IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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飛行の特訓から4日が経過した。

 

「だ、大丈夫か?流星」

 

「いまみー大丈夫?」

 

──授業が終わった瞬間、流星は心配そうな顔をした2人に挨拶よりも早く、そう声をかけられた。

一夏と本音である。

2人は鞄を持っており、机でだるそうにしている流星の横で様子を伺っていた。

 

声をかけられた当の本人は糖分の摂取とばかりにイチゴ牛乳を飲み干し、少し元気を取り戻した様子で反応する。

 

「何とか大丈夫。知識も順調に頭に入ってきてるし…」

 

「本当か?どう見てもそうは見えないけど…」

 

「いまみー、会長に扱かれてるんだし、その後くらい休まないとダメだよ?」

 

「…」

 

バツの悪そうな顔をする流星、確かに色々やっているから休んでいない。

それは楯無にも口酸っぱく部屋で注意されていたことだった。

 

「だけどまだまだ安定して避けられないからな、足回りは何とかしないといけない。知識面だけでも…」

 

「むぅ」

 

不満そうな本音。

見かねた一夏も心配を顕にして呆れたように促す。

 

「でも流星、体調管理も大事なことだぜ?」

 

「それもそうだな。分かった分かった、気を付ける。気を付けるから本音も機嫌直してくれ」

 

「後で会長に言い付けるからねいまみー」

 

うわ絶対面倒臭い、などとは口には出さないでおく流星。

こういう言葉は言った瞬間に本人が来るものだからだ。

 

 

「──それより一夏の部屋、どうしたんだよアレ。扉穴だらけだったじゃねぇか」

 

一夏の寮の部屋の扉、それは一夏がノックせずに部屋に入り故意ではなかったとはいえ箒の風呂上がりの下着姿を見てしまったのが発端である。

そして、箒がこの場にいないのは今日はそうならないように真っ先に部屋に戻ってシャワーを浴びているからだ。

 

──などとは一夏も公言できるわけが無く

 

「ちょっと色々あって…」

 

「棒状のもので突いたような穴だったな。あれ犯人篠ノ之さんだろ?複数穴あったし、外に追い出されてたらしいしお前何やらかしたんだよ」

 

実は言うと流星は一夏が何故か部屋の外に追い出されて木刀で扉越しにやられそうになっていたのを知っている。

周りの部屋に理由を聴いたからである。

一夏はそんなことも知らず目を丸めていた。

 

「あれ?どうしてそんなに詳しいんだ?」

 

一夏の疑問に渋い顔をする流星。

 

「…誰が新しい扉発注したと思ってるんだ。何故か生徒会にその書類が来てて俺が直接見に行ったんだよ」

 

「あぁ、そういうことか。お前の仕事増やしてしまってたんだな、悪かった…」

 

「気にすんな。俺に仕事押し付けた奴が悪い。主にどこかの馬鹿生徒会長が」

 

「なあのほほんさん、流星の奴こんなんだったっけ?」

 

「いまみーは働き者だからねー」

 

本音の言葉に完全にスイッチが入る流星。

先程の考えは頭から消えうせた。

 

「あの馬鹿会長、今朝も俺の朝食のおかずとるわ!朝から変な格好してリアクション困らせてくるわ!仕事急に増やしてくるわ!」

 

「いまみー、いまみー、えーっと……」

 

ちょんちょん、と流星の肩をつつく本音の意図には気付かず流星は続ける。

 

「ちょくちょく妹ストーカーしてる発言するし!仕事サボるし!楯無には生徒会長の威厳ってものが───」

 

「──呼んだかしら?」

 

「──」

 

その声にピタリと固まる流星。

その光景に一夏はテレビの一時停止を連想した。

流星はまるで油を差し忘れた機械のようにゆっくりと真後ろの人物───楯無の方を向く。

 

「随分楽しそうね」

 

「…楯無の悪口なんて一言も言ってないからな?ちなみにいつからそこに?」

 

「誰も悪口なんて言葉だしてないんだけど……後いつからと言われたらきいてたのは『あの馬鹿会長』からね」

 

「はは、全部じゃねぇか」

 

──気付けば肩をしっかり掴まれていた。

流星は視線で2人に助けを求めるがどちらも苦笑いを浮かべるだけであった。

 

「さぁ流星くん、一緒に特訓に行きましょう?今日のメニューはちょっと厳しめに組んであるから」

 

「ははは、それ今決めたよな。絶対そうだろ?今決めたよなぁ!?」

 

「じゃあそういうわけで流星くん借りるわね?あ、もしかすると明日の朝ボロボロかもしれないけど私は関係ないからね?」

 

「これ完全に私怨入ってるよな?特訓にかこつけてボコボコにする気だよな?一夏ァ!誰か他の教えてくれそうな人呼んできてくれ!」

 

「山田先生は今日忙しいって言ってたし、来ても千冬姉だけだな!」

 

「──状況が悪化するだけだな!」

 

流星自身も織斑千冬が特訓を指導する絵面を想像し、顔を青くする。

スパルタ以外のイメージが思い付かなかった。

一方で一夏は流星に対し、親指を立てサムズアップ。

いい笑顔を浮かべた。

触らぬ神に祟りなしである。

 

 

「頑張れ流星!骨なら拾うからさ」

 

 

「覚えてろよこの野郎」

 

流星は恨めしそうに言葉を吐き捨てながら、楯無に引きずられるように連行されていく。

 

本音はこの後に生徒会の仕事が残っており生徒会室へ、もはやストッパーを失った流星は楯無と共にアリーナへと向かった。

 

 

「……だ、大丈夫?」

 

「あ、あぁ……簪か。大丈夫、かな?」

 

時間は変わり、夜。

自身のISを調整するため、整備室に1人乗り込んだ流星に心配する声が再びかけられた。

今度は流星の体自体擦り傷だらけであり、先程よりも表情にも疲れが明らかに浮かんでいたためだ。

声の主は更識簪。

 

 

自身の作業をしつつも、背後の区画にいる流星をチラチラと見ていた。

 

流星の目の前にあるのは彼の専用機。

初めて見るそれは無骨で角ばったフォルムであり、灰色のISだ。

さらに彼の横に積み上げられたISの整備関連の本。

スムーズとはまるで行かないが少しずつ納得したように調整を進めていく流星。

 

 

視線を自身の製作中のISに戻す。

 

かすり傷だらけになっている理由は、噂で聞いた決闘に向けての特訓のせいだろう。

特訓2日目をアリーナの観客席で見ていたとされる者は多い。

曰く、才能は無さそうらしい。

 

そんな彼──IS初心者がイギリスの代表候補生との決闘──勝敗は見えている。

 

──だけど、

 

視線を再び一瞬だけ彼の方へ向ける。

 

 

 

 

(──楽しそう)

 

 

一切振り返る素振りも見せず、ISに夢中になって向き合う背中に簪はどこか懐かしいものを感じた。

 

今の自分とは違う。

私はあのように出来ない。

卑屈な考えが脳裏をよぎる。

 

 

(……頑張ろう)

 

すぐにそれを振り払い、簪は思考を完全に自身のISの方へと切り替えた。

自身の作業に黙々と取り掛かる2人。

特に声を発することもない。

 

こうして流星と共に整備室にこもるのは3日目である。

ほぼ無干渉であるとはいえ、2日目までは自分以外がこの空間に居ることに嫌悪感を少なくとも感じていた。

わざわざ学園の少し端にある整備室を選んでいるのに、他の整備室でなくどうしてここなのかと─。

 

 

しかし、早くも3日目にしてそれは簪の日常へと変わる。

 

 

ほぼ無干渉であり、お互い目の前に集中していられる。

工具の場所を聞かれることこそ、たまにあるものの無理に話すことも無く、かといって沈黙時の空気は険悪なものでもない。

悪くはない、と簪は感じた。

そう気が付いたところで、大した変化はない。

 

工具の受け渡しや場所のやり取りのコミュニケーションが多少円滑にはなったかもしれない。

 

 

黙々と作業を続け、一時間半が経過した。

 

ふと音がしないことに気が付き、簪が振り向くとそこには既に流星はなかった。

──本日の用は済んだため、先に帰ったのだろう。

 

時計を少し確認。

すぐに向き直り、簪は作業に戻る。

やることはまだまだあるがどこかで切り上げないといけない。

 

──もう少しだけやっていこう。

そう思いつつ調整用に扱っていた端末を取りに、振り返って近くの机へ手を伸ばした。

 

「あれ?」

 

そこであることに気が付いた。

端末だけが無造作に置かれている机、その一角に缶コーヒーらしきものが置かれていた。

 

彼が置いていったのだろうか?

缶コーヒーを手に取る。

──ひらり、と何かが地面に落ちる。

 

1切れの紙だ。

その紙を簪は拾う。

そこには一言だけ、メッセージが書かれていた。

 

『体調には注意』

 

脳裏にすぐ浮かんだのは疲れ切った様子の流星。

このメッセージを見ながら、簪は何ともいえなさそうな表情で1人呟いた。

 

 

「……今宮君にだけは言われたくない、かな…?」

 

 

その呟きは誰も居ない空間に溶けていく。

聞くものもいないはずのその呟き。

ただ1人、柱の陰で様子を見守る何者かを除いては──。

 

 

 

「おかえりなさい……」

 

「あぁただいま楯無……ってどうした?」

 

整備室から寮に戻った流星は部屋の中で、一人佇む楯無の様子に違和感を感じた。

不思議に思いつつも持っていた荷物を机の上に起き、上着をクローゼットにしまう。

そしてシャワーを浴びる準備を始めたところで楯無は揺らりと流星の方に向き直った。

 

「簪ちゃんと随分仲が良いのね…」

 

その言葉と同時に放つ殺気に流星は唖然としていた。

 

…何言っているんだコイツ。

 

 

「殆ど話さず互いに作業していたアレのどこが仲が良い、になるんだ」

 

「ふふ、ふふふふ。それすら出来ないお姉ちゃんの私に対するあてつけかしら?あてつけよね?それとも簪ちゃんを狙っているのかしら?流星くん」

 

話が通じないとはこの事か。

流星が楯無と出会ってから簪との行き違いをある程度は理解していた。

 

─だがそれとは別に、妹の事になるとやたらシスコンを拗らせている

楯無の側面もココ最近で思い知らされていた。

故に流星の反応もこの時ばかりは冷たい。

 

「…なんだまたストーカーしてたのかお前。流石に気持ち悪いぞ」

 

「妹を守る為よ、仕方ないことだわ。それより答えて貰うわ流星くん!私に近付いたのも簪ちゃんを狙ってなのね!?」

 

ジリジリと黒いオーラを放ちつつ近付いてくる楯無。

暴走の源はおそらく嫉妬。

 

「違うわ馬鹿。そんな訳ないだろ」

 

「簪ちゃんの魅力がないって言うの?許せないわこの節穴!」

 

「いやそれはそれでない。あんな美人普通誰もほっとかないだろ。あと俺は節穴じゃねぇぞバカ!」

 

「じゃあやっぱり狙ってるんじゃない!あとバカって言った方がバカなのよバカ!」

 

「じゃあなんて答えりゃいいんだよ!あとそれなら今バカって言ったからお前バカな?バァァカ!」

 

魔女裁判地味た発言からの小学生レベルのやり取りが2人の間で交わされる。

クラスや普段の流星を知る人物達がもしこの現場に居合わせていたなら目を疑ったに違いない奇妙な光景だった。

 

「とりあえずだ!俺と簪の間には何も無い」

 

「なるほど、本音ちゃん狙いなのね」

 

「何故本音がそこで出てくる…」

 

心底疲れたという顔の流星。

あらかたストレスを発散したのか楯無は急に真面目な顔で話を切り出す。

 

「それはそれとして、流星くんは明日外出届出してたわよね?」

 

「あぁ、明日は休日だし、休日明けにオルコットとの試合もあるし気分転換がてらに足りない日用品でも買いに──」

 

「それだけど、私もついていくことにしたわ」

 

「──」

 

凄まじく嫌そうな顔をした流星に楯無は思わず眉を潜めた。

せっかくの休日に振り回されそうな予感がしたからこその表情なのは言うまでもない。

 

「そんなに嫌そうな顔しないの。学園側が一応周りを調べてくれたとはいえ当日に何があるかわからないでしょ?」

 

「なるほど、つまり護衛だと」

 

「流星くん、そんなにお姉さんとのデートは嫌?」

 

「…………。わかったよ」

 

流星はしぶしぶ楯無がついてくるのを了承した。

疲れ果て思考力が鈍ったまま、シャワーを浴びに浴室に入っていく。

楯無は1人イタズラを思い付いたかのように悪い笑みを見せる。

勿論彼はそれに気付かなかった。

 

 

──数分後、裸エプロンの下に水着を着た楯無が乱入。

 

完全に油断していた流星は、楯無に弄ばれる事となった。

 

 

 




今回は短かかった気がしますがお許しを。
流星の内面についてちゃんと掘り下げるのはまだまだ先の予定です
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