転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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艤装に火をいれて

「それでは艤装の起動――抜錨を行う」

 妖精さん発言で一部の訓練生から大丈夫かこの組織なんて空気が流れる中、教官は話を先へと進めた。

「おっと……その前に、髪にゴムやピンを付けている者は外しておいてくれ。場合によっては危ない可能性がある。……いや眼鏡はそのままで大丈夫だ」

 そう言うと教官は体育館奥の舞台へ上がり、舞台袖から自身の艤装を取り出すと素早く装着した。武装もしっかりと付いたそれは大小さまざまな修復痕が付いており、真新しい感じのする訓練生たちの艤装よりも厳めしい印象を受ける。

「それでは駆逐艦響、抜錨する――」

 教官が宣言した瞬間背負った艤装から低い音が鳴り響き、排気筒から蒸気が吹き上がる。訓練生の間からも感嘆の声が上がる。背負う砲塔が動き出し特に狙いを定めずに上下に稼働を繰り返す。

「ちなみに今回は分かりやすくするためにやったが、わざわざ抜錨を口に出す必要はない」

 動かしたときにどうなるかイメージ出来たか? と聞きながら、教官は内燃機関を止めた。

「艤装に入った燃料を燃やし、エンジンを動かす。今やったのはそれだけなんだが……今のを見てやり方を理解できた者は居るか?」

 訓練生は皆押し黙った。教官はどこかのスイッチを押したりしたわけでもなく、抜錨と言った瞬間に艤装は動き出していた。口に出すことが合図になっている訳ではないと言われれば、何をもって起動したのかは私にもさっぱり分からなかった。教官は訓練生たちを見渡す。その視線は足立さん、島さん、そして私に一度ずつ止まった。ほんの一瞬の事だが、私のチート感覚は誤魔化せない。

「まぁ、そうだろうな……」

 もしやと思ったが、という小さな呟きを私の聴力は逃さない。何かあるのか私達……? 島さんも足立さんも妖精さんは見えていなかったようだから、提督適性があるわけじゃないと思うんだけど。

「それでわかるわけないじゃない」

 体育館側面の出入口から呆れたような口調で、長い黒髪の女性が口を挟んだ。説明が難しいのは分かるけど、と言って被った帽子を取りながら女性は舞台へ上がる。

「第三訓練所教官長の暁よ。私と響、それと第一練習場で待機してる雷、電の四人が貴方たちの教導を行います!」

 響教官と同じ制服を着た暁教官長は、やはりと言うべきか少女とは言えない容姿をしていた。自衛隊員なのだろうから当然なのだが、こう……なんだ、レイヤーさんがコスプレしてるみたいに見えてしまう。

 ちなみにこの暁教官長、残念ながらあまりレディという雰囲気ではなかった。

 

「艤装の起動に必要なのはそれが出来て当然という感覚を得る事です。みんな、腕を動かすのにどうやって動かしているかなんて一々考えないでしょう? それと同じで艤装を動かすのも全部頭でどうこうしようって考えるんじゃなくて感覚で行うもの、なのです!」

 響教官から場を受け次いだ暁教官長が始めた説明に、私はちょっと納得した。送られてきたマニュアルがゆるふわだった原因がこれなのだろう。手を動かす方法を文章化しろ、と言われれば私だって困る。

「さてその動かす感覚を得る方法ですが……艤装が教えてくれます」

 ん? は? え? と訓練生たちが困惑する。妖精さんじゃなくて艤装が教えてくれるの? 妖精さんを横目で伺うが、彼女たちは特におかしな反応はしていない。合ってるって事か……?

「まぁ……艤装さんはお話をされるのですね」

「ちょっと違うけどそういう認識でいいわ。直接声を出すわけではないけど」

 桜色の和装をした――おそらく春風だろう訓練生の呟きを、教官は肯定した。訓練生たちが動揺する。AIでも搭載してるんだろうか。

「艤装と精神で対話して、操作方法を学ぶ。それがあなた達の最初のカリキュラムになります!」

 思ってたよりオカルティックだなこの訓練所!?

 

 

 

 背中の艤装に集中し、対話を試みる。響教官曰く、艤装を全形の船に見立てそれに乗り込むイメージでの成功例が多いとの事である。

 私は神経を艤装に集中させる。

 中で妖精さんの動く音が聞こえる。これじゃない。

 集中、集中と誰かが呟く声が聞こえる。これじゃない。

 誰かがくしゃみをする音が聞こえる。これじゃない。

 私の心臓の鼓動音が聞こえる。これじゃない。

 誰かの服が艤装と擦れる音が聞こえる。これじゃない。

 誰かの関節が動く音が聞こえる。これじゃない。

 誰かの呼吸で揺らいだ空気の音が聞こえる。これじゃない。

 

 目を閉じ、息を止め、私そのものを艤装の中へ送り込む様をイメージする。

 自分の魂が艤装に触れ、私は中へと引き込まれる。

 何かと繋がった、そんな感覚がした。

 

 

 

 閉じた視界が開けた。そう感じた時、私は朝焼けの海上に立っていた。水平線まで続く青い海には太陽の色が混じり、空に浮かぶ雲も朝日の色を映している。その海にぽつんと、一つの船影が見えていた。

 船はゆったりと私の方へ近づいてくる。不思議と、警戒する相手ではないと理解ができた。はっきりと船の形が分かる距離まで近づくと、船上に一人、少女が立っているのが見えた。

 

 ――私が繋がったのはあの娘だ。

 

 なんとなくそう確信できた。

 互いの顔が確認できるまで近づいた船の上から、少女は敬礼の姿勢を取ったままこちらを見つめていた。今の私と同じ制服を着、肩に少しかかる程度の黒髪を首の後ろ辺りで括った、年の頃は中学生ほどと見える少女。

 

 吹雪型 1番艦 駆逐艦吹雪

 

 間違いなく、艦娘の吹雪だ。

 艤装は背負っていない。いや、おそらくは艤装に落とし込むまでもなく、乗っている船が吹雪そのものなのだ。真剣な表情でこちらを見つめる少女。雰囲気的にも場面的にも、おそらく彼女から艤装の扱いを学べ、という話なのだろう。だが――

 

 ――なんで吹雪さん、目が死んでいらっしゃるんですかね?

 

 真面目な表情だが、何か諦観というか、投げやりな雰囲気を感じるのだ。繋がっているからか、なんとなく分かる、諦めの境地。なんで? と心の中で疑問を問いかける私に、やはり繋がっているからだろう、心の声で返答があった。

 

 ――だって、だって雪さん……あなた私の力要らないじゃないですか!!

 

 すまない、チート転生者ですまない。

 転生して初めて、チート転生者である事を呪った私であった。

 

 

 

 

 

 はっと現実に引き戻される。

 いや待て、戻されちゃったけどいいのかこれ、謝っただけで終わったぞ、なんも教えてもらってないんですけど!

 慌てて周囲を見渡すと、まだ終わっていない者が多いのか、先ほどとあまり状況は変わっていなかった。ただ佐橋さんは何やら冒涜的な歌を口ずさんでいた。神格との接触じゃねーから!!

 教官達の方を見ると、響教官と目が合った。教官は一つ頷くとこちらへ近寄ってきた。

「対話出来たかい?」

「はい。でも、何も教えてもらえなかったんですが……」

「いや、あそこに入れたのならもう艤装を動かすための感覚は得ているはずだよ」

 やってごらん、と教官は促した。

 ええ、そういうもんなの? と思いつつ艤装に集中すると、成程、確かに動かせそうな気がする。今までは無かった感覚器官が生え、艤装が自分の体の一部のように馴染んだような感触がある。大丈夫かこれ。頭になんか書き込まれてない? 阿頼耶識ってない?

 少し怖いかもしれないが大丈夫だ、と教官が言う。自分も通った道だからだろう、確信のある口調だった。その言葉に押され、私は起動を開始する。

「吹雪型一番艦吹雪、抜錨します……!」

 内燃機関に火を入れる。タービンが回り、排気筒から蒸気が噴き出す。艤装から全身に力が流れ込む感覚。それは背中から心臓に、心臓から全身へと巡って行った。

 次の瞬間、もさっと、頭が若干重くなる感覚があり、私の両目の端に黒いものが入り込んだ。目線をずらし確認すると、それは髪の毛だった。手を後ろ髪に回すと、ショートで揃えていた私の髪は、掴めるほど長く伸びていた。全体的には肩にかかるくらいまで。

 

 無理やり艦娘に寄せて来やがった……!!

 

 よし上手く循環も出来ているねと教官は私の髪を見ながら言う。あ、判断基準そこなんですね。っていうか、もしかして教官たちの髪が長いのもこれが原因ですかね?

 隣では同じく起動に成功した佐橋さんが伸びた髪を見てまた冒涜的な歌を口ずさんでいた。

 

「おうっ!?」

 島さんの叫びが響き渡る、髪が伸びたのかな? と思い少し離れた場所に居る彼女の方を見ると、髪が伸びるどころか、髪の色までプラチナブロンドに変色した島さんがそこに居た。私の視線に気づくと、わなわなと震えながら両手につかんだ髪をこちらに見せつけてくる。そんなことされても。

 近くに居た暁教官長にこれ大丈夫ですかと焦りながら聞く島さんを尻目に周りを伺うと、続々と起動を成功させた訓練生たちが、やはり自分の髪を見て動揺していた。よく見ると目の色まで変わっている者もいる。足立さんも青い目をしていた。

 色とりどりの髪色になる睦月型や白露型、一部を除き長さ以外あまり変わらない我々吹雪型などいろいろ居たが、とりわけ凄いのが夕雲型である。一番艦の夕雲さんからして緑色になって驚いているのだが、長波朝霜清霜の三人の取り乱しようは凄かった。なにせ結構な長髪になった上で、内側と外側で二色に分かれているのである。妖精さんたちが大丈夫だよと宥めているのが印象的だった。

 後で聞いた話によると教官たちは髪の事について、妖精さんたちから口止めされていたらしい。悪戯心に溢れてらっしゃるなあいつら。

 

 

 

 大混乱ではあったが訓練生全員の起動が成功し、艤装を背負ったまま私たちは第一練習場へと移動する。艤装はそれなりの重さがあったはずだが、起動状態だとその重さは感じなかった。たぶん見たままの重さがあったら見るからにひ弱そうな佐橋さんとかはまともに移動出来なかったと思う。

 第一練習場は学校のプールだった。学校が訓練場に使われている理由はこれか、と少なめに水の張られた槽を見て得心する。

 待機していた雷と電の二人との挨拶を終え、プールサイドに訓練生が並ぶ。わくわくしている者や不安そうな者など反応は様々だったが、多くの訓練生は朝食時よりはやる気に見えた。

「これから航行演習の第一段階として、水上に立つ訓練を始めます」

「失敗しても足は着く深さにしてあるから、準備の出来た人から飛び込みなさい!」

 雷教官に言われるが早いか、いっちばーんと島さんが、続いてぽーいと足立さんが飛び込み、そのまま二人して沈んでいった。プールの底に足をつけた二人は、無表情でこちらを向いた。こっち見んな。

「……とまぁ、起動状態をしっかり保てないとこうなる。この第一練習場で行うのは起動状態を維持しつつ飛んだり跳ねたり出来るようになるための訓練だ。これが出来ないと戦闘以前の問題になる」

 そう言って響教官は水面に降り立った。足元が揺らめくが、沈まない。

「慣れればこの状態を丸一日維持する事も可能になる。もちろん、燃料が持てばという話にはなるけれどね」

 失敗した者は一度プールサイドに上がって起動し直しなさい、と指示され島さんと足立さんが戻ってくる。よく見ると、妖精さんが艤装から水を掻き出していた。ちゃんと仕事はするのね君ら。

 戻って来た島さんたちが再起動している間に、他の訓練生も挑戦を始めていた。少し出遅れたが私もプールサイドから水面へと足を伸ばす。私は特に問題なく水面に立ち上がった。どうやら艤装運用の新感覚に対してもチート能力が働くようで、私の艤装は安定し切っているみたいだった。

 大丈夫そうなので、とりあえず歩く。足元は地面よりは幾分か不安定で、足の普段使わないような筋肉に負荷が掛かる。佐橋さんとか辛いのでは、と思い彼女の方を見ると、案の定足をプルプルと震わせている。数秒後、そのまま力尽きて沈んだ。

 起動を維持するのは得意不得意が出るようで、ほとんど沈まない人達と何度も沈む人達が居た。島さんや足立さんは前者に属し、後者に属するのが朝に響教官とシリアスさんを交えてお話ししていた娘、曙だ。昼頃までには多くの訓練生が普通に歩くくらいは出来るようになっていた中で、彼女を含めた数名は立つ事すらままならない様子だった。島さんと足立さんは追いかけっこするわ私に飛び掛かって沈めようとしてくるわ卯月と深雪も参戦してくるわで大騒ぎだったのだが、教官たちはそちらの指導に忙しい様子でこちらの凶行にはあまり関わって来なかった。暁教官長曰く、走り回ってるのは訓練になるからそれでいいらしい。なお足が死んだ佐橋さんは水上に横たわり眠るという無駄に高度な芸当を行っていた。流石に怒られた。

 島風、夕立、卯月、深雪の四名の猛攻を抑えていると、学校のチャイムが鳴り響いた。時計を見れば正午である。暁教官長からプールから上がるように指示が出され、午前の訓練は終了した。昼食が終わったら午後は講義からなのです、という電教官からの宣告に、四人全員が嫌そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優秀な子ばっかりね」

 雷と電に引率され昼食へ向かう訓練生を見送りながら暁が呟いた。

「ああ、初起動まで最遅で27分。予想の半分以下とはね」

 あそこだけで二時間以上取られる可能性も考えたのだけど、と響が返答する。

「私達なんて半日かかったものねぇ……何が違うんだか」

「何って、適性値だろう?」

 響がため息をつく。適性値は艦娘として絶対的な力の差を生み出すと認識されている。110にも満たない二人と最低でも150の訓練生ではモノが違う。

「ん~、でもその割には起動自体はそんなに差が出なかったわよね例の三人も。というか、最速は秋雲だったし」

「……もしかしたら、上限があるのかもね」

 適性値は低ければ低いほど1の違いでの差が大きく出てくる。100と101、208と212だと前者の方が差が大きくなるのだ。そうなると極端に高い数値の場合、数値1つが持つ力の大きさも極端に小さいものとなり、結果的に意味がなくなる。という説があるのだ。

「そうだとしても我々とは天と地ほどの差があるだろうけどね」

 快晴の空を見上げ、二人はほんの一週間ほど前の事を思い出す。

 

 

 

 その日、第三訓練所に配属される事が決まった四人は最高司令部――大本営と呼ばれるそこで着任にあたっての必要書類の処理や注意事項の確認、妖精さんとの打ち合わせなどに追われていた。

 低適性とはいえ艤装を起動できる彼女達は元々与えられていた任務の重要性も低い物ではなく、ギリギリまで遠征をこなしていたため、着任まで一週間を切ってようやく異動のためのあれこれに手を付けられるようになったのである。適性者でない自衛官の手伝いはあったが、訓練用のカリキュラムなどは実際に動かす事の出来ない人間が適切な物を組むことは出来ず、他所の教官達との話し合いの元でそれらの作成も行なわなければならなかった。

 徹夜になりそうだと思いながら粛々と作業を進める彼女たちの下へ、機密文書が届いたのは1600時を回った辺りであった。教官長となる暁が内容を改めると、それは第三訓練所に送られてくる訓練生たちの詳細な経歴だった。

 書類は顔写真や身長体重のデータと来歴の二枚に収まっている者も居れば、備考が長く複数枚に分かれた者も居る。中には新聞記事が添付された者まで存在した。詳しくは食事の時に目を通そう、と思いながらさっと捲って行くと、最後に全訓練生の名前と適性のある艤装、そしてその艤装の適性値の書かれたリストが現れた。それを見た暁は眉を寄せた。

「何これタイプミス?」

 思わずそう呟き注目を集めてしまう。隠す事でもないので、ほらこれ、と適性値順に名前の載ったリストを三人に差し出した。

 

 

 

 姓 名      艦種 艦名     適性値

 

 住吉 悠     駆逐艦 曙     152

 山内 玲奈    駆逐艦 五月雨   154

          ・

          ・

          ・

          ・

          ・

          ・

 化野 世理亜   駆逐艦 漣     682

 足立 夕海    駆逐艦 夕立    9836

 島 風香     駆逐艦 島風    12883

 伊吹 雪     駆逐艦 吹雪    530000

 

 

 

「何ーザ様なのです?」

「最後の三人だけ桁がおかしいわね」

「四桁は分かるが……九千?」

 自衛隊内の適性検査で出た最大の適性値は468だったため、四桁というのはまだ理解できる数値である。が、おおよそ一万ともなるともはや何かの間違いだとしか思えなかった。ましてや五十三万などは狂気の沙汰である。

「ああ、個別の書類には正しい数値が書いてあるんじゃないか?」

 響の発言を受けて暁が確認する。だがそこにはやはり、530000の数字が書かれていた。沈黙が下りる。

「……ちょっと、確認入れてくるわね……」

 各所への確認作業まで追加され、その日は結局徹夜になった。なお数値は紛れもなく正しい値で、検査をした妖精さんも結果を二度見していたというどうでもいい情報が手に入った。

 

 

 

「今日までずっと半信半疑だったのよね、例の記事含め」

 あれは確かに信じがたいと響も同意する。奇しくも深海棲艦の攻撃と同日に発行されたスポーツ新聞に掲載された記録会の記事、内容は伊吹という少女の記録と彼女への賞賛だった。

「黄金の肉体か……」

 有り得ない記録を出した少女へのライターからの賛辞であるそれは、先ほどの訓練でもその片鱗を覗かせていた。

 夕立や島風に飛び付かれ、深雪に組み付かれ、卯月に圧し掛かられ、だが一切体を沈下させなかった吹雪を思い出す。片腕で一人をいなし、同時に二人飛び掛かればその二人が衝突しないように軌道を逸らしながら水中へ転がし、四人に捕まったかと思えば回転して全てを同時に別方向へ振り払っていた。

 そもそも吹雪は最初から、まるで熟練者であるかのように波一つ立てずに水面に立っていた。今日得たばかりのはずの感覚でそんな芸当が可能なのだろうか。

「艤装の起動方法を知らなかったのは嘘じゃなさそうだったけれど」

「あ、やっぱりあれそういう意図だったのね! 流石にある訳ないじゃない」

「提督適性まで持っているからもしかしたら、と思ったんだけどね」

 ないない、と暁は手振りまでして否定する。

「まぁ、なんにせよ手の掛かる子じゃなさそうで良かったよ」

 日本が目下解決したい問題は人手不足である。故に響は適性値の低め――自分達よりは高いわけだが――な娘達の底上げの方が現状必要な事だと考えていた。無論上の方の訓練生は手を抜くなどという事ではないが、余計に世話を焼かずとも育ってくれるのであれば有難い話である。

「そうね、最悪の事態は起きなさそうよね。楽しそうに戯れてたし」

 四人に絡まれた吹雪は、他の娘ほど朗らかそうではなかったものの口元に笑みを浮かべていた。普通の女の子よね、と暁は評した。

 その女の子に戦場での成果を期待してしまう現実に吐き気を覚える。響は歯噛みした。

「さ、私たちも昼食にしましょう。午後の準備もあるし手早くね!」

 響の様子を察したのかそうでないのか、暁は明るく響を急かす。今の感じなら今日の夜まで――悪くとも今晩中には全員が水面を歩く程度には艤装の感覚に慣れそうなのだ。こちらの不手際で練習できませんでした、などとする訳にはいかなかった。快晴の日差しの中、日向ぼっこする工廠妖精さんを回収しながら二人は食堂へ向かって行った。

 

 

 




魔法使いの少女に『私が面白くなるように』調整されているのは吹雪だけではないというお話でした。

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