IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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『楯無』
-68-


 

 

────雨が降っていた。

 

「───」

 

窓越しに聞こえる雨の音。

予報では降らないと言っていた筈なのに、窓を絶え間なく雫が流れ落ちていく。

雨水でぼやける外の風景──今日は、よく冷える。

静かな空間は外の騒々しさを強調していた。

土砂降りというには遥かに大人しい──だが普通かと言われれば激しいと感じる。

 

(雨、か───)

 

窓にそっと近付いて、外の景色へ目をやる。

鉛色の空は何処までも続いており、太陽は隠れきっている。

雲は分厚い。

昼間であるにも関わらず、どんよりと暗かった。

 

眼下に見える道路は傘で埋め尽くされている。

──誰も空の色など気に留めず雑踏に紛れていく。

 

伝う雫。

窓の内側から指でなぞった。

 

そう言えば、と窓を眺めていた少女は呟く。

あの日も────こんな雨が降っていたのだった─────。

 

 

(──、……)

 

 

脳裏を過ぎる血の匂い。

倒れる男性。その首もとに刺さった短刀───。

 

 

畳の上で悶える命。

助かるはずがない、男性の獲物であった短刀は深々とその身体に刺さっている。

赤で着物が滲む。畳に染み込む。

動揺に反して思考は落ち着いていた。

駆け寄ることもせず、襖の向こうで(・・・・・・)事切れるその結末を見届けている。

声も聞こえない。他人事のよう──雨音と心臓だけがヤケにうるさい。

 

友達が楯無になってすぐの事だった。

初めて人を■した。

それも(ウチ)の父親を───。

 

『ごめん、なさい────』

 

涙も出ない。

自然と出た彼女の言葉は多分見ていた(ウチ)へのものだ。

冷たくなったモノは答えない、当たり前の事だ。

 

力が及ばなくてごめんなさい。

もっと早くどうにか出来なくてごめんなさい。

悪質なそれを彼女(・・)はその場で数度繰り返す。

 

───仕方が無かった(・・・・・・・)、と誰かが言った。

彼女は正しい事をした、と同じ組織でも呟く人が多かった。

 

正直な話、(ウチ)も仕方がないって思ってた。

……あの日までは、それで何とも思わなかったし。

 

 

 

───別の雨の日、学園の廊下で(ウチ)は立ち尽くす。

 

 

『──楯無ちゃん、やっぱ無理みたい。(ウチ)さ、あんたを─────』

 

どんな顔をしていいか分からなくて、グチャグチャの思考の中で顔を抑える。でも気持ちは澄み渡るほど晴れやかだった。

その指の隙間から見えた更識楯無(あいつ)の顔は、(ウチ)を見て愉快な程に困惑していたから───。

 

『───赦さないって決めたの』

 

 

 

 

口角が自然と吊り上がるのを自覚する。

窓から離れ、目的地へ足を向け直した。

 

ピチャリ、と床の水溜まりを踏み付ける。

赤色の水溜まり。

転がってるのはこの地域に潜んでいた『更識』の人間の成れの果て。

 

「────」

 

息を吸い込んで吐き出す。

うるさいのを黙らせるのは好きだけど、臭いは嫌い。

 

これからやる事を思い返しながら、(ウチ)は水溜まりから端末を拾い上げた─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと窓の外に目をやると、ポツリと水滴が付いた。

雨の日独特のにおい。

気付いた直後にはザァーっと雨が勢いよく降り出していた。

見下ろした中庭───レンガが水を吸う。

地面に描かれたまだら模様もすぐに消える。

 

言うまでもなく夕立ちであった。

ここ最近降っていなかった為、やけに久しぶりに感じる。

 

抱えた大量の書類に目線を落とす。

生徒会室から職員室へは、中庭を突っ切るのが一番早かったのだが───。

 

(これは、中庭を突っ切るのは無理だな)

 

溜息をつく。

校舎の中を迂回すべく、足先を階段から廊下へと向け直した。

 

 

 

──学園祭から4日が経過した。

襲撃の爪痕は残っているものの、何かと理由を付けてこっそりと修復作業が行われている。

既にIS学園は学園祭の余韻などなく、通常運転。

騒がしく油断ならないいつもの日々が続いていた。

 

ただし、そこに───彼女(更識楯無)はいない。

専用機の調整の為に学園を空けているという事だった。

 

 

(────)

 

進行形で襲撃している敵もいなければ、危機的未来がすぐそこにある訳でもない。

惜しんだ平穏の一幕が戻って来ている。

だと言うのに、俺はヤケに落ち着かなかった。

何かがつっかえている。

違和感は依然としてそこにあり、正体も掴めずにいる。

 

 

───黛先輩の話は、一夏と俺の推論を裏付けるものであった。

 

青い髪の女──井神来玖留は、楯無や黛先輩の元同級生だ。

三人とも仲が良く、行動を共にすることが多かったらしい。

周囲からの評価は楯無に負けず劣らずの才能人にして、取っ付きやすい性格。

それが一年程前、突如として学園を後にする。

以降楯無は彼女の名前を口にしなくなった────とのこと。

何より重要な情報がひとつ──井神来玖留も特殊な家柄だった──。

 

無言で足を進めながら、思考を進める。

 

楯無と来玖留。

二人の根幹に───『更識』()側の事情がある。

 

 

楯無が調整から帰って来たら聞こう──。

一夏は彼女の意思を尊重すべくそう言った。

 

 

………。

──違和感が強烈に訴えている。

それでは手遅れである、と。

 

「───」

 

実にらしくない。彼女の心配は無用だと一夏に言ったのは誰か。

学園に来てずっと──オマエ(オレ)は何を見てきたというのか。

そもそもあいつは専用機の調整で学園を出ている。

全て杞憂でしかない。

こんな考えがバレたなら、満面の笑みでからかわれるのは間違いない。

 

 

───それでも。

喉に魚の小骨がつっかえたようだった。

 

 

(─────)

 

 

 

気付けば職員室も目と鼻の先。

思考をやめ、書類の事へ意識を切り替える。

 

職員室に入り書類の山を各担当の教師に渡した。

学園祭関連もあり、提出するだけでもひと仕事だ。

 

書類の山もかなり掃けた。

俺は残った書類を持って学園1スーツの似合う女性と名高い人物のもとへ。

 

「今宮か───。書類は適当に置いておいてくれ」

 

織斑先生はオフィスチェアに座ったままこちらへ振り返る。

ちらりと先生が見た先は、書類で溢れかえっている。

織斑先生の事だ。普通に仕事量が凄いのだろう。

 

見えた書類の中には、顔写真つきの書類も見られた。

見覚えがあるようなないような顔写真。この前捕らえた女生徒に似ている。

名前は知らない上、顔もうろ覚えだ。正直合っているかの自信はない。

 

「これ、見られてもいいやつなんですか?」

「ああ。そこに書かれていることは大したことでは無いからな。重要度は一般書類程度だ」

「へぇ」

「その生徒達がどうなったか位は話してやれるが、どうする?」

「必要なら聞きますよ」

 

他人事のように返す俺に織斑先生は呆れたような表情をした。

 

「手足をきっちり壊してその反応か…」

「その方が楽でしたから」

 

怒っていたと答えた方が自然だったのだろうか。

しかし、それは無い。

彼女らの思想も行動も俺は特に気にならない。

本音や虚さんが無事だったのだからそれでいい。

今後もし敵対行動を取ってくるなら、そのように(・・・・・)扱うだけである。

 

「…茜さんには聞かせられないな」

 

ボソリと織斑先生が何かを呟く。

はっきりと聞き取れなかった。 誰に対しての話か。

 

「それはそうと、体はもう良いのか?」

「はい。もうIS使用許可も下りましたからね」

「確かに怪我は大丈夫そうだが、疲れているのか?」

 

溜息をつく織斑先生。

ああ、なんだ。怪我の事じゃなく体調も心配してくれていたのか。

学園祭の片付けから生徒会業務、整備───走り回ってた記憶しかない。

 

「そりゃあまあ、忙しいですから」

「そうか。副会長になって大変かも知れないがあまり無理はするなよ?可能なら早めに言え───こちらでも調整しよう」

 

調整という言葉を聞いて、何故か山田先生が脳裏に浮かんだ。

基本的にIS学園教師は激務。

くたびれた様子の先生方を見るとちょっと申し訳なくなる。

 

「ありがとうございます。その時はお言葉に甘えるようにします」

 

ぺこりと頭を下げ、職員室を後にする。

扉を閉め、ひと息ついた。

腕を上に、身体を大きく伸ばす。

 

 

「───?」

 

視界の端に人影が映った。

慌てて廊下の角に隠れたようだが、正直バレバレだ。

体格は小柄。髪は黒…だろうか。

ネクタイは黄色だったような。

 

「……」

 

害がありそうな感じでもない。

気にせず背を向け、生徒会室に戻る事にする。

来た道を戻るように歩いた。

 

 

「……」

「───」

 

生徒会室までもう少しというところまできた。

先程の人影はコソコソと今もまだ俺をつけている──俺に用があるのか?

 

このまま生徒会室に入ってもいいが、誰か位は確認しておくか。

突然足を止め振り返る。

尾行していたやつはビクリと反応して物陰に隠れた。

 

「何か用ですか?」

「───」

「さっきからバレバレですけど、まだやるんですか」

 

呆れ返りつつ声をかける。

すると、隠れても無駄と判断したのか物陰からひょっこりと少女が姿を現した。

 

「…流石生徒会副会長。よく見破ったっス」

 

太く長い三つ編みを首に巻いた、猫背の少女。

気だるそうな表情に所々髪が整っていない点が印象的だ。

見た感じ外国の人か。ここだと珍しくないけど国までは分からない。

 

──ひとまず。

 

「尾行下手過ぎませんか」

 

「…っぐ!?先輩にもその直球のダメ出し…やっぱ『一年生で近寄りにくい人』ランキングトップは格が違ったっスね」

 

「…はい?」

 

三つ編み先輩は不満げに呟く。

待て、なんだその不名誉なランキングは。

 

「ちなみに元一位はドイツの代表候補生だったっス。でもギャップとかもあって今は違うみたいっスよ?」

 

淡々と言う先輩。

その点には納得出来てしまうのが困る。

ラウラは最初と今とで別人のようだからな。

 

「そのランキングは置いておいて──で、先輩はそもそもどちら様ですか?」

 

「よーく聞くっス今宮。私はギリシャ国家代表候補生のフォルテ・サファイアっス」

 

「──」

 

フォルテ・サファイア。

その名前ならこの学園でチラホラ耳にしたことがある。

三年の先輩とのコンビネーションが凄いとかで有名だったか。

専用機は確か──『冷血(コールド・ブラッド)』。

 

「暫くの間私がISを教える事になったから、早速様子を見に来たんスよ」

 

「ありがたい話ですけど急ですね」

 

「それは更識に頼まれたからっスよ。ってアレ?聞いてなかったんスか?」

 

楯無(あいつ)、人になんにも言わずに決定してたのか。

今に始まったことでは無いが、一言くらい欲しいものだ。

…しかし、何故このタイミングなのだろうか。

国を発つ前に頼んだ?やっぱり変な感じだ。

 

「初耳ですよ。────それで、先輩がISを見てくれるんですか?模擬戦の練習相手とか?」

 

「それもあるんスけど、メニューというか方針自体は更識からもう聞いてるっス。ズバリ今宮強化プラン──って言ってたっスね」

 

「──」

 

最近活発化してきた亡国機業(ファントム・タスク)に備えてと考えるのが道理か。

強化プラン──俺自身強くなれるなら悪くない話だ。

 

「具体的にはどうするんですか?」

「そう急かさないっス。そこは先輩の私がしっかり教えてあげるんスから」

 

気だるそうながらも得意げなフォルテ先輩。

…もしかして先輩面出来るのが嬉しいんだろうか。

 

「……更識は私にしか頼めないって言ってたっスからね。しっかりと敬うっス」

 

「…」

 

…これは、アレだ。

フォルテ先輩の腕を疑ってるとかではないが、体良く丸め込まれただけの可能性も出てきた。

 

ただ強化プラン云々は真実だろう。

ISの経験値は確実に俺よりフォルテ先輩の方が上、+になるのは間違いない。

 

「じゃあ来るっス」

 

意気揚々とアリーナに向けて歩き出す先輩。

もしかして───今からなのか?

チラリと生徒会室の方を見つつ、残った資料の山を思い出す。

 

「…」

 

大きくため息をつき、俺は先輩の後に続くのだった。

 

 

 

 

 

場所は変わり───第3アリーナ。

悪天候ということもあり、ひと気は少なかった。

天井がついたアリーナへと多くが身を移した為だ。

 

───空中で剣戟が鳴り響いた。

雨の中で散る火花。

僅かな交差、すれ違う紅と白。

 

「────」

「──っ」

 

互いに無傷。

しかし浮かべている表情は大きく違った。

 

直前の一太刀をもって研ぎ澄まされていく感覚。

一夏は増していく集中力に身を任せつつ、ゆっくりと息を吐く。

反転、姿勢制御からの切り返し。

意識は眼前に向けながらもISを華麗に制御する様は、ピットで見守る代表候補生達からしても見事なもの。

 

「っ」

 

対して箒は機動力で振り切ろうと後退する。

接近戦に自身のある彼女だが、咄嗟にそうするしか出来なかった。

空を切る雪片弐型。

彼女の剣技は言うまでもなく一級。

だというのに一夏と打ち合った直後から、背筋に何かが張り付いている。

 

(一夏の剣自体に変化はない───。なのになんだ、この感覚は────!)

 

箒は雨月(あまづき)空裂(からわれ)を振るい、エネルギー刃を飛ばす。

双刃は距離を詰めようとしていた一夏へと直撃する。

エネルギー刃は派手に爆発し、瞬く間に白の機体を包み込んだ。

畳み掛けるべく、箒は上空から回り込もうと動き出した。

 

 

「何──!?」

 

爆風が晴れるよりも速くに現れる影。

箒は彼の狙いにここで気付いた。

一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使う瞬間、わざと(・・・)雪羅で受けていたのだ。

更には急停止と急発進を間に挟んでいる。

直撃のタイミングを本能的に調整していた事も箒の反応が遅れた原因だ。

 

詰まる距離。

二刀を構えるが、既に遅い。

一夏はもう雪片を振るっている。

────零落白夜が発動した。

 

 

 

 

「何よアレ」

「別人、みたい…」

 

皆で模擬戦の様子を観ている中、鈴と簪は思わず言葉を漏らした。

ピット内の大きなモニターから皆目が離せずにいる。

 

模擬戦の結果は一夏の勝ち。

 

体力向上も兼ねた連戦。

エネルギーのみ補給していたとはいえ、彼が箒をこうもストレートに倒しきるのは初めてである。

 

「僕との模擬戦でもこの動きだったら…もしかしたら…」

 

シャルロットは真剣な面持ちで呟く。

勝敗で言えばシャルロットは先程一夏を下している。

しかしシャルロット戦と打って変わり、今の一夏の動きには凄まじいキレが見られた。

 

「なるほど。この集中力を一夏がいつでも引き出す事が今後の課題、か。生徒会長(あの女)の言う通りなのが少し癪だがな」

 

「そのようですわね…」

 

ラウラの言葉にセシリアは同意する。

そこには微かな翳りがあった。

それも一瞬。皆の視線の方向もあって、気付くことは無い。

 

「一夏凄いなぁ。僕達も負けてられないね」

「あったりまえよ。襲撃者だかファントムなんちゃらだか知らないけど、今度はぶっ倒してやるんだから!」

 

バシンと鈴は掌を拳で叩きつつ宣言する。

学園祭の邪魔をされた鬱憤も溜まっているらしい。

 

「しかし相手の実力も相当なものだ。少なくとも1対1は殆どの確率で負けると見た方が賢明か…」

 

ラウラは眉を顰めつつ呟く。

脳裏に浮かべるのは『サイレント・ゼフィルス』と戦闘記録(ログ)にあった消えるIS───そして『雷の修道女(グローム・モナヒーニャ)』。

王蜘蛛(アラクネ)』も脅威だが、機体は全損──当分は動けないだろう。

 

「どうしたの?随分弱気よね、ラウラ」

 

「冷静に戦力分析してるだけだ。消えるISとも戦った鈴なら分かるだろう」

 

「まあ、確かに楽観視は出来ないわよね…」

 

ラウラの静かな言葉に鈴はため息をつく。

流星と二人がかりで撃破した消えるIS───それも相性差が機能した事が大きい。

 

「『サイレント・ゼフィルス』に関しては、流星が夏休みの時に襲撃されたみたい…」

 

「流星さんが!?」

 

「……やはりか」

 

簪の発言に目を丸めるセシリアと納得するラウラ。

シャルロットと鈴はその情報に大きな反応は示さず、簪の言葉に耳を傾けていた。

 

「『サイレント・ゼフィルス』がこうして学園に現れたから、話せるようになった───ってお姉ちゃんが学園祭の時に教えてくれたの…。その時本音も居たみたい」

 

「……簪のお姉さんは、そう言えば今ロシアに行ってるんだっけ?」

 

「そう、らしい…。専用機の調整──らしいけど…」

 

「けど?」

 

「──ううん、なんでもない」

 

首を横に振る簪に鈴は首を傾げる。

それより、と簪はすぐに話題を変えた。

 

「──織斑くんは殆ど一人で『王蜘蛛(アラクネ)』を撃破した。不意打ちでもなんでもなく、正面からの勝利…。そして流星も『サイレント・ゼフィルス』相手にほぼ互角の戦いをしてた…」

 

「我々も負けてはいられない、か」

 

簪はこくりと頷く。

ギュッと握りしめた拳は感情を押し殺すかのよう。

 

全員が個々の実力を伸ばす方法を考え出した辺りで、部屋の扉が開いた。

戻ってきた一夏と箒に皆の視線が向かう。

ISスーツの彼らは首にタオルをかけている。

雨もあってびしょ濡れらしい、髪の水を拭き取りながら口を開いた。

 

「なあどうだった?」

 

「良かったよ。僕との時より集中の仕方が自然だった。スラスターの出力も安定してるし───最後の攻撃なんて、皆されたらびっくりするんじゃないかな?」

 

「サンキューシャル。悪い点はどんな感じかな?」

 

「そうだね。基本的な空中の動きにもっと上下の自由度を織り交ぜた方が良いかも。雪羅を使う時だけスラスターの制御が少し疎かなのも駄目かな?稼働状態と記録(ログ)は撮ってるから、後からも確認しておいて」

 

シャルロットから記録媒体を受け取り、一夏はそれを白式へと読み込ませる。

箒の方は同様にラウラに助言を受けていた。

IS搭乗時間が誰よりも短い分、指摘される点は多い。

 

二人のやり取りを尻目に、一夏はセシリアの隣へと移動する。

 

「そういやセシリアは何かあったのか?」

「へ?」

 

思わずセシリアは素っ頓狂な声をだした。

いや、あまりに自然に聞かれてこうならない人物は居ないだろう。

 

「元気がないように見えたからさ。何か悩みがあるのか?俺でいいなら何時でも聞くから、言ってくれよな」

「え、ええ!大丈夫ですわ!──これは、(わたくし)が未熟というだけですので…」

 

本当か?と心配してセシリアをじっと見る一夏。

突然の彼の察しの良さに彼女の心臓はバクバクと騒がしい。

しっかりと自身を見てくれていた───そんな事に喜びを隠せない。

────だからこそ、このままではいけない。

心配をかけるだけではいけない。

自身も彼のように、己の殻を破らなければならない。

 

笑顔を崩さずに礼を告げるセシリア。

一夏はそれ以上追及せず、持っていたドリンクに口をつけた。

 

そう言えば──とだけ思い出したように呟く。

 

 

「楯無さん、いつ帰ってくるんだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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