「よ、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
お互いに頭を下げ合う。ただの挨拶なのに微妙に緊張してしまう。相手の方はもっとしているみたいだったけども。
目の前の娘は中学生くらいで、私とおそらく同い年くらいに見える。なのでお互い敬語で話す必要は無い気がするのだけど、まぁ初対面だから仕方がないだろう。ガチガチになりながら硬い動作で顔を上げると、そのままその子は固まってしまった。そして私も固まってしまう。こっからどーすりゃええねん。
私と全く同じ髪の長さをして、おそらくは整っている、しかし派手さは見られない顔立ちの艦娘。私がこの間まで身に着けていたのと全く同じ制服を纏い、私が使っていたのと全く同じ艤装を背負っている。
特型駆逐艦一番艦の適性者、つまりは、私と同じく吹雪を扱う後輩。第二期の適性検査を通過してどこかの鎮守府に配属され、優秀だった故に今回の四国攻略戦に派遣されてきた有望株の一人。それが目の前の少女だ。
完全な同型の子って初めてだからどう接していいのか分からないんだけど誰か教えてくれない?
今、私達は淡路島の港に停泊中だ。ここから大きく三つの隊に分かれて四国への航路を確保して、内部の掃討なんかもやれるだけやる事になっている。生き残った四国の人達への支援や避難なんかは自衛隊の人達のお仕事になるから、出来るだけ討ち漏らさないように陸地の連中を排除したいところ。あんまり殺しには来ないらしいけど、見つかったら普通に撃たれちゃうからね。
この日、宮里艦隊は戦闘部隊全員で出撃すると、敵部隊との戦いで最終調整をするという若干どころでなく頭のおかしい事をしてから、一旦鎮守府に戻って宮里提督や明石さん達と合流し、その足で淡路島へと向かった。
作戦に必要な物資のうち私の艤装に積み込める物は積み込んで貰い輸送艦の仕事も行ったが、どうやら艤装に艤装は入らないらしく、宮里提督の大和は船で輸送する事になった。今回、宮里提督も大和を起動する事になるらしいのだ。と言っても司令部の警備を薄くしてしまうために掛けておく保険であり、戦うのは本当に最終手段らしいが。
鎮守府で試運転を行っていた宮里提督は大和がちゃんと起動した時、明らかに安堵の表情を浮かべていた。燃料の問題があるからとここ数か月まともに起動していなかったために、今もちゃんと適性値が基準値に届いているのか分からず、前と同じように動かせるのかどうか心配だったようだ。完全に妖精さんの住処と化してましたしねぇ。
一応大砲も撃ってテストしているのを荷物の積み込みの間見学させて貰ったが、命中率とかは……うん、まぁ、久しぶりらしいから仕方ないね。なんか記憶と実際の感覚にズレがあるって長門さんに相談してたのは聞こえた。戦う事にならないといいけど。
そんな訳で皆で雁首揃えて泊地に足を踏み入れたのだ。すると集まる視線&視線。どうやら他の鎮守府からの選抜メンバーはもうこの場に揃って待機していたらしい。そりゃ私達一戦してから来てるからそうなるわ。不躾な視線や遠慮がちな視線、いろんな態度の人が居たけれど、私や島風の姿を見てどこの誰が来たのか悟った人が多かったようだ。生放送のせいだろうけど覚えられてるなぁ、悪い事じゃないんだろうけども。
本当にあんな大勢で来るんだとか、全員代表レベルらしいよとか囁き合う声も聞こえて来る。他の鎮守府は能力の高い艦娘を選抜しているらしいので確かに宮里艦隊は色々おかしい。でも他の鎮守府から出張してきた子も少なくはないようなんだけどなぁ。
見える範囲に居るだけでも結構知ってる顔が居て、訓練所で一緒だった駆逐艦の面々も居るんだけれど、それ以前からの知り合いがやたらと多かった。その一人に向かって凄まじい勢いで大井さんが突っ込んで行く。言うまでも無く北上さんの所である。
北上さんに絡みに行ったというか絡み付きに行った大井さんの嬌声が響く中、逆にこちらに向かって駆けて来た人が居た。その人物はお姉さまが好きすぎて生きるのが楽しいタイプの人なのだが、今日はそのお姉さまに一礼だけして島風に吶喊、仰け反った島風の肩を揺すりながらひええと泣き声を漏らす。島風は揺すられながらオウッオウッとメトロノームみたいなリズミカルな声を上げた。一時期は同じ鎮守府で働いていたから心配していたんだろう、というのは分かるんだが落ち着いてくれ比叡さん。
比叡さんと島風が回想モードのようだったので、私は一言残して艤装を預けに技術畑の人達の下へ向かう事にした。話されてない内容に触れそうだったしね、勝手に聴くのは良くないだろう。
ミーティングの始まる時間までは自由なため、宮里艦隊の皆も方々に散り友人達と久方ぶりに親交を深めていて、曙の所に漣が突撃して来たり、夕雲さんの周りには少数ながら夕雲型が集っていたりしていた。夕雲型は半数以上が選抜されなかったらしい、訓練所でもモチベの低い子が多かったみたいだからしょうがないか。
夕雲さんは特殊な作戦にはメンバーとして選ばれなかった。そのせいでなのか、もう本当に心が落ち着かなくて仕方がなかったようで、選ばれた私達に旦那さんと娘さんの写真を見せて、もし見かけたらよろしくお願いしますと頭まで下げて回っていた。普通の四国行きのメンバーには入ってるんだけどねぇ。
閑話休題、加賀さんは赤城さんの所へ向かい、天龍さんは知り合い――っていうかたぶん妹さんに後ろから話しかけられてビックリしているのが見えた。文月は訓練所で出来た友人達の下へ駆け、その可愛らしい声で鼓舞して回り、秋津洲さんは別の秋津洲さんとお互いの二式大艇ちゃんを紹介し合っている。何やってんのあの人たち。
工廠……と言うには微妙な最低限の設備のそこへ向かう道すがら、私にはかなり多くの視線が注がれた。今回の作戦、当然ながら艦娘以外も相当数が参加して支援やらなんやらをしてくれているため、結構な人数がこの場で働いている訳なんだが……明らかに艦娘であろう人達からの熱視線が凄い。それ以外の人達もそれなりの頻度で知ってる顔だという表情をしているのだが、艤装を背負っている人達からの視線は痛い位だった。
そりゃあ生放送とか例の百メートル走とか例の強制配信とか色々あったから知名度は上がってるだろうって自覚はあるけど、じろじろ見るくらいなら話し掛けてきてもいいんだよ。対応には苦慮する自信があるけど。
なんて思っていたらすぐに工作艦の皆さんの所に着いてしまったので、艤装を降ろして中身の搬出やメンテナンス、それに装備の換装なんかをお願いする事にした。今回作戦のために普段使わない装備を他所から持って来てもらったので、今から着工して開始時間までに何とかしてもらわないといけないのだ。私の頭上からは猫吊るしもぴょんと飛び出し、手伝ってくるわーと言って輸送艦吹雪の中へと消えて行った。
あっ、注目されてた理由これかぁ!
重量も違和感も無いからって案の定猫吊るしの事を忘れていた私がちょっと忸怩たる想いを抱えていると、後ろの方からぱたぱたとこちらに走って来る音が聞こえて来た。足音の主は私に迫り、うわぁいと喜びの声を上げながら勢いをつけて飛び掛かってくる。
「ユキおねーちゃーん!!」
聞き覚えのかなりある声、友人の家に遊びに行ったら結構な確率で出くわすその子は最初の頃は警戒して近づいて来なかったのだけど、一度慣れると無駄に人懐っこく、こちらが頑丈なのを良い事にぴょいぴょい飛び付いてくるようになった。今みたいに。
受け止めてくれると確信しているのか、後先考えずに全身を宙に乗っけた全力の体当たりを仕掛けたその子の体を、仕方が無いので背で受け止めて背筋を使って跳ね上げる。打ち上げられて落ちて来た体をそのまま両手でキャッチして、頭上でくるくる回してから足からゆっくり地面に降ろしてやった。割と普段通りの対応である。その子は目を回しながらも楽しそうに笑っていた。周囲から微笑まし気な視線が集まる。その中には知り合いの物もあった。なんか恥ずかしい。
「お久しぶり、ですって」
「うん、久しぶりだねローザ。でも急に飛び掛かってくるのは止めようね」
現れたのは提提督の妹、提ローザである。スク水のようなものの上に丈のやたらと短いセーラー服のようなものを合わせた制服を着て、細い躰の日に焼けた肌にプラチナブロンドの髪がよく映えている。見慣れた弾ける笑顔だが、こうして見るとあからさまにろーちゃんなのだ。なんで気付かねぇかな私。
はーいと素直な返事をしてくれたが、毎度返事はいいだけなのでたぶんまたボディプレスしてくるだろうという確信がある。まぁでも、元気そうなのでそこは安心した。まさか艦娘やってるとは思っていなかったので結構心配していたのだ。何しろ私はこの子の連絡先を知らなかったし、提提督すら潜水艦をやってると把握していなかったのだから。
「ユキおねえちゃんの活躍、ろーちゃんいっぱい見ましたって! はい! ろーちゃんも、負けないように頑張ってます!」
ふんすふんすと気合入ってますって感じに意気込んで見せるローザ、改めろーちゃん。一人称変わってるじゃん……影響強くない? 改二になれたりしないだろうな……っていうか、ろーちゃんって改二どうなるんだろう、原作じゃそもそもろーちゃん形態が改二の位置付けだったと思うんだけど。
ローザは招集されてからこれまで、艦娘の中にそこそこ居るはずの知り合いと全く関われずに配属先で頑張っていたらしい。送られた先の鎮守府はあまりやる気は無いけど実力はそこそこある様な子が多かったようで、出撃頻度の割にはのんびりしていたと言う。そんな中でやる気も具えたローザは成績ではぶっちぎりでトップだったそうで、当然のように今回の作戦にも推挙され参加が決まったらしい。そういえばろーちゃんが姫級爆殺してるとか聞いた覚えがあるわ。
今回知り合いとみんなで同じ作戦に参加出来るのが嬉しいらしく、かなりはしゃいだ様子で普段以上に笑顔が爛漫と輝いていた。別に同じ鎮守府の仲間と仲が悪かったという訳ではないらしいけど、元々の知り合いは別腹なのだろう。でもそれならちゃんと艦娘になりますって言っといて欲しかったなぁ……
「ところでユキおねえちゃんはいつお嫁さんに来ますかって」
「行かないからね?」
突然だが、ローザは割とヤベー奴である。何がヤバいかというと、この娘、積極的に兄のハーレムを成立させようとしてくるのだ。いや策略かましてくるとかじゃなくてストレートに言ってくるだけだから可愛い物なんだけど、この特性が金剛さんとめっちゃ噛み合ってしまう。あの人はハーレム容認派というか、男女問わず好きな人は好きみたいな感じなのでみんなで幸せになろうぜとか平気で言い出す人である。それとローザを組み合わせると無邪気さと陽の者のオーラが合わさって収拾が付かなくなるのだ。本人は遊んでくれるお姉ちゃんが増えると嬉しい程度の感覚で言ってるみたいなんだけどね。
金剛さん筆頭にあのグループはみんな気に入られているようで、全員三度は言われているらしいと聞く。みんな大好きだからって兄を通して姉妹になりたがってるだけなんだとは思うんだが、迅鯨さんとか大淀さんとかが参戦した今の状況でこの子の言動は色々不味い気がするなぁ。なお島さんは一度も言われていないらしい。理由は分からんが。
ローザは私の返答に残念そうな表情を見せると、今度は逆に私の近況について質問して来た。普通にやってただけだから張り切りガールに言ってあげられる事とか無いんだけど、とりあえず私の事よりもっと優先するべき事があると思うの。
「ローザ、提督には会って来たの?」
「おにいちゃんは迷子なので、ろーちゃんもいっぱい探してます!」
提艦隊はかなり優秀な鎮守府で、うちみたいに全員参加までは行かないものの、今回かなりの大所帯で来る事になっている。そのため提提督も同行予定だと金剛さんが喜びの声を上げていた。時間的に既に淡路島に到着してるんじゃないかと思うのだけど、どうやらろーちゃんはまだ会えていないらしかった。一回きちんと家族会議するべきだと思うんだけど。
「迷子は提提督じゃなくてお前の方でち」
話す私達に向かって工廠の入口の方からツッコミが入る。誰ぞと思いそちらを見ると、桃色の髪をしてろーちゃんと似た――少しセーラー服部分の袖や裾は長い――格好の成人と見られる女性がそこに立っていた。
「でっち!」
知り合いらしく、弾んだ声を上げるとローザは笑顔で体当たりを仕掛けに行った。かなり懐いてる御様子。でっちと呼ばれた伊58らしき人はそれを軽く受け止めると、目線をローザに合わせてから厳しい顔で軽めに釘を刺した。
「知らない人も居るのにでっちは止めよう? ね?」
「ユキおねえちゃん、紹介します! 一緒に鎮守府でお仕事してるでっちですって!」
言われた側はどこ吹く風である。呼ばれた側は頭が痛そうだったけど、ローザに紹介を任せていると先入観まみれで酷い事になりそうだと判断したのか、諦めて自己紹介を始めた。
「潜水艦の伊58でち。ろー……呂500とは同室の縁です。出来ればでっちじゃなくて、せめてゴーヤって呼んで欲しいでち。と言っても、私は戦闘部隊ではないのであまり顔を合わせる事はないかもしれないけど」
見事に語尾にでちが付いている。戦闘部隊でないという事は招集された艦娘ではなく自衛隊員なのだろうから、長く艤装を使った結果だろう。多摩さんと同じタイプですな。
こっちは吹雪をやってるユキお姉ちゃんですっ、とローザが私の紹介をしたが、ゴーヤさんは私の顔は知っている様子だった。やっぱり初対面の人に顔を知られてるのって気恥ずかしさがあるな。
「でっちは一緒に出撃はしませんけど、ろーちゃんのおししょー様ですって! いっぱい教えてもらってます!」
「それならでっち呼びは止めて差し上げなよ……」
心底慕っている感じであるのに呼び方は指定させてくれないらしい。変なとこ頑固だなこの子は。
「というか、なんで吹雪はお姉ちゃんなのにゴーヤはでっちなんでち……?」
解せぬというその呟きに、ローザは心底分からないという顔をした。
「でっちはでっちだよ……?」
ローザの中ではでっちはお姉ちゃんではなくでっちらしい。どういう事だかはさっぱり分からん。
「もう今更だし、良くはないけど今はそれは置いとく事にするでち。それより、提提督なら港の方に居たよ。大人気みたいだったでち」
「ああ、そうだよローザ。ちゃんと提督に会って無事だって知らせて来な。心配してたよあいつ」
提提督には私からローザの事を伝えたのだけれど、提督的には寝耳に水だったらしく大層驚いていた。間違いじゃないのか各所に確認も取って、その後、ローザ本人に問い質して何故か秘密にしていたと判明したらしいが、電話やメールだけのやりとりじゃなくてちゃんと対面で話し合った方が良いと思うのだ。
「そもそもなんで皆に黙ってたの?」
いや、この子が慣れた相手に滅茶苦茶懐くだけで私とは深い仲でもないから私が知らないのはおかしくないんだけど、提督が知らなかったのは不味いだろう。血は繋がってないらしいけど兄妹なのに。
「うー…………それは、ねー?」
ローザは物凄く言い淀んだ。まごまごして目線を逸らし、くねくね体を振って人差し指と人差し指を合わせてもじもじとしている。可愛いんだが、そんなに言い辛い事なんだろうか。ゴーヤさんはある程度事情に通じているのか、ため息を吐いて本人が白状するのを待っている。別に、私は、怒ったりしないので気楽にゲロってくれて大丈夫なのだけど。私は。
小動物みたいな動きのローザを暫く見つめていると、不意に工廠の入り口側に影が差し、聞き覚えのある誰かの声が木霊した。
「それは私から説明しよーう!」
電話口では生放送の後に何度か聞いたけど、生の声は一年ぶりくらいか、最後に会ったのが深海棲艦がやって来た後の生存確認だったっけな。その人は何故か、右足を曲げ左足を立てて腰を落とした由緒正しき雷巡のポーズでこっちを見ていた。
「げ、北斗おばさん」
「ハハッ、流石にその反応は失礼だと流石の北上様も思うんだよねー」
さっきもスルーされたし、と呟きながら普通に立ち上がり、私の血縁の無い叔母は歩み寄って来た。いやしょうがないじゃないですか、大井さんがねんがんのきたかみさんに突撃して行ったの邪魔したら悪いと思ったんだよ。
何故かこちらではなくローザの側に立つ、私にとっては付き合いの薄い親戚であるこの人こそは、一斉生放送である種の伝説を作り上げた全艦娘中最高峰の魚雷使い、球磨型三番艦の北上さんである。
「あとおばさんは普通に傷つくぞー。我女子高生ぞー」
エロゲやったり生配信で炎上(物理)する人を女子高生扱いは無理でしょ。本人がアップした配信のアーカイブでもちょくちょく炎上案件あったし、なんで許されてるんだろうこの人。いやネット上じゃ未だに叩かれ続けてるけど、割と擁護も湧くんだよね。ちなみに北上擁護派はひっくるめて大井と呼ばれている。
「北斗おねえちゃん……!」
ローザは心強そうに味方の登場に鼓舞されていた。まごついた態度から一変、告白する勇気が出たご様子である。でもごめん、それより気になる事があるんだけど。
「北上さんとローザって知り合いなの?」
「いとこですって!」
「血は繋がってないけどねー」
ちょっと待って欲しい。初めて聞いたぞそれ。どういうことだキバヤシ、世間が狭すぎるぞ。
詳しく聞けば、まず北上さんは私の祖父の再婚相手の連れ子なのだが、その北上さんの実父が亡くなった提くんの実母の兄であるらしいのだ。そしてローザは今の提家の奥さんの連れ子であるため、北上さんは提くんとは血が繋がっているがローザとは繋がっていないという事になるんだそうな。そんなわけで、兄の従姉なんだから自分の従姉でもあるだろうとそういう話らしい。
「え、じゃあ私とローザって親戚関係なの?」
ついでに提督も。北上さんの時点で血縁じゃないし滅茶苦茶薄い縁ではあるけども。
「そうなの?」
「そうだよー」
ローザも知らなかったらしい。北上さんに確認を取ると、花が咲いたような笑顔になった。
「ユキおねえちゃんがもうおねえちゃんでしたっ!」
「いや私の母の義姉妹の義従妹だからお姉ちゃん要素は無いのでは……」
関係性はよく分からんが世代に直したらローザの方が一個上になるんじゃないだろうか。年下だけど。
この色々家庭の事情を孕んでいそうな話に巻き込まれた無関係なゴーヤさんは眉を寄せ、手で抑えた口の中で適性値がどうとか親戚関係がどうとか呟いていたけど、関係あるのかなぁこれ。確かに私達三人とも青葉さんの挙げた目立って強い艦娘に入れられてたけれども。
「まぁその辺りは各々保護者に後で確認する事にしてですね、話の続きをしましょうか」
結局なんでローザは秘密にしちゃったんですかね。ベネディクタさん――ローザと提督のお母さんは知ってたんだろうか。理由を話すよう促すと、ローザと北上さんは顔を見合わせ頷き合うと、それで通じ合ったのかこっちに向き直って口を開いた。
「あたしが誘って」
「ろーちゃんもうっかり乗っちゃいましたって……」
うっかりじゃ仕方ないな。
いや仕方なくねぇよ。北上さんが係わって来た時点でなんとなく察してたけど、悪質なドッキリ計画して失敗してただけかよ!
北上さんは私に自分が艦娘になった事を言わなかった。訓練所で会えるだろうから驚かしてやろうという考えで内緒にしていたらしいのだが、どうやらこの迷惑系配信者、一人じゃなくてローザも巻き込んで計画を実行していたらしいのだ。
聞けば対象は私と提督の二人、仕掛け人も北上さんとローザの二人。そういうサプライズだったらしいのだが、見事に企画倒れに終わった。いや確かにあそこまで他の艦種と係わり合いが薄くなるとは私も思ってなかったけど、成功すれば数週間程度の話だったのだろうけど、家族相手にやるのは不味いだろう常識的に考えて。私と北上さんでもギリギリだぞ。
「北上さん、ベネディクタさんに殴られる覚悟の準備をしておいた方が良いと思います」
「やっぱりそう思う?」
「おかーさんには北斗おねえちゃんの事、内緒にしておいて欲しいなってろーちゃん思います……駄目……?」
お父さんは温厚な人だから手は出ないと思うんだけどね。ベネディクタさんはな……苛烈ではないんだけど、締める所は締める人だから。北上さんもヤベーと思っていたらしい。ローザは自分はともかく北上さんは叱られない方向で終わらせたいらしいけど、二人揃って素直に謝った方が良いと思います。
「手遅れよローザ」
突然、工廠の奥の方から声がした。
聞き覚えのある声に、三人でぎくりとして振り返ると、そこには灰色の軍帽を被り、呆れ返ったような目でこちらを見つめる美人さんが立っていた。
腋や肩を首元近くまで露出した大胆な制服で、太ももも一部露わになっている。十代にも間違われるその若々しい外見からは想像も出来ないだろうが、二人の子供を持つ人妻で、金剛さんがその息子に積極的なアプローチをするのを咎めないくらいの度量も持っている。そしてこの場の誰一人、こんな所に居るとは想像もしていなかった人物である。
「おかーさん……!?」
ローザは驚きのあまり北上さんや私とその人を交互に見つめ、北上さんも流石に狼狽していた。私はと言えば、提家の父は大丈夫だろうかと若干心配になっていた。一人残されるの辛くね?
そんな我々をじっとりと見つめながら、現れた女性、提ベネディクタさんは淡々と距離を詰める。一歩踏み出すたびにローザは追いつめられた表情に変わって行った。
「私はねローザ、貴女が自分からトクマサに話したいというから任せたのよ。なのにそんな事を考えていただなんて……育て方を間違えたかしら」
トクマサというのは提督の本名である。提 督正なのであだ名は提督。今もローザの事を案じてるんじゃないだろうか、基本善い奴だし。
ローザは涙目になりつつ、助けを求めるようにゴーヤさんの方を見ると、でっちぃと呻いた。かなり懐いているようだから、ついつい頼ってしまうのだろう。まだ子供だし、本来の保護者に怒られそうになってるからしょうがない。
だがそれが逆にローザの母の逆鱗に触れた!
「お世話になっている人を丁稚呼ばわりだなんて、ローザ、あなた随分と偉くなったのね」
怒髪天を衝くとでも言えばいいのか、表情はむしろ柔らかめなのだが、完全にお怒り遊ばされているオーラが噴出して見える。ローザは恐怖でぴぃと鳴き、北上さんもこれはアカンと全部私の責任ですと言って九十度に腰を曲げた。
「一応擁護しておくと、北上はろー……呂500のためにやったんだと思うでち」
「それはまぁ、なんとなく分かります。悪い人ではないと思いますし。きっと、たぶん、おそらく、めいびー」
今、工廠の片隅にある小部屋で北上さんとローザが正座で説教を受けている。家族内での話であるため私とゴーヤさんは自主的に工廠の外へと出て少しだけ話をした。
ゴーヤさん曰く、本来は案外ナイーブなローザの緊張や不安をお遊びで誤魔化すって計画だったんだろうとの事である。実は目的も達してるから大失敗でもない……いや別の不安を生んだからただ失敗するより悪かったかもしれんけど。
ゴーヤさんとローザは訓練所からの付き合いであるらしく、妙に懐かれてしまってからはほぼ潜水艦のエースの付き人扱いされているのだそうだ。ローザからしたら鎮守府でもサポートしてもらえてかなり心強かったんじゃないだろうか。心細そうにしてる時もあったらしいし。
「私は終わるのを待つけど、吹雪はどうするでち?」
「あー……提督、提くんが港の方に居たならそっちに知らせてきます。あいつも心配してたので」
たぶん金剛さん辺りに見つかって動けなくなってるんじゃないだろうか。ローザの事を探してはいると思うけど、他の人達をスルー出来る性格でもないし。
では失礼しますと言って、ゴーヤさんと北上さんを出待ちしてる大井さんに一礼して私は工廠を後にした。
港の方まで戻ってみると、成程確かに提督は居た。何やら宮里提督と同じ格好をした見知らぬ女性と歓談していたようで、周囲に金剛さんや大淀さん、それ以外にも服装はともかく顔は知らない艦娘が何人か居て、それを後方から迅鯨さんがじっと見つめている。
邪魔しちゃ悪いし金剛さんに伝言だけ頼もうかと近づいて行ったら、向こうの方が気付いて私に向かって手を振って来た。仕方がないのでそっちと話す事にしたが、迅鯨さんの眼が怖い。
「おっす提督。お前のハーレム拡大してない?」
「第一声でなに阿呆な事言ってるんだお前は。皆仕事仲間だよ、失礼だろ……」
いや失礼なのお前の対応だと思う。
提督に紹介されたが、話をしていた女性はローザの所属する鎮守府の提督さんだったらしい。やっぱりローザの事を探していたようで、所在を尋ねていたようだ。提督さん目線では行方不明になってたみたいだけど。
「ローザなら今、工廠の方でベネディクタさんに説教喰らってるよ」
用件でもあったのでさらりと伝えてみたら、提督は言われた事が一瞬分からなかったのか、ちょっと考えてる顔になった。ちょっとした沈黙。飲み込んで、噛み砕き、理解するまで三秒ほど掛かった。
「なんでだよ!?」
知らんがな。説明される前に説教モード入ったから私も事情は知らないのだ。いや、たぶんビスマルクの恰好だったと思うから、赤坂先生が言ってた一緒に働いてたビスマルクさんがベネディクタさんだったんだろうけど……これ、親子揃って提督に何にも言ってないのでは。何やってんだあの人たち。いやベネディクタさんの方はしなかったんじゃなくて、機密云々で出来なかっただけかもしれんが。
提督は工廠の方へ走って行ったので流れで解散になった。金剛さんとかは付いて行ったけど。
女性提督さんも自身の担当する艦娘に連れられて行ったので、ハーレムメンバーと思しき面々に挨拶だけして私も移動する事にした。と言っても行く当てがないので知り合いを適当に探すだけなのだけど。
道中榛名さんと霧島さんがやっぱりローザを探していたので工廠の方へ誘導したり、山城さんが扶桑さんとお話していたので挨拶だけして通り過ぎたりしていたら、あまり人気のない船着き場まで来てしまった。
一応海に敵とか居ないだろうなまぁ居ないかとぼんやりしながら海の方を眺めていたら、遠くの水上に人影が見え、それに目線を持って行かれた。色合い的に深海棲艦ではなく艦娘だろうと思われるが、一応警戒して接岸するまで見つめていたら、陸へ上がって来たその娘とバッチリ目が合ってしまった。よく見ると、何故か手に芋を持っている。
私の顔を見たその子はあ、と短く声を上げるとなにやら慌て始め、ふかしてあるように見える芋を艤装に仕舞い、最終的に何故か敬礼の形を取ると滅茶苦茶硬い声で自己紹介を始めた。
「司波艦隊所属、駆逐艦の吹雪です! 第二期から艦娘として配属されました!」
「あ、宮里艦隊の吹雪です」
そして冒頭へ戻る。
なんでこの子こんなに緊張してるんだろうと考えつつ見つめ合う。長い沈黙。誰か助けてくれと私が思い始めた頃、相手も耐えかねたのか急に先手を取って来た。
「あの! お、お芋食べますか!?」
「あっ、戴きます」
おそらくお互い混乱していたせいだと思うのだが、どうしてそんな流れになったのかは思い返してもまるで分らない。
「美味しい」
ポロリと素直な感想がこぼれて出た。実際美味しいんだこのお芋、ただふかしただけのサツマイモなのに自然な甘みが体に満ちて幸せな気分になる。砂糖なんていらんかったんや、いや甘露煮とかも好きだけど。吹雪は私の言葉に喜んでくれて、お茶まで入れてもらってしまった。お芋共々艤装の中に入っていたらしい。
「その芋、うちの実家で作った物なんです。訓練所に持って入ったんですけど、食べきれなくて今日まで残っちゃいまして……」
訓練所は三食しっかり食事が出る。量もそこそこあり回復のためにしっかり食べさせられるので、余計な物を収められるほど胃にスペースが無かったらしい。
「今回の作戦、初めての大きい作戦で緊張するといけないから、よく食べてたものを持ってきたんです。少しはリラックス出来るかなって」
さっき海の上に居たのも落ち着くからなんだそうだ。ちゃんと許可を貰って、精神統一のために海風を浴びて来たらしい。たぶんうちの鎮守府の連中が大物過ぎるだけで、この吹雪さんくらいメンタルにブレがあってそれをどうにか平常に持って行こうとするのが普通なんだろうなぁ。夕雲さんは別の張りつめ方しちゃってるけど、隼鷹さんなんかは昨晩も普通に飲んでたし。
「貰っちゃって大丈夫だったの?」
聞く限り、結構大事で貴重なものだ。味の良さからしてそこらの庭先で作ったような代物でなく、プロがしっかりと管理した高級品だろう。今の時代だと味の良さと値段は三乗で比例するからなぁ。心配になったのだけれど、それは大丈夫らしい。
「まだ結構ありますから!」
そう言って取り出されたのはアルミホイルに包まれた芋&芋。ごろごろ出て来るそれはむしろ一人では食べきれなさそうな量がある。もう用意してる時点で緊張MAXで正常な判断出来てなかったのでは……?
吹雪は私の顔を知っていたらしい。生放送は普通に見ていて、動画もちょっとだけ触れてみて、同学年なのに凄い人も居るものだと活躍を眺め、検査を受けに行った時も自分には関係のない遠い存在だと思っていた。なので吹雪の適性者と知らされた時は驚いて声も出せなかったし、両親はぶっ倒れたらしい。
訓練所では吹雪であるというだけで期待……というか好奇心混じりの目で見られ、同室の子すらそんな感じだったので余り打ち解けられなかったという。教官達には先達の戦績なんかは気にしないようにと言われていたらしいけどあまり効果は見られず、そもそも吹雪さん自身多大に意識してしまっていたため他の子たちに文句も言い辛かったようだ。なんか申し訳ない。
そんな吹雪の実際の実力がどれくらいだったかというと、概ね訓練所で二番手三番手くらいだったらしい。一期生だと私を除いて一番が夕立、二番が島風、三番が漣くらいだったのであいつらと同格と考えたらかなり優秀なのではないだろうか。ちなみに二期生で一番成績が良かったのは文月だったそうな。あの子実力もあったのか……一緒に戦ってないから知らなかった。
というか、これで弱かったら吹雪は針のムシロだったのでは。むしろ吹雪もかなり優秀だから三期以降の吹雪の適性者のハードルが高すぎる気がせんでもない。
そんな立場だったので、当然ながら今回の作戦にも確定参加だったらしい。配属先でちゃんと戦えてたというので心配もないだろう。一応戦いのコツとかのアドバイスも求められたのだけれど、私から言える事は特になかった。そもそも訓練所で上位の成績ならチート抜きの素の実力はたぶん私より上だよ……
そのまま招集時間が来るまで吹雪とゆっくり話をしてしまった。ちょっとは緊張が解れてるといいんだけど。
今着ている黒い制服の事なんかも聞かれたのだが、いずれ分かるさいずれなと誤魔化すしかなかった。発表予定がこの作戦終わってからなんだよね、私に先行実装されちゃったからテストケース扱いで実戦投入されました的なサムシングになるらしい。夕立なんかは発表即改装まで行けそうだけど実際どうなんだろう、眼の色とかおかしくなってたしもう取り込んでるまでありそうなのが怖い。
集合体の中で吹雪さんに会えたのかも聞いてみたけれど、やっぱり冊子が置いてあるだけだったという。中の吹雪さんも行方不明だと言ってたしそりゃあそうか。ちなみに何も問題無く動かせているらしい。有用だなあの冊子。
ところでこの吹雪、顔とかはそうでもないんだけど、雰囲気が集合無意識の行方不明の吹雪さんとちょっと似ている。適性者ってそういうもんなのかな、まだ強い影響を受けるほど艤装は使ってないと思うんだけど。っていうか、もしや今は影響されるとしたら深海吹雪似さんの方になるのか……?
ちなみにこの子、お名前は雪村 伊吹さんというらしい。私の苗字と自分の名前が一緒という事で話題に上がった。入ってるなぁ、吹雪。被ってるケースは初めてなんだけどそういう場合もあるのね。
そろそろ集合場所に向かおうなんて話になり、二人で海岸を発つと、赤いスカートを穿いた誰かが脇の縁石に座り込んで居た。女性なので艦娘だろうと思われるのだが、なんだか調子がよくなさそうに見える。大丈夫かと心配になり吹雪が声を掛けると、その人はゆっくりと顔を上げ、虚ろな表情で吹雪を見ると、何かに気付いたように鼻で大きく息を吸った。
「芋焼酎の匂い~」
ちげぇよただのふかし芋だよ。突然過ぎて吹雪もえって顔してるじゃん。アル中か何かですかね、うちの隼鷹さんより酷そうなんですが。
というか、この人あれか、格好的に赤坂先生の言ってたポーラの人か……確かに日本人離れした顔をしているし、海外艦を動かせそうな雰囲気を感じる。アルコールの臭いはしないから禁酒かなんかさせられたのだろうか。ポーラにそれは拷問のような気もするが、現実的に作戦前に飲まれたら困るもんなぁ。
吹雪がこれの事ですかとお芋を見せたらこれはこれでと言って喜んで食べたのでお腹が空いていただけかもしれない。さては晩酌で済ませちゃうからってちゃんとご飯食べないタイプだな?
やっぱりポーラだったポーラさんも連れて集合場所まで行き、それほど長くない楠木提督の演説を終え、作戦の参加者に関する重大な発表へ移った。まぁ、内容は適性値の上がった自衛隊員達の戦闘部隊への投入の件なので私達は知っていたし、噂を積極的に流させたらしいのでそれ程の衝撃は無かったように見える。多少のざわつきはあったけどね。
うちの艦隊から三名、提艦隊から八名、それ以外からも一名だけ戦闘部隊基準に到達した自衛隊員が現れたとの事で、招集人数を考えたらそこそこ大きな戦力増強になっていると言って良いと思う。第一期第二期合わせて300人行かなかったらしいからなぁ。っつーかあれ、面子に大淀さんも入ってるじゃん、あの人作戦担当な上に戦闘部隊にまで入ったのか、頼もしいね。
全体集合を終え一旦解散となり、総員戦闘準備を済ませて部隊ごとの集合場所に向かう事となった。私が参加するのは第一から第三まである部隊の中の第三部隊である。なんか一番最後の部隊になる事が多いのは気のせいだろうか。
工廠で吹雪改二を受け取り、猫吊るしを頭に装着して新しい装備の使い方を習いつつ出発地点まで向かう。道中吹雪が居たので手を振ったら笑顔で振り返してくれたが、頭上の猫吊るしを見てやっぱり疑問符を浮かべていた。
目的地に到着すると既に殆どの艦娘が揃っていた。工廠で改造してもらってたから仕方ないんだが、私は何故かこういう時にゆっくりした登場になる事が多いんだよなぁ、配属初日とかもそうだった気がする。
ざっと見渡した感じでは宮里艦隊の面子が多く、他艦隊の人達はそれ程人数が居ない。というか、他の部隊に比べるとそもそも人数が少ない。大火力な戦艦や重巡洋艦は一人もおらず、空母も正規空母は居ない。そういう人たちは正面を征く第一部隊に行っているのだ。
私が合流すると、島風がおっそーいと飛んできて、私の周りをぐるぐる回った。今回連装砲ちゃんを連れてきていないので寂しかったのかもしれない。長良さんが相手をしてくれていたようで、なんだか少しお疲れに見えた。
水際では叢雲が槍のようなものの最終調整を行っていて、深雪がそれにちょっかいをかけているのが見える。すっと忍び寄り背中を押そうとして眼前に槍の先端を突き付けられていた。龍驤さんはそれを横目に多摩さんと自衛隊員の球磨さんと何か話をしていて、文月は他艦隊の桃とお互いを鼓舞し合っている。
そんな中、私に向かって久しぶりーと話し掛けて来たのが筑波さん――もとい那珂さんだ。どうやら那珂さんはかなり優秀だったらしく、突然現れてエース級の活躍をし出したダークホースとしてPCの艦娘コミュで有名になっていたりする。適性値二千台はやっぱり凄い数値だったのだろう。
こちらからもお久しぶりですと挨拶を返し、暫く雑談していると、会話が切れたタイミングで天龍さんもこちらにやって来て、後ろに控えていた女性を紹介してくれた。
天龍さんとよく似た顔立ちで、泣きぼくろが整った容姿に映える美女。頭上には謎の飛行ユニットを浮かべ、艤装には薙刀のような武器が具えられている。天龍さんと同じくスタイルもかなり良く、湛えた笑みも相まって全体に怪しい色気を放っていた。龍田の適性者で、名前を龍田川 楓さんというそうだ。
どちらかと言えばおっとりしてそうな雰囲気があるが、何故かチート能力さんはかなり強そうだという判断を下している。もしかしたら天龍さんと同じで近接タイプの人だったりするのかもしれない。
そうして皆で時間が来るのを待っていると、後ろから遅くなりましたと慌てた声を出しながら、さっき別れた吹雪が駆けこんできた。その場の全員の注意を惹いてしまい、居心地悪そうに愛想笑いを浮かべている。他所の集合場所に居なかったかと質問したら、芋を知り合いに配布していたと答えてくれた。やっぱ多かったのか……
吹雪が増えたと戦慄する島風に何故か並ばされ、似てるような似てないようなと見比べられていると、今回の旗艦となる軽巡洋艦が全員に集合を呼びかけて来た。そろそろ日も陰ろうかという時間、夕日を浴びたその人はきらきらした眩しい笑顔を見せていた。出発した時からなんかキラ付いていたのだが、どうやらテンションは落ちなかったらしい。むしろさらに上がってる気がしなくもない。
「全員集まってるね! 私が今回この部隊の隊長を努める、軽巡の川内です!」
選出としてはまぁ、妥当なんだと思う。宮里艦隊の戦闘部隊で自衛隊員でもあり、淡路島の時もやってたし。でも今回の場合、ちょっとだけ不安点がある。
「出発前に今回の作戦をちょっとおさらいしておくよ! まず、今回の作戦で行われるのは……」
川内さんは溜めた。言いたくて言いたくて仕方がなかったのだろう。分かるけど、川内さんだし仕方ないんだろうけど、ちょっとアガり過ぎてて心配になってしまう。
「夜戦だあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
両手を突き上げ、イヤッホォォォウと心底嬉しそうに叫ぶ川内さん。流石に龍驤さんが落ち着けと宥めに行った。
でも今回の作戦、これは夜戦と言って良いのだろうか。いや間違いなく夜間に及ぶ作戦ではあるのだけど、第一部隊と第二部隊はともかく、この第三部隊に関しては夜戦なのかと言われると微妙な気がする。まぁどの道もうやるしかないし、川内さんのやる気は出るようなので余計な事は言わないけど。
川内さんは龍田さんにあら~と笑われていたけれど、吹雪には元気な人ですねと好印象を与えたようだった。なお同型艦の那珂さんにはあれが一番艦かぁと微妙な表情をされている。普通の時は頼もしい人なんですよ? ほんとだよ?
吹雪は確認してませんが、裏で提督がパーフェクトコミュニケーションしたため北上とろーちゃんは許されました。