IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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第4アリーナ更衣室を出た流星は、校舎側への連絡通路を駆けながら戦闘を続けていた。

背後からきた紫の閃光が周囲を破壊していく。

出鱈目な狙いで二基の有線式ビット兵器───薄い板のような形状の先端から閃光が放たれる。

 

「!」

 

 

窓が割れ、壁が砕ける。

高熱源のエネルギー故に、小規模な爆発も着弾の度に起こった。

小さな瓦礫や粉塵が舞い上がり、視界は悪くなる。

 

その中を通過する銃弾の雨。

アサルトライフルによる掃射に対し、追想者は丸い盾──バックラーと称されるものを展開する。

一般的な盾とは異なり、小さな身体すら隠しきれないそれを少女は前面に押し出すようにして姿勢を低くした。

スラスターが三度輝きを変化させる。

 

加速する追想者は回避と防御を最小で行い、少年へと迫る。

 

「あははははっ!どこにいくの?わたしとあそんで?もっともっと、もっと!!」

 

「…!」

 

リタの姿が消え、少年はアサルトライフルを横薙ぎに撃つ。

銃弾の軌道と建物の損壊具合を視界の端で捉えつつ、流星は速度を上げた。

 

同時に襲い来るリタ。

小太刀へと持ち替えていた流星は白刃を受け流し、左手に盾を展開。

死角から迫り来る紫の閃光も防いでいた。

返す刀で首を狙う流星だが、リタはそれをバックラーで弾く。

 

「まえよりもずっとするどい。ISにもなれたのね、りゅうせい」

「しつこい奴だ」

「とうぜんよ?せっかくのふたりきりのチャンスなんだもの。愛しあいましょう」

 

振るわれた白刃。

それを流星は距離を取って躱した──リタはすぐに距離を詰めて斬りかかってくる。

 

(あれは…)

 

流星の視線がリタの機体のスラスターへと向けられる。

異様な可動域のスラスターが少女のISには付いていた。

PICを駆使して自在に動く事が可能なISには、本来不要な筈の技術。

だが、そこに組み合わせることで変則的な動きを可能としているのだろう。

 

 

彼の顔の横を白刃が通過した。

余波で彼の頬に切り傷がつく。

 

(刃の上を高速で小さな刃が動いてる───チェーンソーと同じか。道理で威力が高い訳だ)

 

小太刀で応戦しながら、流星は離脱のタイミングを図る。

前のめり気味に斬りかかってくる少女。

バックラーの打撃と白刃による斬撃は彼を追い詰めていく。

 

 

──恐ろしく勘が鋭い。

流星が射撃へ移ろうとすれば、姿を消して加速し斬りかかってくる。

 

小太刀で凌ぎきれていない。

リタの猛攻を受ける度、彼の体には切り傷が増えていく。

『打鉄─椛』の装甲にも無数の傷。

 

 

サブマシンガンも無ければ、取り回しのいいあの特殊兵装もない為、近距離における射撃武器は更に厳しい。

 

展開から射撃までの工程をワンアクションにでも纏めなければ、密接で当てることはままならないだろう。

時間もかけてはいられない。

 

「お前に用はない。退け」

「イヤよ。だってほかのおんなのところにいくのでしょう?あははは!させない────!!」

 

ならば、と流星は武装を呼び出す(コール)

対象は追加武装(パッケージ)───超長距離射撃装備『撃鉄』。

少女の一太刀が赤い線を作る──問題ない。

 

──展開をワンテンポ遅らせ、銃身位置を特定の座標に。

 

「えっ───」

 

素っ頓狂な少女の声が聞こえた。

大きな質量を腹部に叩き付けられる感覚。

巨大な銃身───銃口で殴られていたのだとリタは気が付く。

カウンター気味の展開。

引き金は既に引かれていた(・・・・・・・・)

 

「ッ!!」

 

 

轟音と共に連絡路が崩落する。

足掻きの有線ビットによる攻撃と『撃鉄』の零距離射撃。

その双方の余波や、吹き飛ばされた互いの機体が壁や床全てを壊したからだ。

外に投げ出された2人は空中で体勢を整える。

 

 

「けほっ…、かはっ…!──ふふ、いまのはおどろいたかも」

 

口もとの血を拭い、リタは笑みを浮かべる。

緋色の瞳は妖しげな光を放つかのよう───正面にいる少年を捉えていた。

少女の纏う灰のISは1部装甲が砕け、そこから血が滴っている。

 

「っ」

 

一方で流星は切られていた肩の傷に手をやった。

そこまで深くはないが、血が止まらない。

全身の傷、シールドエネルギーと確実に消耗させられている。

 

今の攻撃で決め手にならない事実に彼は眉を顰める。

『時雨』と同調しているならともかく、現在は相手の位置の特定すら困難。

引き離すのはまず不可能だ。

 

 

「────」

 

リタの後方で動く有線ビットの銃口は流星に向いている。

初動を挫くべく、流星はアサルトライフル『焔備』を構え警戒する。

 

 

「!」

 

その時だった。

突然リタは身を翻して離脱──直後に背後の地面が陥没した。

砂埃が舞い、リタの姿が隠れる。

 

かわりに現れるは見慣れたIS『甲龍(シェンロン)』。

黒とマゼンタに近い赤のコントラスト───ツインテールを揺らしつつ、少女は流星の正面に降り立った。

 

「鈴!」

「非常事態ってことでいいのよね。状況は?」

 

双天牙月を構えた鈴はリタの方を警戒しつつ、流星に問う。

彼は接触回線で敵機の武装データと位置を送りつつ口を開いた。

 

「敵機は三機。その内二機は第4アリーナで戦闘中。狙いは『白式』と──布仏姉妹だ」

「はぁ!?なんで本音とお姉さんが狙われるのよ!──それで、二人の場所は?」

「特定出来てないな。手遅れでなければいいが───」

 

 

砂埃の中から、有線ビットによる攻撃が放たれる。

それを躱しつつ、流星はアサルトライフルをリタに向かって放った。

 

鈴はその数瞬の内にリタの武装データを流し見──予想されるスペックや相手の技量を頭に入れる。

 

晴れる粉塵。

灰の機体に身をまとった少女と鈴は互いを見て、目を丸めた。

 

 

「!──ひさしぶりね、会いたかったわ──りん」

「な──あんたは───っ!」

 

───あの時、道を教えた少女。

見間違う筈がなかった。

人形のように整った顔に緋色の瞳───小柄な身体、長い黒髪。

何故このような少女がここに居るのか。

 

今考えることでは無いと鈴はすぐに振り切った。

 

流星は鈴に理由を尋ねることはしない。

この場においては不要な情報と切り捨て、彼はアサルトライフル『焔備』を二丁展開した。

 

 

「時間が無い。鈴、やるぞ」

「え、ええ!」

 

先導する流星に着いていくように鈴も動く。

リタ・イグレシアス相手には半端な足止めは不可能だ。

片方が残って足止めしようとしても、少女の俊敏さと能力でそれは叶わない。

 

──流星がアサルトライフルの引き金を引いた。

銃口が火花を散らす。

リタは弧を描くような軌道でそれを回避しつつ、有線ビットで閃光を放つ。

 

 

それを2人は上下に別れるように避けた。

そこに加速が加わり、一気に2人の距離が開く。

福音事件以降、連携訓練はこなしている。

 

下へ回り込む流星とは対象的に、鈴は円周軌道から瞬時加速(イグニッション・ブースト)による直線軌道へ──一気にリタへと切りかかる。

 

「!」

 

迎撃しようとリタが動くと同時──アサルトライフルの引き金が再び引かれた。

想定内──とリタは鈴の方へ加速する。

多対一に慣れている訳ではなく、純粋な勘。

相手の数的優位を潰す為の位置取り、得意な近接で鈴を潰す。

 

言うは易し行うは難し。

少女のISのスラスターは独特な可動域から、変則的な挙動が繰り出された。

 

「!!」

 

急停止──からの旋回で双天牙月を切り離し、二刀へと鈴は持ち変える。

変則軌道で縦回転に斬撃を乗せてくるリタの攻撃を、そのまま受け流した。

 

(こいつ──、なんて反応速度よっ!)

 

続く斬撃を鈴は無我夢中で受け流す。

リタの縦回転に対し、鈴は旋回を利用した横回転で対応していた。

格闘戦に絡められるバックラーや、蹴りによる打撃は後退を織り込むことで何とか躱す。

 

「っ」

 

──カクンとリタの動きが一瞬止まる。

鈴の攻撃の隙間を縫うように、3発の銃弾が間髪入れずに肩と腕───そして頭へと撃ち込まれていた為だ。

ISの守りを突破する威力は無いが、リタの姿勢を崩す事は出来ている。

 

(なるほど。りんもりゅうせいのうごきにあわせてたのね───)

 

追撃に走る鈴の攻撃にリタはスラスターの出力を上げる。

刹那の判断において、彼女のずば抜けた勘は最適解を導き出していた。

 

逆転する少女の視界。

獲物を振るう鈴の手の甲を彼女は蹴りつける。

結果機体が僅かに逸れた。

流星からの銃撃も白刃で切り落とす。

立て直しまで1秒も掛からなかった。

 

──鈴への認識も改めたリタは有線ビットを鈴へと向けた。

 

「やるわね、りん。ならこれはどうかしら」

 

彼女は単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)を使う。

空中に溶けるようにリタの姿が消えていく。

 

(あれが消える能力──!)

 

「チッ──」

 

流星は止めようと撃つが、彼女はそこに変則軌道を織り交ぜる為捉えきれない。

彼の狙撃精度をもってしても、機体の表面を掠めていくか防がれるかだ。

リタの姿が完全に消える。

彼女がどちらを狙うか──それは攻撃の手前まで分からない。

 

 

 

「っ」

 

不意に虚空から光が放たれた。

紫の閃光──有線ビットによる攻撃が鈴を襲う。

想定外の角度からの攻撃に鈴は躱し切れず被弾───体勢を崩す。

 

 

流星は小太刀と近接ブレードを展開した。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)により、鈴の後方へと割り込む。

 

──同時に白刃が振り下ろされる。

 

「っ───っ!」

「流星っ!?」

 

『打鉄─椛』の腕装甲に傷が入った。

血が溢れる中、彼は背後から来る一刀を受け流す。

直ぐにその場に現れるリタ。

妖艶な笑み──流星の血を一滴指から舐めとる。

 

──やはりか、と流星は凌ぎながら考える。

少女の消える能力──その発動時間は移動距離に依存する。

IS内での限界かはわからないが、少女が消えてから詰められる距離は精々50m程。

 

 

「こんの──!」

 

龍咆による射撃をリタはあっさり躱し、離脱する。

そこで能力は使用されず、空中でボールが跳ねるかの挙動で距離をとる。

 

「りんのいけず。べつにいいでしょう?りんのものでもないんだし」

「何を…」

 

鈴が少女を警戒する中、流星は鈴と合流した。

腕から血は止まらないがエムとの戦いほどでは無い。

彼は鈴に接触回線で今判明した情報のメッセージを送る。

あくまでブラフの可能性もあると付け加えていた。

 

 

流星はアサルトライフルに持ち変え、戦闘を続行した。

距離の縛りがあると分かれば戦法も変わる。

要は一定距離まで寄らせなければ、不意打ちをされる可能性はぐんと減る。

 

とはいえ、それでは状況は好転しない。

完全にリタを倒す──となれば、相応の時間がかかる。

今は一刻を争う。そのような余裕は無かった。

 

(見えないって事が、こんなにも厄介だなんてね)

 

繰り広げられる射撃戦。

鈴も攻撃をしながら脳裏で突破口を探る。

 

一度見て分かったが、音による探知も殆どアテにならない。

レーダーはどういう仕組みか機能もしない。

完全な不可視──龍咆と同じで目に見えない─────。

 

 

(あれ…?)

 

気付きは突然に、閃きは必然として舞い降りた。

カチリと鈴の脳裏でピースが嵌る。

 

「鈴?」

 

彼女の不自然な様子に疑問を持った流星が、射撃戦を展開しながら問い掛ける。

その問い掛けに対し、彼女は普段の少年と同じように不敵な笑みを浮かべ、口を開いた。

 

 

 

 

第4アリーナ更衣室──その壁が轟音と共に突き破られた。

 

「っ─は…っ!」

 

舞う粉塵の中から、『白式』が放り出される。

床に二度背中を打ち付けて、隣の準備室──さらに先にあるシャワールームの壁もぶち破っていく。

 

再度廊下に叩き出された一夏は何とか身体を起こした。

 

 

「っ、」

 

追撃の射撃に対し、雪羅のシールドを展開する。

背後の壁が銃弾を受け亀裂が入った。

次の手を一夏が考えるより早く───オータムはカタールを片手に瞬時加速(イグニッション・ブースト)、近距離へと迫る。

 

 

(この距離は───くそっ!)

 

装甲脚とカタール、そして糸。

唐突に突きつけられる三択に一夏は雪片弐型で斬り掛かる事を選ぶ。

 

「───」

「!」

 

振るわれた雪片は相手の攻撃を度外視し、懐に滑り込ませるような軌道。

タイミングは絶妙。代表候補生レベルなら勝ちを確信するものだ。

 

ただ、オータムは口もとを吊り上げて笑った。

油断している彼女ならいざ知らず、今はそんなものはない格上。

 

彼女が取ったのはその三択にはないゼロ距離射撃。

8つの銃口が一夏へと向けられていた。

手にしたカタールの斬撃も本命では無いことに、遅れて一夏は気が付く。

 

「遅いぜ、ガキ」

「───がっ……!」

 

オータムの声が聞こえた時には、銃口は火花を散らしていた。

前方が光る中一夏に一斉射撃が叩き込まれる。

咄嗟に彼が出来たのは身体を丸め、雪羅のシールドを展開するのみ。

 

当然ながら弾は防ぎ切れなかった。

大半をその身に受け、彼の身体は吹き飛ぶ。

 

後方の壁に背中から叩き付けられ、首を大きく揺らした。

壁は大きく陥没し、今にも瓦礫が彼に覆いかぶさらんとしている。

絶対防御が作用し彼は銃弾に撃ち抜かれることは無かった。

ただし、絶対防御の発動は多大なエネルギーを持っていく。

加えて防ぎ切れなかった衝撃により、彼の身体にダメージは入っていた。

 

 

「かっ────」

 

肺から吐き出される空気。

暗転しかける視界、強く意識を保とうと手網を握る。

全てがスローモーションになったかのようにすら感じる中、どろりと頭から液体が流れ落ちる。

 

呼吸が出来ていない事に遅れて気が付いた。

ISによる補助もあってか、咳き込んだことで呼吸する機能を取り戻す。

 

 

───重い。

身体が鉛にでもなったかのようだ。

 

流星が離脱して数分といったところ。

目の前のオータムと一対一となってから、彼は持てるもの全てを駆使して戦闘に臨んだ。

 

しかし、夏休みや二学期と積み重ねた鍛錬も尽くオータムには通用しなかった。

基本的な技術や場数は勿論、近接における手数もオータムに軍杯が上がる。

 

また、狭いこの場所での空間把握も彼は完全に出来ていない。

確認する余裕も奪われ、追い詰められている。

 

意識が朦朧とする中辛うじて分かるのは、現在のオータムとの距離だけ。

 

 

「……」

 

 

オータムは先程の場所から動こうとはしなかった。

織斑一夏はもう限界である。

わざわざ近付くリスクを負う必要はないと判断し、装甲脚の先についた銃口を向け直す。

手で糸を準備し、今度こそトドメを刺す段取りを用意していた。

 

 

 

肩で息をし、ぐったりとした一夏。

向けられる銃口と殺意よりも、湧き上がる無力感に心が折れそうだった。

 

弱音を吐いている場合でないと自身を奮い立たせようとする。

 

だが──と冷静な思考───どうやってアレを倒す────?

 

 

 

エネルギー残量は僅か。

スラスターは半損、いつもの速度はもう出せない。

こちらの間合いに入ってもあの装甲脚による手数は突破出来ない──。

 

初めて叩き付けられる殺意。

そして迫る死の実感が彼の思考を改めて鈍らせた。

 

福音の時の暴走とも、無人機の襲撃とも違う悪意の渦巻く世界。

その片鱗に触れ、らしくもない考えが彼の頭に浮かんでくる。

 

───流星が助けに行ったんだ、俺は足止めを────。

勝てなくても、やられてもそれに徹していれば彼が布仏姉妹を守って─────。

 

『だから、お前がやれ。オレはいいから他を護れ』

 

────いつかの発言が、脳裏を過ぎった。

…自分は何をそんな甘えた事を考えていたのか。

急速に明瞭化する視界。

歯を食いしばり、全身に力を入れんとする。

 

皆を守る───これは織斑一夏が、織斑一夏(・・・・)足る為に決めた絶対的指針だ。

 

現実を知らない人間の戯言。

そう嘲笑うこともせず、少年(・・)はその考えを肯定した。

最強たる彼の姉も、国家代表たる楯無もだ。

 

 

 

「!」

 

ガラリ──、と瓦礫が崩れる音が沈黙を破った。

時間にして数秒も満たない独白が終わる。

 

瓦礫に手をかけ、一夏は立ち上がる。

彼の双眸は先までと違う何かが宿っていた。

 

 

 

「ハッ、しぶといな──寝てろ!」

 

「…!」

 

オータムはエネルギー・ワイヤーで形成された糸を投げ付け、それを囮に一斉射撃を行った。

 

一夏は雪羅の荷電粒子砲で糸を撃ち抜き、一斉射撃は横に跳んで躱す。

 

 

彼の迷いのない行動にオータムは眉をひそめた。

違和感を覚えつつ、射撃をして追い回す。

『白式』のスラスターは破損しており、速度に任せた不意打ちは出来ない。

彼の身体ではそう長く避けきれないと踏んでいた。

 

 

───オータムの考えは真実であった。

攻撃を躱してこそいるが、一夏は徐々に追い詰められている。

銃口が火を噴く度に周囲の壁や床も撃ち抜かれ(つぶて)が舞う。

 

改めて彼は状況を整理した。

恐怖は彼方へ。感情さえも忘れ今は目前に集中する。

 

──『零落白夜』。

エネルギーを無効化し、相手への直接攻撃を可能とする単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)

絶対防御によるシールドエネルギーの消費を考えれば、一撃必殺の名に恥じない彼の切り札だ。

 

 

それが当てられない。

理由は簡単だ。

相手の近距離での手数が多いに尽きる。

 

あの八本の装甲脚。

そして手にしているカタール。

それらに阻まれ、攻撃は届かない。

 

 

(──────、)

 

攻撃を避け、追い詰められていく度に思考がクリアになっていく。

 

近距離の手数で負けている。

───それ自体は別に珍しいことでは無い(・・・・・・・・・)

箒や鈴、場合によってはシャルロットや流星にも近距離の手数は負けていた。

 

数の違いが問題か。

違う、動きが予測出来ないからだ──────。

人体ベースの攻撃に比べ、あの八本の装甲脚は独特な動きをする。

一本に対処しても、次から次へと意識の外から攻撃が来る。

 

故に求められるのは俯瞰すること。

敵全体の動きを捉え、流れを制する。

 

一夏は楯無との訓練を思い出しつつ、雪片を強く握る。

そして唐突に直角に向きを変え───姿勢を低く。

彼は真っ直ぐオータムへと向かっていった。

 

 

「───」

「ちっ」

 

オータムも迎撃に走る。

発生する近接戦闘。

カタールを受け流し、彼が踏み込もうとしたあたりで装甲脚が襲い掛かる。

 

 

(このガキ、何を考えてる?)

 

無我夢中で迎え撃つ一夏。

今まで手も足も出ていなかったのだ。

当然ながら、優勢とはいかない。

避ける皮膚───その下から赤色が浮かび上がり少しずつ彼の動きを鈍らせていく。

 

 

だが、オータムの顔は驚愕に染まりつつあった。

一夏は間合いから離れる事もせず、一心不乱にオータムの攻撃を受け流している。

 

オータムの体捌き、変化から来る次の一手。

そこに一刀一刀を合わせて弾く。

最適化され、次の一手を弾く一夏の速度が上がっていく。

ゼロ距離射撃も銃口をズラされ虚空へ消える。

 

 

オータムの背筋を悪寒が走り抜けた。

数手先で覆る予感すら浮かんでくる。

────こんな、実戦も知らねえガキに───!

 

 

織斑一夏は一般人である。

日常に生き、戦場や殺し合いも知らずにぬくぬくと育ってきた。

そんな奴にとオータムは睨み付ける。

 

更識楯無がその場にいれば、その考えを嗤うだろう。

 

 

兆しは十分にあった。

努力や覚悟もそれなりに足りていた。

必要だったのはキッカケのみ。

 

 

一夏が大きく踏み込んだ。

迎え撃つべくオータムは装甲脚を振るう。

 

 

「────」

 

 

才能は花開く。

 

一刀は遂に装甲脚の一本を切り落とした。

鮮やかな切り口から機械の断面が露出する。

 

 

「な──この─────っ!!」

 

堰を切ったように戦闘は激化する。

 

なりふり構わなくなったオータムは周囲の全てを粉砕すべく、出力限界の威力で攻撃を繰り出す。

一夏のリズムを崩すように糸や射撃、カタールの全てを駆使していた。

 

床や壁が轟音を立てて粉砕されていく。

巻き上がる礫には目もくれず、一夏はオータムに対処する。

 

銃弾が頬を掠めていく。一刀が二本目を切り落とす。

脇腹の隣を装甲脚の一刺しが通過する。一刀が三本目を解体する。

不意打ちの足への攻撃を跳んで躱す。一刀が四本目を貫く。

 

 

「────っ、テメェ!」

 

跳んだ一夏は身を反転させPICを制御し、逆さで天井に着地。

オータムは残った装甲脚を三本纏め、叩きつけるように振るう。

更に身を翻し彼は装甲脚を蹴りつけた。

オータムの背後へと飛び移った一夏は振り返りざまに斬撃を見舞う。

 

「!?」

 

辛うじてオータムが躱したところで──それがビーム・クローのものだと気が付いた。

雪片を過剰に警戒しつつあったオータムへのフェイント。

引っかかったオータムに僅かな隙が生まれる。

 

その隙を今の一夏が見逃す筈が無かった。

居合いを思わせる踏み込みを行い、彼女の懐へと潜り込む。

完全に押されていたオータムはそこでニタリと口もとを歪ませた。

一夏に向けられる4つの銃口。完全なカウンターであった。

 

 

「ハ、ハハッ!やっぱりガキだ──私の───」

 

「いいや、俺の勝ちだ」

 

「は───?」

 

切断される残りの装甲脚。

最小限にして刹那の零落白夜が叩き込まれる。

 

八本の脚をもぎ取られた蜘蛛に為す術はない。

足掻きのカタールも難無く弾かれ、装甲の破片が周囲に散る。

勝敗は火を見るより明らかであった。

 

 

──『王蜘蛛(アラクネ)』はシールドエネルギーを失い完全停止した。

 

 

 

 

 




久々に原作を読み返しましたが、やっぱり楯無さん周りで数巻使ってますね。そして色々書きたい事を再確認しましたが先が長ぇ……。

今回は一夏パート。
学園祭編はここらへんが書きたかった。
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