クソ雑魚メンタルなTS娘はマッマの所為でVTuberデビュー 作:totto
このVTuber人生はどう転ぶか判らない。
何かの拍子に炎上することがあれば、人気が急増することもある。
VTuberはエンターテイナーだ。良くも悪くも弄って弄られてナンボの世界。
奇しくも、そんなVTuberの世界に足を踏み入れることになった俺のお話。
俺の名前は
大学卒業後、とある会社に就職した。
そこはVワールドというVTuberグループを発足させようとしていたワンダースペース。
就職動機は、単純に面白そうだったから。
VTuberは少しは見たことある程度だったが、これから発展していくであろうジャンルであり、俺自身がアニメやゲームなどのサブカルチャーが好きであったのが決め手。
そして無事に就職した俺は、これから社会人としての第一歩を踏み込むことになる。緊張しながら向かった会社で出会った俺の上司になるであろう人からの一言目。
「君にはこれから発足するVワールドの1期生VTuberとしてデビューして貰おうと思っている」
「は?」
入社1日目にして意味が分からない辞令が出た。
「どっ、どういうことですか?」
目の前の辞令を言い放った上司に対して、失礼な態度を取っているかもしれないが許して欲しい。だって、急にVTuberになれっておかしいだろ!?
「面接の時のトークや君の印象を鑑みて、うちから送り出すキャラクターの1人にイメージがピッタシ。それを使わない手はないだろう?断ってくれても構わないが、是非とも引き受けてもらいたい。君ならやれると我々は確信している!」
「はっはぁ……そこまで言うなら…………」
ここまでおだてられたら悪い気はしないよな?
少し釈然としない気持ちで頷く。
「そうか!快く引き受けてくれて良かった良かった。ちなみにウチはVTuberとして契約してもらうと最低限の給与は保障する代わりにある程度の活動はしてもらう。給与に関しては、それ以上は出来高制になるからよろしく」
「はああああああああいいいいいいいい!?」
会社員になったと思いきや、俺はVワールド1期生として、3人の同期と共にデビューすることになった。
な ん で こ う な っ た !
1人目は九坂かかえ。高校2年生の猪突猛進ガールで好奇心旺盛な女の子。新しいゲームなど色んな事にチャレンジしていく。
2人目は塔道あきり。同じく2年生1人目の九坂の手綱を握る人物であり、少し苦労人なところがある世話焼きな女の子。ゲームやアニメが好き。
3人目は霧江きりこ。同じく2年生のクールで天邪鬼な女の子。好きなゲームなどの話をしたいけど、性格的に出来ずにいる。
4人目は拓馬たろう。同じく2年生チャラい見た目だが誠実な男。ゲームは対戦系が好き。もちろんこの俺だ。
以上が俺達のキャラ設定。
アバターは既に用意されており、最低限の配信用デバイスは支給されるらしい。ただしパソコン自体は自前とのこと。
配信なんてしたことが無いし、更には2次元の体を動かして行うなんて未知数だが、試行錯誤しながら準備を行い、ついに同期との顔合わせ兼打ち合わせの日になった。
待ち合わせはワンダースペースの一室。
マネージャーとなる女性と共に部屋へ入る。そこには、容姿が俺よりも年下の女の子3人が居た。
「はじめましてーーー!」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
「よろしくお願いします……ええっと、2人は高校生?」
仲良く座っている2人組に話しかけた。
明らかに学生っぽい雰囲気なので驚いて聞いてしまったが、大丈夫だろうか?
「そうでーーーす!ちなみに3年生!」
「こら、むやみやたらに話さないの」
「でも、このお兄さんも一緒にVTuberになる仲間でしょ?なら大丈夫だよ」
「そうだけど……物事には順序があって……」
「あーーーそのぉ……なんかすまん。俺が不躾な質問をしたのが悪い。だから、彼女をあまり責めないでくれ」
「……分かりました」
ふぅ、危うく空気が悪くなりそうだった。
多分この2人が九坂かかえと塔道あきりだろう。キャラクターの紹介文そのままな2人だ。ということは、この少し離れたところに座っているのが霧江きりこ。
「まずは自己紹介から始めようか。俺は
「ほえー、年上だと思っていたけど当たってた!でも、社員なのにVTuberってことは社員さんとして扱えばいいんですか?」
「普通に同期のVTuberとして扱ってくれれば大丈夫だ」
「そっか!ならよろしくね、たろう!」
元気に名前を呼ぶ女の子。多分、九坂かかえだろう。
まさに天真爛漫で明るい子だな。
「コラッ!年上相手にタメ口はダメでしょ」
「いや、同期だし、何より設定は同じ学生という事だからタメ口でも構わない。それにVTuberとして同じ新参者、だから喋りやすい方で頼む」
「だってさ!」
「はぁ……えっと、小佐田さん?拓馬さん?」
「拓馬たろうの方で構わない。きっとそちらの方で呼ばれることが多くなるだろうから」
「じゃあ拓馬さん、あまりこの子甘やかさなくて良いですからね」
そう言ってため息を吐く塔道あきり。
「はぁ……自己紹介でしたよね。私は
「えへへぇ。私は佐々木ささえ、九坂かかえって名前のキャラクターでVTuberになります!」
世話の焼ける妹と世話を焼く姉みたいに仲が良い。
どちらも満更ではなさそうだから、これが2人の距離感なんだろう。
「私は
そう言ってそっぽを向く霧江きりこ。
「でも、私となるせちゃんが話している時ソワソワしながらこっちを気にしてたの知ってるよ?」
「なっっっ!」
「シィーーー!ささえ、それは言っちゃ駄目な事よ」
「んー、なんで?」
九坂かかえの言葉に顔を赤くする霧江きりこ。
どうやら、本当に天邪鬼な性格らしい。
「ゴホンッ。次は私の自己紹介をさせていただきますね」
霧江きりこが爆発すると思われた時、なかば存在を忘れられかけていたマネージャーの女性が口を開いた。
「私の名前は
「役職名そのまんまなんですか?」
俺は不思議に思い質問をした。
「はい。個人情報が何処で漏れるか分かりませんから、VTuber関係の場では役職名でお互いに呼び合っていただく方針です。これはみなさんを守るための処置なのでご協力をお願いします」
「なっなるほど、確かにVTuberが1番気にするのは身バレですからね」
よくVTuberの演者は、実は〇〇さんだった!みたいな記事がネットに多数出てくるから現代社会は侮れない。
「ちなみに、3人は配信経験とかはあるか?」
「ないよー」
「ないですね」
「……あったらなんなの?あると思うのなら、そう思っておけばいいじゃない」
霧江の反応は分かりづらいが、多分ないのかな?
まだ出会って初日だから判別がつかない。
「全員ないという事で話を進めるが、VTuberデビューする前に活動していた事を所謂前世と呼ばれており、そこから○○さんだったのでは?みたいに声や趣味などで判別されることがあるんだ」
「ほえぇ~すごい」
「まあ、その前世バレしたところで問題行動をしていない限りは大丈夫だし、そこからリアルの情報が洩れることはないだろうが用心するに越したことはない。マネージャーそうですよね」
ちょっと語り過ぎたと思い、マネージャーへ話を振る。
本来はこの人が話を進めるはずだよな。
「そうですね。拓馬さんの言う通りです。一応私どもがみなさんから経歴などを聞いた限りでは、そういった心配はなかったので安心してください。とりあえずは、初配信に向けてみなさんの配信スタイルやキャラクター性を決めていきましょう」
こうして俺達は、デビューに向けて準備を進めて行くが、その中で個人的に予想外のことがいくつか起こった。
まず第一に、周りの反応が意外とよかった。
界隈では注目度が高いVTuber。
そこに企業として新たな箱が出来るという事で話題になり、黒一点として発表された拓馬たろうオレ。最初は、周囲から見たらハーレムの様に見えて燃えるのではと不安だったが、そんなことはなく普通に受け入れられていた。
ツイッターのアカウントを作成して、デビュー前からツイートなどをして活動したら兄貴分の様な扱いになっていた。
既に2000人程のフォロワーとチャンネル登録者数で、初配信前にしては順調な滑り出しだ。同期達は俺よりも人数が多く、チャンネル登録者数も3000人程。
やっぱり可愛い女の子には敵わない。それでも、あまり離れている訳でもないから期待値が見て取れる。
次に、霧江きりこに意外と懐かれた。
あれから運営と同期同士でディスコードの交換を終えて相談事などで連絡が取りやすいようにしたのだが、フレンド登録したその日に向こうから連絡が来た。
霧江:たろうはどんなゲームするの
そんな何の変哲もないチャットから始まった。
拓馬:人気なヤツには手を出しているけど、やりこんでいるほどではないぞ
霧江:対戦ゲーとかもやるの?
拓馬:人並みには
霧江:マ〇カー8DXはもってる?
拓馬:あるぞ
霧江:なら通話しながらやろう
「うーーーん。分からん」
同じ箱に所属する仲間で同期だけど、ほぼ初対面に近い相手にここまでグイグイくるものなのだろうか。
本人の性格的にも真意が測りかねる。
「とりあえず了承しとくか」
こうして、俺は年下だけど同期の女子と遊ぶことになった。
そして、お互いの空き時間を合わせて、ディスコードで通話をしながらレート戦を一緒にやることになり、特に何かがある訳でもなくゲームを進める俺たち。
霧江『……あっ』
「やりぃ!金きのこで一気にゴーーール!」
霧江『それはズル……』
「これもゲームの仕様だからあきらめろ」
霧江『……ッチ』
「お前、今あからさまな舌打ちしたなぁ!?というか、こうしてゲームしていると結構普通なんだな」
霧江『まっまぁ……ね。あのさぁ…………』
何やら戸惑いがちな返事。
そこから続く言葉は、どうやら自分の今の性格をどうにかしたい、同期の九坂と塔道にどう接したらいいのか分からない、という相談だった。
たぶん、このゲームのお誘いも相談するための口実だったのだろう。
「今のままでもいいんじゃないか?運営も今の霧江だから採用したんだし」
霧江『ふーーーん……良いこと言うじゃん。まあ、拓馬がそう思うならそうなんじゃない?』
少し可愛げのない同期に、助言といって良いのか分からない程度の言葉だったが満足したようで、明るい調子で通話を終えた。そしたら更に他2人からも配信に関しての相談が来たりと少し忙しかった。
女子組3人は仲良くなれたようで、順風満帆なスタートを切れることになった。
初配信は大手に比べれば微々たるものだが、同時接続5000人以上が視聴。
その中で同期たちの相談事などに乗っていることが明らかになり、リスナーからVワールドの兄貴分的な立ち位置が定着しつつあった。
そして、ある程度配信を行いVTuberというものに慣れて来た俺たち。
マネージャー『さすが拓馬さん。我々が見込んだだけのことはありますね。この調子で頑張ってください』
現在、次回の配信をどうするか打ち合わせの為に、マネージャーさんとディスコードで通話を繋げている。
「ありがとうございます!」
人に褒められるというのは、いくつになっても良い物だ。素直な称賛はモチベーションが上がるよな!
もちろん打ち合わせなので、ただ褒めて終わりではない。
「それで今度の配信なのですが、Vワールド4人全員でコラボでゲームをやってもらいたく―――――」
Vワールドは基本的に強制は無く配信者側の裁量で任せられているが、たまにこの様なお願い事がある。なんせ企業所属なのだから当たり前、むしろ束縛が少ない方だと思う。
マネージャー、というか運営より出された遊びは人〇ゲームだった。
ルーレットを回してゴールを目指すアレ。ただし、内容は運営が用意した特殊なものになっており当日のお楽しみ。
まさか、これが俺のライバー人生の分岐点になるとは思いもしなかった。
《拓馬たろう/Vワールド》VTuber生ゲーム!?《Vワールドコラボ》
10,867人が視聴中
ついに始まったVワールド初の4人全員コラボ。放送チャンネルは俺のところ。
まだ始まって序盤だが、約半年の配信活動を経て固定ファンも付いて、下地のない俺達だがそこそこの人が観に来てくれている。
「今の所マス目のほとんどがクエッションマークで色による識別しかないから、どの数字が出てもドキドキするな」
俺のモーションに合わせ左上にあるキャラクターが動く。今回の画面構成は四角の角に俺達4人を配置。そして、全員のキャラクターがそのまま動くようになっている。
配信知識もあまりない俺がこの様なことが出来ているのは、今回は会社のスタジオから行っており、近くに座っているので横を向けばリアルな彼女たちが見える。
「どこ止まってもドキドキだよーーー!」
嬉しそうにも聞こえる叫び声をあげる九坂ささえ。
今まで出て来たマスは『熱中症をゆっくり言う』『告白セリフを言う』『好きな異性のタイプを言う』などエンタメ性に特化している物が多く、リスナーを沸かし俺たちを地獄に突き落としていく。
ゲームとしてはゴールした順番と所持金の多さでポイントが付き、獲得ポイントの最終合計で競い合うようだ。
ただアクシデントマスというのがあって、止まると強制的にそのイベントをこなさないといけなくなる。
霧江『もうちょっと〇生ゲームっぽい要素ないの……じゃないと今度は、あんたらが恥ずかしい思いするんじゃない……』
告白セリフのマスを引いて大ダメージを受けている霧江。
普段の彼女からは想像できない姿にリスナーと俺ら3人は色めきだった。
もちろん、俺が反応しすぎると危ない気がしてあまりリアクションはしなかったが、ギャップ萌えで少しドキドキしたことは口が裂けても言えない。
コメント:むしろ助かった
コメント:助かった
コメント:100年は寿命伸びた
コメント:ありがとう運営
「なんかコメントが盛り上がっているな……あとスタッフも親指を立てるな」
流石これを作った張本人たち。ほんとノリが良いスタッフたちだ。
「次はかかえの番だな。ルーレットを回してくれ」
名前呼びなのは、同期でこれから仲良くしていくのだからということで名前呼びにさせられた。他2人は相変わらず苗字呼び。
「よーーーし!えいやぁぁぁあああ!」
「そんな掛け声出しても意味無いわよ。あと隣で叫ばないで」
「チッチッチッ、あきりんは分かってないなー。こういうのは気合が大切なんだよ。ほら9が出た。これで一番前に出れたよ!」
コメント:さすがかかえちゃん
コメント:やる気が違いますよ、やる気が
コメント:でもその先は・・・
コメント:あっ
コメント:あっ
コメント:やったぜ!
画面にはルーレットによって9マス進む九阪のキャラ。
すると?マスに止まった。
「ギャーーー!なんでぇえええええ!」
これまでの経験により女の子が上げてはいけない声をあげる。
キャラが止まったことで隠れていた文字が映し出された。
【異性プレイヤーに告白して、OKされたら子供が生まれる】
「おいいいいいいいいいいい!!!」
運営なんてものを用意してるんだ!?
ただでさえ異性同士でガチ恋勢相手に炎上しやすい男女コラボ組み合わせだというのに、告白させるとかド真ん中剛速球ストレートで来るなんて。
ゲームの上で、子供が居ることによりプラスな補正が付くことがあるので
「ねえねえたろう。私と子作りしよう?子供はいっぱい欲しいな♪」
「お前ワザとだろう!なんでわざわざ酷い方で言った!?」
コメント:は?
コメント:は?
コメント:は?
コメント:たろう???
コメント:おい
コメント:これはギルティ
コメント:たろう・・・燃やすか
「おいスタッフ、これはヤバイだろ!変えてくれ、後生だから―――――」
「えぇぇぇぇ、たろうは私と子供を作りたくないの?」
「いや、そういう訳じゃなくてだな……ほら、告白って書いてあるし、もう少し言い方ってものが―――――」
「でも子作りだよね?ほら、作ろうよ」
「拓馬さん……」
「拓馬……」
コメント:たろう・・・
コメント:たろう・・・
コメント:たろう・・・(怒)
コメント:よく燃えそうな素材があるなぁ?
「違うんだ、落ち着こう。話し合えばわかるはずだ」
「ねえねえたろう。それで子作りしてくれるの?」
「だぁらっしゃい!OKだから、それ以上言わないの!」
「やったぁー!たろうとの赤ちゃんだぁ!」
コメント:まさかの既成事実
コメント:既に事後
コメント:もしもしポリスメン?
コメント:赤ちゃんが出来るのって速いんだなぁ()
「ええっと、次は私ですね。えいっ」
「塔道この騒ぎの中で普通に進めるのか!?」
「あっ……かかえと同じマスに」
「何してくれてんのぉ!?」
「まぁまぁ、とりあえず落ち着いて私とも子作りしましょう」
「い・い・か・たぁあああああ!?」
なんで塔道まで同じマスに止まってるんだ。実は裏でルーレット弄られてないか!?
「あっ私も……ふんっ、好きに生ませればいいじゃない」
「まるで俺が好きで子供を生ませているような言い方やめてくれないか!?」
いつの間にかルーレットを進めていた霧江も運命のイタズラにより同じマスに。
コメント:まさか同期3人に子供を産ませるとか、どこの屑野郎かな
コメント:これは裁判
コメント:訴訟待ったなし
コメント:これなんて言うエロゲー?
コメント:(炎)
くそ、なんていう展開なんだ……!
今の一連の流れでコメントが加速していく。
だがしかし、これはある意味美味しい展開とも言えるのでは?
女性ライバーより、男性ライバーは伸び難い。これを考えると
しかし、これを如何すれば良いのかなんて、VTuber歴半年程度の俺に分かる訳もない。
もう成るように成れ!
「分かった!みんなが望むだけ子供を作ってやる!!!」
コメント:潔いwww
コメント:漢だなwww
コメント:嫌いじゃないぜ、その漢気
コメント:でもギルティ
コメント:燃やすしかないな(炎)
コメント:せやな(炎)
コメント:(炎)たろう(炎)
コメント:(炎)たろう(炎)
コメント:(炎)(炎)たろう(炎)(炎)
コメント:(炎)たろう(炎)
「お前ら容赦ないな!?」
この配信は切り抜かれてTwitterなどでも反響を呼び、Vワールドと拓馬たろうの名前はさらに拡散されることとなり、(炎)たろう(炎)がトレンド入りしたというのはまた別の話。
そして後日マネージャーとの会話で―――――
「流石我々が目を掛けた人なだけありますね。よく人気に火を付けてくれました」
「俺自身にも火が付いたけどな!これでいいのか運営!?」
「違法な事や犯罪関係でなければ大丈夫です。今の時代多様性が求められますから」
「懐が大きすぎて泣いたよ!」
「それ程でもないですよ」
「小さい嫌みが通じない!?」
こうして、拓馬たろうオレを燃やすネタが定着した瞬間であった。