転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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×収集 〇強奪

 ヤター鎮守府でのネット環境できたよー。

 深雪が轟沈したわーとか言いながら食堂に入ってきてリアルにお茶吹いたその日の夜、酒保からようやく届いたノートPCの環境設定をパパっと済ませて、曙と相談して置いたテーブルの上で久しぶりにネットサーフィンを行った。タッチパッドがちょっと使い辛い。

 お気に入りの絵師の居場所とか探しなおすのは苦労したけれどノートは結構快適に動いてくれて、性能面では不満が無い。オンボードなので3Dモデル処理の要るゲームなんかはまともに出来ないだろうけど、そもそもそんなのやってる暇はないしな。マウスとマウスパッドだけは今度買おうと思ったけど。

 巡回予定のサイトを一通りブックマークして、やってまいりましたエゴサのお時間です。正直やらない方が精神衛生に良い気もするけど、やらずにはいられない微妙な乙女心である。私は中身男だけれども。未だに女の子の自覚あんまりないんだよねぇ不思議な事に。

 伊吹スペース雪と入れて検索スタート。トップに躍り出る自衛隊のホームページ。まぁ、そうなるな。検索候補に伊吹 雪 かわいいとかあるのは見なかった事にしておく。

 自衛隊は特に目新しい情報は公開していなかったので次へ行く。開いてみたらまとめサイトのようで、この間の事件の事がかなり詳細に纏められていた。私の名前とか教官長の名前とか飛鷹さんの階級とかまで載っている。教官長結局特定されたのか……ドジっ子扱いされてるの可哀想なんだけど。大丈夫? 訓練所に戻れる?

 ネット上には私の情報も増えていた。どういう訳か訓練所での様子が一部漏れていて、他の娘達を一人で相手取って訓練していた事まで書かれている。知られて何か問題のある話ではないだろうけど、どっから流出したんだこれ。同期の誰かが書いたのかなぁ。

 ついでに掲示板の方も覗いてみると、一話丸々霰さんに雑コラされたスランプしてるドクターな漫画とかが投稿されていた。作った奴暇過ぎませんかね。

 あと地球割るシーンだけ私になってるのはなんなん。

 相変わらず書き込みはふざけている物が多いが、どういうわけだか以前より召集の是非の書き込みとかは減っていた。私が醜態を晒したあの事件のインパクトが弱まればまた増えるような気はするけど、せっかく公開されちゃったんだし出来るだけ長持ちしてほしいものである。無関係のスレにまで出没して議論するから邪魔な事この上なかったからさ。

 でも音MAD作るのは止めて欲しい。まともなのが売ってなくって良いイヤホンじゃないんで音漏れが怖いから音量小さめにして見るしかないじゃないか。

 

「何その動画……」

 音声を無理やり合成して喋らせる動画からタグを辿ってどれくらいネタにされているのか調べていたら、後ろから曙の呟きが聞こえた。振り返ってみると、眉を寄せて心底理解できないといった表情で画面を覗き込む曙と目が合った。結局音が漏れてたっぽい。

「ごめん、うるさかった?」

「音はそれ程じゃなかったけど……それ、吹雪を馬鹿にしてるのよね?」

 なんでそんなの視てるの? と名状しがたい物を見るような目を向けてくる。御尤もである。

「興味本位?」

「嫌じゃないの、そういうの」

「かなり恥ずかしいけど……別に、馬鹿にしてるとか貶めたいとかそういうのじゃないし、構わないかな」

 こう、メンタルに来るものはあるんだが、それ以上にコメントが滅茶苦茶明るいのでいいかなって気分になるのだ。暗いニュースばっかりだし、私としてはネタ動画が増えてくれるのは嬉しい。私以外が素材だともっといいが、動画に撮られた私の声は自分で出して自分に聞こえるそれとはまた趣が違い、正直他人の声にしか聞こえない。なのでそれほど嫌悪感とかも無いのだ。

 でも曙には、説明してもあんまり理解してもらえなかった。そりゃあそのはずで、書き込まれた文章は草が生えてたり性的な事を想起させる内容だったりして、一見すると嘲笑されてるように見えてしまうのだ。ネット上の文化を理解してないと悪意や敵意から作られたものではないと分からないだろう。俺の股間にもパンチしてくださいとかレベル高すぎるだろ死ぬぞ。

「でもそいつら、良い事しても悪い事しても文句ばっかり付けるじゃない」

 確かに。どんなものでもとりあえず物言いがつくのがネットの悪い所であり面白い所である。動画の範囲内だと人助けしかしてない私も批判されるくらいだから筋金入りだ。ただ、それがどこまで本気なのかというと別問題で、本気でそんな事言ってる人なんて一割も居ないだろうというのが正直な感想である。

 何せ、某ちゃんねるなんて五割が全文読まないでスレタイだけで判断して書き込んでったりする場所だからな!!

 正気の人がただの遊び場だと理解せずに見たらそりゃあすれ違う。おふざけと悪ノリとマジレスと煽りの間隙から本当の考えなんて導き出せるはずもない。一見で理解出来たら天才だ。メンタリストになれますよ。特に最近ストレスでも溜まってるのか以前より色々激しいし、むしろ昔に戻ってる感じがする。

 という内容を比較的オブラートに包んでただ私の心配してるだけの曙に言ってみたが、納得はしてもらえなかった。言葉の端々から嫌悪感を感じるので、以前に何か嫌な物でも見たのかもしれない。

 とりあえず良いイヤンホホかヘッドンホホも取り寄せてもらおう。もっと変な動画見る予定だし。

 

 

 

 あくる日、戦闘部隊が取り戻した深海棲艦が拠点として使っていた島に赴いた私達は、そこに集められていた資源を回収すると次の島に向かい、そこの敵を殲滅したらその島にも資源が集められているという幸運に出くわした。

 やってる事が採掘とか採集とかじゃなくて強盗になってるけど、効率はとても良いので助かる。悲しむ人も居ないしな、悲しみそうな集積地棲姫は資源と一緒に船に積み込んであげたし。

 しかしこの集められた資源はどこかに送られる予定だったんだろうかと教官長達と話していると、偵察機からこちらに向かう輸送艦発見との一報が。やったぜと思って倒してみたけれど中身はからっぽで、荷物を取りに来た奴だったんだろうと思われた。こいつが本部か別の戦線か知らないけど何処かへと運ぶ手筈だったんだろう。

 そんな事をやっていたら船の積載がギリギリになってしまったため、一旦鎮守府に帰港して荷物を降ろして再出発。次に戻って来れた時はもう三時を回っていて、おかげでお昼がだいぶ遅くなってしまった。

 

 結局午後の便も終わるのが遅くなってしまい、帰ってきたらもう深夜一歩手前。明日も早朝からお仕事なのでさっさとお風呂入ってご飯食べて報告書書いて寝なきゃいけない。一人部隊の旗艦だからちょっとした書類仕事があるのである。齢十三にして前世より社畜してる。

 駆逐艦だしちゃちゃっと入浴を済ませて食堂へ赴くと、長門さんが赤い顔でテーブルに全身を預け胡乱な目でコップを握りしめており、その様子を肴に隼鷹さんが日本酒を嗜んでいた。奥には宮里提督と龍驤さん、テーブルを繋げて加賀さんに夕雲さんと秋雲先生も一緒に卓を囲んでいる。戦闘部隊の成人組と提督で飲んでいるようだ。

 私に気づいた提督がお疲れさまと声を掛けてくれたのでお疲れ様ですと返すと、隼鷹さんが吹雪も飲む? と言って来た。本気な訳もないので軽くお断りして自分の食事を始めると、長門さんがふらふらしながらこちらへ歩み寄りがばっと抱き着いて、こんなに小さいのに吹雪は頑張ってるなぁ……と私の頭を撫で始めた。長門さんが大きいだけで私は年齢別で平均くらいである。

 提督が酔いの回った長門さんを私から引き剥がし、ごめんなさいねとおっしゃるので、長門さんは褒めたかっただけみたいなので別に謝る必要は無いですよと伝えた所、提督にも撫でられてしまった。さてはこの人も酔ってるな?

 二人が席に戻ったので食事を再開すると、秋雲先生が向かいの席にやって来て近況を質問された。まぁ忙しいけどそれほど苦労はしてないですよと返答して、こちらからも戦闘部隊の事を聞いてみると、昨日成功したのでまた敵戦力を削りながら次の島を攻略していく事になっているらしい。深雪の事もあったので心配なのだが、私達も日ごとに強くなってるし絶対大丈夫だよと秋雲先生は胸を叩いた。

 

 食事を終えると本格的に長門さんが駄目になっていて、龍驤さんも椅子に寄りかかって眠ってしまっているのが見えた。提督が部屋まで送ってきますねと長門さんを背負い、食堂を出るのが私と同時になった。

 提督だって酔っているように見えて心配なので、歩調を合わせて一緒に行く。吹雪ちゃんは優しいですねと提督は言うけど酔っぱらい二人を放置する方が精神衛生的に悪いと思うの。っていうかちゃん付けになってるし大分回ってますよね提督。

 途中収集部隊の面々とすれ違い、一階を過ぎて階段を上がると廊下の電気が消えていて真っ暗だった。灯火しようにも電源の位置が分からなかったので、仕方なく手元で明かりを点けると宮里提督が驚いたように声を上げた。

「何ですかそれ!?」

「ああ、無効化貫通能力を圧縮すると光るんですよ」

 何ですかそれ!? ともう一度言った提督に説明したけど、感覚的に理解が出来ないようだった。まず自分の体に貫通付与とか考えたことが無かったらしい。

「そもそも艤装以外に供給できるなんて聞いた事が無いですし……」

「たぶん艤装無しで出来るのは提督の人だけだと思います。魂から艤装へのラインに流すのではなくて、自分の体に直接回す感覚でやってます」

 暫く廊下で試してみたが宮里提督には上手く光らせられないようで、それ以前に自分の体に無効化貫通能力を流せないようだった。あれ、もしかしてこれが提督としての私の得意分野なのか?

 

 

 

 そんな事があってから大体一週間。戦闘部隊は一つ二つと着実に敵の拠点となった島を開放し、収集部隊も活動範囲を広げて行った。

 私はそのうちは敵の数も減るんだろうと思っていたのだけれど、活動場所が移り変わるおかげか新鮮で活きの良い深海棲艦が毎日のように大漁だった。毎日のように姫か鬼に出会うくらいには大漁だった。

 敵の数もそうなんだけど、変な方から来たりもするので走る回数が増えて妖精さんの替えが足りなくなり、収集部隊の人達から分けて貰うなんて事態にも陥ったりした。

 そうやって深海棲艦を拳で倒していて、ふと、殴ってばっかりで他の事をあんまり試してないなぁと思ったので、チョップしてみたり踏み潰したり蹴り砕いたりしてみたのだがいまいちしっくりと来ない。鎮守府に帰り付いてから、どうしてでしょうと教官長に相談してみたら川内さんが話に乗ってきて、とりあえず各攻撃法を見せてみる事になった。パンチ、キック、チョップ、スタンピング、とりあえず海の上でやって見せたら、川内さんはフォームひっどいねと呆れたように笑った。

 カラテの有段者であるらしい川内さんに手取り足取り矯正してもらうと、確かに動きが引き締まった感じがする。一時間くらいだけどいろいろ教えて貰って、結果的に全体的に隙とか減った気がするので今後も習えそうな事はご教授賜りたい。チート能力さんが結構な速度で吸収してくれるしね。

 川内さんに本格的にやってみないか誘われたが、それは相手がヤベー事になる気しかしないのでちょっと。川内さんフルコンタクト派らしいし。

 

 

 

 ある日、いつも通りに遭遇した深海棲艦を倒していると、飛行場姫(五日ぶり三度目)と遭遇したので倒したら、珍しく胸の方に穴が開き顔は無事な死体が出来上がった。私は基本的に姫級は連装砲の左右で顔と胸の両方を狙うんだけど、大抵は胸に先に命中して艤装が損壊→顔面に当たって致命傷の流れになる。でも今回は逆だったらしい。

 収集を終え、私が周囲に残っていないか警戒していると、綺麗な顔した死体を検分していた暁教官長が飛行場姫の目を閉じ、汚れを払ってやっているのが目に入った。

「ああ、気になった? 敵だけど、流石に死んじゃったらね」

 こちらが見ている事に気が付いて教官長が苦笑いする。私はそういうの全然気にしてなかったからちょっと新鮮だった。

「女の子ですもんね、一応」

「女の子……なのかしら、深海棲艦って」

 教官長は思案顔になったが、すぐに気を取り直して飛行場姫を持ち上げ船の方へと運び出した。

「どうして攻めて来たのかは知らないけど、この後たぶん解剖されたりするんでしょうし、最期の身だしなみくらいは……って思っただけだから、手加減とかしたら駄目よ?」

「あ、それは大丈夫です」

 深海棲艦殺すべし、慈悲はない。とまでは言わないが、よほどの理由が無ければ躊躇しないと思う。それで身内や仲間が死んだら泣けもしないし。

「姫級相手にそんな情けを掛けてられるの、ここくらいよね」

 飛鷹さんの呆れた声に同意の声が多数上がる。教官長も確かにと頷いた。

 そうは言っていたけれど、後々よく見るようにしてみたら、収集部隊の皆さんは結構そういう事をやっていた。何と言っていいか分からないけど、嫌いじゃない。

 

 

 

 という事があってから早二週間。戦闘部隊の人達は頑張って担当区域の拠点をほぼ制圧する事に成功していた。しかも最初の深雪以来轟沈は出なかったらしいし、本当に優秀な人たちである。

 私達も行動範囲がやたら広がって、午前中に出て昼をまたいで夜に帰る事も増えてきた。鎮守府の周りはだいぶ落ち着いてくれたようで、私が護衛していない収集部隊が近海を回り始めたりもしている。敵が来たら逃げるし慎重に航行しているから効率は今一つらしいが、やらないよりはだいぶいいとの事である。

 危なく収集部隊の船にまで辿り着かれそうになったものの最近上がり調子な飛鷹さんが一撃入れて怯ませている間に私が間に合う、なんて一幕があったりしたけど、なんとか今日も鎮守府に帰り着けた。資材の搬入と確認作業を行う収集部隊の皆さんと分かれ、一風呂浴びて食事して、倒した数とかを書類に記したら自由時間である。と言ってもネットするだけだけども。

 最近、漣から連絡があって艦娘専用のチャットルームが開設したとの事で、動画見ながらそこに入り浸るのがマイブームである。スマホでのグループもあるらしいんだけど私ガラケーだからうん。

 他の鎮守府の近況とかを聞いたりするんだけど、いろいろな証言をまとめた結果、どうもうちの鎮守府ってブラックなんじゃないかという疑惑が浮上した。

 漣の所とかは自分達から拠点に仕掛けに行く事なんてほとんどないらしく、そもそも範囲内に明確な敵拠点が見当たらないとか。これには秋雲先生も苦笑い。山風の所はそれよりは出撃頻度も拠点攻略もあったけど、姫級なんて一度見ただけで気が付いたらろーちゃんが魚雷で吹き飛ばしてたから戦ってないって言うし。待って、うちの鎮守府なんなの。

 と思ったら夕立の所の鈴谷さん曰く姫はともかく鬼は結構見るとの事で、初雪の所も金剛さんが主砲斉射したり三式弾で拠点ごと燃やし尽くしてなんとかしてるだけで十回以上は鬼級姫級と遭遇しているらしい。鎮守府ごとの難易度格差が酷い。

 ちなみにうちの戦闘部隊も合わせて十三体倒している。これで轟沈一回だけってなんだよエリートかよ。私が倒した分も入れたら次点の提艦隊にダブルスコア余裕なんだけど。本当にドコなんだよ……ここは……

 あと、死亡者なのだがこれが不思議と未だに出ていないようなので安心である。巻雲と清霜がMIAになって翌日に鎮守府近くの浜辺に打ち上げられてたとかそんな事はあったらしいけど。

 

 そんな感じでお互いの近況報告やら最近見つけた面白い動画とかの話をしてたら曙が帰って来たので、一緒になってネット上でお話する。目の前に居るので変な感覚だが他の娘とも話すから仕方ないのだ。

 暫く皆でキャッキャウフフしていると、鈴谷さんが新しいのあったよと画像を一枚貼り付けた。開いてみると、吹雪VS深海棲艦VSダークライのコラ画像だった。ダークライさんまた巻き込まれてる。

 どういうわけかこの人たち、艦娘関連のネタ画像を見つけてはチャットに張り付けてくから油断してると恥ずかしさがぶり返しそうになる。最近は慣れてきてネタ動画とかなら大丈夫なんだけど、元のアレを見せられると頭がおかしくなって死ぬ。

 そんな流れになるたびに難色を示すのが曙である。別に流れを遮ったりはしないのだがどうにも好かない様子で、貼られた画像を見てはこちらの様子を伺ってくるが、私はむしろ笑ってたりするので特にそれ以上何も起きない。

 ネット関連で何かあったんだろうけど、聞いていいのか分からない。というか、本名と合わせて大体何があったのか想像できちゃうのがなぁ。曙の名字は住吉っていうんだけど、深海棲艦が海に現れてから起きた事件で有名な物の中に、その名字の人が起こしたのがあるんだ。

 おばあちゃんが家に忘れ物取りに行って深海棲艦に砲撃されて、連れ戻そうとしたお巡りさんとかを複数巻き込んで亡くなったって話だから悪いのは完全に深海棲艦なんだけど、これがなんで有名なのかっていうと動画が残ってるからなんだよね。しかも曙のものらしき声も入ってる。

 まぁ叩かれましたよね、そのおばあちゃん。ボケが入ってたらしいから責めるのもどうかと思うんだけど、私の覚えてる限りでも見捨てろよとか死にたい奴は死なせとけよとかそんなのを見た覚えがある。しかもお巡りさんの方も叩かれたんだよ、意味分からん事に。たぶんそういうの見ちゃったんだろうなぁ。

 ちなみにその事件に巻き込まれたお巡りさんの名字は化野で、漣の名字も化野である。偶然かな?

 

 

 

 

 

 

 

 発足から三週間と四日。宮里艦隊は資源収集の目標を達成した。

 どうしてこうなった、と宮里 幸は回顧する。長門や龍驤に諦めないとは伝えたが、本来なら有り得ない事態で、期限まで少し残っている事に背筋が粟立つものを感じた。

 当初は普通の艦隊よりもかなり早いペースで集まっている程度で、あまりに高いノルマの前には無力に等しい収集効率だったのだが、事態が変わったのが五日目である。前日までに吹雪をほぼ単騎で運用し、限界がどこにあるのか大まかにでも把握しようとして失敗した宮里はその日、賭けに近い指示を出した。

 宮里には預けられた艦娘を最大限に有効活用する義務がある。そのために後ろめたさを感じながらも、収集部隊と護衛の吹雪に無理難題を投げかけた。

 それが未制圧の敵収集基地の強襲である。

 当然ながら不可能と判断される場合は各自の判断で即帰投、吹雪にも無理な事は絶対にしないようにと伝えられたのだが、当の本人はとても軽い調子で出発して行き、普段通りに制圧を完了した。

 その一報が届いた時、宮里は完全に理解した。ああ、本当に、次元が違う。吹雪の制圧した島は、前日に戦闘部隊が轟沈者まで出しながらようやく敵を排除せしめた地域と、大差のない戦力が存在していたはずなのだ。それこそ、初日の変色海域よりも数が多いくらいには。

 この子には、こちらが掛けなければいけない保険が枷にしかなっていない。いやそもそも、保険になっているのか怪しいものだ。彼女がどうにかされる相手に他の戦力を搔き集めた所で到底勝てるとは思えない。

 海から帰った吹雪はいつもと何ら変わらない様子で、いつもと同じように午後の収集へと出かけて行った。とても死闘を演じて来たとは思えない様子に、恐らくは普段とさほど変わらない作業でしかなかったのだろうと察する。その日の出来事を知った長門が慣れない酒に呑まれてしまったのを責める気にはなれなかった。

 翌日からはもう遠慮はなく、多少敵が多い地域にも吹雪を派遣して、それとは逆の方面へ戦闘部隊を展開した。それで問題なく回るのだから止める事も出来ない。宮里も変色海域ギリギリを攻めていく姿勢を見せたため殲滅はさらに加速した。

 収集部隊とは名ばかりの略奪部隊と化していたが、深海棲艦が悠々と集めたそれを掠め取るのは、さながら蜂の巣から蜂蜜を採集するかの如き素晴らしい効率を産み出した。

 また二週間も経つ頃には鎮守府近海からは深海棲艦の気配が消え、護衛を付けない収集部隊が出動可能になった事も収集速度に拍車をかけた。

 そして本日、収集部隊の戦利品を整理した結果、目標となっていた霊的資源の量に達してしまったのである。

 前提として敵が効率的な収集を行っていなければ成立しないやり方で、敵の減った今では同じ海域で同じ事は出来ないだろう。これ以上を求められたら毎日変色海域に繰り出すしかない。宮里としては流石にそれは勘弁願いたい所である。自分の脳内に艤装の状態が悪くなったと通知が来るたびに胃が痛くなる思いをするくらいなのだから。

 だがしかしである。経験を積み練度を上げ、姫級であっても斃してみせる戦闘部隊、その戦闘部隊と同等以上の戦果を挙げながら同時に護衛までこなす吹雪。異常な量を収め続ける収集部隊。この時、宮里艦隊の評価は既に、ちょっとおかしな事になっていた。

 

 それにしても、と宮里は思う。吹雪は戦力としても異常なのだが、それ以外も所々がおかしい。

 例えば書類仕事。便宜上護衛部隊の旗艦なために毎日提出させているのだが、これがどうにもおかしな点が見受けられない。間違っていないというのが間違っている。吹雪は十三歳の中学生でありこんな物を書き慣れているとは思えないのだが、忘れた事も遅れた事も特にない。

 例えば体力。ほぼ休みなく、妖精さんが尽きるくらいまで走り回っているはずなのだが疲れた様子は見えず、毎日休み明けのような顔色で鎮守府を出ていくのだ。余りにも元気過ぎて待機命令も出し辛いくらいである。

 例えば格闘能力。深海棲艦を拳で跡形もなく吹き飛ばすというのに、体の使い方は完全な素人だったらしいのだが、今現在では殴り合いで川内が普通に負けている。天才だわこの娘と川内は言っていた。魚型の深海棲艦を粉々にしないように殴り殺せるようになったそうである。

 弱点は自分からコミュニケーションを取りに行かない事だろうか。話しかけられれば素直な応対で返しているし必要なら質問も普通にしてくるが、自分から雑談を始める所は見た事が無い。そのため積極的に話しかけていく天龍はともかく他の艦娘達とは問題も起きなければ交友関係も築けていない様子で、概ね訓練所からの知り合いとばかり仲良くしているように見える。

 実力と自己評価が一致していない一面も見られ、過剰に他人の評価が高い……というか、自身への評価が妙に低いように感じる事もあるが、それは欠点か美点か微妙な所だろう。

 

 吹雪のような超適性の人間がどうして生まれたのか当然ながら調査はされているのだが、両親は人当たりの良い普通の人達で、生まれも育ちも異常性は無い。宮里にも回って来た調査報告によれば、学校での素行もある一点を除けば問題なし。今の所どうしてああなったのかは全く不明で、ただの突然変異的な物か、他の高適性者が周囲に存在している点から土地柄ではないかとも言われている。

 ある一点とは趣味嗜好の事で、三次元の人間に性的な興味が持てないと学内で公言していた事が判明している。友人は男性の方が多く、本人の趣味は男性的であり私服にスカート等の女性的なものは一切ない。無作法でないため公的な場では目立たないが、時折垣間見える所作はどことなく男の子のようで、化粧や装飾品にも興味を示さない。だが有体に言って美形であり、飾り気は無いが色気はある。そのためたいへんおモテになられるらしいのだが、本人はそれを嫌がっている。

 所謂オタク趣味であり、少年漫画や美少女漫画を好む傾向にあり、少女漫画や耽美方面に関しては興味が無い。アニメは動画配信派。なんでこんな情報があるのだろう。宮里は嘆息した。

 身体能力に関しては本人が秘匿していた節があり、百メートルを十秒で走りきる脚を持っている事などは両親ですら記録を出すまでは知らなかったようで、未だに信じ切れていないらしい。隠していた理由は不明だが、嗜好と合わせて鑑みるに運動部への所属や面倒を嫌ったのではないかと思われる。人命救助が切っ掛けとならなければ未だに明るみに出ていなかった可能性もあるのではないだろうか。

 実際の身体能力は天賦の才と言う他なく、数カ月の部活動の後に女性としては人類最高峰の速度を手に入れている。それ以前になんらかのトレーニングや指導を受けていた記録もないため、素人がただ走る練習をしただけでトップアスリートを超え世界記録を叩き出した事になる。

 

 総括すると、全ての人類を過去にする身体能力を持っているだけで人格面はただのオタク気質な男子ではないだろうかというのが宮里の感想であった。

 降って湧いたはずの戦闘力に簡単に適応している点は異常であるが、これは艤装の影響だろうと考えられる。そもそも招集された全員にその傾向はあり、まともな訓練を受けていないのに一月で戦えるようになったのはそういう理由だろう。公式な回答は無いが、上層部は艤装が精神に及ぼす影響を把握していると思われる。

 酷い事をしている、とは思うが彼女達に頼らなければ撃たれるのは無力な人々だ。やらねばならない。そう思いながら吹雪から提出された書類に目を通す。姫級を三体討伐していた。もうやだこの海域。

 

 

 

 

 

 第一期の艦娘達が配属されてから約一か月。宮里は艦娘組織の中枢部、大本営を訪れていた。足を踏み入れた会議室には既に多数の提督と秘書艦が席に着き、一部の人間は何故宮里は一人なのかと怪訝そうな顔で見つめてくる。

 普通の提督は基本的に鎮守府運営を行っている自衛隊員と行動を共にしているが、宮里だけは自身が直接艦隊運用を行っているため、単独で大本営までやって来ても問題ない。そもそも秘書艦が戦闘部隊旗艦の長門なので連れて来るわけにもいかなかったのだ。

 宮里は第一訓練所で提督たちを相手に講師を務めていた。そのため秘書艦はともかく提督全員と顔見知りである。一人一人に挨拶すれば、皆が顔を覚えていた様子で挨拶を返してきた。一通り知り合いに声をかけ終わると、名前を探して席へ向かう。宮里の席は総司令である楠木のすぐ傍で、なんとも判り易い場所だ、と宮里は感じた。

 暫く報告書などの資料を整理していると、宮里を含めた九人の提督が揃い、その後から楠木を筆頭とした大本営の上層部が姿を現し、ゆったりと席へ向かう。

 全鎮守府合同の定例報告会、その第一回目が本日この大本営で行われようとしていた。

 

 

 

 報告会は楠木提督の時事の挨拶から始まり、恙無く戦果と各海域の現状に流れて行った。目立った戦果を挙げているのはやはり適性の高い者が多く、千を超える十一人の内で特殊任務に就いていた赤城と運用の難しい島風を除いた九人がそれぞれの鎮守府で力を発揮している。その中でも特に大きな戦果を挙げているのは四人。

 

 完成済みの敵基地を統率する姫級ごと三式弾で滅却し、甘い砲弾は拳で弾き飛ばす金剛。

 他者のフォローと戦艦としての攻撃力を両立し、艦隊全体の戦闘力を引き上げる榛名。

 そこ以外は普通の艦娘と大差ないが、一度の魚雷斉射で敵艦隊を壊滅させる北上。

 他の艦娘の戦果の合計と同等の撃破数を一人で叩き出した吹雪。

 

 吹雪に関して宮里が報告した時、提督はともかく秘書艦達は疑わし気な反応を見せる者もあったが、吹雪の討伐した姫級は全て写真記録が取られており、その特徴的な死体の様子から同一犯の犯行であると納得せざるを得なかった。

 各鎮守府近海は概ね敵からの侵攻を防げており特に問題の起きている場所はないようで、初日の宮里艦隊担当区域以降は変色海域の出現も観測されていない。本州防衛は今の所上手く行っていると言えた。

 

「さて、諸君らに集めて貰っていた資源に関してだが、全ての鎮守府が目標を達成。問題が起きなければ今月中にも第二回の適性検査が行われる事になった」

 おお、と提督たちから感嘆の声が漏れる。宮里艦隊のノルマを知っている者から猜疑の目を向けられたりもしたが達成しちゃったものは仕方ない。宮里はもう開き直っていた。

「それどころかある程度余裕も出来た。大きな作戦を実行できるくらいにね」

 楠木提督は一度言葉を切り、真剣な口調でまた話し始める。

「今月まで大本営の所属として、北海道、四国、九州への偵察任務を行っていた赤城君から、三島全てに生存者が確認できたとの報告が入っている」

 知らされていなかった人間達が騒めく。今までも生存者と思しき反応は見える事があったのだが、通信は出来ず、海岸線に近づく事も難しいためはっきりとした状況は不明だったのである。それを高適性者の偵察機で無理矢理変色海域を抜けて調査していたのだと言う。

「それによれば各島とも海岸線から離れた地域に生活圏を構築しているものと見られるが、周囲の陸地にまで深海棲艦が闊歩しており予断を許さない状況との事だ」

 故に、と楠木ははっきりと宣言した。

「我々は来月、第二期適性者が配属され次第、国土の奪還へと向かう。 最初の目標は四国だ!」

 若い提督たちと気炎を上げながら、やはりそうかと宮里は思う。宮里艦隊の鎮守府は位置的に四国と近い。明らかに意識的に敵の戦力を削らされていたのだ。そうなると次は……

「それに伴って、宮里艦隊には拠点作りに邪魔な敵性体の排除と該当地域の変色海域の正常化へ動いて貰いたい」

 ですよねぇ。宮里は瞑目した。

「護衛部隊から吹雪を外す必要がありますので、収集効率は今までよりも落ちてしまいますが」

「構わん。必要な分は今日までに納めて貰っているよ」

 艦隊運用に関しては今まで通りの編成に吹雪を旗艦とした一隊を加えればいいだろう。問題は誰を吹雪と組ませるか、という点になる。

「……出来れば一人、こちらへの転属を許可して頂きたいのですが」

 宮里の指名した艦娘は配属先で持て余されており、願い出は大した問題もなく受理された。そんな簡単に通るなら最初からうちに配属して欲しかった。心からそう思った宮里であった。

 

 

 




曙の問題はたぶん吹雪の知らないところで漣と解決するんだと思います。
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