IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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飛び交うシールド・ビットからの閃光。

小型レーザー・ガトリングによる掃射も相まって、そこは回避は更に困難になっていた。

 

曇天と海の狭間、少年はアサルトライフルで牽制しつつ何とか距離を取ろうとする。

弧を描く閃光は少年を側部から撃ち落とさんと動く。

 

追い詰められながらも、彼は冷静にソレを避けた。

避けた直後にグレネードランチャーに持ち替え、狙いをシールド・ビットへ。

無論ビットは榴弾を避け、直後に反撃に出る。

少年の命を繋いでいるのはその一瞬であった。

間に合う回避。

そんなギリギリを繰り返している。

 

 

「───」

 

「……」

 

エムはその様子に不信感を抱く。

そこまでして、まだ何かあるというのだろうか。

この状況下で自身を出し抜く要素は無い筈だ。

 

(いや─────)

 

眼前の少年はそのような物差しで測っていい相手ではない。

先のような破綻した戦法さえとる。

最悪相討ち狙いで動いてくるかもしれない危うさも存在していた。

 

 

エムは敢えて思考戦闘を放棄し、純粋な戦闘能力だけで迎え撃つことを決める。

仮に不意を打つような行動を起こされようとも、そこに反応し対処すればいい。

 

故に手を緩めず、彼女は距離を詰めながら少年の逃げ場を奪っていく。

彼の背後に見える海面に閃光が着弾───歪な形の水柱が立つ。

 

そして、急加速からの一閃が見舞われた。

振るわれるナイフを流星は同様にナイフで受け流す。

 

即座に離脱───迫るシールド・ビットの攻撃には当たらない。

 

 

 

 

 

 

 

迫る閃光を彼はただ回避し続ける。

攻撃は機体を掠め、装甲の表面が少しずつ焼けていく。

シールド・エネルギーの温存の為彼自身は無防備を晒し続けている。

これ以上の消耗は許されないと彼自身は退路を断ったのだ。

 

そこに一切の躊躇は見られない。

 

 

「────」

 

牽制に使っていたアサルトライフルがここに来て閃光に貫かれた。

すかさず手を離し、彼は爆風よりも先に後退する。

 

「!」

 

牽制が無くなる一瞬、偏向射撃(フレキシブル)による追撃が数を増す。

残った四基による閃光は四方から少年を囲う。

加えてエムは銃剣────『星を砕く者(スターブレイカー)』の引き金を引いた。

 

少年は右へと近接ブレードを放り投げ、盾替わりに。

爆発の横を抜ける形で包囲網をくぐり抜けた。

 

 

「────」

 

(来るか────)

 

瞬間───大きく円弧を描くように飛びながら、彼は青の蝶へと向かう。

即座に追うシールド・ビット。

彼は振り返ることも無く、手榴弾を数個落としていく。

回避の為に包囲が数瞬遅れる────少年は瞬時加速(イグニッション・ブースト)により更に加速した。

 

手にはグレネードランチャー。

狙撃によるレーザーを腕を軸に回転して躱し、突き出したグレネードランチャーの引き金を引く。

 

榴弾をエムはシールド・ビットで狙撃し、撃墜する。

爆煙よりも先に彼女は動く。

今度はエムの方が爆煙を利用し、強襲する。

 

「!」

 

流星が目を見開く。

視界が晴れる瞬間、加速して斬りかかってくるエムの姿。

振り下ろされる銃剣を槍で受け止める。

 

「ッ!!」

 

ビリビリと身体に伝わる衝撃に苦悶の表情を浮かべる。

すかさず反撃を警戒して一歩下がるエム───そこへグレネードランチャーを見舞おうとするも────上空から湾曲した閃光が襲いかかる。

───狙いはグレネードランチャー。

少年の攻撃手段を奪い尽くすつもりだ。

 

堪らず横へとそれを投げ出し、両腕を交差して防御姿勢をとる。

勘通り、閃光はグレネードランチャーを撃ち抜き爆散した。

爆風に煽られ左腕に火傷が出来る。

散った破片で切り傷もでき、血が舞った。

 

 

「──────」

 

 

その中でも少年は機を待つ。

無量子移行(ゼロ・シフト)』───それはあまりにも無茶な技術だ。

狙って扱うものでもなく必殺といえるものでもない。

現に国家代表IS操縦者達で見ても、使える者は極小数だ。

 

─────これは高度な空間把握能力と戦闘経験から来る読みや超速の反応が必須だって更識が言ってたっスね──。

 

小柄な先輩の話が脳裏に浮かぶ。

『撃鉄』で零距離射撃を撃ち込んだ──あの時の感覚を思い出す。

 

 

更にそれよりも早く。

更にそれよりも自然に。

選ぶのは当然、あの武装─────。

 

 

「─────────」

 

 

自分が息をしているかも、少年は曖昧だった。

完全にISと一体化したかとすら錯覚する。

コマ送りになる景色。

死の予感すらも遥か遠くにある。

夢か現か────脳裏で掌に金属を握り込む感触が先行した。

 

 

 

 

───銃声が聞こえた。

銃弾は何も無い虚空(・・・・・・)から、銃身と共に姿を顕す。

 

 

 

 

「──────ッ!?」

 

 

 

行使されるゼロ・シフト。

エムが流星へと狙撃を目論んだ刹那の間に、カウンターとして放たれた。

如何にエムといえど神がかり的な狙撃を前には、反応など出来るはずもない。

 

「ぐっ!?」

 

───撃ち抜かれたのは銃剣────それは爆散し、エムの身体が後方へと仰け反る。

だとしても彼女はこの程度では墜ちない。

少年の追撃を確信し、手にナイフを持ち、シールド・ビットを走らせた。

 

 

「────」

 

少年も畳み掛けに出る。

がむしゃらに推進翼(スラスター)の出力を上げ、一直線にエムへと突っ込んだ。

手にしていたスナイパーライフルは量子化され、黒い槍を右手に展開した。

 

 

 

「「────っ!!」」

 

 

ギリギリで流星とエムの間にシールド・ビットが割り込む。

自爆機能を持つソレに流星は迷わず槍を投擲した。

 

(────槍までも捨てるだと─────!?)

 

シールド・ビットを貫いた槍はそのままエムの方へ。

彼女は槍を受け流し、突っ込んできた流星へとナイフを振るう。

 

「────」

 

流星はナイフを歯牙にかけなかった。

防御も回避も、もう必要ないからだ。

(から)の両手──完全にエムの意識からある武装が消えていた。

 

 

 

この一瞬に於いて本来ナイフより早いなど、誰が考えるだろうか。

 

 

 

 

─────二度目のゼロ・シフト。

展開されていたのは、拳銃型の特殊兵装『シリウス』。

特筆して威力が高い訳ではないが、『時雨』では一番威力がある兵装。

 

エムの損傷具合もそれなりだ。

防御もなしに零距離で叩き込まれればどうなるか、言うまでもなかった。

 

 

 

 

炸裂する青白い光。

それは青の蝶を爆発と共に吹き飛ばした───────。

 

 

 

「ッ──、っぁ、ああ……ッ────!」

 

 

爆発により砕けた装甲の破片と火傷が彼女に刻まれる。

絶対防御により致命傷には至らない。

しかし、代償としてエネルギーは殆ど失う形になった。

 

限界が来たシールド・ビット『エネルギー・アンブレラ』は量子化。

『サイレント・ゼフィルス』は破片を巻き散らしながら、緩やかに落ちていく。

 

 

「……ッ……!!」

 

 

落ちる青の蝶。

殆ど剥き出しになったエムは、足掻くようにその手を上空へと伸ばしていた。

 

 

「──ま、だ……だ!私は──私は────こんなところでは────!」

 

 

まだエネルギーは完全に尽きてはいない。

小型のレーザーガトリングを展開し、上空にいる灰の機体へと銃口を向けた。

 

 

「ちっ、しつこい─────」

 

 

流星もサブマシンガンを向ける。

彼と違いエムの方は推進翼(スラスター)も破損しており、移動はままならない。

仮に出来ても動き回る事は不可能だろう。

 

 

 

これで終わらせる。

流星が引き金を引いたところで、声が聞こえた。

 

 

 

「悪いけど、それは困るのよ。今宮流星」

 

 

「!!」

 

 

エムと流星の間に金色の何かが割り込んだ。

金色の繭───それは双方の攻撃を無力化し、中に居た金色のISが姿を現す。

 

金色の機体は瞬く間にエムを拾い上げる。

 

「スコール……ッ」

 

「大人しくしなさい。貴方もおしおき(・・・・)は嫌でしょう?」

 

「ッ」

 

殺気の篭ったエムの視線をものともせず、スコールと呼ばれた女性はそう告げた。

押し黙るエム。スコールはやれやれといった表情である。

 

 

 

流星はそれらを見て眉を顰める。

銃口を向けたまま心底不機嫌そうに、スコールを睨み付けていた。

 

 

「…またお迎えか。過保護が過ぎるぞ」

 

「それもそうね。でもこの子をここで失う訳にもいかないのよ」

 

「…理解できないな。それなら始めから二対一で戦えば確実だっただろ」

 

「生憎こっちも調べもので忙しかったの。それに、来玖留(依頼者)に余裕がある内は私も警戒されていたから───ね?」

 

「───!」

 

スコールの発言に少年はピクリと反応を示す。

その様子を見てとった女性は愉しそうに微笑んだ。

 

「行かなくていいのかしら?」

 

「……っ」

 

恐らくスコールの話している事は事実だ。

男性IS操縦者とそのISの希少価値を考えれば、見ているだけは有り得ない。

加勢出来なかった事もエムを回収に来たのも嘘ではない。

女性がここで戦闘を仕掛けないのも、エムを守りきれないからだ。

 

今、優先すべきは───。

 

 

「──……」

 

 

流星はスコールやエムに目もくれず、無人島の方へと進路をとった。

警戒だけは緩めずに加速して目的地へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無が展開した赤の翼───その正体は専用機専用パッケージ『オートクチュール』であった。

楯無が学園祭の時に、流星の装甲と共にこっそり手配していた───もしもの切り札。

 

────名を『麗しきクリースナヤ』。

 

アクア・ナノマシンが超高出力モードへと切り替わり、その色を赤へと変化させる。

その状態で出せる奥の手こそ、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)沈む床(セックヴァベック)】だ。

 

それは超広範囲指定型空間拘束結界──かのA I C(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)すら凌駕する拘束力を誇る。

 

 

 

「ッッ────!!」

 

 

空間に沈むように対象を拘束する。

まさに現在進行形で【沈む床(セックヴァベック)】の威力を体感する来玖留の胸中は穏やかではなかった。

 

周囲のドローンまでも拘束されている。

先までの動きやドローンの特性の把握も全て布石だった。

全てのドローンと来玖留本体を捉える為の────。

 

 

「────やってくれるじゃん……ッ!」

 

 

空間に沈みながら、バチりとドローンが電撃を放つ。

しかしそれよりも先にドローンのひとつが逆巻く水流に押し潰された。

 

「くッ!?」

 

ドローンの防御も関係がない。

楯無側でアクア・ナノマシンを確実に消費はしているが────ドローンを確実に潰せるなら、もうなりふり構ってられないのだろう。

 

 

(出力で突破される────)

 

数瞬の内に来玖留の肩あたりまでが空間に沈む。

スラスターは機能しない。

銀雷(セレブロ)を普通に放っても拘束を即座に解くのは不可能だ。

 

身体のすぐ周囲のナノマシンを振り払っても、すぐに動けるようにはならない。

周囲を取り巻くアクア・ナノマシン全てを吹き飛ばす程の威力で無ければ意味が無いだろう。

 

───いや、最早威力だけではどうしようも無い。

周囲にあるアクア・ナノマシンが多いのも先の攻撃でばら蒔いていたからだ。

冷静な分析が自身の劣勢を嫌でも思い知らせてくる。

 

 

「終わりよ────」

 

更識楯無は『ミストルテインの槍』を発動している。

集まった水は槍へと形を変え─────彼女の右手に。

彼女と来玖留の距離は50mと少し。

ISならば瞬き程の距離───振りほどくのは間に合わない。

 

「───」

 

喉の奥が乾く。

あれはエネルギー総量だけでも小型気化爆弾四個分相当のものだ。

超振動破枠による装甲への威力は必殺に相応しい。

まともに喰らえばどうなるか、来玖留の脳裏を敗北の二文字が過ぎる。

 

 

──あの更識当主に──(ウチ)が──負ける───?

 

 

「舐め────るなァ─────ッ!!」

 

「!!」

 

凄まじい轟音と共に、固定されていた『目』(ドローン)に亀裂が走る。

ドローンは銀色の眩い光を放ち、来玖留へと(・・・・・)電撃を飛ばす。

 

『ミストルテインの槍』が振るわれる。

 

出力限界を超えた全てのドローンは爆散した。

だが、集まった(いかづち)は来玖留の周囲のナノマシンの大半を焼き払っている。

 

 

 

当然来玖留自身へもダメージはあった。

しかし、こんなもの────と彼女は右手に莫大な量の銀雷(セレブロ)を宿し、楯無へと振るった。

 

 

 

 

「「────!!」」

 

 

 

 

それぞれの最大出力がぶつかり合い、島上空に凄まじい爆音が響き渡った。

爆発は凄まじく曇天を風圧で吹き飛ばす。

 

 

 

 

何処までも続く薄暗い雲の海に、ポッカリと空いた穴。

射し込む陽光に照らされながら、爆煙から落ちる二つの影。

 

 

「ッ……ぐ……っ!」

 

 

「がッ……く……!」

 

 

地面にスレスレで持ち直す二機。

水色の機体は纏っていたアクア・ヴェールも無くなり、装甲も殆ど剥がれ落ちていた。

 

諸刃の剣である『ミストルテインの槍』の性質と、来玖留の武装への相性上───楯無の方がダメージが大きいの必然だ。

 

額から血を流し、片目が塞がれた。

右手は衝撃で骨が折れたのか動かない───。

楯無は朦朧とした意識を何とか手繰り寄せ、左手で蒼流旋を握る。

 

 

来玖留もまたかなりのダメージを負っていた。

装甲はいたるところに亀裂が走り、彼女の右手もまたボロボロだ。

楯無と違い動かせるが、損傷具合からして銀雷(セレブロ)はもう最高出力で出せない。

 

来玖留も大鎌を握り締めた。

 

 

 

「「────」」

 

 

二人は同時に飛び出す。

上空でぶつかり合う水色と緑色。

大鎌を蒼流旋(ランス)が弾き、切っ先が楯無の頬を掠める。

 

赤い線が出来るが楯無は気にせず踏み込んでいく。

来玖留もまた蒼流旋の突きを綺麗に横へ受け流す。

金属音と共に散る火花。

大鎌の柄の部分を器用に回し、切っ先を楯無の方へ振るい直す。

 

「!」

「まだまだァ───!」

 

来玖留の加速。

楯無は推進翼からの出力を減らし、わざとタイミングをズラす。

それも分かっていたと来玖留は踏み込み、大鎌を振るう。

 

「ッ」

 

勢いを付けた一振りを受け流す事が出来なかった。

正確には受け流す事を許さないと来玖留が角度をズラし、切り込んで来たからだ。

 

蒼流旋で受け止める─────力任せに振るわれ、楯無の身体は地面の方へ。

来玖留は追撃に走る。

 

「───」

 

楯無は迷わず蒼流旋の先端を上空へ向けた。

先端からガトリングが掃射される。

 

来玖留はそれを横へと身を翻して躱す。

すぐに立て直す楯無。

再度二機間の距離が無くなる。

 

楯無は瞬時に蛇腹剣(ラスティー・ネイル)に持ち替えた。

 

微かに水を纏わせる。

それを見て来玖留もまた大鎌に大量の電撃を宿した────。

 

 

(これをできる回数も残り僅か。けど───そっちのナノマシンももう無いよね────!)

 

「ッ!!」

 

蛇腹剣(ラスティー・ネイル)が音を立てて砕け散る。

力任せの出力と電撃を加えた大鎌。

普段の楯無なら数太刀は受け流せるが、最早その余力も残っていない。

 

 

───そして、更識楯無の勝ち筋はこの時点をもって完全に消失した。

ISのエネルギーもじきに尽きる。

来玖留はこの事実を口角を上げつつ理解する。

 

 

もうすぐだ。

もうすぐ自分の目的は達成される。

衝動的なものに彼女は突き動かされつつ、大鎌を振るい続ける。

 

 

蒼流旋を展開し、楯無は足掻く。

しかし来玖留の斬撃を防ぎきれず、彼女の白い肌に赤い線が増えていく。

片目が塞がれているのも作用し、腹部に切り傷が出来る。

 

 

来玖留が勝利の愉悦に浸る──も長くは続かなかった。

 

 

(────)

 

 

───どうして、この斬り合いは終わらないのか。

純粋な疑問が彼女の頭を支配する。

 

 

一太刀を浴びせ、傷が増える。

致命傷に到るようなものは付けていないが、それでも確実に来玖留は勝利へと突き進んでいる。

 

逆に更識楯無はもう詰み状態。

致命傷こそ避けているものの、逆立ちしても彼女が勝つ事は不可能だ。

何か次の行動を起こせばその時点でエネルギーも機体も限界が来ることは、来玖留からでも見て取れる。

 

 

─────それなのに彼女の双眸は、まだ死んでいなかった。

 

 

(───その眼─────)

 

ギリッと歯軋りの音が聞こえた。

どうしてこの斬り合いがあっさり終わらないか。

───そんな事、誰よりも(・・・・)知っている。

当たり前だ。

こんなものでは終わらない。終わるはずがない。

かつて憧れた女が、このままな筈がない────。

 

 

 

『楯無』は楯が無くとも守りきるという、決意の表れ───。

そして────比類なき堅固な鎧の名。

 

 

 

(赦さない、赦さない────赦さない────!)

 

 

アレは紛れもなく井神来玖留の敵だ。

友人を騙る楯無の器、自身の父を殺した当主の(かお)

 

大鎌を持つ手に力が入る。

攻撃の速度が更に上がった。

井神来玖留は国家代表IS操縦者と遜色ない実力を持っている。

更には対暗部組織の次代当主として、あらゆるものを叩き込まれており素の戦闘スキルも高い。

 

 

一際大きな金属音が聞こえた。

 

 

限界間際の楯無の手から、蒼流旋が弾かれる。

 

「ッ……っ!」

 

そこへ蹴りが入り、楯無の身体は遂に地面へと墜落した。

 

 

「終わりだ──────更識ィ!!」

 

大鎌に電撃を纏わせ、来玖留は上空から振りかぶる。

楯無の蒼流旋は遠くに落ちた。

量子化はされておらず、地面に刺さったままである。

 

 

トドメを刺そうと大鎌を振るう瞬間─────楯無は静かに呟いた。

 

「ごめんね、来玖留」

 

「─────ッ!!」

 

優しい声色。

心の奥底にあるあの景色が来玖留の中に蘇る。

楯無の言葉は、ある結末を見据えてのものだった。

 

 

─────楯無の左手に水が集まっているのを来玖留は見た。

 

 

全て使い切った筈のアクア・ナノマシン。

アクア・クリスタルは既に消えており、彼女の纏うISにもアクア・ヴェールは一切見られない。

 

だが、地面の隙間から水流は確かに─────楯無の掌に集まっていた。

 

 

楯無は来玖留と攻撃をぶつけ合う直前に、一部ナノマシンを逃していた。

 

 

「────な─────」

 

 

形成されていく『ミストルテインの槍』。

先までのサイズではなく、万全でないのは明らか───しかしそれでも来玖留に致命傷を与えるには十分。

 

 

問題があるとすれば────今度は楯無自身が跡形もなく吹き飛ぶ点。

 

 

ISのエネルギーも今で尽きただろう。

来玖留の勝利が決まった時、楯無は己すらも切り捨てたのだ。

 

ここで来玖留と相討ってでも、他を守る為──────。

 

 

「ッ──────!!」

 

防御も捨てた楯無のカウンター。

来玖留の大鎌が微かに先に楯無の首を刎ねるとしても、そのような結末を彼女は受け入れられなかった。

──────何処までも気に入らない。最後の最後まで─────!!

 

 

 

 

水の槍が来玖留へと叩き付けられようとする。

来玖留と楯無の戦いは相討ちで終わる──────筈であった。

 

 

 

 

「「!!?」」

 

 

 

───轟音と共に『雷の修道女(グローム・モナヒーニャ)』が遥か後方へ蹴り飛ばされた(・・・・・・・)

 

空振る互いの攻撃。

エネルギーが尽きたのを物語るように水の槍は空気に溶けていく。

 

 

何が起きたか分からないとポカンとする楯無。

 

割って入った灰の機体は蹴りの勢いを殺すべく地面を少し滑走し、ゆっくりと降り立つ。

 

 

「────え」

 

 

有り得ない光景に彼女は目を丸めた。

装甲はボロボロ、操縦者自身も楯無に負けず大怪我と酷い様相だが────見間違いはしない。

特徴的なオレンジ髪の少年───そんな人物は一人しかいない。

 

 

「どう、して─────?」

 

 

辛うじて絞り出した言葉に、灰の機体は振り返らず。

確かな声色で後方にいる楯無に答えたのだった。

 

 

「約束、果たしに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───約束。

その言葉の意味が私には一瞬分からなかった。

けど直後に思い出す──あの時の彼らしからぬ言葉(・・・・・・・・)

 

『お前が俺を守るって言うのなら、俺もお前を守る』

 

───らしくない、本当に彼らしくない意地を張ったもの。

到底約束なんて呼べない何気ない会話に過ぎない。

そんなものの為に来たのだろうか……来てくれたのだろうか。

 

あらゆる感情が入り混じる。

あくまで彼は無関係だ。

これは未熟故の私の罪───だから誰一人として巻き込まない為に戦ってきたのに。

やっと手に入れた平穏に居させて上げたかったのに────。

 

 

「……状況がわかってない訳じゃないでしょう!?」

 

「ああ。でも柄にもなく言っただろ。守るって」

 

問い詰めるような私の言葉にも彼は優しい声色で答える。

守る?私を?理解ができない────だって。

 

 

「…その必要は無いわよ。だって私は更識楯無なのよ?」

 

「知ってるさ」

 

彼は呆れたように頷く。

表情はここから見えないが、溜息をついたのは分かった。

 

 

「私、そこまでして貰う資格もないの女なのよ?───私が貴方について探り直してたのだって、気付いてたんでしょう……?」

 

「ああ、知ってる」

 

臨海学校の後から少しずつ彼の周辺について探っていた。

勿論、気付かれるようなヘマはしていなかったけど、彼は薄々察していただろう。

───なのにそれすら受け入れると、彼は言うのだろうか。

そんなの───有り得ない。

 

「だったら、どうして───!」

 

「ああもう────今宮流星(オレ)にはお前が必要だと思ったから来たんだよ!分かれ馬鹿楯無!」

 

「────え」

 

ポカンと──多分私は間抜けな表情をしていたのだろう。

苛立ちの混じったヤケクソ気味でぶっきらぼうな言い方。

振り返りながら彼は私を指さし、そう叫んだのだった。

 

まさか──。

彼の大事なものに自分が入っているなんて───考えた事も無かった。

 

言い知れない感覚が私の中を吹き抜ける。

 

喜んでいい状況じゃないのに。

彼を巻き込んでいるのに。

堪らなく嬉しいと感じる自分がいる。

 

 

「ほんと──勝手なんだから……」

 

 

ぽつりと思わず呟く。

彼に聞こえているのかは分からない。

だって彼は返事をしなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

「───さて────」

 

少年は楯無の容態を見てとると、そのまま振り返った。

柄にもなく叫んだ事に少し羞恥を覚えつつ数百メートル先の瓦礫を見る。

 

直後に砕け散る瓦礫。

上空へと銀色の雷が立ち上った。

中から来玖留が現れ、彼女は上空へと移動する。

見下ろす来玖留。

両者の視線が正面からぶつかった。

 

 

「……またお前か───ボロ雑巾」

 

「鑑見ろよ。そっちもだろ根暗」

 

言葉に反し、互いに抑揚のない声。

それは当たり前だ。

双方共興味はない相手──強いてあげるなら、ある認識のみ一致している。

 

彼は楯無を守り。

彼女は楯無を殺さんとする。

 

その為に排除すべき────最後の障害だ。

 

 

流星は一歩踏み出す。

バチり──と紅い電撃が彼の周囲に走った。

それはすぐさま彼を包み込み────。

 

「───させるか」

 

来玖留はその様子を見ると同時に、右腕を振るった。

彼の背後の楯無ごと巻き込むように放たれていた銀雷(セレブロ)は灰の機体ごと地面を砕いた。

 

本来ならば間に合う事のない換装。

 

しかし、と来玖留は察していた。

彼がああやって呑気に話していたのは────内部処理だけを先行していた故。

 

 

飛び出した黒の機体(・・・・)は、楯無を少し離れた場所へと楯無を抱え離脱していた。

すぐに楯無を下ろすと来玖留の方へ振り返る。

 

 

 

視線が合う────瞬間に背部の推進翼(スラスター)の紅い光が炸裂した。

 

 

 

「────ッ!」

 

爆発的な加速により両者の距離は瞬時に消失した。

振るわれるナイフを、大鎌が受け流す。

 

(─────こいつ───)

 

初撃のナイフは外れ、受け流された『黒時雨』は遥か後方へ。

同時に流星は改めて井神来玖留という少女の実力の高さを思い知る。

こうもアッサリと初撃に合わせてくるのか─────。

 

来玖留は受け流した流星へ向け、レールカノンを向ける。

少年は迷うことなく横へと飛んで回避。

 

「─────」

「くッ」

 

紅い光がまた光る。

それは二度。

爆発的な加速を重ね、蹴りを見舞った。

 

先の戦闘で来玖留の機体の推進翼(スラスター)は破損している。

来玖留の回避は間に合わない。

 

すんでのところでレールカノンを盾にした。

砕けるレールカノン。受け止めきれない衝撃が彼女を襲う。

 

 

(ッ速い────、しかもそれを完全に制御してやがる───)

 

 

──ただ『黒時雨』は恐らく時間制限がある。

福音の際も戦闘後すぐに解除されていた。

身体への負荷も相当だろう。

ボロボロの彼の身体では先に限界がくる可能性も大いにある。

 

彼の狙いは恐らく短期決戦。

怪我の度合いや機体の損傷を考えれば時間を稼げば来玖留の勝ちだ。

 

(そんな事向こうも分かってるっしょ───だからこそ───)

(今の向こうの機動力じゃこっちを捉えきれない。下手に距離を離せば不利になる────なら────)

 

流星は畳み掛けるべくナイフを握る。

来玖留は即座に大鎌を展開した。

 

((近距離で確実に仕留める────!))

 

潜り込んでの一閃を、来玖留は大鎌の柄で滑らせつつ切っ先を振るう。

懐へと潜り込まんとする黒の機体へは腕部の小銃で攻撃。

 

「っ」

 

不意をつかれ被弾する少年。

殺しきれなかったダメージにより鮮血が舞う。

よろける身体へと振り下ろされる大鎌を少年は後方へ飛んでかわそうとする。

触れる切っ先は微かに赤いものが滴っていた。

 

 

─────来玖留は彼の後退を読んでいたのか、彼を踏み付けるように蹴った。

黒い装甲が砕け、金属を撒き散らす。

その中に混ざる───異物。

 

(手榴弾─────)

 

来玖留は回避も防御もせず、それを切り付けた。

爆発が起きる瞬間に掌を翳し、銀雷(セレブロ)で消し飛ばす。

 

 

 

完全に機動力で負けている中でも、来玖留は正面から流星に対しその実力を発揮していた。

隙をついたつもりの手榴弾もあっさりと凌がれ、直後に放とうとしていた拳銃(シリウス)も煙越しの小銃により貫かれる。

小爆発がおき、流星の身体もいよいよ限界へと近づく。

 

 

『黒時雨』の限界まで───あと20秒。

 

 

「がっ─────」

 

 

─────流星は地面スレスレで持ち直し、ナイフを投げていた。

 

「──────!」

 

高速の接近戦、銀雷(セレブロ)、流星の火力兵装の破壊。

 

畳み掛けんとする彼女に生まれる微かな隙をついたナイフは来玖留の左肩部へと深く突き刺さった。

────彼女のシールド・エネルギーも限界に近いのか。

 

 

「ッッッ──────!」

 

凄まじい痛みが彼女を襲う。

ただ、この程度で彼女も止まらない。

向かってくる流星に対し、右手を翳そうとした。

 

 

強烈な違和感に彼女は気が付く。

まるで1拍、少年は踏み込む間をズラしているような。

 

「!!!!」

 

起きる爆発。

銀色の光が放たれるより先に、左肩部で爆発が起きた。

 

「────ぁ、あああぁああああァァッ!!!!」

 

爆発物の反応は無かった。

ともすればそれは爆発物ではなく、爆発物へと変容するもの(・・・・・・)

この場合は楯無の持つアクア・ナノマシン────それだ。

彼女は知る由もない。

今の爆発は、かつて楯無が流星にお守りにと渡した小型の起爆性ナノマシンだ。

 

 

「───!!!」

 

彼女は知らずしてそれを凌いだ。

咄嗟に全身に纏うよう放った銀雷(セレブロ)は彼女の命を繋いでいる。

ずば抜けた実力故の勘は、長年の培った殺しの経験を上回った。

 

流星が彼女を殺すには、武器も距離も確実さも欠ける。

来玖留の反撃は間に合う─────。

 

掌を再度翳す。

 

 

 

残り数秒。

 

そこで来玖留が見たものは蒼流旋を握った(・・・・・・・)流星の姿。

翳した手はフックショットにより、狙いが横にズレる。

 

最後に爆発的な音と共に紅い光が炸裂した。

全てを注ぎ込んだ瞬時加速(イグニッション・ブースト)で、黒の機体は迫る。

 

 

 

「──────!!!」

 

 

紅い光弾となり、一筋の光になる様を前に来玖留は動けなかった。

───流れ星──戦闘を眺めていた楯無の口からポツリと言葉が漏れた────。

 

 

一方で、来玖留は不敵に笑う。

最後の足掻きとばかりに少年の攻撃を無理矢理大鎌で受け止め、銀雷(セレブロ)で推し留めようとする。

流れる電流は少年にもダメージを与える───も、もはや大した威力もない。

力押しの展開。

眼前の光景を前に少年へ皮肉げに呟いた。

 

 

 

「ホント───盲目的じゃん、お前」

 

 

 

対して少年は戦闘中初めて笑みを浮かべた。

交わした言葉など殆どない、性格も人伝え。

 

それでも双方共にその執念だけは理解していた。

 

 

「ああ──互いにな」

 

「ハッ、──言えてるかも」

 

 

力なく来玖留は笑う。

それを皮切りに均衡は崩れた───。

 

 

電撃を帯びた大鎌は砕け、緑の機体をその身を持って槍を受けた。

 

 

同時にパリン、と硝子の割れるような音。

黒は灰へと色を戻す。

 

赤い液体を身に浴びながら、灰の機体と緑の機体はそれぞれ墜落していく。

 

 

勢いよく両機は地面へと叩き付けられる事になった。

 

 

 

「────っ」

 

 

身体を引きずるように無理矢理動かしながら、楯無はその地点へと足を進める。

土煙が辺り一面を覆っている中、楯無はクレーターと化した地面を前にただ祈るように中心を見る。

 

晴れる土煙。

横たわる緑の機体───地面に転がる砕けた蒼流旋。

 

───────一人佇む灰の機体の姿が、そこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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