IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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ヒーローの条件
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「独占インタビュー?」

 

「うん!織斑君達にはもう言ったんだけど、流星君も良ければどうかなーって!」

 

他人事のように聞き返す今宮流星。

それに対し、黛薫子は元気よく返事をした。

 

そのまま彼女は詳細について話していく。

 

独占インタビュー、と聞くと学園の新聞に載るものに聞こえるがそうではないらしい。

独占インタビューの記者は、出版社勤めである薫子の姉である。

どうやら薫子も姉に頼まれて話を持ちかけているようだ。

 

雑誌はティーンエイジャー向けのモデル雑誌。

取り出されたそれを見て、流星は成程──と胸中で呟く。

 

国家代表や代表候補生はある種国の顔でもある。

セシリアがいい例──モデルとしての側面もあるのだ。

 

余談であるが、流星がこのような仕事をちゃんと受けたことは無い。

一応アメリカの代表候補生になる際に、少しインタビューを受けたくらいだ。

 

周囲の女生徒達の視線が流星と薫子に注目している。

話している場所は二年生の教室前───当然であった。

 

 

「今ならこのディナー招待券が報酬よ。なんと!一流ホテルのやつだからね!」

 

「加えてペア券……それで箒を釣った訳ですね」

 

「釣っただなんて人聞きが悪いなー。私はあくまでお願しただけだからね?」

 

軽い口調でそう言う薫子。

特に嘘はついていない。

ただそれで釣れると姉に入れ知恵したであろう事は、言うまでもない。

 

「そこは疑ってませんよ。──それで、日程は決まっているんですか?一応国の方に確認取りますから、すぐには返事出来ないですけど問題無いですか?」

 

「え!?受けてくれるの!?」

 

「持ちつ持たれつってやつですよ」

 

「さっすがー!やっぱり持つべきものは良い後輩だね」

 

流星は慣れた様子で薫子の頼みを受ける。

本心としては一夏や箒の護衛──更識としての仕事の為でもあった。

別に毎回護衛の必要は無いが、今回に関しては念の為だ。

 

「先輩の方は一体どんな報酬で釣られたんですか?」

 

「おやー流星君といえどそれは言えないなぁ」

 

「…お金か物で釣られたんですね」

 

いつも通りのやり取りを行う流星と薫子。

本人らは特に気にしていないが、傍から見ればかなり仲良く見える。

廊下での二人のやり取りを教室の入口から睨み付ける───水色の影がそこにはあった。

 

(なによなによ、流星くんってば薫子ちゃんと仲良くしちゃって!)

 

ぷくりと頬を膨らませ、楯無は怒りを表す。

だが本人達の前には出ていけないらしい。

先日の事による気まずさと、薫子の前でボロを出せない都合があるからだ。

 

楯無は深呼吸して、平静を取り戻す。

 

(冷静になるのよ私。薫子は別に流星くんを狙ってない。それに流星くんも特に意識している様子もない。それより──今流星くんが受け取ったのはペアのディナー招待券!)

 

きらりと楯無の目の端が光る。

今は簪も鈴もそれを知らない。

情報的アドバンテージがある内に自然と話題に出せば、彼とのディナーは硬い───。

一人静かに拳を握る。

 

尤も──そんな枠を狙わずとも、彼女の財力と権力ならば実現は簡単である。

 

 

 

「───ん?本音?」

 

 

「!?」

 

彼女が勝ちを確信したタイミングで流星の声。

目を離していた数瞬が致命的な隙となった。

 

視線を戻せば、そこにはダボダボの服の少女が少年の前に立っている。

本音に対し、流星は不思議そうに小首を傾げた。

 

 

「ここは二年の教室前だけどどうかしたのか?」

 

「ううん。特に無いけど、おやつ一緒に食べよーっていまみーを探しに来たんだー」

 

「じゃあ流星君がここに居るって聞いてきたんだね」

 

「違うよー?」

 

成程、と手のひらを叩く薫子の言葉を本音は否定する。

 

「あれ?じゃあどうして流星君の場所が分かったの?」

 

「あははーそんなの──いまみーの場所が分からないなんてないけど?」

 

「…!?」

 

「こわいこわいこわい。怖いからその目から光が消えるのやめようね?本音ちゃん。ほら、流星君も戦慄してるよ」

 

本音の湿度の高い視線を受けながら、一瞬身震いする流星。

薫子の言葉を受け、本音はすぐにいつもの調子に戻った。

 

 

「その持ってるのって何かのチケット?」

 

(───!)

 

不味いと楯無が目を見開く。

あまりにも自然な質問だ。

こうなれば特に誘う相手も決めていないであろう流星がとる行動は決まっている。

楯無が慌てて出ていこうにも、既に後の祭りであった。

 

「ディナー招待券だ──先輩に報酬で貰ってさ」

 

「いいなー。そこ美味しいって聞いた事あるよー」

 

「そうなのか。──もし良ければだけど本音も行くか?」

 

「えーいいのー?やったー!もちろん行くー」

 

(なぁ───!?)

 

喜ぶ本音。

一方で飛び出して行こうとした楯無は、膝から崩れ落ちていた。

 

そんなことは露知らず、流星は本音に券を片方渡す。

微笑ましそうに二人のやり取りを眺めている薫子も楯無に気が付かない。

 

本音は自然に流星の手を取る。

無意識の行動故に躊躇いがなかった。

 

「じゃあいまみー、一緒におやつを食べよー」

 

「先輩、また連絡します。──いいけど、ちゃんと書類を終わらせてからな、本音」

 

「えー!」

 

本音に連れられ、流星はその場を立ち去る。

オレンジ髪の少年が立ち去って漸く薫子は打ちひしがれている楯無に気が付くのだった。

 

 

「あれ?たっちゃん何してるの?」

 

 

 

 

IS学園──寮のある部屋でガチャり、と脱衣所の扉が開いた。

その中から出てきたのはパジャマ姿の篠ノ之箒。

普段纏めている後ろ髪を下ろしており、まだ微かに水気が残っている。

風呂上がりの彼女は冷蔵庫を開け、冷たいお茶をコップに注ぐ。

今日一日の特訓を振り返りつつそれを飲み干した。

同室の鷹月静寐はいない。

彼女は現在、別の部屋で勉強会の最中だからである。

 

「!──今開ける」

 

控えめなノックの音。

時間は20時過ぎ。このような時間に誰だろうか。

箒はすぐに反応し、ドアを開く。

訪問者は水色の髪の少女──更識簪であった。

 

「簪か。こんな時間にどうした?」

「ちょっと箒に用事があって…。今大丈夫?」

「ああ。構わないぞ」

 

簪を部屋にあげて箒は彼女にお茶を出す。

二人して向き合う形でテーブルに座り、簪はゆっくりと口を開いた。

 

 

「箒、次のタッグマッチ──私と組んで欲しい」

「!」

 

唐突な簪の申し出に箒は目を丸くする。

今度のタッグマッチトーナメントは専用機持ちのみにより行われるものだ。

参加者は代表候補生と一夏、箒のイレギュラー組だけとなる。

故に恐らく最弱であろう自身を選ぶ簪に箒は違和感を覚える他なかった。

余談であるが、一夏と流星がタッグを組むという事は未だ誰も知らない。

 

 

「箒は織斑くんと組む気はないんでしょ……?」

「っ」

 

それは箒の無意識を見抜いたかのようであった。

言葉を詰まらせる箒に簪は続ける。

 

「その、箒は…『今の私では足りない』って思ってる。多分、私と同じ…。勝手な思い込みだったらごめん…」

 

「違わないぞ。一夏は強くなったからな。対して私は未熟もいいところだと考えて───待て、私と同じ(・・・・)?」

 

視線は改めて正面に座る簪へ向けられる。

水色の髪に赤い瞳の少女は物憂げに目を伏せた。

 

「うん。足りない(・・・・)。お姉ちゃんと来玖留の時──私は結局流星に任せるしか無かった。だからこそ皆に…お姉ちゃんに、流星に勝ちたい。守られるだけは……嫌……」

 

「簪……」

 

「箒、私と一緒に戦って欲しい。これは箒にしか……頼めない」

 

ぎゅっと膝に置かれた拳が強く握られる。

置いていかれる感覚──箒はそれを痛い程知っている。

あの時のような孤独を感じてはいないが、足りないと感じる事は多々ある。

凄まじいスピードで強くなる男子二人。

彼らに勝ちたい、並びたい感情もまた簪と同様に箒も持っていた。

 

「私の方こそ、よろしく頼む」

「タッグ結成……だね」

 

二人は硬い握手を交わす。

新たなタッグの結成された瞬間であった。

 

「よし、そうと決まれば」

 

簪は意気込んだ様子で彼女は目前に小さな投影ディスプレイを展開する。

小首を傾げる箒をおいて彼女は鼻息を荒らげながら、詰め寄った。

 

「まず互いの武装の把握から……。『紅椿』のことについて、教えて?」

 

「───」

 

顔を引き攣らせる箒。

メカニックを暴走させた簪に振り回される流星の姿を思い出しながら、箒はこの場をどう乗り越えるか思考するのであった。

そうこうして30分が経過する。

かれこれ静かながらも圧を感じる簪を相手に話していた箒だが、流石に限界が近付いていた。

 

 

「箒ーあんたに頼まれてた中華料理の本持ってきてわ────ってなにこれ」

 

鍛錬を終え、代表候補生としての連絡も終えた鈴が部屋に訪れる。

彼女の目に飛び込んできた光景は、大量の本と多数展開された投影ディスプレイ──加えてくたびれた箒と楽しげに話を続ける簪な姿であった。

 

「鈴……。今作戦会議中だから後にして」

 

「何時だと思ってんのよ。どうせ今日はあと少ししたら就寝時間なんだから、もうやめときなさいよ。箒もくたびれてるじゃない」

 

「…確かにそうかも。ごめん箒、ちょっとはしゃぎ過ぎた…」

 

「き、気にするな……私も勉強になった」

 

反省して謝る簪に箒は強がってみせる。

二人の話と先の作戦会議という単語から、鈴はタッグマッチのことを思い出す。

 

「あれ?ってことは今度専用機持ちのタッグマッチ戦──あんた達組む感じ?」

 

「うん」

 

「ふーん、意外ね。てっきり簪は流星と組むって言い出すかと思ってたわよ。ま、(あたし)としては都合が良いけどね」

 

ふふふ、と笑みを浮かべる鈴。

本音は専用機を持っていない為、今度の行事には参加出来ない。

そして簪は箒と組む事になった。

そうなればライバルは一人だけ───それをどうにかすれば、あの少年とタッグとして戦える。

 

簪はむ、と不満そうな表情を見せる。

自分で選択した事だがそれはそれ。

あの少年と鈴がタッグを組む事に何も思わないはずがなかった。

 

加えて、操縦者としても鈴に思うところがあった。

学園祭にキャノンボール・ファストと、彼女はルナ・イグレシアス相手に生き残っている。

現在IS学園にいる代表候補生達を考えれば──その中でも鈴は特に□□である。

 

 

そんな感じに見られている事も知らず、鈴は箒のベッドに腰をかける。

 

「そういや簪。流星のやつがあんたの実家から帰ってきた時疲弊してたけど、なにかあったの?」

「えっと、それは……試験があったから、かな?」

「試験ってあんたのとこの家のやつでしょ?大変だったのね」

 

流石に離れでの一件は説明出来なかったのか、簪は目を泳がせながらそう告げる。

鈴は特に不審にも思わず、あっさりと納得した。

鈴は箒へと視線を移す。

 

「あんたはいいの?一夏のやつ誰かと組む事になると思うけど」

 

「正直に言えば、その点は癪だが──今回は目標がある。それに一夏の事だ。今回のタッグで誰かと進展もないだろう」

 

「目標ねぇ。前向きに決められたのなら良いんじゃない?それに一夏だし?箒の言う通り進展とかは期待できないか」

 

「……流星もだけどね」

 

楽しげな鈴に簪はボソリと告げる。

鈴も薄々分かっていたのか、簪の言葉に口を尖らせた。

当然理解しているが万が一というものもある。

恋する乙女達は理屈だけで動いてはいないのだ。

バチバチと鈴と簪の視線がぶつかる。

 

またか──とよく見る光景に箒は苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後。

IS学園の一部女子達の目の色が変わった。

 

度重なる襲撃により、開催が危ぶまれていた行事───『専用機持ちによるタッグマッチ』が正式に決行されると、HR(ホームルーム)で告知されたからだ。

 

HRが終わると共に、ドタバタと一夏の机に押し寄せる女子達。

面子は勿論──セシリア、シャルロット、ラウラの三人であった。

 

「「「一夏|(さん)!」」」

 

「お、おう!?」

 

三人は同時に一夏の机に乗り出すような勢い。

思わず一夏も引き気味であった。

その様子を遠巻きに見ていた流星は口もとをヒクつかせる。

色々と察しが付いたからである。

 

「……あー」

 

このままだと巻き込まれる。

彼は素早く帰り支度を済ませ、慌てて教室を後にしようとした。

 

「流星!今度のタッグマッチ、(あたし)と組みなさい!」

「───げ」

「なによそのリアクション」

 

押し寄せる追撃のツインテール。

とりあえず答える事も教室の外で───そう即座に切り替えた

 

「とりあえず外で話そう」

「ちょっ、どうしてそう慌ててるのよ」

 

流星は鈴の背を押す形で教室の外へ逃げようとする。

ちらりと彼が一夏の方を見たタイミングで、先の三人が一夏へと用件を説明していた。

 

三人ともタッグマッチの相方を探しているとの事だ。

 

「悪い。もう組む奴は決めてるんだ」

「なに!?」

「な、なんだって!?」

「ど、どういう事でして!?」

 

一夏の発言に血相を変える三人。

同時にこの場に参戦していない箒の存在を思い出し、まさか──と一夏を睨む。

抜け駆けされていた、と考えてISを部分展開しようとするラウラを前に一夏は慌てて静止を促した。

 

「待て待て待て!!?何をする気だ!?」

 

「箒と組むとは──貴様はそれでも私の嫁か?その身体に教育してやろう!」

 

 

「箒と組む?──なんの事だ。俺は流星に組もうぜって言っただけだぞ?」

 

(不味い)

 

一夏の発言にラウラ達と遠目で聞いてしまった流星が固まる。

男子二人のタッグ。ごく自然であるが、だとしても各々の目論見は潰えると同義だ。

となれば行き場の無い感情を彼女らは抱える事になるワケで───。

全てを察した鈴はそそくさと流星から距離をとっていた。

 

ラウラは教室の入口にいる流星を速攻で捕捉する。

流星はヤケクソ気味に迎撃態勢で振り返った。

 

「流星、覚悟しろ──!」

 

「ハ───やつあたりか、軍人サマ!」

 

一際大きな音が教室に響いた。

騒がしい二人をおいて、鈴は一夏達の方へと歩み寄る。

彼女は呆れた様子で背後へと視線をやっていた。

 

「あれ見ちゃうとこっちが冷静になるのよね。まー男子二人が組むって意外だけど、納得よね」

 

「そうだね。今まで男子二人のタッグってなんだかんだ無かったし、よく考えると普通なのかも。……ちょっとずるいと思うっちゃうけど」

 

「シャルロットさんの気持ちもよく分かりますわ」

 

 

「止めなくていいのかよ!?」

 

慌てて一夏が止めに向かうのを女子三人は横目で見送る。

そもそもの原因とはいえ、今回ばかりは同情するしかない。

 

いつもの騒動を他人事のように見ながら、鈴は口を開いていた。

 

「ねぇ、セシリア。(あたし)と組まない?あいつに思い知らせてやる」

 

「ええ、構いませんわ鈴さん。一夏さんに(わたくし)と組まなかった事を後悔させてあげますわ」

 

「なんだかんだ二人共負けず嫌いだよね……」

 

静かに闘志を燃やすセシリア達にシャルロットは苦笑いを浮かべた。

かくいう自身も似たような気持ちはあるのだが、そこは秘密である。

 

 

「「!」」

 

 

何度かの剣戟の後、少年と少女は同時に動きを止めた。

背後から気配──それも今この瞬間まで感じ取れなかったものだ。

圧倒的な威圧感からして、誰かは本能で察していた。

両者共に冷や汗が吹き出す。

 

 

 

「さて、私の言いたい事は分かるな?貴様ら」

 

 

 

振り下ろされる神速の出席簿は、二人の脳天を捉えるのだった。

 

 

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