夢想少年の仮世界無双配信   作:久国嵯附

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就活と研究が流れに乗ってきたので、久々の投稿です。


第十二話

〜2121/08/28/13:32 徹の自宅〜

 

 昨日はその後、徹がアナナキに返信した瞬間にイニゴが謎の強制転送を受けたので、そのまま解散となった。恐らくはアナナキに招かれたのであろう。

 

「ふわぁあ〜…」

 

 家に着くとそのままベッドに入り、今に至る。相当に疲れていたようだ。いつもの癖でウィンドウを開くと、アナナキからメッセージがあった。

 

アナナキ : イニゴは特に異常なしじゃったぞ。

 

「へ〜、異状なし、か。」

 

(ああ言うシチュエーションで仲間になったキャラって、なんか持ってること多いと思うんだがなぁ…)

 

 ウィンドウを見つめ、ぼーっと中二な思考を巡らせる。ひとしきり妄想したのか、徹はハッと時計に目をやり、自分が捨てた時間に表情を曇らせた。

 

「…よし、今日を始めるか!」

 

 パチンと頬を叩き、徹は日課の情報収集の為にブラウザを立ち上げた。

 

 

〜2121/08/28/14:11 アナナキの部屋〜

 

「むぅ〜…」

 

 アナナキはとある映像を見、訝しむように声を漏らした。

 

「何奴じゃこいつは〜」

 

 昨日、アナナキはシオンのことを調べる目的で、イニゴを検査する際に記憶の一部を取り出した。

 彼の視覚の記憶の中、イニゴが【城】の砂漠ステージに閉じ込められた時のものに「人」が写っていたのだ。

 

「娘、か…?」

 

 拡大すると、その人物は少女と見て取れた。砂塵の中で、短い亜麻色の髪がなびいている。黒いハイウエストのスカートに白いブラウス、シンプルながらも清楚を感じさせる装い。首から胸へ垂れ下がる鈍色の鎖の先に、ひし形のペンダントが輝いている。

 その衣装とは真逆に、前髪の下で妖しく嗤う赤い目が、流砂に飲み込まれゆく自分(イニゴ)を遠く見下していた。

 

「データ走査にかけるかの」

 

 エレツの個人データのリストを出し、顔写真との照合を始める。エレツの処理能力により、一瞬で結果が出た。

 

照合結果 : 一致0件

 

「やはりコチラの人間ではなかったかぁ〜。しかし…こやつは…」

 

 正体不明の少女に、アナナキは興味を持ち始めていた。靡く髪、不敵に歪んだ唇、妖しさに逆らい、無垢を飾り付けているドレス。そして、こちらを射抜く朱い瞳。

 一枚の芸術がアナナキという人工知能の脳、ニューラルネットワークへ侵入する。入力されたそれは、エレツが演算するアナナキの感情へ、その謎の人物を「大切なモノ」であると騙り掛ける。

 そして出力されたものは…

 

「なんと芳しい…よし、徹のやつに調べさせるとするかの」

 

 アナナキに興味を惹かせたのは、決してハッキング等のデジタルな手段ではない。万人に劣情を抱かせる、底気味悪いまでに優艶なその姿であった。

 

 シオンという自らの手が届かない場所にある美しい花。その色香に狂れてしまったアナナキは、それに誘われ、徹へメッセージを送る。

 

「この写真のヤツを見つけてくるのじゃ!」

 

 決して誰も見ることのないエレツの高天原で、

人ならざる者は"あなにやし"と異界を望んでいた。

 

 

〜2121/08/28/14:10 徹の自宅〜

 

「ほへぇ〜…城ってこんなモンまであるのか〜」

 

 徹は、半ばシオン専用と成り果てたディアケーを覗いていた。もちろん、その原因はミリアム、もとい、徹である。今は身体を元の冴えない男子に戻しているのだが。

 今、徹の画面に写っていたのは【城】の部屋の一つとされる画像。しかしそれは、どう見ても常夏の砂浜としか捉えるとこのできない風景であった。

 

ピコン!

 

「ん?えーっと、アナナキからか…」

 

 SNSの通知音が鳴り、ウィンドウの端にポップアップが表示された。それに指をやり、内容を表示すると、

 

アナナキ : イニゴの記憶を漁っていたら出てきたのじゃ。シオンに行ってコイツを探してきてくりゃれ〜。

 

 短い文章に画像が添付されていた。クリップのマークにタッチすると、ピクセル数の少ない、粗い画像が表示された。

 

「ん…ふぇぁっ!?」

 

 画像に写っていたのは、その粗さにも関わらず、見るものを惹き付ける幻であった。

 

「なんだこれ…画像の一部を拡大したものか?それにしてもこいつは…エグり込むモノがあるな」

 

 写っていた幻、その艶やかな少女の嗤いは、アナナキにそうしたように徹の胸の内にエグり込んだ。

 

「ふむ…アナナキの命令なのが腑に落ちないが、探してみるか」

 

 ヨイショと椅子から腰を上げ、準備を始める。パァッと燐光が舞い、イマイチな男子から夢想少女へと姿が変わる。

 

「そういえば、昨日いろいろ武器渡されたよな…広告の契約をした訳じゃないが、使ってみるかなぁ」

 

 ウィンドウを操作し、長巻を出現させる。ガチャリと手に収まったそれを背負い、ウィンドウを操作して、服装も昨日のミニ浴衣に換えた。

 

「そういえば、こいつが無いと配信できないか」

 

 カチャリ、とバトルグラスが徹の顔に収まった。

 

 

〜2121/08/28/14:30 シオン〜

 

「シャローム!お前ら、待ってたか〜?夢想少女ミリアムちゃんのシオン配信の時間だ」

 

〈シャローム〜〉

〈シャローム、素敵なお召し物でございますな〉

〈徹くん、そんな格好恥ずかしくないの?〉

〈これはまた絶景やね〜〉

〈使える〉

〈あれ、いつもの弓じゃなくて刀なの?〉

 

 告知もなしに配信を始めたが、視聴者はあっという間に集まった。コメントも勢いよく流れている。それを流し見しつつ、徹は【城】へと足を進めていた。

 

「さて、この格好は…好きに楽しんでくれ。それよりもこいつだ」

 

 ウィンドウを操作してカメラドローンの前に、例の画像をバトルグラスの機能で投影する。

 

〈エッッッ〉

〈なんだこの美少女!?〉

〈僕はミリアムちゃんのがいいです〉

〈きゃわわ〉

〈こいつ…どこかで…見たことないわ〉

〈てか、画像粗くね?〉

〈彼女さんですか?〉

 

 ブワッとコメントが滝のように流れたが、見たところ有用な情報はなさそうだった。

 

「こいつは俺の嫁…じゃなくて、アナナキから渡された画像だ。

 昨日救出したイニゴのメモリーから引っ張ってきたらしいんだが……とにかく、こいつをシオンで探してきてくれ、って言われたわけだ」

 

(よく考えると、視覚のメモリーを晒すのって、重大なプライベート侵害だよな〜)

 

 今更なことを考えていると、【城】の入口にある大きな門にたどり着いた。

 跳ね橋は降り、重厚な鉄の扉は開け放たれ、門番の様な者は誰もいない。その横に続く城壁には蔦が這い、所々に穴が空いている。言うなれば、雰囲気のある廃城だった。

 立ち止まっている徹の側を、エレツの冒険者たちはズカズカと城へ侵入して行く。

 

「城の見た目をしているからには、城主様ってもんが居るんじゃないのか?」

 

〈さあ、どうなんでしょうね。見た目は完全に廃城ですし〉

〈お館様〜侵入者ですぞ〜〉

〈そういう存在は、今のところ報告なしだなぁ〉

 

 かく言う徹も、何事もなく門をくぐり、城内に入っていく。大広間と言えばよいだろうか、広い空間が出迎えてくれた。もちろん、照明のような物はなく昼というのに薄暗い。

 天井には穴が空いており、埃っぽい城内に陽光が差し込み、光の筋がちらほらと目に入った。

 

「はぁ…」

 

 思わずため息が漏れる。それは幻想的で、そしてどこか退廃的な魅力を放つ光景だった。はっ、と刹那の放心から意識を戻し、ドローンに向き直る。

 

「なんか芸術的、なんじゃないか?」

 

 眼鏡の端、コメント欄は同意をする意見は流れていない。自分が少し特殊な嗜好を持っていたのかもしれない。

 

 ずんずんと、目の前に広がる絨毯の道を進んでく。冒険者たちがチラチラと、カメラドローンを従えた徹を遠目に見てくる。

 広間の奥までゆくと、赤と黄金で彩られた椅子が、少し段差をおいて設えられているのが見えた。来客に対応する為のものだろうか。

 

「なぁ、他の冒険者は何処目当てで来てるんだ?」

 

 目的無くぶらぶらと探索するのも、それはそれで配信として良いのかもしれない。

 しかし徹、いや、イェフディであるミリアムの体は『闘争』を求めていた。昨日のような手応えのない戦闘では満足していなかったのだ。

 

〈もう少し自分で探そうか、徹くん〉

〈面倒くさがりだなぁ〉

〈他の冒険者に付いて行けば?〉

〈ネカマはせっかち〉

 

「まぁ付いていけば良いだけか…」

 

 なんとなく振り返ると、後ろから遠目に見ていた冒険者たちが、ふいと顔をそらした。

 

「すいませ〜ん。なんか、掲示板でよく見かける『ドア』とかって、どこにあるんですかね?」

「あ〜っと…」

「え〜、その〜…」

「どこにでもあるぞ?ミリアム」

 

 口籠る冒険者の中から、聞き慣れた声が飛び出した。

 

「げっ…チアキ!?」

 

 声の方に目を向けると、そこには大きな盾を背負ったメガネの似合う青年が居た。メガネの下の知的な瞳が、不機嫌そうに歪んでこちらを見ている。

 

「よりにもよって、お前の配信に映るなんてな…」

 

〈チアキって、あのディアスポラの…?〉

〈あー、今年のメレク有力候補のあいつか…〉

〈ミリアムと仲がいいらしいね~〉

〈てか、シオンの中でもこの見た目ってことは、ディアスポラのアバターはリアルの見た目を再現してたのか〜〉

〈ただのナルシやんけ…〉

 

 コメントで気づいたが、たしかにディアスポラのアバターとほぼ一緒である。顔は悪くないのを見ると、おそらく自分の容姿に自信があるのだろう。

 

「チアキ、お前それ生身?」

「当たり前だろ、シオンの中で義体使えるのはお前くらいだ」

「いやこれは義体じゃなくて…げふんげふん」

 

 思わず真相を言いそうになったが、ギリギリ言い留まる。ミリアムは夢想少年の数ある体の一つなのだ。

 

「それより、さっきの『どこにでもある』ってどういう意味なんだ?」

「そのままの意味だが。お前ちゃんと調べてないな?」

「俺には頼もしい視聴者たちがいるからな」

「そうかそうか、じゃあ言わなくてもいいな」

「すみません教えてくださいついでに案内してください」

「はぁ…そのガワの中身がクソガキじゃなかったらよかったんだが…」

 

 チラリと左手首を見やり、面倒くさそうにため息をついた。チアキは時間にシビアで自己中な性格だが、他者からの目を気にする人間でもあるため、カメラの前では断る選択はできないのである。

 

「…こっちだ、ついてこい」

「やったぁ、優秀なガイドさんゲット〜」

「その口調をやめろ、非常に不愉快だ」

「やめないよ?だってミリアムは夢想少女だからね」

 

 こちらの配信スタンスに合わせる気はないのか、何も言わずにチアキは歩き始めた。広間の入り口まで戻り、右手にある廊下を進んでいく。

 

「なあ、結局どこに向かってるんだ?」

「お前のご所望通りに、ドアに向かっているが?」

「でもどこにであるって言わなかったか?」

「そう、どこにでもある。宝箱みたいなものだ。見つけた者勝ちのな」

 

 なるほど。城内を各々で探して、ドアを見つけ、その内部を各々で探索する。トレジャーハントという訳だ。

 

「ふむ、自分で探して自分で見つけろってことか」

「それで合ってる。今向かってるのは俺が昨日見つけたばかりのヤツだな」

 

 他の冒険者によってすでに探索済みなのか、チアキいくつものドアをスルーしていく。途中で階段を降りたり、いくつもの十字路を曲がったり、また階段を降りたり…。

 いくつか階を降ったところで、地上からだいぶ離れたのか、通信環境が少し悪くなってきた。

 

「ちょっとまってくれ、チアキ」

「どうした、義体の調子でも悪くなったのか?」

「いや、ここが何階なのかしらないが、通信が少し不安定でな」

「どうするんだ?引き返すのか?」

「いや、コイツがあるから大丈夫だ。」

 

 階段の踊り場でカバンをおろし、中から小さな箱を取り出す。アナナキからもらった中継器である。

 

「通信機…か?」

「いや、中継器だな。できればもう少し上の階に設置したいんだが」

「ああ、構わないが。…電源はどうするんだ?」

「そこには触れないでくれ。企業機密ってやつだ」

 

 二階ほど戻り、通信の安定した場所にセッティングする。面倒な設定も必要なく、スイッチ一つで通信速度が復活した。カメラドローンと同じく、NFAの影響を利用した電力供給により、発電機なしで稼働できている。

 

「さあ、戻ろうか」

「発電機でも併設するのかと思ったが…。一体あのサイズの何処にそんな…」

「ここはシオンなんだぞ。何があってもおかしくないだろう?」

「腑に落ちないな…」

 

 不服そうな顔で首をひねりながら、チアキは案内を再開した。

 

 

 

「着いたぞ、ミリアム」

「え、ここ…?」

 

 チアキの案内で辿り着いたのは、広い物置のような場所だった。テーブルやイス、大きな鏡や燭台、ベッドなどといった雑多なものが置かれている。しかし、ホコリがあまり付いていない。

 そして屋内のはずが、海のような匂いが『風』に運ばれてきた。

 

「ん…?風が吹いてるのか?」

「やっぱり思うか。それがいいヒントになっているんだが…ここにある鏡がドアだ」

 

 中世を描いた絵画としてその部屋を捉えるなら、それは本当に風景の一部としてしか認識できないだろう。そんな、壁に付けて置かれた古い姿見。

 チアキはその縁に手をかけ、ぐぐっと手前に引いた。

 

ギギギ…

 

 錆びた鉄が擦れる音をさせ、手前に鏡が開いていく。その後ろを覗き込むと、浜が広がっていた。心地よい風が髪を揺らし、潮の香りが残される。部屋に満ちていたかすかな海の匂いが、濃くなったかのようだ。

 

「あ、これディアケーで見たやつだ」

「今朝貼られてたやつだろ?あれとは違うやつだ。あっちはもう少し上の階のドアだな」

「じゃあ、ここはお前しか知らないのか」

「恐らくな。誰にも教えてないし、書き込んでもいない」

 

 この男、つくづく自己中である。掲示板に貼られていた画像には、沢山の人が楽しげに写っていた。情報を聞いて訪れた冒険者たちとともに撮ったのだろう。良い話ではないか。

 しかしチアキは、そのような馴れ合いは望んでいないのだろう。浜には一つも足跡がついていなかった。

 

「呆けてないで、さっさと入ったらどうだ?」

「この浜を見るに、一回も入ってないみたいだが」

「足跡か?一日も経てばそんなものは消えるだろう。ほら、早く行けよ」

 

 どうやらチアキは、徹を使って安全確認をしようと企んでいるようだ。後ろに立たれているせいで、前に行くしか選択肢はない。カメラドローンを引き連れ、勇気を出して一歩踏み込んだ。

 

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