IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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「!」

 

──不意に金属音が鳴り響いた。

咄嗟に反応して振るわれた装甲脚。

音を立てて何か金属が一夏の眼前に転がる。

 

暗闇を翔けるソレは、吸い込まれるようにオータムの顔を狙ったものであった。

 

「これ、は…!」

 

何の変哲もないコンバットナイフ。

一瞬ラウラかと考えた一夏だが、彼女のものよりひと回り小ぶりなそれを見て違うと理解する。

 

 

直後に更衣室の入口から飛び出す影。

 

オータムも来訪者の正体を理解したのか、愉しげに口もとを吊り上げた。

 

「来やがったか…!」

 

「──」

 

迷いなく振るわれる近接ブレードを装甲脚で受けるオータム。

現れたのは右腕を部分展開した流星である。

 

数度の切り込み。

少しオータムを後退させたところで彼は飛び退く。

反撃とばかりに振るわれた脚が、近くにあったロッカーを一瞬にしてスクラップにした。

 

 

「言動の割に器用な奴だ」

 

 

一夏の眼前まで下がった流星は、周囲の光景を見ながら呆れていた。

小物のような発言に、感情剥き出しのガラの悪さ。

そして鋭い狩人のような目付き──粗暴なイメージこそあれど、この室内で不自由さは見られない。

 

「ハッ、また会ったな邪魔者!──1年半前の借りを返させて貰おうか!」

 

「…1年半前?」

 

オータムの発言に怪訝な顔になる流星。

身に覚えがない。

そう言いたげな彼をオータムは不快そうに睨み付ける。

 

「すっとぼけやがって。1年半前、私らを邪魔した黒い高機動型のIS──あれはお前だろーが」

 

「──黒いISだと?」

 

「ちっ、どこまでもシラを切るってか」

 

困惑させる為の嘘かと流星は考えたが、オータムにその様子はない。

むしろオータムの方が苛立っているようであった。

 

「なら仕方ねぇ!ズタズタにしてから聞き出してやるよぉ!」

 

──オータムに微かな重心の変化。

言い終わる手前からのソレに流星は合わせて動く。

 

「──」

「!?」

 

真後ろに居た一夏を蹴り飛ばし、彼は反対側へ飛び出す。

IS『打鉄─椛』を完全に展開。

 

銃声が遅れて聞こえた。

 

 

流星はアサルトライフル『焔備』に持ち替え、ロッカーの影から反撃する。

多少広いとはいえ、屋内の戦闘。

跳弾や逃げ場を頭に入れつつ、彼は暗闇を駆る。

 

「ちょこまかと──!」

 

一夏との戦闘により、乱雑に立っているロッカー。

傾き、それぞれが絶妙なバランスで支え合っている状態だ。

それらの隙間からの弾丸に、オータムは舌打ちする。

 

八本の装甲脚の一部を防御に回す──弾幕が少し薄くなる。

火薬の臭いが鼻をつつく。

 

薄暗い中、装甲脚の細かな角度は射撃時の火花が教えていた。

ハイパーセンサーがあるとはいえど、暗闇での戦闘。

こと生身を含めば、経験値は少年の方が上である。

 

(仕掛けるか)

 

空いた手に近接武器を展開した。

従来の近接ブレードよりも、小ぶりな一振り。

銘は『討鉄(うちがね)』──、脇差や小太刀に該当する近接武器だ。

箒の助言により使う事にした『打鉄』の補助武装である。

 

 

「しゃらくせぇ!吹き飛ばしてやるよ!」

 

「───」

 

痺れを切らしたオータムが装甲脚を二本振り上げた。

流星は迷わずアサルトライフルを量子化し、近接ブレードを展開。

小太刀と揃え、二刀。

小太刀の方を逆手に持ってタイミングを合わせた。

 

「な──!」

 

オータムの顔が驚愕に染まる。

少年の動いていた付近目掛けて踏み込み、装甲脚を振るう瞬間に飛び出した影。

オータムもカウンターは想定していた。

────だが、それでも疾かった。

 

先にロッカーを切り捨て、少年はすかさず瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行っていた。

 

 

悪寒がオータムの背筋を走り抜ける。

薙ぎ払う装甲脚の下を縫うように迫り、彼は一撃を見舞った。

 

「!」

 

装甲の隙間──首筋を狙った小太刀は今1歩届かなかった。

王蜘蛛(アラクネ)』の肩部の装甲は分厚く、大したダメージにはならない。

大きな傷が装甲に残る。

土壇場のオータムの行動でズレたと見るべきだろう。

 

反撃の装甲脚を二刀で弾き、銀灰色の機体はそのまま離脱した。

離脱ついでに少年は近接ブレードを量子化、アサルトライフルの引き金を引いていた。

 

 

「舐めんな!」

 

装甲脚を巧みに使い、後方へ飛ぶオータム。

頭に血が上り追撃しようとしないあたり、冷静だと流星は独りごちる。

 

 

 

「すげぇ…」

 

見ていた一夏は思わず声を漏らした。

──最低限の近距離での打ち合い、距離の詰め方、タイミング、離脱までの判断。

ISだというのにしなやかな動き。

武術とはまた違う、少年の苛烈な人生を物語る──洗練されたものがそこにはあった。

 

 

 

──操縦技術が戦闘技術に追い付きつつある。

以前のエムとの戦闘を見た恋人(スコール)の発言を思い出し、オータムは眉を顰める。

先程見せた超低空の瞬時加速(イグニッション・ブースト)

あれは緻密なPIC制御や出力操作、空間把握力がないと出来たものでは無い。

 

(エムとやり合っただけあるってことか…仕方がねぇ)

 

(…何を狙っている──?)

 

更に1歩後退するオータム。

撤退する気かと一瞬考えた流星だが、相手の様子に違和感を覚えた。

 

「ほらよ、守らねぇと友達が死ぬぜ!」

 

「!」

 

装甲脚を突き出し、銃口が横一列に。

空いた手でネットを用意しつつ、オータムは一斉射撃を行った。

 

「────」

 

少年は揺らがない。

小太刀を量子化し、オータムの射撃より速く盾を展開。

一夏の眼前の床に盾が打ち付けられた──力任せに投げた為だろう。

それは彼を弾丸から守り抜く。

 

一方、流星は足下のロッカーの残骸を拾い上げる。

盾代わりにはあまりにも心許ないが、直撃よりはまだダメージは少なかった。

弾幕の隙間にアサルトライフルで応じる。

 

 

 

 

────その、直後であった。

 

 

 

「ねぇ、よそみはだめよ。りゅうせい」

 

 

ぞわりと。

 

少年の全身が、本能が、経験が、警鐘を鳴らした。

 

 

「っ!!!」

 

コンマ以下の思考の隙間。

死んだ事さえ気付けない、なんて喩えでも笑えない。

 

奇跡的に振り返った少年の眼前には、何も無かった(・・・・・・)

 

──前方にいる。

 

人間は視界に重きを置く生き物だ。

如何なる境遇の人間とて、視界を持つ限りは変わりない。

そこに脅威が(なにも)無いと目視してしまえば──体は止まる。

反射という思考を挟まない行動なら尚更であった。

 

ただ、幾度もの死線を潜り抜けた肉体はそれを無視した。

───狙いは、心臓か。

 

 

 

 

「流星!」

 

「ッ!」

 

鮮血が舞う。

避けられると判断し、軌道修正された白刃。

それを力尽くで彼は逸らした。

『打鉄─椛』の装甲が裂け、中から赤色が覗かせている。

機体に走る紅のラインとはまた違う、濃い赤色だ。

 

 

「ちっ…!」

 

即座にアサルトライフルの引き金を引く。

白刃の主───少女は飛び退き、それらを躱した。

 

 

「こえのほうこうをズラしてゆうどうしたのに、はんのうできるんだ」

 

声がした方とは別の──何も無い空間に現れる少女。

腹部を抑えつつ、流星は片手でアサルトライフルを構えた。

 

腹部に切り傷が出来ているが幸い浅い。

どちらかと言えば、ごっそり減ったシールドエネルギーの方が少年にとっては痛手である。

 

(成程、コイツもあの女の仲間か)

 

敵はかつてツーマンセルトーナメントの時に襲撃してきた少女。

仕組みは知らないが威力の高い刃物、更には消える能力まで備えたIS。

付け加えて近接の高い技能と厄介極まりない。

 

少女は緋色の瞳で少年を捉え、嬉しそうにはにかんだ。

日常的な会話だと言わんばかりに口を開く。

 

「ひさしぶりねりゅうせい!─わたしはリタ。リタ・イグレシアス!えっとね、えっとね──」

 

「───」

 

流星は構わず腕を突き出し引き金を引いていた。

敵の話やペースに乗る気も無い。

 

「もう!レディがはなしてるのに───」

 

リタはそれを天井や壁を伝って躱した。

スラスターが一瞬光を放ち、上下左右自在に跳躍している。

 

「──たく、初撃をミスりやがって。だがまあ、それなりにダメージはあるよなぁ!2人目ぇ!」

 

「!」

 

「あそびましょう。りゅうせい。オータムもいっしょにあそんでくれるから────!」

 

幼い見た目にそぐわぬ妖艶な声色。

オータムとリタが同時に動き出す。

装甲脚からの射撃で牽制しつつ、直線で距離を詰めるオータムと多角的な動きで距離を詰めるリタ。

 

こうなれば、接近戦はあまりにも分が悪い。

どちらかに固執すれば確実に殺られる状況。

一夏の事も考えると更に制限が加わる。

 

 

彼はアサルトライフルをもう一丁展開。

戦い方はある程度頭の中で組み上がっていた。

2人の位置を常に頭に入れつつ、射撃戦を──────

 

 

 

「そこまでよ。亡国機業(ファントム・タスク)

 

「!」

 

不意に聞き慣れた声が聞こえた。

 

「!!」

 

───仕掛けようとしていたリタはソレを回避。

横に身を翻し、少女は距離を取る。

少女が居た床を蒼流旋(ランス)が粉砕した。

叩きつけられた質量はその威力を代弁するように瓦礫を撒き散らす。

 

 

──そして、流星の周りに水のヴェールが展開され、オータムの射撃を受け止めた。

 

 

 

割って入るように現れた人物。

正体を察するまでもなく、不満そうに流星はため息をついた。

 

 

「遅いぞ。楯無」

 

「待つのも男の甲斐性よ?それとも…おねーさんが恋しくなっちゃった?」

 

「…言ってろ馬鹿。どうせ上手いこと言って生徒を避難させてたんだろ?」

 

「まあね♪」

 

新たに現れた水色の影を見ながら、リタは不満そうに口を尖らせるのであった。

 

「──さらしきたてなし、ね」

 

落ち着いた口調とは裏腹に、緋色の瞳には明確な殺意が込められていた。

黒い感情。

2人の逢瀬に水をさされた、とでも言わんばかりのドロついたものである。

 

 

「あらら。嫌われちゃったみたいね」

 

 

いつもの調子でおどけつつ楯無は2人と敵の間に立つ。

片腕のみの部分展開を維持しつつ、敵を見据えていた。

当然、楯無に隙は見当たらない。

オータムとリタも迂闊には仕掛けられないでいた。

 

「楯無さん…!」

「はぁい、お待たせ一夏くん。状況を聞いてもいいかしら?」

「そいつらが突然襲ってきて…『白式』が…!」

 

一夏の言葉にキョトンとする楯無。

今の一夏の実力なら、この早さで倒される事はないだろう。

何より彼自身の怪我の度合いがそれを物語っている。

 

となれば何をされたかはすぐに思い至った。

笑みを浮かべると、敵2人の前に出つつ蒼流旋を軽く振り回す。

ISを完全に展開。臨戦態勢に入った。

 

「一夏くん、それなら問題ないわ。あなたの望むままを願いなさい。そうすれば、きっと応えてくれるから」

 

「それってどういう…?」

 

「流星くん。ちょっと一夏くんの護衛を頼めるかしら?」

 

「分かった」

 

首を傾げる一夏の元へ、流星は移動する。

先までの冷たい空気から一転して、いつもの空気のまま一夏の隣まで来た。

 

必然的に、リタやオータムと楯無は1人で向き合う形になる。

一夏はその状況を理解すると、慌てた様子で声を荒らげた。

 

「1人で戦う気なのか!?流星、俺はいいから楯無さんの援護を───」

 

「必要ないな」

 

キッパリとした物言いに一夏の言葉が詰まる。

流星はISを解除し、腹部を応急処置をひとまず行う。

一夏からすると流星には先までの冷たさはなく、いつもの調子に見えた。

その最中、当たり前のことを告げるように一夏の方を見ずに答える。

 

 

「楯無が前に言ってただろ。生徒会長…いや更識楯無(アイツ)は────」

 

 

 

 

──学園最強。

それ自体は、一夏も知ってはいた。

生身の状態でもラウラを圧倒する強さを目の当たりにしている。

達人である箒の剣もあっさり見切られていた、それは間違いない。

ただ、彼はそれでも理解出来ていなかった。

 

彼の中に不安が募る。

こんな簡単に人を殺そうとする連中を前にして、問題無いのだろうか──と。

 

 

 

結論が出るのは、あまりにも早かった。

 

「───な、」

 

ぽかんと口を開く一夏。

その光景はあまりにも異質であった。

 

 

────楯無に対し、2人の襲撃者が取った行動はシンプル。

2対1の利点、数での優位を活かした連携での攻めだ。

 

リタは姿を消し、オータムが弾幕を展開しつつ距離を詰める。

リタの強襲能力の高さは言わずもがな。

オータムの手数や勘も相当なものである。

 

 

だが、2人は攻めきれずにいた。

 

水が逆巻き、銃弾を防ぐ。

中心にいる少女にリタが斬り掛かるも、まるで分かっていたかのように捌かれている。

高速でいなし続けられる白刃。

銃弾も全て水のドレス(IS)を着た楯無には届かない。

反響する金属音。

戦闘の凄まじさを物語るように、余波で天井や床が抉れていく。

 

白刃を捌きつつ、蒼流旋がリタに叩き付けるように振るわれた。

 

 

「…くうきちゅうにナノマシンをバラまいて、わたしのいちをはあくしてるのね───」

 

リタはそれを受け流し、純粋な斬り合いに集中する。

彼女の純粋な剣の技量はかなりのもの。

身軽な上にずば抜けた身体能力。

身の丈以上の白刃を自分の体のように扱っている。

 

だが、楯無はそれをものともしない。

獲物のリーチを活かし、少女を踏み込ませないで居た。

 

 

 

(つよい…、これがたてなし…!)

 

 

リタも思わず舌を巻く。

戦争(殺し合い)に特化した流星ともまた違う、純粋な強者。

武術を修め、そして対暗部としての鍛錬が築き上げた実戦的な身体の運び。

 

 

「きゃあっ!」

 

回転し、威力を上げた1振りがリタを白刃ごと天井へ叩き付けた。

衝撃で亀裂が走る。

肺の中の空気を吐き出しながらも、リタは猫のように軽やかに着地する。

 

「これならどうよ!更識楯無!」

「舐められたものね」

「なっ──」

 

彼女はリタへ攻撃した姿勢から飛んで、オータムの装甲脚を躱した。

上下逆さのまま蒼流旋の先端──ガトリングの砲門がオータムの胴を狙い撃つ。

攻撃は直撃し、オータムの体が大きくのけぞった。

 

「ハン!舐めてんのはそっちだ!」

「!」

 

すぐに体勢を立て直すオータム。

彼女の手にしたカタールと装甲脚が一斉に楯無に向かう。

 

八本脚が故の立て直し。その点に関しては他のどの機体よりも素早い。

相手が猛者であろうとその強みは明確であった。

 

ざっくりとカタールによる袈裟斬りが楯無の身体に入った。

そのまま、装甲脚の鋭い突きは楯無の身体をアッサリと貫く───。

 

 

(!手応えが───ない?)

 

「あちゃー、やられちゃった」

 

貫かれたハズの楯無の身体が崩れ、完全に水へと変化する。

オータムがそれを目の当たりにした瞬間、再度胴に衝撃が走った。

楯無の突きにより吹き飛ばされたからである。

 

 

「ッ───クソっ!?分身か!!」

 

「ご名答♪でも───遅い!」

 

「がッ!!」

 

水流による追撃がオータムを地面に叩きつけた。

 

 

アクア・ナノマシンによる水の分身。

一見便利だが、戦闘中の入れ替わりなんて芸当はとても容易なものでは無い。

立ち回りは当然として、アクア・ナノマシンの扱いには緻密な操作も要求される。

 

しかし、扱うのは更識楯無(学園最強)───使いこなせなくては名乗るに能わず。

 

オータムが最初よろけた瞬間、自身と微かに重なるように配置。

入れ替わりを実現したのだ。

 

 

 

──ハイレベルな攻防、そして2対1をものともしない楯無を前に一夏はゴクリと喉を鳴らす。

これが学園最強。

自分が教えを受けていた相手のレベルだと知り、心配はあっという間に消し飛んでしまう。

 

 

「一夏。見入ってる場合じゃないぞ」

「あ、ああ」

 

ISを展開し直した流星の言葉で我に返り、一夏は楯無の言葉を思い出す。

言われた瞬間は意味が分からなかった。

今は───何故だが、それとなく理解出来ている。

 

前に手を伸ばし彼は目を瞑る。

無理矢理引き剥がされたというのに、近くに在る感覚がハッキリとあった。

 

「帰って来い『白式』────!」

 

途切れていた何かが強く繋がり直す。

彼の呼び掛けと共に、オータムの片手にあったキューブが眩い光を放った。

 

「なっ!?」

 

直ぐにキューブは量子化し、彼女は何も無くなった掌に唖然とする。

光の粒子は一夏へと集まり、再度ISを展開するに至っていた。

 

 

(遠隔での呼出(コール)!多分欠陥があるなんてリタが言ってたのは、そういう事か!───ちっ、エムの奴め!)

 

戦闘を続けながら、オータムは思わず舌打ちをする。

折角『白式』を奪うまでスムーズに進んだのだが、これで振り出しだ。

 

援軍が来た段階で頃合いを見計らい、離脱する気であったのを阻止されたせいでもある。

今宮流星と更識楯無。

2人とも戦闘時は撤退する隙を与えないようにしていたのが大きい。

 

これで3対2。

数的な優位も無くなった。

 

 

────しかし、そんな事態も折込済みだ。

飛び退いたリタは、一旦オータムの隣に。

まだ策はあると言わんばかりの2人の行動を前に、楯無は焦ること無く不敵に笑った。

 

 

「ねぇ──ところでこの部屋…暑いと思わない?」

 

なんて事のない日常会話──ではない。

警告でも無ければ慢心でもない。

 

「ふふ、温度の問題じゃなくて体感の話───そうね、こう言った方がいいかしら?この部屋、湿度が高い(・・・・・)わよ」

 

一夏はすぐに周囲の変化を感じ取った。

先までとは違い、ジメジメとして暑さだ。

室内全体がまるで浴室にでもなったかのよう。

霧なんて室内に似合わないものも楯無の言葉と共に現れだした。

 

「──!」

「まさか」

 

オータム達もそれ(・・)に気が付く。

今にも先までの分身や水のヴェールなど、視覚的に分かりやすい技を使っていたのはブラフ。

本命は一夏がISを取り戻した後の範囲攻撃であった。

 

「おい!」

「わかった!」

 

2人の襲撃者はそれぞれ動き出した。

楯無にその引き金を引かせないよう、最速で行動に移そうとしする。

 

彼女らの行動に誤りはない。

あるとすれば──────楯無が話し出した瞬間に仕掛けなかった事だ。

 

 

「詰みね」

 

 

楯無がパチンと指を鳴らした。

ISのエネルギーが霧状になったナノマシンに伝わり、熱が発生───────瞬く間に、2人の周囲を爆発が飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────え…」

 

 

驚いたような、少女の声が漏れた。

 

粉塵が舞い、半壊した更衣室。

爆音は部屋を震わせ、一夏達の周囲にも砂埃が立ち込めていた

爆発は局所的なものだが、狙いは完璧である。

確実にオータムとリタだけを無力化する火力で『清き熱情(クリア・パッション)』を喰らわせた────筈だ。

 

粉塵が消え、視界が戻ってくる。

 

 

 

(あれは───…)

 

「なんだよ、あれ」

 

流星が目の前の光景に眉を顰める中、一夏は困惑を露わにした。

どう見ても防御不可のタイミングだと、彼ですら悟れるレベルであった。

仮に凌いでも相手は大きな損傷は避けられない。

 

 

 

眼前に広がるは、銀色の壁。

エネルギーが迸るように繭を作り、檻を作り、気味の悪い蛹のよう。

表面を銀色の稲妻が走っていた───何らかのエネルギー兵装だろう。

 

 

その中のオータムとリタ、そしてもう1人(・・・・)は無傷であった。

 

 

 

「───はは、間一髪でしょ。だから言ったじゃんオータムぅ、アレは生半可な用意じゃ駄目だってさ〜」

 

「うるせぇ。テメェが役目サボってなけりゃこうならなかったんだ」

「まったくね。これだからいやがらせしかのうのないひとは…」

 

「助けたのにその言い草、ウケる。助けたんだからお礼ぐらいしてよね」

 

相手の声を聞き、楯無の顔が初めて驚愕に染まった。

一夏はそこで漸く楯無が何に驚いていたか(・・・・・・・・)を理解する。

 

 

「ウソ…でしょう?どう、してあなたが─────」

 

 

増えたもう1人。

長い青髪を携えた少女に、楯無の視線は釘付けであった。

IS学園の制服を身に纏い、右腕だけISを展開していた。

 

毒々しい程鮮やかな緑色の装甲。

薄暗い部屋の中だというのに、眩しい銀色がそれを照らす。

 

 

 

青い髪の少女は振り返り、ニパーっと眩しい笑顔を見せる。

仲の良い友人に久々に会ったような感覚で手を挙げ───口を開いた。

 

 

 

 

「久しぶりー、楯無ちゃん。やっぱり元気にしてたー?」

 

 

 

───銀雷が、声に呼応するように周囲へ炸裂した。

 

 

 

 

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