IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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──衝撃砲『龍咆』。

それは空間に圧力を掛けて見えない砲身を生成し、空気の衝撃を砲弾として扱う第三世代型兵器。

 

見えない砲身と見えない砲弾。

これらが意味するところは、それを制御し、知覚する方法が『甲龍(シェンロン)』にはあるということだ。

 

補足するなら、普通のISでも一応知覚は可能である。

大気圧の変化を読み取り周囲を索敵する──しかしそれでは余りにも遅かった。

 

結論として『甲龍(シェンロン)』ならば、実用的な探知が可能である。

想定された運用からは外れたソレを鈴は思いついたのだった。

 

 

───鈴からソレを聞き、流星も意地の悪い笑みを浮かべた。

 

 

して戦闘は再開される。

交わした言葉は数個のもの。

ただし、連携訓練を重ねていた二人ならばそれで事足りた。

 

 

(なにかたくらんでる…。きょりのせいげんはばれちゃったみたいだけど────まだまだわたしのほうがゆうり)

 

射撃を躱しつつ、リタは2人の様子から策があると考える。

そもそも流星は気の抜けない相手だ。

『打鉄』であろうともそれは変わらない。

 

有線ビットを飛ばし、リタは動き回りつつ射撃戦に興じた。

彼女の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)の都合、一定の距離まで近付く必要がある。

奇襲や回避用に遠距離で使うのも問題ないが、2対1の状況ではあまり賢い選択ではない。

駆け引きには明るくない彼女であったが、そこら辺は本能で理解していた。

 

───こういうカードはきらないほうがけんせいになるの。

 

 

(こいつ……急に牽制が増えた?)

 

戦況としてはやや膠着、先を急ぎたい流星にとっては焦らされる場面だ。

鈴も少しばかり唇を噛んでいる。

先までの能力乱発から突然の沈黙。

まるでこちらの動きを全て見抜いたかのような動きに眉を顰める。

 

 

「────」

 

アサルトライフルの銃口が絶えず火を噴く。

少年は焦ること無く落ち着いたまま。

少女との距離を保ちつつ、紫の閃光を躱す。

鈴と動きを合わせ、空中で回避を行いながらもなるべく固まって動いていた。

 

「!」

 

リタの身体が再度吹き飛ばされる。

 

放たれる不可視の砲弾。

貫通弾として放たれたそれはバックラーでは防ぎきれず、また防ごうとする事自体困難であった。

リタが見えている事と流星による誘導───この2つにより砲弾は的確にリタを捉えているからだ。

 

 

先までの戦闘との分かりやすい相違は主軸が鈴の龍咆へと変わっている点にある。

そして有線ビットの攻撃に対しては流星が盾で受けるように立ち回っていた。

 

(────)

 

能力を使って距離を詰める選択肢はある。

しかし、クールタイムが存在する為連発は不可。

なにか有ると直感している以上、やはり迂闊な能力使用は避けるべき。

 

幸い時間的な余裕がないのは彼らの方。

我慢比べになれば仕掛けざるを得なくなるだろう。

分があるのは自身だとリタは判断し、機体を駆る。

 

 

有線ビットは攻撃を避けつつ閃光を放つ。

 

常に動き回る2つの有線ビットの破壊は難しい。

相当頑丈な作りになっている為である。

あくまで本命はリタ本体、余計な行動は避けるべきだ。

 

 

閃光を盾で受けながら流星は旋回軌道をとる。

維持される距離。

互いに射撃を送る度に装甲が傷付き、肉体へもダメージが蓄積していく。

高い防御性能を誇る『打鉄』であっても、ダメージが無くなる訳では無い。

 

「っ」

「流星!」

「構うな。あいつを撃つことに集中しろ────」

「っ────言われなくても!」

 

戦闘の場は徐々に高度を上げていく。

距離を保つには上空の方が都合がいい。

このまま膠着状態は続くかに思われた─────その時だった。

 

 

 

「!!」

 

リタは目を丸める。

 

 

────膠着状態からの突然の強襲。

少年はリタの真上を取った瞬間に加速し、二刀に持ち変えている。

 

リタが距離に意識を割いた瞬間を狙ったもの──彼女は口角を吊り上げて笑う。

一気に詰まる距離。

小太刀による眉間への突きはすんでのところで空を切る。

 

少女の頬に赤い線が走った。

 

 

「そうくるのね───!」

 

迷わず白刃で応じるリタ。

金属音が周囲に響き渡った。

有線ビットが自らの意思を持ち合わせたかのように、彼を左右から狙い撃たんとする。

 

「ちっ」

 

流星は片手にもった近接ブレード『葵』を躊躇わず投げた。

閃光は近接ブレードに着弾、小爆発を起こす。

もう一発の攻撃に関しては肩の装甲で受け何とか凌ぐ。

 

 

「ぐ──!?」

 

リタは不可視の砲弾に直撃し吹き飛ばされた。

即座に体勢を立て直す───も目の前には左手にショットガンを構えた流星の姿。

 

(たたみかけにきてる──?)

 

散弾をバックラーで弾き、彼女は有線ビットを駆使して彼の動きを阻害する。

構わず猛攻掛け続ける流星。

近接戦闘を行いつつ、リタは龍咆を避ける。

 

相変わらず狙いは謎だがリタとしては悪くない流れである。

流星との距離は近い。連携こそ取られているが能力を使用すればその間は数の不利が消える。

 

 

(わたしがきえるのをまってる…?)

 

強襲の為に膠着状態を演出したのか、はたまた流星に対して能力を使わせるのが目的か。

不可視の砲弾を主軸にした立ち回りは厄介でこそあったが、短期決戦に不向き。

流星ならばあの能力にも多少反応出来るとはいえ、先までの膠着状態を捨てる程のメリットはない。

 

つまりは後者。

流星に対して能力を使わせ───直後に畳み掛ける気か。

 

リタは直ぐに上空を見た。

──流星と鈴の距離が先までよりも開いている。

武装の再発動までの時間は恐らくバレてはいない─────。

 

 

「──いくわよ、りゅうせい」

 

リタは直感だけで追撃の龍咆を躱し、流星へと踏み込んだ。

空中に歪な軌道を描きながら更に加速──二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション)を駆使し、彼の懐へと潜り込む。

 

踊るような動きながらも圧倒的な加速を見せるリタ。

流星は咄嗟に小太刀で受けるも少女の勢いは止まらない。

 

 

「っ!」

 

 

数度の剣戟、白刃は銀灰色の装甲を切り裂く。

二の腕に傷を負ったが戦闘に支障はない。

流星は敢えてその一刀を受けていた──反撃に小太刀を振るう。

 

「ほんめいはそっちね!」

 

「!」

 

それと同時にショットガンの引き金を引く。

しかしリタは勘づいていたのかバックラーで彼を殴り付け、銃口を逸らした。

 

「まずはそっち────!」

 

「──!」

 

ぐるんと振り返る少女。

緋色の瞳が鈴を捉えると同時に、少女は飛び出していた。

有線ビットによる追撃で逆に地面へと叩き落とされる流星。

彼には目もくれずリタは鈴の方へと翔ける。

 

龍咆による攻撃を警戒してか、螺旋軌道を織り交ぜている。

牽制もない今彼女は直撃以外なら気にも留めていないようだ。

 

 

能力の射程圏内に入った。

リタは単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)を発動し、空中に消えていく。

流星の機体の機動力では追いつく事も出来ず、見えない為射撃もまともに機能しない。

 

死線を潜り抜けた流星だからこそ何とか対応していた奇襲。

 

更にリタの速度は亜音速にまで達していた。

上下左右前後ろ、どこから来るか分からない状態。

コンマを下回る世界でリタは鈴の不敵な表情に気が付いた。

 

 

回り込み首筋目掛け白刃()を突き立てようとする。

鈴は双天牙月を手にしているが、正面を向いたまま。

視線すら此方に向けていない──そう少女が考えた瞬間であった。

 

 

「──カっ……ッ!?」

 

 

リタの視界が大きく暗転した。

 

前触れなんてものは存在しなかった。

勝ちを確信した少女の全身に発生する叩き付けられるような衝撃。

 

 

それは完璧なカウンターとなった。

 

飛びかけた意識の手網を握り、少女は身体へと司令を出す──まだ動かない。

偶然など有り得ない。完全にこれは狙ってのものだ。

────まさか、みえてた────!?

 

(かんがえるのはあと───!)

 

スローモーションの視界の中でリタは思考する。

直撃によるエネルギーの減少、身体へのダメージはあるが幸い機体へのダメージは少ない。

鈴のこの行動が有効なのは、最初の一度限りだ。

そのカードを切らせたのなら、いよいよ後がないのは流星達(・・・)の方で─────。

 

───りゅう、せい?

 

ハッと今日初めて顔を青くするリタ。

気付けば───彼女の能力は解けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────それよりも二,三秒前。

少年は有線ビットによる追撃を受けたと同時に、一切の迷いなくある武装を展開していた。

 

彼が展開したのは先と同じ──超長距離射撃装備『撃鉄』。

ただそこには、先よりも物々しい装置の数々が継ぎ足されていた。

 

 

 

『時雨』は『打鉄─椛』よりも小型である為、小回りが利いた。

更に現在ならば高火力の特殊兵装や大量の汎用武装、腕についたフックショット────と実戦面では『打鉄』に比べ選択肢が多い。

武装をあまり丁寧に扱わない流星の趣向が表れているが故だ。

 

では『打鉄』が劣っているのかといえばそうでは無い。

 

───『打鉄─椛』つまるところ『打鉄』は基本的なスペックは『時雨』より上である。

スラスターのエネルギー効率やPICの安定性、総合的な燃費。

防御面の秀でた装甲。

豊富な追加武装(パッケージ)

OSの親和性も幅広い為、武装の後付けも容易だ。

特化を考えた場合、各方面の最大値は目を見張るものがある。

 

 

そして────本来汎用を通り越して凡庸な武装を好む流星は、仕方なくであるがそこに着眼した。

実戦では物足りない攻撃面を補う為、彼は『撃鉄』に更に武装を組み合わせる事を選んだのだ。

追加武装(パッケージ)の掛け合わせ。

学園ですら使う者がいないアタッチメント各種を注ぎ込んだ───ゲテモノ狙撃砲台。

 

対反動用の外部装甲もあり、もはや別物のISであった。

肝心の制御や狙撃に関しては拡張領域も残っていない為ノータッチ。

ISのパラメータと勘で事足りると彼は切り捨てていた。

 

 

 

「─────」

 

 

展開と同時に組み上がる超長距離狙撃用IS『椛』。

そこから一秒経つよりも早く─────少年は引き金を引いた。

 

 

 

 

 

(──っ!!!)

 

バックラーでは間に合わない。

本能的な動きで流星のいる方角にリタは白刃を振るっていた。

ただそれも大した意味を持たない。

遅かったと少女が考える暇すら、その神業は許さなかった。

 

 

 

 

音すら置き去りにして、弾丸は少女を捉える。

 

 

 

 

白い金属片と真っ赤な鮮血が炸裂した。

遅れて聞こえる轟音。もはやそれは爆発音と形容する方が正しい。

弾丸は刹那の間に機体の翼部分を片方抉りとっていった。

畳み掛けるような衝撃、破損した装甲が誘爆し更なるダメージを負わせる。

 

 

舞う数々の破片と共に灰の機体が堕ちていく。

砕け散った白刃を握っていた右腕は装甲も剥がれ、生身の腕が剥き出しになっていた。

その白く細かった腕は衝撃の余波でズタズタに裂けており、今や見る影もない。

 

 

 

 

「──ぁ、あ」

 

 

朦朧とする意識の中、リタは機体の制御を取り戻す。

連射はきかないらしく流星からの追撃は来ない。

まだエネルギーは残っていた。

スラスターも全損していない離脱ならば可能───。

────奥の手はあるが──それでもこの損傷は不味い。

 

流星と鈴だけでなく、援軍が更に来た場合詰み。

どう撤退すべきか──と彼女が考えたところで────。

 

 

 

「───いいザマだな。出し惜しみをするからこうなる」

 

 

声と共に小型のレーザーガトリングが流星と鈴の方へと降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんですって。まだ見つからないの!?」

「あの状態じゃあ遠くにはいけないはず。隠れているに違いないわ!」

 

人気の無い校舎でヒステリックな叫びが廊下に響き渡った。

聞こえる複数の女生徒の声。

駆け回る足音。それは、3人よりもさらに多い。

明らかに焦りが見えるそれらを聞きながら、弾達は固唾を呑む。

 

数分経ち、騒がしさは遠くへと消えていった。

ひとまずは難を逃れたらしい。

ホッとひと息つきながら、弾は背負っていた虚を床に寝かせる。

気休めでしかないが、自身の上着で枕を作っていた。

虚の頭の傷に対し、本音は応急処置を施す。

持っていた携帯式の医療キットと包帯でひとまず頭の傷は覆えた。

足や腕の怪我、頭を打ったことに関してはちゃんとした場所で診てもらう他ない。

 

 

彼等が居るのは空き教室の一角。

ドアからの死角となっている場所に座り込んでいる形だ。

 

 

「人数が明らかに増えてるよな…?」

 

弾は廊下の方に視線をやりながら思わず呟く。

それに対し本音はこくりと頷いた。

 

「…足音からして、結構増えてる…」

 

「それだけ本気って事か───くそっ、あいつら何なんだよ。男だとか女だとか、庇ってるとかでどうしてこんな事が出来るんだ」

 

「…ごめんなさい。こんなことに巻き込んじゃって…」

 

本音は申し訳なさそうに俯く。

本来ならば一般人である弾はこの件には関係なく、自身達と同じような危機に晒される理由など欠片もなかった。

織斑一夏の友人であったとしても、肉親では無いのだ。

弾をどうにかして一夏を──なんて、リスクリターンの見合わない愚行でしかない。

 

しかし、弾が居なければと考えるだけでゾッとするのも事実。

無力感に苛まれながら告げる本音に、弾は1拍だけあけて返した。

すぐに気の利いた言葉を返せる友人を羨みながら、弾は口を開く。

悪い状況だからこそ、せめてもと明るく振る舞おうとする。

 

「悪いのはその、あいつらだろ?布仏さんじゃないよ。とりあえずここからどうするか…だよな──よし、助けを呼ぼう。鈴の奴はなんかの代表だし、一夏や流星もISを持ってるから助けを求めれば───!」

 

「言いにくいけど今は…」

 

「なっ…繋がらない。これじゃあ助けも呼べないじゃねえか!早く布仏さんのお姉さんを治療しないといけないのに…」

 

助けを呼べばなんとかなる──そんな希望も絶たれたのか、彼の表情も険しいものになる。

 

「「…」」

 

2人して無言で考え込む。

 

現状、ここがすぐに見つかることは無いだろう。

先程女生徒が見回った後にこっそりと入ったからだ。

一度見た場所への警戒心は薄れる───隣で考えを張り巡らせている本音の発案がこの猶予を作った。

 

とはいえ、一時的なものだ。

見付からないとなればここもまた見回りが来る。

 

本音もまた、思考を張り巡らせる。

 

──先のように緊急用のシャッターを操作する?

閉じ込める。安全地帯を確保する。足止めする。

幾つかの案が浮かぶが──あれは不意打ちだから出来た事だ。

もし開けるだけの技術力が相手にあれば、その時点で詰み。

何より相手の全体数が分かっていない以上、逃げ道を減らすのは得策ではなかった。

 

 

今1番優先すべき事はなにか。

言うまでもなく姉を治療してもらうことだ。

 

本音は虚を抱えて走れない。

一般人の弾も早く安全な場所に避難させなければならない。

 

 

「───私が注意を引くから、五反田さんはお姉ちゃんを抱えて逃げて」

 

「な──!」

 

真剣な眼差しで告げる本音に対し、弾は状況を忘れて声を上げそうになる。

すぐに声を抑えると弾は苦々しい表情で本音に向き直った。

 

「それだと布仏さんはどうするんだよ…!?」

 

「大丈夫。さっきの応用──緊急用のシャッターで閉じ込める。もしくは閉じこもる…かな?五反田さんが助けを呼んでくれたら、それで何とかなるかも」

 

心配をかけまいと弱々しくも笑顔を見せる少女。

弾は本音達の立場など知る由もない。

ただ、震えそうな手を抑え込んでいるのはハッキリと分かった。

蘭の顔が脳裏を過ぎる。

 

 

「っ──駄目だ。そんなの、お姉さんが悲しむ」

 

案は浮かばない中弾はハッキリとそう告げた。

自身に妹がいるからこそ、彼はその案を絶対に認める訳にはいかなかった。

 

「でも…このままだと…」

 

「だ、だとしてもダメなものはダメだ!いいか?兄や姉ってのは何よりも弟や妹が大切なんだ。そりゃあ布仏さんもお姉ちゃんを守りたいって思うかも知れねえよ。けどそれでもし妹に何かあったら──俺なら耐えられない」

 

「───、こうでもしないと共倒れするだけだよ?」

 

「失敗したらどの道共倒れだ。…その、ごめん。布仏さんの善意まで否定する気は無かったんだ。別の策を考えよう」

 

「──うん…!」

 

相変わらず不安や緊張で体が固まっている弾ではあるが、声には調子が戻ってきていた。

彼が本音ほど自体を正確に把握出来ていない事もあるが、その一般人的な感性こそが───今回は最悪を回避させている。

 

本音もまた自分がどうにかしなければならない──という考えから一度脱却する。

 

2人して再度策を考えようとする。

 

 

 

────ただ、現実はそんな事すら許さなかった。

 

 

 

「「っ!?」」

 

 

勢いよくドアが開かれた。

ゆっくりと女生徒達が入ってくる。

それも、教室の両側のドアから。

 

 

バクバクと心臓が止まらない。

呼吸のリズムが一定でなくなり、目の前が真っ白になったかのように弾達は錯覚する。

 

終わった。終わった────。

全てを諦めそうになりながらも、弾はゆっくりと息を整える。

偶然、偶然ここに入ってきた。

そう言い聞かせようとしていた弾に対し、女生徒はそちらに向き直って笑みを浮かべた。

 

 

「──やっと見つけた。薄汚い腰巾着共」

 

「────っ!」

 

血の気が引く感覚を、彼は初めて理解した。

ゾロゾロと教室に入ってくる女生徒達。

数は9人。

まるでここに居るのが分かっていたかのような動きに、2人は驚きを隠せない。

 

 

本音と弾は虚を引き摺って、直ぐに離れようとする。

とはいえ、逃げ場はない。

 

少し後退し───教室の窓際まで追い詰められることになった。

 

 

「ど、どうしてここが────」

「男──いえ、ケダモノらしい知能の低さで助かりました。ええ、抵抗されても不快ですし、逃げても無駄と教えて差し上げます。ほぉら、あちらですよ」

 

──と、1人の女生徒が指さしたのは窓の外。

意味がわからずにいる弾とは対象的に、本音は目を見開いていた。

 

「…他の校舎から覗かれてた…」

「な───」

「どうしてそこまでして…なんて言いたげですね。これは至極当たり前の話。邪魔な男を排除したいという者はそれなりにいます」

 

長い茶髪の女生徒の発言に弾は拳を強く握った。

言わせておけば──、と彼は怒りを露わにする。

彼は本音や虚の前に立ち、正面から女生徒達を睨みつけた。

 

 

「……一夏や流星が、お前らに何かしたのかよ…!!」

 

「?私達は不快な思いをさせられてきましたが?」

 

「あいつらがなにかしたのかって聞いてんだよ…!!」

 

「はあ、何度も言わせないで下さい。───ISは女性のものだからです。それを極わずかな例外が自分のものように乗り回すなど、ああ寒気が走る──!」

 

「……っ!」

 

会話が通じない。

改めてその事実を突き付けられ、弾は悔しそうに顔を歪める。

喧嘩慣れなんてしていないが、やるしか無い。

そんな考えがチラつき始めた時に、女生徒達は懐から何かを取り出した。

 

鈍い輝きを放つ金属──果物ナイフが握られていた。

人によっては警棒やカッターを持っていたりと──多様ではあるが凶器を所持している。

 

手が震えている生徒もいた。

殺したくないのではなく、慣れていないからだろう。

ただ思想としては染まりきっているのか、震えながらも口もとに笑みを浮かべている。

一般人による惨劇は、目の前の種類の人間によって起こされるに違いない。

 

 

「…」

 

本音は背後の窓に目をやる。

女生徒は本音の視線に気が付き、鼻で笑った。

 

「飛び降りてもいいですよ。ここは三階──運が良ければ…いえ悪ければ生き残れます。ええ、折角です。あなたが飛び降りるなら2人を殺しはしない──なんてどうでしょう?」

「…」

「布仏さん!?」

 

本音は少女達の前で窓を解錠する。

それを見て女生徒達はクスクスとあざ笑う。

止めようと手を伸ばす弾の意を介さず、本音は窓の枠を潜り縁に立つ。

 

「そのままゆっくりと進みなさい。足を止めればその瞬間…わかってますね?」

 

「ま、待て!」

 

彼女は教室側に向きながらジリジリと後退。

窓の縁は落下防止用かほんの少し足場が続いている。

 

勝ちを確信した女生徒達が眺める中、彼女は袖の中で───携帯端末を操作していた。

 

弾が本音より前に出たあのタイミング。

そこで本音のみが知る事が出来たアドバンテージ。

 

彼女にとっての最後の賭け。

しかし恐怖は無かった。

彼なら来てくれる───確信がそこにはあったからだ。

 

もう足場はない。

足を止める事も出来ない。

ふわりと本音の身体が宙に投げ出される。

 

 

違和感を覚えた数名───しかし、もう遅かった。

 

 

 

本音の背後──虚空に銀灰色の機体が姿を現す。

揺れる特徴的なオレンジ髪。

操縦者は本音を抱え片腕を振るう。

 

走る線───割れるのではなく切り落とされる窓ガラス。

ゴッソリと窓際を切り落とし、教室の窓際にポッカリと穴が空く。

 

ISを解除し、1人の少年は教室へと足を踏み入れた。

 

 

「今宮───流星っっ!!!」

 

女生徒達の思考は漸く目の前の光景の意味を呑み込む。

虚を庇うように立っていた弾も、乱入者に目を丸めていた。

 

一方で、少年は抱えていた本音を下ろした。

凶器を持ち突っ立っている女生徒達には目もくれず、弾と本音に向き直る。

 

「──流、星?」

「他の何に見えるんだ。…まさかお前が居るとは思わなかったが、大手柄だ弾。おかげで間に合った───本音、怪我はないな?」

「うん…!───っていまみー!?いまみーこそ怪我は大丈夫!?血が出てるよ!?」

「問題ない。って睨むな。本当に問題ないから」

 

いつもの調子で話をしつつ、流星は本音の頭に手をやる。

状況を見るに弾の乱入がイレギュラーとして機能したのだろう。

かなり危険な状況になっていたが、間に合ったのは彼の存在と本音の機転と言う他ない。

 

流星はISによる簡易的なスキャンを行う。

虚の状態も命に別状はない。

 

 

(た、助かった…んだよな?)

 

この状況下で振り返りすらせず、普通に話す流星に弾は内心ヒヤヒヤを隠せない。

凶器を持った女生徒達が目と鼻の先にいる状況で、彼はあまりにも自然体であった。

彼自体も何故か傷だらけである事が、弾の不安を加速させる。

それが杞憂であると知っている本音は、改めて姉の容態を確認していた。

 

 

「……、───」

 

「っ!」

 

さて、と少年は振り返る。

その瞳には怒りも何も見られない。

 

 

─────数秒後には女生徒達は床に横たわっていた。

 

 

「………、っ」

 

思わず、弾は目を逸らした。

 

コキュリと──最後の1人の関節が外される音が聞こえた。

悲鳴を上げて横たわる女生徒。

何も無く広いはずの空き教室は、蹲る女生徒達で埋まっている。

 

少年は1人その間を歩く。

床に散乱する凶器を拾い、無造作に離れた場所に投げ捨てる。

 

全員が動けないのを確認すると、少年は弾達の方まで歩いてきた。

手にはいつの間にか女生徒達が使っていたであろう通信端末が握られている。

 

「弾。平気か?」

「…平気だ。流星、お前強かったんだな」

「荒事に慣れてるってだけだよ。一夏も訓練を積んでるし、これくらいなら出来るさ」

 

マジか、と口を開けたままの弾。

 

最もここまで鮮やかに捩じ伏せるのは一年生の中で2人しかいない。

片や現役軍人、片や百戦錬磨の元少年兵。

相手は何をされたかすら認識出来ないだろう。

 

2人の違いがあるとすれば、それは今の女生徒達の状態に現れている。

意識を奪い無力化は簡単──しかし拘束する手段がない為、流星は敢えて相手の手足を破壊する方法をとった。

敵の戦力を削ぐ。動かれる可能性を潰す。

例えそれが一般人であろうとも、敵であることに変わりは無い。

意識を奪わないのは趣味や趣向ではなく、情報を聞き出す為─────。

 

「弾、虚さんを保健室まで連れて行って欲しい──今なら道中襲われる心配もないだろう。あと織斑先生には連絡したから、保健室で保護して貰え」

「分かった。その、蘭は何ともないんだよな?」

「ああ。一般開放されてる校舎は特に何も起きていないみたいだ」

「良かった…」

 

ホッとする弾。

彼を横目に、流星は腕から待機状態になっている『時雨』を取り外す。

 

「本音」

 

それを本音の方に差し出した。

本音も意図を理解したのか、それを受け取る。

 

「弾達を保健室に案内した後、腕部装甲の調整を頼む。本音にも権限を付与したから、もしもの時は展開してくれ。一応短時間の戦闘なら可能だ」

 

「──任せて。直ぐに届けるから」

 

「ああ、任せた」

 

弾はすぐに虚を背負い、本音は『時雨』を腕に着け教室を出ていこうとする。

周囲に脅威がいないのは流星も確認している。

まだこの校舎内にも数人居るがそれだけである。

本音達が向かう側にも反応はなく、女生徒達は現在混乱に陥っている事だろう。

 

取り残されたのは、蹲り動けない女生徒達と少年1人。

彼は2人が居なくなったのを再度確認すると、手にしていた女生徒達の通信端末を顔に近付けた。

 

「───」

 

静かで冷徹な宣告に返答はない。

 

やる事はただ1つ。

窓際からある教室に視線を移し、彼はすぐにソレらを見付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2つの話の間は次回に。
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