転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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ごえいぶたいのおしごと

 朝の風が気持ちいい。第四艦隊として働き始めて早三日、私は護衛している船から離れ海上を走り回っていた。向かう先はこれから資源収集に向かう島、そこに居座る深海棲艦の排除が今の目的なのだ。

 私を護衛に回すと言われた時はしまった糞提督だと正直ちょっと思ったんだけど、蓋を開けたらそんな事は全くなく、私が働いてる実感をストレスなく感じられる神采配だった。いやぁ疑っちゃったのすごい恥ずかしい。

 

 そもそも霊的資源収集の護衛って何をするのか? 私はまずそこから勘違いしていたのである。私はてっきり回収部隊の乗った船の周りで索敵しつつ敵が来たら倒すとかそういう受動的なのを想像していたんだけれども、これが大間違いだった。

 私の仕事はこっちにやってくる可能性のある敵、および目的地に存在している敵の全てを撃滅する事だったのだ。つまり滅茶苦茶能動的。サーチ&デストロイちゃんはここに居たよ。

 しかし私一人だとさほど倒せないんじゃないかなって初日は思った。凄い思った。駄菓子菓子、ここは適性値最低一万越えと元精鋭部隊旗艦が同時に配属されたヤベー海域であったのを私は忘れていたのである。

 収集部隊の人達にご挨拶していざ出航、と同時に提督から指示が来るわけですよ。曰く、先に出て敵部隊に応戦してた加賀さん達が対応しきれなかったはぐれを倒しに向かってくれと。その時点で私はまだ自分がする事をよく理解できてなかったんで船から離れるのが心配だったんだけど、とりあえず現場へ滑って行って、ささっと撃破。それで残りが居ないかソナーで確認するわけですよ。そしたら端の方にちょっとそれっぽいのが映ったんだけど、これ追ってくより船と合流した方がいいよなぁと思ってとりあえず報告上げたんですよ。そしたらじゃあそれ追って倒しといてくれと言われた訳ですね。

 この時点でなんかおかしいんだけど、とりあえずまあ、そいつらはサクッと撃ち倒してもう居ないなと確認して船の所へ向かおうとしたんだよ。そしたら今度は船の方から連絡が入って、直掩機が深海棲艦見つけたから帰ってきてくれだそうで。おいおい結構遠いぞ間に合うのかこれって焦ったんだけど、そしたら提督ってば走っておkとか言い出すんですよ。え、いいんですか妖精さん潰れますよって、いや私も事前に説明されてなかった訳じゃないんだけど、出航数十分でやるとは思わなかったわけで。でも命令だから、妖精さん達に謝って海面を跳んで帰って船の上にね。そこでやったよね、妖精さんの総入れ替え。

 

 いや、言われてみたら簡単な話だったんだよ。乗ってる妖精さんが潰れるなら次の妖精さん乗せればいいじゃないっていう。妖精さんって数的には結構居て、訓練所ですら私の艤装に無駄にいっぱい入ってたくらい余剰人員で溢れているのである。だったらその娘達に頑張ってもらいましょうっていうのが宮里提督の考えだった。私は妖精さんをどうにか生き残らせる方向で考えてたから目から鱗が溢れ出した。

 もちろん入れ替える妖精さんを置いておける場所が無いと絶対に出来ないから攻め入る時なんかは使えない手なんだけど、行きはともかく拠点への帰りでは私の移動速度を最大限に発揮しても良くなった。必要なら負傷者を拠点まで運び出して、そこで妖精さんを交換しちゃえば私はそのまま前線に戻れたりもする。

 問題は妖精さんへの負担が頭おかしいくらい大きい事なんだけど、これは宮里提督が妖精さんに頭を下げて了解を得たらしい。無効化無効化能力を供給できる人数が提督ごとに違うように、提督って人によって得意分野が違うらしいのだが、宮里提督の得意分野は妖精さんに好かれる事なんだそうな。よほどの無茶でも頭を下げて誠心誠意お願いすれば聞いてもらえるとか。私の全速力ってそんなに無茶なのか……

 ちなみに私の得意分野はよく分からない。とりあえず宮里提督も私も共通して、無効化貫通を他人に付与するのが不得手な方というのははっきりしてるんだけど。ワースト一位二位らしいから。

 

 話を戻して、船で新たな妖精さん達と組んだ私はそのまま敵を粉砕、一旦船へ引き上げるととりあえず敵影は無くなったとの事なので、周囲の安全確認をしてこようと先行する。するとソナーにまた敵が引っかかる。撃破。またソナー使う。なんかいる。撃破。ソナー、発見、撃破。ソナー、発見、撃破。お前ら私の索敵範囲内に居る確率高くない? って思ったんだけど、大体が一匹二匹でたまに四匹とかだし斥候にしては堂々としてるし、一般通過深海棲艦なのか、ともかく侵攻しに来た連中じゃなさそうな感じだった。

 初日の目的地は海の上の霊脈、なので海のど真ん中。自衛隊の人達が船から降りて艤装に付けた収集装置でドラム缶に資源を詰め込んでいる間、私はソナーとレーダーを使って全力で敵を探査。すると向こうからやって来たのは輸送ワ級と護衛の皆さん、倒してみたら腹の中から先日も見た黒い箱が。ただし中身は空っぽだった。どうやら向こうの収集部隊だったらしい。

 うん。つまりこの海域って敵艦隊が普通に資源回収に来る場所だったんだ。そりゃ変色海域化もしますわ。

 戦闘部隊のみんなはその状況をどうにかするために防衛ラインを押し上げて、敵の拠点になってる島を攻略しようと動いていたらしい。私は中に既に入り込んでるのや抜けて来ちゃったのを見つけて狩ってたわけですね。

 

 そんな感じに一昨日、昨日と海を走り回ってエリミネーターしておりました。それで本日は目前の島へやって来た訳なんですが、空に敵の直掩機見えてんだよなぁ……こっちも見つかってるよなこれ。まあいいか、倒してこよう。

 

 

 

 

 

 なんで私はこんな所に居るんだろう。宮里艦隊に配属されて五日。一時的に訓練所から異動しただけだったはずの暁は、どういう訳か収集部隊の班長として船の上で指揮を執っていた。

「教官長、遠い目をしてどうしたんです?」

「教官長吹雪の心配してるにゃ?」

「……でも、心配しても仕方ないって、教官長が一番知ってるはず……」

「私達が心配するのは失礼なくらいにゃしい……」

「拙そうだったら私が連れ帰るから安心しなよ、教官長!」

 船には十二人の艦娘が乗っているが、全員艤装を付けているため狭苦しい。マッド明石率いる妖精さん造船部によって改造されたこの船は普通より速度が出ている。そのためか今はそれなりに涼しいが、来月辺りからは厳しそうだ。

 先行している吹雪を追って、多摩の操舵で海を駆ける。船の上では鳳翔と飛鷹が航空機で周囲の警戒に当たり、霰と薄雲、磯波や睦月、皐月、潮に子日なんかがレーダーやソナーで探査を行い、吹雪に何かあった時の救助役に川内が待機している。これに統率する暁を含めた十二人が現状の宮里艦隊収集部隊遠征班の構成員となる。

「ねえ、教官長呼び止めない?」

 今の暁は教官長ではなく班長だし、そうでなくても年上含む同じ自衛隊の仲間に教官長教官長と言われるのは居心地があまりよろしくなかった。

「もう定着しちゃいましたし……」

「今更変えるのもにゃぁー」

 諦めろ、と周囲から返された暁は項垂れ、どうしてこうなったのかと考える。いや考えるまでもなく、吹雪が教官長と呼んだのを川内が真似して、多摩や霰がそれに乗っかったせいなのだが。

「あなた達ってそんなにノリ軽かったかしら……多摩なんてほとんど猫みたいになってるし」

「猫じゃないにゃ」

 そうは言うが、彼女はもうとっくに時期も終わったというのに自室にこたつを置き、中で丸くなっているところを目撃されている。さらには普段からにゃーにゃー言っているため説得力がまるでない。

 多摩に限った話ではないが、艦娘達は良くも悪くも自身の艤装と繋がる中の人の影響を受けやすい。おかげで一部の自衛隊員は口調が酷い事になっていたりするが、実害はないので無視されていたりする。今のところ性格や思想そのものに多大な影響はないとされているが、怪しい物だと考えている人間は少なくなかった。

 招集された娘達には伏せられている、どころか自衛隊員たちも実際の所は何も伝えられていないのだが、多摩のような影響の顕著な者が身近に居るため確実に何らかの干渉を受けているのだろうと多くは勘付いていた。

 尤も、だからと言って使用を止めるような選択肢が存在しないのが現状である。本人の自我にまで影響が及ぶようなら変わるかもしれないが、今のところは目立って悪い影響というのも特に見受けられない。精々語尾がクマになったりちょっと料理に興味が出たり姉妹艦と仲良くなったりする程度なのだ。そもそもどういう訳だか元から集合無意識内の艦娘と近い性格をしている者も多いので、実態は闇の中である。

「本土の収集ばっかりだったみたいだから知らないでしょうけど、最近は割とこんなもんよ。というか、訓練所でのあなた達も大差なかったと思うんだけど」

 飛鷹が直掩機に周囲の警戒をさせながら先週までの様子に言及した。暁も心当たりがないでもない。妹艦三人とはかなり気安い関係になっていたし、昔よりも感情的というか、感情が表に出やすくなったような気はしているのだ。

「あ、あの、教官長……足元……」

 潮に言われて床を見やれば、わらわらと走り回る妖精さんの一人が暁の靴と甲板に挟まれていた。慌てて足を退けると、潮にたすかりもうしたと頭を下げてわらわらしている中に消えて行った。吹雪の交代要員として船に乗せられているため、助かったのかどうかは微妙な所である。

 妖精さんの中でも耐久力に自信のある娘が集められているらしいのだが、自称であり、実際どう違うのかは宮里提督もよく分かっていないらしい。そもそも自信があろうがなかろうが死んだりはしないのでそもそも意味があるのかも不明である。

 そんな妖精さん達を眺めていると通信機に掃討完了の知らせが入る。島内全域の調査が出来ている訳ではないが、とりあえずこれで上陸は出来るはずだ。

「それじゃ、こいつの初お披露目だね」

 川内がゴーグルのようなものを弄びながら楽し気に笑う。暁はその新装備よりも、吹雪の報告から双子棲姫なる姫級の名前が出た事の方が気になった。

 

 

 

 

 

 敵に見つかってると思ったら姫級に熱烈歓迎された。いや普通に海岸に居たからびっくりしたわ、どうなってんだこの海域、地獄か何か? 二人居たから別々に撃ったら二人で一人の深海双子棲姫だったらしく、一発で艤装は吹き飛んだものの二発目の当たった片割れしか倒せなかった。一発目で艤装は大部分が吹き飛んでいたのだがそんな状態でも機能は停止していなかったらしく、おかげで大量の発艦を許してしまったんだが、魚雷の代わりに積んでいた機銃が役に立ってくれた。

 私の機銃は威力は普通よりちょっとある程度で、弾速もさほど速くない。集弾性なんかはむしろ悪いくらいで、代わりに有り得ないくらい連射速度が速い。結果どうなるかと言うと、狙わずに撃った場合私の正面に円錐状に拡散する弾の壁が広がる。最初に自分で見た時はショットガンか何かかと思った。

 連装砲に比べると射程でも威力でも遥かに劣るのだが、一気に複数の相手を狙えるという利点がある。連装砲は二体ずつしか狙えないから航空機相手ならこっちの方が便利ではある。

 ではなぜ最初から積んでいなかったのかと言えば、燃費が滅茶苦茶悪いからである。私のAIM速度と精度だと全弾当て切るのはちょっと難しく、連射が早すぎてタップ撃ちとかも無理……妖精さんが対応しきれないのだ。そのためベルト一つ分撃ち尽くす勢いで目の前の敵を殲滅するしかなく、早々に弾が尽きる事になってしまう。それなら連装砲で一体ずつ狙い撃った方が良いだろうってなった結果なのだ。

 今回は護衛一人で航空機絶対落とすウーマンにならないといけないから持ってきたのだが、敵が大量展開してきた時にはかなり使えた。姫級相手にはいいかもしれない。

 余談だが、生き残ってた双子の片割れは艦載機出した後、リロードの終わった連装砲で撃ち殺したので姫の方が艦載機よりも先に死ぬという悲劇が起きていたりする。

 

 

 

 暁教官長率いる収集部隊が上陸を果たし、川内さんが意気揚々とメカメカしいゴーグルを被って電源を入れ、島の奥や周囲の地形を見渡した。どこか楽し気な感嘆の声が上がり、とりあえず居ないみたいだよとみんなに呼びかけた。双子の死体を調べていた教官長達から了解と返ってくる。

 川内さんが付けているのはこの度宮里艦隊で試用する事になった、暗視装置である。サーモグラフィ的な見え方で昼間でも夜でも潜伏している深海棲艦を見分けられる……かもしれないのだとか。

 そう、この間レ級がアンブッシュからの奇襲をしてきたという報告を受けて、対策に上の人達が用意した普通の暗視ゴーグルの、なれの果てである。

 一昨日の時点で送られてきて、昨日テストしてあんまり効果が見られず、使えなさそうなら弄らせてくれと言って引きずられてた方の明石さんwith妖精さんズが一晩でやってくれた艦娘専用対深海棲艦暗視ゴーグルなのだ。

 ちゃんと働くなら頼もしいのだがこのゴーグル、扱うのに特殊な適性が必要というちょっと扱い辛い物に仕上がっていて、この部隊だと川内さん以外には扱えない。しかも装備スロットを使う。

 この世界の艤装は艦これのそれよりも未改造状態で装備を積めるのだけど、本体から離して使う連装砲なんかも、扱うための機構を本体側に設置しなくてはいけない。砲塔が手元にあるのに弾がどこから来るのかというとその本体側から霊的に送られてくるのである。霊的に接続されてるんだって妖精さんが言ってた。すげぇな霊。

 これは島風の連装砲ちゃんなんかも例外ではなく、島風側にも連装砲ちゃんの弾薬が格納してあったりするのだ。その分他の武装があまり積めなくなるので、島風自身は主砲を持たずに訓練してみたりもしていた。どのみちレーダーとか魚雷とかの方が得意だったしな島風。

 ドラム缶も特殊装備の内に入り、使用のための機構を艤装に取り付けないと上手い事資源を格納出来ないらしい。なので、戦力と回収量はトレードオフになるのだ。本来は。

 ともあれ、川内さんは居ないというし私も気配を感じないので、船を鳳翔さんに任せて霊地に向けて出発となった。目的地までのナビは羅針盤妖精さんにお願いである。羅針盤の有用度高いなぁ、スロットも食わないし。

 

 周囲を警戒しながら十二人でドラム缶を担いでしばらく行くと、谷間のようになっている所があり、その下が収集地点になる霊脈だと妖精さんが教えてくれた。艤装を起動しているので飛び降りればノーダメージで着地出来るが、問題は帰りである。

 下から谷間を海の側へ歩いて行けばそのうち島の沿岸に辿り着いて、大回りで船へ帰れるかもしれないが、かかる時間が未知数なのだ。今日回る予定なのはこの島だけでも他にもう一か所、他にも行きとは違うルートで海上の霊脈を通っていく予定なので、あまり時間をかけたくないというのが私達の本音である。

 どうしましょうかとみんなで相談した結果、暁教官長が出した案が採用された。本人が採用されてドン引きしていた。

 

 ささっと紐無しバンジーして、下の安全を確認。何も居ないのを確かめて合図を出すと、収集部隊の皆さんも空母の飛鷹さんを残して飛び降りて来る。川内さん以外はみんなちゃんと着地できてなかったけれど、埃を払うと素早く資源の収集を始めた。

 私と飛鷹さん、川内さんを除いた九人が収集に当たり、私達は周囲を警戒する。飛鷹さんはともかく何故川内さんが収集に参加しないのかと言えば、彼女は私が大破したり何らかの理由で航行不能に陥った場合に私を回収する役割を持っていて、収集用装備ではないからである。そのため缶とタービンもちょっと他と違うらしい。

 川内さんは適性値が戦闘部隊の水準まで届かない自衛隊員の中では最高の部類で、速さだけなら精鋭部隊の高速艦と遜色ない程度だった。そこへ速度特化の改装を行ったため、私の知ってる中でもかなり速い部類となっている。その代わり攻撃力とかはほとんどないらしいが。

 本人は半端者でも役に立てるみたいで良かったよと言っていたが、私から言わせて貰うなら、まともに戦えないのに海に出て哨戒したりしてくれてる人達は半端ではないと思う。

 暫くして収集が終わる。九人でやったからかそれほど掛かってはいないが、その分多く回らされるのでみんな急いで動いている。片付けもすぐに終え、それじゃあやってくれと言われたので、とりあえず教官長から抱え上げて、崖の上まで跳躍した。

 上の飛鷹さんの所に教官長を降ろして、大丈夫か聞いてみるとこないだのより大分マシと返答された。やっぱりキツかったんですねぇ。

 その後八往復してみんなを上に運んでいると、その間に川内さんだけ自力で登攀し切っていた。ジャパニーズNINJAの末裔か何かだろうか。

 

 島のもう一か所の収集場所へ向かう途中で何かが蠢く音が聞こえてきて、私は隊の歩を止めさせた。忍び足で音の方へ近寄ってみると、海岸線で深海棲艦たちが例の黒い箱を輸送艦へと積み込んでいるのが見えた。

 全員撃ちぬいて箱だけ回収して戻り、皆で目的の霊脈へ向かったのだが、やはりと言うべきか収集されたばかりでほとんど資源は残っていなかった。それを敵からぶんどったのでむしろ時短になったわけだ。

 じゃあ用事終わっちゃったから船へと戻ろうとなった時、川内さんが敵航空機を発見した。そいつは島の外からこっちへやって来た偵察機のようで、さっきの敵収集部隊の異変に気付いて派遣されたものかもしれなかった。

 どうするべきか迷ったが、教官長が倒せそうなら空母ごと倒してきて欲しいと言うので、そうした。

 空母ヲ級を倒してじゃあ戻るかと思っていたら、鳳翔さんの残った船の方から敵艦発見の知らせが飛んできたので、妖精さんに断って全力疾走。辿り着いたら既に妖精さんを積み替えてる暇のない距離だったので拳を振るって解決させてもらった。この方法に限る。

 

 その後、討伐例の無かったらしい双子棲姫の死体も積んで島を後にすると、海上の霊地を回りつつその場その場で見つけた敵を撃ち倒し、私達は鎮守府へ帰り付いた。

 これにて午前の部終了である。当然午後もあるのでお昼を食べて少し休憩したら出発になる。私の仕事は概ねそんな感じで、非常に遣り甲斐のある仕事と言える。

 

 

 

 収集部隊の皆さんとお昼を頂いていると、天龍さん率いる水雷戦隊も午前の仕事を終えて戻ってきた。話を聞けば、一昨日から今日までで敵拠点に通じるルートは確保出来たとの事で、明日にも戦闘部隊総出で拠点をぶっ壊しにいくのだそうだ。

「吹雪は通常通り、護衛の方に専念させると提督は言っておったぞ。わらわ達でやり切れると判断したようじゃのう」

「あ、そうなんだ……」

「まあオレ達に任せときな。近くの拠点が無くなればそっちも楽になるはずだぜ」

 そうは言うが、戦闘部隊の面々は割と艤装を壊して帰ってくるのだ。大破までは誰も行っていないようだが、天龍さんなんて毎日一度は被弾している。そんな事を思っているのが顔に出ていたのか、曙が鼻を鳴らして私に言った。

「こっちは二十人以上いるのに、アンタ一人に心配されるような謂れはないわよ」

「別に変色海域に行くわけじゃないしー、大丈夫よー?」

 山雲も心配するなと言ってくれる。まぁ確かに、これで私が居ないから駄目でしたとか言われたら日本は完全に詰んでた事になるので大丈夫だと思いたい。思っていいよね?

 

 翌日の収集場所はやろうと思えばみんなの救援に向かえる所だった。提督も心配してたのね……

 私が気もそぞろに敵の飛行機を撃ち落していると、教官長がこっちのルートで行きましょうかと戦闘部隊の目的地に近い方を通ってくれた。特に私が呼び出されるような事もなく、少しだけ遠回りになったけど、拠点に向かうと思しき連中から資源強奪出来たので良かったと思います。

「教官長って吹雪にちょっとだけ甘いよね」

「あれくらいいいでしょ、損失も無かったし」

「班長にされた理由が分かりやすいですよね」

 なんて会話が聞こえたりもしたが、確かに知らない人より話しやすくて助かっているから、教官長には悪いけど付き合って頂きたい。

 

 

 

 結果的に拠点破壊作戦は小破二名、中破四名、大破一名、轟沈一名で終わった。

 轟沈したのは深雪。本人曰く、魚雷の当たり所が悪かったとの事。滅茶苦茶痛かったらしいが大きな怪我はないようで安心した、

 うん、この世界って艤装の轟沈=死ってわけじゃないのである。轟沈する直前、艤装は最後の力を振り絞ってダメージを相当受け止めてくれて、艦娘にはほぼダメージが行かないのだ。もちろん威力が高すぎると貫通するらしいけれど、大破状態から無理矢理進軍でもしない限りそんな事にはまずならないとの事である。

 大破進撃ダメ、ゼッタイ。

 ちなみにこれで死なないかと言うとそうでもなく、艤装が無くなればそのまま海に放り出されるわけで、味方が拾い上げてくれる状況じゃなければそのままお亡くなりになる。なので普通に危なかったはずなんだが、本人の表情は至って明るいもので、むしろ自分の艤装に乗っていた妖精さんがどうなったのかが心配なようだった。

 なお生き残ったとはいえ艤装をロストした事には変わりなく、深雪は代わりの艤装が送られてくるまでお休みである。鎮守府で建造してもいいらしいんだけど、深雪の艤装は余っていて替えがあるのでそっちを先にという事らしかった。

 

 この海域には同じような拠点があと十個はあるらしいんだけど本当に大丈夫なんですかねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

「オーッス、ホッポチャンヨー、ソロソロドウスッカ決マッタカー?」

 転生北方棲姫の住処に数日前から入りびたり、好き勝手に生活している厄介者が今日もやってきた。

「ダカラ、ワタシニ何ヲサセルノカ教エテクレナイト答エラレナイノ!」

 あの日、ホラーゲームか何かかと思うようなシチュエーションで家に入り込んだそいつは泣きじゃくる北方棲姫を落ち着かせると、自分達の所で一緒に働かないかと勧誘を仕掛けてきたのである。

 お国のために転生者仲間で一緒に働こうぜと嘯くそいつに、驚きながら具体的に何をするのか聞いてみると、聞いてないから知らないなどと宣ったので、北方棲姫は脅かされた怒りもあって突っぱねた。そうしたらそいつは毎日遊びに来るようになってしまったのである。

「床抜ケルカラ艤装シマッテ」

 北方棲姫の方も人恋しかったので来てくれるの自体は吝かではなく、玄関まで迎えに出て招き入れると前日にもした注意をまた口にする。気を抜くと尻尾の艤装と一緒にくつろごうとするので初日は大変だったのだ。

「分カッテルヨ……ソレト、今日ハ色々許可貰ッテ来タカラ説明シテヤレルゾ」

 普段しているにやけ面を少しだけ真面目なものに変えて言う。北方棲姫は思った事が口に出た。

「最初カラソウシテヨ」

「ゴモットモデ」

 言ってケラケラと笑う転生者、戦艦レ級に、北方棲姫は思いっきりため息をついてやった。

 

 

 

「ソレデ、何ヲ話シテクレルノ?」

 居間で茶を出すと、対面に座って話を始める。椅子が結構高いため、足が浮くのはご愛嬌だ。

「オ前ノ仕事内容ト、ウチノ大将ノ名前以外ナラナンデモイイゾ」

「一番知リタイ所ダヨソレガ!」

 結局何をするのかは教えてくれないらしいと聞いて、北方棲姫は両足をバタつかせた。

「大将ガ自分デ教エルカラッテ言ウンダカラ仕方ネーダロ。オレニモ理由ハヨク分カンネーシ」

「ジャア、アナタ達ノ人数トヤッテ来タ事ヲ教エテ!」

 それなら言えるぜとレ級は笑う。深海棲艦特有の白い肌と白い歯が光る。

「マズ人数ハ、オレト大将ノ合ワセテ二人」

「少ナッ!?」

「オ前デ三人目ナンダヨナァ、吹雪誘ウ訳ニ行カネーラシーシ」

「……ン、吹雪ニ声掛ケタリシテナイノ?」

 どう見ても転生者なのに。深海棲艦限定の集まりにでもするつもりなのか、と北方棲姫が疑問を口にすると、レ級はしまったという表情になった。

「言イ忘レテタケド、ホッポチャン、絶対ニ吹雪ト接触スルナヨ」

「エ、ナンデ? 殺サレルカラ?」

「イヤ、オ前ノ能力ナラ殺サレナイヨウニ話セルダロ……ソージャナクテ、深海棲艦ニ転生者ガ居ルト思ワレルノガ不味インダトサ」

 一瞬でも撃つのを躊躇されると良くないらしい、とレ級は語る。それだけ深海棲艦が強力なのか、北方棲姫にはよく分からなかったが、それよりも聞きたい事が増えた。

「ナンデ私ノチート能力知ッテルノ……?」

「大将ガソウイウ能力ナンダヨ、ナンデモ『やたらと みえる』ラシイゼ。オ前ノ居場所モソレデ特定シタンダト」

「エエ……ナンカズルイ……ジャアレ級ノ能力ハナンナノ?」

 私だけ知られてるのはなんか嫌だと言う北方棲姫に、レ級は待ってましたとばかりに笑みを深くした。

「見逃スナヨ」

 短く告げて、レ級の姿が掻き消える。あれ、と思う間もなく、北方棲姫の耳元に、冷たい吐息が吹きかけられた。

 ホワァ!? と変な声が出た北方棲姫が振り返ると、そこではレ級が楽しそうにケラケラと笑っていた。

「私ト同ジ能力……?」

「残念、違ウンダナァ」

 瞬間移動なんてしてないぞ、とレ級は笑う。もっと簡単に、普通に回り込んだだけだと言う。

「オレノ能力ハ『ちょう はやい』ッテナ。分カリヤスイダロ?」

 分かりやすく強力な能力である。北方棲姫は吹雪の高速弾を捉える事が出来る程度には動体視力が高い、それが油断していたとはいえ全く影を捉えられなかったのだから相当に速い。人類の敵だったらヤバい奴だと今更ながらに北方棲姫は認識した。

「他ニモ早口言葉トカ得意ダゾ」

「ソノ情報イルカ?」

 思わず言ったが、人類の脅威にはならなそうだな、とちょっとだけ安心したので必要だったかもしれない。

「ア、ジャア吹雪ノチートモ知ッテタリスルノ?」

「ア~~~~知ッテル知ッテル。アイツハ『なんか つよい』ダッテヨ」

「ソレハ……強ソウダネ」

「コメントシヅレーヨナ」

 本人の預かり知らぬ所で秘密が拡散されて行く吹雪であった。

 

「ンデナンダッケ、今マデノ活動?」

 席に座りなおしてレ級が続ける。北方棲姫が頷くのを見て、腕組みして考え出した。

「エ~ト……最近ノヲマトメルト……世論操作?」

「世論操作!?」

 予想外の活動内容に北方棲姫が目を見開いた。その能力で世論操作ってなんなんだと。

「イヤ待テ、コレハ言ッチャ駄目ナ奴ダッタワ。忘レロ」

「無理ダヨ!?」

「アア、ソウダ、埋護姫倒シタワ」

「ア、アレ倒シタノレ級ナノ……デモソレヨリ世論操作……」

「忘レロ」

 いいから忘れるんだという絶対に話さないという鉄の意思と鋼の強さを感じるレ級の態度に、北方棲姫はとりあえず聞きだすのを諦める事にした。もちろん今後追及するつもりである。

「オレモマダ大将ニ拾ワレテ半年クライダシナァ。ヤバイ所ノ穴埋メトカシテタンダケド、最近艦娘ガ増エタカラソッチニ任セテ他ノ事シテンダヨ」

「私ノ勧誘トカ?」

「ソウソウ」

 もっと前に来ればよかったのに、と北方棲姫は思わなくもなかったが、下手なタイミングだと視界に入った瞬間に逃げていた可能性もあるので何とも言えない。

「今日モコノ後、別ノ奴迎エニ行クゼ。オ前ノ僚艦ノ予定ノ奴」

「ウン、チョット待ッテ……」

 北方棲姫は頭が痛くなってきた。

 

 

 

「コンナ場所ニ居ルノ?」

「居ル……ラシイゾ、オレノ能力ジャネーカラ本当カハ知ラン」

 戦艦レ級とその小脇に抱えられた北方棲姫はとある島の海側からしか入れない、ゲームのダンジョンのような洞窟へとやって来ていた。深海棲艦はそんなに夜目が利かないため、奥の方はよく見えない。

 帰りが楽になるから一緒に行こうぜとレ級の脇に抱えられ、家を飛び出し、音速を超える速度で一緒にここまでぶっ飛んで来た北方棲姫だが、道中でさんざん恐怖の涙を流したため、今は結構平静に戻っていた。

「アア、ヤッパ居ルゼ。耳澄マシテミナ」

 言われた通りに音に集中してみると確かに、奥の方からなにやらベーイベーイと鳴き声とも泣き声とも区別のつかない何かが幽かな波音に混ざって聞こえてきていた。

「正体ガネタバレサレタ気ガスル……!」

「アッレェ……? 深海棲艦仲間ッテ聞イテタンダケドナァ」

 訝しがりながら尻尾の艤装から探照灯を照射すると、レ級は北方棲姫を抱えたまま奥へと進んで行った。

 

 

 

「ひぇっ……! だ、誰!? 人間……? ぼ、ボクはガンビア・ベイ、ただの迷子のアメリカの艦娘だよ!」

 少しだけ奥に行った所で、探し人は見つかった。探照灯に照らされて、照らした側の様子は逆光でよく見えなかったらしい。人間だろうと勘違いしている。

 ツインテールにされた白い髪、目の色もなんとなく全体的に白っぽい。そいつは肩の出た服を着て、周囲に浮き輪のような何かを侍らせ地面に座り込んでいた。

「オマエノヨウナガンビア・ベイガイルカ!!」

「あ、ああ……!? 深海棲艦!? もうだめだぁ、おしまいだぁ……」

 流暢に喋ってはいるが、明らかに艦娘ではなく深海棲艦の特徴を持っているそいつは、レ級の籠った様な声の調子で二人の正体に気づいてしまった。浮き輪のような深海棲艦を抱きしめて、涙を流して震え出す。

「上司ノ人ノ情報、正確ミタイダネ。ダッテコノ人……」

 どう見ても護衛棲水姫です。本当にありがとうございました。

 

 

 




地獄(吹雪とランダム遭遇する)
ガンビア・ベイを名乗る不審者ってやろうと思ったら幼女を抱えたまま探照灯振り回す奴の方が不審者になってしまいました。
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