転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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しゅうちしん の こうげき

 PCの中で少女が深海棲艦を粉微塵に砕く。背中に仲間を庇い怨敵を打ち破るその姿に対して外から叩きつけられたコメントは、賞賛二割否定一割、ドン引き二割に草四割、ついでに解説その他がちょっと。動画の中の自分の凶行を目の当たりにして私は顔を覆った。

「チーズ蒸しパンになりたい」

 恥ずかしいとかそういうレベルじゃない。中学生だからセーフ? 中の私は前世じゃ成人だよ! 今すぐPCを破壊してしまいたい。飛鷹さんが真っ当に人類の守護者やってた直後に迫真のオールマイトってなんだよ。呼び方もオールマイトと吹雪と本名と全部混ざって三人居るみたいになってるし。つーかなんで本名バレてんだよ! 私なんかしたっけ!? したわ!! 世界記録出してたわ! もうやだネット怖い! せいしんをころさえぅ! おうちかえぅ!

「落ち着くのです吹雪、それはどちらかというと何もかも面倒になった時の台詞で、恥ずかしくなった時のじゃないのです」

 そういやこの人ヲタなんだっけ、と指の隙間から電教官の顔を見ると、こちらを心配しているような表情であり茶化している訳ではないようだった。どう慰めていいか電教官も対処に困っているのだろう。そりゃこんな阿呆みたいな状況どうしたらいいかなんてわからんわな。

 

 私たちは飛鷹さんを助けた後、生主達を引っ張って陸まで避難していた霰さんに追いつき、やって来た自衛隊員に飛鷹さんたちをお任せして訓練所に戻ってきた。飛鷹さんはほとんど怪我らしい怪我もしていなかったのだが、一応検査のために病院行き。民間人六名は……どうなるんだろう、自衛隊の人たちは淡々とした対応だったけど、私のチート感覚だと滅茶苦茶怒ってるようにも見えたんだが。

 戻ってこれた時にはまだ日が出ているくらいで、訓練生たちは響教官と雷教官指導の下で演習をしているらしかった。私たちはそれには合流せずに、とりあえず寮の教官達の部屋で、訓練との兼ね合いで繋がらないようにしていただけだったらしいネットワークに接続。私と暁教官長、電教官で揃って動画サイトに投稿されてしまった救出劇を視聴した。どうなってるのか気になり過ぎて訓練どころじゃなかったのである。結果、私と教官長は轟沈した。

「ふふふ……いいじゃない吹雪、あれが漫画の物まねだって、悪い事した訳じゃないんだから……」

 死んだ目で暁教官長がフォローを入れる。私なんて機密漏洩よ、と魂が抜け出るような声を喉から捻り出した。

「暁も不可抗力でわざとじゃないのですから、そんなに落ち込まなくてもいいと思うのです……致命的な事は言ってないですし」

「偶然って一文に四回も入ってたら故意だって言ってるようなものじゃない……」

 ついでに言えば、羅針盤の仕様とかも口走っている。そう考えると私などより遥かに不味い立場なのだろう。私は恥ずかしさとかで顔面から火を噴いて全身に廻り髪が燃え尽き焼けた骨が残る程度の致命傷で済むが、暁教官長の場合なんらかの罰則が付く可能性があるような気がする。なにせ私と教官長では立場が違う。私は未成年であり、そもそも自衛隊員ではなく別組織の国家公務員だし。名目上。暁教官長は完全に自衛官で成人、しかも教官長なのでこの訓練所の責任者である。降格くらいは覚悟しなければいけないのかもしれない。次の教官長は響かしらと遠い目で呟く暁教官長は、結局自衛隊の公式会見が始まるまでそのままだった。

 

 公式会見の生放送が終わると、暁教官長は正気を取り戻した。どうやら上層部はこの件については偶然で押し通すつもりらしいので、たぶん処分も最低限で済むっぽさを感じるし大丈夫だろう。逆に私は恥ずかしさが増していた。名指しで真似しないで下さいとか言われたよ! そりゃ真似しちゃ駄目だよ、だってあれ艤装関係ないもの! ただのチート能力だもの! 艤装無しでも足場あれば同じ事出来るもん私!! オリジナル吹雪さんに無性に謝りたい。

 それにしても私の適性値って最低でも一万は超えてるのか。雷撃とか威力おかしかったから納得ではあるんだけど、訓練生に適性値が伝えられないのはこれのせいもあるんだろうか。最低が150で最高だと10000を超えて来るってどっちにもいい影響がある気がしない。

 私の艤装ほど変な挙動をしてる人は他の訓練生の中に居ないので、たぶんこれも自称魔法使いの仕業なのだろうけど、一万越えはともかく千超えたりっていうのは私以外にどれくらいいるんだろうか。ここの駆逐艦の中だと一番怪しいのはやっぱり夕立で、次点で島風、だいぶ離れて漣や初雪が候補か。夕立は純粋に私除けば圧倒的に強いし、漣も安定して優秀。初雪は射撃特化だけどそこだけなら夕立より精度は上だ。島風は速いだけだけど速さが足りすぎてて夕立でも全く追いつけない。あの娘は通常航行だけなら私が本気出してもほぼ同速である。足まで使えば流石に私のが速いと思うけど。周りに合わせるために演習中はまともに強みを活かせていないんでちょっと不遇なんだよね島風。それでも連装砲ちゃん達は普通に付いてくるんで火力も悪くないし地味にレーダーやソナーが訓練生で上位の成績だったりするから本体も役に立ってない訳ではない。あれ、島風もしかして滅茶苦茶優秀……?

 しかし動画、削除してくれないのか……いや根絶は無理っていうのは分かるんだけどね? 正直そんなとこに人員回してらんねーよってのも分かるし、もう既に本名まで出回ってるから手遅れなのも分かる。でも親に見られたらって思うと死ぬほど恥ずかしい。っていうか、うちの親普通にネットする種族だからもう見てるか今日中に見ちゃうかだろうからもうどうしようもない。無事なのは伝わるから悪い事ばっかりじゃないけど、もう戦い終わったら独り立ちしようかな……給料貰えるんだし。いつ終わるかは知らんけど。

 そういえば本名バレって普通に考えて記録会のアレからだよな? 中学もバレてるのは当然として……自宅バレしてないよな……?

 

 教官達の部屋で久々にネットに触れさせて貰う。と言っても遊んでるわけではなくて、自分の事がどれくらい把握されているのか調べるのである。

 普段常駐していた掲示板群――変色海域出現以降の新興のサイトの中で最も栄えていて、某ちゃんねると同じな見慣れた形式を採用しているそこへと繋ぎ、艦娘系のスレからリンクを……辿るまでもなく伊吹雪ちゃん専用スレがあったわ糞が。しかもこれ艦娘としての私じゃなくて短距離走者としての私のスレだわ、場所も艦娘板じゃないし。エゴサした事無かったから知らなかったんだがこれのpart1立ったの掲示板設立と同日くらいっていう。こんなスレ削除してくれよと思うが、正直この掲示板の運営はそういうとこはほんとどうしようもないレベルの対応なので仕方ない。国もそんなとこに対応してる場合じゃないからやりたい放題である。私的にはだがそれがいいって感覚だったのは否定できない。

 このスレ、最初は私が生きてるかどうかとか記録や動画の真偽をゆっくりと話してたっぽいんだけど、現行近くのスレでは一気に加速して艦娘になってたとか生存確認とか記念真紀子とかの書き込みばかりになっていた。最近まで生きてるか死んでるかも把握できてなかったようなので、住所までは割れてなかったんだろうと思う。このスレでは。

 問題は艦娘系のスレの方である。覗いたら誕生日血液型成績まで容赦なく全部載ってた。というか自称知り合いがめっちゃ書き込んでた。誰だよ、私の男性事情まで書いた奴。

 それによると私は男に擦り寄って相手がその気になったら袖にしてまた別の男に擦り寄ってく毒婦らしい。振った件数も大体合ってるし、本当に知り合いの犯行だなこれ。オタクって事も書いてあるし。いやそこはオールマイトした時点で分かりきってる気がするが。

 横から覗いていた暁教官長は眉をひそめて酷い中傷ねと言っていたが、申し訳ない、それたぶん傍から見たらただの事実です。私にその気が一切無かったという事実が入ってないだけで。

 中学だと男子はともかく女子は陸上部の連中とハーレムの人達以外ほとんど話もしなかったレベルのコミュ力なので、女子からの印象は多分最悪だったのが私である。振った男子達の関係者と本人からは嫌われてるだろうし、小学校時代だけで二桁、中学でも一年で三人だったか振っているため候補者も多い。なので誰がやったかとかはさっぱり分からん。完全に無関係の奴がノっちゃっただけって可能性も普通にあるし。幸運だったのは書き方が酷すぎて信じてる奴の方が少なそうな事だろうか。ただの騙りか怪文書にしか見えないもんなこれ。嫌われてるっていうか恨まれてるような気がしてきた。

 教官長は消してもらうとかした方がいいんじゃないかと言うが、ここだけ消されたら信憑性が増しちゃうから放置でいいと思います。と言ったら、辛かったらちゃんと言いなさいよと心底心配そうに言われてしまった。良い人だなぁ、これで私がもっと凹んでたら完璧だった気がするが、残念ながらネットでは日常茶飯事なので私のメンタルへのダメージは軽微、小破もしてないくらいである。私やらかし動画二種類見せられる方がやむまである。

 とりあえず色々とリンクを辿ったりもしてみたが、伊吹の家の住所までは出ていなかった。でも中学がバレてる以上時間の問題という気がする。両親に迷惑掛からないといいけど……

 暁教官長と飛鷹さん、霰さんの事も調べたが、そちらは自衛隊員である以上の情報はまだ出回っていなかった。フェイスブックとかやってなくて良かったですね。

 

 その後、大本営の方から連絡があり、今回の事は口外しない事と、処分などはないという事が伝えられた。教官長はほっと胸をなでおろしていた。

 

 

 

 夕食を摂り、時間的にも訓練に合流は出来ないだろうから精神を休めなさい、という事で自室に戻された私はとりあえずゆっくりとシャワーを浴びながら羞恥の感情と格闘し、丁寧に体を拭きながら忸怩たる思いを組み技で締め落とし、さっと部屋着に着替えながら慙愧の念と砲撃戦を繰り広げた。一人になったとたん恥ずかしさの野郎、集団で襲い掛かってきやがる。

 ブリッジからの逆立ちからの一本指立て伏せで湧き上がる思いを外へ逃がそうと奮闘していると、ドアの開く音が聞こえ、複数の足音が玄関へと入ってきた。吹雪いるー? と声が聞こえて来たので地に足を付け、居るよーと言いながら自室から出ると、島風と初雪がこちらに心配気な視線を向けてきた。

「吹雪なんかあった? 風邪?」

 島風はこちらにトトトと駆け寄ってくると額に手を当て熱を測る。むっ、と呻ると一歩離れ、首を傾げながら言った。

「ちょっと熱い?」

「それは風呂上がりだからじゃないかな……」

 ついでに軽い運動もしていたが、体温が上がるほどの事はしていないので関係ないだろう。

 じゃあなんで? と聞いてくる島風の問に私が返せず窮していると、初雪も全身から心配しましたオーラを立ち昇らせながらこちらをじぃっと見つめてきた。

「吹雪……大丈夫?」

「うん、まぁ……大丈夫だよ。体に異常とかじゃないから明日には復帰できると思う」

 とりあえず風呂と着替えを済ませた方が良いんじゃないかと言うと、二人とも素直に風呂場に消えていった。……いや待て二人で入る気かお前ら。

 

 何故か私の服を華麗に着こなす島風と、普通に自分の楽な服装になった初雪にテーブルに着席させられ事情聴取される。しかし私は口止めされてる身なので何があったかを話す訳にはいかない。ちょっと熱があった事にでもした方が良かったとちょっと思うが、心配もさせたくないしどうしたものか。

「体調不良じゃない?」

「ないです」

「精神的な不調でもない?」

「ないです」

 二人が思いつくことを適当に並べ立て、それに私が返答する。少々下世話な質問も飛び交ったがまぁ女子しか居ないから大丈夫かな。

「艤装が壊れちゃったとか?」

「ないです」

「秘密の任務とかだったりもしない?」

「……ないです」

 そっか分かったと二人は勝手に納得した。ちょっと自分の頭の回転の遅さにびっくりしたが、まぁ、嘘は一つも吐いてないしオールマイトした事も言っていないから大丈夫だな、あれ任務じゃなくて偶然だし。

 

 尋問が終わり、一息入れようと冷蔵庫に常備された伊良湖さん特製のお茶を注いでいると、誰かがチャイムを鳴らしてごめんくださいと訪ねて来た。何か礼儀正しいなと思いながら玄関を開けると、漣に肩をがっちりとホールドされた状態の曙と目が合った。

「あ、吹雪……こんばんは」

「こんばんわー……漣は何やってんの?」

 挨拶もそこそこに曙を正面に固定している漣を覗き込む。漣はよくぞ聞いてくれたとばかりに破顔した。

「いやー、ぼのたんがチャイム押すかどうか延々悩んでたもんだからついつい」

「もう押したんだからいいでしょ、さっさと離しなさいよ!」

 えへへ、と笑う漣に怒る曙、とりあえず玄関で騒がれるのもなんなので中に入ってもらう事にした。

 

「それで、曙はどうしたの?」

 まぁ心配して来てくれたのだろうとは思うのだが、一応聞いておく。曙はちょっとだけ焦ったような表情を見せた後、ノートを取り出して渡してきた。

「これ、今日の講義のノート。出てなかったでしょ? ……どうせ初雪も島風もまともにメモとってないだろうなって思って」

「ああ、完全に忘れてた! ありがとう、すごく助かる」

 すっかり頭から抜けていた事へのフォローに心から感謝が湧いてくる。島風と初雪は素知らぬ振りをしていたが、お前ら何も言わないのは図星だからであろうそうであろう?

 

 ノートをめくりながら今日の講義の事を聞いていくと、今日は本州周辺の海域がどうなっているかという話をしたらしかった。

 今現在、変色海域から通常の青い海へと戻せているのは大体海岸線沿いに五割程度で、北海道に面した青森や近畿地方以西は全くの手つかず、ここ最近では能登半島辺りで精鋭部隊が深海棲艦と陣取り合戦をしていたらしかった。多分楠木提督がここに来る前か後のどっちかがそこだったんだろうなと思う。

 深海棲艦は海岸に沿って攻めて来るとは限らず、それこそ神奈川辺りに突然変色海域が発生する事も有り得るらしい。そのため精鋭部隊の人達が丸一日休めるという事はほとんどなく、給糧艦の回復能力が無かったら過労死待ったなしの状況だったらしい。なお私たちはその長門さんをコラの素材にして遊んでいました。私がされたとしても文句は言えない……

 そんな状況を打破するべく招集されたのが私達であり、求められるのは兎にも角にも変色海域の拡大阻止と物資調達。他の島々、特に敵性体が多く確認されている北海道や四国、九州を取り戻すのはもっと数が揃ってから……という話であるらしかった。適性検査自体は第二次第三次と順次実施される予定なのだが、現状だと資材が足りないのだそうな。招集が発令されてから私たちの適性検査まではさほど間が無かったように感じたが、それは可決前から準備を行っていたからなんだろうな。手回し手回し。

 そして私達の配属先なのだが、どうも状況に応じて艦隊ごと異動する事が有り得るらしく、基本的には提督単位で扱われるらしかった。たとえば最初は横須賀に配属になったとしても、提督に呉への異動命令が出れば私達も全員それに付いていくことになるんだとか。もちろん個別の異動命令もあるようだけど。

 それ以外にも重要な作戦の時には選抜された艦娘達が提督を置いて出張する事もあり、割とフレキシブルというか詳細に決まってないだろ感を醸し出していた。規則規則で柔軟性がないのとどっちがいいのかは私には分からん。

 ちなみにであるが、提督として活動するのは楠木提督を除いて9名。私たちはその9人にそれぞれ振り分けられるらしい。ただし、均等ではなく、任される場所の重要性に応じて多少人数に変動があるのだとか。

 

「まぁ、あんたの配属先は最重要区域でしょうね」

 曙がふぅと息を吐きだしながら、私を見た。周りで遊んでいた三人もそらそうよと彼女の言葉に同意する。目の合った曙は羨まし気というか恨めし気というか、なんとも複雑な表情をしていた。

「曙は……」

 なんで戦いたいの? と聞こうとして止めた。どうにも踏み込んでいい事なのか分からないし、そもそも五人も居る部屋で始める話じゃないだろう。

「……何よ?」

「うん……今日はありがとう。その、心配してくれて」

「はぁ!?」

 誤魔化すために礼を言った私に、曙はぎょっとした声を上げて慌てたように否定を始めた。

「別に、心配して来たわけじゃないわよ!? ただ同室の初雪はどう見てもやる気ないし絶対板書書き写してないだろうからノート見せてあげないと、今日なんて結構重要な話だった訳だし、明日になってからじゃこっちが内容思い出すのも大変でしょ。それに普段みんな気にしてないけどあんた年少組じゃない、なのに一人だけで複数の相手させられてるし、そんなのが突然来なくなったから気になっただけ。何かあったのかなとは思ったけど普通に出て来るし体調が悪いとかじゃないみたいだから普通に勉強させちゃったけど怪我もしてないみたいだしほら心配する要素自体無いでしょ。そもそもチャイム押したの私じゃなくて漣よ、私はそんなに親しくないのに押しかけたら悪いかもと思って帰ろうとしてたくらいよ!?」

「ぼのたん、もうそれ心配したとしか言ってない……」

 初雪が割り込んで突っ込みを入れた。その言葉に顔を真っ赤にして違うわよ! と叫び、曙は初雪にさらなる否定を叩きつける。その光景をにやにやと笑いながら見ていた漣はススっとこちらに近づいて来ると、私の耳元で大きく囁いた。

「うちの姉、かわいいっしょ?」

「聞こえてるわよ漣!!」

 そりゃ聞かせたんだろうからなぁ、と思いながらノートを閉じ、騒ぎの裏で鳴っていたチャイムに応答するために玄関に出る。玄関口にはやほ~と秋雲先生が来ていたのでどうぞと部屋へ上げると、中では丁度、島風が喋り出すところだった。

「姉って言えば、秋雲ってなんで夕雲の事姉さんって呼んでるのか誰か知ってる? 秋雲って陽炎型だよね?」

 お前なんでこのタイミングでそれ言ったよ、つーか知ってたのかお前。後ろでばさりと何かが落ちるような音が聞こえ振り向けば、秋雲先生の足元には支給されたノートがあり、曙と同じ理由で来てくれたんだなと察した。彼女の場合は漫画のネタという意味合いもあるだろうが、最早それどころでは無いようで、ふらふらと倒れるように着席すると天井を仰ぎ見ながら、自分だけやけに部屋が離れてるなとは思ってたんだとか呟き始めた。

 最終的に秋雲先生が正気を取り戻すまでには小一時間ほどを要した。

 

 

 

 翌日には平静さを取り戻したというか、昨日の騒ぎで色々吹き飛んで行ったというか、もうやっちゃったものは仕方ないと開き直った私は訓練を再開した。教官達は貫通能力の制御とかの心配をしていたがそこは問題ない。そもそもチート能力さんに精神的動揺による操作ミスは一切ないのである。

 動画の事は隠しようがないのでいつかはみんな見る事になるのだろうが、それはもうその時に対応を考えようと思考を停止させた。恥ずかしさがぶり返して来たら困るからね。そう思いながら訓練生を引きつけて、この日から加わったイクさんに処理してもらう。潜水艦ってやっぱ怖いわ。

 さらにその翌日には飛鷹さんも復帰した。飛鷹さんは体に異常はなかったらしく、体調的には前日にもう復帰してもいいくらいだったらしいのだが、昨日は上層部からお叱りを受けて始末書を書いたりしていたらしい。逃げろって言われてるのに戦ったんだからだいぶ温情のある、というか激甘な処分である。減俸とかはあるらしいけど。一日休んだおかげか調子も良さそうだったし、心配は無さそうで本当に良かった。

 

 私以外の訓練生も一人側で多対一の訓練をやったその日の講義の後、訓練生全員は電教官達から簡単な枠の印刷された紙を配布された。

「今配った紙には皆さんの配属先に関しての希望を書いて欲しいのです」

「参考程度のものだから効果には期待しないで欲しいんだけど、こうして欲しいって事があったら思った通りに書いてもらっていいわ」

 皆がざわざわと騒ぎ出す。誰もそんなもの、参考程度にも聞いてもらえると思っていなかったのである。でもって私への熱い視線がいくつか注がれる。ちらりとこっちを見たのが曙や山雲、手元とこっちを交互に見る島風、私の様子を観察している秋雲先生、そしてこっちをガン見する初雪。こいつ、配属先でも甘える気か……!?

 とりあえず視線はスルーして自分の手元に集中する事にする。と言っても、特に考えるような事もない。最前線希望、とだけ書いて提出する事にした。私の手元を見て初雪が悩み始めたが、結局お姉ちゃんと一緒がいいですと書いて出すことにしたようだった。それじゃ伝わらなくないですかね……?

 

 

 

 

 

 四人の教官が寮の一室、暁と響の使用している部屋で訓練生たちの評価を行っていた。訓練期間も残り数日となり、よほどの事がない限り今回の評価を基に配属先が決定される事になるため、普段以上に慎重に検討を重ねながら成績を付けていく。提出させた希望も必要ならばそこに書き加えられるが、どの程度の効果があるのかは教官達にも分からなかった。

「やっぱり同室の子と一緒になりたがる子が多いわね」

「それはそうだろうね、どうしても気が合わないって組み合わせも無かったようだし」

「殴り合いが始まった時はどうなるかと思ったけど、予想以上にみんな仲良いものねぇ」

 訓練開始日から三週間以上が経ち、各部屋の艦娘達はそれぞれの形で友誼を結び、中には昔からの友人であるかのように見えるほどの者たちも生まれていた。もちろん、それほど仲の良くない組み合わせもあったが。

「同室以外だと、やっぱり夕雲が強いのです。同型艦からの支持率は圧倒的、なのです」

「意外だったのは吹雪かしら。案外人気ないのよね」

「配属先が激戦区で確定だからじゃないかな、それは」 

 成程、と雷は納得した。確かに彼女の配属先は間違いなく楽な場所ではない。同じ場所に配属されたら大変だろう。同じ提督に預けられたとしても、同時に出撃するとは限らない訳だし。

「当人の希望もこうだしね……」

「流石というかなんというか……」

 最前線希望とだけ書かれたそれは、自信過剰でもなんでもなく、そこへ行くべきという使命感か義務感の産物だろう。書かなくても間違いなくそうなるだろうというのが教官達の共通認識ではあるが。

 吹雪の名前を挙げているのは漣と曙、それとたぶん初雪。漣は吹雪以外にも趣味の合う娘や仲のいい娘全てを挙げており、数が十を超えるため書かなくても一人くらいは一緒になりそうだ。初雪は分かりにくいが彼女から見て姉に該当するのが吹雪しか居ないのでおそらくそうだと思われる。

「これは激戦区に行きたいって意味よね」

 雷が曙の用紙を指して言った。曙は人一倍深海棲艦への敵意が強い。訓練中は特別仲が良さそうではなかった事もあり、吹雪の配属先なら多くの敵と戦えると踏んでの希望だろうと思われたのだ。

「経歴を考えれば仕方ないのかもしれないですけど、少し心配なのです……」

 曙は自主的な練習が許される日には、毎回時間いっぱいまで体を使う娘だった。自爆紛いの戦法も併せて、己の身を顧みない傾向があると思われるのだ。

「本人も言っていたけど、死にたがっている訳ではないよ。むしろ生きて、出来るだけ多く斃してやろうってタイプだね。指導には従うし、ちゃんと指揮する人間が居れば問題無いと思う」

 曙と一番関わりの深かった響が言う。彼女からしたら、曙はむしろ素直ないい子じゃないだろうかという評価だった。敵への殺意はかなりあるけれども。

「来歴で言うのなら、彼女の方が心配かな」

 響が指したのは夕雲の希望用紙だった。そこには簡潔に、四国への作戦の際には参加させて欲しいとの旨だけが書かれていた。

「夕雲は……そうなるわよね」

「なのです……」

「書類を届けた時にもそう言ってたらしいものね……」

 場の雰囲気が暗くなる。大規模な作戦の際には優秀な艦娘が選抜される予定になっている。そして夕雲は撃ち合いこそ得意でないものの、それ以外の能力は訓練所でトップクラスである。順当に行けば声がかかるはずだ。その時にいつも通りに戦えるのなら問題ないのだが。

 暫く粛々と評価を付けていくと、突然チャイムが軽快な音を鳴らした。部屋の主である暁が応対に向かうと、ドアの外には私服の吹雪が立っていた。吹雪は年の割には落ち着いて見えるが、数日前にあんな事があったばかりである。何か不安や苦しい事でもあったかと案じたが、形の良い口から響く調子はどうにも軽く、そういった話ではないようだった。

 

 

 

 

 

「はぁ、妖精さんが……ああ、それで殴ってたのね」

「はい、動けなくなっていたので他にし様もなく」

「そういえば以前の演習の時にも気分が悪そうな娘が居たね」

「水を噴いてる子も居たのです……けどそれは別件なのです?」

「妖精さんも生き物って事かしら」

 教官長の部屋に発覚した弱点の事を相談に行ったら教官四人に囲まれた件について。四人とも同じ困った顔で眉を寄せ、頭を捻ってくれている。そうしてると本当に姉妹みたいに見えるなぁ、適性って性格的な部分の影響もあるんだろうか。

「うーん、そういう事例は聞いた事がないわね……」

 皆は? と問う暁教官長に三人とも首を横に振った。

「使わない……では根本的な解決にならないか」

「妖精さんに耐えられるように訓練してもらうとか?」

「あー、それはちょっと相談してみたんですが……」

 一応艤装の妖精さん達とも解決策を話し合ってはみたのだ、耐えられるように訓練するとかそういうのに向いた妖精さんとか居ないのかと。だが返ってきた答えはどっちもNOで、訓練がどうとか適性がどうとかそういう問題ではなく、物理ダメージ無効じゃなかったら死んでるようなシェイクっぷりはたとえ妖精さんでもどうしようもないらしかった。

 あれは無理よね、と苦渋の表情をしながら暁教官長が呟いた。どうやら腕の中でも苦しかったらしい。悪い事をしたなぁ。

「一回だけなら問題は出なかったのですよね?」

「昨日一昨日と演習終わりに試してみたんですが、連続三回目あたりから艤装の運用に支障が出始めるみたいです」

 五回目を過ぎると照準が定まらなくなり、十回もやればほとんどがダウンする。唯一根性で残った娘も手足がガクガクであった。よく嫌がりもせずに実験に付き合ってくれたもんである。

「……やはり使わないのが一番いいのでは?」

「でも緊急時にあれはとても有用だと思うのです」

 教官達もいい案は浮かばないようで、とりあえず上に報告をして、向こうでも解決策を探ってもらおうという事になった。

「後はそうね……集合体の中の吹雪に聞きに行くのはどうかしら、私達よりは何か分かるかもしれないわ」

 オリジナルの艦娘と再接触をして何らかのアドバイスを受ける事はそれほど珍しい事ではないし、吹雪の事なのだから吹雪に聞くのが一番でしょう、と暁教官長は言う。

 工廠へ行くなら鍵開けるわよ、と言ってくれたので、その申し出に有難く乗らせてもらう事にした。でも私再接触成功した事無いんだよなぁ。

 

 工廠では私の破壊した艤装の修理が行われていた。妖精さん達がせわしなく資材を運び、図面を見て指示を出し、溶接を行い、夜食のラーメンを啜り、クレーンでターザンし、ねこのようなものと戯れていた。やっぱ半分くらい働いてなくないですかね?

 私の艤装は特に傷ついていないため、片付けた時のまま置いてあった。同行した教官長に断って、艤装に触れる。

 目を閉じ、あの時に見た駆逐艦吹雪に乗り込むイメージで艤装に集中すると、あっさりと私の精神は吸い込まれていった。

 

 

 

 視界が開けると、やはりそこは前にも見た朝焼けの大海で、私は既に船上に立っていた。どうやら船首の辺りに居るようで、振り向けば砲台や艦橋が見える。

 しかし甲板に吹雪さんの姿はなく、代わりに机が一台置いてあった。小学校や中学校で使うようなそれの上には、何十枚かの冊子が納まった木のケースが置いてあり、その横にはご自由にお取りくださいと書かれた紙の筒が立っていた。

 不審に思いながらも近寄って、冊子を一枚手に取り確認する。表紙に書いてあるタイトルは『艤装の使い方』だった。

 

 

 

 はっと現実に引き戻される。

 いや待て、戻されちゃったけどいいのかこれ、入れたけど会う事も出来なかったぞ。冊子はなに、私以外の吹雪の適性者に対する配慮か何か? これ私のせい? 私のせいかな!? 私のせいだよね畜生!!

 つーか吹雪さん何やってんの!? 会いたくもないって事ですか!? 着信拒否とどっちがいいのか分かんないレベルなんですけど!!

 頭を抱えた私に、教官長から心配気な声がかかる。大丈夫ですと返し、会えなかったという事実だけ伝えるとちょっと意外そうな顔をしていた。

 とりあえず入れる事はわかったので、今度会えたらちゃんと謝っておこうと思う。

 何を謝ったらいいのかもよく分からないんだけどね!!!

 

 

 




悪い印象を持たれるとあれなので一応書いておきますと、吹雪さんは嫌がらせとかでこんな事してるわけではありません。
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