転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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お悩みとか名前とか適性値とか

 変色海域に長居した結果、被弾は無くても艤装がそこそこのダメージを受けたので修理に出して、今日も元気に出撃じゃー。

 とか思ってたら、長門さんと山城さんと瑞鶴さんと龍驤さんと天龍さんと長良さんと深雪と秋津洲さんが同時に大破したため修理が終わっていなかった。いやぁリコリス棲姫は強敵でしたね。私は別動隊の仕事をしていたので戦っていないのだが、戦艦棲姫三体が護衛に付いた大激戦だったそうな。泊地が直近に二か所とかほんと止めていただきたい。

 そんな訳で今日はお休みを貰ってしまったのだ。出れないほどの損傷じゃないので何かあったら呼び出されるだろう状態を休みと言ってしまっていいのかは不明だが。

 ともかく、今日は部屋でゆっくりしてようかなとか思っていた訳なのだが、そうさせてくれないのが島風である。じゃあ久々に思いっきり走ろうと言い出して付き合わされることになった。まぁ、ネット巡回したりするだけだし別にいいのだけども。

 

 動きやすい服装――私はTシャツとジャージのズボンで島風は短パン――に着替え、連装砲ちゃん達と連れ立って寮の裏手にある広場までやってくると、表情の抜け落ちたような顔で長良さんが走っているのが見えた。

 ダメージの方は全然抜けてないというか、抜ける理由が無いというか。一応、戦闘には支障無いようなのだが傍目に見るだけでも消沈しているのが分かり易く、大井さんが心配気にしているのを見た事もある。機密に触れる事なので迂闊な人物に相談する訳にも行かないだろうし、私達の方にも話を振ってこない。というか話しかけてこない。こちらから話しかけに行こうにも根本的に真剣に陸上をやっていない私から言える事なんて無いというか……何言っても失礼に当たる気しかしない訳で。

 おはようございまーすと島風に挨拶され、ぎこちない表情でそれに返す長良さんに私も挨拶をすると、彼女はもっと硬い表情になってしまった。そのまま軽く返答だけして走って行く長良さんは若干ペースが上がっており、まるで逃げているようにも見える。ペース大丈夫だろうか。

 

 準備運動を終え、後ろでキャーキューミューと応援してくれる連装砲ちゃん達に手を振って、軽く二人で走ってみたのだがやはり島風の足はかなり速くなっていて、それ以上に持久力が上がっているのが分かった。本来島風は短距離走者なのだが、同年代どころかもっと上の年代の長距離走者並みの速度を維持して走り続ける事が可能になっていたのだ。

 つまりどういう事かと言うと島風は長良さんと並走しやがった。長良さんは長距離走者で、しかも年上――高校生である。本来私達が敵う理由は無いのだけど、一緒に走らされてる私も島風も余裕で追いつき丁度いい感じの速度でしばらく走ってしまった。

 ペースを落とし、そこから始まる島風の雑談。インハイ復活したらいいねーとか、そしたらみんな出れそうだねーとか、長良も速いよねーとか、吹雪は出る気ないのーとか。

 最初は長良さんも硬くではあるが返答してくれていたのだが、次第に黙り込んで行って、最終的に目から涙を流し始めた。

 流石に島風もオウッと動揺して足を止め、私も流石に泣き出すとは思わなかったので硬直した。島風と二人で宥めつつ、連装砲ちゃん達も座っている階段状になっている所で長良さんを落ち着かせ、どうしたのか事情を聞くことになった。だけど、明らかに何一つ気付いてない島風に長良さんも事情説明出来ない訳で、仕方がないのでまず私が島風に話をする事になった。

 

 

 

「ドーピングかぁ」

「そういう事になるかも……って話だから、まだなんとも言えないけどね。艦娘辞めたら普通に治るかもしれないし」

 説明を終えると、島風はちょっと悩ましい顔になって、長良さんはちょっと驚いた顔をしていた。これは話を振ってくるも何も、そもそも私が気付いてるって事を察してなかった感じですね、分かります。

「まぁ、元々公式な大会とかに出る気のない私はあんまり関係ないんだけど……」

「え~」

「えっ!?」

 ついでに言っておいた私の意向に、明言はしていなかったがなんとなくでも知っていた島風はともかく、長良さんは赤くなった目を見開いて大層に驚いていた。そりゃあんだけ頭の悪い記録を出しといて、自分でも何を今更感が酷いので私の事をよく知らなければそうなるよなぁ。

「でっ、出ないの……?」

「あ、はい。出ない方向で考えてます」

 っていうか絶対出ないです。動画残っちゃってるけど、それはそれとして出るつもりは私にはないのだ。問題の理由付けも、私が艤装を一番上手く使えるんだ! でいい気がするのよね。妖精さんが居る限り艤装は動くし、動くなら需要あるだろう。話を聞くと妖精さん、別に深海棲艦追い払っても居なくなったりしないらしいし。それはそれで火種って気はするけども。身体能力が戻らないからって理由にすると他の娘も疑われる気がするのでそっちは無しだと思うんだよね。

 驚き過ぎて涙も引っ込んだ長良さんと、ちょっと不満そうな島風。今さっき君にとって結構重大な事言ったと思うんだけどちゃんと理解してる?

「伊吹、やりたい事見つかったの?」

「あー……まぁ、そんな感じ」

 元々私はやりたい事とかは特に無く、将来は仕事をしながらオタク趣味を拗らせて行こうと思っていた。そこへ現状の社会情勢である。今オタク業界は壊滅してるんだよね。嘘みたいだろ? 秋雲先生マジで先生だったんだぜ、あの人。連載してた出版社が物理的に消滅して強制終了されただけで。

 そうなると私が自分の嗜好のために出来る事ってなんぞや、って言ったら、真面目に戦う事以外ない訳で。まぁあれだよね、艦娘の運用が続くようならたぶん私は艤装が使えなくなるまでずっとそこに居ると思う。加齢で適性が減ってくらしいから強制定年で色々安心だし。チート転生者に定年があるのかは知らんが。

「それじゃ仕方ないかー」

 島風はむむむと眉を寄せて悩みながらそう言って石段に腰を下ろすと、連装砲ちゃんを一体膝に乗せてそう言った。わちき許された。

「私の事なんかより島さんと長良さんの方が問題なんだけど分かってる?」

 そう言った私に向かって島風はふふんと笑って、腕組みして足を踏み鳴らしながら立ち上がる。転げ落ちた連装砲ちゃんが頭を打ちそうだったのでキャッチしておく。

「もし後遺症が残るんだったら、そうなった人でも出れる大会を作ればいいよ!」

 お前は何を言っているんだ。突っ込んでしまった私に島風が答えて曰く、自分達で艦娘も出れる陸上大会作ろうとの事。

「海上じゃなくて?」

「走るのは陸だから!」

 いやそれでいいのかお前。実に前向きっていうか……何この……何?

 詳しく説明を聞いてみると、何らかの後遺症とか性別がどうこうとかそんなの関係ない大会開こうぜって事らしい。いいけどそれ主催するのは滅茶苦茶大変じゃないだろうか。お金もかかるだろうし。

 長良さんも最初は島風の発言に唖然として、暫くしてから笑い出した。連装砲ちゃん達もつられて笑っていた。

 

 元気の出て来た長良さんに詳しく話を聞いたところ、長良さんが涙を流したのは私や島風の事を慮った結果だという事が判明した。自分も辛いが、私や才能もあって既に症状も出ている島風は知ったらもっと辛いのではないのか、とか考えてた所に島風からラッシュを喰らって泣いてしまったらしい。良い人かよ。

 二人とも思ってたよりも全然ダメージ無さそうにしてたし、島風に至っては長良さんも巻き込みそうな解決案……解決案? とにかく提案までしてくるほどだったので笑っちゃったのだとか。ひどーいって島風は言うけど発想が斜め上でそんなん草生えますわ。

 長良さんは悩んでも仕方ないかと伸びをして、島風は悩んでるくらいなら走ろーと元気に声を上げ、連装砲ちゃんも然り然りと頷く。ともかく今日は走るぞと意気込んで広場に向かい歩き出す二人を眺めながら、とりあえずお金は貯めておこうと心に決めて、ゆっくり二人を追いかけた。

 

 

 

 走って休んでまた走って、正午を回ったのでお昼にしようと食堂まで三人と三体でやってきたら、どういう訳か旧収集部隊の面々が揃って昼食を摂っていた。

 旧収集部隊は私が変色海域への進攻に使われる事になり護衛が居なくなったため解散、構成員はそれぞれ哨戒や偵察、収集(普通の)などに振り分けられて活動時間が別々になってしまったため、真昼間に集まったりするのは難しい。はずだと私は認識していたのだけど、十二人全員揃って仲良く……というには微妙に空気が重いような気もするが、ともかく同じテーブルについていた。

 軽く挨拶を交わして何かあったのか聞いてみたが、特に何もないよと返される。ただ、一部の人の腕には四角い小さめの絆創膏が見えた。健康診断かな? 隠す意味が全く分からんけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 適性検査の結果が出るのは早い。技術を持った妖精さんと採血キットさえ用意出来れば十人二十人くらいならあっという間に終わってしまう。とはいえ無駄に回数を増やすのは資源の無駄遣いであるため、通常であれば一度適性者と認められた人間の再検査というのは行われない。精々適性が下がり艤装が動かせなくなった艦娘の最終確認くらいであった。

 その日、宮里艦隊では複数人の適性検査がひっそりと行われた。吹雪と組んでいた十二人に長門、龍驤、それに秋雲を加えた十五名の採血が午前中に行われ、午後には結果が宮里提督の下へと届けられる。その紙面を見て、宮里は頭と胃を痛くした。

 

 

 

「なにこれ、滅っ茶苦茶やん」

 執務室に呼び出された長門、龍驤、暁、飛鷹、川内、五人の艦娘達が差し出された検査結果を見て、内容を理解し、一番に龍驤が口を開いた。他の艦娘達もまったく同じ思いを抱き、喜びより困惑が先に立つ。何かしらの手違いの可能性すら頭に浮かんだ。

「……っていうかこれやとうちがおかしいみたいに見えるんだけど、そういう訳じゃないよね?」

「今までの私達の認識だと、そのはずです」

 宮里も苦笑いするしかない。艦娘の適性値は艤装にもよるが、特に駆逐艦などは基本的に年若い方が高くなる傾向にある。そのため年を取れば数値は低下して行くと考えられ、実際に配備から半年以上が経過した今では、起動ギリギリの適性値しか持たなかった自衛隊員の中から起動不全に陥り艦娘を辞す者も現れていた。

 そこへ来て暁の報告である。とある異常な地域の例もあり、まさかともしやの両方の考えが合わさった提督は無駄になる事を覚悟で大本営へ適性検査の実施を具申し、許可を得られたのが昨日の話である。結果的に意味はあった――というか、予想を遥かに上回る結果が出てしまった。

「龍驤以外は全員上昇か……」

 戦闘部隊外の十二人全員に、長門と秋雲までもが適性値の上昇が確認される。それが妖精さんの出した検査結果だった。龍驤のみ、唯一変化が無い。

「うちも減ってないだけマシ……なんやけど、ほんまなんやもうこれ」

「変わった我々も上がり幅に差があるな。最大上昇は……暁だな。次いで飛鷹、秋雲、川内、そして私の順か。私はかなり離れているが……」

 長門は変化前と後の数値を見比べる。他の収集部隊の面々はほぼ誤差に見える者が多く、多くても10が関の山であったが、挙げられた五人は変化が顕著であった。長門は少し伸びが悪いが、他は一番低い川内でも300近い上昇を見せている。明らかな異常事態だった。

「暁、最初に気付いたのはお前だそうだが、いったい何時からなんだ。兆候はあったのか?」

「あっ、はい、いえ、収集部隊の時は殆ど武装を取り払っていて、移動も船に乗っていたので、気付いてなかった……のです……」

 呆然と結果を見つめていた暁は声を掛けられはっとして思い出しながら返答する。吹雪に護衛されていた時の暁の仕事は資源収集と索敵、それに班員のまとめ役であり、ほぼ適性値による変動が体感できるような事はしていなかった。そのためか、先日勘を取り戻そうと砲撃の練習を行うまでは自身の変化には全く気付かなかったのだ。

「私も最近調子が良いとは思っていましたけど、攻撃機は積んでいなかったので……」

「私は改装した艤装が馴染んできたのかなーくらいに思ってて……」

 飛鷹と川内も同じく気付いていなかった。飛鷹は正直に言えば、吹雪に助けられて以降ずっと調子が良かったのもあり、ちらりとその可能性を浮かべなかったでもない。だがまさか、特に何をしたでもない自分の適性値が上がるとは思っていなかったし、川内に至ってはそもそも上がる可能性があるという事すら知らなかった。

「いやぁ、よもや上がってるとは。これなら戦闘部隊も行けるかな?」

 呼び出された三人とも余裕で150越えてるし。川内は明るい語調で言うが、提督としてはかなり悩ましい事態である。と言うのも、対外的に自衛隊の戦闘可能な艦娘は十二人であると明言されているからである。そこへ一気に三人追加、というのは何やら悪い方へ勘繰られてもおかしくない。そもそも適性値を上げる方法が存在するなら招集自体必要無いという話になりかねないのだ。

「ちなみに提督はどうして上がったのか心当たりはあるの?」

「吹雪ですかね」

「吹雪やろなぁ」

「吹雪だろうな」

「吹雪よね」

「吹雪以外ってあるの?」

 即答され、やっぱそうかぁ、と川内は得心した。あの明らかにおかしい生物なら、そういう事をやらかしてもおかしくないと感じられたのだ。

「だが、条件が分からんな。吹雪の指揮下にと言うのなら私と秋雲が上がっている理由の説明がつかない」

「え、長門本当に分からんの?」

「いや、思い当たる節はあるが……正直、そんな事で上がると信じたくないだけだ」

 複雑そうな長門の言葉に宮里提督はかぶりを振り、目を閉じた。

「たぶん、それで合っていると思います。考えてみれば、秋雲だけではないですね。おそらく、吹雪と接していた時間の長い駆逐艦は全員、適性値が上がっているんでしょう」

 訓練場での成績を鑑みれば全員元々優秀である。だが、それを考慮しても、彼女たちの戦果は明らかに大きい。攻撃力が想定していたよりも高いはずだ、と宮里は呟いた。

「つまり、どういう事?」

 事情に全く通じていない川内は隣の暁に小声で聞いてみる。全員に聞こえていたため、答えは龍驤から返ってきた。

「吹雪と仲良うすると、適性値が上がる。っぽいって話」

 うちはほぼ話もせんかったからね、と龍驤は笑う。龍驤だけに限った話ではなく、空母や潜水艦の面々はほとんど吹雪と交流が無い。その彼女達は良くも悪くも訓練所で発揮した戦力をそのまま保持し、逆に吹雪と交流が深い――ある程度でしかないが――駆逐艦や巡洋艦の面々は自衛隊の目算していたよりもかなり高い実力を持っているというのが宮里艦隊の現状である。

 そこへ来て、対吹雪用のクッション役として収集部隊に配属された暁と飛鷹、吹雪に基本的な格闘術を教え込んだ川内の適性値が戦闘に堪える水準まで上がったとなっては、最早推測は確信の域にまで上り詰めていた。

「ともかく、この結果は貴方達の証言も含め今日中に上へ報告します。三人の扱いはまだ分かりませんが、おそらく訓練所に戻される事は無いのではないかと……」

 そりゃそうだ、と全員が納得した。指導だけなら他の艦娘でいいのだ、戦える者は戦える場所にというのが今の方針なのだからして。

 一応調整はしておくべきだろうという事で、艤装を用いて訓練場である程度の慣らしの指示を出し、その場は解散となった。

 

 

 

 数時間後には大本営から新たな戦闘部隊メンバーは宮里艦隊で管理、運用するようにと指示が出された。艤装も日付が変わるまでには戦闘用の物が届くよう取り計らうとの事である。

 おかしい。宮里の胸中は不信感で満たされた。

 事実確認の連絡もなく、悩む事すら無かったような、まるで決まっていたかのようなスムーズな決定である。一応、艦娘の人事に関しては楠木が最終的な決定権を持っているとはいえ、どう考えても早すぎるだろう。

 それ以前にも不審な点は多い。たとえばそもそも暁と飛鷹が吹雪と同じ鎮守府に異動になった点だ。世間に顔を晒してしまった者を一か所に、という話ではあったが、今この状況になって改めて振り返ると非常に怪しい。それは吹雪と仲を深めさせるための方便だったのではないのかと疑ってしまう。ひょっとすると、暁が教官長に選ばれた事自体が、というのは流石に考えすぎだろうが。

 当然言えない事もあるだろうとは宮里も理解しているのだが、それでも疑いの芽が出れば気にはなる。上を疑うべきではないだろうが、部下の命に関わる問題でもあり、宮里はさらに悩まされる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局休日をほぼ走り込みで消費した翌日、艤装の修理をしっかり終わらせ死体となった明石さん達を踏み越えて、宮里艦隊の戦闘部隊は今日も今日とて出撃のためのミーティングに集まった。

 一昨日は二か所同時に敵泊地を潰したし、今日はその周辺を掃討して明日明後日にまた変色海域かなと思いながら会議室の扉をくぐると、しっかりと艦娘の制服を着こんだ川内さんがおーっすと挨拶を繰り出してきた。

 なんで居るんだろうと疑問に思いながら何か楽しそうな様子の川内さんと暫くお話していると、暁教官長と飛鷹さんまで入室してきて、一緒に入ってきた長門さんと共に提督の後ろに控えた。川内さんも引きずられて行った。

 暫くして戦闘部隊も揃い、提督から発表される今日の作戦の概要を頭に叩き込む。と言ってもやっぱりただの掃討と変色海域近辺の偵察くらいだったけど、どういう訳かこのところよりも出撃人数が多かった。いつもは近海で何かあった時のために何人か鎮守府に残して行くのだけれど、そちらを減らして戦闘部隊マシマシ。で、その穴は今提督の後ろで真面目な顔してる三人に埋めて貰うと。

 ええ、大丈夫なのそれ。適性値上がったから大丈夫? あ、そうなんですか。へぇ、適性値って上がるんだ。知らなかった。

 

 うぇっ、マジで? 上がったの? っていうか上がるもんなの? 割とさらっと告げられたその事実に会議室内はざわついた。曙とかめっちゃ食いついて上げる方法を聞きに行ったが、どうやら自衛隊側でも理由は不明らしい。ただ検査したら上がってたから採用されたとか。

 実際、色々検証した結果戦闘に堪えるだけの能力があったらしいので使える物は使っていく事に決まり、でもいきなり私達と同じ所に放り込むのは不安なためまずは近海の警備からで、慣れたら合流という事になったそうな。

 ツッコミたい事は多々あるが、とりあえず川内さんがはしゃいでた訳は分かった。それに飛鷹さんが戦えるようになったのはなんか嬉しいな。適性値低くても戦いに行ける人だし、頼もしい。でもその二人よりも私的にさらに注目度が高いのが暁教官長である。いやもう教官長に戻らないのかな? 呼び方考え直した方がいいんだろうか。そんな事を思っていたら、一部の人から三人の実力に疑問の声が上がった。でもそこはたぶん問題ないと思うのです。

 川内さんは身体能力高め、近接戦でばっさばっさやる天龍さんと同じタイプで速度はさらに早い。旧収集部隊でも夜戦忍者の片鱗が見えていた。飛鷹さんもきっちり索敵をこなし、潜水艦も見つけ出せるくらいの頼もしい人だ。暁教官長に至っては現状唯一の私に有効打を与えた存在である。敵味方ひっくるめて。しかも三度。

 それを言ったら教官長に誤解を生む表現は止めて!? と叫ばれてしまった。事実なのに……

 

 

 

 

 

 その日の出撃を終え、無事に全員帰港。提督が話があると言っていたので執務室に向かったが、丁度離席していたようで、机の上からずり落ちそうになる書類の束を必死で押さえる妖精さん以外は誰も居なかった。

 たすけてーと呼ばれたので書類を取り上げると、持ち上がった書類に引っ付いて妖精さんも持ち上がった。何してんの君。

 妖精さんを回収して提督の机に書類を戻すが、その時自然とめくれたページの一部が目に映ってしまった。そこには長門さんの本名が書かれており、その名字は長門。どうやら長門さんも姓名に艦名が入ってる勢だったらしい。

 書類を落ちないよう纏めつつ、つい触ってしまったらしい妖精さんを窘めていると、龍驤さんが入室してきて、机周りを弄っている私の事を見咎めた。注意されたが妖精さんじゃ、妖精さんの仕業じゃと説明したらすぐ納得されて、逆に謝ってきた。

「信じていただけるんですね」

「そりゃまあ、吹雪が真面目って事くらいは知っとるしな。それに宮里提督の周りは妖精さんのせいで散らかったりとか、よくあるからなぁ」

 艤装を装着していない今の龍驤さんに妖精さんは見えないが、提督の周辺で妖精さんがよくいたずらをしているのは知っているとの事である。殆ど話もした事のない龍驤さんだが、良い人っぽくて助かった。

 龍驤さんは私の触っていた書類を見て、これかぁと呟いてから私に見えないように裏返す。

「すいません、名前だけ見えてしまったんですが……」

「ん、まぁそんくらい構わんやろ。そもそもこれ機密ってほどのもんでもないしな」

 そしてそこで会話が止まった。龍驤さんも用事があるようで一緒に提督を待つ事になるのだが、何を話すべきなのか、そもそも話した方がいいのかがさっぱり分からない。龍驤さんもこちらを気にしているそぶりなのだが、やはりどう話しかけたものか困ってるのだろう。今までちゃんと話して来なかったツケが廻って来た感がある。

 さっきの書類結局何だったのか、とか聞いてみてもいいのかもしれない。機密じゃないらしいし。長門さん以外にも複数の見た事のない名前が載っていて、出来るだけ見ないようにはしていたが武蔵や陸奥の名前があったのは認識してしまっている。

「なあ吹雪、さっきの報告書、どこまで見た?」

「長門さんの本名と、戦艦の名前が幾つかあるのだけ……」

「本名……まぁ、そうか」

 迷った末話しかけて来た龍驤さんは微妙な表情になった。なんか含みのある感じだけど、話題にしてくれたのなら聞いておこう。

「長門さん、もそうですけど、私も名前に自分の艦の名前が入ってるんですよね。龍驤さんはどうですか?」

「うち? うちは入ってないよ。加藤の寿子ちゃんやからね、普通の名前でしょ」

 確かに普通である。入ってる人と入ってない人の差はなんなんだ本当に。

「普通かどうかで言えば私の名前も普通ですけどね。伊吹の雪ちゃんと申しまして」

「ははっ、確かに。でも知ってる? キミの名前、吹雪以外の名前も入ってるで」

「伊吹ですね。未成の……重巡か空母でしたか」

 龍驤さんは感心した様子でほほうと息を吐き出しながら腕を組んだ。豊満と言っていい胸が揺れる。

「知ってるもんやね……軍艦とか興味ある方?」

「いえ、召集前に吹雪について少し調べて、その時に偶然見つけました」

 そっかーそりゃ調べるわなと龍驤さんはうんうん頷いた。一緒に胸が揺れてる。割と自分の使用する艤装の由来を調べた人間は多いのではないだろうか。私は実際の所、前世で読んでた漫画にあったから知ってただけだけどな!!

「案外そっちの適性もあったりするんですかね」

「どうやろ……うちは個人個人の詳しい適性値まで知らんから吹雪のまでは分からんけど、複数の艤装が扱えるって子は居るよ」

 一人一種類って訳ではないらしい。聞けば、各々最も高い適性値を持つ艦の艤装を割り当てられているが、姉妹艦の艤装も扱えるという娘はさほど珍しくないのだとか。案外私も初雪や深雪のは使えるのかもしれない。叢雲はなんか色々違うから難しそうな気がするが。

「それにしても、結構多いですよね、自分の名前に使える艦の名前が入ってる事」

「それな」

 やっぱ気付くよなぁと龍驤さんはぼやいた。そりゃあ気付くだろう、大変失礼な話だが、金剛さんはともかく比叡さんなんか入れるために無理矢理名付けたように見えるし。

「自衛隊でも適性値と関係あるんやないかって調べてるんよ。で、今吹雪もさっきチラ見した奴あるやん? それその関係の奴」

 マジかよちゃんと見とくんだった。いや知ってもしょうがないんだけど凄い気になってるんで出来れば知りたかった。私が書類の方をまじまじと見つめていると、隣の龍驤さんは耐えきれないといった感じで吹き出した。

「案外判り易いなキミ……でもあれ、結局分からんって事しか書いてないで。ただの実験結果やから」

「実験……?」

「そ、人道的に問題なくて、コストも全くかからない、やる価値があるのかも分からないような奴」

 姓名変更実験。それは戦闘に堪えうる艦娘を十二人しか確保出来なかった自衛隊が、数撃てば何か当たるんじゃね的な考えの下行った奇行の一つだという。

「ま、名前変えるだけで適性値上がったら苦労せんわな」

「……じゃあ長門さんの本名って」

「もっと違う名前やね。戸籍上は長門になってるはずやけど」

 この実験、精鋭部隊は半数、それ以外にも多数の艦娘が参加したが、結論としては無意味だろうと言われてしまったそうな。いやそれが分かったのは収穫なんだろうけど、なんか悲しい。ゲン担ぎでやった奴も多いみたいだからと龍驤さんは言うけれども。

 

 そんな事を話していたら宮里提督が帰ってきた。私への要件は、以前に報告書についでに書いておいた第一から第三艦隊に私の指揮下の艦娘が居た方が良いのではないかという案を正式に採用、新たに加わった三人をその枠として配置するという話だった。旧収集部隊のメンバーは私の指揮下から外していないので、つまりは現状維持って事だね。

 

 

 

 宮里提督との話を終えて部屋に帰ろうと廊下に出たら、見慣れないけど見慣れた人物が前から歩いてきた。その人は片手に小ぶりなスーツケースを下げてゆったりと廊下を歩き、自分の口元に人差し指を当て騒がないようにとジェスチャーを飛ばして来る。

 そのまま敬礼する私とすれ違い、提督の執務室をノックすると、ゆっくりと扉を開け、用事を終えて出て来た龍驤さんと入れ違いに部屋へと消えて行く。龍驤さんは閉じられた扉を三度見くらいしていた。

 なんでここに楠木提督が!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、聞きたい事があるようなら、答えようか」

 宮里は混乱していた。吹雪と龍驤の用事を済ませ、書類仕事を片付けてしまおうと思った矢先、突然現れて開口一番そんな事を言い出したのが自分の上司――この場に居るはずがない人間だったからである。

「ああ、挨拶などは構わんよ。これだけ置かせてくれれば椅子も茶も要らない」

 そう言ってスーツケースを宮里の執務机に置いたその人物は、名を楠木 多聞丸といった。

「そういう訳には」

「いやぁ、用が済めばすぐ帰る予定だからね。一度座ると立ち上がるのが億劫になってしまうよ」

 冗談めかしてそう言うが、宮里からしたら笑えない。普通に座って欲しかった。せめてこれだけはと自分も立った状態で楠木提督に向かい合いになる。

「さぁ時間も有限だからね、あるだろう? 疑問に思っている事が」

 宮里は一瞬悩んで、少しだけ言葉を選ぶ。

「はい、でしたら、お聞きします。……吹雪には他の艦娘の適性値を上昇させる力がある、のでしょうか」

 知っていたのではないか、というか、もうこれ絶対知ってたよねと思いながら投げた質問は、やはりというか肯定の声でもって返答された。

「そうだね。あるよ」

「……何故それを隠されていたのか、お聞きしてもよろしいでしょうか」

 ふむと楠木は少しだけ考える素振りをすると、宮里の目を真っ直ぐに見つめた。

「その疑問に答える前に、おそらく君がしている勘違いを一つ訂正しておこう」

 適性値を上げる力は提督共通の能力だよ。

 言われた言葉を一瞬、宮里は理解出来なかった。

「吹雪くん固有の能力ではない。まぁ、その能力が異常に強いという点は特異だろうけれどね」

「では、私でも適性値を上げる事が出来ると……?」

「出来るとも。君も、もちろん私も」

 まぁ私は条件を満たせないだろうがと楠木は笑う。その言葉から、思っていた以上に楠木が事情に通じていると宮里は理解した。

「方法もはっきりしているのですか?」

「ああ、至極単純で、とても難しい方法だよ……本当に単純なんだ。何せお互いがお互いを信頼する、それだけでいいのだから」

 君がゲームでもするなら、好感度を上げると表現するのが分かりやすいのだけどね。と楠木提督は言う。残念ながら宮里はその手のゲームをやる方ではないが、説明がなされなかった理由は見当がついた。

「知ってしまうと、それを目的としてしまう可能性が出る。だから秘匿されていたのですね」

「然り。心の底からの信頼関係である方が望ましいようでね。それも双方向で、だ。単純だが非常に面倒臭い」

 提督側と艦娘側の、片方でも打算だと成立しない。必要なのは強い絆なのだと言う。つまり今回適性値が上がったのは吹雪を認めて、吹雪からも信頼を勝ち取った艦娘達なのだ。

「……五番目が長門と言うのが少し腑に落ちませんが」

「ん? いや、違うよ。というか、気付き給えよ。長門を好いているのも長門が好いているのも吹雪くんではないだろう」

 あっと宮里は声を上げた。適性値を上げる能力は全提督が有しているという。吹雪が原因でないなら一番可能性が高いのは誰なのか。

「私ですか!?」

「そうなるね。私の分は今更上がらないだろうし」

 そう言うと楠木は懐から取り出した鍵をスーツケースに差し込むと、蓋を開け中身が見える様に宮里へと差し出した。中には十個の小さな箱が詰められている。

「これは妖精さんが作った、提督の適性値を上げる力を効率的に運用するための装置だ」

 その道具自体に適性値を上げるような効果はないが、既に提督と強い絆を結んだ艦娘が身に着ける事で提督との繋がりを霊的に強め、結果的に適性値も上がって行く。妖精さん特有のオカルティックでファンタスティックな逸品であると言う。

「中身は全て同じでデザインは選べないのが申し訳ないがね、とりあえず一つは君に預けよう。なに、誰に渡すも自由だよ」

「その性能だと意味があるのは一人しか居ないですよね? というか、どこまでご存じなんですか……!?」

「はっはっは、義娘をよろしく頼むよ」

 スーツケースから一つ取り出された小箱の側面にはどういう訳か括弧書きで仮と印字されている。もしかしてテストに使われているのだろうか。宮里は少し心配になった。

 

 

 

 

 

 その後もなんやかんやと話し合い、見送りするという宮里を押し留めて、楠木は一人港の暗闇で独り言ちる。

「危なくレ級くんに殴られるところだったが……ふぅ、リカバリーできて良かった……」

 やはりアドリブを入れるのは慎重にやらないと駄目だなぁと呟く楠木の計画は、今日も今日とてガバガバだった。

 

 

 




でも送り迎えはレ級なので結局バレます。
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