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今宮流星と更識楯無の両名が学園に帰還して、四日──その放課後。
本来ならば未だ入院して然るべきなのだが、世間体もあり二人がゆっくり休む時間は存在しなかった。
事が事な為、怪我も非公式なもの──いち早い復帰が望ましい。
結果二人は完治していない絶対安静の状態で、医療室に通いつつ学園生活に復帰する形となっていた。
───食堂の一角で夕食を摂りながら、オレンジ髪の少年は意外そうな表情で呟いた。
「へぇ、一夏の誕生日って今月なのか」
「ああ、そうだぜ」
一夏はさんま定食を食べながら肯定する。
相変わらず魚の食べ方が綺麗である。
呑気な男子二人の会話を前に、ガタリとシャルロットが立ち上がった。
「えっ、そうなの!?いつ!?」
「に、二十七日だけど…?」
「一夏、そういう事はもっと早く言うべきだよ!」
「お、おう?」
自身の誕生日はそんなに重要だっただろうか。
唐変木で知られる少年は、食い気味で来られるとは思わなかったらしい。
不思議で仕方ないとばかりに頭上に?マークを浮かべていた。
座り直すシャルロット。
隣に居たラウラは腕を組みながら不満げに溜息をついた。
「全く、貴様には嫁の自覚が足りん」
「いやそれは違う気がするけど───」
「ええいゴタゴタ言うな。次からはその手の話は必ず早めに言うんだぞ!」
「わ、分かった」
勢いに押されて一夏は力のない返事をする。
オレンジ髪の少年はそれらをよそ目に、湯呑みに入った茶を啜っていた。
余談であるが、彼の眼前にあるのは親子丼定食。
小さなどんぶりと幾つかのサブメニューがついた人気メニューのひとつだ。
「尤も──知っていて話さなかった者もいるようだがな」
ラウラの鋭い視線が箒とセシリアに向けられる。
うぐ、と後ろめたいのか声を漏らす両名。
幼馴染みの箒はもちろんの事、反応の薄さからセシリアも知っているとラウラは見抜いていたのだ。
一方で────セシリアに教えたであろう鈴は知らぬ存ぜぬを決め込んでいる。
「──聞かれなかっただけだろう」
「その通りですわ!話題に上がっていれば話していましてよ!?」
無理があるなぁ、と流星は遠い目。
続く箒達の弁明。
彼の隣ではかき揚げうどんを頼んでいた簪が、かき揚げをしっかりと汁に浸していた。
本人曰くたっぷり全身浴派──サクサク派のラウラも今回は気付いていない。
「…どうかした……?」
流星の視線に気が付いた簪が問い掛ける。
小首を傾げ少年を覗き込むような可愛らしい仕草。
彼は平常運転で言葉を返した。
「簪がたっぷり全身浴派だったのを思い出したってだけだよ」
「流星は……何派?」
「俺は特にはこだわりはないな。その時の気分さ」
「…なら、食べてみる…?」
おそるおそる提案する簪。
流星が今度は小首を傾げる中、簪はかき揚げを箸で掴んで彼の前にさし出した。
「簪が頼んだものだし、貰うのは悪い」
「ひ、ひと口だけだから…。それにその、仲間を増やしたくて…!」
「──なら遠慮なく」
差し出されたかき揚げに彼はすかさずかぶりつく。
汁が垂れる前にひと口貰おうという考え故の早さだが、簪からすれば意外過ぎた。
がっつくような行動を前に戸惑いが隠せない。
「確かに美味しいな。かき揚げうどんなら、俺の好みはこっち寄りだ」
「よ、良かった」
一方で『あ゛あ゛〜!?』なんて乙女らしからぬ声を上げるツインテールの少女。
それに対し、簪はふふんと勝ち誇った笑みを浮かべた。
バチりと視線がぶつかり合う。
それぞれの背の龍虎が相見えている。
「───二十七日って日曜日だったよね」
箒達の弁明、鈴vs簪の中シャルロットは顎に人差し指を当て呟いた。
「ああ、日曜日だな」
「なら一夏、日曜日は空いてる?ほら、昼はキャノンボール・ファストだけどその後は何も無いはずだし──皆でお祝いしない?」
「そうだな。賛成だ。嫁よ、どうなのだ?」
「そうだな。一応、中学の友達が祝ってくれるから俺の家に集まる予定なんだけど、良ければ皆も来るか?」
「勿論!」
一夏の提案に皆賛同する。
鈴や簪も睨み合いをやめて参加の意を示していた。
時間についての話も終えたところで、流星は箸を進めながら思い出したように呟く。
──隣では簪が先ほどのかき揚げの残りを食べるのを何故か躊躇していた。
「しかし『キャノンボール・ファスト』か。今までISバトルか実戦しか無かったからピンと来ないな。レースだったか」
「だなぁ。そう言えば明日から高機動調整を始めるとかの話だったっけ。具体的に何をするんだろ」
変則的な戦闘の訓練ならばまだしも、男子二人はレースの経験が全くない。
ラウラはプチトマトのヘタを取りながら、シャルロットは白身魚のフライを食べる手を止めた。
鈴も拉麺を食べるのを中断した。
「基本的には高機動パッケージのインストールだが、『白式』には無いだろう?」
「となると各駆動のエネルギー分配調整とか、各スラスターの出力調整だね。うーん、『時雨』もそうだと思うけど──」
「代表候補生になったし、『黒時雨』もあるし───調整だけじゃなくなる可能性は結構あるわよね」
「許可が下りるのかも不明だけどな。どうやら
流星はひとり溜息をつく。
色々とこの短い期間にやる事が多かったのか、疲れが見て取れた。
大変そうだなぁ、と一夏は胸中でごちる。
「高機動パッケージっていうとセシリアにはあるんだっけ。そもそも『黒時雨』って許可下りるのか?」
「ええ、
得意げに語るセシリアを一夏はじっと見る。
どちらかと言えば彼の関心は話よりもセシリアに向けられていた。
ここ最近増えた彼女の自主練───なにやら悩んでいるのは明らかだ。
以前の
「じゃあセシリアが有利なのか。今度超音速機動について教えてくれよ」
「申し訳ありません、それはまた今度───今回はラウラさんにお願いしてくださいな」
セシリアがにこりと微笑みつつ、一夏の頼みを断る。
彼女が今壁と向き合っている事を察している面々は、下手に突っ込む事もしなかった。
「そっか、分かった。じゃあラウラ教えてくれ」
「ふっ、いいだろう。近頃
得意げにニヤリと笑うラウラ。
スパルタ教育の未来を想像し、一夏は苦笑いをうかべた。
「大体、あんたも箒も機体スペック的に有利でしょ。高機動型に引けを取らないんだし」
「確かに…。その二機なら調整すればいいだけだよね…」
鈴と簪の言葉を聞き、箒もそうなのかと言葉を漏らす。
どうやら中国の高機動用
簪の方は当然そのようなものは存在しない。
元々あった打鉄用のものを改造して流用するつもりである。
シャルロットもまた増設ブースターによって対応するとのこと。
ラウラは姉妹機の高機動用パッケージを流用するらしい。
「では明日の放課後、
「了解。イーリスさんとも戦ったし、もう前までの俺と思ったら痛い目見るからな?」
「ぬかせ
そう言いつつ、ラウラがくるくるとフォークを回す。
その先端についたマカロニへと一夏の視線が移る。
──したり、と一夏の頭上に電球が浮かぶのを皆が幻視した。
「身のある訓練を期待しよう」
「マカロニだけに……なんて言わないよね?」
「う」
鈴とシャルロットは、冷めた目で一夏を見る。
箒も顔を抑え、全くこいつは……と言いたげであった。
一方でオレンジ髪の少年はチラリと隣を見る。
───隣で口もとを抑え、笑いを堪える水色の少女の姿がそこにはあった。
「わからないもんだな……」
少年の呟きは虚空に溶ける。
話題はすぐに部活動の話へと変わっていった。
◆
灰色の空の下でオレンジ髪の少年は目覚めた
「───、ここは───」
起き上がろうとして手に触れる灰色の草原。
その下のゴツゴツとした感触。
見渡す限りどこまでも続くその光景から非現実的な場所である事は言うまでもない。
相変わらず色を失ったようなその空間。
奇怪なものではあれど彼はそこが何なのか知っている。
「!」
ガサリと草を踏み分ける音が聞こえる。
何も無かった筈の空間に浮かび上がる少女の姿。
灰色の世界で目立つ緑の瞳。
白髪に黒いドレスのような服を身に纏った少女───時雨は無機質な瞳で彼を見下ろしていた。
少年は体を起こしつつ口を開く。
「福音の時以来──いやその言い方はおかしいか。普段から一緒にいる訳だしな」
「そうですね。あなたが他のISを使っている間も一緒には居ましたからね」
どこか棘のある口調に、ん?と流星は目を細める。
振り返ってみると無機質な筈の少女はぷくりと頬を膨らませていた。
「あれは仕方が無いだろ。装甲が届くまで戦えない状態は避けたかったし」
「ええ、仕方ありません。仕方ありませんとも。ですが何ですかアレは───気に入られて名前までつけて──挙句に自分仕様に改造して───時雨ちゃん正直不満です」
「──」
静かに不満を垂れ流す時雨に流星は口もとを引くつかせる。
前々回前回と会う事に人間らしくなっている事は流星も知っている。
しかし───こんな性格だったのか。
「悪かったよ。今後は気を付ける」
「誠意が感じられません。それなら今すぐアレを外して下さい」
アレ──と言われ流星は現在『打鉄─椛』を持っている事を思い出す。
理由としては『時雨』のダメージレベルがCを超えているからである。
度重なる激戦と捨て身の戦術により、自動修復仕切るまでの間『時雨』は展開禁止である。無論生体補助は機能しているが───。
「こればかりはそうもいかないんだ。諦めてくれ」
「…相変わらずですね…あなたは」
目を瞑りそう呟く時雨。
彼女が人間でならば、そこで溜息のひとつでもついていたであろう。
「しかしお前、そこまで主張が激しかったか?」
「その言い回しに悪意を感じます。時雨ちゃんは撤回を要求します」
抑揚はあまりないが、はっきりとした物言いに流星はため息。
すぐに気を取り直して彼は問い掛け直した。
「………、お前
「はい」
肯定。
──時雨が嗤ったように見えた。
「それは当然です。
「!」
どろりと少女の背後で何かが蠢く。
いや、これは───彼女の内から見える何かだ。
少年はそれを知りながら起き上がり、一歩時雨に近付く。
「蓄積か。それ、他のISからもコア・ネットワークを通じて入ってきたものだろ」
「鋭いですね。それとも───『同調』の影響でしょうか」
無機質な瞳の問い掛けに少年は正面から向き合う。
少年は変わらずいつもの調子だ。
「かもしれないな。……にしても、そいつの蓄積がどうして起こる?他のISがコア・ネットワークを通じて学習するなら、それは蓄積じゃなく共有じゃないのか?」
「そうですね。それは時雨ちゃんが特別なコアだからだと思います」
特別という言葉に流星は眉を顰める。
『時雨』のコアは本人曰く467個目のコアだったと記憶している。
そうなれば篠ノ之束は意図があってそうしたのか。
「特別製は時雨ちゃん以外にもありますが、この機能は時雨ちゃんだけのようです。…作成者の意図は測りかねますが──きっと良いものではないでしょうね」
「楽観視は出来なさそうだ。しかし特別製…ってなる紅椿と───白式か」
「はい、■■と■■■ですね」
「───っ」
ノイズが走り、上手く聞き取れない。
それだけでなく頭が割れるかと錯覚する程の頭痛が彼を襲う。
痛みは内から這い出でるよう。立っているのすら困難になる。
「今のは───」
ノイズの中微かに聞こえた単語に違和感を覚える。
しかし、それ以上考える余裕は彼には無かった。
「っ…!」
「どうやら情報の方にも制限が掛けられているようです」
頭を抑え蹲る彼に時雨は落ち着いた様子でそう告げる。
尤も──その内意味は無くなりますが───とだけ呟き、少女は流星の頭に触れた。
「──!」
嘘のように少年の頭痛が消える。
同時に意識が薄れていくのを、少年は自覚した。
「それではまた───。次の機会に話せる事を期待しましょう」
眠りに落ちていくような感覚。
時雨の柔らかな声色は子守唄のように、少年を微睡みの中にいざなうのだった─────。
◆
──彼らの日常は至って普通に戻ってきた。
忙しさや立場の変化こそ多少はあったものの、集めた情報とそれによる交渉により──あれから問題は起きていない。
学園内でも特に変な噂が流れることは無く、平和なもの。
以前と変わりない─────ただ、一点を除いては。
更識楯無は一人、生徒会室へと訪れた。
施錠はされていない。
少女は誰かいるのかと考えつつ中へと入る。
時刻としては放課後になって少し。
おおよそ幼馴染みである虚がいるのだろうと予想しつつ室内を彼女は見回す。
(?)
にしても誰もいない。
その事を疑問に思いつつ、楯無は自身の机の前まで来たあたりでソファーに寝転ぶ人影に気がついた。
「───」
その顔を見て思わず胸が高鳴る。
彼女の視線の先には静かに眠るオレンジ髪の少年の姿。
彼の机の上にある資料からして──代表候補生としての勉強をしていたのだろう。
(ホント、隙だらけね)
無防備に眠り続ける彼を見て、彼女はため息をつく。
普段からは考えられない程の深い眠り。
怪我により体力が落ちているのもあるのだろう。
「……」
自身の席に座ろうとするも、気分が落ち着かなかった。
高揚感とも違う、緊張とも違う何か。
甘くて衝動的、期待と不安に入り乱れた感覚にそわそわしてしまう。
胸が苦しい。
先までの優先順位も消え、仕事の事を考えられない。
少年の事ばかりが彼女の脳裏に浮かんでくる。
(ダメダメ!私は更識家当主よ!?雑念くらい───)
と考えつつも、彼女は少年の寝転んでいるソファーまで移動していた。
(───そう言えば、なんだかんだずっとあれから二人きりにはなれてないわよね……)
ソファーの前にしゃがみこみつつ、楯無はあの密会を思い出す。
あの場で教えてしまった本当の名前。
未だあれから呼ばれていない───。
そもそもの話、楯無が流星の部屋に戻ればいつでも二人きりになれるのは言うまでもない。
一夏の鍛錬もある程度の段階まで来ており、楯無が彼と同室である必要もない。
だがそれをしないのは至極単純な話─────楯無は流星と二人きりになるのを避けていたのだ───。
どんな顔をすればいいのか、どんな話をすればいいのか。
誰かが他に居るなら『いつも通り』は容易い。
しかし、今楯無は二人きりの時の
(呼んで欲しいな…)
二人だけの秘密。
たった一人の少女として、少年に認識されたい。
(……)
寝顔を眺めながら、刀奈の視線は流星の首もとへと移る。
───襟の隙間から見える首もとの火傷痕。
元々傷だらけだった彼の体に上書きされたそれは、今回の件でついたものだ。
最新の医療でも痕が残る程のものだったらしい。
当然負い目はある───だがほんの少し嬉しいとも刀奈は思ってしまった。
あの状況で自身を助けに来てくれた証でもあるからだ。
(…)
こうして寝顔を見ているだけでも高鳴りは治まらない。
触れたい。触れて欲しい。
欲求に駆られつつ、刀奈はおそるおそる彼の頬をつつく。
(───起きない、わよね?)
つついた指がそのまま彼の唇の端に触れた。
ドキドキと背徳感を覚えつつも、刀奈はその人差し指で自身の唇をゆっくりとなぞる。
熱っぽい視線、膨れ上がるある感情。
数秒の間熟考する彼女であったが、すぐに立ち上がる。
そしてキョロキョロと周囲を見渡し──誰も来る気配が無いことを確認した。
(流星くんがわるいんだから────)
ソファーの端に刀奈の手が乗る。
体重が預けられ、ソファーに彼女の手が沈む。
寄りかかるように少女の体は少年との距離を減らしていった。
近付く顔と顔の距離───そうして。
───パチリと目を覚ました少年の眼前には、少女の顔があった──。
簪よりも淡い水色の髪に、赤い瞳。
ほのかに匂う香水の香りが彼を微睡み中から引き戻した。
「───たて、なし?」
「〜〜〜〜っ!?」
覗き込むような姿勢から、顔を真っ赤にしてバッと飛び退く刀奈。
眠そうに目尻を擦りながら流星は身を起こす。
「い、いつから起きてたの?」
「───?そりゃ今だけど──?」
「そ、そうよね!?アハハ…」
落ち着きのない刀奈に流星は小首を傾げる。
珍しく寝起きで回らない頭は、刀奈の先の行動に疑問を持たなかったらしい。
「なあ、
「っ──」
不意打ちに少女の思考が止まりかける。
ただ名前を呼ばれただけなのに、それが嬉しくて堪らない。
「な、なに?」
取り繕いつつ尋ねる刀奈に流星は違和感を覚えつつも続ける。
「俺はいつ頃更識家に行けばいいんだ?一応一員になった訳だし、挨拶というか顔を出すべきだろ?」
「そ、そんな挨拶だなんて───!?」
「?」
両手で頬を抑え狼狽える刀奈を流星は訝しむ。
本人も暴走の自覚があったのか、すぐにコホンと咳払いした。
「考えているのは怪我が完治したあとよ。どうせ流星くんも代表候補生の勉強や生徒会の業務とやる事は多いでしょうし、その内セッティングするわ」
「そうなのか。こっちの都合も考えて貰えるのは有難い。ISや基本的な座学は兎も角──法律や憲法周りが中々覚えられなくてな…」
「珍しく苦戦してるわねー。実は私もその辺は苦労したわ」
「…自由国籍も楽じゃないな」
呟きつつ流星は頭に手をやる。
彼の場合任命されてからの試験となる為、どうしても短期間に詰め込まざるを得ないのだ。
ソファーから立ち上がり、身体を伸ばす。
何とか普通に話せた───と安堵の息を刀奈は安堵の息を漏らす。
ただよく考えてみると事務的な話ばかり。
「…どうした?」
「な、なんでもないわ!」
露骨に口を尖らせる刀奈に、流星は再度首を傾げていた。
「…─────そう言えば、あのロシア代表候補生はなんなんだ」
疲れた表情で尋ねる流星に刀奈は顔を強ばらせた。
どうやら彼女も思い出したくはなかったらしい。
「私が国家代表になる時に倒したら、ああなったのよ。てっきり恨まれると思ったら、まさか歳上からあんな懐かれ方するなんて───」
「恨まれるよりは良いんじゃないか?……多分」
「私にそっちの
刀奈は溜息をつく。
流星の脳裏には虚と一緒に居た────どう見てもヤの付きそうな人間が浮かんだ。
少女の苦労の一端を知り、少しばかり同情する。
「きっと老けてるんじゃなく、しっかりしてるからだろ。ほら頼れるお姉さんって感じ」
「慰めは要りませんよーだ。私はどうせ老けてます〜」
「……男子から見ても、歳相応の美人だよ」
「ほ、ほんと────!?」
パァーッと明るい表情になる刀奈。
あまりにも素直な反応に変な薬を飲んだかと流星は疑いそうになる。
「というか、お前そっちの趣味の人じゃないのか。俺はてっきり───」
「私の恋愛対象は普通に男子だから───!」
そういう趣味だからこそ───男子相手にあのような揶揄う行動が取れるものだというのが流星の認識であった。
(───)
───なんというか、まさかこうも力強く反論されるとは思わなかった。
流星が驚く中、叫ぶように否定した刀奈もかなり恥ずかしい発言をしたことに気が付く。
流星としても少し気まずい。
「出来れば次会った時に俺とは何も無いって言っといてくれ。
「…そ、それは──」
言いたくない、と乙女心が彼女の中に渦巻く。
明らかに今日は調子がおかしい───言い淀む刀奈に流星は近付いた。
「お前────大丈夫か?」
「へ───」
心配そうにしながら彼の手は刀奈の額へ。
ボン────!と音を立てて刀奈の顔が真っ赤に染まった。
いきなり縮まる距離と額に触れた肌の感覚。
刀奈の脳はそれらの情報を処理し切れなくなっていた。
「熱は無いな…けど顔が赤くないか?……何か急ぎのものがあるなら俺がやっておくから、今日は念の為に休んだらどうだ?」
「〜〜〜〜っ!?」
恥ずかしさと高揚感が押し寄せる。
普段なら滅多に見られない自身への優しさも、彼女にとっては激物だったらしい。
「刀奈…?」
オーバーヒート寸前の刀奈。
訝しむように顔を覗き込む彼と視線があい────限界が来た。
「だ、大丈夫よ─────大丈夫───!」
目をグルグルと回し混乱しつつも、グイ───と流星を押して引き剥がす。
そして、素早く自身の席の上にある書類を幾つか手に取った。
「私はこれを取りに来ただからっ!」
取ってつけたような理由を吐き捨て、彼女は逃げるように生徒会室を走り去る。
ぽつんと独り残される流星。
──結局なんだったのか訳の分からないまま、彼は勉強を再開するのであった。