IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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カラン、とグラスの中で氷が音を立てた───。

豪華な部屋の一室。

静かで暗いその空間でTVだけがチカチカと照らしている。

 

「────」

 

長い橙色の髪の女は、グラスへと口を付ける。

肌着と下着のみのラフな格好であった。

 

亡国機業(ファントム・タスク)の実行部隊が根城としているホテル。

 

少し飲むと女───オータムは眩しいTVの画面へと視線を移した。

 

(は────遠目とはいえ中継を続けるとは呑気なもんだ)

 

呆れたように溜息をつくオータム。

そこには現在襲撃されているアリーナの会場と戦闘の様子が映し出されていた。

 

大半のカメラは壊れているが幾つかは生きている。

試合用に多数カメラが用意されていたからだろう。

 

 

そんな事より──────とオータムは目を細める。

会場の真ん中で戦う二人を見て、再度グラスに口を付ける。

グッと先よりも多く液体を流し込み、口を離した。

 

 

「一人で戦うなんざ、分かってねぇなアイツ」

 

 

呟きは虚空へと溶けていく。

言葉には微かな苛立ちが混ざっていた。

 

 

そうして───彼女はゆっくりと席を立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

────無数の銃口から放たれる弾丸。

爆発物にも引けを取らないその物量を前に、灰の機体は盾を展開していた。

 

「──!」

 

割り込むような動きでの盾。

神速で展開されたそれは全ての攻撃を防ぎきれないまでも、攻撃の大半を引き受けて見せた。

 

 

「っ!!」

「くっ!?」

 

衝撃に耐えきれず流星は鈴と共に後方へと吹き飛ぶ。

彼女は咄嗟に流星を掴みながら、スラスターの出力を調整した。

 

その隙を逃すまいと有線ビットが追撃に走る。

銃口が鈴を捉えた瞬間────彼女は右肩の龍咆を放った。

 

衝撃砲のPICによる反動制御を切っての慣性移動。

放たれた光弾は虚空へ消える。

変則的な機動で鈴は流星と共に横へと転げ落ちていた。

 

 

「!」

 

更にそこへ仕掛けようとしたルナだが、ピタリと動きを止める。

同時にスナイパーライフルの弾がルナの頬を掠めていった。

 

「へぇ──」

 

緋色の澱んだ瞳で立て直す二人を捉える。

今の一連の流れは敵であれ驚かざるを得ない───しかし、ルナの興味はそこにはなかった。

 

先程の攻撃に対しての反応速度。

以前の戦闘では感じられなかった違和感からルナは確信を得ていた。

エムが勘で辿り着いたある事実をルナは口にする。

 

 

「…やっぱりISと『同調』してる。流星はどうして平気なのかしら?」

 

「ISと『同調』……?」

 

鈴は困惑を露わにしつつ流星へと視線を向ける。

ISとの同調───そんな事をすれば廃人になっている筈だ。

当の流星は眉を顰めつつ、ルナの出方を窺っている。

アサルトライフルを展開した彼は、その銃口をルナへと向けていた。

 

 

ルナは鈴の様子を見てくすりと笑う。

少女らしい外見ながらも大人びた仕草は不思議と似合っていた。

 

 

「ふぅん、鈴は知らなかったんだ?隠し事なんて酷い男ね、流星」

 

「根拠の無いデタラメだろ。有り得ない話だ」

 

流星は吐き捨てるように告げ、引き金を引く。

ルナは踊るように空中で銃弾を躱し、口を三日月に歪ませた。

 

「根拠ならあるわよ。だって私───ISと一心同体だから」

 

「「!!」」

 

少女の衝撃的な発言に流星と鈴が目を丸める中、少女は攻撃へと転ずる。

 

消えるルナ・イグレシアス。

今は装甲の下に隠れているが、あの無数の銃口による近接射撃は脅威だ。

当然白刃よりもリーチが長い。

消える能力の移動距離での弱点もある程度補えてしまう。

 

 

「流星!」

 

甲龍(シェンロン)』からの探知情報が改めて『時雨』に共有される。

直進を避けた左からの回り込み。

動きを先読みし、彼はアサルトライフルの引き金を引く。

 

鈴はその直前に流星からサブマシンガンを受け取り、反対側へと銃口を向けた───狙いは有線ビットである。

 

──ルナはそれを見てから反応してみせる───。

もう1つの有線ビットによる射撃は、正確に鈴のサブマシンガンを撃ち抜いた。

同時に急停止からの旋回で流星の射撃も躱して見せる。

 

元々超人的な動きを見せていた彼女だが、自身とビット双方でその反応速度を披露するのは異常の一言に尽きる。

 

 

刹那の攻防。

 

流星と鈴の攻撃は無意味となった。

ルナは回り込みながらも一気に流星と距離を詰めていた。

 

二刀の白刃が振るわれ、流星は槍を展開して応じる。

飛び散る火花。

少年は、後退するようにして何とかあと一歩を踏み込ませないように立ち回る。

 

無数の銃口て射程内であり、いつあの攻撃を叩き込まれてもおかしくない。

 

 

 

鈴は二基の有線ビットにより分断されている。

 

今までよりも巧みなビット操作はもはやセシリアを彷彿とさせるもの。

現在流星と共有している探知情報も、鈴とルナが遠ざかれば探知範囲外に出てしまう。

 

 

彼女は焦燥に駆られながらも思考を走らせる。

 

(っ、どうすれば───)

 

普段と使用感の異なる龍咆で狙うにも、当たるような生半可な相手では無い。

 

 

有線ビットの攻撃を躱し、手に持った双天牙月に意識がいく。

いつも通り使える数少ない武装。

 

(──────)

 

彼女は双天牙月を連結し一本に。

迷わずそれを投擲した。

 

「!」

 

狙いはルナ・イグレシアス。

彼女は一歩下がるように流星と間合いを空け、それを躱そうとする。

 

流星はその隙を見逃さず黒い槍を振るう。

押し込むような縦の一閃。長いリーチに少女は防御を強要された。

金属音など待たず両者は動く。

 

少年は後方へと切り返しつつ、正面へと拳銃型特殊兵装『シリウス』を向ける。

対してルナは前進するように機体を切り返す。

二振りの白刃を持ったまま、装甲が再度開き無数の銃口が顔を覗かせていた─────。

 

二択を迫るような少女の動き。

不意をつくように流星が出していたフックショットもアッサリと避けられている。

 

「───」

「!」

 

流星が引き金を引く。

分裂弾が枝分かれするようにして数を増やし、少女の眼前で弾幕を形成していく。

その過程を潰すようにルナの機体の銃口が段階的に光を放つ。

 

無数の銃口の一部が先行して放たれている。

 

 

小規模の爆煙が二機の間で広がった。

衝撃が機体を揺らす。

視界は黒い煙で悪く、とはいえISではその程度の範疇である。

 

無論、ルナ・イグレシアスは止まらない。

距離を離したい流星を逃すまいと加速し、距離を詰める。

 

 

「!!」

 

───そこへ入る横槍。

鈴による掌底が砲弾のように少女の機体の側面へと叩き付けられた。

彼女が駆使したのは、数ある中国武術の中でも至近距離を想定したもの。

それは近接武器での間合いよりも更に内側──潜り込めさえすればISを展開している手前、銃器にも劣らない。

 

 

「───」

 

 

間一髪で防御へとルナは移行している。

だが衝撃を殺し切るために彼女は後退を余儀なくされた。

 

ルナは鈴へと視線をやりながら、白刃を再度逆手に持つ。

今の呼吸に合わせたような一撃は鈴の天性の才能がなせるものだろう。

 

 

 

「「「───!!!」」」

 

 

互いに距離を離した一瞬の膠着状態。

そんな間を壊すかのように光の砲弾がルナと流星達の間に叩き込まれた。

 

 

(これは───!)

 

 

連続して周囲に砲弾が降り注ぐ。

流星達やルナが狙われている訳では無い。

あくまでこれは流れ弾────。

 

ルナもこれには鬱陶しそうに目を細める。

 

会場のド真ん中で繰り広げられる戦いは、激化の一途を辿っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「─────」

 

 

白い機体が宙を駆ける。

迫り来る光の砲弾はその真横を通り、会場の地面へと降り注ぐ。

地面が砕け爆発が凄まじさを物語る。

舞う土砂と小石、空気を震わす音が背後から聞こえている。

 

アサルトライフル程連射はきかない。

反動の存在により立て続けの発射が不可能だからだ。

とはいえ熟練のIS操縦者が扱うビーム・キャノンは、卓越した反動制御により最速の間隔で攻撃を放つ。

 

 

結果、光の砲弾の雨が降り注ぐ。

 

 

観客席を守っている者たちも思わず眉を顰める。

無茶苦茶な戦闘としか形容出来ない。

 

光の砲弾は白い機体の動きを読んで先へ先へと放たれている。

それにより高速で振り切れるはずの白い機体が、一向に褐色の機体に詰められずにいた。

 

そして、白い機体もまたそんな射撃を躱しながら少しずつ距離を詰めている。

 

 

右へ左へ、上へと自由に動き回りながら先読みを察知してギリギリで躱す。

 

刹那の躊躇が撃墜に繋がる。

だというのに織斑一夏は落ち着いていた。

 

 

(見える──────)

 

 

砲弾が放たれた瞬間に機体の進路を変更し続けている。

彼の頭に過ぎるは直近のイーリス・コーリングとの戦闘。

無茶苦茶ではあったが、近接格闘機体として彼女の動きは参考になっていた。

 

 

スラスターの扱いも彼女は巧みであった。

 

ほんの少し変わるスラスター内の出力バランス。

それだけで動きは変化する。

敵機から見ての予兆などなく───機体はその場から離脱する。

 

 

「────!」

 

 

そんな『白式』の動きをオリビアは察知する。

 

機動力のある機体をいつも撃ち落として来た彼女は、少年の動きを見抜いていた。

 

 

「な────」

 

砲門の向きは修正され、いつの間にか一夏の方へ向いている。

そして白い機体の眼前に光の砲弾が飛来していた。

 

経験とセンスの絶妙なバランスから来る砲撃に一夏は反応速度で応じる。

 

すんでの所で横へと旋回し、それすら躱す───無理な動きで左腕が痛みを訴える。

 

これを続ければ身体中がボロボロになる。

一夏がそう理解した瞬間もまたオリビアの攻撃は続いている。

 

避けた先にも先行して置かれていた砲撃があった─────。

 

 

「!!」

 

咄嗟に零落白夜を発動した。

発動時間はコンマ以下、迷わず光の砲弾を両断する。

 

斬られて四散する砲弾。

空中で霧散するそれを見て眉を顰めるオリビアと、苦虫を噛み潰したような一夏。

 

(畜生、使わされた!)

 

距離にしておよそ200。

そこまで近付いた彼ではあるが、ここに来て零落白夜を使わされた事に焦りを感じる。

 

エネルギー消費は最小、当然今の瞬間被弾はしていない。

距離も近い────だがエネルギー弾を切り捨てられるという手札を彼は晒してしまった。

 

駆け引きが得意な方では無いのは承知の上。

だからこそ彼は出し抜く為の数少ない手札をこうも早く切らされる事の危険性を理解していた。

 

「!」

 

───戦闘は続いている。

 

 

更識楯無の発言を思い返す。

こういう場合の自身の武器は何であったか。

 

思考を続けながら、ギリギリの戦闘は続く。

レース仕様であったのが幸いして撃墜はしていない。

ただしアレから二度、瞬間的な零落白夜を使わされた。

 

これまでの消費もある。

もう動かなくとも5分もたないだろう。

 

焦燥で熱が引いていく。

冷え固まっていく思考はその柔軟さを奪わんとしている。

 

 

彼はそこで息を大きく吐いて思考をリセットした。

あれこれ考えても仕方がない。

やれる事は最初から変わらないのだから。

 

 

距離はジリジリと離れていく。

オリビアも未だ落ちずにいる一夏に対し、警戒心が高まりつつある。

零落白夜による一太刀が織斑一夏の勝ち筋だ。

このままいけばそのエネルギーすら尽きるだろう。

 

 

無茶な動きで避けている事が起因して、彼は左腕を痛めている。

体力だけでなく精神的な消費もかなりのもの。

全身の神経を張り巡らせ続けて、オリビアの攻撃を避けているからなのは言うまでもない。

 

 

(まだくたばらない。不快────)

 

直ぐに消し炭にしてやる、とオリビアの武器を握る手に力が込められる。

空中で逆さに切り返した一夏とオリビアの視線が交差した。

 

少年の何処までも真っ直ぐな眼差し。

オリビアの脳裏に殺された妹の姿が目に浮かぶ────。

激情を通り越し、絶対零度の殺意がオリビアを支配した。

 

 

 

「───」

 

二発の砲撃が立て続けに一夏へと向かう。

同時に一夏も褐色の機体に向け、再度進路を取る。

 

動きは先までと違い直線的。

手札がバレた以上短期決戦を仕掛ける気だとオリビアは判断する。

彼女は多少のズレを折込みつつ、彼を撃ち落とす為照準を合わせる。

 

カチャリと一夏は雪片弐型を逆手に持つ。

オリビアが引き金を引くと同時に彼は加速した。

 

 

彼が行ったのは二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション)

オリビアが次の射撃を放つまでに両者の距離は無くなるだろう。

そうなれば彼女は砲撃直後の微かな硬直という隙を近距離で晒す事になる。

 

今放たれた攻撃に彼は高速で突っ込んでいく大きなリスクも存在する。

 

しかしオリビアはそこで勝利とは考えなかった。

織斑一夏があの砲撃を斬り捨て、自身に迫るだろうと勘が告げていた。

 

 

 

瞬きも許さない刹那。

一夏は零落白夜を駆使して砲撃を斬り捨て、オリビアへと肉薄した。

 

駆け上がる白の機体。

下から切り返すように雪片弐型を振るう。

 

 

砲撃後の硬直への攻撃。

────オリビアはそれすら砲身で受け流して見せたのだった。

 

 

一夏もそこで駆使された技術に気がつく。

PIC制御により反動をワザと増やし、対応し易い角度へと身体をズラし───スラスターの出力調整で完全に対応したのだ。

 

これで完全に終わった。

零落白夜による必殺はハズれ、これにより『白式』のエネルギーも尽きた。

 

今度こそ勝利を確信するオリビア。

反撃に砲門を叩きつけようと彼女が動いたところで、ありえない(・・・・・)光景を見た。

 

「──っ!?」

 

彼女の瞳に写ったのは───受け流した筈の雪片弐型を再度構え、振るわんとする一夏の姿。

 

(何故────いや、さっきのは────)

 

先程の攻撃は、恐らく零落白夜を使わなかったのだ。

何故かは知らない。

ただ彼はオリビアが一刀目を捌くことを知っていた。

 

 

 

振り下ろされる一刀はビーム・キャノンを切り裂き、褐色の機体へと届く。

 

 

行使される零落白夜は、褐色の機体を稼動限界へと即座に追い込んだ。

 

 

 

「ッ……!!」

 

 

操縦者保護機能だけが作用する中、オリビアの表情が歪む。

男に負けた事実。復讐を果たせない無念さ。

それら以上に───どうして────という疑問が彼女を支配していた。

 

 

褐色の機体は緩やかに下降し始めていた。

少年へとオリビアは疑問を投げかけずには居られなかった。

 

「初撃…どうして零落白夜を温存した…」

 

息を切らしながらオリビアを見る少年。

全力をこの一瞬に投じたのだ。

満身創痍といっても差し支えない程、彼も疲労していた。

何気なく、少し悲しそうに彼は告げるのだった。

 

 

「信じただけだ。オリビア・ウォルシュって人なら───これ位は凌いでくるって」

 

 

 

だから、次の一手を最初から見据えていた。

 

 

 

少年が人を疑うのが得意では無い事が、それだけで手に取るようにわかる。

変わらない真っ直ぐな瞳。

最初から彼は自分(オリビア)をキッチリ見ていたのだと────オリビア・ウォルシュは分かってしまった。

 

(ああ、ツイてない)

 

堕ちていくオリビア・ウォルシュ。

完全に敗北した事を悟りながら、彼女は大きく溜息をつく。

 

怒りや復讐心は消えない。

だが、少年により唐突に現実に連れ戻されたようで───彼女は空を見上げる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、観客席の一角。

そこでは更識楯無と土砂降り(スコール)が未だ戦闘を繰り広げていた。

 

幾度目かの金属音。

それと共に金色の尾と蒼流旋が火花を散らしていた。

更に振るわれるナイフを楯無は横に身を翻して躱す。

 

瞬間、地面が砕けた。

正体を理解すると同時にスコールは金色の繭を周囲へと張り巡らせる。

 

────金色の繭へと水流が逆巻いて襲いかかる。

しかし繭は依然として変わらず、水流だけが蒸発するように防がれるのであった。

 

スコールは余裕の笑みを浮かべる。

 

「やっぱり貴方の攻撃は私に届かない。物わかりが悪い方だったかしら?」

 

「殻に篭もりながらとは滑稽ね。決着が着かないのはお互い様よ」

 

叩き付けられる炎を楯無は水で受け止める。

金色の繭は確かに楯無の武装では突破は厳しい。

しかしそれも、初めて見る武装であるならば(・・・)の話。

 

 

 

 

「「!」」

 

 

 

 

会場内の決着。

両者は同時にその変化を捉えたのであった。

一機の状態が切り替わったとセンサーを通じて理解する。

負けたのは『砲撃姫』─────。

 

 

「成程、あなたの狙いはこれだったのね」

 

「なんの話かしら?」

 

スコールの問いに楯無は戦いながら、素知らぬ顔。

スコールもまたそんな楯無を見据えながら目を細めた。

 

「残った会場のカメラであの戦闘は中継されている。遠目のものばかりとはいえ、織斑一夏があの『砲撃姫』を打ち破った瞬間は確実に世界に拡散された」

 

つまり、とスコールは手を翳し熱線のバリアを再度作る。

水流を受け止め、彼女は続けた。

 

「『織斑一夏は守られるだけの存在じゃない』。彼自身の戦闘能力の高さを披露して狙う人間を減らすつもりね」

 

『砲撃姫』と織斑一夏を戦わせた楯無の目論見。

スコールの予想からズレていたそれは一夏の勝利を見せ付けることで、彼は鴨でも羊でもないと世界にアピールする為であった。

 

更識楯無らしからぬ手法。

それを実行に移させたのは、織斑一夏や今宮流星への信頼か───。

 

スコールの余裕は崩れない。

あくまで本命のエムとルナは健在───この襲撃の目的を考えれば、痛手ではあるが問題はない。

 

 

 

「さっきから人の事ばかり随分余裕ね」

 

 

 

──スコールの背を悪寒が駆け抜けた。

ISを完全展開。

 

咄嗟に横へ飛び、回避行動をとった(・・・・・・・・)

 

彼女のいた場所を水流が貫く。

微かに削れた金色の装甲───それは確かに楯無の攻撃が届いた証拠である。

 

初めてスコールの顔から笑みが消えた─────。

 

 

「…観客席を更地にするつもり?」

「この周辺の避難なら──最優先で済んでるの」

 

明らかに上がった出力。

スコールの瞳に攻撃的な(クリースナヤ)が映る。

それは来玖留との戦いで傷付き、本格的な調整が必要な筈の『オートクチュール』だ。

 

 

鋭い殺意がスコールの肌を叩く。

更識楯無は盾である。

日本という国家の、国民の、IS学園の、その生徒の───形を持たぬ盾だ。

それは水のように状況に応じて姿を変える。

今この瞬間───彼女は間違いなく外敵を滅ぼす矛であった。

 

 

 

「───!」

 

水流が立て続けにスコールへと襲いかかる。

彼女は防ぐ事よりも回避を優先した。

 

今の楯無は相性不利も出力で突破出来る状態。

デメリットや弱点といったものは分からないが、これ程出力ならば長くはもたないとスコールは思考する。

 

(IS自体は兎も角、あの専用パッケージは本調子じゃない。ここは馬鹿正直にあの状態を相手にせずやり過ごす───!)

 

黄金の機体が炎を楯無へと向ける。

熱線のバリアも貫かれるだろうがないよりは良いだろう。

回避と防御、持久戦を狙い距離を取ろうとする。

 

そんな事は当然楯無も予想出来ている。

 

スコールは知り得ぬことだが、今回を見越して本調整を先送りにした専用パッケージ。

端から彼女は超短期決戦以外を行うつもりは無かった。

 

 

「遅い─────!」

 

 

「!」

 

後退しようとするスコール。

逆巻く水流が彼女の背後から出現した。

 

(観客を逃がしている間から、仕掛けてたのね────)

 

熱線のバリア身体を保護しながら、彼女は空中へと逃れる。

完全な不意打ちに対し、スコールは回避しながら次の一手を読もうとする。

 

観客を逃がす段階から周囲を巻き込む事を前提としていた。

対暗部とはいえそのような行動は、やはり彼女の行動から逸脱している。

 

 

 

(彼女の本命は単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)─────この距離ならそれは────ッ!!)

 

 

空中に逃げたスコールへと楯無は掌を翳していた。

まるでスコールを握り潰すかのようにそれを閉じる─────同時に全方位大量の赤い水流が彼女へと襲いかかった。

 

水で擬態させ分身を作る技術。

その技術を応用して、天井含むあらゆる機材や設備に彼女はアクア・ナノマシンを潜ませていたのだ。

つまり、楯無は最初から自身の周囲にはアクア・ナノマシンを殆ど散布していない。

 

 

「ッ!!」

 

 

スコールは更識楯無を侮っては居なかった。

 

 

井神来玖留から伝えられた情報や、彼女と楯無の戦闘で得たデータ。

性格、生い立ち───あらゆる要素から客観的に見て問題無いはずであった。

 

しかし、ひとつの誤算がそこにはあった。

更識楯無が誰かに頼るようになった点である。

 

だからこそ彼女は───安心して矛となる。

会場にはもしもに備えた妹がいる。

コーチをした織斑一夏がいる。

代表候補生達がいる。

───そして、彼がいる。

 

来玖留との戦いすら(ブラフ)として利用する。

天才は更なる高みへ。

それは実行部隊の幹部にすら迫る───。

 

 

「ずっと高みの見物も飽きるでしょう?だから、堕ちなさい───!」

 

 

数多の超高出力の水流が、金色の繭へと牙を向くのであった。

 

 

 

 

 

 

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