転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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 結局、五十嵐さんはリーダーさんに押し切られる形で船へ乗り込んだ。というか、敵偵察機が来たので撃ち落としたりしてるどさくさに紛れて、リーダーさんに同調したちょっと栄養不足気味で筋力が落ちてる屈強だっただろう人達に船へと積み込まれて行った。月島さんならそうした方が喜ぶ、というのは共通の認識だったらしい。

 お騒がせしましたと頭を下げて回り、リーダーさんも船へと乗り込んで行く。本当は最後まで残っていたかったようなのだけど、申し訳ない事に彼にはこちらからの用事があるため急ぎ本州へ向かって貰う事になったのだ。

 本当ならまとめ役だったリーダーさんには一区切り付くまで残って貰った方が良かったのかもしれないけど、そういう訳にも行かなかった。なにしろ彼は艦娘適性よりも希少な提督適性の持ち主だったから。危険地帯に残しておけなかったのだ。

 そうだね私が報告したからだね。でもしない訳に行かないからね、提督が足りないといくら艦娘が居ても敵倒せないし。

 

 後で深雪から聞いた話なのだけれど、この後、本州に着いた五十嵐さんはお兄さんが招集されると聞いて自分も適性検査を受けたいとその場に駆けつけていた楠木提督に直訴、なんだかんだで受けられることになったらしい。たぶん一斉検査が存在するだけでそれ以外で検査しちゃいけないって決まりがある訳じゃないからやれた事だろう。法律にも穴はあるんだよな……

 

 

 

 深雪も乗った船を見送りながら、私はやれる事はやっておこうと思って猫吊るしに相談を持ち掛けた。ちょっといろんな理由で躊躇していたのだけど、んな事してる場合じゃあないと今回よく分かったからだ。月島って人も、私達が十分か二十分か、あと少し早かったら普通に保護出来てたかもしれない。そう思ったら出来るだけの強化はしておきたくなった。追いつめられるほど必死になるとかだと別の問題が発生しそうだけどそういう話ではなかったし。

 猫吊るし側は快諾してくれて、材料も宮里提督の許可が既に出ているので問題ない。鎮守府に戻ったら修理とかの優先事項が終わり次第取り掛かってくれるという。っていうか、猫吊るしもしかして私から降りた後工廠でも仕事するの? ちゃんと休んでる? 生放送の時も明石さんと寝てたし私の頭の上でも爆睡してたしちょっと心配なんだけど。

 ちなみに深雪は予備の艤装を持ってまたこちらに戻ってくる予定である。最近は戦艦や重巡、正規空母なんかはともかく、駆逐艦はちゃんと予備の物を鎮守府に置いてあるのだ。勿論吹雪もあるけど、出来るだけ今の艤装を大事に使って行きたいものである。

 

 

 

 ピストン輸送のため船が帰ってくるのを待ちつつ周囲の警戒なんかをやっていると、時折敵機が飛んでくる。攻撃機ではなく偵察機のようなのだが、どうも四国の方から飛んできているみたいで、やっぱり危険地帯なんだなぁと分からされた。

 そうやって避難を待ってくれた皆さんを守っていると、本州の方から船が戻って来た。船には当然護衛が付いていて、直掩機なんかも出しながら慎重にかつ素早く進んでいる。どうやら他の艦隊――私達から引き継いで陸上での護衛などを担当する人達と合流したらしく、人数が行きよりも大幅に増えていて、海防艦らしき制服の人まで見えた。存在していたらしい。

 そしてその護衛の中に、見慣れないシルエットの見知った顔が交ざっているのも見えた。その女性は私に気付くと大きく手を振り笑いかけた。以前より遥かに伸びた長い黒髪が揺れ、和装のような制服によく似合っている。

「久しぶりですね、伊吹さん、島さん……いえ、今は吹雪さんと島風さんと呼んだ方がいいですね」

「こんにちは!」

「お久しぶりです、赤坂先生……赤城さん」

 陸に着き、一通りの報告や連絡を済ませ、艦載機を島内に放ってからこちらに話し掛けて来たのは、私や島さんの担任にして陸上部顧問もやっていた赤坂先生である。お互いの無事を喜び合い、島風は周囲を跳び回り、私は頭上の猫吊るしの事を突っ込まれた。見張りですと説明して、なんでここに先生が居るのかを尋ねてみると、先生――赤城さんは偵察にも集中しながら近況を教えてくださった。

 赤城さんは私達と違って鎮守府に配属される事はなく、大本営直属の艦娘として特殊な任務に携わっていたらしい。と言っても、違法性があるとかそういう話ではなく、全体の指針などに関わる案件をこなしていたのだそうだ。

 変色海域を抜けての偵察なんかが主な仕事で、本州以外に生き残りが居る事を初めて確認したのも赤城さんであるらしい。それはつまり、妖精さんの目を通してどういう状況なのか確認してしまったという事でもあるのだろうけれど。

 機密だったりなんだりで色々と言えない事は多いようで、実際どうだったのかは教えて貰えなかった。酷すぎてやる気なくなっても良すぎてやる気なくなっても困るもんね、しょうがない。でもそういうのとは別に、楠木提督の下で働いていたという先生には聞いておきたい事が一つあったので、迷いつつも聞いてみる事にした。私ではなく猫吊るしが。

「先生さん、楠木提督のとこに居た時さー、海外艦の艤装使ってる人って居た?」

 そういえば猫吊るしにあの二人の事は機密だって言ってなかったわ。

 いや、猫吊るしは妖精さんだから人間のあれこれに縛られる必要はないかもしれないけど、私が猫吊るしに言っちゃったのにフォローするの忘れてたわ。あの人たち、問題になるかならないかで言ったら外交問題になる奴なんだよなぁ自己申告通りの存在だったとしたらだけど。外国籍の人勝手に戦闘に出してるんだもん、変色海域ほっとくとヤバいから仕方ないんだけど、それはそれとして。

「海外艦……ああ、ビスマルクさん達の事ね。ええ、居ますよ」

 知らない名前出ちゃった。

 いや名前自体は知ってるけど、え、何? その人も転生者? 頭上で猫吊るしもちょっとびっくりしてるんだけど。っていうか、猫吊るしの認識が間違ってなきゃその国か縁の濃い土地じゃないと造れないらしいのになんでイタリアのリベッチオとスウェーデンのゴトランドとドイツのビスマルクだよ、共通点どこだよ。まるで訳が分からんぞ。

 話によると、ビスマルク以外にポーラなんかも居たそうで、同じ艦隊で出撃したりたまに夜にお話とかもしてたらしい。絶対アルコールが入ってたんだろうなぁ。

 私は海外艦自体が機密なのかと思っていたけれど、普通に存在を教えてくれた辺り赤城さんは海外艦の事を機密とは認識していないらしい。あの人たちの立場が問題なだけで海外艦自体は合法って事なんだろうか。

「そういえば、吹雪さんたちは提くんと仲が良かったですよね……」

 何故そこで奴の名前が出て来るんだろう。あれか、ハーレムの一員(推定無自覚)だったからか。とか思ったけど、随伴で一緒に来たらしい海防艦の人がやって来てこの話題が続かなかったのでどうして突然そんな事を言い出したのか、この時は分からなかった。

 赤城さんは艦載機での島内の探索や捜索が今回の任務で、そのために直前の任務を急いで終わらせ空腹を押して馳せ参じたらしい。月島さんの事もしっかり探しておいてくれると言ってくれた、見つかるといいなぁ。

 

 

 

 

 

 希望者を無事本州へ送り届けとりあえずの私達の任務は終わり、赤城さんの見立てでは島内に深海棲艦は見受けられないとの事なので、明日からは別艦隊に島内や付近の海域の警備の事はお任せして私達は反対側の海域制圧へ行くことになった。引き継ぐのは新人多めの新設艦隊に大本営付きの赤城さん達の混成らしく、何かあれば当然宮里艦隊に救援要請が来るそうな。

 そんな事を説明されつつ鎮守府に帰り付くと、宮里提督と、何故か楠木提督に出迎えられた。いや何故かってそりゃあ初の海を越えての生存者だから駆けつけたんだろうけども。

 二人から労いの言葉を掛けられ、艤装を置いてそのまま解散になった。お風呂は一度に入れる人数に限界があるため先に食事に行ったり部屋に戻ったり各々用事を済ませに向かう流れだったので、私も食べて来ようかと思ったら、例によって降ろすのを忘れていた猫吊るしが頭上からこちらの頭をぺしぺししながら話し掛けて来た。

「吹雪ー、悪いけど楠木提督のとこに連れてってくれない?」

「え、いいけど……なんで?」

「俺もやれる事はやっとく事にした」

 そう言われると断り辛い。迷惑な可能性はあるけどまぁ、駄目そうならすぐ引き上げればいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮里は頭痛がしていた。

 楠木提督が吹雪に、というかその頭上の妖精さんに連れ出され、長門と二人きりになった執務室で書類に目を通しながら今の状況を整理する。

 淡路島の救助活動はおおよそ予定通り順調に進み、生存者は想像よりも多く――それでもおそらく全体で一割も残っていないと思われるが――健康状態もさほど悪くない。最悪、救難信号自体が深海棲艦の罠である可能性もあったため、淡路島の事に関しては大成功と言って良い。自分達の仕事を引き継ぐのが新しい艦隊であるというのが懸念事項ではあったが、少なくとも訓練所ではトップの成績を誇った赤城を付けるためそれほどの心配はしていない。自分達がフォロー可能な距離であるというのも大きかった。

 では何がそれほど彼女の頭を悩ませているのかと言えば、本日淡路島で救助された女性達の強い要請によって行われた、適性検査の結果である。

 中心となったのは淡路島で発見された提督の身内で、招集が確定してしまった兄を支えたいという気持ちは宮里にも理解出来る。問題なのは、その嘆願がトップである楠木提督に直接為され、許可され、そのまま実行され、出た結果が異常だった事である。

「これは……事実なんだな」

 側の長門も結果を見て呻いていた。楠木提督ですらかなり結果に驚いていたのだ、誰だって何かの間違いではないかと疑うだろう。前例を知っていたとしても。

「だとしたら、なんというか……出来過ぎだな。運命的とでも言えばいいのか」

「間に合ったのも、実際に助かったのも吹雪の功績ですからね……」

 本当に良くやったものだと長門は呟いた。道中での撤去作業の事も行われた戦闘の事も報告されている。彼女が居なければ間に合わなかったというのは想像に難くない。もし助けた相手が普通の一般人だったなら、ただの大きな功績で済み、宮里の悩みの種にはならなかったろう。素直に喜びと安堵の感情に浸っていられたはずだった。

 

 

 

 

 

 姓 名      艦種 艦名     適性値

 

 

 

 霜田 朝     駆逐艦 朝霜     1010

 野分 智     駆逐艦 野分     2100

 波場 彼岸    駆逐艦 岸波     2106

 百敷 名波    駆逐艦 敷波     3393

 磯野 真波    駆逐艦 磯波     5108

 五十嵐 鈴音   軽巡洋艦 五十鈴   5979

 五十嵐 四季   潜水艦 伊504    7125

 五十嵐 陽    駆逐艦 嵐      10697

 

 

 

 五十嵐 怜寛  提督

 

 

 

 

 

 第一期の招集でも似たような、数値だけで言えばもっと酷い物を見たが、今回特筆すべき点は、全員が志願者であるという点と、範囲が非常に狭いという点だ。自分から適性検査を受けたのは十二名。通過率は脅威の66%である。淡路島のただ一点にこれだけの適性値の人間が偶然集まっていたなどとはまるで考えられなかった。

「家族がかなり高くなっているな。これは、まず間違いないか」

「はい。吹雪と提提督に続く、三人目だと思われます」

 提督には艦娘の適性値を引き上げる能力があり、中にはその力が異常に高い者が存在する。残念ながら宮里や楠木はそうではなかったが、今回思ってもみなかった所から才の持ち主が発見されたという訳だった。しかも同じ才を持つ吹雪がそれを救出したと言うのだから、運命的と言う他ない。

「例によって名前もか。こればかりは本当に理由が分からないな……いやこれは、今回は提督の方もか……?」

「……いがら『しれいかん』、ですからね……提提督も似たような部類ですから、吹雪だけ少し浮いていますね」

 宮里は苦笑いを浮かべ、長門も乾いた笑いを上げる。これに関しては、今の所完全にお手上げ状態だった。宮里艦隊にも適性のある艤装の名前が本名に入っている人間は複数居るが、その適性値は高めではあるが常識の範囲内で、適性を上げる力の強い提督たちとも接点がなかったという者が大半なのだ。名前が先にあるのか、適性が先にあるのか。実験のしようもなく、誰にも答えられない難問であった。

「それで、この八名、提督を含めて九名か。使うのか?」

「他と同じく一月の訓練ののちに、だそうです。人数が少ないので一か所でやるようですが……配属先はどうなるか」

 基本的には実力の高い者たちはバラバラに配属されてしまう。しかし、兄のためという理由が多分にある嵐の適性者などは引き離してしまった場合、あまり良い事にはならなそうだと宮里は感じている。なにしろ適性値が一万を超えているほどだ、かなり仲が良い兄妹なのだろう。

「それもあるが……避難民からというのがな。批判は免れんだろうな」

「それでも使わない選択が出来るほどの余裕はないそうです」

 それはそうだと長門も頷いた。結局今回もそうだが、絶望的に人手が足りていない。吹雪が居たためどうとでもなったが、本来なら陸上での姫級との対峙などは艦娘本体でやってしまえば恐ろしい消耗を余儀なくされる案件なのだ。互いに避けられず、逃げられず、砲撃の威力はさほど変化が無いという悪夢。交戦許可は当然出ないだろう。唯一、航空機による攻撃は可能かもしれない、空母の重要性はこんな所でも発揮される。だがその空母の割合が少ない以上、どうにか上陸自体を防がなければならないのだ。そのために数はどうしても必要になる。

「戦車娘とかは居ないんでしょうか……」

 遠い目で宮里は呟いた。艦で地上戦は本当に勘弁願いたいのだ、やるなら専門の人間が欲しい。そんな話をしていると、突然、執務室のドアがノックされ、楠木の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってください、本当に、少しだけ、待ってください。飲み込み切れません……」

 宮里提督 は 混乱している!

 いやまあ、当然だとは思うの。今日こっちでも色々あったらしくて、その上でちょっとどころでなくファンタジーな話ぶち込まれたら普通消化不良起こしますよね。転生者でもかなりキツいもん。胃もたれするわ。

 長門さんも正気を疑う目でこっち……というか猫吊るしの事見てる。そりゃあまぁ、そうですよね。本気で言ってた方がヤバいもん。事実らしいけど。

 

 猫吊るしに頼まれて楠木提督の元へ連れて行くと、どういう訳か私も話に参加する事になった。

 応接室で対面に座り、猫吊るしを中央のテーブルへと乗せ、二人の会話を見守りつつ、たまに相槌や意見を述べる。正直私の意見とかどうでもいいと思うのだけど、楠木提督的にはよくなかったらしい。やっぱり人当たりが非常に良い。騙されてるのか単にそういう人なのかはよく分からないけど、信用させるのとか滅茶苦茶上手いんだろうと思う。私なんて楠木提督が悪意でやってる可能性とか今でも全く疑ってないし。

 話は問題無く……ある意味大問題な方向へ進み、それじゃあ行こうかと提督が立ち上がり、猫吊るしは私の頭に飛び乗った。自然、私も行く事になってしまう。解せぬ。

 

 そして宮里提督の執務室へとお邪魔して、色々話した結果、宮里提督と長門さんは頭痛を深めてしまったのだった。

「本当なんだな、全て」

 長門さんから猫吊るしへ最終確認が入った。それに頷くと、猫吊るしは嘘は吐かないと断言する。それを聞いた長門さんは難しい顔になり、顰めた眉を解すように額に手を当てた。

「強化形態と、それに伴う不老化……流石に簡単には信じられんな……」

 普通そうですよねえ。

 

 猫吊るしのやっておきたいやれる事、というのは要するに情報の開示だった。今の状況であれば何人かはもう改二になれる可能性があるため、出来れば提督たちに周知させておきたいって事らしい。

 ただ、何か考えがあって秘匿した可能性が高く、独断でやるのは不味いかもしれないから、まずは楠木提督と相談する事にしたわけだ。難色を示されるかと思ったけど、割とあっさりと許可が出て、三人で執務室に乗り込む事になり、情報という名の鉛の砲丸をそこで仕事をしていた二人へと投げつけた。結果は大破一名と中破一名と言ったところか。

「これは公表はする訳には行きませんよね……」

「そうだねえ、少なくとも世界的に戦況が安定しないと出来ないかな。特に不老部分はね」

 逆に、改二の存在そのものは隠さない方向で行くらしい。喧伝もしないようだけど、なれる人が出れば自然と広まるだろう。そして第一号になれそうな人物は、何かを決意したような表情で、確認してきますと言って退出して行った。扉が静かに閉じられ、工廠へと走る足音が響き渡った。

 

 暫く宮里提督が猫吊るしに質問を繰り返し、いつもと口調が違いますねと猫を被ってた事にまで言及された頃に長門さんは戻ってきた。その表情は先ほどまでと変わらない、それどころか、少し険しさを増しているように見えた。そのまま定位置なのか、宮里提督の横まで重い足取りで辿り着く。

「…………どうでしたか?」

 誰も聞かないので、私が聞いた。たぶん、艤装で集合体の長門さんに会いに行って来たのだと思うんだけど。長門さんは静かに首を振り、ため息を吐いた。

「許可は出せないそうだ…………ああ、つまり、強化形態の存在そのものは確認が取れた」

 長門さんは過去に集合無意識の長門さんに体の異常について質問した事があったが、その時は改二の事は教えて貰えなかったらしく、ただ悪い物でないとだけ言われたと聞いている。だが今回は、明確に拒否されたようだ。

「長門で駄目なのか!?」

 私からしたら意外な結果で、猫吊るしにも意外な結果だったらしい。長門さんも不服な様子だった。

 長門さんは過去に精鋭部隊で旗艦を務め、現状でも宮里艦隊の戦闘部隊で実質的なトップ、言ってしまえば前線指揮官である。私や加賀さん、天龍さんも艦隊の旗艦を努めるが、実際の立場は一段どころか二段三段は上なのだ。戦闘能力も聞いた限りでは高く、部隊を纏める能力も有り、事務的な事なども完璧だと思われる。

 そんな長門さんで改二になれない。いや、それはなんか、他の人達絶望しか無くない?

「吹雪はどうだ、もう確認はしたのか?」

「あー……いえ、それが……」

 私も猫吊るしから聞いて淡路島に行く前に一応確認しに行ったんですけどね。許可を取るとか取らないとかそういう以前の問題なんだよなぁ……

 

「今までは混乱を避けるのと、そもそもどの程度で兆候が出るのかが不明だったから秘匿していたが、これからは強化形態――改二については、提督や運営に携わる人間達には周知させて行こうと思っている。覆水を盆に返す手立てもあるようだしね」

 楠木提督が猫吊るしを優し気と言ってもいい視線で見やる。それに鷹揚に頷くと、猫吊るしは楠木提督を見上げた。

「図面は引ける。けど、検体が無い以上本当に分離出来るかは保証し切れないぞ。細かい調整もしなきゃだろうし」

「問題ないよ。基本的な構造と理論が分かれば、後は艤研が上手い事やるだろう。彼らなら足がかりになる基盤さえあればどうにかしてくれる」

 艤研かぁ……と猫吊るしは遠い目で呟いた。なんだその反応、大丈夫なのかその人達、あれか、マッド系の集まりとかなのか。長門さんもあいつらか……って表情してるんだけど、宮里提督も若干表情が引き攣ってるんだけど。

「あの、ギケンというのは……」

「ん、そっか、吹雪は知らないか。艤研ってのはあれだ、艤装技術研究所の略だ。吹雪が知ってそうなのだと……新型発電機開発した連中」

「ああー、それなら知ってる」

 発電すらままならなかった本州にとりあえずの安寧を齎した、技術面での英雄達である。そういえば訓練所で艤装の技術を応用したとか聞いた覚えがあるし、艤装の知識を持って来た猫吊るしとは縁が深いのだろう。マッドっぽいけど、きっと優秀な人たちなんだろうなぁ、マッドっぽいけど。

 ところでそこ、もしかしなくても島さんのご両親が所属してる所では……?

 

 

 

 

 

 島さんの親御さんがマッドサイエンティストな可能性を感じた翌日、淡路島の向こう側へ進出するため作戦会議を終え、艤装を取りに工廠内の艤装置き場までやってくると、猫吊るしが吹雪の艤装の上で待ち構えていた。

「ご注文の品をお届けに参りました!」

「えっ、早くない?」

 昨日の今日だよ? そんな簡単に出来るのそれ。なんて思ったけど、よく見たら猫吊るしはかなり眠たげで、どうやら一睡もせずに仕事をしてくれたらしかった。私にモノの入った小箱を受け渡すと、じゃあ俺は寝るから、と言って大和の艤装の中へと消えて行った。お前そこに住んでたんかい。

 今日は猫吊るしは同行しない、というか、大きな任務以外では基本的に鎮守府の仕事を優先するつもりらしい。まぁ、普段通りの迎撃や襲撃に猫吊るしが必要かと言われると微妙な所だし仕方ないね。走っても大丈夫なのは便利なんだけど、そもそもそんな事する必要がある場面はあんまり無いし。

 そんなわけなので普段通りに妖精さん達の詰まった艤装を背負い装着して、すぐ隣で連装砲ちゃん達の弾薬がちゃんとセットされているか確認している島風に声を掛ける。なあにーと若干間延びした、普段通りの声が帰って来た。

「島さん、これ持ってって……っていうか、身に付けといて」

「おうっ? なあにこれ」

 島風に小箱を押し付ける。受け取った島風は躊躇なく、素早く手早く開封すると、中身を見てもう一度オウッと鳴いた。

「なにこれ、艤装のパーツ?」

「いや指輪だよそれ……確かにシンプルだけどさ」

 言われてみればどっかに使われてるベアリングかなんかに見えなくもないけども。装飾が少なくて側面にちょっと溝があるかなーくらいだけども。

「……え、指輪? へー。くれるの?」

「うん。とりあえず、身に付けとけば効果あるらしいから持っておいて」

 効果? と島風が首を傾げたので、適性値が上がるかもしれないって話で支給されたと端的に説明しておく。一応、周りには聞こえない様に配慮しながら。島風はその話に驚いたようで、オオッと声を上げた。連装砲ちゃん達はキャッキャと喜んでいる。かわいい。

「うーん…………話は分かったけど、付けとくのはちょっとねー」

 流石に戦闘中は邪魔になるらしい。いやお前、連装砲ちゃん使う関係で両手空いてるじゃん……主砲外付けなんだから。

「ほら、落としても困るでしょ!」

 確かにそうなんだけど、サイズはちゃんと合ってるはずだからそうそう外れないと思うんだが。って言ってみたけど、何が気に入らないのか島風は難色を示し続け、最終的にとりあえず今日は持ってくだけ持ってく事に決まった。まぁ、仕様的に身に着けてさえいればいいらしく、指に嵌めなくっても効果は出ると聞いてるから問題は無いだろう。

「ネックレスにでもする?」

「私そういうの持ってないよ」

 じゃあ買うかーという話になって、帰って来たら一緒に選ぶ事になった。通販かネットオークションしか選択肢ないんだけども。

 なおその日、島風は終始ご機嫌だった。お前結局気に入ったのか気に入らなかったのかどっちなんだよ。

 

 

 




多聞丸から見た吹雪と艦娘のケッコンフラグ

初雪→同じ鎮守府に配属する
深雪→同じ艦隊に配属して轟沈を防がせる
叢雲→棒術、杖術、槍術のどれかを極める
曙→同室で居続けた上で曙の問題を解決する
初春→転生者である事を打ち明ける
秋雲→深海棲艦襲来前に伊吹を即売会へ行かせる
夕雲→四国奪還を十二月以降にする
天龍→同じ艦隊に配属して倍以上の戦果を挙げた上で天龍が一番最初に改二になる
大井→無理
長良→記録会の時点で知り合って交友を深める
秋津洲→二式大艇ちゃんガチ勢になる
龍驤→龍驤が改二になってから恋人がいない状態で三年経過
川内→川内が戦闘部隊に入る前に深雪を二度轟沈させる
暁→訓練所で暁が吹雪に勝利した上で暁の教練を十回以上手伝う
金剛→提提督とフラグを立てさせない
比叡→一緒に金剛の恋路を全力で応援する
霧島→霧島組に入る
榛名→榛名の恋路を全力で応援した上で、榛名がフられる
長門→無理
大和→無理

なお島風を同艦隊に配属しない事が前提である。

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