IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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タグの付け方とか間違えてました…。
ついでにアンチ・ヘイトタグも取りました。
恐らく当てはまってないので付ける必要無かったかな…。


-6-

──1組の代表を決める試合当日。

 

一夏とセシリア。

流星とセシリア。

流星と一夏という形で試合は行われることになった。

試合の直前まで一夏のISは届かず、順番を前後する案が出た辺りでギリギリ間に合う形で試合は開始した。

 

一夏は善戦していたが、セシリアに追い詰められピンチになったところ、一次移行(ファーストシフト)が間に合い一夏のISである『白式』の力が発揮され───たのだが、セシリアに切りかかるすんでのところで何故かエネルギーが切れてしまい一夏の負けという形で決着した。

何ともしまらない終わり方であったが、結果として見れば初めての機体で、しかもブレード一本での大健闘であった。

 

ピットに戻った一夏は箒と千冬に厳しい言葉を送られ、凹んでいる。

 

 

 

そして、補給や休憩の時間は終わり──流星とセシリアの試合が今始まろうとしていた。

 

 

 

 

「──勝つのは(わたくし)ですわ」

 

高らかに宣言をするセシリアを前に、流星はバツの悪そうな笑みを浮かべた。

一夏との戦闘を経て、セシリアから油断が消えていたからだ。

流星の操縦技術では到底太刀打ちできない。

流星が乗っている専用機『時雨』は第二世代ISのラファールと同性能の機体。

 

灰色の機体に、ゴツゴツとした背中の装甲、目元を守るバイザー、そして一回り小さい機体サイズに大きな翼型スラスター。

顔は半分隠れているが口元がしっかり見えており、表情は一目瞭然だった。

 

セシリアの乗っている第三世代の最新のISに性能は負けている。

搭載されている武装は少し多いとはいえ、意味はない。

アリーナで二人は睨みあいつつ開始の合図を待つ。

一夏とセシリアとの戦いでの情報は実質流星にとってみればありがたいハンデのようなものだった。

代わりに流星の搭乗機の性能データはセシリアに改めて知られているが、流星にとってみればこちらのほうが得たものが多い。

 

「いいや、それはどうかな」

 

流星の軽い挑発、セシリアも先ほどまでと違い余裕のある笑みで対応する。

 

「勝機があると?ですがそれも全力で潰して差し上げますわ」

 

流星の機体は敵機に照準を合わせられていると警告が出る。

この場に立って挑んでくる流星相手に、全力で相手取るというセシリアなりの敬意の払い方だろう。

セシリアの機体が流星の機体にロックを合わせた、もう気が抜けなくなった。

 

 

「「─────!!」」

試合開始のブザーが鳴った。

同時にセシリアがブルー・ティアーズを、とどのつまりビットを飛ばし流星に向けてレーザーを一斉掃射する。

流星はそれに伴い即座に簡易式の盾を展開した。

 

「ぐっ!」

 

盾に着弾し、流星は爆発に巻き込まれる。

流石にビット全てからの弾は防ぎきれなかったようだ。

盾でとはいえ高威力高弾速のそれを受けた流星は後方向に投げ出される形になる。

 

「逃しませんわ!」

 

続くセシリアの猛攻。

レーザーライフルである、スターライトMkⅢを構え引き金を引く。

 

「くそっ」

 

流星は悪態をつきつつ、盾を前に投げ出した。

セシリアの放った一撃は盾に直撃。

簡易式使い捨ての盾は今度こそ粉々に吹き飛ぶ。

 

───同時に流星はサブマシンガンを展開していた。

射撃直後のセシリアの向かって連射する。

 

 

「まさか───っ、ISの補助なしに!?」

 

 

被ロックオンに対する警告も出なかったことと何より虚を突かれたことにより、セシリアはその弾丸数発に直撃した。

ISの補助なしでの正確な流星の射撃に舌を巻きつつも、即座に回避に移るセシリア。

 

「やっぱそう簡単にはいかないか」

 

流星は悪態をつき、セシリアへ接近を試みた。

マシンガンを撃ちつつ距離を詰めようとする。

──セシリアのブルー・ティアーズの武器は射撃武装が多い。

接近戦は阻止してくるだろう。

 

 

(ならば)

 

流星はアサルトライフルを片手に展開。

サブマシンガンをしまい、即座に構える。

撃ち合いで勝てるとは思えない、故に狙うのはカウンター。

セシリアが照準を合わせた瞬間に横に動きながら引き金を引く。

 

 

「なっ!?」

 

セシリアのレーザーは流星を掠める形で直撃には到らず、逆に流星の偏差射撃による弾がセシリアに数発ヒットする。

流星は距離を詰めつつ、接近戦距離での射撃戦を仕掛けようと考える。

セシリアに追い付かれるかもしれないと思わせる距離で翻弄する考えだ。

 

 

 

「させませんわ!」

 

「!」

 

一閃、セシリアのレーザーライフルから正確な射撃が放たれる。

肉を切らせて骨を断つ。

セシリアは追撃の流星の弾を受けながらも、自身の一撃を流星に正確に当てるほうを優先した。

その行動に躊躇いはない。

流石代表候補生といったところか。

 

 

それを流星は二つ目の盾を展開させで防ぐ。

 

 

「今のを防ぎましたのね───ですが、甘いですわ」

 

その防いだ隙に流星の周囲には4基のビットが展開されていた。

それを見た瞬間流星は苦虫を潰したような顔になった。

反射的に身体を動かす。

 

「容赦なしか!」

 

───盾と身体を密着させ急いでセシリアとの距離を離そうと。

 

「逃しませんわ!」

 

 

瞬間、4基のビットからレーザーが放たれ--流星に直撃した。

そして、追撃のレーザーライフル。

 

 

「っ」

 

かろうじてセシリアのレーザーライフルによる追撃は半壊した盾で受けきったが、限界とばかりに盾は砕け散った。

 

「まだです!」

 

「ッ」

 

さらに撃ち落される形で流星はアリーナの地面に叩きつけられた。

大きく削られる流星のシールドエネルギー。

引き離された距離。

そして、彼を包囲するビット。

 

 

 

アリーナに見に来ていた生徒の大半が、勝敗は決したと確信させられた。

 

 

 

 

「・・・山田先生、どう見ます?」

 

アリーナの管制室でモニター越しに試合を見ていた織斑千冬は眉を顰めてそう言った。

相手はモニタリングしている山田先生である。

 

「セシリアさんの射撃もですけど、最初に見せた今宮君のISの補助なしの射撃の精度も凄いですね」

 

少し嬉しそうに生徒を褒める山田先生。

彼女のその言葉に千冬はモニターに改めて目を向ける。

モニターに映っているのはビット兵器から地面をアクロバティックに動き逃げている流星の姿だ。

 

 

「だからこそ今の撃墜は『出来すぎている』とは思いませんか?」

 

「出来すぎている、ですか?そんな気もしますが、射撃武装がメインのセシリアさんに今宮君がワザワザ距離を取る意味があまり思いつきませんが…」

 

少し困ったように考える山田先生をよそに、その会話を聞いていた一夏が驚きの声を上げた。

 

「ちょ、ちょっとまってくれよ!千冬姉!それじゃあアイツワザと攻撃を受けたってことか!?なん──っ!?」

 

「──織斑先生だ。後教師には敬語を使え」

 

一夏の頭に勢いよく振り下ろされる出席簿。

ドゴォッ!と凄まじい音がなる中、それを振るった本人である千冬はため息をついた。

 

 

「まだ憶測の域を出ないのは確かだ。あれから今のところ逃げているだけだからな」

 

だが、と千冬は続けた。

 

「あの盾を持っていた時の最後に見せた反応速度。この逃げ方...もしかするととんだ食わせ者かもしれないな」

 

「反応速度...?逃げ方?どういうことですか、織斑先生?」

 

首を傾げる一夏に千冬は少し呆れた様子で答える。

 

「反応速度はまあともかく、だ。今宮のやつはどうしてるように見える?」

 

「えっと、逃げ回っている?」

 

「そうだ。だが問題はそこじゃない、ビット兵器から逃げ回るのに空中に逃げないところだ」

 

そこでようやく一夏も気付いた。

流星は先ほど撃墜されてから、1度も空中に飛んで居ないことに。

確かに多少跳んだりして避けてはいるが、それはあくまで地面を駆け回っているだけに過ぎない。

 

「本当だ...。確かに地面じゃあ避けられる範囲が減るじゃないか!なのにどうして...」

 

「ISの空中制御が苦手なだけだと思っていたが、あの様子。何か仕掛ける気かもしれんな」

 

 

画面に見入る一夏をよそに千冬は1人静かに呟く。

 

 

「まあ見ておけ織斑、私の見立てではアイツは...手強いぞ?」

 

 

 

 

所変わり、アリーナの会場。

 

「!」

 

「ちょこまかと──!」

 

セシリアの4基のビット兵器によるレーザー攻撃を地面を駆け回り躱す流星の姿があった。

シールドエネルギーはあれからほとんど減っておらず、またセシリアのシールドエネルギーも同じように変化はない。

 

防戦一方──今の流星を見て観客の誰もがそう思うはずだ。

 

(そろそろ、か)

 

流星は攻撃を避けつつ、ビットの位置を見て静かに仕掛けるタイミングを考える。

 

──地上に降りた理由は2つ。

 

1つは地面で逃げることで、逃げ場こそ減るものの慣れない真下からの攻撃を気にする必要もなく、視界に4基とも入れやすいくし、攻撃を躱しやすくすること。

 

これは特にうまくいっていた。

ISがパワードスーツである側面も噛み合い、平常時よりも機敏に、かつ素早くかわせることも作用している。

 

2つ目は、──。

 

 

(仕掛けるか)

 

 

ビットが自分の四方を綺麗に囲った瞬間に決断した。

 

流星は回避行動と同時にある武装を展開した。

 

 

「手榴弾!?ですがそんなもの!」

 

 

ビットを迎撃しようとしたと予想したセシリアが急いでビットに指示を出す。

 

だが、ビットの攻撃が放たれた瞬間に手榴弾は爆発した。

 

「!?暴発!?」

 

巻き上がる砂埃と煙で流星の姿がセシリアから見えなくなる。

 

 

──瞬間、砂埃の中から何かが飛び出した。

真っ直ぐにセシリアに向かっていく。

 

 

「ッ──!」

 

ロックオンの警告もなくきた攻撃に対し、咄嗟にレーザーライフルを撃つセシリア。

この状況でも正確に撃ち抜くあたり、彼女の射撃の精度の高さが伺えた。

 

撃ち落とした弾は、グレネードの弾。

撃ち抜かれた瞬間に爆発を起こすが、セシリアには届かない。

 

 

「なるほど、先ほどのは目くらましで本命はこちらでしたのね!」

 

とすれば、納得が行く。

周りにビットがある状況下、ビットに気を引かせセシリア本体を直接狙うという作戦だと考えれば距離をあえてとり警戒を緩めさせていたと考えもできる。

逃げに徹しているように見えたのも隙をつくためだろう。

 

流星が一夏対セシリアの試合を見て得た『ビットを動かしている間はセシリア本体は無防備になる』という情報を活かしたものと考えるとより納得がいく。

 

 

だが、それは無駄に終わった。

 

そうセシリアが思った瞬間だった。

 

 

「なっ!?」

 

グレネードの弾の爆発で微かに気付くのが遅れた。

 

ちょうどその時、ビット兵器の1基が撃墜されたのだ。

そして、流星の本当の狙いに気付く。

気付いた時には遅かった。

 

 

───ビット兵器が4基とも撃墜されていた。

 

 

「まさか...先程の攻撃も囮!?本命はビットを全部落とすことでしたのね!?」

 

だとすれば地上で延々と逃げていたことも納得がいく。

4基のビットを確実に落とせる距離まで引きつけてるために──。

 

 

 

砂埃が晴れ、流星の姿が見える。

その手には黒色の槍が握られていた。

形状は細く、これといった装飾もないスピアだ。

それでおそらくビット兵器を落としたことをセシリアは理解した。

 

「────」

 

 

勢いよく地面を蹴り、流星はセシリアのいる方へ突っ込んだ。

距離があるため、そうすぐ詰められるものではない。

 

──同時にセシリアもレーザーライフルを構えなおす。

即座に標準をあわせ、引き金を引こうとする。

 

「させるか!!」

 

「なっ!?」

 

だが、流星はそれを阻止すべく槍を投擲する。

 

「無茶苦茶ですわね!」

 

結果、セシリアはかわしながら引き金を引いた。

放たれたレーザーは流星の機体を微かに掠めていく。

 

セシリアの射撃精度の高さには今更流星は驚きはしない。

 

──セシリアが次の行動を起こす前に仕掛けなければ狙撃されて負ける。

 

流星はすぐにグレネードランチャーとマシンガンを展開し、セシリアへ近づきつつマシンガンを放つ。

セシリアはそれに対し、距離を取りつつ迎撃に徹しようとする。

 

 

だが、セシリアの武装は今や手数の少ない武装ばかり。

 

 

結果、少しずつセシリアのシールドエネルギーが削られ始める。

 

 

「ッ!」

 

マシンガンでの攻撃をかわしつつのライフルでは埒が明かないと踏んだセシリアは、ブルーティアーズの左右についた実弾用の二基の銃口を流星に向ける。

それはその機体唯一の実弾武装であり、ミサイル弾。

目標を追いかけるため、この手数の少なさとマシンガンの牽制どちらかを覆してくれるはずだ。

 

一瞬だがセシリアの足が止まった。

 

(───ここだ!)

 

流星の機体が急加速し、セシリアとの距離を一気に詰める。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)と呼ばれる技術だが流星のそれはまだまだ拙く、一流からみれば粗末な仕上がりであった。

だが、この場においてはセシリアとの距離を一気に詰める唯一にして最後とも言えるチャンスをものにするに到った。

 

 

「ですが、ここまでですわ!」

 

それでも、流星が接近戦を挑むよりセシリアがミサイルを撃つほうが遥かに早い。

 

向けられる二つの銃口。

 

 

「──そうくると、思っていた」

 

 

流星は静かにそう呟くと銃口を向けられるよりも早く、

──『グレネードランチャーそのもの』をブルーティアーズの銃口に方へ放り投げていた。

 

 

──ちょうど、マシンガンを放ちつつセシリアの微かな死角から軽く放り投げるように──。

 

 

「なっ───!」

 

 

そこでセシリアは初めて言葉を失った。

ミサイルはもう発射される、だが片方の銃口すぐ前には流星が放り投げたグレネードランチャーが迫っていた。

 

グレネードランチャーの残弾数は言うまでもなく、殆ど残っている状態。

 

ミサイルでそれを撃てばどうなるかなど───。

 

 

セシリアは世界がまるでゆっくりになったかと錯覚する。

目の前の流星はシールドエネルギー僅か。

 

だが、トドメがさせない。

彼はもうマシンガンも投げ捨て、まだ未熟な武装展開で三つ目の盾を展開している。

 

 

──あと少しですのに──!

 

 

接近してこようとする相手への自衛用としてこの武装を使っていたことがセシリアの敗因。

それは先の戦闘を経て、癖のような扱い方そのものを見抜かれていたのだろう。

流星が盾の強度を下げてでも三つも持っていたのも、未熟な武装展開における収納を殆ど切り捨てて戦うために、使い捨てとして選んだものだとしたら──。

 

 

(──完全に(わたくし)の負け、ですわね・・・)

 

 

 

──凄まじい爆発が轟音を鳴り響かせながらアリーナの中心で炸裂する。

 

直後に試合終了のブザーが響き渡り、静かに勝者の名が告げられる。

爆発による噴煙が晴れるよりも前に、その声は再び静寂に包まれたアリーナに響き渡った。

 

 

 

 

『─────勝者、今宮流星』

 

 

 

 

 

「すげぇ……」

 

流星の試合が終了し、アリーナの内側で1人感嘆の声を一夏はもらした。

先にセシリアと戦ったからこそ一夏はセシリアに勝った流星に心の中で最大限の賛辞を贈る。

試合の内容は隣で唖然としている箒や、眉を顰めている千冬、素直に喜んでいる真耶ほど理解出来ていない。

だが、この試合には流星の努力の成果が嫌でもわかった。

 

自身も触発され、部屋ではひたすら参考書を読みふけり、剣道の稽古のあとも少しだけISに触る機会を増やした。

無理を言って稽古を付けてもらいもした。

だが彼の毎日の様子を一部見ているだけに、『足りない』と思い知らされる。

──勝てるだろうか……。

この後戦う相手を思いつつ、突き付けられる事実。

自分はセシリアに負けた、しかしそのセシリアに彼は勝った。

だからといってセシリアが彼より弱いかと言われれば、そうではないだろう。

だが織斑一夏にのしかかるは言いしれぬ不安。

同じ男性操縦者──だが彼は遥か前に進んでいる。

追い付けるのか。

勝てるのか。

 

「…」

 

アリーナのピット前に降り立つ。

彼は今、シールドエネルギーや武装の補給を行っているだろう。

 

 

「──不安か?織斑」

 

「千冬ね──織斑先生」

 

思わず呼び間違えそうになったが、出席簿を喰らわずに済んだようだ。

鼻で笑いながら千冬は一夏の後でそのまま言葉を投げかける。

 

「お前はアイツをどう見た?何を感じた?」

 

「流星はすげぇ奴だと思う……思います。あれだけ努力して、その上さっきの俺の試合で得た事活かし切って……、俺も追い付きたいです」

 

真っ直ぐな言葉に千冬は満足気に、しかし少々意地悪そうな顔で問いかける。

 

「織斑、お前はアイツの接近戦の強さは知っているか?」

 

「いや、あの一瞬槍で叩き落としてたって事くらいで、実際何も見ていな──!」

 

もしや、と目を丸める一夏。

千冬は腕を組んでそのまま推測を述べた。

 

「対織斑一夏用に接近戦を見せないようにしていたとした可能性がある」

 

セシリアが強く、接近戦を許さなかったのも当然ある。

しかし、戦い方に違和感を覚えた千冬の答えのひとつがそれであった。

流星は強かにこの2試合を獲りにきている。

その事実は揺るがない。

 

 

(───)

 

はっきり言って、勝ちの目はさらに詰まれた気がした。

おそらく自身にもきっちり対応してくるだろう、格上の流星の驚異を感じないはずがない。

だが、不安以上に嬉しかった。

そこまで全力でぶつかってきてくれている。

 

──ならば、

 

 

「ありがとう織斑先生。俺はアイツに全力でぶつかってくるよ」

 

 

きっと、この身体の震えは不安から来たものではない。

 

「待ってろ流星」

 

白式を展開し、ピットから勢いよく飛び立つ。

そんな一夏の背中を見つめる千冬の背中から、真耶はどこか嬉しそうに声をかけた。

 

「いい表情でしたね。織斑くん」

 

「……威勢が良いだけですよ山田先生」

 

 

 

「来たか一夏」

 

「待たせたな流星」

 

アリーナの中央近くで浮かびながら待っていた流星の正面にハッチから出てきた一夏が現れた。

並び立つ灰色と白色の機体。

アリーナの席から今日1番の大きな歓声が鳴り響く。

 

「流星、さっきの試合。勝利おめでとう」

 

「ありがとう。でもあれは一夏が先にオルコットと戦ったからこその結果だ。俺はそれを活かしてズルをしただけだ」

 

そう言いつつ流星は一夏を落ち着いた様子で観察していた。

その様はどう仕掛けようか吟味しているようにも見える。

初めての試合の筈だと言うのに、妙に流星の武器を持つ姿がしっくりくる。

 

手に焦を握るとはこの事か、ブレードである雪片弐型を握りつつピリピリとした緊張感で構える。

一夏もいつでも動けるように、どう来ても対処出来るように。

力を抜き、目をつぶった。

さながらそれは侍の居合を連想させる──。

 

 

 

「「──!」」

 

唐突になる試合開始のブザー。

先手を取ったのは流星だった。

 

グレネードランチャーを構え一夏に向かってすぐに2発撃つ。

 

「っ!」

 

 

一夏はそれを迷いなくブレードの先端で2発同時に切り裂いた。

 

 

「!」

 

その迷いのない行動には流星だけでなく、アリーナにいる全員が驚いた。

 

程よい緊張感により集中力が見事研ぎ澄まされたかつてないベストコンディションが生み出した一芸。

 

そのまま、一夏は爆風を受け流すように一瞬真後ろに離脱し、煙が晴れる前に前に勢いよく飛びだした。

 

 

(──速い!)

 

相手に手を撃たせない速攻。

元々開始の距離がそう遠くなかったのも起因してか、白式のスペックが高いのか、一夏はすぐに間合いに入り流星に斬りかかってくる。

 

 

一夏のブレードである雪片弐型、それが光の刃を帯びている。

 

──零落白夜。

おそらくだが織斑千冬と同じ一撃必殺のシールドエネルギーを消費した諸刃の剣。

推測でしかないが、それならば先程一夏がセシリアに切りかかる寸前にエネルギー切れで負けたのも納得出来た。

あれをマトモに受ければその時点で流星の負けの可能性が高い──。

 

ならば、喰らわなければ良い。

至極当然の思考に流星は切り替える。

生身と同じ、喰らえばやられるというだけ──!

 

 

「悪いな一夏。俺も負ける気はないんでな!!」

 

確かな自信。

学園最強に鍛えられたからこそ、同じ男性操縦者で初心者の一夏には絶対に負けられなかった。

振り下ろされる一撃必殺を前に踏み込んでみせる。

 

 

「なっ!!」

 

驚きは一夏のものだった。

確かに振り下ろした一刀をすんでの所で受け流されたからだ。

 

「っ!?」

 

すぐに背中に叩き込まれる衝撃に相手が長物を振り回していることに気が付いた。

 

(槍かっ!)

 

セシリアとの時は投げただけだった黒色の槍。

それを振り下ろしている流星の姿を、振り向き捉えた。

 

だが、受け止められたからといって流星の攻撃は止まらない。

一夏に対し、逆に猛攻をかける。

 

「──!」

 

「うぉぉおお──!」

 

全力で雄叫びを上げながら一夏も反抗する。

上から下から正面から──。

点と面を、斬撃と打撃を、駆使しつつ多彩に畳み掛けてくる流星の槍を前に一夏は押し負けていく。

 

 

「なんだ……あれは」

 

モニター越しのその光景に箒は思わず呟きが漏れる。

流星が弱いと思っていた訳では無い。

だが、一夏の剣筋は決して悪いものではなかったと箒は思っていた。

確かに千冬にはかなうわけが無いし、剣道でも全国大会優勝の箒には到底適わないが、それでもその箒から見て決して弱くはなかった。

 

さらに最初に見せた千冬地味た行動、あのコンディションならば普段よりも遥かに強いとさえ感じた。

そこにさらに一撃必殺とされる零落白夜が入るのだ、一太刀浴びせれば終わり──そのはずだった。

 

しかし、結果は当たらない。

零落白夜による一刀は尽く弾かれ、逆に流星の槍による猛攻を受けた。

今は逆に距離を取らざるを得ない状況。

 

 

(一夏……)

 

箒はただ静かに、劣勢である己の幼馴染の様子を見守っていた。

 

 

 

(不味いな…)

 

 

反撃の隙は見つからず、シールドエネルギーが確実に削られて行くのだけが理解出来た。

零落白夜を使っていることもあり戦況は厳しくなる一方だ。

 

「くっ」

 

先程までの研ぎ澄まされた集中力も既に切れていた。

ある程度鍛えられた反射神経と勘だけで戦うには相手が悪すぎた。

 

「くそっ!なら─」

 

「離脱か?いいぞ手伝ってやる!」

 

「ぐっ!?」

 

と、離脱して仕切り直しを狙った瞬間に数回斬撃を叩き付けられ、一夏は強制的に突き飛ばされた。

間合いこそ開き仕切り直しを狙えるものの、さらにシールドエネルギーを持っていかれかなりの劣勢に陥る。

 

仕切り直し、といってもどの道一夏は接近戦を仕掛けるしかなく、

距離が開いてしまえば流星から仕掛ける意味は無い。

一夏の圧倒的不利である。

流星は槍を片手に持ったまま一夏の様子を窺っていた。

一方、一夏は零落白夜を解除して流星に向き直る。

 

 

「すげぇな、流星。槍をそんなに使えるんだな…」

 

静かに流星に賛辞を贈る一夏。

流星からしてみれば初撃からの別人のような一夏の底知れぬものに内心驚きっぱなしであったが、零落白夜を前もって予想していたこともあり一太刀も喰らわずに圧倒的優勢に運んでいる。

 

カウンター気味の初撃で流れを持っていき、そのまま相手の思考を奪うように自身の槍術を叩き込むことにも成功した。

しかし、一夏は予想よりも反抗していたためそのまま仕留め切れないと判断し、今に至る。

油断は禁物、相手は一撃必殺。

話しながらも一夏の動向を考えつつ、話に応じる。

 

「槍はちょっと自信があってな。元々少し齧ってたんだけど誰かさんに扱かれたんだよ」

 

どこか遠い目をしながら答える流星からはその扱きの厳しさを感じさせられた。

一夏は毎日ボロボロになっていた流星の姿を思い出しつつ笑みを浮かべる。

 

「──なあ流星、俺さ、強くなるってセシリアとの戦いで決めたんだ。今度は守られる側じゃなく守れる側になるってな」

 

「唐突になんだよ」

 

「だから今決めた。お前をライバルにして俺はもっともっと強くなる!」

 

「──」

 

唐突なライバル宣言を前に一瞬困惑した流星だったが、一夏の真剣な目を見てそれが本気の宣言であるということに気が付く。

こういう真っ直ぐなことを本気で言ってのける部分を見て、流星は織斑一夏という人間を改めて理解した。

篠ノ之箒にあれだけ露骨に好意を向けられている訳もどこか理解した。

嫌な気はしない。

互いに自身以外で唯一の男性操縦者。

ライバルというものには惹かれるものがあるわけで──。

 

「馬鹿だな」

 

しかし、流星はそれを敢えて否定した。

 

意地の悪い笑みを浮かべて観客席の方を指差す。

 

 

「俺はあの威厳もへったくれもないアイツの鼻をあかす目標がある。今俺に苦戦してるお前をライバルにしてられるか」

 

 

その答えに一夏も嬉しそうに笑みを浮かべた。

まるでその答えを待っていたように雪片弐型を構え直す。

 

「なら!嫌でもそう思わせてやるさ!」

 

現状に決して満足する気は無い、それが流星の今の答え。

それを受け取り一夏もまた、己の考えは間違っていなかったと確信する。

 

 

「──させると思うか?」

 

唐突にそう言いつつ、仕掛けたのは流星だった。

片手にサブマシンガンを展開して一夏に向かって撃つ。

 

「くっ!?」

 

一夏はそれを数発受けたがすぐに回避行動に移った。

大きく回り込みながら近付く隙を窺うしかない。

流星にしてみれば、相手にもう近付く意味はなくこのまま残り少ない一夏のシールドエネルギーを減らしてしまえば勝ちだ。

 

(どうする?このまま近付けなきゃ俺の負けだ!いや、近付いても対処されたら負ける!)

 

脳裏に浮かんだのは、数少ない時間だが自ら姉に教えて貰った技術の幾つか。

殆ど内容も完全に理解出来ておらず、技術としてある程度だけ形になった未完のものが数個だけ。

ぶっつけ本番では絶望的な完成度であるが、それらの中で1つだけチャンスを作れる技術があることを思い出した。

そして、それを思い出すきっかけとなったのは先程の流星の試合である。

 

 

 

決断は早かった。

どうせ零落白夜をあと10秒も使えばエネルギーは尽きる。

次に零落白夜を展開するのはその技術を使う瞬間。

それに賭けるしかないと一夏はその瞬間を待つことを決めた。

 

 

サブマシンガンを必死にかわしつつ、ただ機を待つ。

 

──そして、その瞬間は訪れた。

 

 

「──行くぞ流星!!!」

 

サブマシンガンの弾が切れ、他の武装に切り替える瞬間──普通ならば剣の間合いにまで行く隙にはならない。

だが、瞬時加速(イグニッション・ブースト)ならば可能だ。

 

練習では一度も完成しなかったそれは、この瞬間を持って完成に到る。

 

一夏の身体は弾丸のようにその隙を狙って流星へと向かっていく。

零落白夜は既に発動している。

 

 

「─なっ!」

 

一夏の瞬時加速に流星は驚きを隠しきれなかった。

意図こそ理解していたが、ここで完成形の瞬時加速を使ってくると予想出来なかったのだ。

反応こそしてアサルトライフルを展開するが、引き金を引くと同時に目の前に迫った一夏の一刀で、アサルトライフルを両断される。

 

すんでのところで1刀目をかわした流星だったが、体勢は良くない。

 

「まだだ!!」

 

「!」

 

切り返してきた2刀目を咄嗟に槍で凌ぐ。

だが、片手な上体勢が崩れていた為強引に槍は弾き飛ばされた。

 

体勢、バランスを立て直す一瞬の間は作れたが一夏の続く3刀目に武装の展開は間に合わない。

 

「これでトドメだ!」

 

踏み込みながら雪片弐型を振るう一夏。

相手は武器もなく展開する暇もない。

一夏自身見ていたが、何かを仕掛けていた様子もなかった。

沸きあがる観客席。

 

 

 

一夏の勝ち、アリーナの観客席で見守る誰もがそう確信する。

 

 

 

──ただ1人、観客席でどこかご機嫌なまま見守る水色の髪の少女以外は。

 

 

 

「──」

 

殆ど反射的な行動だった。

踏み込み振り下ろされる一撃必殺。

 

それに合わせるように、流星も踏み込む。

この状況になった時点で武器を展開する選択肢はなかった。

 

拳を握り、身体を大きく振り、ISのパワードスーツである部分を利用して強化された拳を放つ。

 

なまじ間合いが近かったため、流星側からも踏み込むだけで速度に関しては解決した。

 

 

──振り下ろされる一撃よりも早く、一夏の顔面に拳が叩き込まれた。

 

 

殴り飛ばされる一夏。

その瞬間に雪片弐型が流星の身体を掠めていたが、既に零落白夜は解除されていた。

 

 

しん、と静まり返るアリーナ。

 

困惑した様子で告げられる勝者の名。

 

それを聞きながら、流星は落ちて行く一夏の腕を掴むと満足気に笑みを浮かべた。

 

 

「そういうわけで、今回は俺の勝ちだ一夏」

 

 

 

再び沸きあがる歓声。

確かな勝利の余韻を感じながら、流星は一夏を連れてピットへ戻っていった。

 

 

 

 

『───』

 

(ん?……空耳?すぐ近くに誰か居たような……?)

 

 

途中、すぐ近くから誰かの発する声が聞こえた気がしたがすぐ振り返ってもそこには誰もいなかった。




薄暗い、冬の雨。
灰色を間接的に表す機体。
量産機でも優秀なラファールを真似ようとした器用貧乏な第二世代機。

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