IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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───朝。

障子越しの日光を頼りに、少女達は目を覚ました。

慣れたい草の匂い。学園では見られない座敷の天井──。

 

「ん〜…」

 

眩しいと感じ、それを境に急速に意識が覚醒していく。

ゆっくりと体を起こし、数秒経った。

ここは離れの部屋──自身が自室でない場所で寝ている事に疑問を憶え、少女()は周囲を見渡す。

 

「あ…お姉ちゃん…おはよぅ」

「簪ちゃん…おはよ」

 

目が合った水色の髪の姉妹は、眠い目を擦りながら挨拶を交わす。

双方共に着崩れたパジャマが目立つが、気にしない。

 

 

「簪ちゃん、どうして私がここに寝てたか知ってる?はっきり思い出せなくてね」

「それは私も…。確か宴会後に──」

 

──と、簪が楯無の方へ向き直ったところで何かに手が当たる。

隣に何かある──と姉妹は、二人の間を見下ろした。

 

スースーと聞こえる寝息。

オレンジ髪の少年が彼女らの間で眠っていた。

 

 

「「〜〜〜〜!?!!!?」」

 

 

瞬時に顔が真っ赤になる。

必死に記憶を辿るも───何故ここで一緒に眠っていたか、まるで思い出せない。

 

着崩れたパジャマを慌てて着直す。

言葉すら出てこない。そこで楯無と簪は互いを見た。

 

「「簪(お姉)ちゃん──」」

 

互いに話し掛け、直ぐに察する。

相手も恐らく昨夜の記憶が無い。

となると、ここで寝ている理由も昨夜どんな出来事があったのかも不明である。

 

 

「…ま、まさか、ね」

 

楯無の脳裏に万が一の可能性が過ぎる。

パジャマがはだけていた理由も考えれば、それで説明がついてしまう。

──寝相のせいだ、と少年が起きていれば呟いたであろう。

 

ピンク色の妄想が彼女の脳内を駆け巡る。

両頬に手を当て、目をぐるぐる回す。

彼の事だから責任は取ってくれるだろう。

そうなれば、はからずも恋人か。

はじめて(・・・・)への憧れはあったが、それよりもこれからの関係の変化にあっさり意識が行くあたり少女は強かであった。

 

そこでやっと彼女は、妹のパジャマもはだけていた事に気が付いた。

 

(──、簪ちゃんも一緒に!?)

 

斜め上の発想が楯無の頭に浮かぶ。

そもそもの話として、姉妹二人での出来事だったのだろうか。

益々想像が付かないが、状況証拠として否定できない。

 

ぼんっ、と姉妹揃って更に顔を茹で上がらせる。

似たような思考をしていたらしい。

姉妹間でも目を合わせられなくなっていた。

 

 

 

「「───」」

 

 

俯いての沈黙。

静まり返る寝室でどうしようかと考え混む。

状況的に二人は五分。

双方にもし既成事実があるのであれば──ここからの行動が勝負である。

 

ごくりと楯無は唾を飲み込む。

ここまで来ればやるしか無い。パジャマのボタンに手が伸びた。

 

「な、なんだか暑いわねー」

「お、お姉ちゃん!?」

 

棒読みで呟きながらボタンを外し、楯無はパジャマの上着を脱ぎ捨てる───恐る恐る。

しゅるり、と小さく布と肌の擦れる音。

一糸まとわぬになりながら、彼女はゆっくりと未だ眠る流星に寄り掛かる。

 

幾ら更識楯無とはいえ、恋する乙女には違いない。

想い人の前となると恥じらいよりも緊張が勝る。

思考がいつになく冷静では無い。

知覚しながらも彼女は行動を止めなかった。

彼の服へと手をかける。

 

 

同時に───少年は目を覚ましたのだった。

 

 

「ひゃぁ!?」

 

「────っ!?」

 

起きた瞬間の少年の手が少女の臀部へと触れる。

同時にもたれかかっていた楯無は姿勢を崩し、流星の顔面へとのしかかる形になった。

 

「ぁ、ちょっと待って流星くん!?────っん」

 

「ッ、知るか!───いいからどけ!」

 

豊満なものに圧迫されながら目覚めた流星は、命の危険を感じながら強引に楯無を突き飛ばす。

途中むにゅりと柔らかいものに指が沈んだ感触がしたが、少年は考えないことにした。

目覚めから息を止められる事やこの状況に対して疑問が尽きない。

 

朝一番から窒息しかける最悪な目覚め。

一般的には天国ではあるが、起きた瞬間からのしかかりと圧迫と命の危機である。

 

起きた流星はすぐに状況把握に努める。

昨夜の事も思い返しながら、一気に射し込む部屋の明るさや目の前の肌色や感触、隣で顔を真っ赤にしている簪含め───こんな状況でも頭を全力で稼働させる。

 

しかし、目の前の少女の格好には理解が及ばなかったらしい。

 

なるべく少女の方を見ないようにしながら数秒考え込んだ後、彼は困惑した様子で口を開いた。

 

「楯無、お前──なにしてんだ……?」

 

「〜〜〜〜っっ!こ、こっち見ちゃ駄目!流星くん!」

 

枕を投げ付け、脱ぎ捨てられていたパジャマで体を隠す楯無。

流星は投げ付けられた枕を受け止め、よく分からないまま楯無から顔を背ける。

自然と反対側にいた簪と視線が合う───簪は意を決したように流星の右手を手に取った。

 

 

「…、上書き──」

 

「!?」

 

再度柔らかな感触。

これには流星も思考が止まった。

絹のような滑らかな感触。

咄嗟に引っ込めようとして、パジャマの内に収まっている手に視線が向かう。

着崩れかけているパジャマ───その肩から肌が見え、今にもするりと落ちてしまいそうである。

これでは力任せに振りほどけない。実に策士である。

 

更に押し込まれた指先から彼女の心臓の鼓動が伝わる。

バクバクとせわしなく、緊張しているのが伝わってくる。

 

 

「か…、簪ちゃん───?」

 

それを見た楯無が目を見開いて固まっていた。

パジャマを着る手を止めてとんでもないものを見てしまったかのように、微動だにしない。

簪は楯無の様子に意識を向ける余裕もなかった。

 

 

「ふ、ふふふ───、流星くんはやっぱり二人共に手を出したのかしら───?」

「──!?」

 

とんでもない嫉妬──もとい身の危険を感じた流星は、手を振り払って楯無の方へと向き直る。

彼女は既にISを部分展開していた。

 

「おい待て。まさか離れごと吹き飛ばす気か!?」

 

「──私を誰だと思ってるの?」

 

手を翳して静止を呼び掛ける流星に、楯無は微笑む。

妖艶ながらも狂気的な笑み、一夏ならばラスボスと称したであろう。

逆巻く水流を前に流星はギョッとする。

正確に自身のみ撃ち抜く気だと宣言したようなものだからだ。

 

動いた瞬間、攻撃が叩き込まれる。

それを理解した流星が動けずにいる中、ゆらりと簪が彼の前に出た。

 

「…させない。流星は私が守る…」

 

「駄目よ簪ちゃん。お姉ちゃんは許しません。…二人共羨ましいことばかり──ゲフンゲフン。とにかく許さないから!」

 

「別にいい。私はお姉ちゃんより……寛容だから、気にしない」

 

「な──!?くっ、我が妹ながら逞しいわね!?」

 

姉妹は互いに武器を構えながら、コロコロと表情を変え言葉を交わしている。

双方共に警戒しながら、実に器用である。

 

一方で彼女らの話がちんぷんかんぷんな流星は、苦笑い。

未だ鮮明に残る先の感触がフラッシュバックする。

忘れようとしているのだが、そう簡単にはいかないようであった。

調子が狂う、と彼は胸中で呟いた。

 

 

 

(……、着崩れてること指摘したら──今度は袋叩きにされるかもな…)

 

 

いたたまれない様子で彼は目を伏せる。

昨夜に関しての誤解が解けるまで、結局1時間以上掛かったのであった。

 

 

 

 

 

 

「あらあら。想定とは違ったけれども……これはこれでいいものね」

 

楯無と簪が暴走する中、その様子を見守る影が二つ。

更識結が楽しそうに笑い、更識刃が苦笑いを浮かべている。

 

「やっぱりキミが仕組んでたんだね……はは……。娘を持つ父親としてはその、僕は複雑な気持ちなんだけどね──」

 

片手で頬をかきながら刃は寂しそうに呟く。

少年を認めてはいるものの、娘が二人共一人の男を取り合っている図は見たくないらしい。

そんな刃に結は寄りかかって笑った。

 

「寂しいの?ふふ、元更識の長といっても1人の父親ね」

 

「そりゃそうさ。ただ……キミの言いたいこともわかる。刀奈も簪も本当に───楽しそうだ」

 

刃は穏やかな表情で離れ様子を見る。

障子の一部を閉め忘れたことに娘達は気が付いていないらしい。

尤も気配を殺して近付いて、障子を開けきった誰かさん───結のせいでもあるが。

 

なんにせよ、と彼は微笑む。

年相応の普通の子供のように感情を剥き出しにする娘達。

それを久しぶりに見られたのだ。

詳細については目をつぶる事にする。

 

 

「でもあなた。そろそろ止めに行かないと────」

 

「そうだね。彼がミンチになってしまう」

 

刃は困った様子で立ち上がる。

一方で結は冷静に感想を呟いていた。

 

 

「本音ちゃんもお熱みたいだし…罪な子ね。女の子に後ろから刺されないかだけ心配よ」

 

 

対して刃は心底嫌そうに顔を顰める。

何故ならそうなる時、十中八九──娘が関与している訳で───。

 

 

「……その修羅場は見たくないなぁ」

 

 

 

 

時間は少し経過し、昼。

更識夫婦によって助けられた流星は、屋敷の中を歩いていた。

彼は特にアテもなく彷徨いている。

今日は仕事もないらしく、ゆっくりしていけと刃や結に言われたからである。

 

楯無と簪は勿論いない。

あんな事があったからか、気まずいのだろう。

用事がある──そう告げ、そそくさと立ち去っていったのだ。

 

フラッシュバックする先の出来事。

そう簡単に忘れられるものでは無いらしい。

 

(……どうしてあんな事を)

 

余計な思考が働く。

いつもならイタズラだと結論づける筈が、そうはいかない。

起きた時のあの距離───いつになく熱っぽい二人の視線。

もしかすると──と考えてしまうのは当然である。

 

彼は一際大きなため息をつく。

彼女達は流星の壊れた部分を知っている。

だから、好意の最たるものである感情を自身に向けるなど有り得ない。

 

 

(……調子が狂うな)

 

流星は胸中でそう呟きながら廊下を歩く。

不意に曲がり角で人の気配がした。

 

ぶつからないよう外回りで様子を見る流星。

ばったりと出くわしたのは、ダボダボの制服姿の少女───布仏本音であった。

 

 

「あー!いまみー!おはよー」

 

「おはよう本音。戻ってきてたのか」

 

本音は笑顔で流星のもとへ歩み寄る。

昨日は友人とお泊まり会だったらしいが、今日は本家に戻ってきたらしい。

 

「聞いたよいまみー、正式に仲間になったんだって?」

 

「───」

 

話しながら抱き着いてくる本音に、流星は少し困惑する。

先程の件を思い返し、いつになく本音を意識してしまう。

先日の気付きの影響もあった。

なにせ本音も流星にとって大事なものに含まれるからだ。

 

──有り得ない。有り得てはいけない。

こんな間違ったものは□されるべきでは無い。

暫く沈んでいた核が顔を覗かせる。

 

 

「ああ。しかし内海の奴が酷くてな。顔も思いっきりぶん殴られた」

 

余計な思考を打ち切り、流星は普段通りに本音に話し掛ける。

本音は怪我を見せる流星の頭をヨシヨシと撫でようとした。

とはいえ身長差により頭までは届かない。

背伸びしておでこをさすりながら、笑顔を見せた。

 

「あはは。うつみん厳しいもんねー。でもねー、ああ見えてうつみん実は美味しいスイーツとかいっぱい知ってるんだよ」

 

「……まじ?」

 

「うん。前にオススメのお店とかも教えて貰ったし!」

 

サムズアップしながら本音は得意げに語る。

幾つかざっくり話す本音。

どれも聞いている限り美味しそうである。

───あのヤ○ザのオススメというのは癪だが、今度その店を本音に教えて貰おう。

流星は胸中でそう呟いていた。

 

 

 

「ところでさ、いまみー」

 

 

───スっと本音の目が細くなる。

笑顔のままだが、内心は笑っていない事が明らかであった。

経験則で流星は知っている。

 

本音がこのような顔をする時は、大体何かバレたときで───。

 

 

 

「昼になったばかりなのに、いまみーからかんちゃんやたっちゃん先輩の匂いがするのは──どうしてかな?」

 

 

少年が離れようとするも、服の裾を本音に強く掴まれている。

つまり逃げられない。

 

「──」

 

更識家への訪問。

それは流星にとって、ある種忘れられない記憶になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流星が更識家に向かってから二日後。

すっかり日も暮れて辺りが静まり返ったあたりで、織斑一夏は自身のベッドにその身を投げ出した。

 

同室の楯無は未だ戻っていない。

どうやら実家でやる事が多いらしく、まだ寮に戻ってきていないのだ。

 

「……」

 

どうしても、あの襲撃者の事を考えてしまう。

 

(夜風に当たろう)

 

考え込んでも答えはでない。

部屋着に上だけ羽織り、彼は部屋の外へ。

特にあてもなく、中庭の自販機前に来ていた。

自販機横のベンチに腰をかける。

 

あの日ほど周囲は暗くない。

とはいえ似た状況。あの姉そっくりの顔が脳裏を過ぎる。

 

不意にガコン──と隣の自販機から音が聞こえた。

そちらを見ると見慣れた人影がそこにある。

 

「黄昏てるなんて、珍しいな」

 

「流星」

 

そんな軽口を叩きながら、オレンジ髪の少年は彼の隣へと腰をかける。

お茶の入ったペットボトルを一夏に渡した。

どうやら二本購入していたらしい。

 

「更識家?に行ってたんじゃ無かったのか?」

「ああ。色々あって楯無達に追い回されて逃げてき───今さっき帰ってきたところだ」

「?」

 

コホン、と流星は咳払いして誤魔化す。

小首を傾げ、分からないといった様子の一夏。

流星はそんな事より──と話を切り出す。

 

「何か考え込んでるみたいだけど、どうした?」

「……それは」

「成程、エムの事か」

 

一夏は静かに頷く。

彼の目線は少し手前の地面に向けられていた。

 

「アイツと俺や千冬姉に親がいない事は関係してるんじゃないかって……つい考えてしまうんだ」

 

「どうだろうな。ただ俺もその事が無関係とは思えない」

 

 

千冬に聞いたのかどうか、流星は尋ねなかった。

千冬が言う筈がない確信と、一夏の優しさを知っての事だ。

彼は家族の話に触れてしまい、姉を傷付けることを避けている。

 

 

「「……」」

 

沈黙。

 

考え込む一夏に対し、かけるべき言葉を流星は知らない。

だから彼も、自身の懸念を吐露することにした。

 

 

「──なあ一夏。恐らく俺は、過去に博士と繋がりがあったんだ」

 

「……えっ!?博士って束さんの事だよな!?元々知り合いだったのか?」

 

一夏は驚きを露わにする。

一方で流星はそれが当然の反応だ、と言わんばかりに落ち着いて話を続けていた。

 

 

「正確にはその可能性が高い。残念ながら全然覚えてない。多分その期間の記憶が弄られている」

「そんなこと……いや、ISを通じてなら──」

「──不可能じゃない」

 

ペットボトルのお茶を飲む流星。

特に思い詰めた様子もなく、淡々と告げる彼に一夏は疑問を抱く。

 

「それ、俺に言ってよかったのかよ」

 

「…言う人間くらいは選んでるぞ。──そんな訳でオレに何かあった時は任せた」

 

「──」

 

唐突ならしからぬ少年の言葉。一夏は何とも言えない表情であった。

別に流星は人に頼らないわけではない。

ただ、このような発言は聞いたことが無かったからだ。

発言の裏に見える信頼。認められた気がして─一夏は気付けば笑って返していた。

 

「ああ、任せろ。代わりに俺の方に何かあったら任せた」

 

「はは、その原因がフレンドリーファイアじゃないといいな?」

 

「否定……仕切れねぇ」

 

いつも通り意地の悪い笑みを浮かべながら、一夏の返答を流す流星。

箒やセシリア、シャルロット、ラウラ──彼女らの理不尽な?攻撃を思い返し、一夏は頭を抱える。

隣の流星はくつくつと──本当に楽しそうであった。

 

問題は山積みだが──独りではない。

今すべき事を見つめ直し、一夏は気持ちを切り替えた。

 

 

「なあ流星、次のタッグマッチ───俺と組まないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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