夢想少年の仮世界無双配信   作:久国嵯附

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かなり遅れてしまいました。


第十話

 長巻という近接武器をおすすめされ、それに似合った衣装にチェンジした徹。その姿にティルは歓喜の叫びと共に、鼻血を吹き出して倒れてしまった。

 

「お、おいティル!」

 

 ティルの雄叫びを聞いたイニゴがこちらに駆けつける。

 

「どうしたんだっ……お前、その格好は?」

「いや、せっかく和系の武器使うんだからさぁ、着替えたわけよ」

「なるほどな。まぁ、なんだ…その…イイぞ」

 

 すこし後ずさりながら目をそらし、小学生並みの感想をつぶやく。

 少し遅れて備前組の人と他の2人もティルの方にやってきた。

 

「一体なにがあったんですか!?ティル氏の声だったみたいですが」

「別に大したことじゃないですよ…ほら、彼の顔」

 

 よく見ると、ティルの顔は幸福そうに緩み、よだれを垂らし、器用にもそのまま白目を剥いていた。

 

「僕のこの姿を見てこうなっちゃったんです」

「ん?この姿って…?」

 

 ティルにばかり気を取られ、じっくりと「浴衣バージョンのミリアム」をまだ見ていなかった彼らは瞬時に刮目した。

 

「グハッ!」

「……( ´∀`)bグッ!」

「おぉ〜!!お似合いですよ、ミリアムさん!」

 

 まだ何者なのかわからない男二人は、無言ながらも大きく反応し、備前組の彼は徹に近寄り手をとった。

 

「次の配信は是非ともそのお姿、そしてその長巻でやってください!うちの売上次第では報酬も考えておりますので」

「えっ、嘘っ!広告の契約なわけ!?俺が!?」

 

 こういった契約はもちろん、エレツでも健在である。ディアスポラなどでの武器の宣伝や、新作のゲーム配信など、広告というものは立派なビジネスとして生き残っているのである。

 

「うーん…弓以外をメインにするのはねぇ…?」

「でも、いろんな武器を使ったほうが面白いのではないでしょうか?」

「そうだなぁ…じゃあ、とりあえず次の配信で使ってみます」

「はい!そうして頂けるとありがたいです!」

 

 そう言い終えると彼は、時計を確認するなり慌ただしく帰る準備を始めた。

 

「あっ、私はこのあと用事がありますので!何か不明な点がありましたら、私、【ノリミツ】に連絡ください!」

 

パシュン!

 

 彼が言い残した言葉に釣られ、手元の長巻をインベントリにしまい込み、名刺を取り出す。そこには【法光】と書いてあった。

 

「お次は私の番ですね。私はレヴィといいまして、こういうものなのですが…」

 

 残った二人組のうち一人が名刺を渡してくる。

 

「えーっと…これなんて読むの?」

 

 そこには【A∴A∴】という文字と、謎のシンボルらしきものが書かれていた。そして、その下に小さく、【レヴィ】と書いてある。

 

「私ども、【アルジェンテウム・アストルム】と申します。主に、NFA環境下で使う魔道具を作っております。

 我々のことは気軽に、【銀の星】とお呼びください。世間一般ではそう呼ばれていますので」

 

 なんとも中二チックなグループ名である。しかし、胸の何処かに燻る青い炎が、少しだけ揺らめいだ感覚があった。

 

「へぇ〜、魔道具ねぇ?それって効果はどうなんですか?NFAって感情次第なんでは?」

「いえいえ、ウチの魔道具は特別なんです。ただのコスプレとはワケが違うんですよ」

 

 レヴィは腰から棒のようなものを抜いて、徹によく見えるよう掲げた。だいたい30cmくらいの白い棒で、装飾が施されているのが見える。いわゆる「魔法の杖」のような物なのだろう。

 

「ここではちょっとあれなんで、場所を移しましょうか」

 

 レヴィが周りをチラチラみながら歯切れ悪く話す。それにつられて周囲を見てみると、人垣ができ始めていた。

 

「あぁ〜…そうですねぇ。場所の用意はあるんですか?」

「もちろんです。NFAを研究するには私有の空間が不可欠ですからね。そちらの【ニューヘイブン】の方も一緒にどうでしょう?」

「はい、是非ともお願いします」

 

 レヴィは棒を腰に戻し、徹を出迎えたもう一人の男にも声をかけた。【ニューヘイブン】とはライフル銃をメインに様々な銃火器を作るグループである。やや値が張るが高クオリティの一丁を提供しているため、

ディアスポラでは結構有名なグループである。

 

「へぇ〜、ニューヘイブンの人だったんですね〜」

「ええ、あとでウチも紹介したいヤツがあるんで、楽しみにしといてください」

「それってどんなヤツ?ジャンルだけでも」

「う〜ん?ジャンルか〜…。ウチにしては珍しい【近接武器】、でも【ニューヘイブン】らしい武器ってとこですかね」

 

(ニューヘイブンが近接武器?ナイフぐらいしか思いつかないな…)

 

 果たしてどんな得物を見せてくれるのかと思案しつつ、ウィンドウに表示されたレヴィからの招待を承認した。

 

 

 

パシュン!

 

 刹那の浮遊感を伴い、淡路の小さな山からレヴィ所有の空間に転送される。そこには、如何にもな中二ワールドが広がっていた。

 怪しげな壺、変な文字の掘られた石版、びっしりと分厚い本で埋められた棚…それらが無造作に配置されている。しかしそこは屋内ではなく、満天の星空が徹たちを見下ろしていた。

 いつの間にか魔法使い風の衣装を身にまとっているレヴィが咳払いをし、一歩前に出る。

 

「ようこそ、我ら銀の星のアジトへ」

 

 気取ったトーンで言い放ち、貴族風のお辞儀をした。やはり彼は本物のようだ。

 

「ミリアムさん、あなたは感情次第のNFAにおいて、魔道具なんてものは存在しないと、そう思っていらっしゃるようだ。」

「まあ、そうですけど?そもそもNFAって魔法とは微妙に違う気がするし」

「・・・ハァ」

 

 徹自身としては「アルテミス」という、強力にNFA出力を底上げしてくれる得物をもっているため、そういう道具の存在は確信している。

 しかし、アルテミスはアナナキお手製であるため例外であり、一般には存在しないと考えていた。

 

「我々はNFAによる魔法は疑似的なものではなく、本物だと確信しています。その証拠を今からお見せいたします」

 

 レヴィはウィンドウを開いた。ウィンドウ上で指を動かしつつ、徹に話しかける。

 

「銀の星の魔道具はそもそも、製造過程が特殊なんですよ、ミリアムさん」

「特殊…というと具体的にどこが?」

「我々の魔道具は、素材から作られるのではなく、魔法によって創造されているのです」

 

(!!?それって…!)

 

 レヴィの言葉を聞いた瞬間、徹へ電撃が走る。まだ確定ではないが、おそらくアナナキによるアルテミスの製法と同じだからだ。

 

「NFAの力で具現化した、ということか?そんなんじゃ普通のコスプレ道具と変わらないだろ?」

「ミリアム〜なんか今一瞬動揺したけど心当たりあるのか?口調が変わってるぞ」

 

 ネカマプレイ経験者のイニゴが、鋭く指摘してくる。いや、徹にとってはそこは重要ではないのだ。

 

「ほぉ〜?知っていたのですか?我々の神秘を」

「え、いや、別に?ちょっと拍子抜けな方法だったから、ってだけだが?」

 

 もう、口調を戻すのは面倒くさいのか、徹は素の口調のまま否定を続ける。

 

「まぁいいでしょう。そう言うなら私がこの【ミグダル】であなたに奇跡をお見せします。

 言っておきますがこの空間のNFA出力は2に設定してあります」

 

 レヴィは杖を構え、目を閉じた。何やら呪文のようなものをつぶやいている。耳を澄ましてみるが、少なくとも日本語には聞こえない。そして唐突にパッと目を開き、杖を思い切り振って

 

「Smite(天罰)!」

 

KABOOOM!!

 

 レヴィの目の前を太い一条の光が打ち、少し遅れて轟音が鳴り響いた。字のごとく青天の霹靂、晴れ渡っていた仮想空間に雷が落ちたのである。

 

「ほぇ〜…」

「ここまでできるのか」

「な、なんですか今のは!?」

 

 背後からティルの声が聞こえた。意識が戻ったようだ。

 

「よっ、おはよう」

「あっ、おはようございます…ってそうじゃなくて」

「じゃあ何?」

「謎の転送招待が来てたから一応承認したんです。で、転送された瞬間に轟音が…」

「ああ、今のはレヴィの魔法だな。なんでも、特別な杖なんだとか」

 

 レヴィの持っている杖を指差す。すると、レヴィが得意げに杖を掲げた。

 

「あなたなら分かってくれますよね?この杖の放つオーラが」

「オーラ?かどうか分かりませんが、何か凄さのようなものが少し感じられますね」

「理解いただけたでしょうか、ミリアムさん。我ら銀の星全員が、長い儀式を経て生み出したこのミグダルのチカラを」

 

 確かに、低出力のNFA環境とは思えない稲妻であった。どうやら彼らはアナナキの持つ知識にたどり着いているようだ。しかし、アナナキが自身の持つ能力を最大限活かし、創造したアルテミスには到底及ばないのも確かだ。

 

「なるほどねぇ、確かにアンタの言う通りなんだろう。で、それをくれるのか?」

「実は、NFAで作り出す我々の【魔道具】はワンオフなんです」

「ワンオフ?なんでまたそんなことに…」

「複製自体はできるんですが…オリジナル以外の個体は魔法を強化する力を持たないんです」

「へぇ〜、なるほどね…」

 

 徹の持つアルテミスもおそらく、コピーはできるがそれは【魔法の弓】ではない物、となるのだろう。

 

「ミリアムさんにはこちらを用意しました」

 

 レヴィは近くにあった箱に歩み寄り、中から【布に包まれた長い何か】を取り出した。長さ的に長杖か槍か、そういったモノに思われる。

 

「さぁ、覆いを取ってみてください」

 

 レヴィに近寄り、徹は恐る恐る布を解く。そこには一本の古めかしい槍が収まっていた。柄は太く木製で、穂は槍らしくない、中心あたりが少し細くなっている物だ。

 

「槍か〜。なかなか趣味がいいなぁ、アンタ」

「槍じゃなくて矛ですよ!ここ見てください」

 

 レヴィは穂のつけ根を指差した。

 

「ほらここ、鋲(ビョウ)が打ち込んでありますよね」

「あ、ホントだ。でもそれがどうかしたのか?」

「槍は穂の固定に鋲なんて使わないんですよ。槍は、柄の先端に差し込むようにして固定するんです」

「なるほどねぇ…どうでもいいけど。じゃあちょっと拝借しようか」

 

 何気なく、布の中のそれを手にとる。

 

(重ッ!?)

 

 見かけによらずその矛は重かった。徹の腕になじむアルテミスとは大違いである。しかしそれを持った瞬間、何かむず痒く、それでいて熱いものが流れ込んでくる感覚があった。

 

「じゃあ、試し打ちさせてもらおうか」

「どうぞどうぞ、何を唱えるのか楽しみです」

 

 観客達が少し距離を取る。それをしっかりと確認し、徹は矛を構えた。

 

(どうしようかね…この抑えきれない中2欲を放出するには……詠うか)

 

 何かをひらめいた徹は目を瞑り、荒れ狂う嵐のイメージを浮かべた。そして、

 

「風神よ、我が声に応え、全てを飲み込む嵐を降ろし給え!龍巻!」

 

 即興の胸痛む口上を唱え、矛を掲げた。

 

ゴゴゴゴゴ……!!!

ビュォオオオオ!!

ズガガガガッ!!

 

 徹の魔法により、広いテスト空間の一角に天災が顕れた。青く揺らめいていた徹の「強い」感情がNFAを通し、雷霆轟く大旋風を呼び起こしたのである。

 後ろに置いてあった本や怪しい壺、ランプといった雑多なものが徹の横をかすめ、渦の一部となっていく。

 

(あ、やりすぎた。)

 

「うおおお!吸い込まれるうう!」

 

 徹は今まさに、目の前の渦に吸い込まれつつあった。

 

「ちょ、ちょっとミリアムさん!やりすぎですよ!」

「お前!加減てモノを考えろよ!」

「フハハハハ!やはり私の推測は正しかったようだ!」

「分かってるって!今なんとかするから!」

 

 引きずられないよう足に力を入れ、もう一度矛を掲げる。そして自らが顕した魔法が無に帰る像を浮かべた。

 

「幕引き!」

 

スウウゥゥゥ…

 

 渦巻いていた大気はまたたく間に消え、

 

ガシャーン!!

 

 龍巻に揉まれていた物たちが地面に叩きつけられた。

 

「ハァ、ハァ、ハァァ〜…ミリアムさんは魔法少女だったようですねぇ〜」

「ふぅ〜、やはりあの配信で見た通り、あなたは随一のNFA適正をお持ちのようだ。今の龍巻で確信させてもらいましたよ」

「それはどうも。お前に対抗してそれっぽくやってみたんだが、やっぱ恥ずいわアレ」

「さっきの詠唱、あれだけのものを即興で産み出せる貴方は恐らく、こちら側の人間【エンライテンド(闇の啓蒙を受けし者)】のはず」

 

(おいおいやめてくれよ、俺は厨二病じゃないんだ。)

 

「今その手にある矛の正体も分かっておられるのでは?」

「あ〜、もしかして……天之瓊矛(アメノヌボコ)?」

「That's right! 混沌とした地上を掻き混ぜ、淤能碁呂(オノゴロ)島をを創ったあの矛です。私みたいな欧式の呪文ではなく和式の呪文を使ったんですから、最初から分かっていたのでは?」

 

(そうだよ、なんとなく分かってたんだよ…。昔の知識でね…)

 

 実は徹、ディアスポラを始めたすぐ位はアイドル風のプレイではなく、中2プレイをしていたのである。

 ディアスポラの記憶は徹本人のものではなく、アナナキのものであるため、徹が厨二病だった訳ではないのだが。

 しかしその記憶にそそのかされ、詠唱してしまったのは紛れもなく徹である。

 

「ま、まあ、神話とかには興味があるからなぁ…ハハァ…」

「ほぅ〜?貴女はその胸の内に眠る混沌を否定されると?」

「だから違うって!俺は厨二病じゃねぇんだ!」

 

 徹がその言葉を発した瞬間、レヴィの顔に陰が射し込んだ。

 

 

 

 

 

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