転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

12 / 92
配属先と仲間たち

 脳内でオリジナル吹雪さんの所から貰って来た冊子を読み返す。九九の暗記でもしたかのように全文を完璧に諳んじられるそれは、何度読んでも訓練初日に教えてもらった――もとい、脳内に書き込まれた艤装の操作方法と寸分違わぬ内容だった。私は既に感覚を得ていたので違いは分からないのだが、おそらくはこれを持ち帰れば艤装の操作が出来るようになる、という代物なのだろうと思われる。集合体さんはどうしても人の頭の中を弄りたいらしい。怖い。

 たぶん、これは今後現れるであろう私以外の吹雪の適性者に向けられたものなんだろう。私が持っててもまるで意味が無いものだ。そうなるとオリジナル吹雪さん、人前に出るのも嫌になっちゃったんだろうか。私みたいなチート転生者のせいで他の娘さんたちがオリジナル艦娘と交流できる機会を奪われるというのは、なんというか。とてもつらい。

 

 そんな事を考えながらぼーっと神隠しな銭湯のアニメを眺めている本日は、訓練最終日前日の夜。明日は午前中だけ訓練して、午後には配属先の通知がなされ、明後日になれば鎮守府へと我々は出荷される手はずである。家に帰ったりは出来ないらしい。まぁそんな事やったら絶対逃げる奴出るから仕方ないんだろうけど。どうも戦わせると戦うけど機会があれば逃げ出したそうな娘は少数ながら居て、そりゃ元々一般人なんだから当たり前なのだけれど、本当にやって行けるのか心配になる。海に出れば不思議とみんな頑張るんだけどねぇ。

 今現在部屋に居るのは私と初雪と島風のみ。初雪は毎度のマッサージを終え、寮に入った当初と比べればだいぶ筋肉の付いた足を揃えて漣から借りたPCで遊んでいる。持ち主の漣本人は今現在、最終日くらいは私を倒してやろうと意気込んだ連中と作戦会議に勤しんでいるらしい。弱点とか話し合ってるんだろうか。

 しばらく初雪の建設する豆腐ハウスに装飾が要るか否かを議論していると、おじゃましゃーすと漣が入ってきた。PCを引き取りに来たらしい。なかなか手放そうとしない初雪に手を焼く漣に島風が会議の結果を問うと、漣は満面の笑みで答えた。

「明日卒業パーティーする事になったんでヨロ!」

 作戦会議は?

 

 

 

 訓練最終日、本日はそもそも対私の訓練は行われなかった。やった事は本当に基本中の基本、駆逐艦として他の艦種をサポートする訓練である。

 勿論今までもその手の訓練がなかったわけではないのだが、最終日にもそれを持ってきた理由は簡単で、火力で劣る我々駆逐艦が大型相手に拘って他が疎かになっては味方全てが困る事になるからだそうな。やっぱり潜水艦は危険が危ないらしい。

 なおナチュラルに私が大型扱いされた事に関しては誰も突っ込まなかった。

 

 最後に、私の提督の力を使って全員に無効化貫通能力を扱う練習をする事になった。これに関しては別段何の問題もなく、全員普通に艤装に力を乗せて扱う事が出来たようだ。一番の収穫は私の最大供給人数が判明した事だろう。

 私の一度に扱える艦娘の数は24名。つまり艦隊4×6人である。脳内編成画面が艦これ風なのは伊達ではなかったらしい。ちなみにこの人数、提督の中では現状最下位らしい。ちょっと意外。

 後に知った話だが、一位は提提督だった。手当たり次第に供給しても底が見えなかったそうな。流石すぎるわあやつ。

 

 

 

 最後の訓練を終え、訓練所最後の昼食を摂り終わると、その場で明日までの予定に関して伝えられる。今日の午後は荷物をまとめたりといった退居の準備が終われば後は自由。明日は朝食を食べたらすぐに鎮守府に向けて出発になるとの事だった。

 そして全員に一枚の同じ紙と別々の封筒が手渡された。配属先の一覧表と、給与明細である。そう、我々は訓練生の時点でもう給料が発生しているのである。幾ら位貰えるのかちょっと気になるが、ともかくまずは配属先だ。

 

 私の配属先は宮里艦隊、自衛隊最初の提督である宮里提督の所だろう。一緒に配属されるのは、私こと吹雪、深雪、叢雲、曙、初春、山雲、秋雲先生、夕雲さんの八名。場所は――書いてないか。機密情報って事かね?

 他の配属先を眺めると、夕立や漣、初雪や島風は全員別々の鎮守府に送られるようだった。たぶん戦闘力上位九名は順々に割り振られてるなこれ、夕雲さんが私と一緒なのはたぶん撃ち合いはそれほどでもないからだろう。それ以外はよく分からん。ただ、宮里艦隊行になった人間の中に明らかに弱い娘は居ない。人数も多めだし間違いなく激戦区送りですね、分かります。

 私はコミュ力高めではないので秋雲先生が一緒なのが割と心強い。他にも深雪は本人の性格なのか割と気安いし、叢雲や曙は心根が優しい。山雲はそもそも当たりが柔らかいし、夕雲さんは実はさほど話した事がないけど夕雲さんだから大丈夫だろう。初春は……秋雲先生のおかげで降霊術の印象しかないんだけど、たぶん大丈夫、うん。

 

 配属表を見ている私の横で初雪がぐでんととろけてテーブルに溢れ出した。どんよりとしたオーラを全身から垂れ流し、上半身を前に倒して、目に涙を浮かべこちらに横向きに顔を向けている。

「お姉ちゃんと……別のところになっちゃった……」

 涙目でこちらを見つめる初雪は、もう何もかも希望が無いというようにだらんと両の手を机上に放り出し、明細の入った封筒を放った。

「成績順だろこれ? しょーがねーって」

 笑いながら声をかけて来た深雪の声にはっと気が付いて、初雪はもう一度表を覗き込む。その数秒後、顔を伏せて声を震わせながら嘆いた。

「頑張らなければ良かった……!!」

「それだと戦いで死ぬわよ」

 床に落ちた封筒を拾い上げながら、叢雲が呆れた声を出した。初雪の頭部に封筒を叩きつけると、私の方に声をかけてくる。

「配属先、一緒になったわね。これからもよろしく」

 こちらこそよろしく、と返した私と深雪、叢雲の顔を順繰りに見て、初雪は怨嗟の声を上げた。

「ずるい……深雪、艦隊換わって……」

「いや流石に無理だろー」

 無理っすよね? と深雪が教官に確認を取るも、ムリダナと一刀両断にされ、ほらなと初雪に苦笑いを向ける。初雪はまたテーブルに突っ伏した。

「今夜はヤケ酒してやる……」

「いや、未成年が飲んじゃ駄目だよ」

 私の突っ込みに初雪はこちらに向き直ると声を上げた。

「え?」

「え?」

 初雪の疑問の声に私も疑問の声を返す。

「え?」

「え?」

 一瞬置いて、深雪と叢雲も声を上げる。

「え?」

「え?」

「え?」

 聞こえていたらしく、周囲の娘達も似たような声を上げた。訓練所で初めて初雪以外の吹雪型の心が一つになった瞬間であった。

 初雪さん、あなたお幾つでいらっしゃる?

 

 ちなみに初雪は提艦隊行である。あ奴は女性関係以外は結構頼りになるのでそっちに甘えたらどうだろう。

 

 

 

 部屋に戻り、持ち帰ったレンジでチンされたチーズのようになっている初雪をリビングに転がして、自室で給料明細を開く。中に記された金額は私の前世の給料を遥かに超えていく金額であり、こんな世の中で金の価値がどうなるか分かったもんじゃないとはいえ、未成年に渡して大丈夫なのかと心配になってくる。

 まぁそれはそれとして、これなら配属先でもPC買えるかな。最近はお高いから良いのは無理でもネットに繋ぐのに不自由しない程度の奴なら普通に行けそうだ。問題は配属先にネット環境があるのかどうなのかか。

 気分を明るくしながら部屋の私物を片付ける。と言っても、私の私物はさほど多くない。少しずつ整理していた事もあり、一時間もすれば部屋はすっかり片付いてしまった。最後に残ったレ級なりきりセットをどうしようかと少し悩んだが、まぁ持って行っても大丈夫だろう。一応思い出の品だし捨てたくはないのだ。掃除とかは私達の退去後にしっかりやるとの事で、あまり気にしなくてもよいらしい。パーティーは夕食の時らしいので暇になってしまった。

 リビングに戻ると初雪がのろのろとテレビやAV機器を片付け始めていたので、一緒になってケーブルを取り外す。緩衝材と一緒にBD/DVDプレイヤーを箱に詰め込んでいると、やっほーとチャイムを鳴らす文化を忘却して久しい島風が入室してきた。片付けは? と聞くと、既に終わったとドヤられた。残念だったな、私も終わってるぞ。

 

 三人でリビングの片付けを終え、初雪の部屋もやってしまおうという流れになり和室に移動する。布団は毎日畳ませていたため何ともないが、ティッシュとか爪切りとかのちょっとした日用品が散乱気味だ。それらを片付け荷物をまとめさせていると、初雪の荷物の中にブランデーらしきボトルを発見した。本当に持ってたのかと思いながら取り出してみると、たぶんそれなりにいい奴じゃないかと思われる未開封品だった。荷物の中にほっぽってあったけど大丈夫なんだろうか。

 詳しくないので初雪に保管とかこれでいいのかと聞いてみたが、初雪も祖父から貰っただけでよく分からないらしい。早く飲んじゃった方がいいんじゃないのと島風は言うが、全部一気に飲むのは止めようね。

 

 

 

 普段と同じ食堂で催されたパーティーの料理はやたら豪華だった。どうも伊良湖さんwith妖精さん達が目いっぱい頑張ってくれたらしい。バイキング形式で、立ち食いしてもいいし座ってもいい。伊良湖さんは作るのに手いっぱいだったようで、配膳は漣を筆頭に朧や曙なんかが手伝っていた。綾波型主導だったっぽいなこのパーティー。飾り付けも小道具が無いなりにしっかりやっていて雰囲気も出ている。

 食事が始まると各々仲のいい娘達と集まって、互いに励まし合ったり別れを惜しんだり、どっちが戦果を挙げるか競い合おうと約束したり、それぞれの形で楽しんでいるようだった。

 私はと言えばいつも通りというかなんというか、本当に飲み始めた初雪さんと、ちょっと飲んでみたそうな島風と、行儀よくお座りする連装砲ちゃんたちとテーブルを囲んでいる。島風、お前は飲んじゃ駄目だぞ。

 途中、いろいろな所を飛び回っている漣がここにも顔を出したり、山風が逃げたりしてごめんなさいと謝って逃げたり、何人も連装砲ちゃん達にお別れを言いに来たり、通り掛かった響教官が初雪の酒に興味を示して暁教官長に曳航されて行ったりしたが、概ね平和だった。

 しばらく時間が過ぎ、皆もお腹が膨れてきて人気の食べ物も品切れになったタイミングで、漣が全体に号令をかけた。曰く、配属先が一緒の人達とも交流して行こうとの事。じゃあ行ってくるねーと島風はちゃっちゃと移動を始めたが、初雪は動こうとしなかったので提艦隊の集まっている所へ持って行った。

 

 宮里艦隊の集まりへ向かうと、既に私以外は揃っていて、お疲れさまと夕雲さんが労ってくれた。嘘みたいだろ、あんまり初雪と歳変わらないんだぜこの人……

 深雪、叢雲、曙、初春、山雲、秋雲、夕雲、全員へよろしくと一通り挨拶を済ませると、深雪が笑いながら言った。

「どんな奴と一緒になるかと思ってたけど、吹雪と一緒なら安心だな!」

 滅茶苦茶強いし、と明るい声を上げる。それに首を振って答えたのは曙である。

「あんたね、気楽過ぎよ。吹雪が居るって事は私たちが行くのは絶対敵の多い所よ」

「それに吹雪を私達に合わせると思う? 吹雪は戦闘部隊で私たちは資源収集の護衛って事も有り得るのよ」

 叢雲の援護射撃と合わさった、当たりキツめな二人の言葉に、深雪はたじろいだ。

「でもー上の人達は私達を選んだわけだからー、なんとかなると思うー」

「そうね、みんなで何とかしましょう」

 ねーと山雲と夕雲さんが声を合わせる。のほほんとした調子の二人に、曙と叢雲も言い返さなかった。代わりに眉を寄せたのが初春である。集まった面子と配属表を見比べて考え込んでしまった彼女に、秋雲先生が話しかけた。

「初春、なんかあった?」

「うむ……いや、なんじゃ、ただの推測なのじゃが……もしや我々は実力で選ばれたのではないのではないかと思えてな」

 その心は? と相槌を打たれ、初春は自説を唱え始めた。

「まず、上から数えて九人目までをそれぞれ別の艦隊に配置しておる……これは吹雪や夕立といった明らかに優秀だった者が分けられておるから間違いないじゃろう。この辺りじゃな」

 うんうんと全員が同意し、初春が私以外の8人の名前を二重線で消す。そこはやっぱりみんな分かるのね。

「残りの訓練生の中から、少しでも吹雪を忌避する者を除く」

 初春がペンで一部の名前に線を引いていく。なんか雲行きが怪しくなってきたな。

「さらに、吹雪に頼りきりになりかねん者も除く」

 訓練生の名前がさらに減る。何故か初雪だけ二重に消された。

「最後に吹雪より幼い者を除く」

 最終的に一人の名前も消えていない艦隊は、宮里艦隊のみとなった。

「とまぁこのように、吹雪に負担の掛からない人間で構成されたのではないか、と思えてならんわけなのじゃが」

 実際どう? という視線が私に向けられる。いや、流石に皆の内心までは分かんねーですよ私は。

「ええ~? でもあたしだって吹雪の事頼りにしてるぜ?」

「頼もしく思う事と頼り切るのは違う、深雪は吹雪が居るからといって吹雪に任せてしまおうなどとは思わんじゃろ?」

 それはむしろ私が思う奴ですねすいません。深雪はまぁそれはないかな、と返す。私より立派ですわこの娘。

「なるほどねぇ~、明らかに強い吹雪が余計な事で疲れないような選出……かもって事かぁ」

 皆を観察して日記漫画のネタ集めをしている秋雲先生にも、割と納得のいく説だったようだ。私もそこそこの数が消された表とこの艦隊のメンバーを見比べて、ちょっと納得できる点に気が付いた。

「たぶん、この残った名前の人達を成績順に並べて、上から七人選んだらこの面子になるかも……?」

「ふむ、吹雪が言うのならそこは間違いなかろ」

「それじゃあ~、一応実力は加味されてるって事ねー」

 やっぱり問題ないねーと伸びやかに山雲がまとめた。実力的には全員中位以上だと思う。けど、もし選出の基準の中心が私だったらと思うとなんだか悪い事をした気分になる。そんな思いが表情に出ていたのか、クスリと笑って夕雲さんが私の肩を叩いた。

「難しく考える事はないわ、要するにただ相性を見ただけよ」

 ほら見て、と夕雲さんは自分の配属表を広げて私に見せた。

「こことここ、ここなんかもそうだけど、結構同室の娘が一緒にされているでしょ? 仲の良い子たちを出来るだけ同じ場所へ行けるようにしてくれてるのね。私達だって一緒よ、嫌い合ったりしない、上手くやっていけそうな人達で纏めただけ」

「それに、このメンバーで負担が軽くなるのは吹雪だけじゃないわよね」

 叢雲が夕雲さんを見ながら言った。夕雲さんは少し迷ったが、そうかもねと複雑そうに同意した。

「この説で行くなら、夕雲型が一人だけなのも多分狙ってやった事でしょ……秋雲まで姉って呼んでるのはイレギュラーでしょうし」

 秋雲先生がごふぅとダメージを受けた。結局姉さんと呼び続ける事にしたようなんだが、同型艦でなかった事からは未だに立ち直り切れていないらしい。

 初雪の年齢を盛大に勘違いしていたので自信が持てないのだが、おそらく二十代の夕雲さん、大学生くらいに見える秋雲先生、高校生だろう叢雲、初春、山雲の三人、深雪と曙は中学生くらいで、たぶん私と同じか上級生。なので私は色々気遣われてしまう立場のようだ。でも、前世含めると最年長なので有難いけどすごく気恥しい。もっとしっかりするべきだろうか。

 

「吹雪はともかく初春、あんた周りをよく見てるのね」

 私は誰が吹雪の事嫌いかなんて知らなかったわ、と曙が言いだした。初春は言葉を受けて何故か目を泳がせた。

「ああ……うむ、なんというか前の職業柄、かのう……」

「あー、巫女さんー? みたいな事してたのよねー?」

「巫女……そうじゃな、広義の意味では。一応そちらが基になっておった……と思う」

 初春は言い淀む。あまり触れてほしくなさそうなのだが、深雪が気にせず突っ込んでいった。

「それで喋り方も珍しいカンジなのか? 巫女さんってどういう仕事してたんだ?」

 興味津々といった様子で、好奇心をまるで隠さない深雪を無下に扱えなかったらしく、初春は自分の事を語り出した。

「わらわがしておったのは……どちらかと言えば人生相談に近いものじゃよ」

 あらあらまぁまぁと全員が驚く、初春は高校一年か二年生くらいに見える。正確な助言だったとしても信頼されるかと言われると微妙な所だ。

「この訓練所で学んだ今ならば信じて貰えると思って言うが、わらわは所謂、霊能力者という奴でな」

 生まれつき霊や神格を視て話す事が出来る。と初春は言った。最近知ったがこの世界はすっごいファンタジーワールドだったので、そりゃあそんなのもいるよなぁ、と思ってしまう。妖精さんとか今もテーブルの隅でテンション上がって踊り狂ってるのとか居るし。落ちるなよお前ら。

「相談者に憑いた不浄な者の弔い方や、守護霊の語る運気を保つ術なんかを授けておった……親主導での」

 新興宗教という奴じゃの、と初春は苦々しく言い捨てた。なんでも物心付いた時には祭り上げられていたらしい。彼女の助言はかなり正確で有用で、代わりにものすごくお高かったとか。それでも信者の人達は結構な頻度で訪れて初春を頼り縋ってくる。親ではなく、信者の人達に憑いた善い霊から学びを得た初春はそれを見捨てる事が出来ずに託宣を繰り返し、親は儲かり、信者は救いを得た。

「しかし、わらわが育つにつれ、力そのものが弱まってしまってのう。今となっては口調がおかしな唯の女子高生よ」

 いや今は艦娘か、と初春は笑った。妖精さんも普通の時は見えないらしい。提督適性とは違うものなのか。

「あれ、それじゃあ交霊会は何だったの? ふつ~に霊能力みたいな事してなかった?」

「どうやら艤装が触媒になるようでの、わらわの弱った力でもあれがあればそれくらいは出来るのじゃ。装着しているお主等を通して駆逐艦の神霊を視たりも出来るぞ」

 どうやら艤装は霊的な道具として滅茶苦茶優秀らしい。霊的資源から作られるらしいのである意味当然か。もっと強い霊能力者なら霊圧飛ばしたり出来るんだろうか、ちょっと見てみたいかも。

「ふむ、語りが過ぎたの……聞き上手が多いのも考え物じゃのう」

 あまり人に話したことはなかったのじゃがな、と言って初春は恥ずかしそうに目を伏せた。少し懐かしさも混ざった表情が印象的だった。

「じゃあー、召集の時は大変だったんじゃないー?」

 山雲の問に初春は軽く首を振って否定で返した。

「いや、その頃にはもう団体自体が無くなっておったからな。深海棲艦が来て以降はわらわも叔母に預けられておったし、特に何もなかったのう」

「初春、あんたの親、もしかして……」

 曙が深刻そうな表情になる。深海棲艦が来てから保護者変わるって言ったら、あんまりいい予想は出来ない。

「ん? ああ、いや、死んではおらぬよ。ただ少し……………………塀の中に居るだけでな」

 初春が微妙な顔になる。曙も微妙な顔になる。たぶん私も微妙な顔をしていたと思う。

 

 

 

 司会進行も務める漣に暁教官長が引っ張り出され、最後の訓示をさせられる。準備していなかったらしく、無茶ぶりが飛んできた瞬間は慌てふためいていたものの、前に出てしまえば言うべき事はしっかりと押さえたまともな話になっていた。教官長の貫禄である。

 教官長の話を最後にパーティーの終わりが告げられ、漣たちは片付けを始めた。参加者達は部屋へ帰る者や交流を続ける者、まだ食べている者など様々だったが、我々宮里艦隊行の面々は夕雲さんの下へ夕雲型が集まってきてしまったために解散となった。秋雲先生は残ったけど。

 初雪を拾って帰るか、と思い提艦隊の所へ向かおうとする私に、初春が声をかけて来た。

「吹雪、少し良いかの?」

 人気のあまりない食堂の隅の方へと誘われ、何かと思って付いていく。私の方へ向き直った初春は、私の目を見て心配そうに、抑えた声で言った。

「間違っていたら失礼だとは思うのじゃが聞かせてくれ。おぬし、もしや艦の神霊と上手く行っていないのではないか?」

 どきりと心臓が鳴る音が聞こえた。硬直した私の表情から、初春は自分の考えが正しいと察したようだった。

「やはりそうか……」

「どうして……?」

 霊能力者ってすごい、そんな感想が出て来た。

「先ほど、おぬしらを通して神霊が見えるといったであろう? 皆の前では言わなかったが、一時期に、ほんの一日だけじゃが、どうしてかそれらが見えなくなっておった娘達が居っての」

「一日って事は」

「うむ、皆、今ではまた見えるようになっておるよ……おぬし以外はな」

 何その嫌な例外、っていうか、私以外にも着信拒否されたりした娘が居たんだろうか。見えなくなったってそういう事でいいのか?

「その、見えなくなってたのって誰だか聞いてもいい?」

「む……そうじゃな、何か参考になるやもしれぬし、良かろ」

 初春が名前を挙げたのは私以外に四人、叢雲、漣、五月雨、そして電教官であった。

「わらわには共通点がわからぬ、そもそもその日の前後で何が変わったわけでもない。おぬしも特に問題は無さそうじゃったしのう」

 初春は自分の勘違いか、霊能力がさらに劣化しただけかもしれないとも思っていたらしい。ただ、私だけはずっとオリジナル吹雪さんの存在が感じ取れず。気にはなっていたとの事。

「同じ艦隊になったのも何かの縁、今のわらわでどれだけ力になれるかは分からぬが、何か出来る事があればいつでも言うが良い」

 今からでも良いぞ、と言ってくれるがとりあえずは大丈夫なので、何かあったらお願いしますと保留しておく。なんだこの艦隊、いい人ばっかかよ。

 

 では明日、と言って去って行く初春を見送りながら思う。吹雪、叢雲、漣、電、五月雨……って、そりゃ初春には分からんだろう、私的には物凄ーく憶えのある組み合わせなんですけどね。これやっぱり例の幼女関連だよなぁ。大丈夫かな吹雪さん、なんかめんどくさい事に巻き込まれてない? 単に私が嫌になっただけの方がマシだった気がしてならない。

 

 

 

 部屋の和室に布団を敷き、眠ってしまった初雪を投げ込むと、衝撃で目を覚ましたのかおやすみぃと寝ぼけた声を上げた。その声にお休みなさいと返して明かりを消して退室する。

 リビングに戻ると島風が物の少なくなった部屋で転がっていた。連装砲ちゃんと妖精さんも一緒にころころしている。何やってんのお前ら、と声をかけると島風は正座の態勢になり、手前の床を叩いて座りなさいと私にジェスチャーした。対面に胡坐で座り込み、それで何さと聞いてみれば、島風はそこで初めて何を話そうか考え始めたようだった。お前ノリと勢いだけで座らせたんだなそうなんだな。

「明日から戦いに行くけど、鎮守府って走れるところだと思う?」

「知らんがな……いや、でも普通に考えたら走れないほど狭いって事ないんじゃない?」

 庭くらいあるでしょと言うと、そっかーと返ってきた。

「じゃあちゃんと走ってね、鈍っちゃうから」

「え、私の話?」

 お前の着任先の話じゃないんかい、いや私のはチート能力だから鈍るとかないし、そもそもここ一か月まともに走ってないから手遅れでは……っていうか。

「島風は大丈夫なの? 最近あんまり本格的に走ってないような」

「どうかなー、あんまり変わった気はしないけど。あ、走る場所は大丈夫だよ、ちゃんと走れるところって希望出したから!」

 何書いてんだこの子。希望用紙にそんな事書いたのたぶんお前が最初で最後だろ。

「変わってないってのは伊良湖さんの栄養食のおかげかなぁ」

「おうっ? そんな効果もあるの? じゃあ練習もすれば今よりももっと速くなれる?」

「いやわからんけどね、初雪は筋肉付いてきてたよ」

 そっかーと島風は嬉しそうにうんうん頷いた。連装砲ちゃん達も真似して頷いた。可愛い。

「初雪っていえば、提督の所に行かされるよね、初雪。提督で大丈夫かな?」

 分かり辛いがクラスメートの提提督の事だろう、あだ名が提督だったから仕方ないんだが。

「まぁ、大丈夫じゃない? 気遣い出来る方だし、なんかあれば力になってくれるでしょあいつは。女性関係は整理しろよって思うけど」

「そう? 頼りなくない?」

「剛田先輩の話とか聞いてるとやる時はやるって感じかな、見てても困ってる人を見捨てるタイプじゃないしね」

 へー、と島風は感心したように声を上げた。同じクラスに居ると先輩達ハーレムメンバーに囲まれ巻き起こるToLoveるの対処に奔走している所しか見えないからだろう。私は最終的に先輩に連れられて家まで遊びに行った程度には仲良くなったから知ってるが、そうでなければなんでモテてるのかも分からないだろう。

「吹雪って提督の事好きなの?」

「友達としてはね」

 恋愛対象にはなりませんなぁ。

 

 そんな感じのどうでもいいような話を時計が頂点を過ぎるくらいまで延々続け、普通に眠くなってきた島風は普通に部屋へと帰って行った。

 なんだかんだ島風……島さんと駄弁ったのは久しぶりだった気がする。なんとなく満足感を得ながらベッドへ潜り込み、そのまま朝までぐっすりと眠った。

 

 

 




話を進めようと思ったら変わった口調の娘喋らせたい病が発病しました。楽しい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。