転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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転生者が あらわれた!

 他人の性癖を弄ると待ってるのは戦争だけだから……やめようね!

 台風が過ぎ去って、普段通りの出撃頻度へ戻った宮里艦隊は前へ前へと進んでいた。ペース的にはかなり順調で、第二期適性者が各地に配属されるまでに目標は達成出来るんじゃないかな。

 って思ってたのが先週の話。私達は紀伊半島を折り返し、ついには四国が見える位置まで到達していたんだけど、そこから先が酷かった。姫級はそんなに居なかったんだ、今までの海域よりも少ないくらいでもしかしたら丁度空白になってたのかもしれない。その代わりにうじゃうじゃと四国の方からやって来たのが航空機の群れである。

 数が多すぎて対処しているだけで弾薬が底を突き、速度差があるから無視して突破も不可能という嫌がらせ。四国に大規模な航空基地が建設されてるのは明白だった。

 変色海域の核の位置を探している間に襲われる。弾薬が減って来たから速吸さんに補給してもらってたら襲われる。変色海域の核を破壊して帰ろうとして襲われる。上空を警戒してたら潜水艦も来る。対潜も気を抜かずにやってたら満を持しての姫級のご登場。地獄かな?

 それに加えて敵だって取り返された海域を放っておいてはくれないから、一晩経ったらまた変色海域化してたなんて事もざらにある。なので、その侵攻部隊の対処を任されたのは私達第四艦隊であった。何故かと言えば姫級鬼級が部隊を率いてる場合が多かったからで、私たち以外だと被害が出るため結果的に進行が遅れるかららしい。

 そんなわけでこのままじゃ目標地点にいつ到達できるか分かったもんじゃない。って事で進むために何種類かの方法を宮里提督たちが考えて、ある軽巡洋艦が進言した一つの案が採用された。

 夜戦である。

 クリーチャー染みた外見をしているため意外に思われるかもしれないが、この世界の深海棲艦は夜目が利かない。普通の人間よりは利くのかもしれないけれど、昼間に比べて視界が狭まるのは間違いなかった。そして敵の飛ばす航空機たちも夜間専用でなければ夜はまともに使えず、しかもそっちの数は圧倒的少数。まぁこっちの夜偵とかもあんまり無かったから増産で悲鳴を上げる明石さんとか見られたんだけど。

 でも、それに加えてこっちには夜戦を有利に運べる道具が存在してたのだ。そう、いつぞや作られた深海棲艦識別用暗視ゴーグルである。

 宮里艦隊では川内さんしか使えない。そもそも島の中で敵の待ち伏せとか全然なかった。装備スロットを使うから付けてると火力が減る。等々の理由からあまり評価されてなかったそのゴーグルなのだが、実は川内さんはずっと装備し続けていて、この度ようやくその真価を発揮する時が来たのだ。

 私と島風は夜戦部隊には参加していないので完全に人づて――っていうか秋雲先生に聞いた話になるのだが、その性能は夜の海じゃかなり頼りになったそうな。

 

 夜戦が承認された瞬間、川内さんのテンションはおかしくなった。やっぱりというかなんというか、集合無意識側からの影響はかなり大きかったらしく、やったぜってハイタッチさせられた。多摩さんもそうだったけど艦娘に寄るとフランクさが増すなぁ……ちなみに私達は再侵攻を防ぐために昼間に出撃だったから夜戦やらないんだけどね。

 夜戦となれば主役になるのは軽巡や駆逐艦である。なので水雷戦隊である第三部隊を再編して、夜戦部隊として艤装を黒塗りにしたりとかして川内さんは元気に出撃して行った。

 そしてその夜、川内さんは大活躍したのだ。近接戦闘で。

 いやいやなんでそんな事になったんだよって思ってちゃんと聞いてみたら、例のゴーグルは夜間の索敵では当然のように高性能を発揮して、先制攻撃に成功。勢いでそのまま制圧して、核の破壊を他に任せて周囲を見張っていた川内さんは、敵の増援を発見したらしい。

 纏まっていた他の艦娘達に気を取られ、一人少し離れていた川内さんに気付かずに深海棲艦達は前進して来る。なので川内さん、砲戦が始まった瞬間に奇襲を仕掛け、敵旗艦に肉薄した。背後から突き刺さる砲弾に動転した軽巡ツ級は、続く魚雷によって哀れ爆発四散。残った烏合の衆は逃げる事も出来ず、至近距離のはずの川内さんを見つけ出す事すら出来ず殲滅された。

 まぁ私が直接見たのは勝手に凸った川内さんが長門さんに怒られてる所だけだったんだけどね。

 

 そういうわけで、私達は歩みを進める夜戦部隊と拓いた海域を維持する昼戦部隊に分かれてお仕事したのだ。夕雲さん等からしたら見えているのに向かってはいけないのはかなり歯がゆいと思うけど、まず避難経路を作らないといけないからなぁ。助けに行って帰れないとか洒落にならん。

 私と島風は敵の輸送部隊から変色海域の核を奪い取ったり、発生してしまった変色海域に戦力が揃う前にカチコミをかけたりとあちらこちらを飛び回っていた。近場で量が多いのとかは長門さんや金剛さんが何とかしてくれるので、私達が行かされるのは基本遠い所である。深海棲艦側から見たら機動力がおかし過ぎて複数の部隊にやられてると思われてたんじゃないかと思う。

 

 

 

 そんな生活がしばらく続き、到達しました大阪湾。ここと向かいの淡路島の解放のためにまたお引越しである。と言っても越せる建物を探すところからだったから数日かかったけど。 

 私達の目標は淡路島の方で、四国はそこから攻略するらしい。とはいえ、大阪湾を無視して淡路島に行く訳にも行かないからまずはそっちを取り返さなきゃいけない。

 だがこの大阪湾、一筋縄では行かなかった。変色海域の核が見つからなかったのである。

 というのもこの海域、入ってみたら変色海域の核を細かく砕いたもの――クジラを倒す前に輸送機が持ってきてたあれよりさらに小さいものが多数ばら撒かれていたのである。コスト重くね? って思ったけど効果は覿面で、羅針盤妖精さんの羅針盤はぐるぐるぐるぐる大回転。大きいのがどこにあるのか全く検知出来なくなってしまった。

 さらに悪い事に一々回収してもそれらは翌日にはまたばら撒かれているのである。資源的にはかなり美味しいんだけどね、目的さえなければこのまま受け取り続けたいくらい。当然そんな訳には行かないので、もう無視して本命を探しましょうって事で、ローラー作戦的にあちこち回り、何日も足止めを喰らって今に至る。

 せめて全員で当たれれば良かったんだけど、残念ながら私達第四艦隊は攻め上がってくる敵艦隊を相手しなきゃいけないから捜索には未参加で、今日発見の知らせが入った時にも北方棲妹を他界他界している時だった。

 発見場所は海の底。そりゃあ見つからない訳である。発見者はイムヤさんとイクさんで、見張りすら居なかったのでほぼ完全な状態で持ち帰れたそうな。見張りがソナーに引っかかったら困るからそうなってんだろうか、本気でただの嫌がらせじゃねーか。

 そんな感じで色々障害はあったけど、あんまり私は関わってない感じである。役には立ってたと思うようん。

 

 

 

 さて、今日は大阪湾大掃除である。海底の本体を回収した結果、海の上の細かいのを取り除けば大阪湾は解放出来る事になったので、第一から第三艦隊までのほとんどの艦娘で回収していくらしい。

 うん、また第四艦隊は別任務なんだ。済まない。敵が来るから仕方ないね。でもまぁ、それも今日までの話である。

 実は今日、第二期適性者が配属される予定なんだ。結構先だと思ってたら滅茶苦茶足止めされて気が付いたら一月経ってたんだよ。怖いわー、人手不足怖いわー。

 一応、新しく艦娘が配属されたらすぐ四国行けるようにするのが理想って話だったみたいだけど、公的には宮里艦隊の目標は大阪湾奪還までとされている。つまりギリギリセーフである。っていうか、そっちでも無茶振りだったんじゃないのかこれ。宮里提督陥れられてない? 大丈夫?

 それで、二期の人達が配属されるとなんで私達がやってくる侵攻部隊への対処をしなくてよくなるのかというと、それは新しい提督たちの新しい鎮守府が設立されるためである。宮里艦隊が受け持ってた所を他の艦隊が代わりに維持してくれるようになるのだ。

 ちなみに代わってくれるのは比叡さんのところである。島風が最初に所属してたとこだね。元々比叡さん達の居た所に新しい艦隊が入って、私達の居た所に比叡さん達が入るらしい。

 あとなんか、艦隊名は前と変わってた。不思議だね!

 

 そんな話を島風とせずに、今朝変色海域化したばっかりの地域を元に戻す。移動が手間なだけで基地作って待ち構えてる連中と比べたらちょろいもんだぜ。

 そう思いながら核を二つに折る。ちょっと正方形だったけどやってみたら折れた。その瞬間、一瞬だけ、ほんの一瞬だけであるが、私の艤装に救難信号が届けられた。

 妖精さんはかなり優秀で、その一瞬だけで方向を特定してくれて、宮里提督にも確認を取り大急ぎで救助へ向かう事になった。

 

 

 

 島風を抱えて海を走る。妖精さんがお亡くなりになりかねない高速機動で世界を縮めながら、発信されてた方向へと水平ジャンプを繰り返す。腕の中の島風はノリノリで、すごく楽しそうだった。連装砲ちゃん達は振り落とされまいと必死にしがみついている。

 なんで私が走っているのかといえば、救難信号が一瞬だったからである。これはつまり、出した人間が救難信号を出す事すら出来なくなってる可能性があるって事だ。さらに言えば、出された信号が艦娘専用のものだったんだよ。どこの誰だかは分からないけど、なんでこんなとこに居たんだろう。

 飛鷹さんの時と同じで羅針盤妖精さんに方向を修正してもらいながら脚を動かす。そして見えて来たのは一つの小島。後で確認したら以前にも来た事があったその島の上に、見た事の無い女性が若干困った様子で立っていた。

 まず見えたのが後ろでまとめられた青灰色の髪で、余りの部分が肩に掛かっている。艦娘としては珍しい普通の軍服のような制服を身にまとい、背負う艤装も見覚えが無いが、航空機の運用を念頭に置いた設計なのは見て取れる。眉を寄せて辺りを見回すその相貌はかなりの美しさで、特徴的な泣きぼくろがそれを引き立てていた。

 その頭上には丸い、どうやって飛んでるのか理解できないような形状の敵航空機が複数旋回して、どうやらその艦娘に狙いを定めているようだった。すぐにでも銃口が背面を捉えるが、当の本人はそれに気付いていないのか身を隠そうとすらしていない。

 なので私は島風を放り投げ、さらに速度を上げた一歩を踏み込んだ。音や光は無理だとしても、風くらいは置き去りにして、女性の背後へ回り込む。それと同時に敵機から無数の弾丸が放たれた。

 

 私の動体視力はその全てを捉える。当たるのも、当たらないのも、避けられるのも、避けられないのも。当たらないのは無視でいい、避けられるので避けたら後ろの女性に当たるのは避けない、避けられないのは避けられないからしょうがない、まとめて一緒に打ち落とす!

 連装砲と機銃を両手に構え、だが砲塔は使わない。っていうか妖精さんがぶっ倒れてるから使えない! 必要なのは側面の装甲部分、分厚くなってるその場所だ。それと靴の装甲部分。

 迫る弾丸、弾丸、弾丸の雨。でも大半は無視でいい。どうせ急所に当たらない。多少の被弾は無視でいい。どうせ撃ったり出来ないんだから、大破しようが関係ない!

 私の頭に真っ直ぐ飛ぶ、避けてはいけないその弾を、避けられないならどうするか? 喰らう? 受ける? 耐え忍ぶ?

 いいえ、私は逸らします。左で一発、右で二発。右足三発、左で四発。勢い付けて艤装で五発。後はなんかもう数えない。こういうのはノリだよノリ。チート強化で異常になってる私の手足の器用さは、普通の弾の軌道なら、無理矢理無理くり変えちゃえる。弾と装甲が触れ合う一瞬、ソフトタッチで軽く押し、無害な場所へ受け流す! やれると思っていたけれど、実際やるのは初めてで、思ってたよりも簡単だった。

 傍から見たら私の手足、えらい勢いで動いているように見えるだろうけど、まぁその辺りはしょうがない。いつの間にやら弾を止め、突っ込んできた艦爆を、跳んで掴んで叩きつける。私の武装が使えないなら敵のを使えばいいじゃない。爆発物を積む方が悪い。自爆されたら困るけど、どうやら出来ないみたいだし。

 敵機を敵機に打ち付けて、余った奴を踏み潰し、気付けば空の音は止み、敵は姿を消していた。周囲にあるのは無惨に飛び散る残骸と、引き攣った顔の全く知らない艦娘さん。

 うん、まぁ……もうちょっと落ち着いて生きるべきかな私。

 

 

 

 助けに入った少し後。私は戦慄していた。なんだこの子。

「ゴト、だいじょうぶ? 怪我してない?」

 私の知らない艦娘の女性が、私の知らない艦娘の少女に心配されている。日焼けした肌が眩しく小柄で可愛らしい、袖無しの水兵服を着た、私よりも年下だと思われるその子は、まぁなんというか、どう見てもマエストラーレ級。っつーか、服にLIって書いてあるから三番艦のリベッチオだろう。

 この子は私が航空機を全滅させてからすぐに、海の方からえらい勢いで突っ込んで来た。これは過剰な表現でなく、本当にとんでもない速度が出ていたのだ。具体的に言うなら、普通の六倍とか言われた私や島風以上。七~八倍は出てたんじゃないだろうか。

 そんなスピードで飛びついたものだからやられた側はたまったもんじゃない。艤装を付けているからダメージは無いだろうけど、押し倒されるを通り越して少し地面を削りながら島内へ押し込まれていた。ぅゎょぅι゛ょっょぃ。

 いや冗談抜きで、なんだこの子。ヤバいわー海外艦ヤバいわー。いや、海外艦っていうかこの子がなんだろうけどね?

 私は今さっきの航空機の攻撃も含めて、命の危機を感じた事は無かった。でも実は、これがチート能力で生死に関する判断力も強くなってるのか、ただ単に私が能天気で愚鈍なだけだったのかはさっぱり分からなかったんだ。

 でもはっきりした。私は前者だった。チート能力さんそんなとこも強化してくれてた。目の前でひたすら心配しながら、ゴトと呼ばれた艦娘に怪我が無いかぺたぺた触って確認している女の子のおかげでそれが分かった。

 

 こいつ、私より強くねー?

 

 ヤベーのが居る、としか言いようがない。見ているだけでなんとなく分かる。この子強い。超強い。気から戦闘力測れるとかそういう訳じゃないけど、今まで見知った艦娘とは全く違う。初春さん――本物の艦娘の初春さんともまた違った気配で、小さな体の奥の奥から、底の知れない力を感じる。敵対されたら生き残れるだろうかってレベル。少なくとも基礎スペックで負けてる自信がある。ゴトランドさんの方は何も感じないけど、推定リベッチオの方はこれ、間違いなく私より適性値が上だわ。

 

 って言ってもまぁ、恐怖感とかは別に無いんだけどね。実際にそんな事は妖精さんがしてくれないから。私が艦娘に砲口を向けても撃ってくれない様に、私が艦娘に砲口を向けられても撃たれる事は無い。艦娘同士で殺し合いは出来ない様になってるのだ。そもそも相手に敵意とか無さそうだし。

 そしてたぶん、この子は艤装を外したら普通の子だ。筋肉の付き方とかが島風や長良さんなんかと全然違う。何かしらの運動のために鍛えたりは全くされていない。なんなら艦娘として必要な筋肉すら発達していないように見える。

 なので私を害せる力はあるけど脅威ではない。と思う。この結論に至るまで一秒くらい。やっぱ生存に関する能力強化されてるだろこれ。勉強は全然楽になってないのはどういう事なんだよマジで。

 

 

 

「助けてくれてありがとう、自己紹介をさせて頂戴」

 纏わり付く最強に見える幼女を窘めて、艦娘の女性は私と膨れ面の島風にお礼を言って来た。島風は急に投げられたのが不満なご様子。そりゃそうか、教官長の心が広かっただけでこれが普通の反応である。

「私はゴトランド、艦娘として働いているわ。それでこっちはリベッチオ」

「リベだよ、よろしくね……?」 

 やっぱり海外艦らしい。ゴトランドさんは非常に友好的な笑みを浮かべているが、リベッチオの方はなんだかおっかなびっくりというか、若干緊張しているように見える。島風がよろしくーと軽い調子で返事をしたら、そっちには人懐っこい笑みを向けた。

「ええと……お二人の所属を聞いてもいいでしょうか」

 ゴトランドはスウェーデン、リベッチオはイタリアの艦である。今まで海外艦の艦娘って見た事無かったから、組み合わせはよく分からんが、もしかして外国からやって来た人達なのかなぁと思ったのだけど。

「私達は大本営直属、つまり楠木提督指揮下の艦娘です。外国人を大々的に戦いに参加させられないから……って言ったら事情を察してもらえるかな」

 違ったらしい。日本に逗留していたら帰れなくなってしまった外国籍の人間で、放っておくのは惜しい適性値を持っていた人達、とゴトランドさんは説明してくれた。確かにリベッチオは見えた部分だけでも滅茶苦茶な速度を持ってたし、あれを捨て置く手は無いだろう。

 私は別段疑ってなかったのだけど、ゴトランドさんは証拠にと言って楠木提督と通信を繋ぎ、一月くらいぶりにその渋い声を聴く事になった。楠木提督からは宮里提督以外には秘密にしておいてくれと言われたので存在が機密だったのかもしれない。報告自体はちゃんとやってもいいらしいので一安心。ところでゴトランドさんの呼び方が多聞丸だったんだけどどういう関係なんですかねお二人。怖くて聞けねぇ。

 

 任務の内容は極秘だからと当然教えて貰えなかったけど、とりあえず二人ともこの島に置いて行って大丈夫らしい。さっきのアレのせいでリベッチオはともかくゴトランドさんはちょっと心配になるんだけど、ゴトランドさんは大丈夫だと言う。まぁ本人がそういうなら大丈夫なんだろう。救難信号もリベッチオ宛てだったみたいだし。

 私とゴトランドさんがお話ししている間、リベッチオは島風と歓談していて、話しぶりから知らない相手でもフランクに話の出来るタイプだと察せられる。でも私が目線をそちらに向けてみたら、なんだか怯えるような態度になってゴトランドさんの後ろに隠れてしまった。

 まぁ、航空機相手に暴れてるの見られただろうからなぁ。仕方ないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イェータ・月島のチート能力、『たしかに』『いた』は一言で表してしまえば過去改変能力である。

 名字や使える艤装の種類からしても、明らかにどこかの秀九郎さんを意識した能力に仕上げられているのだが、それとは明確に違う点が幾つもある。というか、完全に別物と言っていい能力になっていた。

 細かい事は省くが、彼女の能力で過去を改変する場合、まず彼女の分身体が過去に送られる。その分身が起こした結果は全世界的に適用され、改変前の世界は転生者たちの記憶に残った残滓を除いてそもそも無かった事になる。

 作り出される分身は送り込む先の時代のイェータ自身と同スペックとなる。持ち物も発動先の時代の自分が所有していたものしか再現できない。同じ時代に複数送り込むことは出来るのだが、一人の人間が複数のイェータを同時に直接認識してしまった場合、全てがその時点で消滅してしまう。そのためやりたい放題かと言われるとそうでもなく、自身が生まれる前には影響を及ぼせないし、何も出来ない時期もかなりあるのだ。

 イェータが艤装を欲したのはこの仕様のせいである。あの時点まで改変能力があっても避難誘導や救助くらいしか出来ず、戦う事は出来なかったのだ。受け取ってからの後は全世界に自分自身を展開して、ゴトランドとして人々を守っている。未来の世界で都市伝説的な存在として語られるようになってしまうのはご愛敬である。

 適性値は普通の基準で言えば高く、航空巡洋艦であるため単体でもかなり戦えたのが功を奏し、人助けは順調に行えた。その助けられた人々の中には、転生者の姿もあった。

 

 

 

「あれが日本最強の艦娘……悲しくなるくらい戦闘力が違うなぁ」

 人を――合流予定の丹陽を待つため別れた吹雪と島風の姿を見送りながらゴトランドは独り言ちた。ゴトランドは別に弱くはない。それどころか艦娘全体で言えば上位に入る。ついでに少しくらいなら絡んでも問題ない提督に絡んでドーピングしておいたので、最初よりは多少強くなってもいる。

 だが、戦闘向けのチート能力とそれ以外の明確な差はいかんともし難かった。どうして自分を庇いながら敵の弾丸を打ち払っておいて、無傷で元気に帰って行けるのか。ノータイムで救助に体を張れるとてもいい子だとは思うのだが、内心ドン引きであった。いや本当に、素敵な娘だとは思うのだが。

 隣のリベッチオを覗き込めば、水平線に消えるまでじぃっと吹雪の方を見つめていて、強く意識している事が窺えた。

「勝てそう?」

「無理だよ!?」

 大声で言われて、ゴトランドはきょとんとしてしまう。リベッチオは見れば分かるでしょ、という態度だったが、ゴトランドからすれば意外だった。事前にされていた話と少し違っていたからである。

「多聞丸は貴女がこの世界で最強の艦娘だって言ってたじゃない?」

「違うよ、楠木提督は『艦娘として最強』って言ったの」

 リベッチオは胸いっぱいに爽やかになった空気を吸うと、思いっきり吐き出しながら砂浜に座り込んだ。

 リベッチオだって結構自信があったのだ。初めて艤装を付けた瞬間にこれが自分に与えられた力なんだと理解して、これなら深海棲艦達も蹴散らせると確信を持った。少数ながら知り合った他の艦娘達と比較しても圧倒的な自分の能力に、一人でも大概の敵はどうにかなるだろうと考えていたのだ。でもなんか、あれは違う。

「私は敵の弾丸受け流したりとか、出来ないからね? 飛行機と同じ高さまでジャンプも出来ないし、爆発するようなの手に持って殴りつけるとかも、やったら手の方が吹き飛んじゃうから絶対無理だよ?」

「……あれって艤装の防御能力のおかげじゃないの? それならリベもかなり……」

「違うよ!?」

 それは絶対違う、とリベッチオは叫んだ。あんなのと一緒にされたくない。そんな思いが喉から飛び出した結果である。

「それなら艤装がちょっとは傷ついてるよ、あれはたぶんね、弾も爆風も見切ってるの。防いでるんじゃなくて流してるんだよどっちも」

 有体に言って頭がおかしい。適性値が高ければ動体視力や体を動かす速度も強化される。成程その通りである。リベッチオの適性値は間違いなく人類最強であり、超高水準の肉体強化が遠距離精密射撃を連射可能にしたりはする。でも、だからと言って、弾丸の軌道を見切ってノーダメージで逸らすなどと言うのはやれと言われてもやりたくないし、絶対に自分からやりに行ったりはしない。やって出来るか出来ないかという以前の問題なのだ。

「もし戦ったら……たぶん、お互い最初の一撃で艤装が壊れて、そのまま海の上を走って来た吹雪に殴り殺されて終わりだと思うなー」

 それくらい出来そう。艦娘としては自分の方が強いだろうというくらいの自負はあるのだが、それ以外の部分で相性が最悪という気しかしない。吹雪が視てなんとなくリベッチオの強さを感じたように、リベッチオの方も吹雪の中で猛る力を理解してしまっていた。

 お互い駆逐艦故か、それとも単に適性が被ったのか、装甲に対して攻撃力の方が高く、当たればどちらも一撃で、弾速がおかしいので避けられないのも同じだと感じる。なのでサーチ&デストロイし合って同時に発砲ともなれば、二人とも艤装だけ崩壊して、裸一貫での殴り合いに持ち込まれる可能性は非常に高い。

「私は艤装を付けてる時は『みょうに』『つよい』だけで、それ以外はふつ~の女の子だから。模擬戦ならともかく殺し合いならあんなの絶対勝てないよ」

 装備が全壊したと思ったら、中の生身の部分が普通に超高速でぶん殴ってくるとか悪夢でしかない。勝てるか馬鹿。そもそもリベッチオは吹雪と違って体は強くないのだ。

「普通に死に掛けてたくらいだものね……」

 リベッチオはチート能力有りと言われて転生したにもかかわらず一切発現の兆候がなく、悪化した世界情勢の煽りを受けて今の時代でありがちな死に方をする所だった。幸いゴトランドによって救助された訳なのだが、本来辿るはずだった末路の記憶は彼女の脳裏に焼き付いていた。

「餓死って辛いんだよー」

「軽く言うなあ」

 チート能力『みょうに』『つよい』は条件を満さないと効果を発揮しないタイプの能力である。常時発動万能型の『なんか』『つよい』と比べると圧倒的に汎用性で劣り、最高出力はかなり勝っているという扱い辛い能力なのだ。そのため普通に生きるのには一切役に立たない。産まれは結構恵まれていたのだが、不幸な事に家の立地は海沿いで、深海棲艦到来の第一波で一家は離散。リベッチオは飢えて死に掛けた。 

「というかね、そもそも戦果比べの話のつもりだったんだけど……」

「そっちはもっとむりー」

 燃料弾薬無しで戦えそうな奴にどう勝てというのか。リベッチオは丹陽が北方棲姫に連れられて来るまでふて寝を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通信だと誰に聞かれるか分からないし、とりあえず救助は成功したとだけ伝えて私と島風は帰港した。ちゃんと報告しないとだけど報告書にどこまで書くべきなんだろうとかあれはちょっと怪しいよなぁとか考えていると、港の方がなんだか少し騒がしい。

 陸へ上がって声のする方を覗いてみると、そこに居たのは今日留守番だった曙と龍驤さん、それと見知らぬ三人だった。

 一人は小柄に茶色のポニーテールのニコニコ笑う可愛らしい少女。その隣には白髪で表情の読み取れない、黒い帽子を被った女の子。奥には凛々しい表情の、黒い長髪を左で纏めたサイドポニーの女性。どうやら鎮守府を案内されているようで、恐らくはこの三人が新たに艦隊に加わる第二期の人達なんだろうと察しがついた。

 人数少ないなぁと私は思ったのだけど、新しい鎮守府が設立される事もあり、ほとんどの鎮守府はそもそも人数が増えないんだとか。宮里艦隊はやらなかったけど、大抵の場所は新人が数人入る代わりに同じ数だけ新しい鎮守府に異動になったりするんだそうな。

 宮里艦隊に来ても大丈夫と判断されるくらいだしきっと優秀なんだろうなと思いながら眺めていたら、島風と連装砲ちゃんが目を輝かせて走って行った。新人だーと大はしゃぎで三人の周りを跳ね回り、新人さんの方も本物だぁと騒いでいた。その中の一人の声がなんだか妙に耳に残った。

「吹雪、あんたも来なさいよ」

 島風が居るのだからと当たりを付けたのだろう、私を見つけた曙が名前を呼び、釣られて三人の視線がこちらを向く。仕方ないので歩いて行くと、新人さん達はなんだかざわざわ本当に居たとかなんとか言っていた。私何だと思われてるんですかねぇ。

「こんにちわ、駆逐艦の吹雪です。よろしくお願いします」

「重巡洋艦の那智だ。よろしくお願いする」

 那智さんが真面目そうな表情で挨拶を返す。しっかりしていそうでなんだか安心した。

「響だよ。生放送は見てたよ。よろしく」

 その情報は要らなかった。いや、艦娘になる人たちは大体見たんだろうなぁとは思ってたからいいんだけどさぁ……私と同年代か少し上か、なんだか掴みどころが無さそうな子だった。

 最後に残ったポニーテールの子はなんだか緊張した面持ちで、私の方に一歩進むと顔を紅潮させて叫んだ。

「睦月型駆逐艦7番艦の文月ですっ。よ、よろしくお願いますっっ!!」

 かわいい。いや、ほんと可愛い。すごく可愛い。超かわいい。

 声が。

 何この子、声優さんみたいな声してる。文月だから? 文月だもんね。文月じゃしょうがないよね。

 私はオタクな訳だが、別に声優さん大好きって訳ではない。ただそれは所謂声優オタクじゃないというだけで、ダメ絶対音感はそれなりに高レベルだし、なんなら顔の良し悪しよりかは声の良し悪しの方が評価に影響したりする。どうせ聞くなら多少下手でも声優のカバー曲の方が好きだったりもして、他人に好きな楽曲をお勧めできないのが私です。

 そんな私が聴いた瞬間こいつぁ上物ですぜ旦那ぐへへってなるハイパーボイスをその小さな体から響かせたのが目の前の文月である。ちょっと上擦っているのに掠れたり濁ったりしていなかったのが素敵。

 文月は大声になってしまったのを気にしてか、はわわあわわと少し後ろに引っ込んで行った。はずかしーと呟くその声も大変可愛らしい。

 この子が声優になったら絶対推すねってくらいの勢いで居たら、龍驤さんがじゃあそろそろ行くでーと引率のお姉さんをし始めて、三人はそちらに注目した。なので私はもう完全に勢いで、こちらを見ていない隙に小さな声で聖句を唱えた。

「世に文月のあらんことを……」

 言い終わる直前、急にこっちをちらっと振り返った文月とおもっくそ目が合ってしまった。気まずい。

 文月は目をぱちくりとしばたたかせ、ふふっと笑って、私にとって致命的な事を言い放った。

「それ、流行ってるんですか?」

 

 は? 何が?

 一瞬理解出来なかった。私が言ったのは前世でたまに見た広義過ぎる意味でのネットミームの一種である。そう、前世の物なのだ。

「これ聞いたの、どこかで」

 若干だが自分の声が震えているのが分かる。頭が血が上ったように熱くなって、指先も震え出す。私の様子が変だと気付いたのか何なのか、文月は少しだけ躊躇ってから口に出した。

「さっき、工廠で、妖精さんが」

 私は地面を蹴った。

 

 

 

 工廠へ向かって突き進む。位置は上陸地点のすぐそこだから、無理矢理数歩で到達する。遠慮する余裕も無いので勢いよく扉を開け放つと、たくさんの妖精さんと明石さん達がなんだなんだとこちらを向いた。

 どいつだ、どいつが言った? 妖精さんは今日これまで、おかしな言動は数多くしても前世に関わるワードを呟くような奴はいなかった。だから今の世界に無いはずの物を知ってる奴は、きっと私と同郷に違いない。

 私は阿呆だけど、今までこの世界に他に転生者が居る可能性を考えなかった訳じゃあないんだ。ただ何の根拠も無かったし、艦娘になってからは私が分かり易くチート全開にしてても誰も何も言わないから、居ないのかなぁと漠然と思ってた。でも、どうやら違ったようだなあ?

 周囲の妖精さん達の反応は様々で、急に入って来た私を困惑した様子で見つめる者やどうしたのーと声を掛けてくれる者、なんだ吹雪かとスルーして艤装の整備を続ける者やネジと一緒にくるくる回る奴まで居た。

 ちくしょう全然見分けがつかねぇ。っていうか、根本的に見た目で違いが分かる訳ないんだよな。だったらどうやって見つけるんだ、何か分かる様な反応を引き出せばいいのか。どうしたら分かる。どうしたらそんなん分かるんだ。

 私だったら反応する事、つまり転生者だけが反応出来る事、なんだそれ、そんなのあるか?

 いやあるわ、っつーか分かったから今私は走って来たんじゃん!

 

「ボクカワウソが、ボクカワウソが出たぞーっ!!」

 

 えって顔になる明石さん。殆どの妖精さん達は意味が分からなかったようで、首を捻ったりなにそれーって聞いてきたりでおかしな反応はしなかった。急に大声を出したのでびっくりした子やどうしたのーだいじょうぶーなんて言ってくれる優しい子も居る。

 そしてその中に一人だけ、明らかに違う反応を示した奴が居やがったのだ。そいつは大和の艤装の後ろで何か作業をやっていて、私が言葉を放った少し後、堪え切れずに失笑を漏らした。

 

 私がそいつの方を向く。そいつも私の方を向く。視線が交錯し、そいつはようやく自分の失敗を悟った。

「お前だァ!!!!」

 私は俊足の一歩で飛び掛かり、そいつを両手でしっかりと、被った帽子ごと押さえ込んだ。暴れるそいつに抜けられない様その体を鷲掴みにして、そのまま工廠を飛び出し錯乱したまま自室へ向けて走り出す。

「ぬ、抜かったアアアアアアァァァァァァ…………」

 その妖精さんの叫び声は、ドップラー効果を齎しながら鎮守府中に木霊したという。

 

 

 




ようやく出せてすっきり。
一応最初に予定してた転生者はこれで全員です。予定外に増える可能性は全く否定できませんが。
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