転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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台風(平和)

「嘘ですよね……? 嘘だと言ってください、提督!」

 生放送に出演した方の明石さんが宮里提督に縋りついて絶望の眼差しを向ける。その様子を無念の表情で見返しながら、宮里提督も苦しそうな声を上げた。

「私も、信じたくは無かったのですが……」

「そんな、だって、金剛さんが合流して……なのに……」

 明石さんが床に崩れ落ち、手と膝を突く。それはもう見事なorzだった。

「ごめんなさい、上も余裕が無いんです。私の能力を腐らせておく事は出来ないと、そう言われては……」

「それは分かりますけど……」

 明石さんの後ろから生放送中は寝落ちしてた方の明石さんが歩み寄り、出れた方の明石さんを落ち着かせるようにゆっくりと背中をさする。さすられた明石さんはゆっくりと立ち上がると、がばりと顔を上げ、叫んだ。

「なんでうちで戦艦七隻建造だなんて事になったんですか――!?」

「…………私以外の提督だと作る艤装を指定できないからです……」

 折しも第二期適性検査の結果が出た直後である。駆逐艦ならばいざ知らず、戦艦狙いで大型建造連打は大本営もやりたくないらしい。そりゃあ、長門狙って陸奥になったりするくらいなら宮里提督にやってもらった方がずっといいだろう。この世界ドロップ艦とか無いから建造に頼るしか無いしね。

 宮里提督の提督としての得意分野は『妖精さんに好かれてお願いを聞いて貰える事』なんだけど、これがなんと建造や開発にも適用されてしまうらしいと聞いた時の私の驚愕ぶりが分かるだろうか。彼女の手にかかればガチャ形式のはずの建造が、指定の材料さえ揃えれば確実に欲しい艦と引き替えて貰える普通の買い物や取引のようになるのである。初期に資材の足りない自衛隊が適性者の戦艦や空母をしっかり揃えられたのは宮里提督の寄与によるものだったらしい。

 まぁ私が驚愕したのはゲームみたいな形式になってるっていう事実にだけどな!

 正確には指定は出来る、指定は出来るのだが、作ってる最中に別の物になって行くらしい。金剛作ってるなと思ってたら出来上がったのは榛名だったりするんだそうな。酷い時には駆逐艦作ろうとして潜水艦が出来たりしたとか。お前らノリだけで建造してない?

 

 大変だなぁと艤装を装着しながら他人事のように背後の騒動を聞き流す。納期来週頭で一週間切ってるとか今日中に援軍は来ますよとか聞こえるけどまぁ、とりあえず、無駄な被弾はしないように気を付けようと皆で頷き合った。

 

 

 

 

 

 あくる日は大嵐だった。海は大しけ、風はびゅうびゅう吹きすさび、寮の窓枠ががたがた揺れる。横殴りの雨が絶え間なく壁を打ち、空から地上へ幾度も幾度も雷が落ちた。割と古い建物なので雨漏りなんかが起きないかちょっと心配。勿論そんな状態で出撃なんて出来るはずもなく、一応予報はされていたので計画通りに本日は待機という名のお休みである。当然ながら、深海棲艦が攻めて来たらこの状態でも出るんだけどね。

 今居る鎮守府は前の所と施設の配置がちょっと違い、寮と食堂が全く別の建物になっている。なので移動で若干濡れつつ、休みだワッショイと前日から食料まで用意して全力で引きこもろうとした初雪を部屋から引き摺り出した金剛さんと島風と一緒に朝食を摂りに行った。

 食堂へ入れば割と食べ終わって歓談していたりしてあまり席が空いていない。なので初雪を色々していて出遅れた私達は飛鷹さんと隼鷹さんと一緒にテーブルを囲む事になった。

 この二人、自衛隊員と招集された艦娘で係わり薄そうだよなーとか最初は思っていたのだけど、飛鷹さんが戦闘部隊入りした時点でもう、お祝いだと酒を酌み交わすくらいには仲が良くなってたんだよね。同型艦ってそういうもんなんだろうか。

「大風様様だねぇ、今日は飲むぞー!」

「駄目に決まってるでしょ!?」

 でも朝っぱらから酒瓶を取り出した隼鷹さんは流石に飛鷹さんに怒られていた。未成年も多いからね、悪い大人は修正されちまうんだ。せめて夜にしなさいと飛鷹さんはお冠だった。

「大体、一応は今も鎮守府での待機であって休みじゃないんだから。深海棲艦が攻めて来たらどうするのよ」

「その時は……あたしを置いて先に行け……!」

 流石にどつかれてた。でも別に、隼鷹さんはその対応が嫌そうではないので姉妹のじゃれ合い的な奴なんだろう。二人とも年齢知らないからどっちが姉かとか分からんけど。

 なお食事中、飛鷹さんの一瞬の隙を見計らって隼鷹さんはコップに酒を注いでいた。恐ろしく速い手酌、私でなきゃ見逃しちゃうね。

 

 

 

「あれ、ここって取っちゃっていいんだっけ? なんか抜けそうで抜けないんだけど」

「妖精さんが滅茶苦茶焦ってるから駄目じゃないかな」

 胡坐をかき首を傾げながら自分の使っている艤装の手入れを行う深雪と、その深雪の膝を一生懸命ぺしぺし叩く妖精さん。私達は今、艤装のメンテナンス中である。

 普段なら艤装の管理は明石さんや妖精さんに全部任せてしまっているのだけど、生憎今は現在進行形で彼女達は修羅場っている。なのでちょっとした手入れくらいは自分達でやっておこうという話になったのだ。工廠へとやって来たら既に大和型の何がしかが一隻完成していて驚いたものである。

 自分の艤装を手元に置いて、訓練所で習ったメンテナンス方法を思い出しながらパーツを磨いていくのだが、さっきも言った通り私達はこれを普段人任せにしていた。なのでもう半分くらいは忘却の彼方。適宜妖精さんに聞ける私はどうにかこうにかやれたのだが、艤装を付けないと見えない面々は当然のように酷い事になった。

 分解しちゃいけない所が取れそうになったり、曲げちゃいけない方向に曲がりそうになったり。みんながおかしな事をしそうになるたび妖精さんが大慌てで止めようとするから、それを私が伝える事で何とかなったけれど、教官長は教え直した方が良いのかしらと悩んでいた。

 意外だったのは初雪で、完璧とまでは行かないまでも、割と無難にやれていた。金剛さんに話を聞けば、提艦隊では結構自分でやらされていたらしい。金剛さん自身も自分の艤装の手入れは出来るようで、ただ本格的にやると凄く時間がかかるらしく、とりあえず重要な所だけしっかりやってお茶を濁していた。戦艦故致し方なし。

 

「あ」

 全体的にどうにかなったしそろそろ片付けようかとなった頃、何かが折れ飛ぶ乾いた音が辺りに響いた。床に視線をやれば関節部が分解した謎アームと硬直した妖精さん。視線を上げると困った顔をした初春が破損した可動部の片割れを手に途方に暮れていた。

「何もしとらんのに壊れたのじゃが……」

「それ……大体何かした人のセリフ……」

 初雪にツッコまれた初春は、むぅと押し黙ってしまう。まぁ、確かに壊れやすそうな部位ではある。そもそも初春は手つきが危なっかしい……経歴故にか細々とした事をやり慣れてないようで、おっかなびっくりという感じでかなり丁寧に磨いていた。それで割れたのだから初春のせいというか、もう消耗していて丁度限界が来ただけだったんじゃないだろうかと思う。

 

 理由はともかく壊れた事は事実だと初春はしっかり明石さん達に謝りに行った。修理は予備のアームと付け替えるだけで済むらしく、明石さん達からもここはすぐ駄目になるんですよとのフォローが入る。見るからに丈夫そうではないもんなぁ。

 予備は数が結構あるらしく、一か所付け替えるだけならそう時間もかからない。初春も明石さん達も一安心である。むしろ戦闘中に壊れなくて良かったまであるかもしれない。

「わらわも吹雪のように器用であったら良かったのだがのう……」

「あー……私はほら、ブラインドタッチとかで鍛えただけだから」

 嘘だよチート能力だよ。つーかなんだその理由、初雪がFPSで射撃上手くなったのより説得力ねーわ。

 チート能力さんはこのところ昔より本気を出してきたようで、左の手だけでネジを固定しながらドライバーを回すとか普通にやってくれるようになった。いや前から出来たのかもしれないんだけど、なんか狙撃を繰り返してるうちに精密動作がこなれて来たような気がするのだ。

 それを利用して自分のメンテはさっさと終わらせて、周囲の妖精さんの反応をみんなに教えてたのが私です。妖精さんに建造やらないかって誘われたけど私工作艦じゃないからそれは無理なのでは……

 ぶらいんどたっち? と聞き慣れない単語だった様子で聞き返してきた初春に概要を説明すると、呆れるどころか成程成程と納得した様子を見せてきて、妙な返しをしてしまった事に罪悪感が湧いた。

「ごめん、冗談」

「であろうな、流石にそれだけで身に付くとは思えん」

 それはそれとして、知らない文化だったので機会があれば教えて欲しいと初春は頼んできた。それは構わないのだけど、初春はPC使う事ってあるんだろうか。全然そういう印象無いんだよなぁ。

 

 

 

 繰り出された叢雲の杖を、鏡写しに相殺する。こちらの持つ杖を一度下に払って繰り出されたその一撃を、間に合うはずの無い体勢から無理やり弾かれて、叢雲は大きく体勢を崩した。対する私は一切揺らぐ事は無い。そのまま振りぬいて頭を打つ、直前で腕を止めた。

「あ~……、そこまで、とかいう必要もないねこれ……」

 とんでもない力業。あらぬ方向へ切っ先を飛ばされようが構える前に打たれようが、私の反応速度と動作速度は相手の遥か上を行き、どんな体勢からでも後の先すら可能にする。やっぱスポーツ的な奴に使っちゃ駄目だわこのチート。出力が違い過ぎて叢雲が大型機械を素手で止めようとした人みたいになってたもん。

 審判役の川内さんは完全に呆れ返り、金剛さんと島風はまあそうなるなという感じだった。

 

 メンテナンスを終わらせて大雨の中を寮へと帰る途中、私は叢雲に誘われてあんまり物の置いてない倉庫へとやって来た。そこで叢雲に渡されたのが棒である。しっかり研かれささくれ一つない棒である。

 何これと叢雲に聞いてみたら、どうも川内さんから私にちょっと教えたら色々カラテの技を覚えたって話を聞いたらしく、興味が湧いてしまったらしい。杖術だとどうなるのかやってみてくれないかと叢雲は言った。先生役は当然叢雲、達人とかではないらしいのだけど、同年代だと行ける方ではあったらしい。

 それで暫く習ってみて、そしたらなんか変なものを見る目で見られてしまった。いやあ、見て覚えろって言われるとほとんど出来ないんだけど、ちゃんと指導してもらえるとチート能力さんってば私の体に合うようにしっかり最適化してくれるんだよね。見ただけじゃよく分かんないのは頭は良くなってないからだろうか。

 一振りごとに動作が洗練されていく私の異常を理解しているのかしていないのか、横で一緒になってそこらにあったプラスチックの棒を振っていた金剛さんと島風の上げた楽し気な声で、何故か倉庫内で寝ていた川内さんが起きてきた。川内さんは最近夜中に目が冴えて来る事があるらしく、そうなると変な時間に眠くなってしまうらしい。間違いなく集合無意識の川内さんの影響だろう。うちの鎮守府はあんまり夜戦しないんだけど、その内夜戦夜戦と叫び始めるんだろうか。

 閑話休題。起きて来た川内さんを見た叢雲が丁度いいからとスポンジを巻いた棒を新たに持ち出し、私達は軽く打ち合ってみた。その結果、私という重戦車に竹槍で挑む叢雲みたいな構図になった。審判というか、必要なら止める役を任された川内さんもこれには苦笑い。

「いや……もう、才能差とかそういう話じゃないわ、何これ」

「身体能力に差があり過ぎて技術以前の問題になるよねー」

 これで習得も早いって酷くない? って川内さんはおっしゃる。私も全く同感だわ。川内さんと叢雲は気が合ったらしく、私に本格的にあらゆる格闘技を詰め込んだらどうなるのかという話をしていた。ゴッドルガールでも生み出す気?

 

 

 

 何故かカラテの型までやらされて時間は昼。倉庫で修行してた五人でさらに酷くなってきた雨の中を突っ切り食堂までやってくると、朝と同じ席に隼鷹さんが居て、どうしてか飛鷹さんがテーブルに突っ伏して眠っていた。なんでやろなぁ。

 昼のカレーうどん定食を妖精さんから受け取っていると、丁度入って来た天龍さんと目が合った。天龍さんはようと挨拶して食事を受け取ると私達と同じテーブルまでやってきて、一緒に食事を摂り始めた。

 天龍さんは豪快に、しかし汁を飛ばしたりするような粗相は一切ない、ある意味華麗な食べっぷりを披露すると、しっかり咀嚼して完全に飲み込んでから思い出したように口を開いた。

「そういや吹雪、こないだの生放送の時に変な質問あっただろ? なんか一人でやってくれーみたいな奴」

「あーありましたね。娘さんが一人艦娘になってもう一人もされないか心配って奴でしたっけ」

「その艦娘になった娘ってのさ、オレなんだよ」

 自分を指さして天龍さんは言った。ええ……と私の喉から呟きが漏れる。それを気にせずに天龍さんは言葉を続けた。

「いや、実はオレもさっき知ったんだ。悪かったな、うちの親が変な事言って」

「ああ、いや、天龍さんのせいではないですし、そもそも特に気にしてなかったですけど……天龍さん妹さん居たんですね」

 正直、エロゲとかのせいでそっちはほとんど忘れてたくらいだったりする。一人で出来るならやってもいいんだけど、絶対無理だしな。それより天龍の妹って言われたらどうしたって龍田が思い浮かぶ訳なんだけど、適性値ってそういう血縁とか血統って関係あるんだろうか。金剛さんの妹はしっかり比叡だったけど。

「居るぜ、自慢の妹がな!」

 天龍さんは堂々と妹は凄いぞと言い切った。そこから始まる妹トーク。なんか聞いてると、妹さんは滅茶苦茶優秀で長女の天龍さんを差し置いて家の何かの後継者に選ばれたらしい。どうにも自慢げだったので天龍さん自身はそれに関してはどうでもよかったっぽいが、ちょっと気を遣ってアパートを借りて大学へ通ってたらしい。

「で、あいつも適性検査通ったんだと」

「結局!?」

 親御さん泣くしかないじゃねーか!!

 

 妹は可愛いですよネーとやはり妹の居る金剛さんからこぼれる惚気話を天龍さんは楽しそうに受け止める。天龍さんから見ると金剛さんも年下だし、可愛いものなんだろうか。世界水準超えてくるスタイルも相まってそうしてると大人のお姉さんっぽいんだけど、出撃時とかは凄いテンション上がってて前のめりな感じになるんだよなあ天龍さん。

 そんな感じにお話ししてる皆を眺めながらたまに相槌を打っているうちに食事も終わり、解散の空気になった。叢雲に誘われた段階で既に帰還していた初雪も気になるし、一回部屋に帰るかと思いトレーを厨房へ返す。中で妖精さんが頑張って運んでいるのが見えて、軽くがんばえーと応援していたら、金剛さんにHEY! と名前を呼ばれた。

 なんだろうと顔を向けてみれば、そこには私を手招きする金剛さんと手帳を持った青葉さんが。奥の席へと歩いて行くので付いて行ってみると、ブッキーはこっちデースと金剛さんの隣に座らされた。

「あの、何故吹雪さんを?」

「提督の事なら、ブッキーも色々話せるからだヨー!」

「いえ、提艦隊の事が聞きたいんであって提提督の事が聞きたいわけではないんですが……いや、提さんの事も聞きますけどね?」

 青葉さんは苦笑いである。どんだけ奴の事を語りたいんだ……

「ああでも、吹雪さんにも聞きたい事はあったので付き合って貰えるとありがたいです」

「構いませんよー特に用事は無かったですし」

 そう返すと、青葉さんはお茶を入れてくれて、良かったらおやつにでもどうぞと紙の包みまで渡された。中にはいくつか個包装のお菓子が入っている。

 

 それで聞きたい事というのはですねと席に着いた青葉さんは切り出した。まず聞いたのは提艦隊の現状、特に艦娘達の体調に関する事である。これはつまり、聞きたいのは艤装の影響の事なんだろうなと察しがついた。

 金剛さんから見てだが、提艦隊には特に体調が悪かったり体に変な兆候の見られる艦娘というのは居ないらしい。ただ、精神的にはそうでもないような人は居たそうで。

「愛宕はよくぱんぱかしてましたネー。あれはたぶん艤装の影響デース」

「ぱんぱか……?」

 こう、ぱんぱかぱーんって。金剛さんが実演して見せてくれた。どうやら訓練所ではやってなかったらしいので、間違いなく集合無意識の方からの影響だろうと金剛さんは言う。金剛さんも影響があるっぽいという事は知っていたらしい。

「後は……そうデスネー、迅鯨が元からああなのかもしれないからちょっと分からないケド、負のオーラを纏ってる時があるんだヨー」

 提督とスキンシップしてたりすると、可視化できそうなくらいの圧力を感じる事があるらしい。霊能力とかあるみたいだからなぁ、この世界。

「でも提督は何にも気付いてないから気のせいかもしれないネー!」

「いや、それはあいつだからなだけだと思いますよ」

 幼馴染や不幸な先輩からの熱視線に気づかないレベルだからな。自分じゃなくて傍の恋敵に向けられたのとか絶対気付いてない。不思議な事に他人同士の恋愛関係は普通に察知するけど。

「あはは、提提督も罪作りですねー。金剛さんの事もあんまり意識してないみたいでしたし」

「そうなんデスヨ! いくら言っても分かって貰えないんだヨー……」

 ブッキー慰めてと金剛さんが抱き着いてくる。私より身長があるのもあって、形の良い胸が押し付けられた。仕方ないのではいはいどうどうと適当に慰めておく。

「……これをやられて意識しないって、提提督は悟りでも開いてるんですかね?」

 目の前でべたべたしている金剛さんを見て、青葉さんが本気で疑問に思っている声を上げた。ちょっと顔見せしただけの短い時間だったけど、その間も名残惜しさに引っ付いたりしてたもんね金剛さん。でも違うんだ、そうじゃあないんだ本当は。

「いや、金剛さんの場合……」

「うう、ブッキー優しいネー、嫁に来なヨー……」

「こういう事を平気で私や他の友人にも言うので本気にされてないだけです」

 男相手は一人にしかやってないんだけど、私どころか恋敵のはずの榛名さんにまで言うからなこの人。実際、金剛さんは意識されている方である。というか、金剛さんレベルのアプローチして初めて意識される凄い奴なのだが、さらに意識したとしてもちょっとした勘違いで本気で言ってるわけじゃないなと判断してくるヤベー奴でもあるのである。お前攻略難易度調整ミスってるよって何度も思った。

 なんで私が知ってるかって? 金剛さんに連れられて提家に遊びに行った時、金剛さんの離席中に相談されたから。お前馬鹿だろって言ったらそうだよなそんな訳ないよなってそっちの方向に勘違いされた。正直すまんかったと思っている。

 でも、提督のお嫁さんになってユッキーや榛名をお嫁さんにしたいとか言い出す金剛さんサイドにも問題があると思うの。

 

「それで、えー、体調は問題なさそうという事で、別の切り口から」

 青葉さんは話題を元に戻すと、スマホを取り出してとある動画を再生した。それはこの間の生放送の切り取りで、映っているのは夕立である。艤装を背負い使い方等の解説をして行き、ある時、耳よりも少し上あたりの髪の毛がぴょんと跳ねて反り返った。その瞬間、その一瞬だけ、夕立の眼は赤く染まる。動画はその瞬間の夕立の顔とその前の夕立の顔――というか、瞳の色を並べて比較して終わった。夕立、改二になりかけてない?

「こんな感じで、妙な事になっている子が現れているんです。提艦隊ではこういう事は無かったですかね?」

「Hmm……流石にこういうのは無かったネー……これは艤装の影響なんでショーカ?」

 金剛さんはその現象にはびっくりしたようで、心当たりは特にないようだった。まぁ、どういう条件で起きる現象なのかさっぱりだしねぇ。前に適性値が高い方が変化が起こりやすいようだと匂わされていた青葉さんは、訓練所で一番の強さだった金剛さんに何か異変が起きていないか気になっていたようで、体に異常無いかと聞いていた。でも金剛さんは特に肉体に違和感は出ていないらしい。最近は前よりTea timeが楽しみになってるとは言ってたけど、前からそんな感じだから違いが分かんないです。

 

「後は……そうだ、これ聞いておきたかったんですけど、金剛さんも吹雪さんも事前に艦娘の訓練してたとか、そういう事は無いですよね?」

「Ahーそれはないヨー、召集されるとは思ってなかったですしネ」

「私も無いです……どうしてそんな事を?」

 まぁそうですよねと青葉さんは頬を掻く。ちょっと言い辛そうにしながら手帳から何枚も写真を取り出すと、こちらに見やすいようにテーブルに広げた。左側に金剛、比叡、榛名、霧島、扶桑、吹雪、島風、夕立を。右側には北上さんと、何故か一枚だけ画質の粗い水着の女の子の写真が置かれる。改めて見ると美形ばっかである。つーか並べられると何だこれ、アイドルグループの生写真か何か?

「これ、第二訓練所での成績と各鎮守府の面々の証言からみんなで考えた突出して強い……と言われる艦娘達です」

 みんな、というのはスマホコミュニティ参加者の事だろう。私はガラケーだから参加してない奴。PCから入れる奴は私もしっかり見て書いたりもしてるけど、そっちもちょっと気になる。けど今はそれよりもだ。

「知り合いばっかなんですけど……?」

「みんなお友達デース! あ、比叡は妹ですネ」

 榛名さんと扶桑さんを友達と言い切れるのがすげぇよ。夕立とは配属当日の合流の時に知り合って、各鎮守府行きのバスに乗り込むまでの短時間だけで友誼を結んでたらしい。コミュ強すぎて怖い。

「……という事は、こちらの子もお知合いですか?」

 青葉さんが水着の子の写真を取り上げる。金剛さんは自信満々に胸を張ると宣言した。

「Rosaは私の義妹になる予定ですヨー!」

 意味不明すぎて青葉さんの時が止まる。その向かいで、私もかなり驚いていた。私はその子は艦娘になれないはずだと思っていたからだ。

「ローザ……? 小学生のはずじゃ……」

「吹雪さんも知り合いなんです?」

 写真を貸してもらい写りの悪いそれをしっかり検分するが、それはどう見ても提提督の妹さん、現在小学六年生のはずの提 Rosaにしか見えなかった。おいおい提督の奴なんも言ってなかったぞどうなってやがる。

「えーと、そうですね、とりあえず一応説明しておきますと……小学生でも適性検査の時点で十二歳を迎えていれば召集の対象になります。第一期は四月だったのでごく少数ですが……小学生の艦娘も居ますよ」

 驚き混乱する私を見かねてか、青葉さんが解説してくれた。言われてみればそりゃそうだ。中学生からじゃなくて十二歳からだもんね、そりゃ居るわ。

「そのせいで余計な批判を生んでたとは思いますけどね……と、それは置いておいて、この子も召集前からのお知り合いですか……」

 そう言うと青葉さんはスッと写真を左側の私達と合流させた。右側に北上さんだけが残る。ああ、これそういう事?

「北上さんは私の叔母ですよ」

 青葉さんは意外な関係性にええっと声を上げ、私の背後からは謎の圧力と共に大井さんの声が迫って来た。ローザに驚いてまるで警戒してなかったとはいえ、私の索敵範囲内には居なかったのによく聞こえましたね……

 

 大井さんは一瞬テンションが振り切れていたものの、基本的には常識人なので退散させる事に成功した。後でちゃんと話す事にはなったが。

 しかしこれで、写真の艦娘は全員縁が繋がっているという事が判明してしまった。青葉さんは改めて写真を右側に並べると、中断していた話を再開する。

「それで、えー、妹になる予定っていうのはいったい?」

「ああ、ローザは提提督の妹なんですよ。血は繋がってないらしいですけど」

「提督と結婚したら義妹になりマース!」

 ああ、そういう。と青葉さんは微妙な表情になった。捕らぬ狸の皮算用的な話である。提提督の妹であるという話には驚いたようで、かなり悩んでから口を開いた。

「そうなると……これだけの美少女軍団が一か所に集まってた上に全員強いって事になるんですよね。なんですかそれ、アニメか漫画ですか?」

「ゲームかもしれませんね」

 艦これ的な意味で。まぁ、誰がどう見ても不自然ですよね。明らかに例の魔法使いの子が何かやったんだろうとは思うけど、具体的にどうなってるのかは私にも分からん。私みたいなTS転生者も混ざってるし何がしたいんだあの子は。ハーレムか、ハーレムなのか。私が二次専で実はがっかりしてたりしない? メス堕ち展開とか無いよ? 大丈夫?

「美人じゃないと強くなれないとか、そんな事は無いと思いたいんですが……」

「それは流石に……」

 無いよね?

「無いと言い切ってしまいたいところですけどねー、実際、艦娘って美人な方が結構多いじゃないですか。ここには挙げてないですけど、天龍さんとかも美人さでは負けてませんし……」

 戦果的には追いついてないらしい。あの人近接戦闘が得意とかいう艦娘としてどうなのかって戦い方するらしいから仕方ないね。

「確かに提艦隊も可愛い娘が多いデース。提督がユーワクされてないか心配になるネー」

 金剛さんにも誘惑され切らないくらいだから実力行使されない限り大丈夫じゃないですかね。既成事実作られたら知らんけど、なんか普通に責任取りそうな気はする。

「迅鯨さんやこの間来てた大淀さんも美人ですよね…………そうだ、あの二人の本名ってご存知ですか?」

「Hmm~、知ってはいますネー、でも勝手に教えられないデース! 個人ジョーホーダネー!」

 割と本名の取り扱いは微妙な所である。訓練所での寮の部屋割り表に全員分書いてあったりした程度の物なのだが、普段艦名で呼び合ってるのもあり、人によっては全く教えようとはしなかったりするらしい。っていうか、よく考えたら私自身龍驤さんと加賀さんくらいにしか名乗ってないかも。名乗ってないのにみんな知ってるような気がするけど。

「フルネームは聞きませんが……その名前にですね、その人が使ってる艤装の名前が入ってたりしませんか?」

「ああ、やっぱり気になりますよねそれ」

 私が気付くくらいなので、当然ながら調べている人達はみんな気付いているのだろう。金剛さんの回答は〇だったので、青葉さんはやっぱりかとため息を吐いた。

「美人さん達みんな名前と適性が一致してるんですよねぇ~……ただ、一致してるからと言って強いとは限らないみたいなんですが」

 例えば大淀さんは名前に艦名が入っているが、戦闘部隊に入れない程度の適性値しか持っていないらしい。でも関係無いと言うには強いと言われる人間の名前に入っているケースが多すぎる。

「集合無意識の人達も美人の方が好きだったりするんですかねぇ」

「そういう話なんでしょうか……?」

 もしそうなら俗物的過ぎませんかね集合無意識。人間のだし案外そんなもんだったりするんだろうか。

 

 

 

 暫くお話したものの、結局特に進展はなく、何も分からないまま終わった。まぁ、今日得た情報から青葉さんは色々推測するのかもしれないが、何らかの成果を得られるのだろうか。凄いファンタジーな事が起きた結果な気がするんだけども。

 そう思いながら貰ったお菓子を手に食堂のある建物を出ると、お昼の前には豪雨と言って良かった空模様はいつの間にやら治まっていて、青空に太陽が浮かんでいるのが見えた。予報よりもだいぶ早い。やったぜと傘を手に下げ寮までの道を行こうとしたら、工廠の方から歩いてくる影が目に映った。

 かなり嵩のある薄紫色の髪を上部でまとめ、その頭上にV字型の何かを浮かべた少女。背負った艤装からは二本の腕が伸び、その先には連装砲が装着されている。しっかりと制服を着こみ手袋まで付け、気の強そうな紫の瞳でこちらを睥睨しながらじっくりと歩を進めてくる。その体は、何か全体的に輝かしい無形の何かで覆われ、陽の光に照らされ混じり合ったそれは可視化され、極光となって澄んだ空気を貫き私に届いていた。

 なんだアレ。いや、見た目には知り合いなんだけど明らかに違う。具体的にはオーラが違う。呆然としてその場から動けずにいると、その少女はこちらへと歩を進め、私の前までやってくると何かに気付いたようにはっとして足を止めた。

「む……そうか、貴様が吹雪の適性者じゃな?」

「え、あ、はい……え……っと、初春?」

 いかにも。と目の前の存在は首肯した。そうだよね、どう見ても初春だよね。明らかに初春じゃないけど、外見だけは初春そのものである。元々宗教で祭り上げられて不思議じゃないくらいの美人さんなんだけど、今の彼女はそれに加えて雰囲気も一般人のそれとはまるで違う。敬われ、上位の存在として扱われるのが当然であると言葉にするまでもなく周囲に得心させるような存在感があるのだ。

 初春に見える存在は私の顔や体をつぶさに観察し、成程成程と何かに納得した様子で一歩下がり少しの間何かを考え、口を開いた。

「初依が世話になっておるな」

「えあ、いえ、春原さんにはむしろお世話になっております」

 春原 初依、初春の本名である。目の前の人物はやっぱり私の知る初春とは別人のようだ。じゃあ誰か、と言えば、訓練所であったらしい出来事を考えれば候補は一人しか居ないだろう。

「あの、初春さんですか……? 駆逐艦の」

「うむ。初春型駆逐艦、1番艦の初春じゃ。今は初依の体を借りておるがのう」

 謎のオーラを発しながら、初春さんは堂々とした自然体で肯定した。初春さん、マジで降霊術出来たんだなぁ。

 

 

 




この世界、深海棲艦の仕様的に天候が酷い方が安全かもしれないとちょっと思いました。
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