)───相変わらずよく似合っている。

頭のシニヨンは言わずもがな、赤の生地に金のライン。

太腿辺りのスリットからはあえて目を逸らす。

 

2組前にあるメニュー表が目に入った。

 

「そうでも無い。今更だけど中華喫茶…いや、お茶…?なのか」

 

「そうね。あえて言い直すなら飲茶って言うの。お茶って言うとなんかイメージが違うし。まあ──あんたのとこに客が取られて、そこまでなんだけど…」

 

「こっちは客寄せの俺達(パンダ)が居るからな。気にするな。服装も似合ってるし、単に客の見る目が無いだけだ」

 

教室から恐る恐る出てきたのは、今更になって服装が恥ずかしくなってきたからだろうか?

いや、ジロジロ見過ぎたのか?配慮が足りていないのかもしれない。

 

「「…」」

 

改めて言葉に困る。

そう半目で睨まないで欲しい。俺達はただでさえ目立つのだから。

今に至っては失言なんてしてない筈。

 

でも鈴の表情は変わらない。

そのせいで視線を感じ───

 

 

「「「じぃぃー」」」

 

「……」

 

視線は2組と教室と1組の教室、双方からであった。

出口のドアから顔を出して眺めている少女達。

 

その目は好奇心に満ち満ちていた。

普段は一切気にならないが、今は少しむず痒い。

見る暇あるなら働いてろ。馬鹿。

 

「鈴ーがんばー」

「頑張ってー鈴さーん」

「ごゆっくり〜」

 

「うっ、うっさい!?余計なお世話よっ!」

 

2組の方へ怒鳴る鈴。

ずっと見られているのは流石に気が進まない。

 

「ほら、行くぞ」

「あっ…」

 

鈴の手を引き、そそくさとその場を後にする。

ギャラリーが騒がしい。勘弁してくれ。

 

一方で鈴は借りてきた猫みたいに大人しくなっていた。

 

2階への階段の踊り場で手を離し、立ち止まる。

ここまで来れば野次馬は居ない。

どこから回るか等もここで決めてしまおう。

 

「どこから回る?」

 

パンフレットを取り出し、鈴に渡す。

鈴は小首を傾げながらそれを受け取った。

 

「こういうのってあてもなく歩くものなのよ」

 

「へぇ」

 

抑揚のない返事をする。

反応が薄いためか、鈴は少し不満そうだ。

こればかりは学園祭初心者だ、許して欲しい。

パンフレットを俯瞰するように見る鈴。

最低限の情報を頭に入れているらしい。

 

パンフレットを直ぐに俺に返すと得意気な様子で彼女は歩き出した。

 

「さ、行くわよ。どうせ先にお昼ご飯よね?」

「ああ。鈴は何か食べたいとかあるか?」

「特にないわ。折角だし食べ歩きするわよ。食べ歩き!」

 

なるほど、悪くない。時間も無駄なく使えるのもいい。

飲食をやっているところも、食べ歩き用を廊下側で販売していたハズだ。

歩き出した鈴に置いていかれないよう俺も歩き出す。

2人並んで廊下を探索。

適当に見付けたものを購入。

小さなワッフル。バターの香りが食欲を唆る。

 

「しかしメニュー名が普通だな。てっきりもっと長いメニューばかりだと思った」

 

「どういう偏見よ。普通は食べ物の名前だけじゃない?」

 

こちらの言葉を訝しむような鈴。

会話や言葉こそいつも通りだが、露骨に視線を逸らされているのが分かる。

 

「鈴が見てたメニューだけど、あれの3ページ目とか酷いぞ。声に出して読みたくない」

 

「例えば?」

 

想像出来なかったのか、具体例を求められる。

読みたくないって言ったことは考慮されていないらしい。

 

「『湖畔に響くナイチンゲールのさえずりセット』なんてのが───」

 

「──は?ナイチンゲールの?湖畔?」

 

鈴は呆気に取られている。

やはり鈴でもついていけない名前のようだ。

 

「あと『深き森にて奏でよ愛の調べセット』なんてものもある」

 

鈴はそれを聞き、顔を引き攣らせる。

もはやメニュー内容を考える気さえ起きないようだ。

 

 

そう言えば、と鈴は思い出したように口を開く。

 

「あんた招待券はどうしたの?まさか、あの福音の操縦者に──」

 

鈴が疑いの目を俺に向ける。

間髪入れず否定で返した。

 

アイツ(ナタル)を誘う程仲良くはねえよ」

 

「──ふ〜〜ん?ナタル(・・・)ねぇ〜。随分気を許してるわね」

 

「──む」

 

鋭い視線に思わず言葉が詰まる。

俺だって気を許している訳じゃない。

相手は米国(アメリカ)の軍人にしてIS操縦者。むしろ苦手だ。

 

ただ、信用出来る人間であるのは否定しない。

互いに友好的な関係ではあるが、互いにこれ以上踏み込む事も無いだろう。

利害関係が出てくれば話は別だが。

 

ちなみに『時雨』の方はそうじゃない。むしろナタルを気に入ってすらいる。

…その影響もあるのだろうか。

 

 

「気を許しているってのには語弊があるな」

 

「別に取り繕う必要無いわよ。だってあんな美人相手、男なら仕方ないじゃない。ふふ───そっか…1度首輪でも付けて置いとくべきね…」

 

 

────。

 

後半はハッキリ聞こえなかったけど、何故か悪寒が走る。

虚ろな目。何やら黒いオーラが出ているのは錯覚か。

本音と言いこうなった時は有無を言わせない迫力を感じさせる。

 

癒しは簪だけか。

いや、確か前に凄まじいことになったような…頭が痛い。思い出せない。

とりあえずこのままではロクなことにならないのは確かだ。

 

早急に話を戻そうとする。

すると、目前の教室から五反田兄妹と一夏が出てきた。

 

先頭にいた弾と鈴の目が合う。

開口1番にとんでもない発言を繰り出した。

 

「ははっ、旗袍(チャイナドレス)似合わねー───って痛ぁっ!?」

 

爆速で脛を蹴られ、飛び上がる弾。

本心から貶めているというよりは、仲の良さの証明とも取れる。

中学までのやり取りが目に浮かぶようだ。

 

「うっさいわねばーか!殴るわよ!」

「もう蹴られてるんだけど!?」

「何よ?本気でぶっ飛ばされたいの?」

 

ギロリと弾を睨む鈴。

なんと言うか、間が悪い。

絶対に八つ当たりも入っている。

 

「やだよ。お前代表かなんかで凄いんだろ?俺死んじまうよ…」

 

──大丈夫だ。人は思っているより頑丈に出来ている。

口に出しかけたがなんとか抑えた。

余計なことは言わないに限る。

 

「そうよ。だから敬いなさい」

 

「面白いなそれ」

 

一夏が2人のやりとりを見て笑う。

表情からするに懐かしさでも感じたのかもしれない。

一夏の隣に居た蘭はその赤髪を揺らしながら、その影からひょっこり顔を出す。

鈴に対して『お久しぶりです』とだけ告げてから口を開く。

 

「鈴さん達も爆弾解体ゲームをしに来たんですか?」

 

「特に考えて無かったわ。そんな事やってるのね」

 

随分と変わった出し物だ。

視線を上に──美術部の部室のようだ。

いつの間にか部室棟まで歩いてきていたらしい。

「──話は変わるけどよく蘭も来れたわね。招待券って1人1枚じゃ無かった?」

「あ、それは──」

 

「流星がくれたんだよ。折角だから兄妹で来れるようにってな」

 

先の会話の冒頭、招待券の行方が明かされ鈴は目を丸める。

弾にとっては間が悪かったが、俺にとってはありがたいタイミングであった。

彼女の纏っていた雰囲気が柔らかくなる。

 

…よし、今しかないな。

 

「折角だし俺達も挑戦するよ。また後でな」

「あっ…」

 

「おう、また後でなー」

「そうだ!折角だし勝負といこうぜ流せ────」

「ばーか、お前はこっちだよ。……相変わらずだなぁ、お前」

「なっ、馬鹿ってお前こそ馬鹿だろ」

 

背後が騒がしい中、鈴の手を引いて部室に入る。

不意打ちだったのか、鈴はなされるがまま。

…微かに残るしこり、それを解消したい。

 

美術部の部室に入り、説明を受けた。

何故爆弾解体ゲームなどをしているのかは皆目見当もつかない。

──芸術は爆発だ?客を爆発させる気か。

 

どうやら初級、中級、上級と分かれているらしい。

遠目だが、明らかに美術部からかけ離れた出来。

それも整備科の人間が多いから可能なのだろう。

 

「別々で早さを競うか?」

「どっちでも。やるっていうなら手加減はしないわよ」

 

というわけで、互いに上級を選ぶ。

クリア出来る前提で話しているのは自信があるからだ。

 

出てきたのは学生鞄サイズの機械。

剥き出しの配線や基盤、想像より遥かに仰々しい。

もしこんなものが部屋の隅に置かれていれば、騒ぎが起きる。

 

 

美術部部長の合図と共に爆弾の解体に取り掛かる。

とはいえ最初は構造を把握に努める必要があった。

信管は流石に見えない。構造上チラリと見えてはいるが全容は分からない。

基盤の組み合わせ、配線、露骨に時間を刻むタイマーを眺めどこから手を出すか考える。

して、数秒。作業に取り掛かり始めた。

 

 

 

 

「…なあ、鈴」

「…なによ」

 

貸し出されている工具を片手に、声を投げ掛ける。

視線はそちらへ向けず、同様に隣の鈴も作業を進めながら声を返した。

 

無愛想ながらも毒気はない。

 

 

「プールの件…すまなかった」

 

「……、謝る必要無いわよ。(あたし)だってあんた殴り飛ばしたし……」

 

何とも言えない空気が流れる。

互いに手もとが動いている為、作業による雑音だけが聞こえた。

少し離れたところで客の案内をしている美術部員達の声など、遥か遠くに感じる。

 

溜息をつく。

謝ったところで好転しそうにない。

もとより鈴も怒っていなかったというのは、今の反応で理解出来た。

こればかりは時間経過に任せる他ないのか───。

 

考えたところで自然と溜息が出る。

 

ああ、成程。

俺ってやつはどうにも勝手な人間らしい。

要はそれ(・・)が気に入らないのだ。

 

「くく、ありゃ痛かった。殴られたのもだけど、その後水面に叩き付けられたのは気を失うかと思ったさ」

 

「わ、悪かったわね。──ってこんな時にその話する?まさか妨害のつもりじゃないでしょうね」

 

言葉の割に覇気は感じない。

向こうも罪悪感があるのだろう。

 

解体作業は続く。

ある程度付属品が取れ、爆弾本体が見え始める。

これで完全な時限式になったわけだ。

 

「まさか。妨害目的なら他のことを話してたよ。こういう場じゃないとあの件について話を聞かないだろ?」

「うっ…そうだけど…。学園祭後とか幾らでもあるじゃない」

「それもそうか。思い付かなかった。…思ってたより鈴に避けられるのが嫌だったみたいだ、俺」

 

「───なぁっ……!」

 

───背後で工具箱がひっくり返る音が聞こえた。

工具を取る際に盛大に手を滑らせたのだろうか。

怪我をしてないかと手を止めて振り返る。

 

 

「「あ」」

 

しっかりと目が合った。

鈴は反射的に目を逸らしそうになるも、口を噤んで堪える。

 

「ひとつだけ、教えて」

 

俺の顔を、覗き込むように。

頬を紅潮させ、鈴は言葉を紡いだ。

 

 

「──どう……だった──?」

 

「ばっ…」

 

──何を馬鹿なことを。

そんな言葉も出なかった。

ドクン、と鼓動。

心音が身体に響く。

 

どうだったか。

『何が』かは聞くまでもなく──。

 

「いいから。答えなさいよ…。女の子の裸を見ておいて何も思わない──なんて無いでしょ」

 

…言いたくない。

だってそうだろう。

思い出すことは避けたが、忘れようという発想は今の今まで抜けていたのだ。

簪といい、どうしてこういう事の感想を聞いてくるんだ。

 

「………やめてくれ。今度は俺が鈴の顔を見れなくなる」

「ど、どういう意味よ!?」

 

周りのことなどお構いなしに身を乗り出す鈴。

ムキになっているのか、ヤケに顔が近い事には気が付いていないようだ。

 

脳裏に過ぎる光景。

目の前の少女が嫌でも異性なのだと思い知らされる。

 

ああ、もう。

 

珍しく思考が纏まらない。

片手に触れたままの機械なんて意識の外。

だからだろう。

ヤケになって本心を口にした。

 

「他の奴には見せたくないって思ったんだよ。悪いか?」

 

………、………。

ポカンとする鈴。

だから言いたくなかったんだ。

頼むから何か反応して欲しい。

 

「そ、そうなんだ」

 

上擦った声。鈴も相当恥ずかしかったのが分かる。

ニヤケ掛けているのは気の所為か。

 

 

「さ、さあ作業に戻りましょう!時間掛けすぎちゃったし!!」

「あ、ああ」

 

───カチカチと機械が音を立てる。

 

気付けば残り1分前。

互いに何も言わず機械に向き直った。

 

とはいえ、冷静さは何処かに置いてきたらしい。

目の前に集中し切れない。

改めて見る機械を前にどこまで処理したか思い出すところからだ。

 

残り時間が気を急かす──なんてことは無い。

あくまでそれはそれ、これはこれ。

落ち着かない思考に反してテキパキと手は動く。

簡単に解体して終わりだ。

 

「思ったよりかかったな」

 

ほぼ会話のせいもあるが、仕方がない。

最後に残ったのは赤と青2本のコード。

2つ同時ではなく、片方のみ切る事が許されているらしい。

 

迷わず赤を切った。

タイマーも完全に静止、無事クリアだ。

 

 

「あっ」

 

同時に声が聞こえた。

遅れて聞こえてくるブザーの音。

振り返らずに結末を悟り苦笑い。

 

 

どうやら、鈴の方は失敗したようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話に影響しないので、ただの興味本位ですが…『本作中における、読者の推しヒロインは誰?』

  • 本音
  • 楯無
  • 一夏
  • 清香
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