IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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時間は少し遡る。

人が行き交う廊下の中、鼻歌を唄いながら闊歩する眼鏡の少女の姿があった。

襟が見えるよう髪を上げており、左腕には新聞部の腕章が着いている。

リボンは楯無と同じ黄色───二年生である。

そんな少女──黛薫子の右手には、デジカメが握られていた。

 

(さてさて、どんな見出しにしようかな〜)

 

話題性トップの1組1組は勿論、他の部活などの出し物はあらかた回った。

学園祭ということもありネタには困らない。

───まあそもそも、IS学園で困った事などないが。

 

大人気の生徒会長のメイド姿はもちろん、専用機持ち達のメイド姿や男子2人の執事姿も十分に撮れた。

 

この後の劇も考えれば写真は有り余る程だ。

どれを記事に載せるか───贅沢な悩みに彼女はニマニマと笑みをこぼす。

 

「っと、見出しのイメージがある内に下書きでも済ませちゃおっかな」

 

生徒会の催し──劇までも時間はある。

 

薫子は少し歩き移動、適当な空き教室を見つけてそこに入った。

IS学園は特殊な学園である都合、空き教室がそれなりに存在する。

あらゆる状況を想定して作られたものであるが、基本的には自習室として開かれているだけだ。

 

学園祭では休憩として使えるように扉は開放されている。

無論、一般開放されていない教室も多々存在するがそれは別校舎である。

 

 

何はともあれ、薫子は下書きの作成に取り掛かる。

持参していた端末とデジカメの画像、メモを見つつレイアウトを考えていた。

 

新聞部は各々が記事を書き、1つの新聞として完成させる。

手間こそかかるが基本的に各々が作りたいものを刷り、調整を皆で加えるのが主流であった。

薫子が作ろうとしているのはその前段階、それの下書きだ。

 

デスクに座り格闘すること少し。

ある程度書き上げたあたりで、薫子はやっとその存在(・・・・)に気がついた。

 

 

 

「──え?くくるちゃん…?」

 

驚きで彼女の動きが止まる。

目の前にいたのは青く長い髪の少女。

IS学園の制服に身を包み、首にはチョーカーらしき物が付いている。

覗き込むような姿勢で薫子を見ていた彼女はにっこりと笑顔を浮かべた。

 

「他の何かに見える?」

「嘘、本物…?いつ来てたの?この事をたっちゃんは────」

更識楯無(・・・・)は知らないよ」

「そう…」

 

青い髪の少女の言葉を受け、俯く薫子。

事情も何も分からないが、喜ばしくない感情がこもっていたのは察する事ができた。

 

ただ、細かな話を知らない薫子にはどうする事も出来ない。

一拍置くと彼女に視線を戻した。

 

「元気にしてた?」

 

「色々あったけど元気。っていうか(ウチ)の凄さを知ってるんだから心配なんて要らないって分かるっしょ」

 

「それとこれとは話が別だよ。連絡取れなかったら普通心配するって。それはそうと…写真いい?」

 

「───薫子ちゃんは相変わらずみたいで安心したかも。悪いけど写真はNGだから。事務所を通してね♪」

 

少女は人差し指を交差させ、バッテンを作る。

それを見て、薫子は思わず破顔した。

少女の対応が懐かしいものだったからである。

 

暫くだけ2人は会話をした。

内容は他愛もない、新聞部部長になった話や教師の話など。

少女の方も海外に行った時の話題を出し、些細なことで笑い合う。

 

それから少し。

ひと通り話し終えたところで、少女は腕時計を見て表情を変えた。

 

 

「…もう行くの?」

「うん、そろそろ時間みたい」

 

一瞬の鋭い視線に、薫子は息が詰まる。

あくまで一般人である薫子には、少女がどうしてここに来たのかもどうしてここに居るのかも分からなかった。

ただ、良くない事が起きそうである───そんな前触れだけは感じ取れる。

 

 

「──ねぇ、もうあの頃には戻れないのかな?」

 

自然と零れる言葉。

薫子は目の前の少女に、そう問いかけた。

少女は目をぱちくりさせた後、冷たい表情で頷く。

 

「戻る気もないよ。例えこの先に何があっても、この道は(ウチ)が選んだ道だから」

 

そこには一切の躊躇も未練も無かった。

清々しさすら憶える彼女の言葉に、薫子は何も言えなくなった。

 

「やっぱり薫子ちゃんは優しいね。普段は違うのに、こういう時は変に踏み込まないし、無理に引き止めもしない。(ウチ)はそういうとこ気に入ってたんだ」

 

「…」

 

「けど薫子ちゃんとはここでお別れ。ちゃんと幸せになりなよ」

 

「────ま、待って!」

 

ここで別れれば、もう二度と会えない。

そんな確信をもって薫子は少女に、向かって手を伸ばした。

 

「っ───?」

 

だが手は何も掴むことがなく、虚空を掴んだ。

バチりと小さな音が聞こえ、力なく薫子の体は机に倒れ込む。

 

銀色の電撃を掌に浮かべながら、少女は静かに薫子を見下ろしていた。

 

 

「そんな顔しないでよ、薫子ちゃん。(ウチ)は今とっても楽しいんだから───人を■するのも、人を騙すのも。これ以上ないって程良いの」

 

当然、返事はない。

気を失ったまま(・・・・・・・)の薫子に対し、少女は溜息をつくと背を向ける。

 

先までと違い、物憂げな表情で呟くように別れを口にしていた。

 

 

 

「じゃあね薫子ちゃん。私の数少ない──大切な友達」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

懐かしい少女の顔。

特徴的な長く青い髪を見た楯無の胸中は──あらゆる感情が渦巻いていた。

あの顔も声も、寸分違わず彼女のものだ。

 

どうしてここに?  

        偽物?

           そんな筈は───。

 

心が否定しようとも、聡明な彼女は頭で理解している。

ISを使い、亡国機業(ファントム・タスク)を助けるように現れた。

そして、亡国機業(ファントム・タスク)がこの校舎の構造を細かに把握している点────言うまでもなく、彼女は───。

 

 

脳裏に焼き付いた記憶(もの)が、フラッシュバックする。

彼女との思い出も何もかも差し置いて、トラウマ地味た2つの光景が顔を覗かせていた。

 

動かなくなった井神家当主と───この学園を去る直前の彼女の表情。

 

 

 

 

「っ!」

 

 

 

 

─────銀雷が、青い髪の少女を起点に炸裂した。

 

銀色の眩い光が楯無達3人を飲み込まんと襲い掛かる。

一瞬にも満たない内に余計な思考を捨て去り、楯無は手を前に掲げた。

 

「2人とも、動いちゃ駄目!」

 

「─!」

「!」

 

刹那の間に楯無は水のヴェールを前方に展開───銀色の電撃と衝突した。

蒸発するような音、しかしそれは爆発音でもある。

 

瞬く間に銀色の電撃と水のヴェールは弾け飛んだ。

蒸気爆発に指向性を何とか持たせ、楯無は自身と2人の男子が爆発に巻き込まれない様にしていた。

 

余波により、粉塵が舞い上がる。

リタの奇襲を警戒し、敵がいるであろう場所を見つめる楯無。

だが、粉塵が晴れてもなお襲撃者3人は同じ場所に立っていた。

 

 

「やっぱり不意打ちは効かないか。今のはいい線行ってると思ったんだけどねー」

 

頭に手を当てながら、失敗失敗と笑う少女。

特に悪気も無さそうに、日常会話のような気楽さだ。

サラリと揺れる綺麗な青い髪。

楯無は鋭い視線で少女を見た。

 

「…そっちに居るって事は、そういう事(・・・・・)で良いのよね?──

井神(いかみ)来玖留(くくる)

 

「えー、フルネームだなんて他人行儀で傷付くんですけど?昔みたいに『くくるちゃん』って呼んで欲しいな〜」

 

「とぼけないで。あなた、自分が何をしている分かってるの?」

 

「あ、そう。感動のご対面なのにさ、ホントそういうとこ──ご当主サマって感じ。より一層のムカつく感じになってんじゃん」

 

井神(いかみ)来玖留(くくる)

そう呼ばれた青い髪の少女は口もとに三日月を浮かべていた。

2人の唯ならぬ緊迫した様子とやり取りに、一夏は眉を顰める。

 

「2人とも面識がある…?それにIS学園の制服…もしかして、あの人って……」

「十中八九、元IS学園の生徒だろうな」

 

流星は淡々と一夏に返す。

それよりも、と彼が見たのは緑色のISが部分展開されている来玖留の右腕だ。

 

 

「お前、無人機の時の奴か」

 

アサルトライフル『焔備』の銃口を向ける。

来玖留は2人の少年に視線をやりながら、声をあげた。

 

「──ああ、思い出した。あの時のボロ雑巾くんじゃん。隣に居るのは──ブリュンヒルデの腰巾着か」

 

「…一夏」

「分かってるさ。もうその手には乗らねえ」

 

敵の挑発に表情だけ変えながら、冷静さを保つ一夏。

敵の言葉に不快感を露わにしつつも、警戒への集中力に乱れはない。

 

「あーあ、流石に懲りたか。つまんない」

 

言葉が自然と消え、睨み合いになる。

独り前にでた状態の楯無に対し、来玖留も半歩前に出つつISを完全に展開した。

緑の装甲に紫のバイザー、配色も相まって毒々しさが伝わってくる。

少女は両手を広げながら狂気に口元を歪めていた。

 

 

 

「いい加減やろうか───!更識ィ!」

 

 

「─────」

 

銀色の電撃が井神の掌から放出される。

掌に何か仕掛けがあるのかと考えつつ、楯無はアクア・ナノマシンを操る。

 

範囲武装を持つ2人の動きを口火に、高速で互いの背後から1人が駆けた。

 

「「!」」

 

金属音が周囲に鳴り響く。

小太刀と白刃が弾き合う──互いに強襲を仕掛けたのは良いが、邪魔し合う形になった。

 

 

「ふふ、おなじかんがえね──りゅうせい!」

 

「ちっ──」

 

リタと流星、2人の眼前で雷と水流が再度衝突した。

先に銃声と──それを弾く金属音が聞こえる。

 

 

遅れて爆発が起きた。

先よりも規模は小さいが、視界は一気に悪くなる。

 

 

そんな中々、水色の影と緑色の機体は互いの獲物を手に踏み込んだ。

 

「折角なんだし楽しもうぜ、ご当主サマ!」

 

「残念だけど私もそんなに暇じゃないの」

 

蒼流旋(ランス)と大鎌。

独特なリーチを持つ二種の武器が、使用者により的確に振るわれる。

線と点の応酬──空気を裂く音と共に水平に振るわれる大鎌。

形状的に受け止めるは困難───鎌の持ち手を叩き楯無は軌道を逸らす。

 

 

「っ!」

 

バチりと音が聞こえた。

楯無の顔が苦痛に歪む。

相手の攻撃を逸らした際に、鎌を通じて電流を流し込まれていた。

 

 

「楯無さん!!」

「──ほら、お前も人の心配してる場合かよ!ガキ!」

「くそっ!」

 

加勢しようとした一夏へとオータムが仕掛ける。

カタールによる斬撃を一夏は何とか凌いでいる状態だ。

 

 

 

───喰らったとはいえ、楯無にとっては特に問題は無い。

むしろ問題はこの混戦の方。

範囲武装を持つ来玖留から目を離せない以上、楯無の動きにも制限が出る。

加えて来玖留のISは危険なものであることを楯無は知っていた。

彼女は攻撃の手を緩めず、眉を顰める。

 

 

「ロシアの第三世代試作軍用IS…『雷の修道女(グローム・モナヒーニャ)』ね……。銀雷(セレブロ)は欠陥兵器じゃなかったのかしら?」

 

「ああ、欠陥だったよ(・・・・・・)。本当に最近まではね」

 

鎌を避け、蒼流旋の先端部にあるガトリングを敵機へ楯無は掃射する。

姿勢を低くした突きの構えからの射撃。

来玖留もそれに反応し──鎌を横に回し防いでみせた。

緑の装甲──腕部の装甲が浮き上がり、隙間から銃口が顔を覗かせる。

上下左右から飛び出した4つ銃口が火を噴いた。

 

 

「最近まで…?まさか───」

 

 

水のヴェールで受け止めながら楯無は険しい表情になる。

 

来玖留のISの兵器は、エネルギー機構に欠陥を抱えていた。

強力が故に回路へ多大な負荷がかかり、その上制御が不能になる程の電気信号の混雑。

様々な理由から開発自体が凍結されかかっていたのだが────。

 

最近の亡国機業(ファントム・タスク)の行動の1つが、答えとして存在していた。

 

 

「そのまさかさ───!」

 

銀の電撃が来玖留の掌から、鎌を通じて横薙ぎに放たれた。

薄く伸ばされたような電撃に楯無は再度水のヴェールで防ごうと───。

 

(!?反応が鈍い───!)

 

違和感を覚え、楯無は防御から回避へと切り替えた。

急加速からの反転、自然な動作で天井からの反撃へ。

対象を逃した雷は更衣室のロッカーを纏めて吹き飛ばす。

 

 

「流石に気付くか。そりゃこれでやられたら拍子抜けもいいとこだし、当然かな」

 

「…アクア・ナノマシンに干渉したのね」

 

「正解」

 

振るわれる大鎌。

楯無は蛇腹剣(ラスティー・ネイル)を展開し、懐に潜り込まんとする。

こちらの武装が減らされた以上、潜り込む方が吉と判断した為だ。

大鎌の間合いの弱点も、腕部についた隠し小銃が物語っている。

 

 

「──チッ」

 

舌打ちし、来玖留は後退する。

踏み込んでくる楯無へ小銃を掃射───も、楯無は更にそれを躱し、来玖留へ一太刀入れた。

 

本来ならカウンターで電撃を入れるつもりであったが、楯無はそれを見抜いている。

来玖留の掌の角度を確実に理解しつつの斬撃。

 

来玖留の目が不愉快と言葉を発するかのよう。

 

立て直しつつ、来玖留は掌に電撃を浮かべた。

攻め切ろうとする楯無と自身の間に、拡散するように銀色の電撃を放つ。

楯無のアクア・ナノマシンは現在制限されている。

防御仕切ることは不可能、回避に移る──はずだった。

 

 

「甘い─────!」

 

銀色を振り払うように来玖留の眼前に楯無が現れた。

武器に纏わせた微かな水を起点に軌道を逸らしたのだ。

多少のダメージは覚悟の上。

楯無の蛇腹剣(ラスティー・ネイル)を来玖留は大鎌で受け止めた。

 

 

「投降しなさい。今ならまだ最悪は回避出来る」

「投降?…(ウチ)が?────ハッハハハハハ!ウケる!なんの為に(ウチ)がここで遊んでるか、分かってないの?」

「!」

「態々男性復権主義にリークしてやったのは(ウチ)なんだぜ?女性主義(ミサンドリー)が男性操縦者を狙ってるってよ。一応事実っちゃ事実だけど」

「私を二人の護衛として誘い出す為ね。でも───」

「『私を倒さなくちゃ意味がない?』成程ね。でもその標的(ねらい)がアンタだって何時言ったよ!!」

 

「─────っ!!」

 

そこで漸く楯無の表情が強ばった。

井神来玖留の言葉──そしてこの状況により、誰が一番危険な状態かを理解したからだ。

 

 

「そうだ、その表情を(ウチ)は見たかったんだよ!」

 

斬り合いの中で来玖留は声を荒らげる。

楯無は彼女を睨みつつも、その狙いを口に出した。

 

 

「虚と本音ちゃんが危ない─────!」

 

 

 

 

 

時間は少し遡る。

避難誘導を終え、劇の参加者や観客を別アリーナへと移した布仏虚と布仏本音は校舎の中を急ぎ足で歩いていた。

廊下の人混みを掻い潜りながら、二人は保健室を目指す。

 

───ある空き教室で発見された黛薫子。

彼女は気絶させられていた──虚の脳裏にある人物像が浮かぶ。

根拠はなく、杞憂かも知れない中で虚は薫子に会うことを選んだ。

既に薫子が目を覚ましたとの報せは聞いている。

 

一刻も話を詳しく聞く為に、2人は足を速めた。

避難先の別アリーナの方は、更識の協力者である教師が管理している場所なので問題は無い。

 

 

楯無に薫子の事を伝えようにも、何故か連絡が繋がらなかった。

一時的な電波障害が起きているらしい。

先の報せを聞いた直後からずっとこうだ。

 

──敵の仕業と考えるのが妥当だろう。

 

 

「人が多いわね…。本音!」

 

「うん、こっちからなら早いよ!」

 

虚は本音を連れて渡り廊下へと向かう。

保健室のある校舎は現在いる校舎とは別の校舎だ。

人で溢れている最短ルートより、学園祭では立ち入り禁止としている中庭側の校舎を迂回した方が早いとの判断である。

 

「急ぎましょう。お嬢様がいるとはいえ、もしかすると想像よりもずっと不味い状況かもしれない──」

 

もし──虚の想像した人物が関与しているのなら、亡国機業(ファントム・タスク)の襲撃は脅威の度合いが桁外れなものになる。

 

同じような元・対暗部の家系にして学園の元生徒。

学園の情報は勿論のこと、更識の情報網まである程度調べている事だろう。

最も警戒する点は彼女にはもう、失うものがないということ。

リスク度外視の破滅的な行動も辞さないという確信があった。

今どこかに属しているとしても、彼女はそれを手段の1つとしか捉えていない。

ある程度リスクやリターンで行動する組織的な動きよりも、ずっと厄介だ。

 

 

「ねぇ、お姉ちゃん。いまみー達は、大丈夫だよね?」

 

ぽつりと言葉を漏らす本音。

彼女自身は、虚と違いあの少女(・・・・)について詳しく知らない。

更識家でも極々限られた者しか知りえない事だからだ。

 

「きっと大丈夫よ」

 

虚は落ち着いた様子でそう返す。

そこには楯無への圧倒的信頼が表れていた。

ただ、油断ならない状況には違いない。

虚は背後を走る本音に向かって口を開く。

 

 

「本音。保健室に着いたら貴方はそこで待機。連絡が取れるようになるまではそこを動かないこと。連絡が取れるようになり次第、本家にいる内海に私がこれから言う事と状況を伝えなさい」

 

虚の指示を聞いた本音は不安げな表情になった。

内容は的確ではあるが、それは本音を安全な場所に置いておく為でもある。

本音も非戦闘員の自身が出る幕が無いのは分かっている。

だが、同じ立場の姉は何かしようとしている。

出来ることがあるのなら、と本音は虚へと訴えかける。

 

「で、でも、私も何か────」

 

「連絡手段が断たれている以上、行き違うリスクは減らしたいの。言うことを聞いて本音」

 

「……っ」

 

ピシャリと否定され本音は言葉に詰まる。

いつになく真剣で重い声色。

また何も出来ないのかと本音は唇を噛む。

 

「分かった…」

 

して、二人の間に沈黙が訪れる。

悟られないようにホッと胸を撫で下ろす虚。

ごねられると考えていたが、聞き分けが良くて安心したという姉心である。

 

 

ともあれ、急がなければならない。

息を切らしつつ走る2人は階段に差し掛かる。

これを降り、渡り廊下を抜ければ別校舎。

 

目的地もあと僅か。

───という時であった。

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

トン、と押され虚の視界が傾く。

踏み外した──訳では無く、明らかに背後から押されたもの。

視界の端に映る見慣れない女生徒。そして、突き出したままの手。

 

 

「お姉ちゃん……っ!!?」

 

 

スローモーションに映る景色。

 

妹の悲鳴に似た叫びを聞きながら────虚の視界は────勢いを取り戻し────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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