IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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ある休日の早朝──俺は廊下を歩いていた。

窓の外はまだ薄暗く、小鳥の囀りも聞こえない。

まだ皆は寝静まって居るのだろう。廊下を歩く影もなく、物音もない。

最近の忙しさも何処かに置いてきたかのよう。

朝の過ごしやすい気温もまた夏の終わりを報せている。

 

 

(今日は曇りか)

 

先日に見た予報を思い返しつつ、俺はある部屋の前に辿り着いた。

ノックを繰り返し、反応を待つ。

しかし反応はない。

約束を忘れているか、はたまた起きれていない可能性を考慮する。

引き返す事が頭に浮かんだあたりでドアが閉められていない事に気が付いた。

勝手に入っていいものか。

確か───簪のルームメイトは本日いない筈だ。

となれば、約束している簪が寝ているかだけ確認するのは問題無いと考える。

 

「簪、入るぞ」

 

ある程度の声量で話しながら部屋に入る。

薄暗い部屋の中、チカチカと光が入口まで来ていることに気が付いた。

更に部屋の中に入っていく。

光源はテレビ──その前にはちょこんと簪が座っていた。

どうやら約束通り起きていたらしい。

一緒に観る約束をしていた番組を先に観ているようだ。

相変わらず無防備なキャミソール姿なのはやめて欲しい所だが───。

 

(夢中になって観てる……邪魔するのも悪いし、俺も一緒に観るか)

 

近くの椅子に腰を掛け、テレビ番組を共に視聴する。

番組はヒーローもののアニメ。

細かい内容は分からないが、随所に感情の機微が盛り込まれており、話の流れが途中からでも理解出来た。

 

気が付けば番組が終わっている。

終わった直後に簪がこちらに気が付いた。

 

「りゅ、流星!?いつの間に!?」

 

「一応ノックもしたんだけどな。悪い、夢中で見てたから声を掛けられなかった」

 

「そ、そうなの?……っ、見ないで!?」

 

漸く自分の格好に気が付いたのか、簪は腕で身体を隠す。

俺も申し訳ないと視線を少し逸らす。

彼女はその間に顔を赤くしながら羽織るものを周囲から探すのであった。

数秒して発見した服を着る簪。

 

落ち着いた段階で俺は話し出す。

 

「今見てたのが言ってたやつか?こうも俺に気付かないなんて、よっぽど好きなんだな」

 

「う、うん。ストーリーも面白いしかっこいいから……。あと今のは一話目だよ。今日は言っていた通りワンクール分ブルーレイも用意してる……」

 

「楽しみだ」

 

簪は静かな口調だがどこか声が弾んでいた。

それだけでもそのアニメが好きな事が伝わってくる。

再生されるアニメ。

画面を見つつ、こういう過ごし方もあるんだなと俺は一人納得していた。

 

そうこうしているうちに数話ほど視聴する。

アニメをは初めて観たわけでは無いが、こうも連続で見続ける事は初めてだ。

 

二人して会話も殆どなく一つの画面を見続けて二時間程。

不意に簪が口を開いた。

 

「流星は、ヒーローの条件ってなんだと思う?」

「ああ──さっきの話でやってた議題か───」

 

簪の声色は、世間話のようで少しだけ真剣だった。

対暗部組織の生まれだからこそ、気になるのだろうか。

違うか。簪にはきっと純粋にヒーローへの憧れがあるのだろう。

だから俺も少し真面目に考えてみる。

とはいえ、俺の中ではハッキリしていることだった。

 

「誰かがそう感じたなら、かな」

 

「誰かが?それってどういうこと?」

 

「…そのまんまだよ」

 

俺の言葉に簪はよく分からないといった顔をした。

そんな顔をしないで欲しい。

話自体は驚くほど単純な話で、簪が考えるような深い意味は無いんだ。

 

「簪はどう思うんだ?」

 

「……ピンチの時に颯爽と駆け付けてくれる、完全無欠なヒーロー……前は、それに憧れてた」

 

「今は違うのか?」

 

「うん。けど、今は自分でも──ヒーローってどんなのか分からなくなってる」

 

簪がはにかみながらそう話す。

どういった心境の変化かは分からない。

ただ表情から悪い変化ではない事は理解出来る。

 

「立ち上がれる人?うぅん、違う。諦めない人……も違う……」

 

……何かスイッチを入れてしまったのだろうか。

ブツブツ呟きながら考え込む簪。

でもあのキャラはこうだった、この作品では──とひとりで脳内会議している。

例でも探しているのか。

とりあえず簪の場合、身近にひとりいるのだが───本人も気が付いていないようなだった。

 

なんにせよこのままでは簪はずっと独り言を言うマシーンになってしまう。

 

「簪、とりあえず続きを観よう。あと────何か羽織ってくれると助かるんだが──」

 

ハッとなり簪は顔を真っ赤にする。

ひとまず枕を投げようとするのはやめて欲しいと思った。

 

 

 

 

「専属コーチ……?」

 

第三アリーナの一角。

ISスーツを見に纏ったポニーテールの少女は、水色の髪の少女の言葉に首に傾げた。

 

簪とタッグを組むことに決めた箒。

彼女は簪に連れ出され、早くも特訓のためにアリーナに来ていた。曰く今日から連携を強化していくらしい。

そして、アリーナに着いた瞬間に専属コーチの存在を知らされ今に至る。

箒の困惑も当然である。

 

それはそれとして箒は思考を切り替える。

肝心のコーチは誰なのだろう。

生徒は皆ライバルのはずであり、教師陣は今回は多忙であり関与しない方針である。

 

そうこう箒が考えている中、颯爽と水色の髪が視界に映る。

隣にいる簪よりも少し明るい色。

彼女は制服姿に扇子を持っていた。

 

「お待たせー二人ともー。いやー仕事が沢山あってさ〜。残りを流星くんに押し付───任せる交渉が長引いちゃってね〜」

 

現れた生徒会長もとい楯無は申し訳なさそうに話している。

気にしないで、とアッサリな簪。

箒は仕事を押し付けられた少年に内心同情していた。

 

「その、もしや簪の言っていたコーチとは更識先輩なのか」

 

「うん。誰よりも頼りになるから…」

 

「か、簪ちゃん!?も、もう一回言って頂戴!?録音するから!」

 

「───……」

 

すかさず楯無が携帯端末を取り出し、キラキラした目を簪に向ける。

──簪ちゃんの貴重なデレ!なんてはしゃいでおり、当の本人である簪はすかさずそれを取り上げる。

 

そんな姉妹のやり取りを見て、箒は何とも言えない気持ちになった。

間違っている事は承知な上だが、楯無と自身の姉をつい重ねてしまう。

 

優秀過ぎる姉とその妹。

目の前の楯無と簪には自身のような複雑な感情は見て取れない。

そしてお互いのやり取りから裏がない事が理解出来る。

 

「箒ちゃんも少しぶりかしら。最近忙しくて皆と会えてなかったからね〜」

 

「はい。生徒会長の仕事で忙しいんですか?」

 

「まあそれもあるけど、主に家業かな?」

 

家業と言われ箒の眉がピクリと動く。

IS学園の襲撃やロシアの件といい、細かな話は知らずとも楯無の家系が特殊なものであることは知っているからだ。

 

「そんな怖い顔しない。そうは言ったけど基本的にパッとしないお仕事ばっかりよ?結局、事務仕事も多いもの」

 

「そ、そうなんですね。しかし、どうして更識先輩が?」

 

「ありゃ?箒ちゃん聞いていない?私、今回不参加なのよね〜」

 

箒はぽかんと口をあける。

考えてみれば当然の事ではあるが、意外だった。

楯無曰く───というかやはり───立て続けに専用機に無理をさせたせいでこの行事への参加は禁じられているようである。

 

「ま、そんなわけでコーチしてあげるわ。早速あなた達のフィジカル・データから確認しなくちゃねー!ほらほら時間も有限よ」

 

「ちょ、ちょっと更識先輩!?」

 

「あん、楯無って呼んで」

 

箒の背中を押しながら楯無は検査室へと向かう。

コーチングの為に今の彼女らの状態を知りたい──のも本心だが、建前としての側面もある。

 

───『紅椿』を手にしてからの箒のデータは未だ取られていない。

 

自動ドアが開き、楯無はスキャンの為にコンソールの前に腰をかける。

測定に向かった箒を横目で見つつ、簪は口を開いた。

 

「お姉ちゃん、もしかして───」

 

「簪ちゃんの想像の通りよ。なにせ謎多き第四世代。箒ちゃん自身にどんな影響を及ぼしているかも分からないもの───調べておくべきだわ」

 

「…そうだね」

 

簪もその点は不安なのか、しっかりと頷いていた。

楯無はコンソールを操作して測定された箒のフィジカル・データを確認する。

画面に表示された評価を見て───思わず彼女は声を漏らした。

 

「え──こんなことって……」

 

表示されていたのはIS適性『S』──現在確認されている者がブリュンヒルデやヴァルキリーくらいしかいない規格外の数値である。

楯無が問題視した部分は正確にはそこでは無い。

以前の箒のIS適性は確か──『C』だった筈だ。

 

「お姉ちゃん?どうし───これって……」

 

違和感を憶えた簪が楯無の方へと歩く。

簪もコンソールの画面に表示されたIS適性を見て、目を丸めていた。

IS適性の変動。

これは後天的に変化するようなものでは無いものである。

 

それがこの短期間で変動した。

それも恐ろしく上がっている───篠ノ之束の影が二人の脳裏にチラついた。

 

「簪ちゃん。このことは他言無用でお願い」

「うん」

 

そう告げると楯無は素早くコンソールを操作し結果を改竄する。

簪も楯無の発言の意図を聞くような事はしなかった。

IS適性は今やソレひとつで人生が決まりかねない。

1つの才能でもあるからだ。

今以上に箒の身に要らぬ危険が及ぶ可能性が高い。

 

加えてその才能が篠ノ之束により操作可能である疑惑が出れば、世界中で混乱が起きるだろう。

 

(流星くんにもこれは共有しておくべきよね)

 

少年とあの天災が過去に繋がりがあった事も思い出していた。

楯無は閉じた扇子で口もとを隠しつつ、思考を走らせる。

 

赤い瞳は鋭くモニターを見つめる。

──今の篠ノ之束は、一体何処を目指しているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぉっ!?」

 

短く勢いのある息が漏れた。

それは腹から無理矢理空気を吐き出して生じるものである。

 

一瞬の浮遊感。

知覚するよりも先に床に叩き付けられており、辛うじて受身を取っていたことを思い出す。

 

油断した。

──いや、隙を作らされた。

織斑一夏は痛みに耐えながら、少年から距離をとる。

 

剣道場の一角。

織斑一夏と今宮流星は生身での戦闘訓練を行っていた。

流星は手に持ったダミーナイフを右手に持ち替えながら一夏を見据える。

一夏の服には、ダミーナイフに塗られた塗料が多数付いていた。

 

「くっそー避けられたと思ったらこんなのありかよ」

 

「惜しかったな」

 

してやったりと流星は笑みを浮かべる。

彼は強気な選択肢からダミーナイフに意識を向けさせ、徒手空拳で一夏を突き飛ばしたのであった。

 

この生身での訓練は一夏からの申し出によるもの。

ISの連携訓練とは別に生身の基礎も強化したいとの事だった。『更識』に所属している流星としても、一夏自身の自衛能力を上げることになる申し出は有難い。

 

元々その手の訓練は授業でも存在し、一夏はラウラ相手にも自主的に行っている。

ただしあくまでも一夏の性格やラウラの体格──性別上、心置き無くとはいかなかった。

 

 

一夏もまた右手にダミーナイフを持っていた。

対面の少年の服には、一滴の塗料も見られない。

 

 

ごくりと一夏は唾を飲む。

顔の横を伝う汗、緊張感が場を支配している。

 

──こうして少しの会話を挟む間でも、流星は一夏が気を抜けば仕掛ける気でいる。

 

「!」

 

警戒した様子の一夏に流星は駆け出す。

慣れた動きで左手に持ち変えられるダミーナイフ。

鮮やなその動きには一切の無駄が無かった。

 

(逆にタイミングをズラす!)

 

躊躇いの無く一夏も踏み出す。

間合いというものには一夏も理解がある。

拳にしてもナイフにしても、刀にしても、槍にしても───銃でもだ。

 

結局流星は間合いを詰めてくる。そこは一夏も避けられないと知っていた。

だからこそ彼の仕掛けるタイミングに合わせ、ズラしにかかる。

間合いの一歩手前で距離を調整するつもりであった。

 

一夏は、歴戦の兵士である少年に対し、タイミングをほぼ合わせて来た──だが───。

 

「な───」

 

少年は姿勢を落とし、一夏の下に潜り込むかのように踏み込む。

一夏の膝部分に塗料の線が走る。

一夏はすかさずダミーナイフを振るうが、結果は言うまでもなかった───。

更に20分が経過する。

全身塗料がついた一夏は、道場の真ん中で仰向けになって倒れていた。

 

「くっそー、一回も、当てられっ、なかった」

 

息を切らしながら彼は悔しさを口にする。

横目で少年はそれを見ながら、持参したドリンクを飲んでいた。

先程のやり取りを思い返す。

彼の成長速度は明らかに───。

 

(……おかしい、か)

 

再認識した所でどうというところはない。

彼はタオルで汗を拭きながら、壁にかけられたら時計に目をやった。

 

「もう時間か」

 

時刻は17時。

彼はある約束を思い出し、眉をひそめた。

一夏も体を起こし怪訝な表情を浮かべる。

流星の発言の意図が気になったのかそのまま尋ねた。

 

「時間?時間って───」

 

「───何のことっスか?」

 

「っ!?」

 

突如として真横から声が聞こえた。

一夏は驚いたのか、その場から勢いよく飛び退き背後を見る。

そこに居たのは以前食堂で目にした──二年の先輩達である。

フォルテ・サファイアとダリル・ケイシー。

鈴が凄い表情で睨んでいたことを一夏は思い出す。

 

「今宮、お前が遅いっスよ!10分前行動が礼儀っス!」

 

「…今は30分前ですよ」

 

詰め寄るフォルテに流星は少し困った様子。

確かに向こうの言い分にまちがいはないが、約束をした場所は真横のアリーナだ。

片付けも楽な為、今から準備しても10分前に着く計算である。

 

明らかにあの時の置き去りが響いている。

面倒くさそうな様子の流星を前に、一夏はダリルの方を見る。

 

一夏の様子から説明されていないことを察したダリル。

後輩に説教をし始めるフォルテを他所に、ダリルは一夏へと説明した。

 

曰く今度のタッグマッチの練習相手をダリル&フォルテペアに流星が頼んでいたようだ。

勿論、ライバルに手の内を見せるのも理解した上で彼女達も得る物があると引き受けたのだ。

タッグマッチならば何者にも負けない──絶対的な自信があるからこそでもある。

 

イマイチ二人の評判に疎い一夏は、話を聞きながらぼんやりと凄い人達なんだな──と考える。

 

 

───その認識が甘かったと彼はすぐ思い知る事になった。

 

 

すぐ隣のアリーナで彼等はISによる練習を始める。

相手は一夏達より一段上の阿吽の呼吸の連携であった。

そして二人の機体性能を活かした連携技がまだあるらしい

一夏達は善戦こそしたが、あっさりと敗北を余儀なくされた。

 

「中々やるようだが、まだまだだな。オレとダリルのコンビネーションには遠く及ばねぇ」

 

「フハハ、ざまぁみろっスよ今宮!」

 

「………流石のコンビネーションですね」

 

 

得意げな先輩二人を流星は静かに賞賛する。

色々と複雑そうな表情で告げているあたり、彼も悔しいらしい。

 

一夏は水を飲みながらその様子を横目で見守る。

 

まるで崩し方が想像出来なかった。

簪と流星のタッグを見た時とは比較にならない。

何処を参考にすればいいのかまず分からなかった。

 

なるほど、と一夏は納得する。

これは練習相手を頼まれてあっさり引き受けるのも頷けた。

対策の立てようがない気すらした。

 

となると────このように仕向けた少年にも意図がある筈だ。

一夏はボトルから口を離し、三人の方へ向き直る。

 

「連携のコツって何かあるですか?」

 

一夏の真っ直ぐな視線にダリルは笑みを浮かべた。

大会ではライバルとなるにもかかわらず、素直にそう聞ける一夏に好感を持ったようであった。

 

「素直でいいなお前。手札を隠してるコイツとは大違いだ」

 

「別に隠してないですよ」

 

「嘘っス。『無量子移行(ゼロ・シフト)』使ってこない癖に何言ってるんスか。大会に備えて温存してるのバレバレなんスよ」

 

フォルテは大きな溜息をつき、流星を睨む。

頭に手をやりながら流星は面倒くさそうに対応している。

 

ダリルは一夏の方へと言葉を投げ掛けた。

 

「オレ達が教えると思うか?あくまでこっちは練習相手になってやってるだけだからよ。知りたきゃ──」

 

「──分かりました。学ばせて貰います」

 

「──」

 

へぇ、とダリルは内心感心の声を漏らす。

食い下がらずエネルギーの補給に向かう一夏の背を見て、ここ数ヶ月での変化を感じ取る。

直接的に関わったのはこれが初めてであるが、織斑一夏という人間は最早一般人ではない。

アスリートかと言われれば、それもNOである。

あの顔は間違いなく戦士のそれであった。

 

(分かってはいたけど、もうとっくにカモでは無さそうだ)

 

表情には出さずに彼女は彼へと警戒心を一段階あげる。

今宮流星だけではない。

織斑一夏もまた──自身達にとって脅威となる存在である───。

 

 

 

「だーかーら!言い訳がましいっス!連携で上手く扱えない!?そんなのが通じると思ってんスか!──って逃げるなっス!!」

 

「…本当なんだけどな」

 

 

困り果てた少年は、逃げるように一夏の後を追うのであった。

 

 

 

 

 

IS学園地下特別区画の一角。

そこの一室にある女性は捕らわれていた。

しなやかな茶髪をもつその女性──オリビア・ウォルシュは、再度ゆっくりと部屋を見渡した。

 

相変わらず何も無く、真っ白な部屋だ。

自身が拘束されている椅子の他は白い壁と照明、眼前の強化ガラスしかない。

ISがあればこんなもの何ともないのだが、ISも取り上げられているため彼女には何も出来ない。

 

──静かに彼女の正面の扉が開く。

入ってきたのは水色の髪の少女だった。

 

 

「何か用?」

 

目が会った瞬間にオリビアは口を開く。

更識楯無は笑顔を見せながら扇子を開き、口もとを隠す。

そこには『事情聴取』と達筆で書かれていた。

 

「事情聴取?それなら前にしたけど?」

 

「あれは国連への提出用ね。ある程度国際手配用に使用機体は教えて貰ったりしたけど、それはあくまで外向け。IS学園──いえ、私達が欲しい情報は外に出すべきじゃないものばかりなのは知っているでしょう」

 

「…話せない、と言ったら?拷問でもする?ここなら誰にもバレないし、丁度いいと思うけど?」

 

オリビアは嘲笑しながら楯無を見る。

対して楯無はあっさりと返事をしてのけた。

 

「なら仕方ないわね。今日は諦めるかなー」

 

「待ちなさい」

 

くるりと背を向ける楯無。

本心からの発言と理解したオリビアは呆れるしかなかった。

呼び止めるようなオリビアに楯無は足を止める。

 

「幾ら情報が欲しいっても悠長過ぎる。情報を吐かない上に、さっさと国連に引き渡した方が色々と楽な相手をここに留める理由が分からない」

 

何よりいちばん分からないのはこの扱いだ。

ISを取られて拘束されてこそいるが、それだけなのだ。

 

「んー、理由は幾つかあるんだけど──一番の理由は一夏くんのお願いだからかな」

 

「…」

 

オリビアは楯無の発言に眉を顰めた。

敵対したあの少年の名が出たことに警戒心を露わにする。

あの少年の事だ。

きっと馬鹿正直にこちらの身を案じたのだろう──同情されたのかという苛立ちと納得が彼女の胸中を占めていた。

 

「甘いわね。その内アイツ死ぬからね」

「死なないわよ?彼は強いし、頼れる仲間も居るもの」

 

明るい笑顔で返す楯無にオリビアは舌打ちする。

その事実を今1番実感として知っているのが自身だからだ。

冷静に自身の発言に苛立つオリビアを見て、楯無は目を細める。

頃合いと理解し、楯無は口を開いた。

 

 

「じゃあ交渉といきましょうか、オリビア・ウォルシュ。欲しいのは今回貴方達が確認しに来た幹部会のメンバーの情報について───対価は貴方の一定の身の安全よ」

 

 

 




忙しい……かなり遅れてしまった
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