IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

65 / 97
ハロウィンの話半分位書いたんですけど、もう時期が過ぎてしまった…。
どこかいい感じのとこで番外として挟みたいんですが難しいですね。


-63-

 

 

「お姉ちゃん──!」

 

少女の悲痛な叫びが人気の無い廊下に響き渡った。

本音は突き落とした少女には目もくれず、階段を降りて横たわる姉の傍へ。

 

「ぁ…っ」

 

屈んで姉の体を起こそうとして、本音は気付く。

どろりとした何かが手に付着している。

言うまでもなくそれは赤い。

 

「っ」

 

ぐったりとして意識を失った姉の姿。

泣きそうになるのを堪え、脈や怪我の具合を急いで確認する。

早く応急処置を───。

 

 

「はは、アハハハ八!いい気味ね!お、男を追い出さないからこういう事になるのよ!」

 

上擦った笑い声が聞こえた。

振り返ると、そこに居たのは見慣れない短髪の女生徒。

リボンからして2年生。

手を震わせながらも口もとにぎこちない笑みを浮かべ、踊場にいる本音と虚を見下ろしていた。

 

 

「どう、して、こんなひどい……」

 

頭では状況を飲み込みつつも、本音はそう口にせざるを得なかった。

短髪の少女の背後から、更に2人程が現れる。

それはこの絶望的な現状を理解するには、あまりにも十分過ぎた。

長い茶髪の少女が半歩前に出る。鋭い目付きで本音を見ていた。

 

 

「どうしてですって?当然でしょう。他の人達が訴えていた男性排除を無視してきたからです。汚らしいケダモノなどこの学園には相応しくありません」

 

語るまでもなく彼女達は女性主義者(ミサンドリー)だ。

更識楯無にマークされていなかったのは、今までずっと活動もせず息を潜めていたからだろう。

組織と違い、実際に行動していなければ特定のしようが無い。

女性権利団体とは違って組織ではなく──要は個人の思想であるからだ。

だからこそ、このように計画的に潜伏(・・・・・・)なんて有り得ない。

 

タイミングからしても、亡国機業(ファントム・タスク)が関与しているのは明らかだった。

 

そして、本音達を狙うのは、あらかじめ布仏家について知っていないと辻褄が合わない。

 

 

誰が唆したか──狙うよう仕向けたか──は本音には分からない。

 

 

「そうよそうよ。追い出すべきなのにあまつさえ味方してるなんて、信じられない!」

 

「だから思い知らせてやったの!そこの生徒会長の腰巾着女にね!」

 

愉しげに笑う3人。

本音は目に涙を溜めながらも、3人を睨み付けた。

いつになく怒気を含んだ言葉を叫ぶように告げた。

 

 

「違う…違うもん……!いまみーもおりむーも!この学園の立派な生徒なの!!お姉ちゃんも!腰巾着なんかじゃない……!!」

 

叫ぶ本音を前に3人は不愉快そうに眉間に皺を作る。

1人は苛立ちを隠さず剥き出しに、落ち着いた1人は冷たい瞳で本音を睨みつける。

 

「立派な生徒?あんなのが?神聖なISを汚しておいて……聞いているだけで寒気がする」

 

「全くもってその通りです。ISは我々女性のもの。極僅かな例外により野蛮で下賎な猿が…自分達も──と騒ぎ出すのは本当に醜い。──アレら(・・・)なんて、殺処分でもしてしまえばいい」

 

「っ!」

 

溜め込んでいた底無しの負の感情。偏見、嘲笑、差別、そして見え隠れする選民思想。

言葉も何も届くはずがない。

完全にタガが外れた少女達を前に、本音は悔しさで胸がいっぱいになっていた。

 

姉の体に手を添える。

動かすのは避けるべきだが、目の前の少女達はあまりにも危険だ。

 

でも、どうやって逃げる?

非力さに打ちひしがれそうになる。

意識を失った姉を背負い、まともに動けるとは思えなかった。

それでも、本音は姉の命がかかった状況で思考を働かせ続ける。

 

 

「でも、生徒会がある限り追い出す事すら叶わない。なら───自分達でこの学園を良くするまでです」

 

コツリと階段を3人は降り始める。

距離はそう離れていない。

彼女らも本音が姉を置いて逃げることはないと確信している為、歩みは緩やかだ。

 

──本音の瞳は強さを取り戻している。

姉を連れた状態で一瞬だけ相手を撒く方法は思いついた──ただ、実行する為には結局今を凌がなければならない。

 

考えを必死に張り巡らせ中、本音は少女達よりも上──廊下から現れた人物に気がついた。

赤い髪、額にバンダナを巻いた少年は困惑した様子ながらも表情を険しくしていた。

 

 

「な、何してるんだよ!あんたら───!」

 

 

 

 

 

 

 

───居合わせたのは、本当に偶然だった。

 

 

人が溢れる学園祭の廊下。

俺は人目なんて気にせず、肩をガックリと落として歩いていた。

 

見付からない。

さっき通ったと思ったんだけどな、なんて頭をかく。

 

事の始まりは学校の友達と会った蘭と別行動始めた直後だった。

俺がどう時間を潰そうか考えていると──受付で会ったあの人とすれ違った。

受付での爆散を思い出して頭を抱えた瞬間、ひらりと目の前に何かが落ちる。

理解するまで数秒。

それがハンカチだと理解した時は、本気で悩んだ。

 

直接届けたい所であるが、受付での爆散もある。

まっっったく下心がないかと言われれば、断言出来る自信はないが、完全に善意からの行動だとは言いきれる。

 

ただ────傍から見た時、完全にストーカーの行動と捉えられかねない。

嫌われるのもかなり精神に来るが、瑣末事。

万が一ストーカー疑惑なんて付こうものなら、一夏や流星のやつにまで迷惑を掛けてしまうかもしれない。

 

 

(…やめておこう。落し物として届けるか。えっと案内所は───)

 

直接届けるのは諦める事にした。

受付で貰ったパンフレットを後ろポケットから取り出そうとする。

 

「人が多いわね…。本音!」

「うん、こっちからなら早いよ!」

 

そのタイミングで少し先の角を走り抜けていく二人が見えた。

声からして急いでいる。

何かあったのか?

 

立ち入り禁止の校舎側。

そこへ続く渡り廊下に2人は駆け込んで行った。

 

立ち入り禁止だけど、生徒会の人ならいいのか?

何にせよ、俺には関係がない話だ。

最後に姿を見れて良かった、なんて自分に言い聞かせながらその場を去ろうとする。

 

 

(ん──?)

 

更に2人の女生徒が勢いよく同じ場所へ足を踏み入れていく。

それだけなら同じような関係者だって思えた。

 

───けどなんつーか、空気が違った。

急いでいる2人とは違って、嫌な感じ。

周りを窺いながらコソコソとしている。

 

廊下の窓越しに走っていくさっきの2人を見て、追っているかのような印象だ。

何かイベントでもしてるのか?でも、最初の2人の様子───。

 

心配性なのか、冴えていたのか。

ちょっと不安になった俺─五反田弾もまた、その校舎に足を踏み入れるのだった。

 

 

 

そこから1分も経たずして。

女の子の悲痛な叫び声と、鈍い音。

何かが転げ落ちるような気分の良くならない音を聞いた。

 

 

 

 

──嘘、だろ。

聞こえて来る会話と反論しようとする女の子。

追ってた?側の女子達はいつの間にか3()人になっていた。

 

 

気の所為だよな?

ここからは見えないけど、階段の踊場から聞こえる声は一つだけだ。

鈍い音、悲鳴、人数、階段の上と下の位置、会話の内容。

もしかして、1人が待ち伏せして突き落としたのか───?

 

イヤな予感が止まらない。

今俺がピンチな訳じゃないのに、冷や汗が止まらなかった。

小心者かよ。

 

そうしている内に女生徒達が、足を進め出す。

ダメだ。

これじゃあまるで、あの二人をどうにかしようとしてるみたいだ。

 

不味い不味い不味い、止めないとこのままじゃあ───。

 

とはいえ俺に何が出来る?

 

動こうとしたあたりで冷静な思考が挟まる。

…多分、凶器位持ってるよな。

くそ、どこまで一般人なんだ!目の前で人が死ぬかもしれないんだぞ!!

自分に喝を入れて足に力を入れた。

心臓がバクバク鳴っているが、知ったこっちゃない。

 

思い切って廊下から階段へ踏み込んだ。

 

 

「な、何してるんだよ!あんたら───!」

 

「「「!!?」」」

「──!」

 

一斉に視線が俺に集まる。

3人の女生徒は顔が強ばった様子、奥で倒れている女子の傍の子は俺を見て目を丸めていた。

そのまま逃げて欲しいけど、あの子の体格だと人を1人抱えて階段は厳しい。

俺が手伝わないと不味そうだ。

 

「…どこまでも鬱陶しい……」

 

突き刺さるような視線が向けられる。

まさか一般人がここに来るなんて思ってなかったんだろうな。

何にしても考える時間を与えるのは駄目だ。

 

「──ッ!邪魔しないでよ!!」

 

──なんて考えていたら、襲いかかってこられた。

1人が此方へ掴みかかってくる。

喧嘩なんて得意じゃないぞ。

 

「!」

 

両手を掴んで無理矢理横へ突き飛ばす。

廊下の床に転ける1人。

相手なんてしてられるか!

勢いに任せ、他の2人を押しのけて踊場へと駆け下りた。

 

「っ……」

 

降りたあたりで倒れている女子の容態を目の当たりにする。

怯んでる場合かよ。

一瞬頭が真っ白になったのを振り切り、横抱きで抱える。

それを見た隣の子は、迷わず先導した。

 

「こっち!!階段から出て!すぐ!!」

 

火事場の馬鹿力か、重いとか考える余裕はなかった。

起き上がろうとしている女生徒に目もくれず、俺は階段をかけ下りる。

 

──隣にいた女の子は先に階段を掛け下り、壁のパネルを弄り出していた。

よく分からない操作。俺は無我夢中でその子の方へ。

 

「逃がすな──!」

 

起き上がった女生徒達が慌てて階段をかけ下りる。

やばい。

廊下に出たけど、このままじゃすぐ追いつかれる。

 

 

「間に合った───!」

 

と思った瞬間───廊下と階段の間に勢いよくシャッターが降りてきた。

それは丁度俺達と女生徒達を分断する形になる。

 

「ありがとう……おりむーの友達の確か……」

 

「あ、ああ?五反田弾だ」

 

防災シャッターかと思ったけど、こんな勢いで降りるものだったか?

唖然として立ち尽くしかけていた俺に、パネルを弄り終わった子が駆け寄ってくる。

彼女が操作したとみて間違いない。

すげぇな。

こんな状況で咄嗟にできるもんなのか。

 

「!」

 

でも、状況は非常に不味い。

向こう側で階段を更に降りていく音が聞こえた。

 

回り込まれる前に動くしかなさそうだった。

すぐに抱えていた女子を背負い直す。

走るにはこっちの方が都合がいい。

 

「こっち!」

「分かった!」

 

案内され、息を切らしながら廊下を走る。

 

…不意に、女生徒らを突き飛ばした瞬間がフラッシュバックする。

彼女らの取り出そうとしていたもの──アレは確かに果物ナイフだった。

 

シャッター越しに聞こえた足音。

興奮気味の苛立った声。

 

 

もし、次追い付かれたら────。

背筋が凍り付きそうになる。

表情に出そうになるのを何とか抑えた。

 

早く安全な場所に行かないと。

でも俺の体力的にもそう長く背負って走れない。

せめて人気のある場所に出られれば助けが呼べるんだけど、距離がある。

いい考えも思いつかなかった。

 

 

…一夏、流星、お前らならこんな時どうするんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──楯無の言葉は、二人の男子にも届いていた。

布仏姉妹の危機。

更識という背景を知らない一夏でも、それが以下に不味い状況かは想像できた。

青い髪の少女の邪悪な笑みが危険度を物語る。

強奪や人質なんて生易しいものではない。

アレは二人を殺そうとしている──。

 

 

「脇がガラ空きだぜ、クソガキ」

「か───っ」

 

装甲脚に鳩尾を殴られ、彼は横へ吹っ飛ぶ。

受け身だけは取り、追撃の銃弾を躱す。

相手(オータム)は実戦慣れした格上だ。

少しでも気を抜けばやられる───一夏は焦りを感じつつも、二人の安否が気がかりで仕方無かった。

 

(くそっ!連絡もつかない!)

 

他の代表候補生達に連絡を取ろうと試みるも、繋がらない。

ISのコア・ネットワークによる通信すらままならない事実に困惑を隠せなかった。

 

 

現在は3対3の状況。

井神来玖留という存在がいる以上、楯無は自由に動けない。

範囲武装であるあの電撃からの被害を最小に抑える都合、楯無が彼女を相手取るしかないからだ。

 

そして、八本脚のISと消えるIS。

 

前者は荒々しい立ち回りをこなしつつ、繊細な操縦技術を駆使して一夏を殺しに来ている。

目的である『白式』を奪う為だ。

実戦や殺し合いに不慣れな一夏には、明らかに荷が重い。

彼女の頭に血が上れば機会(チャンス)はあるかもしれないが──先の楯無との戦闘でそれを堪えていた───まず運良く(ラッキー)はない。

 

 

後者は殺しに重きをおいた高機動型IS。

俊敏な動きとトリッキーな能力、そして少女(リタ)自体の高い近接戦闘技術───派手さに欠けるが、混戦の場において一番厄介な存在だ。

 

 

「────」

 

攻撃を凌ぎつつ、少年は改めて戦況を把握し終えた。

誰が一番向かうべきか、分かっている。

少年が行動を起こそうとしたところで───来玖留は掌を彼に向けた。

 

「させるかよ──!」

「こっちの台詞───!」

「チィッ!」

「!へぇ、やるわね。たてなし───」

 

「行って!流星くん─────!!」

 

すんでのところで楯無の一刀が来玖留に入る。

楯無の方も流星が向かうのが最適解だと判断していた。

リタへの牽制も入れつつ、彼女は流星へ道を作る。

───銀雷は放たれることなく、来玖留は不満げに体勢を立て直した。

 

「オータム!」

「命令すんじゃねぇよ!──が、お前にはまだまだ聞きたい事があんだよ二人目!」

 

一気に距離を詰め、流星にオータムは切りかかる。

彼女の立ち位置上、出口に近かった為すぐに追いつく形となった。

獲物はカタール。それを布石に八本の装甲脚が一斉に遅いかかる。

 

 

「お前の相手は──俺だろッ!!」

 

それを雪羅のシールドと雪片弐型で一夏は受け止めた。

金属音が反響する中、彼はスラスターの出力を上げて、何とか踏みとどまる。

 

「すっこんでろ!ガキ!」

「断る!大体、邪魔してるのはそっちだろ!」

 

実力差を理解しつつも、強がるように反論する一夏。

状況が分からずとも、どうするべきかは直感的に理解していたからこそ割って入れたのだった。

 

「行ってくれ流星!のほほんさん達が危ないんだろ!?」

 

無謀な行動。

今の(・・)一夏では万に1つも勝てない事を流星もまた理解していた。

 

しかし彼は振り返る事無く去って行く。

アリーナの廊下──その頭上を壊し、外へと消えていった。

 

 

オータムと来玖留はそれを見ながら呆れた様にため息をついた。

目配せすると満面の笑みのリタが、スキップしながら出口へ向かう。

 

 

「ふふ、やっとよ。やっとふたりになれるわね。りゅうせい────」

 

 

「ッ!」

 

楯無が再度止めようとするも、今度は逆に来玖留に妨害された。

手の甲に切り傷ができる。

彼女は苦痛に顔を歪めつつも、攻撃の手を緩めない。

 

──理解している(わかっている)

来玖留やオータムを止められても───敵機の特性上、リタ・イグレシアスは混戦下での足止めは不可能だ。

 

また、リタ自身も楯無相手は不利。

居場所もバレ、一夏へ強襲しようものなら楯無の自爆覚悟の手が来る事も理解している。

故にこの空間に残る意味は無かった。

 

彼女の姿が消える。

補足しようと楯無が動くも、来玖留の攻撃でそれは叶わない。

生徒や学園への被害──それらを考えれば、楯無の今戦うべき相手は目前の来玖留に違いない。

 

布仏姉妹の身を案じつつ、楯無は迷いない表情で蒼流旋を手に取った。

来玖留との戦闘は続く。

 

 

(頼んだわよ。流星くん)

 

───そして、と。

 

来玖留を敢えて一夏から遠ざけるように立ち回りながら、楯無は不敵な笑みを浮かべた。

 

(これを乗り越えなきゃ、彼には追い付けないわよ。一夏くん───!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。