IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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「…流星のやつどうしたんだろ」

 

HR開始時刻。

予鈴が鳴る中一夏は傾げた。

彼の視線に映るのはもう一人の少年の少し離れた座席だ。

予鈴を聞き皆が着席しているのに未だ彼は訪れないでいる。

 

──そこへ現れる織斑千冬。

いつも通り出席簿を片手に凛とした顔で教室に入ってきた。

微かにザワついていた教室も静かになる。

空気が引き締まる──日直により号令が掛けられた。

一連の流れから着席し、すぐに彼は挙手する。

 

「あの、織斑先生」

「どうした織斑」

「──流星が居ないんですけど」

 

彼の言葉を受け千冬は間髪入れずに返した。

 

「あいつなら休学だ。暫く学園を留守にしISの整備先を探す予定と聞いている」

「え」

 

唐突な話に一夏は違和感を覚えた。

そんな事ひと言も彼から聞いていなかった。

───のほほんさんは知っていたのか?

そんな考えが過ぎり、チラリと視線を少女の方へ。

彼女はいつになく険しい表情でそれを聞いていた。

千冬は2人の様子を見た後、静かにため息をつく。

 

「───あと、別件だが(・・・・)

 

───と、千冬の数言を聞き一夏は此処で掘り下げる話では無いと理解した。

後で専用機持ち達に話があると伝えられ、専用機達も何かあるのだと察する。

 

真耶と入れ替わるように教室を後にする千冬。

始まる授業。

疑問が尽きない中あっという間に授業が終わる。

 

 

 

二限目。

一年生専用機持ち達は、IS学園地下特別区画へと招集された。

 

 

本来ならば誰も知りえないエリアを前に、一夏達は驚きを隠せない。

オペレーションルームには旧式のディスプレイや端末が置かれており、見るからに仰々しい空間だった。

 

「よし、全員揃ったな」

 

千冬が奥の扉から現れる。

全員の視線が彼女に集まった。

 

「──今朝方あった事件については皆知っているな?」

 

こくりと頷く代表候補生達。

一方で一夏と箒はピンと来ないという表情を浮かべた。

 

「……織斑、篠ノ之。IS関連の事件やニュースについては常にアンテナを張っておけ。特にお前達二人はその情報ひとつが人生を左右しかねない」

「う、たしかに…」

「気を付けます…」

 

千冬に苦言を呈され、危機管理の甘さを自覚する二人。

すぐ近くの出来事やISに対する意識は変わって来ているものの、ニュースについては一般人的な感性が少々邪魔していた。

こればかりは二人の立場が一般人に毛が生えた程度ということも助長している。

千冬は二人から視線を皆へと戻し、話を再開する。

 

 

「話を戻すぞ。先刻にロシアのIS研究施設が吹き飛ぶ事故が発生した。原因等の詳細は政府によると調査中とのことだが────織斑、この写真を見て思うところはないか?」

「これって……学園祭の時と同じ───!」

 

千冬の背後のモニターに半壊した建物が映る。

それを見た一夏は驚いた様子で声を漏らした。

 

一夏の反応に──成程、と鈴は静かに納得する。

銀色の電撃を扱うIS───一夏も当事者だからこそ、それが起こした出来事だと分かったのだろう。つまり流星もこれを見て例のISが動いている確証を得たのだ。

 

最も───鈴は井神来玖留と更識楯無の関係など知る由もない。

また一夏の方も楯無の留守への違和感があまりない為、仮に朝これを目にしても楯無と結びつきはしなかっただろう。

 

 

「そうだな。これは恐らくお前達が先日相手にしたものが関与していると見ていいだろう」

「少しよろしいですか?」

 

ラウラが静かに挙手する。

千冬は頷いた。

 

「ボーデヴィッヒ、発言を許可する」

「この件と今宮流星の不在に関連性は有るのでしょうか?」

 

ラウラは直球で皆の疑問を代弁する。

この場において話が進むよりも先に確定させて起きたかったのだろう。

彼女の的確な質問に千冬は淡々と返す。

 

 

「ある。一定ならば情報の開示も可能だ。──だが、お前達がこの件に関与する事を禁ずる。これは命令だ」

 

「どうしてだよ、千冬姉……!」

 

冷たく言い放つ千冬に一夏は眉を顰める。

千冬は強い視線で彼を睨んだ。

 

「織斑先生だ、莫迦者。───何故かだと?場合によっては戦争になりかねないからだ」

 

「っ」

 

「「「「「!」」」」」

 

一夏と代表候補生達は千冬の言葉に目を見開いた。

流星の様子から唯ならぬ事態である事は知っていた鈴や予感があった簪の二人でもやはり戦争という言葉を前には驚かざるを得なかったらしい。

ラウラのみは険しい表情ながらも驚いた様子はない。

 

「戦争……」

 

ポツリと簪は呟く。

おそらく姉はこの事態に関与している───。

ぎゅっと拳を握り締める彼女を横目に一夏は千冬の前に出る。

 

「なら尚更流星のやつを止めないと──」

「行ってどうする気だ?諜報員でもなければ、軍人でも兵士でもない人間に何か出来ると?──いくら訓練を積んだところで、お前は今IS頼りだ」

「そういう問題じゃないだろ。流星を見捨てろって言うのかよ?それにロシアってことは楯無さんも───」

 

それ以前の問題(・・・・・・・)だ」

 

ピシャリと千冬が強い口調で一夏の言葉を遮った。

 

「いいか───今宮流星はあくまで無国籍の人間だ。更識に関しては自由国籍であり現在はロシア国家代表。二人と違い───日本国籍のお前やその他の国の代表候補生が出張ればどうなるか、想像出来ん訳ではないだろう」

 

「……くそ……」

 

一夏は悔しげに唇を噛む。

千冬の言う通り国家間の問題になれば取り返しが付かない。

 

 

最も『それ以前の問題』という言葉には、別の意味も含まれていた。

流星は混雑した状況から更識関係者として動く判断をしている。

あっさりと────今後も暗部に関わる道を選択して、だ。

本来人に付随するべき倫理や道徳──大前提として少年の根幹にはその手の迷いなど存在し無かった。

善人(一夏)悪人(流星)の明確な差。

 

それが土壇場でどこまで響くか、当人達には分からない。

 

 

「そういう訳だ。流石に今回の件で何者かによる学園襲撃は無いだろうが、万一に備えろ。当たり前だがこの情報も機密扱いだ、他言すれば監視がつくことを心得ておけ」

 

千冬は一夏達の反応を余計な発言はしない。

この件には生徒会長も関わっており、彼女が独力でなんとかする可能性も十分あるという事も不要な情報であった。

…本当にこれで正しいのか。

そんな考えは彼女ですら持っていた。

 

 

「───」

 

───そんな中、静かに頷いて立ち去ろうとする水色の少女。

確かな足取り、そこからは強い意思を感じ取れた。

 

「ちょ──簪」

 

慌てて鈴が追いかける。

簪と彼女を追う鈴の2人を残った専用機持ち達はぽかんと見つめていた。

誰よりもショックを受けると思っていた少女の淡白な反応。

全員が違和感を覚えるのも無理はなかった。

千冬も止めはしない。

残った少女達へ開示出来る情報を提供しつつ、この場を後にした簪の行動に思考を傾けていた。

 

 

 

 

 

 

皆から少し離れた辺りで、鈴は簪の背後から声をかけた。

なんだかんだ専用機開発といい、付き合いはそれなりになる。

 

「何か考えがあるのよね?」

「ある」

 

即答に鈴はゴクリと唾を飲む。

流星が出ていった経緯を連絡した際の様子とはまるで別人であった。

 

「…鈴、本音を連れて来て欲しい。──まず『打鉄弐式』の装備を完成させる(・・・・・)…」

 

簪の言葉に頷きつつ、鈴は首を傾げる。

 

「わかった。けどどうするつもり?この状況じゃああんたも迂闊には…」

 

動けない筈。

鈴の当然の疑問に対し彼女は振り向かずにいた。

 

「大丈夫。少しなら動けるから。だって私も──更識だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…成程、してやられた───か」

 

部下からの報告に、男は表情を変えずそう呟いた。

危機感や焦燥感は彼の顔からは見られない。

窓の外へ視線をやり次の司令を部下に伝える。

 

 

「───ああそうだ。あの部隊を派遣してくれ。方針として数の有利を活かして消耗戦を仕掛ければそれでいい」

 

「─────」

 

男の言葉に端末の向こう側の相手は、確認をとる。

相手からすれば悠長に構える男の思考が読めないのだろう。

一方で男は資料を片手に返事をする。

そこに記されているのは更識楯無の戦闘データと、その機体の情報だ。

自国の機体───故に性能は把握しているが、それを十全に活かせる人間と真っ向から戦うのは得策ではない。

 

最初こそIS部隊を送り付けたが、短期決戦を狙った為敗北。

彼女の実戦における脅威度を再確認し、男はやむ無く自身達による早期決着に見切りをつけた。

 

部隊を動かせはすれど、騒ぎを別の派閥に悟られつつある。

別段強引な手段も可能だが楽に解決出来る方法があるならば、そちらの方が優先される。

 

────あくまで、更識楯無は脅威だが個人に過ぎない。

その狙いは恐らく福音のコア───ひいては井神来玖留だろう。

 

ならば──奴の計画通り日本人同士(ふたり)を争わせ、井神来玖留に勝たせるor彼女が負けた際に畳みかければいい。

 

────その為に合同軍事演習まで予め手配していた。

相手先はアメリカ。状況も加味すると互いに緊迫したものになるのは間違いない。

ただ、向こうも馬鹿ではない。探りを入れるならば合同演習を隠れ蓑程度に扱うだろう。本命の部隊がいるとすれば本国に送り込まれてくる筈。

となれば、此方の目論見はバレない。

まさか、演習でミサイルを打ち込む先に──お目当ての物があるなど夢にも思わないだろう

…利用する事になるとは思わなかったが、と男は静かに考える。

 

(いや、これもまたいい機会か)

 

稼働データもそれで取れるなら万々歳。

今国内の第三世代IS事情においても、『霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)』より『雷の修道女(グローム・モナヒーニャ)』が上である事の証明も出来る。

 

 

癪だがそう立ち回るのが賢い選択だ。

男は特殊部隊手配の為に、腰を上げ別室へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様、今日くらいもう休まれては如何ですか」

 

溜息をつきながら、虚は水色の少女へと視線を向けた。

ある日の生徒会室。

日は既に傾き始めており、黄金色の光が窓から射し込んでいた。

眩しかったのか虚は立ち上がり、ブラインドカーテンを閉める。

 

「確かに疲れてきたから早く切り上げたいところだけどね〜」

 

と、楯無は体を大きく伸ばしつつ声を漏らす。

仰け反る体、彼女の疲れる原因が大きく自己主張していた。

 

「…もしかして、気付いてないのですか?」

「ん〜、なにか忘れてたっけ?」

「───」

虚は再度溜息をつく。

表情からは呆れきっているのが理解出来た。

 

「え、なになにどうしたの?」

「重症ですね…。残りは私がやっておきますから、お嬢様はもう休んでいいですよ」

「え、ええ?ありがとう────?」

 

有無を言わさない迫力の虚に押され、生徒会室を楯無は後にする。

今日取り掛かっていたのは、生徒会の仕事兼ね『更識』関連のもの。

重要な部分は済んだとはいえ手伝いは呼べない状況であった。

 

善意というのは分かったがそれ程疲れているように見えただろうか?

楯無は疑問に思いつつも寮に戻る事にした。

どうせ今からやる事もない。

揶揄う対象のルームメイトも今日は不在であった。

───ピコン、楯無の姉センサーが反応した。

 

 

「あの、お姉ちゃん───」

「───あら簪ちゃんっ」

 

現れた簪に間髪入れず楯無は抱きつく。

疲れたところに現れた癒しの存在。無理もない。

 

「は、はなれて…」

「ごめんなさい。つい」

 

突然のリアクションに簪はなされるがまま数秒。

恥ずかしがりながら無理やり引き剥がし、向き合う形になった。

 

「何かしら簪ちゃん」

「そ、その…」

 

言い淀む簪を楯無はじっと待つ。

こうやって再び妹から話しかけて来るようになって少し。

もう幾らでも待っていられると彼女の言だ。

 

一方で簪もひと呼吸入れ言葉を発する。

最後に言ったのはいつだろうか。それもこのようにしっかり向かい合ってなど初めてな気さえする───。

 

 

「た、誕生日おめでとう───!」

 

「────え」

 

言葉と共に差し出されたアクセサリー。

それによって楯無はぽかんとした表情になった。

 

「これ、誕生日プレゼントだけど…良かったら…」

 

────そう言えばと思い出す。

今日は自分の誕生日で──────。

 

「…あれ?お姉ちゃん……?もしかしてイヤ、だった…?」

 

「ぎゃ、逆だからね!?簪ちゃん!!お姉ちゃん感動し過ぎて心臓止まりかけてただけだから!」

 

「そ、そうなの…!?でも心臓止まるのは駄目だからね…?」

 

「大丈夫よお姉ちゃんは不死身なの────というか、正直に言うと誕生日って事を忘れてたのよね…」

 

自身の誕生日を忘れていたという事実に多少ダメージを受けながら、楯無は遠い目で窓の外を見る。

 

ああ夕陽が実に綺麗である。

普段の生活の真っ黒さを忘れさせてくれる。

 

「って、折角簪ちゃんが祝ってくれてるのに黄昏てちゃ駄目よね。これってキーホルダー?……もしかして、簪ちゃんが鞄に付けてる奴とお揃い?」

「うん。自分でプレゼントなんて久しぶりで、折角だからお揃いのやつを買ってみたの…」

 

───くっ──眩しいっ!

楯無は目の前の妹を前に歓喜の涙を抑える。

仲直りした姉妹。その証拠と言わんばかりのお揃いのキーホルダー。

─────もうこんな日は来ないと思っていたのに────。

 

「───ありがとう。簪ちゃん」

 

思わず頬が緩む。

喜んでもらえるか不安だった簪も、その表情を見て微笑んだ。

 

「──さて、じゃあ一緒に夜ご飯食べましょう!何でも頼みなさい簪ちゃん!生徒会長権限でパーティーにするわよ!!」

「え?それって私が奢らないと意味が───」

「文句禁止っ!なんたって今日は私が主役なんだから───」

 

さあ、本音ちゃんや鈴ちゃん達も呼ぶわよ!と意気込む楯無。

簪と肩を組んで半ば強引に食堂へと連れて行く。

構内放送で大々的に行われる突然のパーティー。

理由はてきとうにでっち上げ、生徒会長権限と騒々しいお食事会が幕を開けた。

IS学園の生徒のノリの良さもここに極まれり。

盛り上がる食堂。並ぶ豪勢な食事。

費用の出処は考えないでおこうと簪は心に決める。

 

仕舞いには業務に励んでいた虚も引っ張り出し──誕生日パーティーは盛大に行われる事となった。

 

 

 

 

 

そして、日が完全に沈み就寝時間手前頃。

片付けも全て終えた楯無はご機嫌な様子で自室へと帰ってきた。

 

部屋の鍵が空いていることに気が付き、楯無は空けると同時に同居人に声をかける。

 

「帰ってきてたのね」

「ああ、用が早く済んだからな」

 

と、少年のくたびれ具合を一瞥しつつ楯無は自身のベッドへと腰をかける。

疲れはあるがそれよりもスッキリしている。

リフレッシュが出来たと言うべきなのだろう。

 

「なんかいい事があったのか?」

「ふっふ〜ん、当ててみる?」

「いや、いいさ」

 

ご機嫌な声色の楯無に少年は淡白に返す。

聞いて欲しかったが故に一瞬ムッとした楯無だったが、色々と察しは着いていたのかニンマリとした。

 

「そ・れ・で。今日は何を買いに行ってくれてたのかしら──?」

「………」

「今日が何の日か分からないなんて言わせないわよ?簪ちゃんにお揃いが良いって助言したの、あなたでしょう?」

 

椅子に座るオレンジ髪。

紅茶を飲んでいた手を止め、渋そうな顔をしていた。

紅茶が渋かった───訳ではなさそうだ。

 

「察しが良いのも問題だな」

「こうも褒められると照れるわね」

「皮肉だからな?」

 

少年は近くの棚を開き、中から紙袋を取り出す。

興味津々の楯無を前に出てきたのは──『編み物の基礎』と書かれた本。

楯無の表情が音を立てて固まった。

 

して数秒。楯無は冷ややかな目で少年を見た。

 

「──もしかして、小学生の頃は気になる女の子を虐めてた?」

「んなわけあるか。これは自分用だ」

 

意地の悪い笑みを浮かべつつ、満足気に彼はあるものを取り出す。

出てきたのは二枚のチケット。

それはあるテーマパークのものだった。

 

「ほら、プレゼントだ」

「これってあの有名な──」

「ああ。お前ってずっと生徒会とか家の仕事してるだろ?生徒会の通常業務は数日分俺が引き受けてやるから、今度の休みにでも誰かを誘って行ってこい」

 

手渡されたチケットを受け取る楯無。

彼女もまた呆れたようにため息をついた。

前に流れたテレビCMに一瞬意識がいったのを見られていたようだ。

 

「──こういうのって、男の子が一緒に行こうって誘うものじゃないの?」

「それをしたら誕生日プレゼントにならないだろ」

「変なところで律儀ね」

 

チケットを眺めつつ、楯無はちらりと少年を見た。

楯無は少しだけ不満そうに口を尖らせる。

 

「じゃあ明日にやること全部終わらせて、今度の休みに二人で行きましょう」

「え」

 

目をぱちくりさせるオレンジ髪。

まさか誘われるとは考えていなかったらしい。

 

「…分かった。なら尚更仕事を片付けないとな」

 

どかっと椅子に座り直す少年に楯無も頷く。

 

 

「言い忘れるところだった」

 

 

ハッと思い出したような表情を浮かべ、少年は告げた。

 

 

「ハッピーバースデー。おめでとう楯無」

 

 

───『ハッピーバースデー。おめでとう楯無ちゃん』

 

「───」

 

脳裏を過ぎる去年の記憶。

そう言えばこんな感じで祝ってくれた、なんてチクリとした痛み。

 

「どうした?楯無」

「ううん、なんでもないわ」

 

それを振り払うように、楯無は少年を揶揄う行動へと移るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「!───、」

 

意識が半ば強制的に覚醒した。

 

先の部隊による襲撃から四時間が経過した。

場所はモスクワから北東。丁度ヤロスラヴリという州に差し掛かる辺り。

楯無は一人、適当な木の影に座り込んでいた。

 

(これは思ったより厄介ね)

 

20分程の仮眠は終えた。

空は白み、もう夜が明けがかっている。

楯無は空を見上げながら周囲へと視線を移した。

 

───追手のやり方が明らかに変化していた。

明らかな非公式部隊+ISによる奇襲と撤退の繰り返し。

絶対に踏み込む事はせず、ダメージよりも楯無の疲弊を狙った動きは正直厄介である。

 

個人に対してはあまりにも有効な戦術。

来玖留のもとに向かいたい楯無としては早く振り切りたいところだが────。

 

「!」

 

気配と共に楯無の居る場所に閃光手榴弾が投げ込まれた。

彼女は即座にそれを水で包み、音を軽減。

光に関しては蒼流旋を盾にやり過ごした。

 

「っ」

 

そこへ小型のミサイルが一斉に飛来する。

都市部ではないとはいえ、なりふり構わない攻撃に楯無は思わず舌打ちした。

続くガトリング砲を横に転がる様にして躱しながら、楯無はISを完全に展開した。

 

 

────完全に夜が明ければ、振り切るのはさらに困難になる。

 

消耗は必然。

これ以上は無駄だと判断し、彼女は再度撃退へと身を乗り出す。

目指しているのはIS兵器の実験場でもあり、井神来玖留が潜伏しているであろう場所。

太平洋北に浮かぶ無人島であり、ここからは相当な距離がある。

ISで飛んでいく他ない。

 

彼女は追手を撃退しつつ、東を目指した。

 

 

 

 

 

───それから更に数時間後。

 

ゴトリと人が床に倒れた。

倒れたのはモスクワから退避出来ていない『更識』を狩らんとしていた者達。

全身を軽度ではあるが、武装しており体格はがっしりとした軍人のそれである。

─それらは井神来玖留の私兵であった。

数は8人───誰一人として立ってはいない。

 

 

一人少年のみ、それらの傍に立っていた。

防弾ベストに身を包み、関節部にはプロテクターも装備している。

あくまで動きやすさを重視している為か、気休め程度の装備である。

 

 

「よし、鈍ってはないな」

 

なんでもない様子で少年は呟く。

まるで久しぶりに競技をする選手のように、調子を確認する。

 

恐らく周囲には残りの私兵。

そろそろ異常に気付く頃合だと少年は冷静な思考を挟む。

聞こえる小さな足音。ピクリと彼は反応を示す。

 

準備運動は終わり。

──邪魔なものを蹴散らすべく今宮流星は再始動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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