IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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「っ」

 

アリーナ上空。

飛び交う閃光を避けながら、セシリア・オルコットは顔を顰めた。

 

(───まさか、こんなにも差があるなんて──)

 

前回の戦闘で襲撃者(エム)が手を抜いていた事は、セシリアも知っていた。

自身よりビットの技術も上であると思い知らされていた。

流星の戦闘記録(ログ)からも実力は知っている。

 

だが、実際こうも差があると乾いた笑いすら出る。

 

エムは防戦側に牽制をかけ続けたまま、自身と箒を相手取っていた。

 

(流星さんはこんな人に打ち勝ったのでしょうか────)

 

そして、織斑一夏もまた元国家代表を相手取っている。

セシリアは先を歩く少年達の姿を幻視する。

走っても走っても追い付かない少年達の歩み。

 

手にしたレーザーライフルで敵を狙う。

敵機のビット────エネルギー・アンブレラにより、狙いを付ける一瞬すら妨害された。

 

「セシリア!」

 

箒が『紅椿』を駆り、エムへと加速する。

如何に敵機が強敵とはいえど、こちらは人数が多い。

剣の間合いで食らいつき隙を作る────箒が考えている事が手に取るように分かると襲撃者の口元が吊り上がった。

 

「!」

 

ワザと箒側へとエムは軌道をとる。

箒が空裂(からわれ)雨月(あまづき)を振るうも、それを紙一重で躱して見せた。

 

予備動作のない自然な急停止。

それを駆使した回避に箒は驚きを露わにする。

 

(不味い!)

 

セシリアへの攻撃も自身を誘う罠であったと気が付く。

即座に対IS用のナイフで切りかかるエム。

凶刃は篠ノ之箒の喉を切り裂かんと振るわれる─────。

 

「!」

 

蒼い閃光がその場へ飛来した。

蝶は反転して上空へと舞い上がり、銃剣をもって撃ち返す。

くるりと軽やかな動きでそこには隙は見当たらない。

 

九死に一生を得た箒も離脱し、エネルギー刃で応戦する。

 

 

連携もエムの立ち回りにより翻弄されている。

集中力を切らせば撃墜される。

一瞬の気の緩みも許されないと箒とセシリアはビットによる攻撃を躱す。

閃光は回避を予測していたかのように曲がり、セシリアへと着弾した。

偏向射撃(フレキシブル)───回避も容易ではない。

よろけたセシリアを庇うように、箒がビットとセシリアの間に割って入る。

 

 

エムの狙撃が『紅椿』の肩部を撃ち抜いた────。

 

「箒さん────!」

 

「ッ、平気だ」

 

装甲が砕ける中、箒は苦痛に耐えながら追撃を躱す。

実戦経験からくる明確な視野の差。

戦況を覆す為にビットを破壊しようにも、それは叶わない。

 

 

(やはり(わたくし)では─────)

 

良くない思考がセシリアの胸中を占めていく。

せめて偏向射撃(フレキシブル)が出来れば、手数の差を多少埋められた筈だ。

自身のせいで、箒まで危険な目に────。

 

 

思考が一瞬飛びかける中、箒は笑っていた。

 

「ふはは、すごい顔だなセシリア」

「箒さん──?」

「…私の知っているセシリアは、もっと諦めが悪いぞ」

 

箒は二刀を構え、エムに向かって再度飛び出す。

曲がる閃光が来た瞬間に瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行使し、上空へと駆け上がる。

 

自然とエムの攻撃も箒へと分配が傾く。

箒とエムの戦力差では無謀な行動だ。

ただ、あくまで彼女は前衛に徹するつもりだと──セシリアは理解した。

 

 

「────」

 

息を吸い込み集中する。

今出来ないことを嘆いている暇は無い。

箒が信頼して背を預けてくれているのだ。

多少の妨害など関係ない────撃ち抜いてそれに応えるだけだ。

 

(勝ちますわよ!『蒼い雫(ブルー・ティアーズ)』!)

 

一際強く輝く銃口。

セシリアの呼び掛けに呼応するかのようであった。

 

 

「!」

 

箒へと視線を向けていたエムは即座に回避行動へと移る。

蒼い光の狙いは先よりも遥かに的確。

牽制によりセシリアの狙いをズラしていたが───ここに来て彼女はその中でも精度の高い射撃を繰り出している。

 

エムは思わず舌打ちする。

精度は高い───だがこれは、敢えて回避を誘う狙撃だ。

接近を再度試みる箒を支援する為のもの。

 

エネルギー・アンブレラで箒の動きを阻害するも、彼女は『紅椿』の機動力で無理矢理それを突破する。

 

箒とエムが肉薄する。

二刀による攻撃をエムは銃剣で受け流し、距離を取ろうとする。

そこへ入る───セシリアの狙撃。

どれも決定打にはならないが、とエムは鬱陶しそうにセシリアを見た。

 

狙撃と剣術。

強敵に対し、彼女らは自身の得意分野を活かす事に全てを注ぐ。

 

「────ハ」

 

エムはそれらを鼻で笑う。

近接戦闘は確かに悪くは無い。

しかし、この間合いであれば─────とビットへの警戒が緩んでいる隙を彼女は見過ごさなかった。

 

 

「!」

 

 

六本の閃光が『紅椿』のスラスターを撃ち抜いた───。

直前に気が付いたセシリアもそれを止めることは叶わず、『紅椿』はその推進力を大幅に奪われる事に。

 

舞い散る装甲を見ながら、箒は状況を把握する。

とはいえもう遅い。

彼女のISはもう素早く動けない。

 

 

「──っっ!」

 

銃剣の切っ先が箒に振るわれる。

何とか二刀で受け止めるも、推し留まれる推進力はない。

 

箒の身体は真っ直ぐ地上へ。

エネルギーが残っているが、こうなってしまえばただの的だ。

 

エムが箒へと畳み掛ける前にセシリアは飛び出した。

近接格闘ブレードの『インターセプター』を片手に最大出力で加速する。

 

片手でレーザーライフルを持ち、闇雲に乱射しながらエムへと迫った。

こうでもしなければエムの行動を阻害することすら出来ない。

エムもそうやってセシリアが仕掛けてくる事を誘っていた。

 

「無様だな」

 

───偏向射撃(フレキシブル)により、セシリアのレーザーライフルが撃ち抜かれた。

爆風が彼女を襲う。

しかし彼女は怯まずに格闘ブレードで果敢に切りかかる。

 

エムは愉しげに嗤う。

片手に呼び出したナイフでそれに応じた。

金属音が三度鳴る。

亜音速下での格闘戦にも余裕を見せるエム。

 

普段は華麗なセシリアの機体捌きも、剣戟の中で崩されていく。

 

大きな金属音が聞こえた。

セシリアの手にあった筈の格闘ブレードが弾き飛ばされる音であった。

 

 

「あ───が─ッ!あああっ!!」

 

ザクリと肉が裂ける。

────銃剣の先端がセシリアの二の腕を貫いていた。

チカチカと視界が安定しない。

激痛と───遅れて感じる熱。冷や汗が一気に噴き出る。

 

「もう死ね」

 

銃剣の引き金が引かれようとする。

セシリアは無我夢中でスラスターを吹かし、刃を引き抜いた。

 

「ッ─────」

 

鮮血が空中を待っている。

閃光はそんな鮮血を瞬時に蒸発させながら、虚空へと消える。

 

──セシリアはまだ諦めていない。

未だ格闘戦の間合いのこの距離であれば─────回避は不可能と奥の手を切る。

 

高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』はビットを推進力へと回している。

この状態では当然、閉じられた砲門からの射撃は禁止───機体が空中分解してしまうからだ。

 

偏向射撃であればその問題は解決出来るが、そこに拘っている場合では無い。

 

 

「まだ、まだ!!」

 

4門同時射撃をエムへと見舞う。

しかし発射と同時にセシリアの真横で何かが爆発した。

 

「っっ───これ、は─────っ」

 

『エネルギー・アンブレラ』───シールド・ビットによる自爆機能。

それによりセシリアの身体は大きく逸れ、切り札のフルバーストはエムから外れる。

 

 

「今のが切り札か?下らん」

 

エムは呆れながら全ての銃口をセシリアに向ける。

狙いは勿論、バラバラになり落ちていく『蒼い雫(ブルー・ティアーズ)』。

 

セシリアは見上げる事しか出来ず、打開策を考える。

全てを出し切ってなお届かない。

そんな絶望は逆に彼女の心に異様な落ち着きを与えていたのだった。

──『セシリアも案外壁なんて無かったってオチかもしれないぞ』───

 

「ふふ」

 

つい笑みが零れる。

苦痛に表情を歪ませながらも、彼女は高貴さを損なわなかった。

本当にその通り(・・・・)だったと、セシリア・オルコットは確信する。

 

────お願い、ブルー・ティアーズ────

 

自然な動作で左手を前へ。

左手でピストルを作り、狙いをエムへと向けていた。

 

 

「バーン」

 

「!!」

 

四本の閃光が、突如としてエムとそのビットへと放たれる。

空中分解したビットからの偏向射撃(・・・・)

流石に虚を突かれたのか、エムも反応が遅れた。

 

「な───」

 

ビットが一基落とされ、『サイレント・ゼフィルス』もまた射撃を躱しきれず一撃を受ける。

呆気に取られる襲撃者の様子を見て、セシリアは満足気に落ちていく。

抵抗しようにももう動けない。

だが、悔いはないと彼女は胸を張る。

 

 

「今すぐ殺してやる」

 

 

エムが銃剣を強く握り締め、瞬時加速(イグニッション・ブースト)でそれを追う。

 

ギラリと銃剣の先端に付いている刃が光を反射する。

それが真っ直ぐと、セシリアの喉めがけて振るわれようとしたところで──────。

 

 

「させねぇ!!」

 

 

一閃。

銃剣はアッサリと両断された。

 

 

「──!」

 

両断されると同時にナイフを持ち、素早く離脱するエム。

来訪者はセシリアを抱きかかえ─────雪片弐型を構えていた───。

 

 

「織斑一夏────」

 

睨むエムに対し、一夏の意識は抱きかかえたセシリアへ。

相手への警戒は続けつつ、彼は短く呟く。

 

「ごめん、セシリア。遅くなった」

 

短いそれにセシリアは強がりの笑みを見せつつ、安堵の息を漏らす。

 

「ふふ、デート一回で許してあげますわ……」

 

苦痛に耐えながらも強がる彼女に一夏も安心する。

やはりセシリアは強いと心の中で呟き、彼はエムと向かい合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最高出力のアクア・ナノマシンにより、作られた水流の数々。

それらに囲まれた瞬間スコールは回避の選択肢を切り捨てた。

 

金色の繭が一層輝きを増す。

それはプロミネンス・コートと呼ばれる熱線で貼られたバリア。

本来ならもっと薄く──大抵の攻撃は防いでしまう代物────

スコールの駆る『黄金の夜明け(ゴールデン・ドーン)』の強力な武装だ。

 

だとしても今は心もとなかった。

 

出力に任せた高圧水流が、熱線のバリアを瞬時に削り取っていく。

それだけでなく、金色の繭を中心に小規模の水蒸気爆発が繰り返されていた。

 

 

「────っ」

 

余波で装甲が砕け、スコールの全身を衝撃が叩く。

高出力の攻撃に対して彼女は耐える事を選択した。

更識楯無の猛攻は時間制限が間違いなくある。

ここを耐えれば、間違いなく敗北するのは彼女───────。

 

そう考えれば、楯無は確実に必殺を叩き込みにくる。

大量のアクア・ナノマシンを使い、隙を晒すだろう。

 

狙うはその一瞬。

勝機を待つスコールを前に楯無は溜息をついた。

やはりここまでしても尚スコールは一筋縄ではいかない相手だ。

 

だからこそ。

 

「甘いわよ土砂降り(スコール)

 

楯無はアクア・ヴェールのアクア・ナノマシンすら攻撃に投入し、金色の繭を打ち破った。

 

「っっ」

 

崩れるスコールの体勢。

立て直す暇を与えまいと鋭い水の槍を楯無は空中で撃ち出す。

先の水流より威力は落ちるが、今のスコールを仕留めるには十分。

上空から一条の流れ星のように、槍が飛来する────。

 

 

スコールはそれを金色の機体は左手で受け止めようと抵抗する。

火球を咄嗟に作り出していた彼女だが、当然火力が足りない。

 

水の槍は金色の装甲を砕き、スコールの左腕は貫かれた。

 

「!」

 

驚愕を露わにしたのは、楯無の方だ。

金色の装甲ごと貫かれた左腕。

上腕が分断されたというのに血は一切流れない。

それもそのはず。

荒い断面から見えたのは──────機械であった。

 

 

アクア・ナノマシンの(クリースナヤ)はその輝きを失い、通常の水色へと戻る。

楯無は眉を顰め、目の前の光景の意味を反芻するのだった。

 

機械義肢(サイボーグ)…!」

 

「私の体の秘密、ばれちゃったかしら?」

 

くすりとスコールが笑みを浮かべる。

かなりのダメージを負ったが、彼女は猛攻を耐え凌いだ。

楯無も最早武装やエネルギーの都合で大して戦えないだろう。

ただ、スコールも手痛いダメージを貰っているのは変わらなかった。

 

 

楯無がスコールの腕を見て驚いた一瞬。

その隙をついて彼女は煙幕弾を楯無の前に繰り出している。

 

「!」

「お開きとしましょう」

 

無論、煙幕程度ではISのハイパーセンサーを振り切れはしない。

だが楯無の機体も無理をさせていた状態。

下手に追えば状況は悪化すると、彼女は分かっていた。

 

「…」

 

上空へと離脱していくスコールを彼女は捉えつつも見送る。

その体の秘密を知った収穫はあるが────と、楯無は今一度大きな溜息をついた。

 

犠牲者0が最優先、それはそうとして。

 

(…逃げられるのは癪よね。はぁ、いい所無いなあ)

 

思考を切り替えつつ、彼女は通信機を手に取るのであった。

 

 

 

 

 

「束様─────これは────?」

 

「ん〜?」

 

ある研究所(ラボ)の一室。

モニターを前にしながら、銀髪の少女は疑問を口にした。

奥にある機械の裏から、ウサ耳型のカチューシャをつけた女性が顔を出す。

篠ノ之束──彼女はクロエが指差す画面に近付き、覗き込むようにしてその内容を見た。

 

映っていたのは現在襲撃されているアリーナの映像。

そしてルナ・イグレシアスの姿がそこにはあった。

 

「へー」

 

束はクロエの意図を理解したのか、ニンマリと笑みを浮かべる。

楽しそうに彼女は口を開くのであった。

 

「これはね、欧州連合の負の遺産だよくーちゃん」

「欧州連合……?」

 

クロエは小首を傾げる。

束は人差し指を立て、説明を始める。

 

「ISに関する非公式の共同研究機関────正式名称は何だったかなー?まあもう潰れちゃってるからいっか!──そこの研究でね、人とISを一体化させようって流れがあったんだ」

 

「…私の黒鍵のような、生体同期型ISを?」

 

「人をISに組み込もうとした、が正しいね。くーちゃんのISとは全く違って寄生型ISって感じ」

 

気味が悪いよね、と束の声のトーンが低くなる。

呆れ果てたような声色に何故かクロエも恐怖を覚えた。

 

「ISとの融合に耐えうる人間、及びそれに合わせたISの開発。スペインが扇動して行い、ドイツもそれに情報を提供してたから───アレにはくーちゃんと同じデータも流用されてるね」

 

ス───と鋭くなった束の視線はモニターに映されたルナを捉える。

してすぐに彼女は笑顔でクロエの方に向き直った。

 

「ISは多大な情報の塊でもある。そんなものとの融合が成功なんてしたらどうなるか、くーちゃんはわかる?」

 

「基本は廃人……仮にならなかったとすれば一番は人格に大きな影響が出る、でしょうか?」

 

「ピンポンピンポーン!正解!流石くーちゃん!」

 

束はハイテンションでクロエに抱き着き、頭を撫でる。

クロエも動揺はしているが束が嬉しそうにしている為、特に逃げるような事はしなかった。

束はひと通りクロエの撫で心地を堪能した後、話を戻す。

 

 

「だからほら、二重人格みたいになっていたでしょ?あれはね──コアと元の人格がひとつの体に押し込まれた結果だよ」

「────」

 

クロエは画面に視線を戻す。

繰り広げられる激戦の中へと彼女の意識は向けられていた。

 

そんな少女を見て、束はそっとその場を離れる。

再び大きな機械に触れながら彼女はひとり呟いていた。

 

「さてさて──私はコレを早く完成させなきゃねー」

 

 

 

 

 

「───!」

 

突如として降り注ぐミサイル。

それはルナ・イグレシアス目掛けて撃ち込まれたものであった。

 

ルナは即座に反応して軽やかに回避する。

同時に銃声。

爆音の中に消えそうなそれは彼女の隙を逃すまいと放たれたスナイパーライフルによるものだ。

流石に避けきれなかったのか、ルナの頬に赤い線を付けるに到る。

 

援軍────。

それが意味するのは、誰かの敗北による人的余裕の現れ。

 

(織斑一夏が勝った…)

 

少女は冷静に判断し、更に後退する。

駆け付けた援軍は更識簪。

彼女の機体に損傷はなく、三対一は面倒だと内心呟く。

 

同時に秘匿回線に入るスコールの通信。

内容は短く簡潔なものだった。

 

 

『二人共、撤退よ────』

 

「────、了解」

 

スコールの声色、観客席側の先程の轟音───ルナは戦いながらではあるがある程度状況は把握出来ていた。

特に驚きも見せず距離を取ろうとする。

 

「───」

 

今一度大きな金属音が聞こえた。

白刃の柄でルナが近接ブレードを受け止めている。

最大出力で加速し流星が距離を詰めたからだ。

 

灰の機体同士が密接で睨み合う。

くすりとルナは笑みを浮かべた。

装甲が開き無数の銃口が顔を出す。

神速のカウンターは相手の反応など許すはずも無い。

 

対して流星は一切表情を変えず、右手を懐に突き付けていた。

 

(『無量子移行(ゼロ・シフト)』……!)

 

数的有利、撤退の阻止。

二つの状況から来る強引な接近という判断──認識──それも彼は利用した。

正面から分裂弾と一斉射撃がぶつかり合う。

 

「っ!」

「っ」

 

小規模の爆発は二機のシールドを大きく削った。

吹き飛ばされ、再度両者の距離が開く。

 

そのタイミングで有線ビットが『時雨』の腕部を狙撃した──。

 

「もっと遊びたいけど、今日はここでお開きよ流星」

 

あの状態から精密な動作。

砕ける灰の装甲を尻目に流星の瞳は少女へと向けられたままだ。

 

姿が消えていく少女に簪がミサイルを放つも、それは狙いを見失う。

追うことは不可能では無いが、追えば市街地戦────本末転倒だ。

簪、鈴、流星は虚空を見ながら回線を繋ぐのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

敵機の撤退。

となればそれは少女だけではなく、上空に居座る蝶もまた同様である。

 

「──チッ」

 

スコールからの通信を受け、『サイレント・ゼフィルス』は後方へと機体を傾ける。

不機嫌そうな舌打ちは銃剣を目の前の少年に切られたが故のものであった。

 

「!──待て!」

 

対峙していた一夏が咄嗟に声を挙げるも、エムは取り合わない。

代わりにとばかりにシールド・ビットを二基───上下に送り込む。

 

セシリアを抱えたままの彼などこれで十分。

二人共これで殺せるとエムは高を括る。

無論、少年の研鑽など彼女が知る由もない。

 

 

「!!」

 

エムは目を見開いた。

取るに足らない筈の少年が最小の移動で閃光を避けたから───だけではない。

 

避けた直後の隙をつくような一撃さえも、一夏は雪片で切り捨てている。

 

────その凛とした立ち姿がエムの中で誰か(・・)と被る────。

 

 

「…」

 

今すぐその馬鹿なイメージを否定したいが、このままではこの場に戦力が集結する。

 

青紫の蝶は心底気に入らない様子で牽制しつつ、市街地側へと離脱する。

 

低空飛行により市街地を盾にしながらエムは撤退していく。

当然ではあるが、一夏達はそれを追撃する事は出来ない。

 

 

(今の一瞬の殺意は……一体……)

 

牽制のビットを捌きながら、訝しむ一夏。

セシリアの治療の為に彼もその場から離れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

キャノンボール・ファストへの襲撃から一時間が経過した。

現在───流星含む代表候補生達は控え室に集められ、各個人の聴取が終わるまで待機している状態である。

現在はセシリアの番。

彼女は治療も兼ねている為、時間が多少かかるそうだ。

 

当たり前の事だが大会は中止。

建物の被害状況はそれなりだが、一般人への人的被害はゼロ。

また亡国機業(ファントム・タスク)と手を組んでいた元国家代表の確保─────とそれなりであった。

 

 

にも関わらず少年は不満顔。

 

「これはどういうことだよ」

 

質問の意図は明快。

彼は体をぐるぐるに縄が巻き付けられ、正座させられていたからである。

 

「ん?それはこっちの台詞よ」

「ちゃんと説明してもらうから…」

 

正面に立つ鈴と簪は当然と言わんばかりである。

助けを求めて少年が周囲に視線をやる。

一夏は無理だ、と片手で謝る。

目が合ったシャルロットはアハハと乾いた笑いで誤魔化した。

─────箒やラウラに至っては見て見ぬふりをしている。

 

 

「あんた、ISと『同調』してるって本当なの?」

 

鈴の言葉に流星は素知らぬ顔。

ルナ・イグレシアスの発言を鵜呑みにしたという様子では無い。

疑念はあくまでそれ止まり。

臨海学校からの流星の急成長がそれにより説明出来てしまう点が、この話に信憑性を持たせているに過ぎない。

 

 

「鈴……『山嵐』の準備は出来てる……」

「さあ吐きなさい流星。今なら『龍咆』はナシよ」

「まさかの魔女裁判……!」

 

信用とはなんだったのか。

有り得ない筈の現象とそれを否定する自身を無視して、簪と鈴はジリジリと詰め寄る。

───観念したように、少年は大きな溜息をついた。

 

 

流星はゆっくりと口を開く。

『時雨』については別件と判断。

『同調』についての説明を彼は行った。

皆が驚かないわけが無い。

イマイチ事の深刻さが理解出来ていない一夏と箒をおいて、代表候補生達は眉を顰めていた。

 

「成程、道理であの反応速度か。……確かに世界にこれが知れ渡れば、ロクな事にならないな」

 

納得した様子でラウラが流星へ視線をやる。

シャルロットも同意するように頷いていた。

 

「で、あんたはそんな危険な行為を何度も繰り返していたのね?」

「危険も何も影響が無いんだ。さっきも言った通り毎回検査もしている」

「はぁ。───どうせあんたがやめないのは分かってる。けどね」

「私達は、流星に無茶をして欲しくない」

「───」

 

二人の発言に流星は返す言葉を失う。

肯定も否定も彼は出来なかった。

───素直に頷く事も何故か出来ずにいる。

 

「ちなみに、お姉ちゃんも知ってるの?」

「ああ。あと、本音も一応は」

「───そう」

 

簪の目が据わる。

怒られる更識家当主が目に浮かび、流星は心の内で手を合わせた。

 

「!」

 

同時にガチャリとドアが開く。

流星達の誰かを真耶が呼びに来たのだった。

 

「えーっと、今宮君ー事情聴取の────」

 

縛られている流星の姿が目に入り、真耶が固まる。

目の前で詰め寄る鈴や簪の姿が妙にさまになっているところも、彼女の瞳は捉えていた。

疑問や困惑が彼女の中を一瞬で駆け抜けていき、顔を真っ赤に染め上げた。

 

 

「ごっ、ごゆっくり──────!!?」

 

 

バタンッ!と勢いよく閉められるドア。

これには部屋にいた全員がぽかんと口を開けることしか出来なかった。

 

「……なんか、ごめんなさい」

 

「いいから解いてくれ」

 

気まずい空気の中、縄を解く音がやけに大きく聞こえるのだった。

 

 

 

 

 

 

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