【完結】マナストーン珍道中   作:飛沫

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おもっくそアンジェラ→デュラン
デュランは人並に欲はあるけれど、好意に関しては正面切って「好き!」って言われないと気づかない程度には、鈍感であって欲しいです。
あと今回リースは出ません。


マイアにて、二日目

「ねぇ、デュラン。回復アイテム買いに行くのに、ついて来てよ」

 

 宿での朝食を済ませてから髪と服を整え、鏡での最終チェックで問題が無いことを確認すると、アンジェラはデュランに声をかけた。一方、声を掛けられたデュランはベッドから身体を起こすと「リースは? 一緒に行くんじゃないのか?」と訊ねてくる。

 

「リースなら旅に使えそうな道具があるかもって、別の店に行ったわ。私そういうのは詳しくないから、ついていっても邪魔になるだけだろうし」

 

「オレがついていかなきゃ駄目なくらい、買わないとか?」

 

「荷物持ちが欲しいわけじゃないわ。ここ、ナンパしてくる男が凄く多いじゃない? リースなら軽く手首を捻って追い返せるけれど、私はそういうの出来ないから追い払うとなると魔法を放つしかないのよ。流石に街中で魔法使うわけにはいかないから、デュランを連れていけば諦めて声をかけてこなくなるだろうって思って」

 

 真っ赤な嘘だ。ジャドにいた頃ならともかく今はクラスチェンジをしたので、しつこく食い下がってくる男なんて、持っている杖で数発叩けば退散させるくらいの力はある。いや、ジャドにいた頃だってベッドを間違えたデュランに渾身のビンタを食らわせて、地面に沈めているのだ。別に一人で買い物に行った所で、ナンパ男に対応できないことはない。ただ単に、デュランと一緒に買物デートがしたいだけなのだ。

 

「確かに。オレがついていけば、面倒事には巻き込まれないか」

 

 それらしい言い訳を聞いて、デュランも納得する。モンスターとの戦闘でアンジェラは「近接戦闘が苦手な女の子」の位置にいるので、そのイメージがあるのだろう。尤も「お前オレと同じレベルじゃねーか。問題無いだろ」と言われたところで、言いくるめる自信は十分あるが。

 

「分かった。着替えるからちょっと待っていてくれ」

 

「そうこなくっちゃ! じゃあ、外で待ってるわよ!」

 

 とりあえず了承は得られたので、今すぐにでもスキップしたい気持ちを抑えながら、アンジェラは一足先に宿に出ることにした。

 

*  *  *

 

 宿の前で待つこと数分。デュランがやってきた。買物だけなので鎧は纏っておらず、インナーとスボンのシンプルな格好だ。

 

「早速行きましょう♪」

 

 アンジェラはデュランの左側に行くと、彼の腕を取ってくっついた。自分の身体に押し当てるように腕を抱きこめば、渋い顔をしてこちらを見る。

 

「……くっつきすぎじゃねぇか?」

 

「ここまで見せつけなきゃ、ナンパ男はいなくならないのよ。可愛い女の子と歩けるんだから、文句言わない」

 

 そのまま引きずるようにして歩き始めれば、諦めたのかデュランも黙って歩き出す。

 時折、視線を上に向けてデュランの様子を伺えば、バツが悪そうな顔をしている。掴んでいる腕が胸に当たっているから、それを気にしているのだろう。

 

(んもぅ、デュランったら! 私がここまでサービスしてあげてるんだから、いい加減気がつきなさいよ)

 

 頬を膨らませて文句を言いながらも。

 

(でもそんな鈍い所も好き!)

 

 直ぐに好意的にとるので、割と楽んでいそうだ。

 

(あーあ。滝の洞窟で会った時は、嫌な奴! って思ってたのに。こんなにドキドキさせられるちゃうなんて反則よね)

 

 フゥ、と短い息を吐いてから、アンジェラはデュランと出会った時のことを思い返す。

 

*  *  *

 

 ガサツで気遣いの出来ない男。それが最初デュランに付けた評価だった。自分が王女だと教えても敬いもせず、アルテナから来たという事で紅蓮の魔導師の方に食いついたり「一緒にきてもいいけれど、修行の邪魔はすんなよ」とぶっきらぼうに言われたり。あの時はウェンデルについたらさっさと別れようと考えていたくらいだ。その後、光の司祭やフェアリーの話を聞いて、別れるよりはこのままついて行った方が効率がいいと解り、渋々だがもう少し我慢しようと自分に言い聞かせて。

 その時から、一人で旅をしていた時よりもずっと怪我が減っていた事に気づいてはいたのだが、二人になったから敵の攻撃が分散したのだろうと深く考えなかった。理由が判明したのは、それから少しした黄金街道でのこと。

 

「アンジェラ! 危ない!」

 

 リースの悲鳴に近い叫び声に顔を上げれば、斧を振りかぶったゴブリンが、飛びかかってきていた。この頃の自分は、とにかく念願の魔法が使えるのがうれしくて、ことあるごとに魔法を放っていたのだが、周りの状況も見ずに魔法を発動させるのはしょっちゅうだった。この時だってモンスターたちと少し距離をとっていればよかったのだが、それに気がついたのは戦闘が終わってからのこと。魔法が発動するまで動けないアンジェラは、せめて痛みには耐えようと固く目を瞑ると。

 

「おい、コッチだ!」

 

 デュランの声が聞こえると同時に、モンスターの呻く音がした。代わりに覚悟していた痛みはやってこない。そっと目を開けば、先程まで自分に照準を定めていたゴブリンが、怒りに燃える瞳でデュランの事を睨みつけている。ゴブリンの左腕に刺さっているダーツを見つけて、状況を把握した。デュランが、先程の戦闘で拾ったダーツを投げつけたのだろう。それで、モンスターは攻撃の矛先を変更したのだ。

 走るゴブリンを迎え撃つように剣を構えるデュラン。リースも助太刀するつもりなのか、そちらに駆け寄る。

 

「何よアイツ……。守ってやるなんて一言も言ってなかったクセに」

 

 でも、ちょっとカッコよかったかも。

 アンジェラ十九歳、初めてキュンときた瞬間である。

 

 それからは、もう少し周りを見てから魔法を唱えるように心掛けると、色々周りが見えてくるようになった。モンスターが誰かを狙っていれば注意を促し、無防備なモノがいれば指摘をするようにすれば、戦闘は随分と楽になる。その時にデュランの様子を観察していると、彼は率先してモンスターの注意を引きつけて戦っているようだった。

 

(何だかんだ言って、アイツ私達に気を遣ってくれていたんだ)

 

 分かってしまうと、自然と行動を目で追うようになっていく。そしてさり気なく庇われたり守られていく度に、アンジェラのデュランに対する好感度は上がっていった。やがて「悪くないかも」から「やだ、カッコイイ」にランクアップし、先日のクラスチェンジで完全にトドメをさされることになる。

 

*  *  *

 

「またのお越しを」

 

「良かった。魔法のクルミがいっぱいあって。これだけあれば、足りなくなるなんてことは絶対にないわね」

 

「てか回復アイテム少なすぎじゃないか? オレのヒールライト、まんまるドロップよりも回復量少ないんだが」

 

「何言ってるのよ。魔法はね、使わないと成長しないの。道具ばっかりに頼ってたら、いつまで経っても回復量は増えないわ。回復アイテムは緊急用と考えて、これからは積極的に魔法で回復させなさい」

 

「そういうもんか?」

 

「そういうもの。魔法使ってる私の言うこと信じなさいよ(だってそうでもしないと、デュランに回復魔法掛けてもらえないし)」

 

 根性論で魔法の回復量は上がらないのだが、何でも修行に結びつけるクセのあるデュランにはもっともらしく聞こえたようで、言いくるめる事はできたようだ。

 これで買物は終わりなのだが、すると当然。

 

「じゃ、もういいよな。ここまでくっつかれると歩きづらいんだよ」

 

「あっ」

 

 腕を振り払われた。感じていた体温がなくなり、寂しくなる。だけど文句は言えない。もう宿屋までは目と鼻の先だ。

 仕方がないとはいえ、やはり残念に思えてしまう。拗ねた顔でデュランを見つめると、ため息をつかれた。そして。

 

「ったく……これでいいだろ」

 

 腕をとると手首を掴まれた。初めてデュランから、握ってくれた腕。

 理解した瞬間、頭上から祝福の鐘が鳴り響く。嬉しい。交互にデュランと握られた手首を見ていると、視線がぶつかった。

 

(文句があるなら言えって顔している。だったらもうちょっと……我儘言っても……良いわよね?)

 

「ねぇ、デュラン」

 

「あ? 何だよ?」

 

「アンタ、妹がいるのよね? 妹と一緒に買物行くときも、こうやって手首握ってるの?」

 

 ちょっと意地悪く言ってみれば、デュランはアンジェラの顔を見る。その表情には面倒臭いという感情が思いっきり出ていたが、言いたいことは察してくれたようだ。

 

「イチイチうるさい奴だな。……これなら文句ないだろ?」

 

 今度はギュッと、手を握られる。

 

「んー、及第点って所かしら」

 

「どういう意味だよ」

 

「手の握り方にも色々あるのよ。まあいいわ、リースも戻ってきているかもしれないし、早く帰りましょ」

 

「ああ、そうだな」

 

(恋人繋ぎの発想は、流石にないか。見てなさいよ、あの時恋人繋ぎしておけば良かったって、後悔させてやるんだから!)

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