転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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ぁゃιぃけど実害はたぶん無い

 転生者って何人くらい居るんだろう。少なくともここに二人居るのだけれど。

 私は今まで転生者は私一人かなと思っていたんだけど、実際には猫吊るしも妖精さんとして転生していた。そうなると私達以外の転生者も居そうな気がしてくる。っていうか、怪しいのが二人、可能性ありそうだけどたぶん違うって奴が一人ぱっと思いつくんだけれど。

「猫吊るしは私以外の転生者って知ってる? 私は怪しいと思う人が居るだけで他には知らないんだけど」

「怪しいと思ってる奴なら俺も一人だけ居る。何回も会ってるし話もしてるけど、そうだぞって言われた事は無い奴が」

 どうやら私と同じ状況っぽい。それにたぶん同じ人だろこれ。さっきも名前出してたし。

「楠木提督?」

「楠木提督」

 せやなって顔をして来た。まぁ、そうなるな。どう考えても怪し過ぎるもんあの人。

 

 楠木多聞丸はこの世界の日本海防のトップである。妻と一人娘がおり、娘も自衛隊員……らしい。ネットでの噂だから真実かどうかは知らない。

 深海棲艦が来た直後、通常兵器が効かないという混乱から立ち直らせて、なんとか地上へ上がってきたモノは追い払う事に成功。暫くののち宮里提督の持ってきた猫吊るしの話を信じて艤装造りを敢行。精鋭という名の唯一戦闘可能だった部隊を指揮して、的確な指揮や采配で日本近海を――敵が少数の場所とはいえ――艦娘の死者数0で取り戻して行った。控えめに言って未来の歴史系ソシャゲで女体化された上にSSRにされそうな経歴である。そもそも深海棲艦が来る前から超有能で有名だったらしいし。

 そんなお人な訳なのだが、もうここまでで怪しい箇所が幾つもある。まず、猫吊るしの話を全面的に信じたのがとても怪しい。普通疑うよね深海棲艦とほぼ同時に出て来た小人とか。そもそも即時採用とかそのための下地作りでもしてなきゃ出来なくないだろうか。個人じゃなくて組織だし、しかも国家元首とかって訳でもない。どうやったのか本気で分からん。

 次に自分で指揮取って普通に連戦連勝、しかも艦娘に死亡者を出さなかった事。まぁ天才的司令官って話なのかもしれないけど……普通にやってそんな事出来るだろうか。なんかチート能力使ってない? なんなら今だって艦娘の死者が出ないように配置してるんじゃないかな、有難い事に。

 実際対面した時にも思ったけど、たぶん心か何か読めるような能力持ってるんじゃないかなあ楠木提督は。もしくはアンサートーカー的な奴か。自分で戦うようなのじゃなくてなんらかの情報収集系だろうと予想。

 最後に名前。多聞丸て。艦これ世界だからかなってスルーしてたけど転生者探そうぜってなったら滅茶苦茶疑わしいわその名前。無関係だったらくっっっそ失礼だけども。あとそんな名前の海自の偉い人が前世に居たら絶対ネタにされてるから、少なくとも前世の世界には居なかった人物だと思われる。

 

「以上の理由から楠木提督は転生者であると主張させていただきます」

「異議無し」

 猫吊るしは然り然りと頷いた。どうやら中から見てても不自然なほど簡単に受け容れられて、異様なほど開発建造運用が円滑に進んで行ったらしい。

「正直隠す気を感じなかったな。でも言っては来なかったし、俺も聞かなかった」

「それはなんで?」

「必要が無かったからっていうのが一番大きい。俺は開発、向こうは指揮。無駄に馴れ合う意味無いし、忙しそうだったからなー」

 それは分かる、絶対忙しいもん楠木提督。うちの宮里提督ですら結構書類仕事あるみたいなんだけど、間違いなくそれ以上にやる事が多いはずだ。決める事もそのための判断材料も桁違いの量になってそうだし、時間なんていくらあっても足りないんじゃないだろうか。それとなんていうか、立場が上の方過ぎて余計な事するの憚られるんだよね、同じ転生者だったとしても。何やっても迷惑になる気しかしない。

 なので、私もこっちから転生者なのか確認する事は無いと思う。もし楠木提督が転生者で、その事を明かす必要があるのなら向こうから言ってくるだろう。私はあくまで一兵卒だからね、仲間意識で馴れ馴れしくなるとかあったら良い事とか何も無い訳で。大体、私が転生者だろうがそうでなかろうが大きな戦力なのには変わりないんだからどっちでもいいし。

 あれ、そう考えると明かす意味も明かされる理由も無いな。これ知る事にデメリットしかなかった感じかもしかして。よく考えたら初対面の時に私が戦いに対して前向きって事は理解されてたし、向こうからしたら余計な事をする必要が無かったのか?

「ん? じゃあなんで猫吊るしは私のとこには確認に来たの?」

「楠木提督の事は見てたから真面目に日本のためにやってるって分かるけど、吹雪がどうなのかは分かんなかったからだよ」

 ちゃんと確認しないと不安だったらしい。もし人類に敵対的だったら暗殺方法仕込んどこうと思ってたって怖い事言うなよ。お前の能力が実際どこまで出来るのかは知らないけど、少なくとも社会的に殺すのは簡単だろ絶対。

 

「しかしそっか、それだとリベッチオには会った事無い?」

「は? リベッチオ?」

 なんか困惑された。別におかしな名前は言ってないと思うんだけど。

「え? 何? 会ったの? リベッチオに?」

「さっき…………あ」

 やべぇ、楠木提督に機密だって言われたの忘れてた。いや妖精さんだからセーフか? いやアウトか。口ごもった私の態度を気にせずに、猫吊るしは額の皺を深くした。

「この世界の艤装ってさぁ、建造する国の艦しか造れないんだよ」

「えっ」

 ゴトランドさん、はっきり大本営所属って言ってたぞ。じゃああの艤装どっから出たんだ。国外? いや行けないだろ外国は。でも見た事無い艤装だったし、制服がゲームそのまんまだったから嘘ではないと思うんだけど。

「その子、私よりたぶん強かったんだけど」

「もうそれ転生者で確定だろ!?」

 気付けよと叫ばれた。自分でもそう思うわ。何で気付かなかったんだろうね。不思議だね、私の頭脳。

 

 リベッチオは推定転生者として、ゴトランドさんはどうだろう。引っかかるのは助けた前後でかなり余裕というか、動揺が見られなかった事だろうか。私の行動には引いてた気がするけど。もしかしたら何らかの能力で安全が保障されていたのかもしれない。こっちも転生者かなぁ、強そうではなかったけど。

 ちなみに可能性があるかもしれないけど違うだろうと思っているのは提提督である。あいつは話してても普通に現地人っぽいから違うと思う。なんか色々規格外みたいだから若干怪しいけど。

 

 

 

 楠木提督が指揮してる部隊って言ってたよとかじゃあそこの所属全員転生者じゃないのもうとか話をしていたら、私の聴覚に廊下を歩く足音が聞こえて来た。ちょっと声を小さくして聞こえないようにしてやり過ごそうと思ったのだけど、その気配は部屋の前で立ち止まり、少しして扉が軽く叩かれた。

「吹雪、居ますか?」

 宮里提督の声だ。そう思った瞬間、猫吊るしもピクリと反応して、ささっと身支度してはよ出ろはよ出ろと目配せをして来た。いやそんなしないでも出るけど。

 返事をして、置いてあった艤装を退けて扉を開けると、やはりそこに居たのは宮里提督だった。なんだか心配そうな瞳でこちらを見ている。

「大丈夫ですか、何かありましたか?」

 どうやら通報を受け、私の奇行が完璧に宮里提督に伝わってしまったらしい。明らかに変な人だったろうからなぁ。気遣わしげな宮里提督にどう答えたものかと私が少し迷っていると、猫吊るしがてこてこ床を歩いてきて、ぴょんと飛び上がると私の頭に着地した。ジャンプ力凄いなお前。やっはろーと挨拶する猫吊るしに宮里提督はかなり驚いた風だった。

「久しぶりー元気してたー?」

「ええ、私は元気ですが……あなたは大本営付きだったはずでは?」

 提督は猫吊るしがこっちに来ていた事を知らなかったらしい。この調子だと楠木提督にも言ってないんじゃないだろうか。

 暫くこっちで働くよーとどことなく間延びした口調で話す猫吊るし。もしやこいつ、猫を吊るさないで被ってるのか。そうしていると平均的な妖精さんっぽいので転生者以外にはこうなのかもしれない。本来の口調とか隠す意味があるのかはよく分からんが、宮里提督からしたらその口調は普通のようで、特に疑われるような事も無く二人は会話をしていた。

「でも、どうして吹雪の部屋に居るんですか? あなたは開発や建造の担当ですよね」

「ケッコンについて説明してたんだよー」

 そういう方向で行くらしいので私も頷いておいた。当然頭上の猫吊るしごとなのでかなり揺れたはずだが、かなり安定して乗っかっているようで特に滑り落ちたりはしない。バランス感覚とかも最大限に『つかえる』んだろうきっと。

「結婚……?」

 しかし言い訳は宮里提督には伝わらなかったようで、妖精さんって結婚するんですかとちょっと斜め上の返事が返って来た。私達も何故宮里提督がそんな反応なのかちょっと分からなかった。

「長門に指輪渡したでしょ、あれの事だよー?」

「えっ?」

 どうやら宮里提督はその行為の名前を知らなかったらしい。豆鉄砲でも喰らったようになって、数秒で理解してちょっと恥ずかしそうな表情をした。

「そんな名称だったんですか……!?」

「そうだよ、ケッコンカッコカリだよ」

「カッコカリまで入れちゃって大丈夫?」

 お前もしかしなくてもその調子で妖精さんにもさん付けて正式名称にしただろ。いや今回は合ってるんだけど。

「そ、そうですか……ケッコン、ですか……楠木提督は仰ってませんでしたけど……」

「あれ、そうなんですか?」

 そういうのって完璧には共有されてないんだろうか。まぁ必要な情報かと言われると微妙だけど、知らせても問題は無さそうな気がするんだけど。そんな事を思っていたら、私の髪をカーペット代わりにしている猫吊るしが、何かに思い至った様子であっと声を上げた。

「……正式名称、伝えてなかったかも……」

 ハハハこやつめ!

 

 

 

 無理はしないでくださいねともう一度大丈夫か確認されて、実際そういう精神的不調とかが理由での奇行ではなかったので大丈夫ですと答えると、宮里提督はそれ以上は突っ込まなかった。代わりに後で執務室まで来るようにと言われたので、とりあえず艤装を工廠へ返しに行って明石さん達に謝罪して、身支度にシャワーを浴びて頭を洗おうとしたら、何やら頭の上に柔らかい物体が。

 なんぞこれと思って眼前に持ってくると苦笑いを浮かべた猫吊るしだった。そういや降ろしてなかったわ。提督にしか基本的に見えない妖精さんと喋りながら歩いてたら不審者だからってお互い無言だったんでつい忘れてたんだよ。いつ乗せっぱなしなのに気付くんだろうと思って工廠を出ても黙ってたらしいが、ごめんたぶん頭洗わなかったら一生気付かなかったわ。っていうか私さっき明石さん達に頭下げたんだけど落ちないのな。それも能力の一端なんだろうか。

 ついでなので一緒にお風呂に入って小声で雑談していると、島風が入ってきて高速で体を流すと浴槽へと飛び込んだ。ここの風呂場は大きさがそこそこ程度なので若干危ない。猫吊るしは波に流されて行った。

 島風は鎮守府案内に付いて行ったらしく、新人三人とある程度話をして来たらしい。吹雪も来たらよかったのにって言うけど私も行ってたら空気が硬くなってた気がするわ。

 

 

 

 風呂から上がり報告書を拵えて、言われた時間通りに提督の執務室へと入ると、そこには宮里提督と文月が待っていた。さっき奇行を見せつけたばかりなので若干気まずい。私はそう感じたのだが、文月の方はそうでもないらしく、私の頭頂部を見てとても不思議そうな顔をしていた。私もなんで文月が居るのか不思議なんだけれど。

 さておき宮里提督に風呂上がりに急いで書き上げた報告書を提出する。内容が内容なのでざっと読んだ提督の眉間にしわが寄っていたが、とりあえずそれの事は一度棚上げするようで、机の脇に纏めると、私の頭上を凝視する文月と私達の方へと向き直った。宮里提督の視線も私の上の方へ向かって行く。

「あの、どうして妖精さんを乗せているんですか……?」

 話が始まる前に突っ込まれた。今、私の頭上では猫吊るしが眠っている。ここに来る前、工廠まで妖精さんの足じゃ遠いだろうから乗っけてってやろうかと思ったら、道中でこいつ人様の頭上で居眠りし出したんだ。車に揺られると心地いい的なアレだろうか、歩くたびに上下に滅茶苦茶揺れてると思うんだけど。

「死ぬほど疲れてたんだと思います」

「降ろしてあげた方がいいんじゃ……?」

 文月がとても可愛いらしい声でそう言うけど、そうも行かないんだなコレが。

「なんか髪に張り付いちゃってて、無理に剥がすと私の頭が剥けるかこの子が潰れそうなんだ……」

 たぶん、眠りながら無意識でチート能力使ってるんだと思うんだけどね。私の頭を寝具として『つかえる』んだと推測される。なんか応用が滅茶苦茶利く能力っぽいなぁ。妖精さんがそういう生態なだけという可能性はたぶん無いし。

 宮里提督は妖精さんの奇行には慣れている様で、じゃあ仕方がないですねと軽く流した。流石提督最古参である。文月はそれでいいんだとびっくりしていたが、妖精さんは基本行動の是非を気にしても仕方ない存在だからね。戦場では全員真面目に働いてくれる良い子達だからそこは安心して欲しい。

「既に会ったとは聞きましたが、一応紹介しておきますね。彼女は文月、第二期に招集された駆逐艦の艦娘です」

 よろしくお願いしますっと文月が一礼した。こちらも返礼したが、頭上の猫吊るしは微動だにしない。たまに寝返りは打つくせにどうなってんだこいつ。

「そして、文月は提督でもあります。私と吹雪に続く三人目の艦娘と提督の同時適性持ちですね」

 えっ、そうなの。って思ってついつい文月の方を見てしまった。文月はこちらの視線に軽く頷いて肯定を返してくる。言われてみればさっきから猫吊るしの事見えてましたね、今もちらちら見てるし。やっぱ目立つ?

 提督の用件は、鎮守府に提督が増えたので無効化貫通能力の担当を再編する、という事だった。まぁ相談というよりかは決定事項の通達であり、特に問題も無かったので宮里提督側で考えた通りの配置になった。

 基本的に文月は私と宮里提督の二人掛でも余っていた非戦闘部隊への供給が主になる。戦闘部隊で変わったのは第一から第三に文月が担当する相手が決められたくらいで、私達第四艦隊には全然影響が無い。でもこれで文月が所属する艦隊――基本第三らしい――は変色海域内でもまっすぐ他艦隊の救援に向かえるようになるから、かなりメリットは大きいだろう。変色海域は持続ダメージより通信とかが制限される事の方がキツいからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケッコンか……妖精さんも妙な事を考えるものだな」

 自分に贈られた指輪を眺めながら長門は照れを隠すように呟いた。

「嬉しそうに言うやん……」

 その口元には微かに笑みが浮かんでおり、喜色は一切抑えられていない。龍驤の呆れたような視線も物ともしなかった。部屋の中の三人の中で一人だけあぶれているような状態なので、何か胸の内に木枯らしでも吹いたような寒さを龍驤だけは感じてしまう。

「私のケッコン可能な数は一人だけだろうという事なので、長門が唯一という事になりますね」

「え、そうなん?」

「無効化能力を供給できる数が関係しているらしいです」

 吹雪の頭の上で眠っていた妖精さん――日本で確認された一番最初の妖精さんである彼女からされた話が正しいのであれば、宮里と吹雪は一人、文月はぎりぎり二人行けるか行けないかであるらしい。話し合いの終わり頃にはっと飛び起きて、若干寝ぼけていそうだった彼女の発言を信用し切って大丈夫かという問題はあるが。ちなみに提提督は今の所不明である。妖精さん曰く、上限があるのかすら分からんとの事。

「なんや、あわよくばって思ってたんやけどな」

 少し笑いを含みながら冗談っぽく言っているし、実際にそれは冗談だったのだが、長門から龍驤へは少し冷ややかな目線が送られた。そんなパートナーを宮里は軽く窘めると、私達より吹雪の事ですと話題を転換した。

「吹雪も一人にしか渡せないらしいので、出来れば相手は慎重に選んで貰いたいのですが……」

 吹雪の親しくなった相手の適性値を上げる力は群を抜いている。その能力をさらに増幅するケッコンカッコカリを行った場合、選ばれたケッコン相手がどこまで強くなれるのかは未知数だ。流石に吹雪レベルまで、とは行かないだろうと全員が思っていたが。

「だが現状、島風以外の選択肢は無いだろう。強制出来るようなシステムでも無いようだしな」

「金剛もえらい仲良いけど、四国入ったら提艦隊に戻る予定やしね」

「本当は自衛隊の中からというのが理想なんですけどね」

 適性値が上昇する可能性があるという事実は公表されるという事が決定した。というのも、戦闘部隊基準まで上がった人数が増えてきて隠すのも難しくなってきたからである。宮里艦隊はそうでもないのだが、提艦隊の自衛隊員達は既に六人が戦えるようになっており、その噂は自衛隊員の間のみならず、召集された艦娘達の間でも囁かれるようになっていた。

 批判は大きくなるだろうが、どの道四国攻めで他の鎮守府から選抜された艦娘達と合流すれば暁や飛鷹も多くの目にさらされる事になる。戦力的に小さくない彼女達を使わないという選択肢は無いため、時間の問題ではあったのだ。宮里艦隊の面々が外へとほとんど漏らさなかった方が奇跡に近いのだし。

「うちはまぁ無理だとしても、空母の誰かに渡して貰いたいってのはあるな」

 優秀な空母は幾ら居ても困らないのだ。現状、空母の保持数が一位なのが宮里艦隊であるくらいには希少で、今回も空母が欲しいと上申した鎮守府は多かったが、どこも通らなかった。新しい鎮守府へ配属するだけで限界な人数しか居なかったのである。

「島風は現状で能力的には間に合っているからな」

 島風は強い。それこそ、通常の艦隊であればエースになれるだけの実力を持っている。火力は高い適性値に対してそれ程でもないが、それ以外の能力は高レベルに纏まっており、索敵も特にレーダーの扱いは全駆逐艦の中でもトップクラスと言われている。

 火力にしたところで一万を超える適性値の割には、という話であり、連装砲ちゃん達との連携と高速高精度の雷撃は鬼級程度なら時間を掛ければ一人で倒し得ると吹雪の報告書にはあった。何故か島風の評価だけ微妙に厳しいので過大評価という事も無いだろう。

 問題なのは適性値が上がって主に上昇するのが速度であろうという点だ。そこは今より上がる意味がかなり薄い。島風には吹雪に同伴してもらわなければいけないのだから、吹雪の速度が今より上昇する事でもない限りは無駄になる可能性が高い。勿論、吹雪が艤装を失い島風は無事という状況であれば非常に有用な能力になるのだろうが。

「……吹雪の能力なら親しさに関係なく効果があったりはしないだろうか」

「それやと提提督は適性値上げ放題になるな」

 流石に無いわと龍驤は笑った。そうだったらどれだけ良いかとは思うが、流石にそんな都合の良い事にはなっていないだろう。

「龍驤や私はともかく、他はどうだ。かなり活躍はしているが」

「前回の検査で一番適性値が上がっていたのは暁でしたが……おそらくあの時点からあまり仲は深まってはいないと思われます」

 暁、飛鷹、川内は適性値の上昇が確認されてすぐに戦闘部隊に配置転換され、そこでかなりの戦果を挙げている。

 飛鷹は堅実な航空機の運用が評価され、純粋な戦闘力こそ正規空母に劣るものの取り回しの良さもありかなり重宝されている。自衛隊員なので他の艦娘よりも頼みやすいというのもあるが。

 川内は夜戦でかなり評価を上げた。スタンドプレイこそ厳重に注意されたが、夜間でこそ能力を発揮するという理由不明の特性を持っているようで、夜の海では他者の追随を許さない信頼性がある。それと、おそらく三人の中で戦闘部隊に配置されて以降、吹雪と一番仲良くなっているのが川内だ。たまに一緒に体を動かしているのが目撃されている。

 暁は、宮里の目から見ても非常に強い。吹雪から三本取った、というのを本人は過大評価だと悩んでいたが、実際には、吹雪にそれを言わせるだけの実力はしっかりと具えていた。一か月間酷使され急成長させられた宮里艦隊戦闘部隊に、配属時点では実戦経験がほとんど無かったにも拘らず、その日のうちに同格以上と認められている結構な化け物なのである。ただ、そのせいで吹雪との交流はほとんど出来なかったようであるが。

 戦闘部隊の面々は向上心が強い者が多い。これは訓練所の段階でそういう傾向の強かった艦娘を選んで配属したために当然と言える。そのため戦闘後に反省会を自主的に開いたりなどは当たり前のように行われていた。疲れを取らないといけないので演習などはほとんど行われていなかったが、待機の日に自分の弱点を補うための訓練をする者は多く、自分では分からない部分を他者に指摘してもらうためアドバイスを求める事も多い。そして、その相談を受けるのは主に暁である。

 暁の純粋な技量は全艦娘の中でも突出していると言って良い。その事実と教官長として教導に当たっていたという経歴を加味された結果、駆逐艦や巡洋艦、果ては空母にまで助言を求められるようになってしまったのだ。そのため暇さえあれば仲間の訓練に奔走しているような状態であり、それを必要としない吹雪とは自然と疎遠になってしまっていた。

 暁自身は空母の事なんて分からないとぼやいていたが、なんだかんだと伝手を頼って情報を集めたりしてどうにかしてしまい、最早教官長というあだ名を避けられないくらいには頼りにされている。本人も訂正は諦めた。

「新人も入ったし、吹雪に構う時間もっと減りそうやね。駆逐艦二人居るし」

 別段、そういう任務を与えられる訳ではないのだが、今の空気だと恐らく自然と担当になる。特に響は同型艦であり、他の艦娘に任せる理由の方が乏しい。

「文月と響、それに那智か。全員高めの適性値だが、戦場で動けるかは別問題だからな……」

「適性値的には……全員1000以下やけど、これかなり高いよな?」

「以下というか……まぁ、そうなんですが。第二期の適性者は第一期よりも平均値がかなり低かったので、文月が駆逐艦の中では最高値だったようですね」

「平均値に関しては前回がおかしかっただけだろう」

 何しろ二百人も居ない中に53万が一人居た訳だから。

「今回は一番高くて4000代ですからね。やはり第一期は吹雪と提提督の存在が大きかったようです」

 結局のところ、提督の影響で適性値が伸びていない素の状態では、四桁に届くか届かないかくらいが限界なのではないかと思われる。今回の適性検査でも1000を超える人間は三人確認されたが、その全員が例の地域への出入りが確認されているため、吹雪か提提督の影響を受けていると考えられていた。

「文月のケッコンとやらは、暫く様子見やからいいとして……結局吹雪はすぐ島風に渡すん?」

「本人はちょっと考えると言っていました」

 身体能力が上がる事に引っかかっているのかもしれないし、可能性は低いが他に渡したい人が居るのかもしれない。ただ照れが入っているだけかもしれないが。

「島風に渡すなら急ぎという訳でもないので考えておくようにだけ言っておきました。早い方が良いのは間違いないですけどね」

 そう言って宮里は話を締めくくった。

「それで本題なのですが」

「長かったな前振り!? というか前もあったなこの流れ!?」

 本題、というのは明日以降の予定の話である。大阪湾全域を取り戻す事に成功したため、次はそこを守りつつ淡路島と本州間のルートを開拓しなければならない。そのためには淡路島を挟んだ反対側の海域もある程度は取り戻す必要がある。なので、宮里艦隊はこのまま海岸線沿いに瀬戸内海を進み、明石海峡の安全を確保するのが当面の目的になる。その予定だった。

 

 

 

 長門達と宮里提督が打ち合わせをしている頃、通信室で働く人間達もネットワークの監視や周辺の警備部とのやりとりなどでそれなりの多忙さを味わっていた。尤もそれは普段通りの業務であり、トラブルが起きていたとか、異常なスケジュールであったりしたわけではない。暇な時分などあまり無いというだけである。

 いつも通り忙しくしつつも、大阪湾を取り戻した事への喜びでどことなく浮ついた雰囲気になっていた通信室に、海の向こうから見慣れぬ電波がやって来た。

 変色海域が正常な海へと戻ったが故に届いたそれは一般的に救難信号と呼ばれるもので、SOSという簡単な三文字だけを繰り返し本州へと広く発信し続けていた。

 

 

 




書いてる最中に意識が落ちるの止めてくれよ……

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