IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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本編に関係ないifの出鱈目イベントとか、二次創作あるあるネタで書いてる最中なんですが……需要はあるんですかね。



-59-

 

 

「────はぁ、お嬢様もああ見えてマメね。織斑くんの為に態々ここまでするなんて」

「そうだねー。でも、おりむーを生徒会に入れる為だけじゃないと思うよー?」

 

部室棟のある校舎の一角。

学園祭で賑わう廊下を2人の少女が歩いていた。

片やのほほんとした雰囲気の少女、もう片方は対象的なしっかりとした雰囲気を放つ少女。

布仏本音とその姉、布仏虚。

 

彼女らは生徒会の仕事の最中であった。

現在は不要な小道具を纏めたダンボールを運んでいる。

中身の都合、重くはない。

 

──本来なら、楯無はそれらの仕事も1人でこなすつもりであった。

特に楯無からすれば3年生の虚には、めいっぱい楽しんで貰いたかったという思いもある。

しかし楯無の負担を増やしたくないと、この姉妹は手伝いを申し出たのだ。

あくまで流星には悟らせず、を条件に渋々楯無はそれを呑む。

故に姉妹2人して、仕事三昧な学園祭を過ごしていた。

 

「お嬢様自身も楽しむ為。でしょう?…ちょっと流星くんや織斑くんが心配になってきたわ…」

「あはは、特におりむーは振り回され慣れてないからねー」

 

苦笑いを浮かべる本音に虚は呆れた様子。

 

「本音、あなたね。もう少し流星くんの心配もしてあげたら?」

「えー。だっていまみーは慣れてるでしょ〜」

「それはそうだけど…」

「後ねー、お姉ちゃんも知ってると思うけど。いまみーはなんだかんだ、お嬢様のああいうところも気に入ってるんだと思うよー?」

 

本音の言葉に視線を逸らす虚。

こういうところの鋭さは相変わらず、ずば抜けている。

───それだけで、自分が居なくなった後もやっていけるのだろうか。

虚は自分が卒業した後の事に少し不安を覚える。

…今考えるべき事ではないと、虚は考えを振り払った。

 

「確かにそうね」

 

「それよりさー。さっきの人おりむーの友達だったよね?」

 

本音の言葉にピクリと虚は体を揺らす。

本音はニンマリと笑顔を浮かべた。

 

「お姉ちゃん、なんて話しかけられてたのー?」

 

「ニヤつかないの。普通の事よ。今日は良い天気ですね…って」

 

「ふ〜ん?」

 

ニヤニヤとした笑みを崩さない本音。

虚はバツが悪そうに本音の方へ顔を向けないでいる。

 

受付での出来事。

織斑一夏が招待した友人が唐突に、何か意を決したように虚へ話しかけて来た。

最も先のように他愛もない話題を振られただけであるが、真意を察せない程虚も子供ではない。

また、その事に不快感は無かった。マイナス的な感情も特にない。

少し、ほんの少しだけそういう事に縁がないと思っていただけに驚いた───だけである。

 

 

「でも確かに今日は良い天気だよねー」

「ええ、そうね」

「妹さんも一緒に来てたねー」

「そうね」

 

淡々と答える虚に対し、本音は目の端をキラリと輝かせた。

 

「──良い人そうだったね?」

 

「そうね。見た目よりもずっと優しそう───って何を言わせるの本音」

 

「いひひ。引っかかった〜」

 

本音の質問攻めに乗せられ、虚はつい赤毛の少年について言及してしまう。

ギロリと彼女を睨むも照れ隠しにしかならない。

笑う妹に対し、虚は諦めたように溜息をついた。

 

「馬鹿なこと言ってないで、さっさと仕事を終わらせるわよ」

 

「あー、待ってよ〜」

 

歩く速度を上げ、本音をおいて行く。

慌てて本音も着いていこうと歩幅を大きくした。

 

人混みに紛れるようにその場を去っていく姉妹。

 

急に早歩きにした為だろうか。

 

───ひらり、と虚の制服のポケットからハンカチが落ちた。

本人達は特に気付かず。

 

 

「あれ?今のは────」

 

偶然は重なる。

落とした場所は丁度曲がり角。

すれ違うように訪れたのは、妹と別行動を始めたばかりの1人の少年。

ハンカチを拾った少年は、少女達が雑踏に消えた方向を見つつ首を傾げた。

 

(いやまさか──まさかな。偶然でもこれ以上キモイって思われるのもなぁ。いやでも────)

 

バンダナに赤い髪。

特徴的な外見を持つ少年は数秒躊躇った後、同じ方向へと足を進めた。

記憶にまだ新しい後ろ姿を探して、彼も雑踏へと紛れていく。

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり第4アリーナの更衣室。

普段ならISスーツに着替える場所で、一夏と流星は出し物の衣装に着替える。

元が燕尾服ということもあり、今更抵抗もない。

なるようになれという気持ちも多少は存在する。

 

ガチャりと更衣室の扉が開いた。

男子は2人しかいないこの学園。

ノックも無しに無遠慮に入ってくるのは1人のみだ。

 

「着替え終わった?ってなんだ、着替え終わってるじゃない」

「サラッと入ってこないで下さいよ」

「なになに、一夏くんは初心な()の方が好みだった?」

「そういう話じゃなくてですね…」

 

「そういやラウラのやつも『一夏は奥ゆかしい女性が好きと言っていた』って話してたな」

「だからそういう話じゃなくて!」

 

2人の発言に眉を顰める一夏。

入ってきた楯無はケロリとしていつものペースである。

 

「そんな事より、はいこれ」

「王冠…?」

「もしかしてガラスの靴の方が良かった?」

「どうしてそうなるんですか!」

 

渡されたのは何の変哲もない王冠。

一夏はノックするようにトントンと叩く。

質感からしてちゃんと金属で出来ていた。

装飾といい、手が込んでいる。

 

妙なところで感心している一夏をよそに、流星はわざとらしく咳払いした。

彼の格好は一般的なスーツ姿だ。

勿論、伊達眼鏡やヘアピンも外している。

着崩して着るよう言われていた先までの燕尾服とはうってかわり、真面目な着こなしである。

 

「一夏が王子様の格好なのは分かる。だけど、これはなんだ?」

「?スーパーエージェントだけど?」

「世界観が分からない…」

 

オレンジ髪の少年は今すぐ帰りたい衝動に駆られる。

帰ったところで無駄な為、実行はしない。

 

そして、一夏の格好は王子様のような姿。

青を基調とした服の肩に金色の肩章。

軍服に近い格好だが、襟あたりのデザインがそれよりもカジュアルである。

王冠を彼は被る──これで、紛うことなき王子様だ。

 

 

「さあさあ、もうすぐ始まるわよ。行きましょう」

 

 

2人は楯無に背を押され、更衣室を出る。

恐ろしく1歩1歩が重い。二の足を踏むだなんて表現すら可愛らしい程気が乗らなかった。

 

たどり着いたのは舞台袖。

セットは第4アリーナを丸々使った特大サイズのものであった。

アリーナの天井は開閉が可能であり、現在は閉じた状態。

観客席は満員に近い状態となっていた。

 

「台本とか見てないけど大丈夫なんですか?」

「基本的にこっちからアナウンスするから、それに従ってくれれば問題はないわ。台詞はアドリブでお願いね」

 

「アドリブも何も、俺の方は配役時点で意味不明なんだが…どうしろと?」

「期待してるわよ…!」

「ぶん投げやがった…っ!」

 

──不安だ。

一夏は呆然とセットの方へと視線をやる。

実に豪華なセットだと半ば現実逃避に走っていたのも一瞬。

 

ブザーが鳴り響き、照明が落ちる。

こんなブザーが元々あったとは思わない。男子二人は後付けの機能と理解して苦笑した。

ともあれ男子二人は、舞台上へ移動するのを余儀なくされる。

 

 

『むかしむかしあるところにシンデレラという少女がいました』

 

 

始まるアナウンス。

声は元凶たる更識楯無のものだ。

 

「良かった。普通の劇っぽいな」

「だといいけどな…」

 

『否、それはもはや名前ではない!幾多の舞踏会を潜り抜け、群がる敵兵を薙ぎ倒し、灰燼を纏うことさえ厭わぬ地上最強の兵士達。彼女達を呼ぶにふさわしい称号──それが『灰被り姫(シンデレラ)』!!』

 

 

「「……」」

 

安心も束の間。

スピーカー越しの楯無の言葉に男子二人は顔を見合わせた。

舞踏会じゃなくてそれは武闘会だろうとか、灰燼じゃなく返り血では無かろうかとか、疑問も何もかも追い付かない。

お構い無しにアナウンスは続く。

 

 

『今宵もまた、血に飢えたシンデレラ達の夜が幕を開ける!王子の冠に隠された隣国の軍事秘密を狙い、舞踏会という名の死地に少女達が舞い踊る!!』

 

 

飛び交う物騒な言葉に一夏は何となくこの後の展開を理解した。

加えてシンデレラ達にも察しがついている流星は一夏の肩を掴む。

 

「1歩下がれ」

「え?うおっ────!?」

 

金属の刃が一夏の眼前を通過した。

隣の壁に刺さった刃物が振動しながら存在を主張する。

 

「飛刀!?」

「成程、投擲用の刃物か」

 

驚く一夏を置いて流星は冷静に追撃に対処する。

物陰からの投擲に対し、壁に刺さった飛刀を抜いてそれで弾いた。

 

 

『───しかし軍事機密には当然守る側も存在する!王子の護衛と機密の防衛。2つの任務を受けもったスーパーエージェントが舞踏会に潜り込んでいた!!』

 

「アイツ後で覚えてろよ…」

 

スピーカーを睨みつつ呟くエージェント。

彼が続く飛刀を弾いたところで、純白のドレスを着た少女が姿を現した。

キッチリガラスの靴まで履いている。

 

「邪魔するんじゃないわよ──!」

「───!」

 

飛刀の主は鈴───跳躍し流星に接近戦を仕掛けてくる。

一瞬止まりそうになる(・・・・・・・・・・)流星だが、蹴りを躱し足首を掴んで彼女を投げる。

鈴は受身をとって数歩引いた。

 

「殺す気かお前」

「死なない程度に殺すだけよ───!」

 

そう言い、大量の飛刀を投げ付ける鈴。

狙いは流星ではなく、一夏だ。

 

「やっぱり狙いは一夏か」

「いや、助けてくれよ!?王冠重いんだぞ!!」

「ほら、やっぱり敵の狙いをはっきりさせないとな?」

「このエージェント、もう守る気ないぞ!?」

 

話しながらも飛刀を躱す一夏。

その場であたふたと動いてはいるが、避けきっている。

一夏の背後の壁に大量に刺さる飛刀を眺めながら、エージェントは感心したように声を漏らしていた。

鈴は痺れをきらす。

 

「ちょこまかと!その王冠を置いていきなさい!」

 

飛刀が無くなったのか一気に踏み込んでくる鈴。

間合いに入った直後大きく地面を蹴り付けた。

震脚と呼ばれる技術。直後の掌底を前に交戦する気がない一夏は狼狽えるばかりで─────。

 

「よっと」

「ぶはっ!?」

「なっ!?」

 

エージェントが先に王子様を蹴りつけた。

床をゴロゴロと転がり、結構な威力であったことが窺える。

直後の銃声。

先までの一夏の居た場所の床に穴が空いた。

 

 

「──へ?」

 

突然の事に一夏の顔が真っ青になる。

直感だが狙撃手を把握し、すぐにその場を飛び退いた。

先と同様の銃痕が床に出来る。

 

「せ、セシリアか!?」

「っ、セシリア!危ないじゃない!?」

 

「──鈴さんが離れれば済む話ですわ!」

「ぐぬぬ……!」

 

射撃&移動を徹底し、鈴ごと王冠を狙うセシリア。

仕方なく鈴も一時離脱する。

 

セットの構造を頭に入れつつ、エージェントは王子様の首根っこを掴んで走り出した。

 

「うわぁっ!?死ぬ!?これは死ぬって!」

「よし、その調子で避け続けろ。土壇場には強い方だろ」

「これはそういうのと違うだろ!って、きっちりサイレンサーまで付けてないか?」

 

セットは大掛かりなだけあって階段まである。

正確には、ひとつの建物という認識の方があってるだろう。

遮蔽物の間を潜りつつ、階段まで走ろうとしたところで狙撃が一夏を襲う。

 

 

「危ない!一夏!」

 

銃弾を弾く音が響く。

男子2人の眼前にいたのは防弾シールドを構えたシャルロットであった。

 

「しゃ、シャル─────!」

 

この窮地で王子にとってドレス姿のシャルロットは女神に見えたことだろう。

感極まった様子の彼の声に、内心ガッツポーズをするシャルロット。

何も奪う必要はない。彼からちゃんと渡して貰おうという魂胆だ。

 

 

「2人とも!早く逃げて!」

 

「お、おう!ありがとう!シャル!」

「行くぞ一夏。奥に逃げればすぐにセシリアも撃ってこれない」

 

女子にのみ教えられた秘密の景品。

王冠を手に入れた者は男子と同室になる権利を獲得出来る───というもの。

勿論、生徒会長権限が行使されるため容易に実現出来る。

 

ドレス姿を見て貰う───等と考えている暇は少女達には無かった。

当初の誘い文句など、もう誰も覚えていない。

 

───ともあれシャルロットの作戦はつつがなく進んでいる。

 

 

「その、王冠を置いていって貰えると───」

 

「ああ、これか。確か軍事機密がうんたらとかって設定だったよな。これさえ無ければ狙われないなら、全然構わないぞ」

「や、やった!」

 

パァァと笑顔になるシャルロット。

エージェントは王冠に手をかける王子様を前に首を傾げた。

そんなことをあの楯無が許すか?という疑問。

 

 

『王子様にとって国とは全て。その重要機密が隠された王冠を失うと、自責の念によって電流が流れます』

 

「え?─────ぎゃあっ!?」

 

王冠を持ち上げた一夏に電流が走る。

分かりやすく青白い電撃が彼の身を一瞬包んだ。

プスプスと服の端を焦がしながら、一夏は慌てて王冠を被り直す。

 

「な、なんじゃこりゃあ!?」

 

『ああ!なんという事でしょう!王子様の国を思う心はそうまでして重いのか。しかし私達には見守ることしか出来ません。なんという事でしょう!』

 

「なん、だと…」

「ご愁傷様…」

「あの人は何考えてるんだ────!」

 

楽しそうに語る楯無に一夏は叫ぶ。

しかし、当たり前だが相手にされない。

ついでとばかりに、それは飛び火する。

 

 

『──なお、王子様と王冠を守る任務を受けもったエージェントにも、もれなく電流が流れます』

 

 

「は───?っ!?」

 

バリバリと電撃が炸裂した。

もはや自責の念という設定すら皆無である。

よろけつつ持ち直すエージェント。

あまりにも理不尽な仕打ちを前に青筋を立てる。

 

「絶対私怨だ。あいつ、簪とプールに行った事をまだ根に持ってやがる…!」

 

『ピンポンパンポーン♪この処置には一切私情は挟まれておりません。公平性に於いて生徒会が保証していますのでご安心下さい♪』

 

要は生徒会長の独断と自白したようなもの。

抗議しても無意味と判断した流星は切り替えつつ衣服を整えた。

 

「くそ、酷い目にあった。一夏、王冠を手放すなよ!」

「お、おう。って訳でシャル、諦めてくれ」

「そ、そんなぁ」

 

計画が水の泡になり、ガクリと膝から崩れ落ちるシャルロット。

その様子を見て二人は確信する。

──王冠を手に入れた者には何かしら景品があるのだろう。

 

最も、その景品が自身達だとは夢にも思わない。

 

 

「一夏。早いとこ上の階に移ろう。セシリアに上から撃ちおろされるのは御免だ」

 

「分かった。助かったぜ!シャル!」

 

「ま、待ってよぉ!?」

 

すぐに階段を駆け上がり、上の階へと移動する。

セットの城の2階──外壁部分へと出た。

 

 

「危ねぇ!!?」

 

強襲に対し、一夏は間一髪で躱す。

楯無のしごきや夏休み中の努力も相まってか、リアクションに反しては的確な動きだった。

 

ただ、傍から見ればコメディアニメのワンシーンが如く。

大仰なリアクションで周りの床や壁だけ傷が付き、本人は無傷である。

 

 

「いい身のこなしだ。夫として私も鼻が高いぞ、嫁よ」

「だから嫁じゃないって」

 

立ち塞がったのは2本のタクティカルナイフを握ったラウラ。

姿は麗しき純白のドレスだというのに、腕を交差させナイフを構えているせいでホラーテイストが目立ってしまっている。

 

「!」

 

投げられた飛刀を彼女は弾いた。

エージェントが先程拾った内の一本。

銀髪のシンデレラは、油断すること無く身構える。

 

挨拶代わりに振るわれる飛刀。

ラウラは身軽な動きで迎撃を図る。

聞こえる金属音。獲物は飛刀だが、少年の動きはナイフ戦のそれだ。

 

「ドレスにナイフ───血糊(化粧)はお忘れかな、軍人サマ。それくらい舞台裏にあったろうに」

 

「ふん、貴様のその格好も酔狂だがな。どれ、もう少し似合うように仕立ててやろう」

 

 

目にも止まらぬ攻防。

飛刀を逆手に持ち替え、2本のナイフを捌くエージェントと、不意に来る飛刀(飛び道具)をたたき落とすシンデレラ。

 

凄さだけは周りに伝わったらしく、観客席は盛り上がっている。

持っていた飛刀の刃こぼれを確認した流星は、大きく飛び退き距離をとった。

牽制にそれを足下に投げ捨て、追撃を阻止する。

飛刀のストックはまだある。

彼は新たな飛刀を取り出した。

 

「フッ、やはり貴様を倒さねば嫁は手に入らないか」

 

「俺も電流はゴメンでね。阻止させて貰う」

 

黄色い歓声が上がる。

真意について、少年達は理解しない方がいいだろう。

 

軍人と兵士の迫力溢れる戦闘に一夏は見入っていた。

そこへポニーテールのシンデレラが刀で斬りかかる。

 

「覚悟───!」

「箒!?」

 

渾身の箒の一太刀を何とか受け止めた。

───正直見えてなかった!生きてる!生きてる!?

 

「な、白刃取りだと!?」

 

見事な真剣白刃取り。

先に箒の姿が視界に入ったからこそ、タイミングが奇跡的に合ったのだ。

とはいえ一夏にはそこからどうにか出来る選択肢はない。

 

驚いた隙をつき、そそくさと離れる。

箒は冷静さを取り戻すと一夏にそのまま斬りかかった。

 

「一夏、王冠を渡せ!」

「出来るならやってるって!電流が流れるんだよ!」

「ええい!男ならそれくらい耐えてみせろ!」

「む、無茶苦茶言うな!」

 

 

「──良いのか?ラウラ。このままだと箒に取られるぞ」

 

 

2人のやり取りを見ながら、流星は問いかける。

いつにも増して意地の悪い笑み。

彼の意図も理解しつつ、ラウラは矛先を変えずにはいられなかった。

 

 

「くっ!させるか────!王冠(よめ)は私のものだ!」

「邪魔をするなラウラ──!」

 

刀と2本のナイフがぶつかり合う。

シンデレラは互いにライバルであり、こうなってしまえば潰し合うしかない。

エージェントは得意気に王子の隣まで後退した。

 

「よし、これで暫くは持つな」

「でかした!けど、後が怖いような…」

「………、その時に考えよう。残りは鈴とセシリアか───っと」

 

嫌な予感がした流星の頭上を銃弾が通り過ぎた。

慌てて一夏は遮蔽物に身を隠す。

 

「どこからだ!?」

「角度からして、外壁部端の照明裏。分かったところでどうにもならないけどな」

「でも、どうにかしないと…」

 

2人は遮蔽物に隠れつつ、考えを張り巡らせる。

そこへ、背後の柱からひょっこり顔を出す水色の少女。

 

「流星、織斑くん…こっち」

「簪!」

「簪さん!」

 

ドレス姿の簪は柱の影から2人をこまねいていた。

 

2人は柱の影まで素早く移動する。

そこには見落としていた通路があった。

更に上の階へ通じる階段。

すかさず簪の後を追うように2人はそれを上る。

 

追っ手もないと安心して振り返る簪。

流星は簪の格好を見つつ、顎に手を当てた。

 

「簪もシンデレラ姿なのか」

「え、あっ、うん…」

「うん、よく似合ってる。劇に参加した価値があったかもな」

「な、ななな───…っ!?」

 

独りでに頷くエージェントを前にシンデレラは真っ赤になる。

恥ずかしがる様子もなく、満足気なエージェントの表情を見て余計に混乱しそうになっていた。

 

「鈴もよく似合ってたし、2人とも元の素材が良いんだろう。──?どうして膨れてるんだ?」

「ふ、膨れてないもん」

 

簪は否定しつつ口を尖らせる。

決して、褒めるタイミングで他の少女の名前も挙がったから──なんて理由ではない。

 

「そ、それよりも!」

 

と、簪は前のめりになる。

男子2人は小首を傾げ次の言葉を待った。

 

「織斑くん、王冠を見せて欲しい…」

「王冠を?いや、でも外したら電流が流れるしなぁ」

「着けたままで大丈夫。仕組みを知りたいだけ…」

「おう、それならいいぜ」

 

一夏はしゃがんで簪に王冠を見せる。

2人は簪の意図を理解していた。

簪は電流の仕組みを解除しようとしている。

 

「どうだ?簪」

「やっぱり、王冠は発信機のようなものが付けられてるだけ。電流を流す仕組みは服装の方だと思う」

「王冠の方を取れないのか?簪さん」

「ダメ。こっちは多分被ってたら取り除けない」

「となると、服装の方の仕組みを解除する必要があるのか」

 

こくりと頷く簪。

彼女はどこからともなく工具一式を取り出した。

頼もしい限りだが、安心より疑問の方がそれを上回る。

 

「…随分用意が良いな、簪」

「話を聞いた時、大体予想がついてた…」

「「え?」」

「だってお姉ちゃんだし…」

 

何とも言えない顔になる流星。

実に仲の良い姉妹だ。姉への理解が深い。

───……止めるという選択肢は無かったのだろうか。

少し前までの姉妹仲を思えば、微笑ましい事に違いない。

 

簪と楯無の仲直りを知らない一夏は、何処か納得した様子であった。

簪は『装置は複数ある』と告げ、解除しにかかる。

1つ目の場所は一夏の肩章と生地の隙間に存在していた。

 

 

流星は溜息をついて飛刀を取り出し、振り返った。

 

 

────裏を返せば、(いもうと)の行動も楯無(あね)は読んでいるという訳で────。

 

 

「来るよな。そりゃあ」

 

 

「気配を見抜いた事は褒めてあげる。──という訳で、満を持して楯無おねーさん再登場!」

 

 

ローブに魔女帽子、そして杖代わりの扇子。

胡散臭いを擬人化したような諸悪の根源がそこにはいた。

 

 

 

話に影響しないので、ただの興味本位ですが…『本作中における、読者の推しヒロインは誰?』

  • 本音
  • 楯無
  • 一夏
  • 清香
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