まず映し出されたのは敷地の外と内を隔てる入り口と、その傍らに立つ守衛だった。筋肉質な体躯と精悍な顔つき、漢の中の漢と言える偉丈夫。それが二人、門の左右に立ち多少緊張した面持ちで周囲を見張っている。
次に画面に入り込んできたのはマイクを持った若い女性――音信不通となったキャスターの代わりに登板するようになった、子役上がりだがハッキリとした喋りで好評を得ている――リポーターだ。装着したハンズフリーなマイクに向かって爽やかな声で挨拶をすると、門を守る自衛隊員にも一礼し、カメラと一緒に門をくぐった。
その先に待っていたのは二人の人間である。片方は菊の印をあしらった金属製に見えるサンバイザーを付け、どこか狩衣を思わせる上着に短めのスカートを履いた女性。体はしっかりとした凹凸があり、肉感的と言っていい。女性的な魅力と引き締まった筋肉を併せ持ち、いい女と言うのがしっくりと来る。
そしてもう一人は女学生の制服のような服を着た、まだ顔付きに幼さの残る少女だった。化粧などは明らかにしていないにもかかわらず、並び立った芸能人と遜色ない程に、その容姿はカメラ越しにも目を引いている。肩まである髪は後ろで一纏めにされ、覗く形の良い首元の輪郭は湛えた薄い笑みと共に見る者に健康的な色香を感じさせた。
:えらい美人が出てきた件について
:マジで吹雪じゃねーか!
:やっぱここが当たりか
:明らかに回線強いとこだから分かってた
:親の顔より見たオールマイト
:↑もっとちゃんと原作見て
:他が外れみたいに言うんじゃないちょっと注目度が下がるだけだぞ
「おはようございます! 宮里艦隊第四戦闘部隊所属、駆逐艦の吹雪です。本日はよろしくお願いします!」
「おはようございます。第二戦闘部隊所属、軽空母の龍驤です。よろしくお願いします」
「おはようございまーす! 本日は招集された適性者の皆さんの中から代表で選ばれた吹雪さんと、自衛隊所属の龍驤さん。それに私、筑波 藍の三人でこの鎮守府の紹介をさせて貰います! お二人とも、本日はよろしくお願いします!」
大きめの身振りで頭を下げたリポーター――筑波に二人も再度一礼する。吹雪は普通に、龍驤は敬礼で。その際、吹雪はちらりと手に持った端末の画面を確認した。
:吹雪(゜∀゜)キター!!!!
:吹雪が居ると聞いて他チャンネルから
:筑波ちゃんも出世したもんだ
:蘭姉ちゃん?
:↑蘭じゃなくて藍だぞ
:オールマイト感無いな
:子供にこんな事させていいの?
:↑戦わせるより健全では
:吹雪なのかオールマイトなのかはっきりして
:吹雪
:宮里艦隊の宮里って地名?人名?
:雪ちゃんかわいい
:糞ビッチ雪ちゃん
:おっと誹謗中傷はBANだぞ
:※100m十秒台で走ります
:龍驤さんエッッッッ
:なお顔
:芸能人に挟まれた一般人なだけだから……
:↑芸能人は一人なんだよなぁ
:他もなんか可愛い子ばっかだし選んでんだろうなぁ
:戦闘部隊ならこの人って十二人の一人?
:オールマイトで第四部隊なのか
「あー。私の本名は一応、公表しない方向ですのでご了承ください。知ってる人は知ってるみたいですが。艦隊名の宮里はこの鎮守府の提督の名前です。艦隊ごと異動する場合もありますのでどの艦隊も提督の名前で区別されてるんですね。なので、もしこの鎮守府の位置を特定出来ても私達は居ない可能性が高いので悪しからず……あ、宮里提督は只今自衛隊の公式生放送の方に出演されていますので、よろしければそちらをご覧ください。部隊は番号での優劣とかはなくて、運用の違いですね。龍驤さんは旧精鋭部隊の一人で、メンバーは今は各鎮守府で指導しつつ先頭に立ってるそうです。あと私はオールマイトではないのでちゃんと原作読んでください」
突然喋り始めた吹雪をぎょっとした目で龍驤が見つめ、やはり手元に持っていた端末を確認して納得の表情を見せた。筑波は一度も噛まずに言い切った事に感嘆の声を漏らしつつ、吹雪の後に続いた。
「こんな感じに今日は皆さんのコメントを放送に反映させていただくことになっています! コメントは公式ホームページ、または配信サイトのコメント欄からどうぞー。あ、有料会員限定となっていますが、今からの登録でも間に合いますよ!」
:急に喋るな
:雪ちゃん本名で合ってたんやなって
:吹雪の提督自衛隊の人か
:チッ
:自衛隊の方一緒に見てるけど宮里提督って女?
:どう見ても宮里提督女性っぽいなまだ喋ってないけど
:何する部隊なんだ第四部隊
:精鋭部隊ktkr
:部隊としては解散してたのか
:嘘つけ絶対オールマイトだゾ
:原作読んだ後動画見なおしたけどオールマイトだったぞ
:龍城が今見てたけど吹雪っていつ米見てた?
:龍驤な
:礼しながら見てたあんまり礼儀は良くないね
:俺らのコメントとか拾って大丈夫なのかね
:公式放送を炎上させていけ
:露骨な宣伝
:課金を煽っていくスタイル
:いうて500円だし
:人増えると一般垢は追い出されるから気を付けろよ
:手遅れでは
:入れもしなかったから登録してきました(半ギレ)
「えー、今回の放送は、自衛隊の公式会見の裏でとはなりますが、各局が別々の鎮守府から、各鎮守府の実態と招集された適性者がどのような環境で生活を送っているのかを見ていただき、今後の招集に対する理解を得るのが目的となっております」
「そこは言っていいんですか?」
龍驤の説明に筑波が疑問を呈する。吹雪は何故か龍驤を訝し気に見つめていた。
「はい。決して粗雑な扱いなどはしていないと理解していただくために、多角的な判断材料として複数の鎮守府を見ていただこうという事で今回のような形での放送となっています。ですので、基本的に情勢や今後の予定等は表の――自衛隊の会見の方で行われる予定ですのでそちらをご視聴ください。また、今日の放送はあくまで招集された人間の視点で、というのを目的としますので進行は私より吹雪が主体になります…………あの、吹雪は何? 何かありましたか?」
感心したような、妙な物を見るような目で自分を見ていた吹雪が流石に気になり、龍驤は声をかけた。
「龍驤さんって標準語も喋れたんですね」
「んなとこ気にしとったんかい!?」
:裏……?
:一番視聴率取れそうなのを民放に渡したの草
:自衛隊のは公共放送でだからセーフ
:大 本 営 発 表
:そうならないように複数のを見せるって話だから
:偏るのが見える見える
:自衛隊と自衛隊じゃないのがあるみたいに聞こえるんだけどどういう事?
:↑招集された子は別の組織所属になるんだぞ建前上
:表も重要そうなんだけど後でいいな!
:よくねぇよどっちもみろ
:吹雪メインとか需要の分かってる組織ですね……
:いや真面目にやれよ子供にやらせんなks
:公式の放送としてはどうなの
:炎上祥鳳かな?
:祥鳳じゃなくて龍驤だろいい加減にしろ!
:草
:関西の人ですねクォレは……
:オールマイト緊張感無さ過ぎだろwwwwwww
:緊張した結果なのでは?
「そんな訳で、龍驤さんは私が機密に触れそうになった時に止めたりする役をしてくれる事になっています。ですので、質問によっては答えられないものもありますのでご了承ください。また、私からの個人的なお願いです」
一度言葉を切り、真剣な表情で吹雪はカメラに改めて向き直る。龍驤と筑波も打ち合わせに無い急な話に――口調の話も無かったが――何を言うつもりなのかと吹雪を見守った。
「今回の放送に出演する艦娘は各局の合計でかなり多くなると思いますが、彼女たちを素材化してコラージュを作ったりネタ動画を編集したりしないようお願いいたします」
「えっ、そこ?」
筑波は困惑した声を漏らし、龍驤はむしろ納得の表情を見せた。最初に姿を見せた艦娘である長門のネット上での状態を知っていたからだ。
「結構大事な事なんですよ、何故か人力ボカロにされたりしますから! あ、私の事は新素材にしてくださって構いません。もう今更なので」
そう言いながら胸の前で両手を組み、あざといポーズで上目遣いにカメラに向かってお願いしますと囁いた。
:吹雪だけにやらせられんわな
:初めからやらせなきゃいいだろ……
:おじちゃんかわいいこのお願いならなんでもきいちゃうよ
:↑死んで(はーと)
:偽ちゃんねる民怒られてんぞ
:自分の動画見てるのかこいつ
:歌う吹雪とかいうごり押しを越えた何かすこ
:これは毒婦
:やはりビッチなのでは?
:ヌッ
:ふぅ……
:流石に引くわ
:他のとこもだけど自由過ぎない?
「自由度につきましては公序良俗に反さない範囲で自由にやっていいと言われているおかげですね。ちゃんと時間内に予定を全部消化するようにとは指示されてますけど。っていうか、他の所どうなってるんですか?」
:こっちに質問してくるのは予想外
:初手で愛を叫んだり出演者が顔出し上等の配信者だったりしただけよ
:凄い勢いでぽいぽいしてるのもあるぞ
:霧島のとこ以外全員芸人みたいになってる
:聖徳太子多くね?
:霧島は霧島でチェックワンツーから始まったけどな
「何やってんだ金剛さん……いやまぁ、特に問題は無さそうなので早速紹介の方へ移りたいと思います」
はいまずはこちら、と吹雪が店員が商品を紹介でもするように掌を向けて差したのは、先ほどカメラも通って来た門であった。
「ここが入り口になります。守衛さんが十二時間、二交代制で見張りに立ってくれています。物資搬入の受付なんかも担当しているそうで、見た目の印象よりはやる事は多いんだそうです。男の人ばかりですけど、艦娘とは別の所に寝泊まりしていますので滅多な事は起こらないかと思います。食堂は一緒なんですけどね」
:それいる?
:俺らを見つけたら排除する人達
:艦娘とお近づきになれそう
:↑こういう奴が居ないかどうか心配だろうって紹介されたんだな
:男ばっかで別の所に住んでるのかアッー!
:そういうのにすぐ結びつけるのは良くないと思います
:食堂って何が出るの?
「艦娘にお近づきには……どうでしょうね、私は話した事ないです。少なくとも仕事中にそういう目的で話しかけてくるような不真面目な人は居なかったので安心してもらっていいと思います。食堂は後で回りますのでお楽しみに」
「門に立っている方達は自衛隊の皆さんなんですよね?」
筑波の質問に吹雪は、龍驤へ目線をやる事で返答する。これは打ち合わせ通りなので、龍驤はすぐに回答した。
「はい。各鎮守府共通で、警備や清掃、物資の運搬などは自衛隊が行っております。一部は男性ですが、女性隊員の方が人数的には多いです」
見張りは門のところ以外にも居るので人数はそれなりに居ますと付け加え、他に特にいう事も無かったのか、それでは中へと三人は入り口を離れ奥へと進んで行った。
初っ端から滑った感がある。
いやでもさぁ、言っておかないと絶対増えるじゃん? 言っても増えるだろうからもう自分から素材投げて注目集めてくしかないよねって思った結果がこれだよ!!
っていうか、ほんと正気じゃないわこの企画。私は良いんだよ別に出演したって。もう顔出ちゃったし特定もされてるし。でも今回それどころじゃないからね、うち以外の鎮守府も入れたら出演予定者多すぎて宮里提督も頭抱えてたからね。
なんなんですかね、自衛隊の公式放送とは別に私達の所属組織の公式生放送withネット生配信って。しかも一か所じゃなくて五か所同時。頭沸いてると思う。あと出演者に知り合い多すぎて困るわ。宮里艦隊は私と龍驤さんで、他の艦隊は代表一名+旧精鋭部隊員+提督でやるらしいんだけど、代表者枠五人の内知らないのが一人だけ――北上さんだけってお前。
金剛さんは案の定バーニングラブしちゃったらしいし、夕立はぽいぽいしてるみたいだし、北上さんはなんか元々結構名の通った配信者だったらしいし。私三次元の顔出しとか一切興味ないから知らなかったんだけど、人気がどれくらいだったのかはファンだった大井さんが大いに語ってくださったのでよく分かった。霧島さんの所が一番まともにやれそうな気がするので頑張ってもらいたい。
それにしても配信サイトの方からのコメントが一切自重ないから困る。ここから拾うの絶対炎上すると思うんだけど大丈夫なんだろうか。いや燃やした方が注目度上がっていいのか? 意図的にやれるほどの能力はないんだけどさ。
筑波さんとは打ち合わせでも話をしたけど陽のオーラを常時放出していて浄化されそうになった。なのに気が付いたらメイン進行私になってたんだけどどういう事だってばよ。芸能人居るのにどうしてそうなったのか、これがわからない。
今はチート能力さんが無理矢理動揺と緊張をねじ伏せて普通に喋ってるように見せかけてくれてるけど、私はすでにいっぱいいっぱいだぞ。つーかチート能力さんの応用力がヤバい。敵を狙い撃つ時とかの精密動作の応用でこんな事出来るとは思ってなかった。
まぁ龍驤さんにすっげぇ失礼な事は言ったんだけどな!! 本音が口からまろび出ちゃったんだよ後で謝ろう。
門番の人達に関しては普通に喋れたと思うけど、実は一個だけ嘘を吐いていて、本当は話しかけられて言葉を交わした事が何度かある。ただナンパとかじゃなくて、声援を貰ったのだ。ややこしくなるから言わなかったけどね。
三人で海の傍を通り、施設の二階へ上がり会議室なんかを案内する。これは特に変わった事も無いのでさらっと終わってしまった。おかげで米欄が私への質問とかで埋まる埋まる。それ以外には他の放送の状況も流れて来ていて、意外とみんな割と無難にやっているらしい。北上さん以外。
「あ、ここはトイレです。一応男子トイレもありますが……割と私達が使ってますね、こちらまで男性の方来ませんし」
:その情報は要らなかった
:prpr
:男女別れてるような建物なんだな
:何その女子高の現実みたいな
そういや元々は何の建物なんだろうここ、実は私も知らないから答えられん。新築ではないから何かに使われてたはずなんだけど。そう思いつつ次に向かった先は提督の執務室である。まぁ中にカメラを入れる訳には行かないので入り口をさらっと紹介するだけなんだけど。この建物は生活や戦闘に直接関係ないから本当に見せるだけなのだ。
でもなんか、実際扉の所まで来たら入り口が若干開いていて、中からとても聞き覚えのある駆動音がしている。常人の耳だと直接耳をくっつけなければ聞こえないようなそれに嫌な予感を感じ、扉を完全に閉めてしまおうかと手を伸ばしたその時に、きゅぅーと悲し気な泣き声を出しながら、扉の隙間からにゅっと三頭身くらいで頭に砲身を付けた金属のようなもので出来たそれが顔を覗かせた。その子は見慣れた私の顔を見るや、きゅっきゅぅーと鳴きながらこちらの胸に飛び込んだ。
咄嗟に体で隠そうと思ったけど、私の体なんて結構小さい訳で。ヤバいなぁと思った時にはもうカメラにばっちりと映り込んだ連装砲ちゃんであった。なんでやねんという顔をしている龍驤さんを横目に、私はとりあえずコメントを確認した。
:かわいい
:ゆるキャラかな?
:PR用にそんなの作る暇あるのか……
:頭大砲はうるさそう
:どこで売ってますか?
「非売品です」
「そうだけども」
何を言ってるんだ私は。
ちゃんと突っ込んでくれた龍驤さんも困ってたようで、とりあえず紹介しても良いか聞いてみたら、どの道武装は後で紹介する予定だったからまぁいいかと返答を貰えた。本当にいいのかは不安そうだったけど。
「この子は12.7cm連装砲D型、通称連装砲ちゃんです。ゆるキャラじゃなくてれっきとした艦娘の武装なんですよ」
腕に抱いた連装砲ちゃんを前に出し、よく見える様にカメラに向ける。連装砲ちゃんはきゃーと恥ずかしそうに頭と体をゆすった。
「艤装とリンクして自動で敵を撃ってくれるすごいやつだよ」
:予定外?
:放送事故臭いな
:リポーターが一番焦ってますね
:放送事故で干される可能性あるからしゃーない
:武装!?
:武装て
:かわいい
:頭の奴本物かよ
:カメラに向けないで
:何ゲットロボなんですかね
:↑そら深海棲艦のタマよ
:AI搭載した兵器完成してんの?
:艦娘の必要性ある?
:流石に自動迎撃するだけなのでは
:CIWS的な奴か
:このサイズで火力足りてるんだろうか
:こんなのあるなら徴兵する必要なくね?
:吹雪と一緒に出撃するんですか
:なるほどサイドキックか
「あー、この子は子機みたいなもので、親機を接続している艤装が起動していないと撃ったりは出来ないので今は安全です。弾も今の状態だと入ってない……入ってないよね?」
ちょっと心配になったので確認したが、連装砲ちゃんはうんうん頷いたので大丈夫だろう。自分で扱う訳じゃないから結構知らないんだよなぁこの子たちの仕様。
「この子たちはAIは搭載していますけど、艤装から離れて戦ったりは出来ないらしいので艦娘は必須になります。それと艦娘の中でも適性のある子しか扱えないらしくて、たとえば私や龍驤さんには無理です。私の知ってる限りだと一人だけしか装備している艦娘は居ません……あ、自衛隊には居るんですかね?」
「連装砲ちゃんは現在、全体で一名しか使用可能な艦娘は確認されていません。ただ、別の型……C型だったかな? それの適性者は他に確認されています。戦闘部隊に入れる適性値ではないですけどね」
私の急な質問にも龍驤さんはちゃんと答えてくれた。C型ってなんだろう、Dの前っぽいから連装砲くんかな? あっちもかわいいからちょっと見てみたいかも。
「この連装砲ちゃんも適性値の影響を受ける、という事でいいんですか?」
「そう聞いています。ですので火力に関しては使い手次第になるかと思います。私とも一緒に出撃しますが、使い手の子が優秀……うん、優秀なので上位の深海棲艦にも通用するだけの力はありますね」
結構敵倒してるんですよーと頭を撫でると、連装砲ちゃんはくすぐったそうにきゅうきゅう鳴いた。しかしなんでここに居たんだこの子、島風が面倒見てるはずだったんだけど。
:たまなしって事は女の子だな
:分かってないのに人に向けるのひでぇwww
:あくまで艦娘の装備でしかない?
:単独で動けないのか
:また欠陥兵器か
:なんでそんな仕様になってんだろ
:CとDで何が違うんだ
:言い淀まないであげて
:オールマイト目線で優秀ライン上なのはエース級なのでは
:深海棲艦って上位下位あるの?
:↑人型ほど上位らしいぞ
:町一個壊滅させた奴は上位種だったって多聞丸が言ってた
:ぼくの単装砲もなでなでしてください!
:いいからその短小砲しまえよ
「武器にしては軽いんですね?」
筑波さんが私に片手で抱かれつつ撫でまわされている連装砲ちゃんを見て、反動とかは大丈夫なんですかと疑問をぶつけてきた。言われてみればよく引っ繰り返らないなこの子ら、バランス悪そうに見えるのに。いや私達も大概なんだが。
「重さは子供くらい……ですかね。抱っこしてみますか?」
それじゃあと腕を伸ばしてきた筑波さんにそっと連装砲ちゃんを受け渡す。両手でしっかりと支えた筑波さんは、それでも案外重かったのかおおうと声を出して腕を震わせた。片足を大きく踏み出しなんとか全身で支え、体勢を立て直して私のように片腕で支えようとしたが、暫く奮闘したのち無理ぃと言ってゆっくりと連装砲ちゃんを床に降ろした。細いもんなぁ筑波さん。
「よ、よく片腕で持てますね……?」
「まぁそれなりに筋力は有りますから……」
:金属の割には軽い?
:弾は入ってないから軽いのか
:重そうですね
:重いのかよ!
:オールマイトとキャスターじゃなぁ……
:やっぱりオールマイトじゃないか!(歓喜)
:子供くらいの重さの奴腕伸ばしきってるとこから受け取るのはそりゃ辛いだろ
:十五キロ前後?金属だしもっとありそうだけど
:足だけじゃなくて腕も素で強かったのか
:どっちにしろ金属製にしては軽い気がするが
:それなり(オールマイト基準)
これは私が力強いんじゃなくて筑波さんが虚弱なだけだと思うの。
筑波さんが息を整えるのを待って、連装砲ちゃんに延々構ってる訳にも行かないので次へ行きましょうと移動する事になった。連装砲ちゃんも後で行く工廠へ預けようという事になって連れて行く。割と手足は短いけどこっちに合わせてせかせかぴょんぴょん付いてくる。かわいい。
次にやって来たのは実はこの建物の一階フロアをほぼ完全に占めている施設である。私は利用したことが無いのだが、人によっては数日に一度はお世話になっているらしい。
「ここが医務室です。軽い診断から手術までやれる設備が整っていまして、医師の方も24時間体制で詰めています。薬局も兼ねていまして、二日酔いの薬から湿布、あと月一のアレ用の薬とかも出してもらえるそうです」
実戦で大きな怪我をした人間がまだ一人もいないため実は暇だったりしないかという疑惑があるのだが、当然必要な場所である。
「こちらでは血液検査も行えまして、本日はこれから適性検査の実演も行わせてもらいます。ですので、注射や血の苦手な方は暫く音声のみでお楽しみ頂く事を推奨させて戴きますね」
当然のように筑波さんが検体である。体張るなぁ。本人は七割くらいこれのために居るって言ってたけどそれは謙遜のし過ぎではないだろうか。
:そりゃ医者は居るか
:女医さんばっかなのかね
:え、酒飲めるの
:二日酔いで海に出る奴とか居んの?
:月のはね、辛いからね
:艦娘ってその辺り大変そう
:雪ちゃんはもうきてるのかな?
:↑ほんとにキモいんで止めて貰えませんか
「ここの職員は女性ばかり……という訳でもないらしいですが、ほとんど女性ですね。お酒は自費で購入するなら飲めます、もちろん未成年は駄目ですが。月のものに関しては艤装を付けると大分調子が良くなるらしいですよ。妙な所で便利なんですよね艤装って」
ちなみに私はまだきてないのでフルタイムで戦える。むしろ来なくていいわ一生。っていうか、中身男なんだけどくるんだろうか。
「あ、準備が整ったようなので筑波さんにお渡ししますね」
カメラが筑波さんの方に集中する。まぁ実演と言っても普通の採血と何も変わらない。その事を理解してもらうために映すんだからそれはいいんだけど、なんか妖精さんが一人ナースキャップ被って台の上に立ってて危なっかしい。反応する訳にも行かないしどうしたもんだと思ってたら筑波さんの出した右腕に弾かれて落ちて行った。何やってんだか。きょろきょろしてた連装砲ちゃんに拾われて頭に乗っかって一休みし始めたけど、何しに来たの君……
筑波さんの方はぷすっと刺されてちゅーと出てきてはい終わり。本当にそれだけなので準備を入れても何分も掛からない。まぁ大勢の女性を流れ作業で相手する訳なのでそんなもんだろう。採った血液は専用の試験管のような容器に入れて、検査用の機械へ掛けられた。
「これで一時間もしないうちに結果が出るんだそうですよ! 適性があったらどうなっちゃうんでしょうね?」
「その場合は恐らく訓練所を貸し切りに出来ると思います」
龍驤さん曰く、一斉検査じゃない場合も適性値が150を超えていたら即時招集らしい。マンツーマンで教えて貰えるとか滅茶苦茶贅沢じゃん絶対やりたくない。
:本気でただの採血じゃねーか!
:これ映す意味あった?
:変な扉を開く奴なら出そうだが
:なんていうか……その……下品なんですが……
:手遅れ
:変な事はしないって分かったので良いのでは
:そもそもただの採血だって最初から発表されてるんだよなあ
:貸し切りは辛そう
結果は番組後半でーとバラエティあるあるをかましつつ、我々は次の施設へと向かった。次は工廠なので、そこで頭に乗っけた妖精さんと一緒に周囲を見回しながらこっちについてきている連装砲ちゃんともお別れ予定である。
移動中に黙ってるのも何なので公式サイトの方のコメントにも答えていきましょうと三人で目を滑らせる。でも私個人への質問が多すぎてとても困る。時間が余ったら答えても良いかもしれないけど、全体の話を優先したいんだこっちとしては。
「『怪我人はどれくらい出ていますか? 死者は今の所居ないと報じられていますが事実ですか?』……これはすぐ答えられますね。私の知る限り艦娘から死者は出ていませんし、怪我も大きなのは聞いた事無いです」
私達の鎮守府で一番大きな怪我というか症状というか、ともかく医務室に世話になったのは轟沈して海に放り出された深雪だ。その深雪にしたって検査したら異常無しだったんで、マジで怪我と言える怪我をした人間が居ないんだよなぁこの鎮守府。たぶん私の投げたボールの作ったたんこぶが一番の重傷である。あ、これも深雪だわ。
「どの鎮守府もネットワークに接続できる環境が整っているので、私達も一応連絡網というか……それぞれ個人的に連絡を取り合っていて、ある程度の情報は回ってくるんですね。でもそこで亡くなったとか欠損したとかの話は聞かないので、たぶん本当に居ないんだと思います」
「強いんですね!」
「強いですよー」
本当にどの艦隊も任務こなせてるらしいので強いと思う。所によりたまに失敗して半壊したりしてるらしいけどとりあえずそれは言わんでもいいだろう。
:怪我人すらいないのは嘘くさい
:オールマイトが守ってるんだろ
:神戸牛上ロースから解説入って草
:北上「あたしたち艤装の効果で怪我とかしないから~」
:北上はなんで吹雪の配信見ながら配信してるんですかね……
:ヤベー奴過ぎるだろ
:スマホ五台でネット配信自分のとこ以外全部流しながら放送してるぞあいつ
:あれに許可出るとか日本終わったな
:日向の表情が明らかに許可出してない奴のそれ
なんで高級肉から解説来てるんだと思ったら北上さんの配信者としての名前らしい。なんか私の失言とかどうでも良くなるくらいおかしな事してませんかね。見たくなるじゃんやめてよ。
「次の質問です、『宮里提督ってどんな人ですか?』」
筑波さんが次の質問に移ったため北上さんについて突っ込む機会を逃した。いや突っ込まなくていいんだろうけど。
「宮里提督は自衛隊から出た一番最初の提督で、一番最初に艤装を起動した人です」
これは私も昨日知ったのだけど、この日本で最初に作られた艤装って宮里提督の大和らしいのである。つまり、訓練所で習った艤装造って起動するために霊脈に投げこまれたっていう可哀想な人、あれは宮里提督の事だったんだそうな。
「宮里提督は提督と艦娘の適性を両方持っていて、しかも自衛隊の人なのでどの感覚も分かる凄い人なんですよ」
「戦闘部隊水準の適性値ではありませんが、鎮守府最後の防衛線として艤装を装備する事もあります。今の所は宮里提督が戦いに出るような事態には陥っていないので、提督としての仕事が主となっていますが」
「初日以外で艦娘の制服姿を見た事無いですねそういえば」
私達が全員核に向かって突っ込んでった時、実は防衛は宮里提督と明石さん達がやっていたらしい。と言っても、別段鎮守府まで突っ込んでくる連中は居なかったそうだが。
:多聞丸より先なのか
:技術畑の人なのかね
:そもそも提督ってなんなの
:両方!?
:両方持ってる人とか居るんだ
:つよそう
:だからオールマイト渡されたのか
:艦娘にもなれるなら提督も女の方が有利じゃねーか
:艦娘としては飛鷹さんレベルって事か
:防衛出来るなら飛鷹さんよりは高いだろ
:あの人自衛隊でも最低クラスだぞ
:初日は艦娘の格好してたんだ
:そっちも見てみたい
:っていうか最初はヤバかったって事では?
「初日は設備見て回る前に出撃しました。ちゃんと長門さんと龍驤さんに先輩として音頭を取ってもらえたので安心して戦えましたよ」
「……MVPは吹雪やったけどな」
龍驤さんの放送に乗るか微妙なほどの小さな呟きは、コメントを見る限りではマイクに拾われてはいないようだった。
:最前線送り
:思ったよりヤバかった
:長門も居るの?
:長門は自衛隊の方で宮里艦隊所属って言ってたぞ
:吹雪さっきからいつ米見てるんだ
:たまにスワイプしてるのが見えるからたぶんチラ見だけで全部読んでる
:動体視力良すぎない?
:うちは一族だった可能性が出て来た
人を物騒な一族出身にしないで欲しい。そう思っていたら工廠へ着いたので一旦質問コーナーは打ち切りである。
工廠にはクレーンが設置されていたり重機が置かれていたりして、見た目にもそうだと分かりやすい。船の改修なんかもするから色々と必要なんだと思うけど、あれ動かすの妖精さんなんだよね。普通のサイズなので妖精さんが動かしているのは不自然過ぎてたまに不安になる。
「ここが工廠です。私達の使う艤装や、収集部隊の使う船なんかの整備点検、場合によっては改修や改造も行ってくれる所です」
一応船を入れる所は外から見える構造なのだが、艤装のあれこれは海に隣接した建物内でやっている。なので今回入るのも建物内だ。扉を開け放っておはようございまーすと元気よく内に入っていく。
「ああ、来ちゃった! 明灯、起きてってば、だから徹夜は駄目って言ったのに~!」
私達を出迎えたのは放送事故のかぐわしいかほりのする半泣きの声だった。
ちょっと待ってて、とヤバそうな気配を感じ取った龍驤さんがカメラを待たせ、先に様子を見に行った。筑波さんもこれには苦笑い。っていうか明石さん(マッドでない)の声は放送に乗ったので既に手遅れという気はする。
:草
:やらせじゃないなら凄いなあかり(仮名)
:公式放送の姿か?これが…
:徹夜で仕事してたんだろ褒めてやれ
:徹夜で仕事しなきゃいけない環境なのが悪い
:俺も二徹でこれ見てるんだけど寝ていい?
:↑仕事終わってるならいいぞ
「えーと、一応フォローしておきますと、昨日艤装が二つほど大破――そのままだと戦闘不能なくらい破損したらしいので、それでたぶん今朝の出撃に間に合わせるために徹夜になったのではないかと」
「今も多くの艦娘は海に出ていると聞いていますが、この工廠の方達の努力に支えられて出撃出来ている訳ですね!」
筑波さんも乗ってくれて助かる。遠くからは小さくもうあっちは寝かしといてええよと聞こえ、二人分の足音が近づいてくるのが分かった。心配そうにしていた連装砲ちゃんも一安心である。
「お待たせいたしました! この工廠を預からせて戴いております、工作艦の一人、明石です。よろしくお願いします!」
若干どころでは無い緊張感で張った表情ながらも、明石さんはしっかりと言い切って頭を下げた。艤装を装着して艦娘だと分かりやすいようにしてカメラに映っている。
:髪すごいな
:なにその髪色
:髪の規定とか無いの?
:工作艦とか居たのか
:これは食堂に間宮が居るな
:その髪はなんあんですかふざけないでください
:吹雪のより大分デカい艤装
「私達工作艦の仕事は、主に艤装の修理や改造、武装の付け替えなどです。海に出る事はあまりなくて、戦闘能力は最低限しか持っていません。ほとんど裏方の艦娘になります」
奥へどうぞ、と明石さんに案内され私達は工廠の中へと入っていく。筑波さんがその道中、打ち合わせ通りに髪について言及したので、龍驤さんが解説する事になった。
私達は知っている事だが艤装を起動すると、髪の長さと色はその艦ごとに決まったものに強制的に合わせられる。これは可逆の変化……というか、艤装の使用を止めるとその後に伸びてきた分は普通に地毛の色で生えてくるらしい。面白いのは髪を染めていたとしても決まった色に自動的に染めなおされるという事だろう。あと、長髪の人が短髪な艦の艤装を起動すると一瞬で短くなるとか。ある種伸びるのより不気味だとかいう評判である。
私ももっと短かったんですよーと言ったら、龍驤さんも明石さんも私もですよと頷いていた。髪長い艦娘多いよね。
:艤装ヤバくない?
:体に影響出るのはやばたにえん
:髪だけならいいけど
:ほんとに変わるのか
:こんな物許されると思ってるんですか?
:噂じゃなかったのね
:噂はどっから出てたのあれ
:↑艦娘の親
:目の色も変わるらしいな
:これは使わせたくない
:ああ長門さんや宮里さんの髪が変に長いのってそういう
:人の体を何だと思ってんだ
:ハゲの希望の星
:男には使えねーから
:(´・ω・`)また髪の話してる
案の定批判は多い。でもこの情報って既にネット上じゃ都市伝説どころかほぼ事実扱いだったんだよね。情報元はどうも自分の無事を知らせるための自撮り写真からみたいなんで、そもそもネットに繋げるようにしたのが間違いだった気がせんでもない。繋がらなかった場合私は欲求不満で死ぬが。
軟着陸してくれるといいなぁと思いつつ、工房へ我々は突入した。中は普段よりだいぶ片付けられており、繋がっている艤装の保管場所――イメージとしてはロボットアニメのハンガーが近い――に置かれた艤装も普段より小綺麗に見える。妖精さんがしっかり磨いたのだろう。
明石さんは中をスラスラとほとんど噛むような事も無く解説して行って、明石の艤装で修理する所も軽く見せてくれたりした。生えているクレーンなんかは結構器用に扱えるようで、まるで手が何本か余分にあるような自然かつ効率的な仕事ぶり。その流麗ながら実践的で機敏な動きの背後に、この二カ月ちょっとでくぐり抜けた修羅場の影が見えた気がした。
世話になってるんだなぁと今更ながら実感しつつ、ちょっと気になって工房の隅の方を覗いてみると、陰になった所に妖精さんを枕にして作業台でうつ伏せに眠っているマッドな方の明石さんが居た。この人はこの人で頑張った結果がこれなんだろうから責める気になれない。いや問題ではあるんだけど。
枕にされてる妖精さんは若干苦しそうだけどこの子も寝てるのでたぶん一緒に頑張ったんだろう、有難い。見れば妖精サイズの帽子が床に飛んでいたので初心者マークの付いたそれは彼女の横にそっと置いておいた。それにしても、明石さん艤装付けたまんま寝ちゃってるんだけどこれ体痛くならないだろうか。
筑波さんが賑やかに受け答えして盛り上げつつ、工房内から保管場所まで移動して、カメラは艤装にフォーカスした。今目の前には四つの艤装があり、大きさの順に並べられている。今日出撃していない人たちの奴だ。
「これが実際に使われている戦闘部隊の艤装です。左から、駆逐艦、軽空母、軽巡洋艦、戦艦の艤装で、ここに並べてはいませんが、潜水艦や補給艦の艦娘も居るんですよ」
私は言いながらまず駆逐艦の艤装に寄ると、接続されているレーダーやソナー、爆雷投射機などを見やすいように角度を変えて見せた。
「この艤装の名前は吹雪……つまり、私の使っている艤装です。魚雷を使う機会があまり無いので取り外して、機銃や連装砲の弾薬を多めに積んでいます。珍しい構成らしいですけど、足周りが自由になって楽なんですよ」
吹雪型は発射管を足に装着するのだが、魚雷を使わない私はそれが無くていいので艤装の装着自体もかなり早い。走る時も気にしなくて済むのでこれからも使わないかもしれない。敵次第な所はあるけど、威力過剰で範囲は普通って使い辛過ぎるのよね……
:艤装の紹介助かる
:戦艦デカいな
:なんだあのでっかいモノ……
:軽空母がやっぱり巻物な件について
:比べると駆逐艦小さいな
:この艤装付けると殴り殺せるようになるんですか?
:潜水艦の見たかったなちょっと想像付かない
:駆逐艦って魚雷無しで火力足りるのか
:↑足りなきゃ殴るんだろ
:酸素魚雷とかお使いにならない?
:対潜対空寄りの構成なんかな
:メイン火力じゃなくて護衛艦か
すまねぇメイン火力なんだ。連装砲だけで大体倒せるとか思わないよねそうだよね。
「艤装には身体能力を強化する効果があるのですが、同じくらいの適性値でも人によってどれくらい強くなるかが違うらしいんです。基本的には殴って倒せるような強化量にはならないので、某動画を見た人は絶対に真似しないでください」
実際には天龍さんとか叢雲みたいに武器を使えば近接戦も行ける艦娘は結構いるらしいのだけど、素手での撃破は今の所、長門さんの一件と私の多数しか確認されていない。本来なら長門さん凄くない? って話になるんじゃないのかと思うのだけど、私がやり過ぎて目立ってない感がある。
:しないから安心しろ
:強化系だったか
:オールマイトにしか出来ない所業
:適性値最高でもないと駄目なのか
:得意不得意出るもんなのか
:某動画って何?
:↑ご存じないのですか!?
「艦娘の能力は人によっては航行速度は凄いけど他はそれなりとか、異様に動体射撃が得意とか……かなり個性が出ますよ。ちなみに私はソナーが得意です。私はソナーが得意です。大事な事なので二回言いました。殴るのだけじゃないんですよ!」
これは真面目な話になるのだけど、たぶん私が本来得意なのは対潜である。チート聴力を抜きにしても、レーダーに比べてソナーの方が明らかに精度が良いのだ。レーダーは適性値の割に性能低い気がするから本当は苦手なんだと思う。
さておき、次は軽空母である。こっちは龍驤さんに解説してもらう事になる。私は使えそうなエフェクトは出せるけど実際使った事は無いからね。たぶん何かしらの適性があるんだろうけど、テストすらしない辺り低い適性なんじゃないかな。
龍驤さんの説明によると、やっぱり陰陽術ベースの術式で艦載機を式神として操るらしい。自分の意識を乗せる事も可能で、その場合俯瞰視点で周囲を視れて大変便利なのだとか。艦爆とか艦攻とか色々種類もあるけれど、偵察や観測が最重要項目なので、これが得意だと重宝される。でも宮里艦隊だと実は秋津洲さんが一番遠くまで見渡せるらしい。泊地修理も出来るので実際優秀なんだけど、ゲームのイメージが強すぎるんだよなぁ。
:これ正気で言ってる?
:陰陽術はねーよwwwwwwww
:飛鷹さんのでも言われてたけどマジで式神かあれ
:ええ実在すんのかよ
:陰陽寮復権させなきゃ……
:オカルトってレベルじゃねーぞ!
:ふざけた事を言っていないで本当の事を報道するべき
:艦娘が事実を知ってるとは限らないから……
:実際ミサイルも効かない連中がいるからなぁ
:たぶん事実だからなこれオカルトを否定するのが間違ってたってだけよ
:くねくね……八尺様……きさらぎ駅……
:↑その辺りはガチ創作だから
:意識憑依させるの楽しそうだな
:空飛べるようなもんだし絶対楽しい
:敵に近寄らなくていいし守って貰えるしなるなら空母がいいなぁ
:なお近寄られた場合
コメントだと信じるor信じないで五分五分くらいか。心から信じてる人はもっと少ないだろうけど、現実はもっとファンタジーなんだよなぁ。
「信じられないかもしれませんが、霊能力や超能力は実在します……って言うと、マジシャンの前口上か何かみたいですね。ともかく次はこちら、軽巡洋艦の大井さんの艤装ですね」
大井さんは自分から提督に上申して今日の待機組に入った。理由はもちろん北上さんで、たぶん今は宮里艦隊の放送そっちのけで北上さんの視聴してると思われる。あの人なんで北上さん絡むとポンコツになるんだろう、集合無意識の大井さんの影響なんだろうか。
艤装の方はというと、割とスタンダードな軽巡で、魚雷が多い訳でもないため改二で雷巡になったりとかは想像の付かない感じになっている。あるのかなぁ改二。
大井さんの艤装は私のそれと見比べると表面に修理痕が多く、最前線で戦ってるのがよく分かる。変色海域の継続ダメージがあるので私のも新品同然って訳でもないのだけど、被弾の有無は結構判り易い。深雪のとか改造した人達のとか二個目なのに既に折れたりひん曲がったりで凄い事になってるし。
「どうしても戦えばダメージを受けます。ですが、艤装には使用者を守る機能が付いていますので、完全に壊れない限り怪我をする事はありません。水中で息が出来るようになったりはしないので潜ったりするのは潜水艦にお願いした方がいいですけどね」
じゃあ次です、と言って紹介したのは戦艦の艤装。明らかに他よりも大きく、重量感があり、見た目からしてもう強そう。左右に備えられた46cm三連装砲に複数の副砲、背面だけでなく体全体を覆ってしまえそうなほどの巨躯。誰がどう見たって、普通の人間では背負うなど到底不可能だとしか思えないだろうそれは、いろんな意味でこの艦隊最後の切り札である。
「これは宮里提督の艤装、戦艦大和です」
何しろ出撃するくらいなら逃げた方がいい訳だから。これ付けて出撃するっていうのはなんかもう駄目な時であるからして。
大和に関しては実際に動いた所を見た事が無いので私も実態は知らない。なので解説は明石さんに丸投げである。ちゃんと動くように整備点検は欠かしていないのだそうだ。
「大和は最高の火力と最悪の燃費を併せ持つこの日本最初の艤装で、起動するには駆逐艦の十数倍の燃料が必要になります。その代わりに、戦闘部隊未満の適性値でも上位種でない深海棲艦なら打倒し得るだけの一撃を六連射出来たりと圧倒的な性能を持っているんですが……」
そこで一度言葉を切ると明石さんは表情を一変させ、絶望の闇を秘めた瞳で若干唇を震わせながら続けた。
「まかり間違って大破でもしようものなら、修復に数十時間かかります……!!」
「重要かそれ!?」
「可動部が、可動部が多過ぎる上構造が複雑なんですよ!? どうして大口径と柔軟性を両立させようとするんです!? 運用するなら専任の整備班を組まないと無理なレベルなんですよこれ!!」
長門さんの倍以上の関節とかいう悪夢の艤装なんだそうな。
:大和じゃねーか!
:宇宙行けそう
:波動砲はどこから撃つの?
:大和なのかあの提督
:なんで最初にそんなもん作ったし
:適性値足りなくても使えるのに戦わないとか
:燃費悪すぎて起動しない方がマシなんだろ
:燃料も限られてるってそれ一番言われてるから
:徹夜不可避
:もしかして艤装って船ごとに整備方法違うの……?
:独自仕様……納期……うっ、頭が
:数十時間って長いの?
:↑戦艦と考えたら糞短いけどワンオペでやらされたら死ぬわ
:何人くらいで整備してんだろうな
:毎日出撃するとかじゃなきゃそう問題にならんくらいでは
:↑今も戦闘部隊の大半出撃してるんですが
:一人徹夜で寝落ちするレベルだぞ公式生放送あるのに
:ブラック過ぎてワロエナイ
:っていうかこの人もたぶんほぼ寝てないよね……
「まぁその、そういう……戦闘部隊以外の手も足りないという事情がありまして、来週の第二次適性検査と同じくらいに、戦闘部隊以外の艦娘の募集が始まります。必要とされているのは主に工作艦と給糧艦、それに空母と駆逐艦、海防艦です。詳しくは自衛隊広報の方をご確認ください」
「ご応募お待ちしております……」
微妙に素が出てしまって恥じらう龍驤さんと虚ろな目で地獄で会おうぜと囁く明石さん。二人の解説が終わり、カメラが端で見切れてた私も映るように少し引く。そんな折、私の足元をちょろちょろしていた連装砲ちゃんが、何かを見つけてきゅーとそちらに向けて走って行った。釣られてカメラもそちらを映す。
それは兎の耳のようなものを頭に乗っけて、やたらと短いスカートを際どい位置に付けた人型実体だった。そいつは無言で手招きした連装砲ちゃんに無言で赤と白の救命浮輪を穿かせると、無言でうんうんと頷いて無言でこっそり去ろうとする。でも連装砲ちゃんがありがとうとぶんぶん手を振りながらきゅーきゅー鳴いてるからお前が無言でも意味ないぞ。っていうか、カメラが連装砲ちゃん追っちゃったからバッチリ映ってるぞ。なんでわざわざ制服着たんだお前、いやたぶん私達が制服なのとあくまで待機であって休暇じゃないからだろうって分かるよ。分かるんだけどさぁ。お前のそれが映るのはね、ちょっと不味いかなって雪ちゃん思うの。だってアレだよ、コスプレ衣装って言ってもギリギリ許されるか分からないレベルだよその服は。悪気は無いんだろう、連装砲ちゃんの様子見に来ただけっていうか、浮輪届けに来ただけなんだろう。こっちが見てるのに気づいて、声を出さずにこちらに向かって頑張れーと手を振ってくるのはまぁいい子だと思う。でもその手を振り上げた瞬間、ただでさえ短いスカートが勢いよく翻り、色々大公開時代に突入した。
いや何やってんだ島風ェ!!!
この話があくまで軽い話だという事を忘れちゃいかんって思いながら書いたらただの設定纏めみたいな事になった件。
設定からして酷いからですねはい。