変色海域正常化RTAはぁじまぁるよー。
走者が私しか居ないので自動的に世界記録です。
昨日一泊した泊地を出発してよーいスタート。
僚艦は島風、速度的に一択になります。
他の艦隊は本隊として正面から、第四艦隊は別動隊としてイキますよ~イクイク。
羅針盤妖精さんを頼って核に向かって側面からこっそり突撃じゃー!
道中たまに雑魚と遭遇しますが一撃で倒せるので一戦当たりのロスは少なめです。
島風が僚艦の場合レーダーは任せてしまえるのでソナーに集中出来ます。楽出来ていいゾ~これ。
……雑魚多い、多くない? クズ運ですねクォレハ。
タイム的にまずあじなので雑魚戦は出来る限り避けたいのですが、ランダムエンカなので祈祷力が試されます。
そろそろ通常の海域を抜けて変色海域に入ります。ました。
ここからは時々姫級や鬼級が出るようになります……お、出ましたね。
はい。見ての通り姫級は二発掛かります。報酬は良いですがあんまり出会うとタイム壊れちゃ~う。
滅多にありませんが同時に二匹来たりすると艦載機の発艦を許してしまう事があるため、そうならない事を祈りま……
ファッ!? 三匹!?
と、とりあえず一匹倒しておきましょう。
残ったのは姫と鬼が一体ずつ、姫級を先に倒して行きたいところですが……ああ、発艦されましたね。深海棲艦の屑がこの野郎……
こうなると航空戦力の排除が優先です。機銃でパパパっとやって、終わり!
リロードの終わった連装砲で姫級をメっして、残りは鬼級です。
おっ、島風がやってくれましたね。艤装の発艦口が壊れて艦載機が出せなかったようです。こういう事があるのも島風の良い所です。連装砲ちゃんのアシストも光ります。
(ここから暫く何もなかったのでドヤってる島風とかわいい連装砲ちゃんをお楽しみください)
目標の島が見えてきました。周囲に大して敵の音はしないのでこのまま直進して良さそうです。
島には基地が建設されていますね。はえ~すっごい大きい……
変色海域になって長い地域では大規模な拠点になってるケースが多くてやめたくなりますよ~RTA~。
核も基地の中心部に格納されているので外からだと位置が見えません。
外から狙い撃つのは厳しいので基地内の敵を排除してから捜索する事になるのですが、なかなか数が多いので全て倒しきるのは大変です。
だから艦隊を分けて陽動してもらう必要があったんですね。
上手く行ってればある程度出払ってくれているはずですが、迎撃に出ているかの確認は必須です。
出撃タイミングに遭遇した場合は乱戦になります(一敗)
今回はかなり釣れてくれたようでいいゾ~コレ。
完璧に行っても基地を操る施設型の姫級は常駐しているので戦闘自体は避けられませんが……基地の上で一匹動いてるのが見えてますね。
ここから狙撃してもいいのですが、ここでオリチャー発動!
近づける所まで近づきます。一歩で到達できる距離まで行けるのが理想ですがそれは厳しいですかね。
丁度いい所に岩礁があったのでここからスナイプしましょう。ちょっと遮蔽がありますが気付かれなければ当たるでしょう。
暴れんなよ……暴れんなよ……
はい、いい感じに当たりましたね。ですがこの姫級、二発では倒れませんでした。これは大当たりです。
基地を統括している姫級は基地自体が艤装扱いになるらしく、ダメージがそっちに流れるんですね。
基地が大きいとその分体力も増えます。
なので、倒れなかった屋上の姫級がこの基地の司令官という事になります。
……まだこちらには気付いていませんね。
しかし、このまま装弾を待っていると基地内の航空機なんかが発艦して、処理が面倒になってしまいます。
目算でここからだと概ね三歩、ギリギリですがまぁ行けるでしょう。
島風にハンドサインで待機してもらって一歩。
基地直下まで飛び込む二歩。
基地上部の姫級の所まで飛び上がる三歩。
おまたせ! 地獄への片道切符しかなかったけどいいかな?
司令官を倒すと同時に基地の機能も大体停止してくれるので、見えて殴れる位置に居たのは幸運でしたね。
一部壁も崩れるため基地はあーもうめちゃくちゃだよ。
この状態だと敵艦の連携が難しくなるらしいので、あとは各個撃破しながら内部を探索するだけです。
島風を呼び寄せつつ、合流までに出来るだけ気配の元を絶って行きましょう。
既に基地の屋上に陣取っているとは思っていないでしょうから、不意を衝くのは簡単で……
なんだこの幼女!?
魚雷を抱えた潜水新棲姫ちゃんと遭遇してしまいました。
艤装を付けていないのでお休み中だったんでしょうか?
深海棲艦の生態を知れる貴重な資料だったかもしれません。もう居なくなりましたが。
島風と連装砲ちゃんと合流したら本格的に殲滅開始です。
と言っても、基地内の個体が多い訳ではないです。
深海棲艦も地上では性能を発揮し切れないのかあんまり地上には居ないんですね。
なので探索自体は結構楽に進められます。
気配を感じたら即射撃で済むこちらと、味方かを識別しないといけない相手では反応速度が違うのも、追い風ですね。
おっ、壁の向こうから青い光が漏れています。核の設置部屋ですね、見ての通り光ってくれるので壁が無ければすぐ見つかります。
これを叩き割って、終わり! 閉廷! 以上! 皆解散!
外に出て破壊完了を報告したらタイマーストップです。
敵が残っているかもしれないので最後まで気を抜かないようにしましょう(一敗)
な ん で 海 が 赤 い ま ま な ん で す か
妖精さんに確認しますがこの基地にはもう核はないそうです。
つまり核の影響する領域が被っていて、ここだけ破壊しても海は赤いままという事ですね。
お前のチャートガバガバじゃねぇか!
元々運要素が強いんですがこれは予想してなかったです。
そもそも作戦自体の見直しが必要な事態なので、島風とも相談した結果、とりあえず本隊の応援に行く事で意見が一致しました。
ただ位置が漠然としか分からないので辿り着けるかは微妙な所です。一人くらいは私の指揮下にしておくべきでしたかね。そうすれば辿れたんですが。
ともかく気を取り直して出発で……
ファッ!?
突然海が青く戻りました……これもうわかんねぇな。
取り急ぎ通信で連絡を取ります。
ほうほう(梟)は?(困惑)
ええ……どうやら本隊の方が核を見つけて壊したそうです。基地にあるとは限らないからね仕方ないね。
と、ともかくここでタイマーストップです。
記録は妖精さんによるとさんじかんくらいだそうです。思ったより曖昧な時間感覚で生きてますね……
ともかく次に走るのは明後日以降になります。その日までさよなら、さよなら、さよなら。
島風が配属されてから数日後、宮里艦隊は変色海域の攻略に乗り出した。
と言っても最初は周辺の敵の排除から……だったはずなんだけど、その日私達は変色海域の核を二つ破壊する事に成功している。敵が丁度運搬して来たのを壊しただけだったのだけれど、問題なのはそれが別々の輸送部隊が運んでいた荷物だったって事だ。
こっちに向かって変色海域を一気に広げようとしてるんじゃね? って話になって、ゆっくりやってたら進まないなって結論になったから、ほぼ一日おきに核の破壊に出てるんだよね私達。全体の被害によっては帰投して風呂入って寝て起きたら修理終わってるから飯食って出動とかもある。
当然明石さん達は昼夜逆転してるし、戦闘部隊は毎回数人残して他は全員出撃である。なお残される待機要員の中に第四艦隊が入る事は無い模様。
私と島風さぁ、二人で基地に突撃とか普通にさせられるんだけどこれ大丈夫? いやたぶん運用としては合ってるんだよ分かるよ凄い分かる。基地破壊率100%だしどっちも被弾すらしないし、無策じゃなくて敵おびき出してからとかだしそれが何か知らんがすごい刺さってるし。
しかも私はチート能力で、島風は艤装の良いのか悪いのかよく分からん影響でスタミナもあるもんだから元気一杯、休ませる必要も別に無いんだこれが。すげぇな私ら使い易過ぎて救済ユニットみたいになってるぞ。
他の人達も酷使と言っていい状態だけど、別に士気も下がってないんだこの艦隊。むしろ凄い高い。青葉さんの言った通り精神面の影響が大きいのか、嫌気が差すとかはなくて、むしろ戦果の大きさが自信に繋がってる様子なのだ。
じゃあ何が問題なのかって? 提督の胃。
やっぱ宮里提督、私の運用に向いてない気がするなぁ。普通に善い人に見た目だけは中学生な兵器渡したらそりゃ辛えでしょ。
全員体調とかに問題出ないスケジュール組んでるだけ楠木提督よりマシってそれは褒め言葉なんですかね長門さん。っていうか楠木提督これ以上なのか……
「ヨーシ、オ前ラ今カラ大将ントコ行クゾー」
回収された護衛棲水姫――本人がベイベイ鳴いてガンビア・ベイを騙ろうとしたために、そのままベイというあだ名にされたその転生者と北方棲姫が一緒に暮らし始めてから暫く。唐突にやってきたレ級は出された茶を飲み干すとそう告げた。
「ズイブン急ダネ」
放置状態でまったり暮らしていた北方棲姫は胡乱気な瞳でレ級を見つめ、護衛棲水姫は付いてきた三人の浮輪さんを抱きかかえて呻く。
「ボクなんて行っても役に立たないと思うんだけど……」
ボソボソベイベイ呟く事には、艦載機も砲弾も無いし北方棲姫のようにワープ能力なんかも持っていない自分が仕事なんて貰っても、まともに役立てる気がしないとの事だった。戦えるような精神性も有していないため本当にただの足手まといじゃないかと心配している。
「連レテ来イッテンダカラ何カ使イ道アンダロ? 知ラネーケド」
「でも浮輪さんもこう言ってるし……」
「私達ニハ何言ッテルノカ分カンナイヨ」
浮輪さんは三人それぞれ固有の意思を持っていて、護衛棲水姫はお話も出来る。ただし、護衛棲水姫以外には声を聞き取る事すら不可能であるが。
さもありなん、彼女のチートは知ある者との意思疎通能力『ぜんぶ』『いえる』である。
言語能力の有無、発声機能の有無にかかわらず、ある程度の知能さえあれば護衛棲水姫は会話を成立させてしまう。それこそ、そこらに生えた木だとか古い年月を経た大岩だとかそんなものとすら言葉を交わせるのである。
ただしそれ以外は特に何も出来ない。深海棲艦としてはほぼ能力が死んでいて、北方棲姫と同じく艦載機を操れず、撃ち落す事も出来なかったので何処かへ飛び去るのを見送ってお終いであった。別段人間だった頃に極めて優秀な能力を持っていたなんて事もなく、平々凡々な学生が死んで生まれなおして今に至る。そのためなんか役に立ってくれと言われても戸惑いしか出てこないのだ。
「浮輪モ持ッテッテイイカラハヨ支度セーヤ」
護衛棲水姫は保護されるのを条件に協力する事に承諾している。なんでその条件で北方棲姫が無断で借りた家に居候しているのかはなんかもう完全に流れだったので誰も疑問に思っていない。北方棲姫もなし崩しに面子に加えられてしまっていたが、護衛棲水姫を放っておくのは色々と不安だったので仕方が無かった。
支度なんて言っても精々戸締りくらいだったのですぐに終わり、玄関から出ると護衛棲水姫はレ級におぶさり、北方棲姫は脇に抱えられる。出発ーと軽い号令を掛けてレ級の足が大地を蹴り、風景を置き去りにして消えて行った。
そこは割と厳重に警備された建物だった。市街地の中心ではないがさほど離れてはおらず、入り口には警備の人間が二人立っている。周囲に監視カメラなどはあるものの、死角はそれなりにあるらしく、北方棲姫たちはそこに潜み目的地を窺っていた。
「アソコノ開イテル窓アンダロ、アレ入口ナ」
「ドウ見テモ人間用ノ施設ナンダケド?」
「大将さん、人間なの……?」
北方棲姫達はてっきり、自分達と同じ深海棲艦の転生者が『大将』なのかと思っていたのだが、運搬されてきた先は明らかに普通の人間――それも組織化された何者かが出入りする建物である。護衛棲水姫も不安げな声を上げ、腰にぶら下がる浮輪さんにぽんぽんと励まされていた。
「大将マデ深海棲艦ッテ言ッタ覚エハネェナ」
「ソモソモ何モ教エテクレテナカッタカラネ」
肝心な事は何も言ってない。ジトっと睨む北方棲姫の視線を難なく回避し、レ級は入り口に指定された窓を指さした。
「ンジャアホッポチャン、中ニワープシテクレヤ。視界内ナラ行ケルンダロ?」
お前ら抱えてくと窓枠に引っかかる。そう言ったレ級に北方棲姫がため息で返した次の瞬間には、三人揃って室内に足を着けていた。
その部屋には体格の良い男が居た。壮年と老年の間ほどに見える筋肉質で大柄な男性が、背で腕を組み執務用であろう机の前に立ち、深海棲艦達の方を無言で見つめている。窓から注ぐ陽の光に照らされた面様は張り付けたような無表情で、恵まれた体格と相まって強い威圧感を放っていた。
北方棲姫は目をしばたたかせて正面に立つその顔を見つめるとあっと声を上げ、信じがたいと表情を変える。その男は現状の日本においては五指に入る話題の人物であった。
「楠木提督……!?」
「私が大将です。」
男性――楠木 多聞丸は己が件の大将であると断言する。護衛棲水姫は世情に疎く、よく知らない名前であったが、その場の雰囲気でなんだか大物なんだろうとなんとなく察した。
「大将ジャナクテ幕僚長ジャン!!」
「似タヨウナモンダロ?」
「私が大将です。」
あだ名だしいいだろ別に、と笑うレ級は楠木提督の側に立ち、浮輪を含めた五人の深海棲艦を振り返る。しっかり五人と向き合うと堂々と宣った。
「大本営へヨウコソ、歓迎スルゼ転生者諸君!」
「私が大将です。」
やっぱり自衛隊関係の建物なのかと北方棲姫は得心したが、そんな事より気になる事がある。
「アノ、楠木提督サッキカラ……」
「私が大将です。」
「…………」
「…………」
沈黙が下りた。護衛棲水姫は何を言っていいのか分からない。レ級も微妙な顔をしている。
「アノ」
「私が大将です。」
「ロマサガ3カヨ!!」
こいつ間違いなく転生者だ。北方棲姫は確信した。
「ほら、通じただろう? 通じる人には通じるものなんだよ」
「ハァ、知ルカヨ産マレル前ノゲームダゼ?」
「なんの集まりだっけこれ……」
なんのネタか分からなかった護衛棲水姫の呟きに、浮輪達もうんうんと頷いている。なんのネタか分かってしまった北方棲姫は目の前の二人をジト目で見つめた。
「はは、そう睨まないでくれ給えよ。まずは緊張を解さないといけないと思ってね。敬意を払う気も無くなっただろう? いやいや勿論北方くんなら理解してくれると知った上でのネタ振りだったんだよ、誰かが突っ込んでくれないと止めるに止められないしね。ずっと言い続ける羽目になったかもなぁ。この中では北方君が私に次いで年長なんだ……ああ、私は今世を含めなくても君より年上だよ。転生者全体で見ても高い方……それは全世界で100人くらいかな。日本にはそれほど居ないけれど心配しなくて大丈夫だよ。必要な人材には必要な時に協力を仰ぐからね。チート能力が今の状況では役に立たない子も結構多くてねぇ、戦後復興向きな子が案外多いんだ。うんそうだね君の思ってる通りだよ、こうすれば分かりやすいと思ったんだがうむ納得してくれたようで何より。他に知りたい事があったら答えるけど別に口にしなくても……」
「滅茶苦茶心読ンデ来マスネ!?」
一人でしゃべり始めた楠木提督に深海棲艦たちはドン引きである。北方棲姫だけは自分の思い浮かべただけの疑問にことごとく返答されて驚愕もしていたが。
「オレラニ伝ワラネーカラ普通ニ喋レヨ」
「そうだね。まぁ、これで私の能力については少し理解してもらえたかな」
チート能力『やたらと』『みえる』は他人の心の中も見える能力である。北方棲姫はたった今それを分からせられた。自分の心に浮かんだ疑問に一々返答されたのだ。
「……能力教エルカラ信用シロッテ事?」
公開する必要の無い、察しが良くなければ言わないと分からない能力である。存在を明かしても不信感しか得られそうにはない。
「私相手に取り繕う意味は無いよ、という事さ。ほらレ級くんもいつも通りだろう?」
「コイツニ敬語トカ使イタクネーカラナ」
功績実績はともかく中身糞オタだぞこいつ、とはレ級の評である。
「えっと、心読まれるの? 怖い……」
護衛棲水姫はちょっと話についていけていなかったが、察したら察したで恐怖感が湧き上がってきた。バレたくないことだってあるのだ。性癖とか性癖とか性癖とか。
「申し訳ないがそこは我慢してくれると有難い。画面越しとかも考えたのだがね、君たちが一番信用してくれるのが結局、対面での対話なのだよ」
「能力オフニシタラ良インジャ?」
北方棲姫は当たり前の解決法を提示したが、楠木はかぶりを振ってため息を付いた。
「それが出来れば良かったんだけどねぇ」
「オンオフ出来ネーンダトサ、『やたらと』ッテ奴ハ」
「常時発動型のパッシブ能力なのだよ。ベイくんの能力と似ているかな、君も聞こえてくる声を受け取らないようには出来ないだろう?」
そう言われると、確かに無理な気がする。わざわざ試した事は無かったが、耳を塞ぐとか、そういう物理的な方法以外で出来る気はしなかった。
「まぁなんだね、君のそれは特に言う気は無いし……ノータッチならいいんじゃないかな」
「言ってる! 半分くらい言ってるそれ……!」
北方棲姫を横目で見て、何の話か察していない様子だったので護衛棲水姫は安心すると同時に確信した。この人、結構なクソ提督だ。
「まぁそんな訳で、君たちに仕事を頼みたいのだよ」
執務室に置かれたソファーに北方棲姫たちを招くと、手ずから茶を淹れ楠木提督は切り出した。
「前後ガ繋ガッテネーゾ」
神妙な顔になって言う楠木の側に立ち、呆れた顔をするレ級。仲良いんだなと北方棲姫と護衛棲水姫の見解は一致した。
「聞イタラ絶対引キ受ケテモラウゾトカ言ワナイ?」
「ホッポチャンガ本気デ逃ゲ回ッタラ絶対捕マラナイカラ心配スンナ」
「限界無しのワープ能力って酷いよね……」
及び腰な北方棲姫の様子を見て、楠木は顎に手を当て少し思案し、ああと何かを思いついた。
「それなら報酬の話からしようか、その方がやる気が出るかもしれないね」
「あ、報酬出るんですね……」
「ソリャ無報酬デヤレトカ言ワネーワ」
流石にね、と楠木も同意する。護衛棲水姫の腰から降りて行儀よく三人並んで腰かける深海浮輪も、興味有り気に楠木の方を見つめた。目っぽい物は無いが。
「報酬は大きく分けて二つある」
「小分けにするともっと多いんだ」
「まぁ色々と併せる必要があるからね。まず一つ目は君達の戸籍。二つ目は普通にお金だね」
「戸籍!?」
それは確かに欲しい。北方棲姫はかなり心が揺れ動いた。
「今の状況なら偽装はそう難しくない。お金の方はそうだね、北方くんの暮らしていた家も付けようか」
「エ、アノ家買ッテクレルノ?」
「買ウッテ言ウカ……ナァ」
「あそこは元々私の持ち家だよ」
はぁ!? 北方棲姫は愕然とした。あの家に辿り着いたのはたまたま日が落ちそうな時間に通り掛かって、鍵が開きっぱなしになっていたから。そこに至るまでの間に干渉を受けたような覚えは全く無かった。
「わぁ、凄い偶然……」
「ナ訳ナイデショ!? 楠木提督、心ダケジャナクテ未来カ何カ見エテルヨネソレ!?」
うん。と楠木は頷いて鷹揚に笑い、軽く拍手を送る。
「御明察! それが私の最大の能力だよ」
うわぁと呻いて、北方棲姫は呆然とした。つまりこの提督は北方棲姫の辿り着く家を特定して、事前に購入していたのだろう。そこに居付きたくなるような条件も全部整えられていたに違いない。家電とかちゃんと動いたし。
「ココマデノヤリトリ全部茶番ジャン……」
「そこまで万能な能力ではないんだよねぇ。観測した時点で変わってしまうから、参考程度にしかならんよ」
「ンナ事言ッテホッポチャントベイノ居場所ハ完璧ダッタケドナ」
これ大丈夫なのかと不信感を募らせる北方棲姫とは対照的に、護衛棲水姫はむしろ感心した様子で呑気そうな表情をしている。疑うだとかそういうのよりも先に、するべき事があると感じたのだ。
「予知でボクの事見つけてくれたんだ……そっか……ありがとうございます」
座ったままではあるが、出来るだけ頭を下げて感謝を伝えた。
護衛棲水姫が目を覚ました時、周囲にはなんだか怖い雰囲気の深海棲艦だらけで、浮輪達は一緒にいたけれど、ずっと怯えて洞窟に引きこもっていたのだ。レ級たちが迎えに来なければもっと長い事そうしていた事は想像に難くない。そこにあるのが打算だったとしても、護衛棲水姫にとって救いの一手だった事は間違いのない事実である。
まっすぐな言葉に楠木は笑い声をあげ、北方棲姫はなんだか毒気を抜かれてしまった。レ級は呆れた様子で人がいいなぁおいとか呟いている。
「ハァ………………戸籍アッテモ、コノ見タ目ジャ普通ニ生活ハ出来ナイト思ウンダケド、家貰ッテモ仕方ナクナイ?」
批判めいたことを口にしたところで何の意味もないと悟り、北方棲姫は話を続ける事にした。警戒心が消えた訳ではないけれど、心も未来も読める相手に何の意味があるのかという思いもある。小さいが見間違えようの無い額の角を弄りながら質問を飛ばした。
「そこはどうにかできる子が居るんだ、丁度いい事に」
「転生者?」
「勿論」
姿かたちを変えられるチート能力者がこの世界に存在している、と楠木は言う。ただし、本当に姿が変わるだけらしいが。
「ただ居場所がなぁ……現在地がブラジルでね」
「遠ッ、裏側ジャン、地球ノ」
「……というかブラジルって、海外って今どうなってるんだろう……」
「そうだね、そこは説明しておこうか。君達に頼む仕事にも関わってくるしね」
関わるのか、と意外に思ったのが顔に出ている北方棲姫に一つ頷くと、楠木提督は自分の茶を一口に飲み干した。
「まず今の世界の海の状態だが……まぁ、赤いねぇ」
「赤イカァ」
「陸地の無い所や完全な無人島だったりすると手出しされていない場所も残っているようだが、人の居る地域は日本と同日に一気に制圧されてしまっているよ」
素晴らしい手際だったと楠木提督は褒め称えるが、この場の誰も嬉しくない話である。
「他ノ国モ沿岸部トカハ日本ミタイニナッテルノ?」
「それは国にもよるよ。ただ、日本はむしろ手緩い攻め方をされているんだよなぁ」
ええっ、と北方棲姫は驚いた。海に出た際に結構姫級や鬼級を見かけた覚えがあるし、被害もかなり出ているのに。
「全世界を一気に攻めているようだからね、当然差し向けられる戦力は重要な地域とそれ以外で偏りがある」
アメリカや中国なんかは日本より強大な戦力でもって攻め立てられているらしい。大陸故に陸地側はまだまだ何とかなっているが、既に滅んだ国も複数存在しているとか。
「本来なら、他国から切り離された時点で日本は詰んでいるからね。本格的に攻める必要は無いと知っているんだ彼女等は」
「アイツ等日本舐メ腐ッテルカラナ、護衛モ付ケズニ水着デブラブラ遊ンデタゾコノ間」
「夏姫存在するんだ……」
「比叡ニ燃ヤサレテタケドナ」
三式弾直撃してお亡くなりになったそうな。
「ところで、君達は今、世界で一番戦力――艦娘を揃えているのはどの国だと思う?」
「え、ええと、アメリカ? それかロシアか中国……?」
急な質問に困惑する護衛棲水姫は咄嗟に大きな国を挙げたが、楠木は首を横に振った。北方棲姫はそれを見て冷静に返した。
「日本デショ、楠木提督ガ居ルシ。アンナ意味ノ分カラナイ装備半年ヤソコラデ正式配備スルッテ、上ノ人間ガ色々知ッテナイト無理ダヨ」
よくよく考れば、上層部に転生者が居るのは予見出来た事である。答えを知っていれば簡単な事だが、北方棲姫は言われるまでは全然気が付かなかった。他の国にも転生者が食い込んでいるとかでなければ、妖精さんの存在すら認められていない可能性が高いだろう。北方棲姫だって存在の説明はされても未だに実物を見た事が無いくらいなのだし。
「正解。北方くんは聡いのか鈍いのかよく分からないねぇ」
「褒メテナイヨネソレ」
不服そうに飛ばされた視線を笑って受け流し、楠木提督は続ける。
「現在艤装が国家レベルで運用されているのは日本だけだよ。そこまでは行っていなくても企業主導でそろそろ実戦レベルに達するのがアメリカで、ロシアももう建造自体は始まっている頃合いかな。そういう意味ではベイくんも惜しかった。個人で戦っているイギリスとかの例もあるけれど……まぁ例外だねあそこは」
「個人?」
「転生者だね」
「ああ……」
聖剣を振るって深海棲艦を薙ぎ倒すヤベー奴と魔砲を振るって深海棲艦を薙ぎ払うヤベー奴が合わさって最強に見える。
「艦これ……?」
「その二人も艤装の適性は持っているんだけどねぇ」
申し訳程度の艦これ要素であるらしい。
「サッキモナンカ言ッテタケド、全世界デ100人モ居タラソウイウノモ居ルヨネ……」
「私の知る限りの人数だから、もっと居るかもしれないねぇ」
孤独感で泣いてたのが馬鹿みたいだと北方棲姫は少し落ち込んだ。普通に暮らしていて遭遇するような人数ではないのだろうが、一人きりだと思っていた時期もあったのだから仕方ないだろう。
「話を戻すけれど、ともかく今はまだ艤装はまともに広まっていないんだ。それに各国の連携もねぇ、新兵器の情報なんてそうそう開示してくれない……まぁ、条件を付けて交渉とかはするだろうけれど」
「ンナ事ヤッテル間ニドッカガ耐エラレズニ滅ンデ、ソコヲ攻メテタ戦力ガ他所ヘ流入シテ連鎖的ニヤラレルッテヨ」
楠木のチート能力はそういう光景を見せて来た。チート能力者は本当にチートなので割と生き残れるが、一般的な人類は深海棲艦に撃たれれば死ぬし、そうでなくても生活基盤が無くなれば容易に命を失う。
「なので、我々で艤装を広めようと思います」
はぁ、と相槌を打って暫くしてから、北方棲姫は言ってる意味を理解した。つまりそれが自分達に頼みたいという仕事なのだろう。
「……ソノタメニ私ガ要ルノ?」
「そうだよ」
深海棲艦に対抗するための手段は日本に艤装という形で存在している。だがそれを、変色海域を越え他国へと受け渡す手段を保有していなかった。今までは。
「深海棲艦であるボク達なら海を渡って、艤装の事を教えに行ける……?」
「マァ、ソウイウ話ダナ」
北方棲姫なら一度辿り着いてしまえば自由に行き来が可能になる。チート能力『いつでも』『いける』は人数や荷物の量も融通の利く能力であり、利便性も非常に高い。某魔法使いがバランス調整を放棄したかのような頭のおかしい能力なのである。深海棲艦である彼女達が直接頒布する事は出来なくとも、一度日本に帰って交渉自体は別の人物に任せてしまえばいい。
「それ、ボクいる……?」
ほっぽちゃんだけで良くないですか、と護衛棲水姫は訝しがる。
「ホッポチャン寂シガリダカラヨ」
「まぁ、それもあるがね」
「アルノ!?」
「北方くん一人で放り出すとトラブルに対処出来なかったりするんだよ」
二人で協力すればなんとかなる場面でも、一人だと逃げ帰るしかなくなったりするのだ。一旦逃げてもすぐ戻れる能力ではあるが。
「それに、ベイくんに本当の仕事があるのは辿り着いた後、情報提供のための交渉を行う時だからね」
「通訳ですか……」
チート能力『ぜんぶ』『いえる』は同時通訳としては最強の能力である。細かなニュアンスや慣用句、スラングであったとしても絶対に取り違える事は無い。問題があるとしたら、護衛棲水姫の肌は白すぎて到底人間に見えないという事だろうか。それも他の転生者が協力してくれるのなら解決する。転生者凄い便利。
「私達ハ一回外国ニ行ッテ、ワープデ戻ッテ楠木提督ヲ連レテマタワープスレバイインダネ」
「それで、ボクが交渉する楠木さんの通訳をする……? 考えただけで緊張してくる……」
「見タ目ハ……化粧デナントカナルンジャネーノ? 顔以外出ス必要ネーダロ」
護衛棲水姫の見た目はかなり人間に近いため、色さえどうにかできれば凌げない事もないだろう。ブラジルまで行って外見変化の能力者を拾ってくるのも有りかもしれないが。
「概ねそんな感じだね。ただ、交渉に赴くのは私だけではないよ」
「エ、他ニ事情知ッテル人居ルノ?」
転生者メンバーは楠木とレ級に新入りの二人だけだと聞いていたし、かなり内々の話だと北方棲姫は思っていた。護衛棲水姫も同じで、さらなる緊張を強いられそうで戦々恐々としてしまう。
「まぁ今回の事もあるから諸国にもある程度覚えて貰えるようにはして来たがね、それでも成果はまずまずってところさ。……そんな私の顔などよりも、遥かに有名で名の通った方が居るんだよこの国にはね」
レ級は即座にそれが誰であるかを察した。護衛棲水姫はちょっと考えて、白い相貌をさらに青くした。北方棲姫はどうにも見当がつかなかったが、場の雰囲気でなんだか大物が出てきそうだとは勘付いた。
「まぁ、交渉については私の能力もフル活用して上手くやるよ。君達はまず、目的地にしっかりと辿り着けるように頑張ってもらいたい」
北方棲姫も実は高速移動する方法を持っているが、正確な方向を向き続けられるかと言われると自信を持てない。逐一方向を確認、修正する必要に駆られるのだ。そのため、ワープによる往復などよりも最初の道中の方が遥かに困難である。
「マダ引キ受ケルッテ言ッテナインダケド……マァイイカ。ソレデ、最初ハドコニ行ケバイイノ?」
もう引き受ける前提で全てが進んでいるので、北方棲姫は諦めた。護衛棲水姫もあわあわと挙動不審になってはいるが、嫌だとは言っていないし。
「最初に行って貰うのは、台湾だよ」
「台湾? 未来視デソコガイイッテ分カルンダロウケド、ナンデマタ……」
「そこに、是非力を借りたい転生者が居てねぇ」
基本的に人道をどこかに置き去りにしている艤装の有用性を証明するために、同行してくれる使用者は必須なのだ。その上でその同行者がこちらの秘密を共有できる、つまり転生者であるのが望ましいと言う。
「転生者は普通より適性値が高い子が大半でね。それに、彼女はとても運が良いんだよ」
是非あやかりたい。楠木提督は口元に笑みを浮かべた。
出発は明日、レ級は他の仕事があるので日本に残留、二人と浮輪三人で頑張ってくれという条件でも引き受けてくれた北方棲姫と護衛棲水姫と浮輪が一度家に帰るのを見送り、執務室は楠木とレ級の二人が残された。レ級は空いたソファーにほぼ寝そべるように乗り込み、楠木の方を首だけで向いた。
「オ人ヨシ二人デ良カッタナァ、多聞丸チャン」
「そう言うものじゃあないよ、素直に引き受けて貰えて助かったのは確かだが」
「素直過ギテ心配ニナッタガネェ、オレハ」
言ってない事など山のようにある、というか、背景説明をほとんど何もしていない楠木とレ級である。同じ転生者だからと警戒が緩んでいるのか、生来そういう性質なのかは知らないが、いつか悪い奴に騙されそうだ。
「転生者は君みたいな子ばかりだから大丈夫だよ」
「心配極マリネェナソリャ」
「内心本気で心配してるのが君の良い所だと思うよ」
誰がいい子ちゃんだボケと口でだけはそう言って、しばらくぼんやりと寝っ転がっていたレ級は、思い出したように懐をまさぐると、服の中からSDカードを取り出し楠木に向かって放り投げた。
「コナイダ言ッテタ奴ナ。音声映像タイミング完璧ダッタゼ、島風ノ顔ガ入ラナイヨウニスンノハ難儀ダッタケドナ」
「毎度済まないね……よし、大丈夫そうだ」
受け取った楠木はそれを機械に掛けるでもなくただ見つめると、内容を検めたかのような返答をした。チート能力である。
「ソンナモン何ニ使ウンダ? 辞メサセルダケナラ要ラネーダロソンナノ」
「辞めさせはしないよ、現状ではまだ手が足りないからね。無論、大人しくはしてもらうが。これの使い道については……まぁ、彼はともかく彼の実家には使い道があると言っておこうか」
うへぇとレ級は苦い物を空気と共に吐き出した。憂鬱そうな表情で、その時の事を思い出す。
「島風モ可哀想ニナ。ッツーカ、ソンナノノタメニワザワザ吹雪ト別艦隊ニシタノカヨ」
「いや、あれは資源回収と戦力増強が主目的だよ。吹雪くんは島風くんや転生者と一緒にいるとそちらとばかり仲良くする傾向があるからねぇ……」
「オ前ジャ思イ付カナカッタトカ言ウアレカ……宮里提督ガ優秀デ良カッタナ」
「島風くんと一緒にすると普通に戦闘部隊になるようだったから、一時的に引き離したんだよ」
おかげで助けられる人数が万単位で増えたのだから必要な一手だったと楠木は語る。
「後はまぁ……正直あそこまで拗れるとは思って無かったと言うか……ね」
「ア゛ア゛?」
レ級の口から少女が出してはいけない類の音声が漏れる。一瞬で楠木の眼前まで迫ると、その頬を掴み左右に伸び縮みさせた。
「ツマリ、マ~タガバッタンダナ!? 何時モ何時モ、テメェノ計画ガバガバジャネーカ!!」
フォローさせられる方の身にもなれと柔らかな頬肉を摘まみ続けるレ級に、楠木は悪気は無かったんだと弁明する。島風に関してはちゃんと吹雪の下に送ったのでケアもしてくれる……というか、一緒に居るだけで立ち直ってくれるので問題もあんまりないのだ。辛い思いはしただろうが。
「ツクヅク糞提督ダナテメーハ!」
限界まで引っ張って勢いよく離すと、レ級はソファーに戻り今度は普通に座ると自分用の茶を飲み干した。証拠映像を撮るに当たって、結構な胸糞シーンを見せられる羽目になったのである。楠木は不機嫌そうな双眸に睨まれて、身が縮こまる思いであった。
「ンデ、ソノ配置ニシテ上手ク行ッタノカヨ。資源ノ方ハ聞イタケド、戦力ノ方」
「ああ、そっちは問題ない……というか、予想以上の成果が出たようでね」
本来ならば二人の予定が三人、さらに吹雪自身が強化されるというサプライズまで発生したと楠木は語る。成果としてこれ以上は無いだろう。
「三人カ、増エテハイルンダローガ、多イノカソレ」
「人数もだけど、面子が良いね」
戦えるようになれば頼りになる娘ばかりだよ。多少痛む頬を撫でながら楠木はにやりと笑みを浮かべる。
「彼女達が戦えないのは非常に勿体なかったからね。いやぁ、素晴らしい結果だったよ」
今度は蹴りが飛んだ。
「どういう事なの……」
宮里艦隊の泊地内の訓練場、戦闘部隊が実戦で忙しいためにあまり使われていないそこで、教官長として訓練場に戻る予定の暁は一人、砲門から煙を上げながら呆然としていた。
視線の先には複数の、完全に破砕された訓練用の的。一応はイ級と同じ程度の硬度を持つそれらの残骸を前に、暁は結構長い事途方に暮れた。
楠木と一緒に交渉に行く例のあの方は本編に一切出て来ません。