じりじりと肌を刺す日差し。
肌をなめるような温い空気。
鼓膜を執拗に叩くセミの音。
とても快適とは言い難い刺激に揺り動かされるように、路上に座り込む形で眠って
いた少年は目を覚ました。
少しだるそうに立ち上がり、両腕を上にあげ背筋を伸ばす。起きたばかりで頭が回
らないのか、確かめるように辺りをキョロキョロと見回した。
誰もいない街並み。
季節じゃないコバルトブルーの空に大きな入道雲。
汗で少し張り付いた覚えのない学生服に、そばに置いてある買ったはずのないバッグ。
理解のできない状況に少年は戸惑いを覚えた。
いろんな疑問が頭の中をぐるぐると回る。なぜここにいるのか、なぜ誰もいないの
か、なぜ学生服を着て荷物を持っているのか、なぜ、なぜ、なぜ。
ただの戸惑いが徐々に恐怖に変わっていく。何も知らない、何もわからない。
心臓が早鐘を打つ。呼吸が浅くなっていくのが自分でもわかる。まるでだれかにゆっくりと首をしめられてるかのように。息ができない喉元に両手を伸ばしかける。
落ち着けと、心の中で唱える。頼れる人のいない今、パニックを起こすのは得策じゃない。感情に流され、考えることを放棄してはだめだ。
恐怖心に凝り固まった体をほぐすために右手を強く、強く握りしめる。しばらくし
て一気に体全体を脱力させ、息を、ゆっくり吐く。それを数回繰り返すと急に襲い掛
かった恐怖が鳴りを潜め、落ち着きを取り戻した。
ここで突っ立っているだけじゃ何もわからない。何かを知りたいと思うなら行動を起こすべきだ。
まずは置いてあるバッグの中身から調べようと、足を少し動かすと足元にある何かに当たる感触があった。それに気づいた少年は足に当たったそれらを拾い上げた。
眠ってしまっていた自分が落としたのだろうか。開けた形跡のある封筒に、年上で
あろう黒髪女性の写真。
封筒の文字に視線を落とす。宛名は碇シンジ、差出人は葛城ミサトと書かれていた。
……碇シンジ、葛城ミサト、あの碇シンジに葛城ミサトなのだろうか。
新世紀エヴァンゲリオン。
主人公である碇シンジが汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンに乗り、使徒と呼ばれ
る敵と戦う作品だ。
話数が重なるにつれ大人の都合に振り回されボロボロになっていく主人公たちを見て痛々しく思っていたのを覚えている。
もうひとつの落とし物である写真に視線を移す。確かに改めてみてみるとアニメで
みた調子のいい文章がかかれている。写っている女性も現実に葛城ミサトがいたらこ
んな感じであろう容姿をしている。
ますます意味が分からなくなっていた。いや、一つの結論に達しているのだがあまりにも現実的じゃない。現状を把握しようとして行動したら余計に混乱するとはどういうことだ。
でもそれしか考えられないしそれが正解なんだろう。
少年は大きく息を吐き、全てを諦めた表情を浮かべ天を仰ぐ。
「……もしかしてエヴァ?」
聞き覚えのない声でそう呟いた。
最後までお読みいただきありがとうございました。