転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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編成しようそうしよう

「いや、教えろよ!! そんな話してないって! 聞いてる!?」

 隣の部屋から寮内に響き渡る、深雪の怒声で目が覚めた。同室になった曙も目が覚めたのか、二段ベッドの上からなによと呻く声が聞こえる。鎮守府着任二日目の朝は、あんまりいい感じに始まらなかった。

 ほんと朝から何だよと思いつつベッドの下段から這い出ようとすると、壁の向こうから深雪の悲鳴が聞こえてきた。たぶん訓練所から引き続きルームメイトになった叢雲から何らかの制裁を受けたんだろう。

 

 

 

「親父がさ、絶対教えないから諦めろとか言うもんだから熱くなっちゃって……悪かったよ」

 食堂で朝食を頂きながら駆逐艦のみんなで深雪の弁明を聞くと、家族に仕送りしようとしたら断られてヒートアップ、口論になってつい大声を出してしまったんだという。

 深雪の一家は住んでいた一帯が避難区域に指定されてしまい、避難所から叔父の申し出で家へと転がり込んだのだそうだ。叔父一家との折り合いは悪くなかったのだが、父親が漁師で潰しがきかず、収入面で色々と苦労していたらしい。

 そんな時、深雪は艦娘に選ばれ、高給取りになった。昨晩の内に出来ると確認して喜び勇んで振り込もうとしたら、使ってる銀行すら教えて貰えなかったんだとか。

「あたしだけちゃんとした物食べてるのも嫌だからさー、どうにかしたいんだけど……」

 箸でサラダに添えられたミニトマトを転がしつつ深雪はぼやいた。今居る食堂は寮から地続きで、一日三回までならいつ来ても食事を出してもらえる。それこそ深夜までやっていて食べる時間も自由なのは、時間を揃えるのがほぼ不可能だからだろう。今だって自衛隊の人達は見張りに出たりしているはずだし。

 今、食堂では招集された間宮さんと自衛隊の間宮さん、それに自衛隊の伊良湖さん――訓練所とは別の人――が働いていて、訓練所とはちょっと違う味付けだが、今日の朝食も昨日の夕食もとても美味しかった。三人も居るのはやはり24時間稼働なのと、艦娘以外の人達も同じ食堂で食べるからだろう。

 この鎮守府では艦娘以外の女性や男性も働いていて、主に陸側の見張りや物資の輸送なんかを担当している。妖精さんが自分達を認識できない人間をあまり喜ばないらしく、工廠なんかには入らないらしい。私達も悪い事したら憲兵さんに捕まるんだろうか。いや憲兵って名前ではないだろうけど。

「親父は我慢すればいいんだろうけど、あたしんち弟妹いるからさー、あいつ等には食べさせてやりたいじゃん」

 最終的に深雪は指でミニトマトを摘まみ上げ、口の中へと放り込んだ。あまり好きではないのだろう、水で勢いよく流し込んでから続ける。

「自分のためにとっとけっていうけど、これからどうなるか分かんないし、使っちゃった方がいいと思うんだけどなぁ」

「深雪、アンタまさか親にそう言ったの……?」

 え、言ったけど。深雪がキョトンとした顔で告げ、叢雲と曙に阿呆かと左右両足を蹴りつけられる。戦争に取られた娘に朝っぱらからそんな事言われた親御さん、今頃泣いてるんじゃないかなぁ……

 

 

 

 昨日いきなり出撃したのもあり、本日私達は待機しつつ、用事やなんやらを済ませる事になっている。休みではなく待機なのは、近海に深海棲艦が出現したら掃討へ向かわなければならないからだ。昨日変色海域化してたくらいなので、きっとまだまだ敵はいるんだろう。休みとれる日って来るんだろうか。

 そんなわけで食堂の隣にある酒保にやってきたのだ。昨夜はご飯食べてお風呂入って荷物置いて寝たのでまだどんな物が置いてあるのか確認していない。ちょっとワクワクしながら覗いてみると、そこは結構普通の商店みたいになっていた。お酒にお菓子、缶詰や乾物、電池やライター、冷蔵ケースなんかもあって中にはアイスクリームも売っていた。全体的に保存が利くものが多く、生の食べ物はほとんどない。値段はたぶんそこらで買うよりも安く、嗜好品は値上がりが著しい昨今にしてはかなり良心的だと思う。

 だけども、私が欲しいのはそういうのじゃあないのだ。私が欲しいのは快適にネットに繋げるもの、つまりスマホかPCである。私はこの世界では所謂ガラケーを後生大事に使っていた――前世ではかなり早い段階でスマホに乗り換えていたのであえて逆の体験を試していた――から、ネットをするにはかなり不便なのである。

 この鎮守府は携帯電話も繋がるしネット環境も生きていて、節度を守り機密に触れたり艦娘だと公言したりしなければ使ってもよいとの事だったので、是非とも設備を整えたい。ちなみに悪さすると色々楽しい事になるぞと長門さんが言っていた。

 暫く生活雑貨や食べ物を見て回るが目的と合致する物はなかったので、レジで注文に関して聞いてみると、取り寄せ用のリストを渡された。リストを見ると電化製品や大きめの訓練器具、調理器具、布団や毛布、机に椅子、洋服等々様々な物が載っており、一部の物は倉庫に置いてあるだけですぐに持って来れるとも書いてあった。

 暫くめくって見ていくと電子機器の頁があり、その中に私の求めてやまないパソコンちゃんがあった。しっかりと性能まで載っていて、なんか知らんが値段も実際安い。性能は……全部グラボなんかは乗ってないけどそれ以外は問題なさそう? デスクトップ型とノート型があり、とりあえずネット巡回出来ればいいのでノート一択。個室ならデスクトップも良いかもしれないけど相部屋だし。

 レジのお兄さんに教えて貰いながら書類に記入して提出する。早ければ明後日くらいには届くとの事なので、とても楽しみである。

 

 

 

 結論から言うと、家が特定されてた。

 やりたい事やったから私も両親へ連絡しないといけないと思い、二人部屋の相方になった曙も丁度部屋に居なかったので電話をかけ、ゆっくりと話をした結果、私の気分は落ち込んでいた。

 父も母も元気そうでそれは良かったのだけど、どうやら不審者が周囲に出没し、マスコミも嗅ぎ付け、自衛隊の人が訪ねてきて保護されたという。道理で、家にかけても反応が無く、携帯の方じゃなきゃ出なかった。家の方は今使ってないらしく無人だが、自衛隊の人の話では変なのが来たりしてるから近づかない方がいいとかなんとか。

 二人とも動画は当日の内に見たらしく、滅茶苦茶笑えたと言っていた。特定されたことに関して謝ったら、謝るよりもちゃんとお前のHDDその他を盗まれないように持ち出した事に礼を言ってくれと言われた。へい中身見てないだろうなマイファザー、今度送っとくっていや要らないよ!?

 丁重に扱われて生活には全く困ってないし、仕事場にも送り迎え付きのVIP待遇だから気にせず好きにやるといい。こっちは快適過ぎて元の生活には戻れないかもしれないくらいだぞ、とか言われたので、じゃあ慣れ切る前に日本を平和にしてやんよと約束して電話を終えた。

 いやほんと、変なチート転生者にはもったいない両親だわ。落ち込んでる場合じゃないなうん。

 

 

 

 ベッドに寝そべって気分を落ち着けていると、館内放送が入り、軽巡と駆逐艦が呼び出された。制服と艤装を装着し集合、ただし出撃ではないという。

 何やらされるんだと思いながら急いで支度を済ませると、宮里提督と長門さん、龍驤さんが艤装は付けずに港で私達を待っていた。ちなみに提督は大和の制服ではなく提督っぽい格好をしている。初日にあの格好だったのは緊急時だからだったらしい。

 全員揃うと提督から何をするのか説明された。宮里艦隊では戦闘部隊を幾つかに分けて運用するのだが、その班分けのために速力を見たいので、通常航行で出せる持続可能な最高速度を見たいのだという。たぶん近い人たちが纏められるんだろう。そういえば訓練所じゃ最大速度で走ったら誰が上位に来るのかは正確に試した事が無かった気がする。一位二位は私と島風だっただろうけども。

 長門さんの号令で各艦一斉にスタート、飛び出したのは私こと吹雪、大きく遅れて二番手につけるのは長良さん。叢雲、天龍さんがそれに続き、そこから残りの駆逐艦と大井さんはほぼ団子で、最後尾が夕雲さんだった。

 確かめたいのは維持できる速度だったため暫く辺りを往復するが、大きく順位が変わる事はなかった。自由に滑れるのたーのしー!

 そこまでと提督から終了の合図が出され、私達は帰港した。これで解散なのかと思いきや宮里提督は私に例の走行での最高速を見せて欲しいと言ってきた。妖精さんに負担がかかるから許可を貰ってからでいいか聞いてみると勿論ですと言ってくれたので、艤装の中の妖精さんと話を付ける。結果として、一名だけ残して後は一時退避する事になった。それでも大砲とか使わないなら艤装は動くらしい。まぁ浮ける能力だけ残ってればいいんだけれども。

 妖精さんはおもいっきりやっていいよ! と勇ましく言ってくれたので、全力で走り、反転して港まで帰り、また反転して海へ出るのを繰り返した。私は体力もチートで上がっているため、全力移動するだけなら何時間でも行けたりする。流石に音速を超えたりするほど速くはないから提督からはちゃんと私の姿が見えているはず。

 提督に終了を告げられ艤装の中を見ると、こちらを見て仁王立ちした妖精さんがニヒルに笑って仰向けにぶっ倒れた。無茶しやがって……

 

 

 

 

 

 鎮守府内の提督に与えられる執務室で、三人の女性が会議を行っていた。

「やはり、通常の編成で吹雪を使うのは無駄が多すぎるように思う」

「せやな、空から見てたから分かるけど、あれと組ませてたら経験もなんも積めん」

 参加者の一人、長門の発言にもう一人の参加者である龍驤が同意する。議題は艦隊の編成について、なのだが、実際の所問題になっているのはほとんど吹雪一人であった。前日の出撃で航空支援を受ければ一人で変色海域を制圧できると証明してしまった吹雪は、どう扱うのが正しいのか自衛隊の人間にも判断の付かない存在となっていた。

 普通の艦隊に組み込んだ場合、彼女は他の駆逐艦や巡洋艦、戦艦に至るまでの仕事をほぼ奪い尽くし、燃料を無為に消費するだけの存在に変えてしまうというのはよく分かった。本人はやたらと燃費がいいのが悪質である。

 吹雪一人が活躍するのは他の艦娘がまともに実戦を経験する事も出来ないという事なので、最終的には総合力が低くなってしまう可能性も考えられる。

 一人で深海棲艦を惨殺出来るという事実を隠さず、躊躇なく相手の急所を砕くのも問題で、同行する人間にとっては恐怖の対象になりかねない。綺麗に顔面を撃ち抜かれていた飛行場姫はマシな方で、素手で作り出されたレ級の首無し死体などは、自身も姫級の首級を挙げている長門であっても目を背けたくなるほど悲惨な状態であった。それを虫でも掃ったかのような表情で報告してくる吹雪が、普通の感性をした人間からどう見られるかは説明も要らないだろう。

「それでも、一人で出撃させる訳には行かないですから……」

 三人目の参加者である宮里提督が言う。規則的にも心情的にも、それは出来ないのである。一人で行かせて何かあったら、責任問題で済まされない。物理的に首を飛ばされてもおかしいと言い切れないくらいには彼女の戦力はどの方位から見ても魅力的であった。

 宮里達からしたら決戦兵器をポンと渡されて、燃費がいいから普段使いもしてね、でも決戦兵器だからいざって時に使えなくなってたら怒るよ、などと言われているようなものだ。実際にその戦闘力を目の当たりにした二人には、一人で戦場に出した程度でどうにかなるとは到底思えなかったのだが、それでも最低一人は付ける必要がある。

「それやったら、誰かしら生贄にする必要があるな?」

「言い方が悪すぎるぞ龍驤、それにそうなった場合、候補になるのは……」

「ま、うちやろなあ」

 龍驤は軽空母である。そのため航空支援も行えるし、速度もそれなりに早い。最低限の自衛も行えるため二人の班を組むならうってつけと言える。だがしかし。

「それでも彼女の機動力は生かしきれないんですよね」

「……うちも、あそこまで速度差があるとは思ってなかったからなぁ」

 先ほど行われた競争を思い出す。軽めに見積もって他の艦娘の五倍以上の速度で走り抜ける吹雪を見て、殆ど全員が気付いたのだ。

 あ、こいつ昨日本気出してなかったな。

 勿論、悪意などではなく他の艦娘に合わせた結果であるので仕方ないのだが、全体で相性を確かめようと思ったら、本来の殲滅速度はもっと早いという可能性が浮かび上がってしまったのである。

「一応、第二訓練所では一番速かった長良が居るが……」

「相手になっとらんかったね」

 この鎮守府には訓練所での成績が平均以上だった者のみが集められている。だが、それでも適性値が1000を超える者は吹雪以外にはおらず、技術だとか練度だとかが介在する以前の根本的な性能に差が生じ過ぎていた。

「暁の話では、第三訓練所には速度だけなら張り合える娘が一人居たという事だったが」

 駆逐艦島風。暁によれば、航行速度に関しては吹雪と同等で、出身地から中学、部活動に至るまで一緒であり、寮でも非常に仲が良かったという。それだけなら吹雪と組ませるのにうってつけの艦娘であるのだが。

「一万オーバーは引っ張ってこれんやろ?」

 問題になるのは彼女自身が非常に適性値が高く、エース級になると目されている事である。速度以外もそこそこ優秀で、連装砲ちゃんを有するために総合的な火力も高い。戦力を各所に置きたい自衛隊としては、吹雪の居る宮里艦隊に引き抜きを許す事は無いだろうと龍驤には思えた。

「一応、可能性が無い訳ではないんです」

「何?」

「え、やれるん?」

 自衛隊の方針から言って、適性値十万越えと一万越えを同艦隊に置くことは通常嫌がられる。しかし、宮里は不可能ではないと思っていた。

「吹雪に付いて行けるのが島風だけという事は、島風に付いて行けるのも吹雪だけという事ですから」

 おそらく、向こうの鎮守府も島風の速度を生かしきれずに持て余すことになるはずなのだ。そして吹雪と違い、島風の最大の長所は速度であり、それ以外はそこそこ優秀という程度。吹雪以上に普通の使い方が勿体ない娘なのだ。

「とはいえ、蓋を開けたらあちらの鎮守府では効率的な編成が見つかってました、なんて事も有り得る訳ですけど」

「そりゃそうや……まぁ居らん奴の事はそこまでにしよ」

「そうですね、話が逸れました」

 

 一度仕切り直し。ホワイトボードに書かれた数字を見つめ、長門がため息をついた。

「結局、これをどうするかだな」

 これ、と言われたのは宮里艦隊に与えられた霊的資源採集のノルマである。以前の自衛隊の実績と今必要とされている量、それと各鎮守府の戦力を加味されてそれぞれ別の数字を託されており、三人にとっては頭痛の種となっていた。

「普通にやっていて届く数値ではないですよね……」

「主に吹雪のおかげやろな、これ。本人が悪い訳ではないけれども」

 吹雪の適性値は53万である。彼女一人が居るだけで、艦隊の平均適性値がおかしな数値になっている。そのためなのか、目標の数字は今までの常識で考えれば有り得ない数値になってしまっていた。宮里としては是非、中央値を使うように変更してほしい所である。

「昨日の収支で必要量の五分の一に届かなかった訳だからな。逆に言えば、あれがあと五回あればそれで終わるんだが」

「あんな都合のいい状態の、五か所も六か所もあるわけないわな」

 変色海域の核と、奪取した敵基地建設用の資材。合計した結果は今までにない大戦果となったのだが、それでも足りない。全く足りない。

 三人が悩んでいるのは、吹雪をどう効率的に扱えば資源回収に人手を回せるか、であった。

 許されるなら吹雪一人を変色海域へ突っ込ませて、深海棲艦から資源を奪い取ってきてもらいたいくらいなのだが、当然それは許されない。

「……もうこの際、無視して良いんと違うかこれ。上も達成できると思ってないやろ……」

「そうしたいところだがな。努力自体を放棄したら、何を言われるかわからんぞ」

 ただでさえ精鋭部隊で旗艦を務めた長門と適性値日本最高の吹雪を有する宮里艦隊である。吹雪抜きでの平均適性値も高いため、結果が出せなければ酷くバッシングを受けるのは目に見えていた。必要ならばそれを受ける覚悟はあるが、三人だって人間であり、避けられるなら避けたいところだ。

「それに全鎮守府が目標を達成できれば、来月には次の適性検査が行えるそうですから。やはり諦めたくはないです」

 適性検査に使われる器具や建造される艤装の材料など、一度の適性検査で必要とされる資源の量はかなり多い。訓練に使う燃料や資材も少なくなく、一回目の時は給糧艦に回す自分達の食糧分を少し減らして量を底上げしていたりする。

 新しく民間人から招集するのは心が痛むが、やらなければ各地の解放もままならない。艦娘の数はまだまだ十分とは言えないのだ。

「……その、私としてはこれなんてどうかな、と思うのですが」

 そう言って宮里は一枚の紙を取り出した。何回か名前を書いては消した跡が見え、草案の一つだと分かる。

「提督、まさかそれは……」

「例のやつです……私もこれの使用を検討する日が来るとは思わなかったんですけどね」

 長門は苦い顔つきになった。それは鎮守府に着任するより前に、宮里と長門が冗談で考え出した編成である。吹雪は最初から宮里に預けられると決まっていたため、前々から楠木提督にも色々と相談していたのだが、たまたま見つけた楠木がこれはとてもいいじゃないかと大笑いした曰く付きの逸品なのだ。

「でも、これなら吹雪の全速力……走行の方も活かせる可能性があります」

「妖精さん駄目になるのに何につかうんやあんなの」

 唯一知らない龍驤が差し出された紙を受け取る。そこに書かれた内容は単純で、かつ今までに話し合った運用とはかなり方向性の違うものだった。龍驤は不審気に眉を寄せ、暫く押し黙ると、小さく呟いた。

「……………………正気か」

 

 

 

 

 

 お昼ご飯を食べに行ったら、巡洋艦の人達と遭遇した。なんでか天龍さんに一緒に食おうぜと誘われたので、青葉さんと長良さん、大井さんにも許可をもらってテーブルを囲む。

 天龍さんがお前あんなに速かったのかよと笑いながら私の背中を叩く。その様子を青葉さんが撮影し、大井さんが食事中は止めなさいよとたしなめる。大井さんはバスの中では北上さん北上さん言っててヤベー人かと思ってたのだが、話してみるとかなり常識人というか、基本的にツッコミ役なのではないかと察せられた。天龍さんや青葉さんが自由過ぎるだけかもしれない。

 私の正面に座る長良さんはどことなく緊張した面持ちで、目が泳ぎ、箸の先が震えていた。たまにちらりとこちらを見るのだが、すぐに目線がどこかへ行き、話しかけても来ない。

 すごい人に見えるのはチート能力のおかげであって私の実力とは言い難く、私としては過大な評価を頂いている事が心苦しいので、こっちから部活の後輩とでも思って普通に扱ってくださいって言ってみたら、無理だと即答されてしまった。大井さんは吹雪の方が気を遣うでしょと私を援護し、短距離の事が無くても強すぎて下に置けないんじゃないですか、と青葉さんは長良さんの方をフォローをした。実際に見た青葉さんと見てない大井さんの差だろうか。っていうか地味に青葉さんも私に丁寧語使ってるしなんか壁を感じる。その点天龍さんって凄いよな、最後まで一切遠慮なかったもん。

 長良さんに関してはもう慣れてもらうしかない。鎮守府で一緒に生活するんだし大したもんじゃあないとそのうち分かってもらえるといいなと思います。

 

 

 

 昼食を終え、自分の艤装の装備に関して工廠の人達と相談してみようと思って廊下を歩いていると、向かいからやって来た山城さんに捕まった。

 山城さんは扶桑さんの友人に、名字を伊吹という駆逐艦吹雪の適性者が居る事を知っていたらしい。私がそうなのかと聞いてきて、肯定したら是非扶桑姉さまの話を聞かせて欲しいと頼み込んだ。やっぱりというか、扶桑さんが訓練所で仲良くなった娘というのは彼女だったらしい。

 廊下で話すのもなんなので人気の少なそうな屋上で、と思って階段を上り切った瞬間、突然大雨に見舞われ山城さんの部屋へ行く事になった。扶桑さんもそうだったけど本当に不幸属性な人が存在するんだよねこの世界。逆に雪風の適性者とかはどうなるんだろう、訓練所には居なかったから謎に包まれている。

 

 山城さんは速吸さんと同室なのだが、彼女は外出していて居なかった。靴を脱いでお邪魔すると、午前の内に酒保で出してもらったのか、小さめのテーブルとチェアが揃えてあった。うちの部屋には作業用の折り畳み式のテーブルくらいしかないので、その辺りは今後曙と話し合っていく所存である。

 椅子に腰かけると、山城さんが備え付けの冷蔵庫からお茶を出し、カップに注いで出してくれた。対面に座った山城さんはハリーハリーと話をせがんで来たので、出来るだけ脚色をせずに話す事にした。

 

 校舎の三階から事故で落ちて来た時点で尋常じゃない不幸さを持っている扶桑さん――桑谷先輩だが、その不幸はどういうわけか、全体的にはちょっと運が悪い程度で済み、致命的な事態は引き起こされていない。たとえば今の例だと下に私が居たため無傷で済んでいる。

 他にも新型発電所の稼働日に家の配線がおかしくなって扶桑先輩の部屋だけ電気がつかなくなったけど工事で普通に直ったり、出掛けたら引ったくりに遭ったけどバッグのベルトが千切れて絡まった引ったくりが転んでお縄になったり、配給のトイレットペーパーを受け取ったらミシン目が付いてなかったけど使い辛いだけだったり、配給に必要なチケットを盗まれて霧島さんが犯人見つけ出して私との連携で取り返したけど犯人が猫だったり、受験当日に深海棲艦の襲撃が重なって延期になったせいでデートが潰れたり、私の家に遊びに来たら丁度島さんも来ていて滅茶苦茶走らされた挙句に貧血でふらついてたまたまそこにいた提督と衝突して6と9の形になったり。いや最後のは提督のラッキースケベが発動しただけのような気もする。

 出会って一年で結構一緒に遊んだ間柄のため話せる内容はそれなりにあるのだが、山城さんは提督の話をしたら絶対零度の声で、

 

 へぇ。

 

 と呟いたので、半分くらいしか言えなくなった。これ以上ヘイトを溜めると奴が刺されかねない雰囲気が出てたから仕方ないね。既に手遅れかもしれないが。

 というか、出会って一か月の相手によくそれだけ執着できるなぁ。と思ったけど徴兵されて不安定になってる所で優しいお姉さまに出会っちゃってコロッと行ったのかな。かなりいい人だし美人さんだしね。

 

 流れで本名を教えて貰えたのだが、山城さんは名字を城山さんというらしい。この人も名前に適性の艦名が入っている。さっきの昼食中には天龍さんに名乗られたんだけど、彼女の名前も龍田川 天音。かと思えば大井さん長良さん青葉さんは三人とも入っていないのだ。なんか違いがあるのだろうか。さっぱり分からん。

 駆逐艦の人達だと入ってるのは私と初春、夕雲さんの三人で、後の五人は入っていない。たまたまというには多い気がするんだけど全員ってわけじゃないのはどういう事なのか。例の少女の陰謀を感じる。

 

 

 

 なんだかんだと話していたら三時を過ぎ、速吸さんも戻り、流石に話し疲れたという事でお開きになった。

 お邪魔しましたと部屋を出て、今度こそ工廠へ行こうかと思い廊下を行くと、窓の外で秋津洲さんが二式大艇ちゃんと戯れているのを目撃した。一瞬ヤバいものを見た気がしたが、よく見ると二式大艇ちゃんは喜ぶようなジェスチャーをしていたので、連装砲ちゃんと同じで自立して動く機能が付いているんだろうと察しが付いた。かわいい。

 邪魔しちゃ悪いので通り過ぎると、明石さんが別の明石さんを引きずっていた。どうかしたのか尋ねてみたら、艤装を見てて徹夜した結果、割り当てられた部屋に眠りに行く途中でぶっ倒れたらしかった。変色海域に出ると戦闘しなくても破損してしまうのが原因なんだろうな、とか思っていたら全然違って、趣味でテンション上がって妖精さんと一緒になって弄り倒した結果らしい。手伝いますよと持ち上げたら、本当にただただ寝ているだけだった。

 見た目より力強いんですねと言われたが、そこは突っ込まないで欲しい。チート能力である。

 

 

 

 引きずられてた方の明石さんをベッドへ寝かせると、引きずってた方の明石さんは工廠へ戻ると言うので一緒に廊下を行く事になった。装備に関して聞いてみると、調整はともかく変更となると宮里提督の許可が要るだろうという事だった。そりゃそうか。魚雷さんの出番が無さそうなので変えて貰って、連装砲二刀流にでもしたらどうかと思ったんだけど。

 工廠では妖精さん達がせっせと遊んで――もとい働いていた。今は艤装ではなく普通の船、クルーザーか漁船か区別はつかないがともかく通常の船舶の整備を行っているようで、何に使うのかと思ったら収集部隊の人達をこれで運ぶらしい。護衛として私達が守るのはこの船になるのだとか。艤装の事だけやる部署かと思ったらそうでもないんだな、と感心する。でもタイタニックしてるそこの妖精さん達は縁起悪いからやめようね。

 

 私の装備に関しては任務に合わせて提督と相談した方がいいという事でやる事がなくなった。なので酒保に寄って飲み物とお菓子をちょっとだけ買っておこうと思い、店内に足を踏み入れると、深雪と叢雲がなにやら書類と格闘していた。

 どうやら深雪はみんなのアドバイスでなんとか口座番号を聞き出すことに成功、妹と弟とついでに兄への貸しにするから帰ったらねーちゃん孝行しろよという事になったらしい。それで振り込みに来たら結構書類が多かったとの事である。ATMが設置されてるわけじゃないからねぇ。

 私も買い物を済ませ、ついでにちょっと引き出しておこうと思ったらやっぱり書類を渡され、深雪と並んで記入する羽目になった。これ書類が面倒で散財する気無くさせようとかそういう狙いない? 無いか。

 

 

 

 そんなこんなで部屋に戻った時には五時を回り、戻っていた曙と家具に関して相談していると放送が入り、明日以降の部隊編成についての話をすると本日二度目の招集がかけられた。

 曙や飛び出してきた皆と一緒に寮から出て会議室へ向かうと、宮里提督や長門さんが真剣な面持ちで待ち受けており、龍驤さんは私を見つけると微妙な顔で目を逸らした。なんだろうと思いながら適当に中の黒板が見える位置に行き全員揃うのを待っていると、宮里提督もこちらを見てちょっと申し訳なさそうな表情をしている。なに、私何かされるの?

 

 最後に寝ていた明石さんが入室して話が始まった。前置きして曰く、これは暫定的な配置で無理があったら配置換えは即日行われるとの事である。そんなに危ない事やるんだろうか、とざわめきが起こり、龍驤さんが手を叩いて静かにさせる。そして長門さんが大きめの用紙を黒板に貼り付けた。

 その紙には第一から第四艦隊に全員の名前が書かれており、一番上の名前が旗艦であるらしかった。

 第一艦隊の旗艦は当然のように長門さんであり、山城さんや青葉さんを含めた重量級だが打撃力のある主力部隊。秋津洲さんもここに入っている。

 第二艦隊の旗艦は龍驤さん……ではなく加賀さん。正規空母二人を含む航空戦力を主とする部隊で、私だったらこっちの方が相手をしたくないかもしれない。

 第三艦隊の旗艦は天龍さんで、どう見ても水雷戦隊。足も速くて燃費も良い、使い勝手の良さそうな部隊である。

 第四艦隊の旗艦は私だった。

 

 

 

 宮里第四艦隊の、イカれたメンバー紹介するぜ!

 

 

 

 

 

 駆逐艦の吹雪!

 

 

 

 

 

 以上だ!

 

 

 

 うん、まぁ、なんだろう。正直ちょっと納得した。

 でも問題なのはそこじゃあないんだ。いやそこもだいぶ問題なんだけど、個人的にもっと気になる部分がある。なんなら私以外も気になってる人多そうだし、曙とか今にも糞って口から飛び出しそうな顔してる。

 第一艦隊から第三艦隊までと第四艦隊の間には仕切りがあって、第一艦隊のちょっと上と第四艦隊のちょっと上にさらに文字が書いてあった。

 それが戦闘部隊と護衛部隊。

 つまり第一艦隊から第三艦隊までは戦闘部隊で、第四艦隊は護衛部隊って事である。

 

 え、私護衛なの? 霊的資源収集の護衛だよねこれ? マジで? 一人で?

 宮里提督の顔へゆっくりと視線をやるとしっかりと見つめ返してきて、はっきりと頷かれた。ああ、合っているんだなぁと理解して、もう一度黒板を見て思う。

 

 わけがわからないよ。

 

 

 




ここからが本当の地獄だ……(吹雪以外)

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