IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

76 / 97
-74-

正直な話、父親はあんまり好きじゃ無かった。

趣味の悪いインテリアに高慢な態度。

挙句、(ウチ)が楯無ちゃんと仲良くし始めた頃からは更識更識と口煩くなった。

 

…厄介な事に、能力は間違いなく優秀だった。

線引きを決め徹底して周囲ごと政敵を葬るやり方は、強引さはあれど対暗部に相応しかった。

守る更識とは違い、排除に重きをおいた家系故に父親は悪人側の人間だった。

 

一応、次代としても期待されてた(ウチ)には優しかった。

口ぶりはアレでも父親。期待してたのだろう。

……そういう話になると、決まって暗い顔をする時があったケド。

 

 

そんな訳で、なんか色々企んでた父親が■されちゃった時は仕方ない(・・・・)って思ったし。

 

だってあの状況だと、下手すれば楯無ちゃんが■られてた。

正当防衛。そして父親の自業自得。楯無ちゃんを責めるほど(ウチ)も子供じゃない。

 

 

父親を■された後も、(ウチ)は普通に楯無ちゃんに接してた。

 

それなのに─────楯無ちゃんは時折辛そうにする。

だからさ、そんな顔しないでよ。

人を■す覚悟なんて楯無ちゃんもとっくに決まっていたでしょ。

あの当主の(かお)も本物だって(ウチ)は知っている。

友達の肉親だから?やめてよ。当主の時位は冷たいだけの人で居てよ。

───(ウチ)が普通にしてるのが、おかしいみたいでしょ。

あれは仕方が無かった。なのにどうして─────。

 

 

(ウチ)がひとでなしなのか、はたまた自分を無理矢理納得させているのか。

 

そんな疑問が自分の中で積み重なっていく。

 

 

そんな時だ。

(ウチ)は偶然、書斎の奥に隠された箱を見つけた。

 

そこにあったのは、父親の遺書。

書かれていたのは苦悩と(ウチ)への謝罪だった。

 

動機は思ってたのとまるで違った。

──(ウチ)を日本一の対暗部組織の長にしてやりたい。

歪んだ愛情が、狂気が───全ての発端だった。

この終わりも見越して、全て(ウチ)に伏せていたようだ。

 

本当に、頭の中がぐちゃぐちゃ。

締めに優しい言葉で飾らないでよ。気持ち悪い。

(ウチ)を心配するような事を書かないでよ。

嫌い、ホントに嫌い。無茶苦茶ばかりでこっちの気持ちとか考えないで、全部掻き乱して─────。

 

やっとそこで気付いた。

嗚呼、あんなんでも(ウチ)は好きだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───なんだ、元気そうじゃん。お茶でもする?」

 

「お生憎様、そんな暇は無いの」

 

井神来玖留の言葉に楯無は肩を竦めた。

廃棄された実験場。その屋上で二人は正面から睨み合っている。

 

建物の周囲には生い茂る緑。

錆びたパイプは建物の至る箇所に伸びている。

様子からして見えている部分だけでは無いのだろう。

地下にも空間がある。恐くそこを改造して拠点にしていたのだと楯無は考えた。

 

───自身達以外は誰も居ない。

来玖留は自らの手で仕留める気だと、楯無は悟った。

 

「井神来玖留、降伏してISのコアを渡しなさい。そうすれば──」

「命だけは助けられる?優しいね。でもさ、その話に(ウチ)が応じると思ってるの?」

「───」

 

来玖留の言葉に楯無は目を細めた。

彼女から叩き付けられる剥き出しの殺意。

楯無は改めて衝突は避けられないと理解した。

 

 

バチりと来玖留のまわりを銀色の電撃が走る。

同時に水滴が楯無の周囲に浮かびだした。

 

 

正面からぶつかり合う視線。

瞬きすら許さず、閃光と水流が炸裂した。

 

「「────」」

 

正面からの閃光。

湾曲して迫る水流。

互いに対しての先手は空振りに終わる。

元いた場所は攻撃を受け、砕け散っていた。

 

 

完全展開されたISはそれぞれ後方へ、空へと回避している。

 

緑の機体『雷の修道女(グローム・モナヒーニャ)』を纏った来玖留は口角を吊り上げる。

翳す掌──銀雷(セレブロ)と呼ばれる第三世代兵器が再び振るわれた。

 

 

(───フェイント)

 

潜り込んで反撃を一瞬考えた楯無。

だが、微かな来玖留の挙動の違和感から更に上空へと後退した。

 

銀色の電撃は虚空を割く。

晴れた視界に現れたのは数十発のミサイル。

楯無は蒼流旋の先端部によるガトリングで薙ぎ払うように撃ち落とした。

ガトリングとはいえ数多のミサイルを鮮やかに撃ち落とす様は、彼女のずば抜けた技術があってこそ。

 

残るミサイルを撃ち落とさず、楯無はアクア・クリスタルから水流を放った。

ミサイルを貫き爆風から現れる水流───しかし来玖留もそれを電撃を纏った大鎌で切り裂く。

 

水流を盾に瞬時加速(イグニッション・ブースト)をした楯無は、ラスティー・ネイル───蛇腹剣にアクア・ナノマシンを纏わせ斬りかかっていた。

 

 

「────ハッ!」

 

金属音が幾度も鳴り響く。

学園祭襲撃時とは違い、此度は屋外での戦闘。

旋回軌道を織り交ぜながら、二機は互いへ武器をより立体的に振るう。

 

リーチは来玖留、小回りは楯無に分がある。

空中での踏み込み、薙ぎ払い、腕や体による打撃。

一流のIS操縦者らによる剣戟に観客は居ない。

 

二戦目という事もあって楯無は無闇にアクア・ナノマシンを使用しなかった。

 

扱う場面は最小限の消費で済む場合だけと決めている。

故の蛇腹剣(ラスティー・ネイル)。鋭さを上げた高威力の一太刀を主軸に立ち回ろうとしていた。

既に消耗している楯無はあまり受けに回らない判断だ。

 

 

来玖留は片手で大鎌を振るいつつ、空いた手で銀雷(セレブロ)を放つ。

 

銀雷(セレブロ)は掌を起点に攻撃を放つ武装だ。

これはアリーナ地下や研究施設を破壊した時のように全身から出す場合も同様であり、絶対に起点が存在する。

 

「───」

 

(流石に銀雷(セレブロ)の特徴に気付いてるか───)

 

楯無はそれに気付いていた。

銀雷(セレブロ)の発動タイミングで後方へ距離をとる。

 

勿論、回避だけには留まらない。

攻撃を放つ来玖留を包囲するよう水流を走らせる。

狙うは放出直後のカウンター。彼女が楯無を狙う瞬間を突く───!

 

激しく逆巻く水流は来玖留へ向かう。

 

「──けど甘いかな、更識!」

 

来玖留は楯無から視線を離さずに声を上げた。

 

───水流は何かに遮られ消し飛ぶ。

来玖留の周囲に浮かぶのは緑の小型の機械───球状のドローンだった。

 

 

(───!)

 

楯無は反射的に全面に水の壁を作り上げる。

彼女のISが纏うアクア・ヴェールと同じく──アクア・ナノマシンによって作られたもの。

 

それは本来なら相手の攻撃を凌ぎ切る防御力を有していた。

アラートが遅れて鳴る。

バチりと雷──それは細く気付けば楯無の周囲から幾つも襲ってきた。

 

 

「───っ!!」

 

 

堪らず楯無は武器を振るうが防ぎ切れない。

彼女の防御や反撃も数の暴力を前には無意味だった。

小規模の爆発が数度起きる。

喰らいながらも楯無は来玖留から距離をとった。

 

 

当然、来玖留は追撃へと移る。

楯無の意識は即座に来玖留の武装へと向けられた。

電撃を纏った大鎌、掌から放たれるであろう銀雷(セレブロ)、腕部装甲についた小銃────そして、銀色の電撃を纏いながら宙を舞う小型のドローン。

形状は球、色は緑、装甲に覆われた見た目の割に素早い。

上部には小さなプロペラが1つ付いていた。

 

 

「逃がさないから」

 

 

ドローンは楯無が視認したもので八機。

それを来玖留は高速で周囲へと分散させた。

一方で緑の機体は一直線に楯無へ向かっていく。

 

近中距離対応の武装──銀雷(セレブロ)

基本的な弱点は無く、エネルギー問題も大半が解決。

攻守双方に於いて優秀のひと言に尽きる。

不得意な部分としては、精密な攻撃と手数。

 

「っ」

 

大鎌を受け流し、楯無は返しに水刃を繰り出す。

水刃は周囲からの複数の電撃により、瞬時に霧散した。

 

 

──このドローンは不得意な分野をカバーしている。

加えて、遠距離戦も可能にしていた。

 

「!」

 

来玖留に対し楯無は敢えて仕掛ける。

軸をずらしながらの宙返り(サマーソルト)で二発の電撃を躱しつつ、蒼流旋に持ち替え───振るった。

来玖留は反応して大鎌で受け止める。

大鎌に纏った電撃は水流で楯無には流れないように防いでいた。

重い一振りを受け止めた来玖留はすかさず掌を翳す。

 

「「─────」」

 

銀雷(セレブロ)を放たれるより早く楯無は機体ごと突進。

空中──ISで行っているが、中華拳法を応用した体当たりだ。

 

咄嗟に機体を傾け、スラスターからの出力も利用して来玖留は受け止める。

想定通り。

ドローンからの電撃をアクア・ヴェールを複製して受けながら────楯無はガトリング砲を接射した。

 

 

「チッ───」

 

面倒臭そうに来玖留が舌打ちする。

数発受けたが彼女は楯無を蹴りつけ、離脱。

彼女は掌を振るい弾丸ごと消し飛ばすように銀雷(セレブロ)を放った。

 

楯無は迷わず水流を生み出す。

格段に広い横薙ぎの閃光に対し、一本の槍のように水流を放つ。

 

 

 

両者の間で白い煙が噴出した。

 

 

 

「っ!」

 

地面スレスレまで下降する水色の機体。

何とか体勢を立て直し、空を見上げた。

 

緑の機体は未だ健在。

今ので微かにダメージは入ったが、それは微々たるもの。

消耗している楯無側からすれば厳しい状況だ。

 

 

「まさか、そんな武装を隠し持っていたなんてね」

 

楯無は眉を顰めながら来玖留の周囲へ視線をやる。

彼女の周りをクルクルと旋回し続ける十二(・・)機の小型ドローン。

ロシア軍の一派が全てを注ぎ込んだもう1つの武装───『天の球体(グラス)』。

関係者からは『目』と呼ばれているその武装は、銀雷(セレブロ)の技術とビット兵器の技術を組み合わせたものであった。

 

 

「驚いた?──しっかし流石じゃん。大ダメージ位は狙ってたのにしくじったかな」

 

「余裕ね。今この瞬間に仕掛けないなんて、臆病者なのかしら」

 

楯無は来玖留へ挑発的に話し掛ける。

対して来玖留は余裕を崩さない。

大鎌を肩に掛けながら、見下ろしていた。

 

 

「そりゃーさ余裕じゃん。ここまで準備してアンタを孤立させて、やっとこの場所まで来た。噛み締めて然るべきじゃない?────何より、優位なのは消耗してない(ウチ)の方。確実にしっかりと仕留めに行くに決まってるから」

 

 

相変わらずその辺は冷静らしい。

楯無は来玖留の発言から彼女の様子を頭に入れる。

短期決戦を狙いたい楯無だが、来玖留はそれを許さないだろう。

 

 

「なら正面から勝つまでよ」

 

蒼流旋の先端が跳ね上がる。

楯無はガトリングの引き金を引きながら横へと飛んだ。

 

「!」

 

楯無の直前まで気取らせない攻撃にも来玖留は即座に対応する。

弾丸を彼女は銀色の壁で防ぐ。

 

静止状態からの急加速。

それを追うべくドローンは蜘蛛の子を散らすように来玖留の周囲から離れた。

 

──水流がアクア・クリスタルから現れる。

来玖留の放つ電撃と相性が悪い事は勿論楯無も理解していた。

ドローン───もとい『目』から電撃が襲いかかる。

 

楯無はそれらを水流を駆使して逸らした。

逸れた(いかづち)は地面を砕く。

 

(ふーん、空気中の水分も利用してナノマシンの消費を抑えに来るか)

 

その分威力や精密さは落ちる、と来玖留は分析しつつ武装を展開する。

彼女の大鎌が量子化し、代わりに展開されたのはレールカノン。

長い砲身を慣れた手つきで構えつつ照準を楯無へと合わせる。

 

 

(くる───)

 

七機の『目』による電撃が背後や頭上から楯無へ迫る。

このドローンにはビット兵器とは違いわかり易い銃口が存在しない。

つまり射角が存在しない為、どこからでもどのタイミングでも攻撃が可能であった。

 

───ただ、タイミングに関しては微かに予兆がある。

バチりとドローンが電撃を纏う瞬間を楯無は見逃さない。

 

 

降り注ぐ(いかづち)を楯無は速度で振り切ろうとする。

 

 

(────!)

 

雷を避けた先へと放たれるレールカノンの砲弾。

電撃とは違い逸らすのは不可能。

楯無は迷わずアクア・クリスタルからヴェールを作った。

先までの消耗を抑えたやり方とは違う、完全なアクア・ナノマシンのフル活用。

 

 

翳した掌の先にできる水の壁は砲弾を受け止める。

衝撃の凄まじさを物語るように轟音が聞こえた。

 

 

「っ────!」

 

砲弾は通常のレールカノンのものと違い、銀雷(セレブロ)を組み合わせたものだった。

砲弾に纏わせた微量の電撃が防御に使ったアクア・ナノマシンの制御を奪う。

砲弾こそ凌いだが───と険しい顔の楯無。

 

 

即座に次弾──加えて『目』からの電撃が絶え間なく降り注ぐ。

楯無は水流で自身の軌道を強引に変え、ギリギリで回避する。

 

 

 

ドローン一機に狙いを定め、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で接近。

回避先を読んで水刃を叩き込んだ。

 

──『目』は銀色の光を纏い、何事も無かったようにそこにある。

 

 

(防御した───!)

 

ドローンの様子に楯無は目を丸める。

反撃とばかりに光を放つドローン達。

 

急いで回避に移るも楯無の左腕に電撃は直撃した。

 

 

「ぐっ──────っ!?」

 

 

小規模の爆発が起き、左腕の装甲に傷が入る。

体勢を素早く立て直して続く電撃を上空へと移動して躱した。

 

 

 

来玖留は依然として楯無との距離を保っている。

攻撃として放たれる水流や水刃、ガトリングを防ぎつつ警戒は怠らない。

 

ドローン達もまた楯無の一定距離には決して近付かない。

徹底した立ち回りだ。

 

更にはドローンも防御の手段を有している。

来玖留自体が自分を守ってたのと同じ銀雷(セレブロ)の応用だろう。

 

 

今の手応えからして、

────アレを突破するには出力(・・)が足りない。

 

 

「ほらもっと頑張れよ───更識ィ!」

 

 

思考を走らせる楯無に対し、真横から雷が襲いかかる。

 

十二機による波状攻撃を水流による逸らしと回避で凌ぎつつ、砲弾を蛇腹剣(ラスティー・ネイル)で切り裂く。

明らかに消耗を強いられている状況は変わらず。

 

完全に攻撃も凌ぎきれてはいない。

来玖留の方も楯無の動きにどんどん対応していっている。

 

(不味いわね)

 

胸中で呟く楯無へ、幾度目かの電撃が襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

───米露合同軍事演習。

それはロシアの空母にて、米軍より数多く提供された新兵器の数々を試す為のものであった。

位置としてはロシア、比較的公海が近いのは陸地から距離をとる為である。

 

数多くのアメリカ軍人が参加しており、比率としては空母内のロシア軍人を微かに上回る。

理由としては一部特殊部隊や精鋭が出払っていることもある。

 

本来なら何の変哲もない訓練。

大国同士といえど特におかしなものでは無いはずであった。

 

しかし状況は一変する。

ロシア国内で銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のコアの反応が現れ───すぐに消えた。

同時に起こる研究施設の事故。

 

軍事演習内、各軍に緊張が走っていた────。

 

 

 

(潜り込めた…か)

 

───そして、オレンジ髪の少年は空母に何とか忍び込んでいた。

彼が利用したのは補給艦。

空母の運用も含めての訓練の為、このような長期想定の行動も織り込まれていたのは幸いだった。

 

それを経由しての潜入。

ここまでの大掛かりなものは初めての為、彼としても賭けに近かった。

多少更識家の助言を聞いていたとはいえ現実感が未だない。

 

 

 

その場から人が居なくなったのを確認し、空母内の通路へ出る。

 

時刻としては軍事演習手前。

大抵の軍人は整備や確認、点呼の為に上階──外へ出ているだろう。

 

彼の格好はロシア軍の特殊部隊の服──先の追手の着ていたものだ。

不審な格好には違いないが他の格好よりはまだマシだろう。

 

補給艦の人間から奪う選択肢はあったが、それでは点呼のタイミングで異常事態だと察知される。

 

 

(それにしてもやけに広い。面倒だな)

 

大型の空母故の広さに流星は溜息をつく。

彼の狙いは弾道ミサイルの制御基盤や周辺装置、発射台──どれかの破壊。

 

弾道ミサイルそのものを攻撃して破壊も選択肢にはあるが──それはあくまで最終手段であった。

 

戦闘機の破壊は視野に入れていない。

IS相手の戦闘機は自殺行為だと全世界共通の認識だからだ。

弾道ミサイルのような破壊力と突発性のみが、不意打ちとして機能する。

それでも混沌としている場に打ち込む前提───ISのトンデモさを改めて思い知る。

 

 

閑話休題。

 

ISのセンサーで探知していた地図からして、通路は食堂を横切る。

今の時間ならば居ても少数。

不審がられない程度に素早く横切ろうとして──────。

 

 

「おーい、コックを見なかっ───たか?」

 

「!」

 

アメリカ国家代表IS操縦者──イーリス・コーリングと鉢合わせた。

それも向こうは誰かを待っていたらしい。互いに実力者であるせいで物音も最小だった事が災いした。

 

「あん?ロシア軍の勲章?にしては珍しい服だな」

 

「申し訳ない。急いでいるので」

 

咄嗟に帽子を深くかぶっていた為、顔は直視されていない──筈だ。

言語も辛うじて対応出来た。

彼女に背を向けそのまま歩く。

 

驚きはしたが向こうも流星とは分かっていない。

他国の人間と思われる相手に突っかかることは避けるだろう。

 

───そう、相手がイーリスでなければの話。

 

 

「いいや、待ちなそこの軍人。帽子をとって顔を見せろ」

 

「…」

 

カチャリと拳銃の銃口が向けられる。

彼女の嗅覚とそれに従う胆力に流星は内心舌打ちした。

 

「おら、早くしねーとぶち抜くぞ。アタシは気が長い方じゃないのは知ってるだろ」

「面倒な────」

「!」

 

流星は振り返りざま帽子を投げ、姿勢を低くして足払いを見舞う。

銃声と共に帽子に穴が空く。

イーリスは驚きつつも足払いを後方へ躱した。

 

「成程、お前か──!今宮流星───」

 

すかさずイーリスは空いた手でナイフを抜く。

姿勢を低くしたまま踏み込んできた流星目掛けてソレを振るった。

 

両者の間で金属音が響く。

鋭い少年の突きをイーリスは弾いて逸らしていた。

 

「やっぱりやるなお前!」

「そいつはどうも!」

 

拳銃を再度向けられるより速く少年は前へ出る。

ナイフを滑らし、狙いをイーリスの脚へと変えた。

 

「!」

 

イーリスはナイフを投げる。

狙いは少年の頭──勿論少年はそれを躱す。

ただし少年のナイフはそれにより軌道が変わる。

 

イーリスの拳銃は弾かれ、通路へと転がった。

 

ISもある──これ以上は時間の無駄と少年は大きく後退した

二人は睨み合う形になる。

イーリスはナイフをクルクルと回しながら口を開いた。

 

「まさかお前も関わってるなんてな。更識楯無を助けに来たか?」

「……さあな」

「いいや答えてもらうぜ今宮───福音のコアの在処を知ってるんだろ?」

「知るか──自分で考えろ」

 

イーリスの問いに流星は取り合わず。

懐から何か取り出し、ピンを抜いた。

 

投げ捨てられた閃光手榴弾はイーリスの目の前で炸裂する。

その瞬間に少年はISを展開し通路を高速で移動した。

狭い通路だがスラスターを調整すればギリギリ飛行が可能。

『時雨』の小柄がここで活きる。

 

態々時間を食う必要はないと彼は目標へと急いだ。

 

 

「こんなので振り切れるかよ、このタコ!」

 

「無茶苦茶だな…!」

 

流星は煩わしそうに背後へ視線をやる。

狭い通路を無理矢理ISで飛行し、流星を追い掛けるイーリスの姿があった。

震える牙(ファング・クエイク)』──アメリカの第三世代ISだ。

安定性と稼働効率が優れた、高機動近接格闘機。

装甲も分厚く──このような室内でのぶつかり合いとなれば、小柄な『時雨』は不利だ。

 

 

(曲がり角で振り切れるか───?)

 

無理矢理進んでくるイーリスも、曲がり角をあの機体では通りきれない。

下手に攻撃は行わず流星は角を曲がった。

 

ニタリとイーリスはそこで笑みを浮かべる。

彼女の背後のスラスターが一斉に大きな光を放った。

 

 

「舐めんな───!!」

 

「!!」

 

急加速と同時に通路の壁が打ち砕かれる。

曲がり角で減速するどころかイーリスは加速し───曲がり角自体へ突っ込んできたのだ。

 

 

一気に詰まる距離。

勢いに任せイーリスは拳を振るった。

 

 

「っ!」

 

即座に振り返り流星は両腕で彼女の拳を防御する。

しかし受け止めきれず、彼は遥か後方の壁まで殴り飛ばされる事になった。

 

壁にクレーターが出来、そこから流星は崩れ落ちそうになる。

震える牙(ファング・クエイク)』の出力を身をもって体感した流星は正面のイーリスを睨みつつ静かに立つ。

未だ両手は痺れていた。

 

 

「答えりゃ少しは優しくしてやるぜ?ナタルの恩もあるしな」

「なら見逃せよ、脳筋女」

「そいつは無理だ。とっ捕まえてナタルへの手土産にすんだよ」

 

よりによって1番面倒なのに見付かった、と流星は悪態をつく。

当然アメリカサイドからすれば、情報を握っているであろう流星は是が非でも確保したいだろう。

更には男性IS操縦者という観点もみれば、余計にだ。

 

───だが、と流星は考えを変える。

流星のこの空母での目的をイーリスが知る術はない。

 

異常事態を知らせるベルが鳴り響く。

騒ぎになった以上、更に猶予は無くなった。

 

彼女が周囲を気にせず戦闘を行うのならば、利用してやればいい。

戦闘しつつ目的の物周辺まで突き進む────!

 

彼の鋭い視線を見て、やる気と悟ったイーリスは好戦的な笑みを浮かべた。

 

 

「アー・ユー・レディ?」

 

「───」

 

言葉を返すこと無く彼はアサルトライフルを構えた。

引き金が引かれ、狭い通路の中銃弾がイーリスへと襲い掛かる。

 

イーリスはそれをヒュゥ、と口を鳴らながら構わず流星へと突っ込んだ。

鉄拳を躱し、流星は横へ一歩飛ぶ。

ISを部分展開へと変えて通路を転がるように距離をとる。

 

小柄な『時雨』といえど、ここまで狭い空間ではこうでもしないと小回りは活かせない。

身体を反転させた直後、彼の手にはグレネードランチャーが握られていた。

 

 

「ハッ──!」

 

同様にISを一瞬部分展開へと変え、イーリスは天井を蹴る。

標的を失った榴弾は通路の壁を爆破し──周囲を破壊する。

 

 

イーリスは片手にIS用のナイフを握り、彼に切りかかった。

流星もまたナイフへと持ち替え応戦───数度切り合い後方へとスラスターの出力任せに離脱する。

 

イーリスはそれを逃がさないようにISを完全展開し、一気に距離を詰める。

周囲の通路などお構い無しの拳を振るっていた。

 

流星も目的の為に上手く立ち回れてはいる。

しかし、相手はアメリカ国家代表IS操縦者。

狭い通路の中躱しきれず機体による突進を受け、壁に叩き付けられる。

 

「っ、」

 

肺から強制的に息が吐き出され、瞬間的な呼吸困難に。

続く追撃を彼は体術でいなす。

 

 

そうして、飛び道具を展開。

ヒットアンドアウェイに徹しつつ、通路を逃げ回るように戦闘を続行した。

 

 

 

そして、戦闘開始から数分が経過した辺りで─────ソレはやってくる。

 

 

 

「「!!」」

 

 

地響きとも取れる振動が二人のいる地点まで伝わってきた。

無論海上である空母において地震はこのように影響しない。

爆発音だと二人は瞬時に判断し、互いに飛び退いた。

 

 

───轟音と共に二人の真ん中の天井が崩れ落ちる。

現れる1人の女性────ISを纏い、周囲に水流を浮かべたその者は流星の方へとランスを構えた。

 

 

「動くナ、動けば分かるナ?」

 

 

侵入者を捉えるべく現れた狐目(・・)の女性は、してすぐハッとした表情になり怪訝な表情で首を傾げた。

 

 

「────どうして貴方、お姉さまト同じシャンプーの匂イがするノ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






─────変態(ログナー)強襲☆
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。