IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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───。

その日をオレは、ハッキリと憶えている。

IS学園入学初日。周りに擬態し(あわせ)て日常を始めた日。

言いしれない閉塞感に襲われながら、廊下を歩く。

 

誰も彼も善人だった。

 

何かに怯える事もなければ、恐れることも無い。

少しの間日本で過ごしていたから知っていたのだが、こうも接する人間が増えると実感は濃くなるというもの。

 

つい一夏に対して『また明日』という言葉を口にする。

ここにいる皆が疑わずに口するそれを倣って、オレも言ってみたのだ。

どうにもしっくり来ない。

あんな風に心からそう思えない。

なんの意味もなく、時間を消費している。

 

(───)

 

死臭もしない。

転がる死体も道端で蹲る子供もなければ、生気を失った人間も歩いてはいない。

笑顔も整えられた廊下もヤケに冷たく感じた。

 

あらゆる人間が存在するIS学園の中でも、今宮流星は紛うことなき異物だ。

 

あくまで目に映るものは灰色の世界でしかない。

形は分かれど真価(いろ)は理解出来ない。

きっと喜ぶべき平穏で享受すべき時間も同様だ。

 

…ひとまず考えるのを止める。

部屋は近い、今は思考をそちらへと傾ける。

 

 

 

──辿り着いた自室で待っていたのは、綺麗な水色の髪の少女だった。

 

 

 

更識楯無は、そんな異物をあっさりと受け入れた。

驚きよりも困惑が勝る。

演技や欺く為ではなく、今宮流星を本気で日常へと引っ張り入れようとしていた。

 

有り得ない話だ。

表と裏の両方を知る存在なら、特に。

全部見抜かれていたとして、彼女の考えは分からなかった。

 

『私は生徒会長よ?生徒を守るのは当然でしょ?』

 

今思えば、アレは彼女の生き方そのものだ。

 

確かな己を持ち、誰かを当然のように守る。

どちらの世界も知りながら、正しい在り方を優先する。

在り方は口にするまでもなく綺麗だった。

裏の為の偽りの表でもなく、表の為に裏を犠牲にする訳でもない。

どちらの彼女も自由でいて、どちらも眩しい。

 

 

数多の死体を積み重ね、やっと惜しむようなものに気付いた奴がいた。

あの馬鹿はそれに気付いたから、学園祭の時と言いなるべくオレを裏から遠ざけようとしていた。

あくまで降り掛かる火の粉を払う形以外では関与させまいとしている。

 

 

オレなんかとはまるで違った。

 

羨んでいないと言えば嘘になる。

こんな奴もいるのだと感動すら覚えそうになった。

 

 

だけど同時に、なんだか無性に────気に食わなかった。

 

 

柄にもなくあの時言った言葉を胸中で反芻する。

あれはそうだ。多分奥底ではムカついてたんだった。

 

人よりずっと優れていて、なんでも1人でこなしてしまって。

だからこそ本当は孤独な彼女に。

 

 

────貴方は、お嬢様をどう思ってるの─────?

以前の問いが頭を過ぎる。 

あの時は分からないと告げたんだった。

 

 

 

「───」

 

オレは静かに虚さんと向き合う。

 

楯無の為に全てを棄てられるか。

彼女の考えを知った上で、彼女の強さも知った上で今ある全てを棄てられるのか。

…前提が間違えている。

 

 

「棄てられないから──行くんです」

 

 

「お嬢様はそれを望んでいません…。そもそも無駄足かもしれない───お嬢様が1人で片付ける可能性も、手遅れの可能性もあります。それでもしあなたまで帰って来れなくなったら───」

 

鋭い視線。

けど声から虚さんの迷いも伝わってくるようだ。

彼女も楯無の身を案じてはいるのだろう。

どころか、楯無と同じくオレの身を案じている。

 

 

「だとしても、オレはあいつを放っておけない。世界が邪魔するなら全部を壊してでも連れ戻します」

 

 

けどオレはそれを無視する。

惜しんだもの───そこにはあいつも居ないと意味が無い。

例え今宮流星に価値は無かろうと、誤った存在であろうとそこは揺らがない。

あいつはオレなんかより、ずっと価値がある。

 

 

 

──それに、と言葉を続ける。

自然と笑みが零れていた。

 

「柄にもないことを前に言ったんです。それを果たさないと」

 

「───」

 

一瞬ぽかんとする虚さん。

……こうも面食らった反応をされると此方も困ってしまう。

 

虚さんはすぐにこほんと咳払いした。

 

「……お嬢様もこればかりは読み違えてたようね……」

 

呆れたように虚さんはそう呟き、懐から通信端末を取り出した。

誰かにそのまま連絡を取り、数言交わす。

して彼女は端末を懐へと仕舞った。

 

「流星君。これから迎えが来ますので、半刻後に裏門に来てください」

「はい。空港へ向かうんですか?」

「ええ、流石にここからISは目立ち過ぎますから。来玖留の件についても道中で説明があります」

 

 

 

 

───そうして、オレは生徒会室を後にした。

『更識』も自由に動ける状況では無いが、オレを送り出す位は可能らしい。

 

廊下にでた瞬間これからやるべき事に意識が向かう。

向こうに着けば殺し合いが始まるだろう。

 

今持っているナイフや拳銃の整備も再度しておくべきだ。

携帯食も多少必要か。現地で調達するには手間もある。

 

 

自室に戻り準備を行う。

 

IS学園の制服は何処の国家にも属さない象徴(シンボル)──だが、オレがこれを着て向こうに出ていけば問題が増えるだけだ。

 

「……」

 

制服を脱ぎ捨て、折り畳んでベッドの上へ。

私服に着替え、机の引き出しから必要なものを余った拡張領域に取り込んだ。

 

やけに部屋が広く感じた。

今は一人部屋だったことを思い出す。

ここに来てから相当長く過ごしていたかのような錯覚を覚える。

 

 

──……。

 

部屋を出て鍵を閉める。

鍵は虚さんに預けることにしよう。

予鈴前でひと気がないとはいえ、寮を出ていく姿を見られる訳にも行かない。

 

比較的広い場所を避けつつ最短で裏門へ。

先日まで雨が降っていたせいか、まだ地面には水溜まりがある。

反射して見える空───は雲で隠れて色を失っていた。

 

歩いてその場を後にする。

角を曲がったところで裏門と虚さんの姿が見えた。

 

傍には見た事がないスーツの男。

サングラスを掛けているが風貌はSPというより、テレビに出てきそうなヤクザ?というやつだ。

 

 

……あれが迎えか?

色々言いたい事が二、三言あるがこの際飲み込もう。

 

 

なんにせよ、ここから先は慣れた世界だ。

自身からわざわざ目的があって飛び込むのは初めてだが、それだけの事。

優先順位は勿論楯無の確保。

何人殺そうが何を敵に回そうが関係ない。有象無象が巻き込まれるというのならそれも構わない。

 

 

学園を背に外へ向かう。

──その最中であった。

 

 

「!」

 

バシャリと後ろから水溜まりを蹴りつける音。

どこかの廊下の窓から飛び出してきたであろう誰かは───息を切らしながら此方へとやってくる。

この足音は恐らく──。

 

「なッ───!?」

 

振り返る前に背後から思いっきり蹴られた。

オレは咄嗟に反応して倒れることも無くその場に踏みとどまる。

 

「──っと、何するんだよ馬鹿」

 

「こっちの台詞よ!大馬鹿!!人に片付けさせといて何出ていこうとしてんのよ!」

 

そこに乱れた息を整えながら捲し立てるように不満を告げる鈴だった。

彼女の機嫌を代弁するようにツインテールが上下に揺れる。

 

予鈴までもう間も無いというのに、どうしてここに居るのか。

 

「片付けさせたのは悪かったよ。でもだからって蹴ることないだろ」

「言ったでしょ。間違ってたら蹴っ飛ばすって」

「───」

 

ピタリとオレの動きが止まる。

鈴は呆れた様子で腰に手を当てた。

 

「あんたが何を抱えてるか(あたし)は分からないし、無理矢理聞き出す方法も知らない。大方、簪のお姉さんがここ数日姿を見せない事が関係してるんでしょうけど、きっとあんたの事だから黙ってるわよね」

 

今朝のニュースやオレの反応で鈴も勘づいたのだろう。

だが、鈴は中国の代表候補生。

大国故に誰よりも今回の件に踏み込めないのは言うまでも無い。

オレが彼女に言わない事も、彼女は察していた。

 

「それで、何が間違ってるんだよ」

 

「──あんた、自分が戻ってくる事まで考えていないでしょ?」

 

「!」

 

内容も知らない鈴に言い切られ、オレは言葉を失う。

驚くオレにやっぱり…と鈴は溜息をつきながら、歩み寄ってくる。

 

「そこが間違ってるのよ。簪のお姉さんもだけど、あんたも(・・・・)帰って来ないと赦さないから!!」

 

トン、と鈴は人差し指でオレを小突く。

どうして─?と言葉を吐く前に、先までの自分の考えが思い出された。

…やっぱり、鈴には敵わない。

 

「……ありがとう。なら少しだけ欲張ってみる事にするよ。楯無(あいつ)はオレが必ず連れて帰ってくる。文句を言うなら四肢をもいででも連れ帰るよ」

 

「そこは普通に連れ帰りなさいよ──!?」

 

「それもそうか。まあ、そんなことだからさ───簪や本音達にもよろしく頼む(・・・・・・)

 

嗚呼、黙って行くならあいつと同じだ。

ただそう気付かされたのはつい今。あくまで鈴に伝言を頼むしかない。

 

「そ。じゃあ伝えておくから、帰ってきたら覚悟しなさい」

 

鈴は素っ気なく返事をする。

嬉しそうだと感じたのは気の所為か。

 

「───ああ」

 

頷くと鈴に背を向け、裏門へ急ぐ。

虚さん達とすぐに合流し、待機していた車へと乗り込んだ。

────オレは、一切振り返らずIS学園を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今ので気付かないとかほんと───」

 

残された少女は一人。

────鈍いんだから、と口を尖らせつつ少年を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ、あの女め」

 

ロシア某所。

軍事施設のある一室で、軍服に身を包み大柄な男は忌々しげにそう呟いた。

ぎしりと椅子が鳴る。乱暴に椅子に座った男は報告書を片手に目前の部下を見た。

 

「如何致しましょう?奴を拘束する為に部隊を出しますか?」

 

同様に軍服に身を包んだ女性は、男の前で直立したまま問い掛ける。

彼女はある部隊のIS操縦者だ。

 

「─いや()については放っておこう。奴を追ってアメリカの手先と何か起きる方が手間だ。そもそも手元にあるデータでも最悪研究は進められる」

 

冷静に男はそう告げる。

井神来玖留は無視したくない存在ではあるが、敵対するには条件が悪い。

彼女は現在研究の成果たるISとそのデータ、そして渦中の存在であるコアまで所持している。

現在はまだ彼女と協力関係は維持されている。

施設の破壊は証拠隠滅と彼女が称して実行の少し前に告知はされていた。

しかし、振り回されているのも事実。男は苦々しい表情である。

 

「時間が無い。じきアメリカも動く。その前にひとまず君達を派遣する。最優先は不穏分子──更識楯無の拘束だ。勿論抵抗するなら殺しても構わん」

 

「彼女は我々ロシアの国家代表ですが、宜しいのですか?」

 

女性が恐る恐る質問する。

男に対し意見したというより、部隊長としての素直な疑問。

質問の意図は尤もだと男もそれに答えた。

 

「恐らく一連の情報を持っている。アレを放置すれば不利になるのは我々だ。優秀だとしても我々の派閥にとって彼女は邪魔だ」

 

それに、と男は書類を彼女らに差し出す。

 

「自由国籍により今は我が国の人間と言えど、元は日本人。それが国家代表────ログナーのように平然と受け入れられる人間の方が少ないものだ……皆口に出さないだけでな。口さえ封じれば『雷の修道女(グローム・モナヒーニャ)』の実稼働でお釣りがくる」

 

男の話が終わると同時に女性は敬礼した。

 

「では直ぐに向かいます。機体の方は?」

 

「それならもう手配している」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、施設爆破からすぐの事。

────モスクワ郊外の雑木林で楯無は足を止めた。

 

彼女の体に怪我は見当たらない。

先の爆発を受け、多少ISのエネルギーが減ったがそれだけ。

多方向からの誘爆にも対処し、痕跡を残すこと無く彼女は現場から離れていた。

現在はあの後東へ飛び去った来玖留を追っている。

同様にISで追いかける選択肢はない。

来玖留と違い、楯無が今この付近を飛び回るのは悪手だ。

市街地を戦闘に巻き込む可能性もあり、今の目標はこの林をとっとと抜けてしまう事になっている。

 

 

「───」

 

そんな中、楯無は周囲を見渡す。

唐突に現れた気配は瞬く間に彼女を取り囲んでいた。

 

 

「!」

 

直後に木の影から何かが飛び出す。

楯無に向かって行くのは特殊な装備で身を包んだ人間。

黒を基調とした装備により顔は見えない。

 

楯無は咄嗟に身を翻し、その者の攻撃を躱す。

暗闇の中走る一閃。音もなく引き抜かれた刃物は虚空を切る。

 

 

(───)

 

初撃を銃撃ではなくナイフにしたのは、恐らくISの展開前に不意をつくため。

熟練のIS操縦者相手ならば銃などあっさり凌がれて終わりだからだ。

 

仕掛けてきた者は勢いを殺さず地面を手を付き、反転。

速攻で楯無から距離をとった。

 

────それと同時に、雑木林の奥から火花が炸裂する。

複数の銃口、間髪入れない連携が楯無を襲う。

 

(最初のはブラフ…。連携の精度からして軍の人間ね───)

 

即座に爆発が起きる。

放たれていたのは榴弾──ただし水のヴェールにより全て防がれる結果となった。

 

(今の行動も生身の人間にする事じゃない。私がISを持っている人間だと既に知って仕掛けてきている)

 

───つまり、敵の中にIS操縦者が編成されている可能性が高い。

楯無は周囲への警戒を続けつつ、最初に仕掛けてきた者へと視線を戻す。

自然に考えるならば一番危険を冒したその者が操縦者だろう。

 

 

 

(今のを凌いだ。少しも動揺する様子もなし……当然か)

 

装備に身を包んだ女もまた楯無と向かい合う。

周囲の木は爆発で折れ、見晴らしは少し良くなっていた。

 

初撃に意識を向けてからの榴弾により、シールドエネルギーを消費させる───あわよくば展開を遅らせ負傷させる事も考えていたが、失敗に終わっている。

 

 

「更識楯無ですね」

 

女は意識を自身に向けさせる為問い掛ける。

畳み掛ける事も出来たが、そうしたところで通じないという判断だ。

 

「……」

 

楯無は特に応じない。

この場において肯定する理由も否定する理由も無かった。

奇襲が失敗したのなら正面から武力行使に出る、これはその前のポーズに過ぎない。

 

「貴方には現在福音のコアの盗難及び施設の破壊容疑がかけられています」

 

そう来たか、と楯無は内心溜息をつく。

 

来玖留がこの周囲の更識家関係者を排除していたのもこの為だろう。

更識楯無の孤立──強行手段がまかり通る状況の作成。

政府側の関係者から見て楯無さえどうにかしてしまえば───後はでっち上げて無理矢理問題を片付けられる。

 

(そんなところね)

 

冷たい視線で相手を見つつ、楯無は蒼流旋を手にした。

部分展開によりISの右手だけが現れる。

それは彼女の答えを代弁していた。

 

 

黒の装備に身を包んだ女性は即座にISを展開する。

 

(この状況で部分展開。舐められているな)

 

現れたのは青銅色のIS。

『時雨』程ではないが小型であり、何より細身なのが特徴的だ。

装甲は薄長い物がいくつも連なっている為、分厚くはある。

 

彼女は両手を前につき前傾姿勢に。

 

───直後、地面を蹴り飛び出していた。

 

(ならば、それを利用するまで!)

 

青銅のISは同時にスラスターを一気に吹かす。

直進に対し、反応して構える楯無の意表を突くよう───彼女は脚部のブースターも使用した。

 

「!」

 

巻き上がる土煙。

それを周囲が視認するより早く、女は楯無の懐へと踏み込んだ。

 

(早い───)

 

女の手もとで光る対IS用ナイフ。

金属音───同時に火花が散った。

 

影が交差する中、女の方は振り返り腕を突き出す。

装甲が開き、そこからワイヤーブレードが真っ直ぐと楯無に向かった。

 

水色の髪が大きく揺れる。

頭があった場所を通過するワイヤーブレード。

楯無は蒼流旋で更に軌道をずらす。

 

そして、蒼流旋の先端のガトリングから銃弾が掃射された。

 

「!!」

 

 

──女は盾を展開しながら後退する。

楯無の対応力も今のやり取りで理解した。

そして、この数瞬は1on1と錯覚させる為に仕掛けただけである。

 

(やるようだが────我々は1人ではない───!)

 

周囲から何かを発射した音が聞こえた。

楯無は即座に上を見る。

───数発の小型ミサイル弾が彼女を取り囲むように放たれている。

 

ISを援護すべく結成されたEOSによる、対IS用兵器の遠距離射撃。

威力はISを駆使しての攻撃に比べると落ちる。

ただ、数が数だ。楯無はISを完全展開し防御に回らざるを得ない。

 

その隙を叩かんと女はある武装を呼び出す。

IS用のパイルバンカー。狙いは着弾直後である。

 

敵機(楯無)に近接を挑むには、当然相応のリスクが生じる。

しかし───これもあくまで1つのブラフ。

隠し玉は部隊に隠れたもう一機のIS───つまり、此方との挟撃にある。

部隊の援護もあくまで主戦力が此方の一機と刷り込むため。

 

 

(今!)

 

────着弾を確認した。

合図は不要。もう一機と共に短期決戦で仕留めるべく─────。

 

 

「な──に───っ!?」

 

着弾による爆発が起きるよりも早く──女の眼前が炸裂した。

ミサイルによる爆発が遅れて起きる。

衝撃に身を揺さぶられながら、女は踏み込んできた楯無に反応していた。

何とか蒼流旋を受け止める。

───まさか、ガードしながらとはいえ自分ごと(・・・・)爆発させてくるとは───。

 

 

肉を切らせて骨を断つ戦術。

現在消耗を抑えたい楯無であったが、相手の実力と策を読み──最低限の経費としてシールドエネルギーを消費する判断をした。

 

もう一機が楯無の背後から強襲にかかる。

タイミングがズラされたが問題ない。

あくまで2対1ならば、彼女達の優位は変わらない。

 

 

 

───簡単な話、彼女らの実力は相当なものだ。

訓練を重ね、実戦も臨み──特殊部隊程ではないが目を見張るものがある。

 

彼女らに非があったとすれば、短期決戦を狙えると考えた点にあった。

 

 

 

「私もね、流石に怒ってるのよ?」

 

地面を突き破り激しい水流が吹き出す。

逆巻く水流は蒼流旋に巻き付くようにして渦を作り出す。

舞いにも見える幻想的な光景。

楯無のもう片方の手には蛇腹剣(ラスティー・ネイル)が握られている。

 

 

「だから、これは八つ当たりも入ってるの。────覚悟してね」

 

楯無は部分展開をしつつ仕込みを済ませている。

もう一機がいた事も予想が付いていた。

 

 

ここはもう彼女の空間だった。

 

前方からの水刃。

背後からの水流。

局所的な清き熱情(クリア・パッション)

 

───勝敗は語るまでもない。

倒れ伏す相手に目もくれず、楯無はその場を立ち去る。

 

決着を一刻も早くつける。

彼女はある実験場のデータを解析しながら、空を見た。

 

 

「今行くから待ってなさい。井神来玖留」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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