IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

9 / 97
-7-

時間はクラス代表を決める試合が終わった日の夜。

場所は食堂であり、どう話が通っていたのかケーキやデザートまでも用意されていた。

 

一夏クラス代表決定のお祝い会である。

参加者は多く、明らかに1組だけではない。

もはや全クラスの混合と化していた。

そんな中、一夏はどこか納得していない様子で料理に手をつけずにいた。

 

「どうして俺がクラス代表なんだよ」

 

その疑問はもっともだった。

彼は結果として1勝も出来ず、負けただけである。

元々クラス代表を賭けた試合だっただけに意味がわからないと一夏は首を傾げる。

 

「それは(わたくし)達が辞退したからですわ」

 

と、一夏の疑問にセシリアは答えつつ彼の前に立つ。

その横を通り抜け、流星は一夏の横にドカッと勢いよく座る。

その手にはいつも通り参考書が開かれた状態であった。

 

「……俺は元々クラス代表には興味あったわけじゃないしな」

 

「でもおかしくないか?」

 

「知らないな。負けたお前に反論する権利はない」

 

「ぐっ……」

 

他人事と流星は決め込んで参考書にまた視線を戻している。

もはや一夏の中ではそれが流星の基本になっていた。

そんな流星と一夏を前に立ったままのセシリアはゴクリと息を飲んだ。

そして、意を決した様子で話を切り出す。

 

 

「……今宮流星さん、織斑一夏さん」

 

「ん?」

 

「どうしたオルコット」

 

真剣な表情で話しかけるセシリアに一夏は顔を上げ、流星も参考書を閉じて言葉を待つ。

すると、セシリアは突然頭を下げた。

 

 

「この前の発言、(わたくし)が間違っておりました。貴方達と戦い、(わたくし)の考えが狭く浅い考えであったことを思い知らされましたわ。オルコット家当主としてここに謝罪致します」

 

その行動に目をパチクリさせる一夏。

流星はその様子を見つつ、嘘偽りない本心であると直感する。

高い自信とプライドを持つほどの実力と努力家であろうセシリア。

そんな彼女が自身の間違いを認め、改める。

──なんだ、律儀なやつだなぁ。

などと思いつつ一夏と目を合わせる。

すぐに2人は頷き、立ち上がった。

 

「いいよ、俺も暴言を言ってしまったからさ。こちらこそごめん」

 

「俺は実に良い経験になったし、代表候補生の努力と練度を試合で感じ取れたように思う。得るものは大きかったから感謝している」

 

その2人の返事に、セシリアは頭を上げるとホッとしたように安堵の息をもらす。

 

と、そこで流星と一夏にセシリアは提案する。

 

 

「それでもし宜しければですけど、これからはセシリアとお呼び下さいませんか?(わたくし)も一夏さん、流星さんとお呼びしますので」

 

「あぁ、そうだな!これから改めてよろしくなセシリア!」

 

雨降って地固まる。

まさにこの事だなと1人納得する一夏の眩しい笑顔にセシリアは頬を赤らめて視線を逸らした。

 

「あー、……よろしくなセシリア」

 

その様子を見て色々察した流星は、参考書を再び開き席に座り込む。

釣られて座る一夏。

そして自身の反対側である一夏の右側に座るセシリアを見て、ふと何かの気配を流星は感じた。

はるか前方で心中穏やかでないためかワナワナと身体を震わせている箒が見えた。

直ぐにこちらにやってくるだろう。

 

 

「俺は知らない。関わらないでおこう……」

 

と流星は静かに一夏の横を離れ、人が座っていない席に移動した。

参考書を開き没頭しようとする。

そうしようとしたところで隣に座ってくる存在に気がついた。

 

「本音か……」

 

「どうしていまみーは身構えているの?」

 

「……なんでもない」

 

昨夜の記憶が蘇り、本音に対する恐怖も蘇り怯えていた流星。

対する本音はケーキを大量に乗せた皿を片手に、非常にいい笑顔でケーキを食べ進めていた。

昨夜のことは忘れよう、などと流星は誓う。

 

「こんな時間になんて量食う気なんだ」

 

「またいまみー乙女に言ったらいけないことを言ってるー!」

 

「知ってるか本音。こういうのは自業自得って言うんだ」

 

鼻で笑いながら参考書を読み進める。

そんな流星を見ながら、本音は穏やかな口調でボソリと呟いた。

 

 

「ありがといまみー。私の友達の為に怒ってくれて」

 

その声は隣だが流星には届かない。

本当にボソリと呟いた言葉。

彼にはそんな考えもなく、ただ怒ったのは簪の為でもない。

だが、流星は間違いなくその時の発言を撤回させようとしていた。

その事実は揺るがない。

 

 

「ん?何か言ったか?」

 

「うぅん何もー?」

 

少し恥ずかしかったからもう言ってやらない、と本音は静かに思う。

そんな彼女は流星がいつの間にか片手に小さなケーキを持って食べていることに気が付いた。

ふと、気付くと小さなケーキが1つ皿から消えている。

 

「いまみーそれ私のー!」

 

「ありがとう、わざわざ持ってきてくれたんだろ?」

 

「ちがうよー!」

 

「はっはっは、お前のカロリー計算に貢献してやっているんだ感謝しろ」

 

「むー」

 

この男、会長に影響を受けているのではないか?などと本音は感じつつケーキを食べるペースを早める。

横に来たのは自分だが、そのせいで流星がケーキを盗むのを止められないでいた。

 

流星のケーキを食べるペースが早い。

 

流石に疲れているのだろう、と本音は見抜いていた。

 

 

「いまみー?無理しちゃダメだよ?」

 

「なんだおもむろに。俺は無理なんて……」

 

「今日位は休まなくちゃダメーってこと。今日この後も1人で訓練する気だよね?」

 

本音の発言に流星はどこか気まずそうに視線を泳がせる。

変なところで勘は鋭い。

そう内心愚痴を吐きつつ、流星はもの惜しそうに告げる。

 

 

「こっそり申請してたのにバレてたのか。実は機動周りもう少し改善出来そうな気がしてきてたんだが…」

 

「いまみー」

 

「──わかったよ。今日は休むよ」

 

「ならよーし」

 

渋々従う流星。

それに満足気な本音。

その様子を一通り眺めた後、2人に近付く1人の影があった。

パシャリ、とカメラのシャッター音が聞こえた。

 

「いいねー。ケーキを食べる女子と談笑しつつも参考書を手放さない今宮君。これ名刺ね!あと取材いいかな?本音ちゃんも一緒に!」

 

腕に新聞部の腕章を付けた女生徒、リボンの色からして楯無と同じ2年生だろう。

名刺を受け取り、名前を確認する流星。

そこには黛薫子、と書かれていた。

 

「取材って何を取材するんですか……?」

 

「ズバリ!流星君には気になる女の子がいるのか居ないのか!」

 

「────IS学園の新聞部、俗過ぎないか」

 

呆れた様子で流星は顔を強ばらせる。

 

「あれ?こう言うのも何だけどIS学園ってレベル高いと思うんだけどなー?」

 

「どうしてだろう本音。この人を誰かと重ねてしまうんだが……」

 

「それはねいまみー。会長と先輩は友達だからだよ」

 

「…………類は友を呼ぶってやつか……」

 

脳裏に浮かぶはイタズラ好きな笑みを浮かべ、何故かピースサインを浮かべる楯無。

苦虫を噛み潰したような顔をしつつ流星は先程移動時に調達していたドリンクに口を付ける。

薫子は何か思いついた様子で口を開いた。

 

 

「──たっちゃん、いえ更識生徒会長との同棲生活はどう?」

 

「──ぶはっ!ゲホッ!?ゲホッ!!何だその言い方は!?」

 

「その様子だと多少意識はしてそうね。でも本音ちゃんとのあの様子…………これはいい記事が書けそうだわ!」

 

サラサラと手帳に書き記して行く薫子。

その片手には小型のボイスレコーダーが握られていた。

恐らく先程のリアクションも撮られていたと流星は気付く。

 

 

「ただのゴシップ記事じゃ無いですか。そんなのばっかりなら取材拒否しますよ?」

 

「釣れないなぁ今宮君は。本音ちゃん、他に何か面白そうな話題ない?」

 

「いまみーはね。あんまりクラスの人とも話してないかなー?」

 

「なるほど!所謂コミュニケーション障害と!?」

 

「本音、とりあえず今はそういう誤解を招く発言は辞めてくれ」

 

流星は参考書を閉じて机の上に置いた。

まともに相手をしてとっとと帰ってもらおう、などと考えたからだ。

 

「それで先輩、本題は?」

 

「そうね、一夏君からも貰ったし何かコメントでも」

 

ボイスレコーダーを流星の顔に近づけ、薫子はそう言い放った。

 

「えーっと、頑張って強くなります?」

 

「うーん、パンチが弱い。ほらこう何かない?俺に近付くと火傷するぜ!的なやつ!」

 

「……」

 

頭が痛い。

正直なところ、このようなコメントは当たり障りのないもので済ましたかったのだがそうはいかなさそうだった。

──下手に捏造でもされるのはゴメンだ。

 

「なら、学園最強を目指しますでお願いします」

 

「ほほう?いいね!男の子って感じのコメント!採用!」

 

「いまみーは生徒会長目指してるの?」

 

「……む、本音。別にそういう訳ではないのだが」

 

言い淀む流星。

このコメントに深い意味は特にない。

鍛えて貰っているとはいえ、散々からかわれているのだ。

見返したいと思うのは当然だろう。

 

さて、と薫子はボイスレコーダーと手帳をしまい立ち上がる。

 

 

「ありがとう!おかげでいい記事が書けそうだわ。じゃあ私はここで失礼するわね?今度の新聞楽しみにしといて!」

 

「まともな記事である事を祈りますよ」

 

「任せて!一夏君と今宮君の2人のことは特に大きく載せるから!」

 

「答えになってねぇ……」

 

と、そこで流星の参考書の上に何かが置かれた。

何かの紙の束。

直ぐに手を取り流星は目を通した。

 

それは、ISの整備科の資料を纏めたものであった。

 

「それは取材料ってことで」

 

「いいんですか?これ貰ってしまっても」

 

「大丈夫よ、コピーだし。IS学園内でしか使わないでしょ?」

 

──それに、と薫子は唇に人差し指を当ててジェスチャーを送る。

片手で隠し撮りしようとしているカメラが無ければ可愛い仕草で片付いていた。

 

 

「たっちゃんにとって遠慮なく色々言い合える人は貴重だからね。これからも親友としてたっちゃんをよろしく頼むよ、ってこと」

 

 

そう言い残し、じゃあねと薫子はその場を後にする。

それを見送りつつ、流星は彼女が置いていった資料を手に取り読み始めた。

 

 

その瞬間、どこからか飛んできた木刀が流星の顔の真横を高速で通り抜けていった。

 

「………は?」

 

ブワッと一気に冷や汗が吹き出し、直ぐに周囲を見回す。

すると、こちらへ逃げて来たと思われる一夏が流星の目前で立ち止まった。

目は明らかに助けを呼びかけていた。

 

 

「りゅ、流星!のほほんさん!助けてくれ!」

 

「どうしたのおりむー?」

 

「どうした──と俺も言いたいが真後ろを見ろ本音。多分あの鬼のせいだ」

 

流星は一夏の後方を指を指す。

そこには並々ならぬオーラを放つ箒が一夏のあとを追い掛けるようにゆっくりと歩いてきていた。

 

「おい一夏、何した」

 

「知らねぇよ!?俺が聞きたい位だ!」

 

その台詞に流星は顎に手を当てて考える。

セシリアも一夏に好意を向けるようになったと流星は認識している。

つまり、箒からすればそれは面白くない状況。

不用意に一夏が爆弾を踏んでしまった可能性が高い。

 

 

「とりあえず俺を巻き込むな!なんだあの鬼は」

 

「そんなこと言わずに助けてくれ!このままじゃあどんな目にあわされるかわからない!」

 

必死に訴える一夏だが、刻一刻と恐怖は近付いてくる。

 

「ちなみに、なんて言ったんだ?」

 

「2人が言い合ってたから、何故か突っかかっていく箒を止めてたんだよ!そしたらどっちの味方かってすげぇ勢いで詰め寄られて……」

 

「……まさかそのまま逃げて来たのか」

 

「ああ、流星の様子見てくる!って席を立って流星の方に逃げたら木刀を投げられた」

 

「よし、そのまま踵を返して立ち去れ!」

 

「っても今の木刀お前に向かってなかったか!?流星も狙われているんじゃあ……!?」

 

「!?」

 

その言葉に流星はすぐ近くに転がっている木刀の方を見た。

一夏が逃げて来た位置と照らし合わせるとあるひとつの仮説が生まれる。

つまり、さっきの一撃は流星を狙っていたものである。

 

 

「…………男に嫉妬する……だと…………!」

 

 

「いまみーが、今まで見た事ないくらい哀れなものを見る目をしてるっ……!?」

 

「のほほんさん、何か沈める案はないか!?」

 

「さ、流石にわからないかな?」

 

流石の本音も困った様子で返答する。

当たり前だ、こんなの関わるだけとばっちり食らうだけだと流星は内心叫ぶ。

 

もっとも、既に流星は巻き込まれているのだろうが。

 

 

「とりあえず、逃げるぞ一夏!」

 

参考書や資料を片手でまとめて持つと、流星は一夏の肩を引っ張り急いでその場を離脱する。

 

だが、待って欲しい。

一夏と流星は貴重な男性操縦者にして、一夏に至ってはこのパーティーの一応主役である。

つまり、話しかけられなくとも遠巻きに全部様子は見られていたわけで───。

 

『こ、これは篠ノ之さんからの略奪愛!?まさか一夏君と流星君ってそっちの人!?』

などと耳が痛くなるような台詞が遠巻きに聞こえたりもした。

もちろん、そこまで大きな声ではないはずだが無駄に今地獄耳になっている箒には火に油である。

 

 

「なるほど、一夏が昔から鈍いのはそういうことか。ふふ、ふふふふふふふ!」

 

瞬間、箒が全力疾走でこちらに向かってきた。

先程投げた木刀を速攻で拾い、かなりのスピードで駆けてくる。

 

「うおおお!?追ってくるぞ流星!?」

 

「速過ぎないか!?全力で走れ一夏!!」

 

「流星!俺はこんなに速く走れたのか!!」

 

「つべこべ言わずに走れ!一旦まいて頭を冷やしてもらう時間を作るしかない!」

 

2人も全力で疾走する。

すぐに廊下に出た2人は、箒を振り切るべく人気のない廊下を走る。

さすがにこれだけ必死に逃げているため距離はそれなりに開いていた。

これなら振り切れる!流星達はそう安堵する。

だがそうは問屋が卸さなかった。

 

 

「ほう、廊下を走るとは随分と元気だな?」

 

「「!??!!?」」

 

前方に急に現れた千冬に2人は思考が一瞬止まる。

何処から?いつの間に?などとの考えはとりあえず後回しにされていた。

 

「廊下は走るなと習って来なかったか?」

 

急ブレーキをかけ、千冬の前で止まる2人。

よりによってと2人は自身の運を呪う。

 

 

「前門の千冬姉、後門の箒かよ!!?」

 

 

「──ブハッ!?くくっ、ぷっ、ハハハハハッ!!!!」

 

思わず漏れた一夏の言葉に笑いを堪えられずに吹き出す流星。

千冬に恐ろしい虎の姿を幻視し、ツボに入ったようだ。

 

一方で千冬はそう言われて表情こそ崩しはしないが、迷わず手に持っている出席簿を縦にして振るっていた。

 

「織斑先生だ。馬鹿者」

 

「がっ!?」

 

「一夏───!?」

 

頭にそれをまともに喰らい崩れ落ちる一夏。

完全に意識を手放した彼を横目に真上から振り下ろされる出席簿に流星はかろうじて反応する。

 

「あぶねぇ!?」

 

「ほう。良い反応だな」

 

白刃取りのように出席簿を受け止める流星を見て、千冬は感心した様子で声を漏らす。

 

「だが、まだまだだな」

 

次の瞬間流星の足を軽く払うと、姿勢を崩す流星を前に出席簿を奪い取り、再び振りかぶる。

流石ブリュンヒルデ、反応が殆ど出来ない!?などと流星が思っている間にも出席簿は振り下ろされる。

 

 

「廊下は走るな。いいな?」

 

頭上にヒットする出席簿に流星の意識は強制的に刈り取られた。

 

ゴロンと転がる男2をそれぞれの寮の部屋に押し込むべく、千冬は2人とその荷物を軽々と抱える。

全く馬鹿共が、と愚痴を言いつつ廊下を歩く。

 

 

もちろん、後から追い付いた箒もこの後コテンパンに説教されるハメになった。

 

 

 

───同時刻、IS学園を外から眺めつつ1人佇む影がそこにはあった。

 

明かりのついている学園を眺めながら、──小柄なその少女はふふんと得意げに笑みを浮かべた。

 

「待ってなさいよ!一夏!」

 

 

 

 

「ちょっと、そこのあんた」

 

「……ん?」

 

翌々日の朝、流星は廊下で背後から突如呼ばれ振り返った。

背後に居たのはツインテールの少女、背は高くない。

その声色と表情からは、何処と無く自信を感じさせるものがある。

勝ち気な少女、そう感じた。

 

「なんでそんなあからさまに嫌そうな顔するのよ」

 

「いや、何故か嫌な予感がしただけだ。すまない。それで何の用だ?」

 

(あたし)さ、ここに来たばっかりだから、まだよくわかってないのよね。職員室どこか知らない?」

 

「ああ、ここは広いから仕方ない、案内しよう。しかし来たばかりか。俺それ知ってるぞ転校生ってやつだな」

 

どこか嬉しそうに転校生と言ってのける流星に少女は首を傾げる。

 

「ありがとう。でも、あんたってもしかして変人……?」

 

「いきなり失礼だな……。とりあえずこっちだ」

 

流星に連れられ、少女は廊下を歩き始める。

 

 

(あたし)は、凰鈴音(ファンリンイン)。鈴でいいわよ」

 

 

少女──鈴はざっくりと自己紹介を終え、流星へ視線を向ける。

流星はその視線の意図を読み取り、応じる。

 

「俺は今宮流星。知ってると思うが2人目の男性操縦者だ」

 

「ふーん、今宮ね。今宮はこんな朝早くから何してたの?」

 

「ちょっと生徒会の用事と朝の特訓終えたとこだ」

 

鈴の指摘はもっともだった。

HRの時間にも小一時間ほどある。

教室に人もいない中、廊下を歩いていた流星に声をかけたのは必然だった。

流星の答えに鈴は意外そうな顔をする。

 

「……今宮って生徒会の人だったんだ。それに特訓っていうのは誰と?もしかしてもう1人の男性操縦者?」

 

鈴はどこか期待した様子で尋ねる。

 

「いや、俺が今教えて貰っている人とやっている感じだよ」

 

鈴の様子を見て、流星の中にある仮説が浮かぶ。

 

「鈴こそどうしてこんな時間から?」

 

「その、えーっと、職員室に用があったから早めにね?」

 

「その割に教室を覗いたりしていたように見えたが?──誰かを探しているのか?」

 

意地悪な笑みを浮かべつつ、問を投げる流星。

鈴はギクリと身体を動かし、数歩前に出て流星の方に振り返る。

 

「なっ!誰がアイツを探してるって!?」

 

「それ探してるって自白してるだけじゃないか」

 

「ぐっ!?」

 

 

「それで、一夏を探しているんだろう?」

 

 

恥ずかしそうにする鈴を前に流星はいつになくいい笑顔になる。

彼自身やはり自覚はないが、楯無の影響も出ているのだろう。

元々の性格に近付いているのか、はたまたただの影響かは誰にもわからない。

 

「そ、そうよ!!それで一夏の奴は何組なのよ?」

 

「俺と同じ1組だよ。鈴は……2組か」

 

「なんであんたが知ってるのよ……」

 

鈴は呆れた様子で溜息をつく。

くつくつと笑う流星は困惑する鈴に種明かしをする。

 

「俺は生徒会だって言っただろ?それで転校生が来たとかなっても雑務があるんだよ。だから知ってたんだよ」

 

「あんた、性格悪いって言われない?」

 

「言われた事が無いな」

 

「じゃあ(あたし)が代表候補生って事も知ってるのね?」

 

鈴の真剣な問いに流星は首を傾げる。

明らかに何を言ってるんだといった顔をした。

 

「え、嘘、もしかして知らなかったの!?」

 

「いや、中国の代表候補生だろ?知ってる知ってる────ああ俺が悪かった!だから許してくれ」

 

ワナワナと震える鈴に流星は静止をかける。

鈴も怒っても仕方ないと呆れた様子で落ち着く。

再び流星の横に並び、職員室に向かって足を進め始める。

 

 

「あんた、イギリスの代表候補生に勝ったんだって?」

 

 

唐突に尋ねる鈴。

流星は少し驚いた様子で答えた。

 

「耳が早いな。結果としてはそうだよ」

 

「結果としてはってどういうことよ」

 

「俺がセシリアの武装とか特徴とかを、先に一夏との試合を見て知れたからな。ハンデがあったようなもんだ」

 

その言葉を聞き、鈴はつまらないといった様子で返す。

 

「あんたってそういうとこ無駄に真面目なの?勝ちは勝ちじゃない」

 

「そうかもしれない。だがあくまで出し抜いただけだ」

 

「ふーん」

 

その言葉を呟く流星の目は真剣そのものだった。

自身が弱い、そして彼自体が自覚しているからこそのこの発言。

謙遜ではなく、力量を把握しているからこそのもの。

鈴はそれを感じ取る。

 

「じゃあ(あたし)と模擬戦、近いうちにやらない?」

 

興味があった。

槍の腕はそれなりだそうだし、射撃の精度も良いと聞いていたからだ。

 

一方で流星は静かに考える。

武装も戦い方も知らない状態での、対代表候補生。

得るものはそれなりに有りそうだった。

 

「あぁ、こちらこそよろしく頼む。またとない機会だ」

 

「決まりね」

 

「───着いたぞ」

 

流星の言葉を受け、鈴も足を止める。

職員室の目前に2人はたどり着いた。

 

流星は真面目な様子で鈴に話しかけた。

 

「鈴に先に忠告しておくことがある」

 

「何よ?」

 

「この部屋には恐らく織斑千冬がいる」

 

「え゛……千冬さんが……?」

 

流星の忠告に鈴は表情を強ばらせる。

やはり知り合いだったか、と流星は目を細めつつ続ける。

 

「とりあえず一夏みたいに普段の呼び方で呼ばないようにな。織斑先生と言わないと……」

 

「言わないと……?」

 

ゴクリと唾を飲み込む鈴。

有無を言わさぬ千冬の迫力を知っているからこその緊張感だろう。

 

「人知を超えた出席簿がお前を襲う」

 

「痛そうね……」

 

げんなりする鈴。

脳裏には織斑先生と呼ばずに、出席簿を叩き込まれる一夏が安易に想像出来た。

 

「アレはもはや武器だ。あの威力は生徒にやるものではない」

 

「なんか食らったことあるみたいな発言なんだけど」

 

「一昨日食らったよ。ゴリラもビックリの力だ」

 

自身の殴られた頭部を擦りながら言う流星に鈴は困惑を隠せずにいた。

あの千冬の力で殴られるのだ。

ひとたまりもないだろうことは言うまでもない。

 

「あんたも一夏もよく食らって平気ね」

 

「いや、一撃で意識を刈り取られた」

 

「そもそもなんでそんなことになったのよ」

 

「まあ待て、俺もまだ思い出し笑いしかねないんだ。この話は職員室の近くではしないでおこう」

 

また出席簿を食らっても困るしな、と流星が言おうとした瞬間、不意に背後から声が聞こえた。

 

 

「ほう?ここでは話せないか?今宮」

 

流星の背後を見て、鈴の顔色が一瞬にして悪くなる。

冷や汗をダラダラと流し、顔は貼り付けたかのようなヒクヒクとした歪な表情──所謂苦笑いだ。

 

そして、流星も声と鈴の表情で自身が窮地にいることを理解した。

 

背後に、千冬がいることも。

 

 

「ははは、怒られたことなんて楽しいお話ではないでしょう?」

 

「そう言うな今宮。遠慮はいらん、話してみろ」

 

「何を仰っているんです?織斑先生が美しいって話じゃないですかハッハッハ」

 

「そうだったな。ハッハッハ」

 

流星の笑いに釣られたかのように笑う千冬。

その明らかに合わせた不気味な雰囲気に鈴は数歩後ろに下がる。

 

「ハッハッハ、ところで今宮。私はゴリラか?」

 

「そりゃあゴリラかって思うくらいのパワーですねハッハッハ……ははは……」

 

自身の発言にサーッと流星の顔から血の気が引いていく。

 

瞬間、流星はずっと片手に携帯していた参考書を頭上に構えた。

 

 

 

 

──刹那、炸裂するような音が廊下に響く。

 

 

 

 

それは出席簿と参考書の激突した音だった。

 

「!?!!!?」

 

流星自身、千冬の動きに無我夢中で反応した為か目を見開いて驚きを隠せずにいる。

彼自身の肉体が急激な反応に悲鳴を上げていたのは言うまでもない。

 

一昨日の追撃を思い出し、流星は急いで千冬の出席簿の攻撃範囲から出る。

 

「ほう、やはり受け止めるか。危機回避能力は高いな」

 

「前よりも威力上がってただろアレ!ましたよね!アレ!」

 

「いやなに、お前のことを信頼してのことだ。危機回避能力は昔の経験則から来るものだな?」

 

千冬の言葉に流星は複雑な表情になる。

どう反応していいかわからない、といった様子だ。

 

「経験則?」

 

鈴が首を傾げた。

はたしてIS学園に来てここまでの期間で、あの出席簿に経験則で反応できるようになるものだろうか。

いや、昔のと言っていたと鈴は1人疑問を抱く。

 

 

「ああ、今宮の奴は昔、少年兵や傭兵をやってたことがあるからな」

 

「……その経験則も出席簿であしらわれる程度だ。自覚はあるけど、別に俺は運が良かっただけですよ」

 

「え……?」

 

いじけた様に言う流星に千冬は不敵な笑みを浮かべる。

鈴は意外な流星の過去に少し衝撃を受けていた。

少年兵?傭兵?

この少年は何故そんな状況になったのか、鈴は想像ができなかった。

少年自身から、一切そんな節を感じさせなかったからだ。

知って良かったのか?そう思う鈴の心境を読んでいるのか、千冬はごく普段の様子で応じる。

 

 

 

 

「そういじけるな今宮、私はこれでも評価しているんだ。──あと凰、コイツはこのように聞かれなければ特に話さない奴だ。それに織斑達がそう聞くとも思えんからな、お前くらい知ってた方が都合がいいだろう」

 

「は、はい!」

 

 

 

「それと今宮。凰は見ての通り悪い奴じゃない、仲良くしてやれ」

 

 

 

「え?嫌ですけど」

 

 

先程からいじけて若干不機嫌な流星はそう即答した。

 

「へ?」

 

「ほう」

 

間抜けな声を漏らすのは鈴であり、千冬の反応は一瞬だった。

流星の頭を有無を言わせぬ速さでワシ掴みにした。

そのまま流星の頭をその身体ごと、自身の腕1本で持ち上げる。

 

 

「あだだだだ!!?」

 

「いじけて素直になれないならさせてやろう。天邪鬼なのはこの脳か?どうだ?素直になったか?」

 

「口より手が出るの早い!!!頭もげ、もげげげげ!?」

 

俗に言うアイアンクローというやつだった。

流星は参考書を手放し、必死に千冬の手を剥がそうとするが、ビクともしなかった。

それどころか、締め上げる力は強くなるばかり。

 

「ギブ!ギブアップ!織斑先生ぇえええ!?参りました!!トマトみたいに潰れちゃうから!」

 

メキメキと凄まじい音が聞こえることに鈴は戦慄する。

なんだかんだとここまで案内してくれたわけだし、これからも付き合いは長くなる。

と、鈴は恐る恐る助け舟を出すことにした。

 

「お、織斑先生……それぐらいにしてあげても……?」

 

「──だ、そうだ。凰に感謝するように、今宮」

 

「た、助かっ……っ〜〜〜っ!?」

 

千冬は手を離し、流星を解放する。

流星はそのまましばらく廊下に転がり、悶絶していた。

千冬は満足したのか、そのまま職員室に入っていく。

 

「あんたも無謀よね。千冬さんにあんな返しをするなんて」

 

「なんだあの馬鹿力は。アレは同じ人間なのか……」

 

寝転がっている流星を覗き込みつつ言う鈴に、流星は一人呟く。

 

「これ以上言わない方がいいわよ今宮」

 

 

「そうだな。次こそ廊下が殺人現場になる」

 

 

ゆっくりと立ち上がる流星。

制服を叩き、埃などがついていないか確認していた。

 

「ありがとう、助かったぞ鈴」

 

「食堂のランチでいいわよ?」

 

「はいはい。──ん?こんな時間か」

 

と、流星は自身の腕で待機状態となっているISによって時間を表示しそう呟いた。

整備室で少しISを調整しようと予定していたことをおもいだしたからだった。

HRまではまだまだあるが、その時間を加味するとHRにもギリギリといったところだった。

 

「じゃあ俺は用事があるから」

 

「そう。(あたし)は元々職員室に用があったわけだし、行ってきなさいよ」

 

「ああ、じゃあまた後でな」

 

少し駆け足気味で去っていく流星を見送りつつ、溜息をもらす。

こんなに朝から彼はなんと忙しい人間なのだろうか。

しかし、どこか楽しそうだと鈴は感じていた。

悪い奴じゃなさそう、とだけ考えつつ職員室に入ろうとする。

 

そこでふと鈴は床に落ちたままの物を見つける。

 

「……参考書、ね」

 

それは流星が鈴を案内している時も、持ち歩いていた分厚いISの参考書だった。

ひょいと持ち上げ、どれどれと興味本位で中身を見る。

かなり簡単に開いた。

何度も読み直したのかページをめくるのは簡単だった。

中身もビッシリと書き込まれており、補足事項まで事細かに記されている。

 

 

「……何が運よ、ちゃんと努力した成果じゃない」

 

少しだけ目を通した後、本を閉じる。

特訓と先程言っていたことも思い出す。

おそらく、そちらもかなり努力をしているのだろう。

意外な一面を勝手に覗き見たような複雑な気分になる鈴。

初対面の癖に一度に仕入れた流星の情報が多く、鈴は今宮流星という人間を掴みきれずにいた。

 

「なんかムカつくわね……」

 

とりあえず後で一夏に会いにいくついでに渡してやるか、と鈴は参考書を片手に職員室に入る。

 

 

ついでに流星の実力をすぐにでも見てやろう、とも考えながら。

 

 

 




鈴登場。

千冬さんが鈴の前で過去に触れたのは、一夏達の周りだと一番その手の気が利くと考えたから。
千冬さん自身はそれで嫌われる可能性も考慮している。
あくまで言っても問題ないと判断した上での事。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。