転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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吹雪さんの目が死んでた理由

「私、吹雪さんが本当はどんなだったかみんなに話す約束なんだけど……こんなのどう話したらいいのかな……」

「正直に話すしかなくない?」

「私達もフォローは入れるよぉー」

 吹雪と桃とあと文月の会話が聞こえる。三人は航空基地跡地を覗きながら喋っていて、私には聞こえない様に一応気を遣ってかなりの小声でひそひそとやっていた。でも残念ながらチート聴覚さんには丸聞こえである。

 三人とも同じ訓練所の同期だけあって仲は良好らしく、互いに遠慮したところは見受けられない。同年代なのも大きいだろうか。

「同じ艤装を使ってるはずなのに、何が違うんだろう」

「服の色は違うよね。あと背負い方?」

「きっとあの艤装、マグネットコーティングされてるかHi-νなんだよぉ」

 誰がガンダムやねん。ある意味ニアピンかもしれんけど。っていうかそれ他の二人に通じるのか文月。

 

 

 

 どういう訳か無人だった基地を粉砕して、周囲を警戒しつつその場で補給を行いながら先ほどまでの出来事について話し合う。私達が撃ち始めて少ししたら敵機が飛んで来たり、基地の中に誰も居なかったりとさっきのあれは明らかに不自然で、この先に罠なりなんなりが待ち構えているのだろうという事で意見は一致した。

 明らかに私達は発見されていて、それはまぁ、弱めとはいえあれだけの数の深海棲艦を千切って投げて来たのだから仕方ないのだろうけど、問題なのは私達が感知出来ない方法でこちらの位置を大雑把にだが把握してたっぽいって事だ。

 これはかなり洒落になっていない事態である。第三部隊で一番レーダーの得意な島風ですらこちらを監視するような航空機は一度も捉えていなかったし、私のチート感覚さんもそれっぽいのは見つけていない。どうやってこっちの位置を見つけてたのかはさっぱり分かっていなかった。

 猫吊るしは壊した基地から別の基地に何らかの連絡が行って、砲撃された方向だけを伝えた結果なんじゃないかと仮説を立てていたが、私の破壊活動中に逃げ出したようなのは居なかったし、中にも敵は残っていなかったので方法に疑問が残る。自動化されてたとかか?

 他にはオタと非オタの間に横たわる意識差の悲哀を味わった文月から監視衛星でも飛んでるのかなぁとかそんな意見も出たけれど、それだと手の打ちようが無いからそうでない事を祈っておこう。

 そんな話をしてたら補給が一通り終わったので装甲車まで引き返す事になった。私達が見つかっている以上残してきた球磨多摩さん達も襲われている可能性があって、お二人が戦闘部隊でないのもあって心配だったのだけれど、これに関しては杞憂で特に敵影なんかは無かった様だ。

 とりあえず第一目標だった基地Dの破壊には成功したと伝えられると二人は喜色をほんのりと浮かべて、じゃあ次の目的地までこのまま行くのかにゃーと当然の流れでそういう話になったのだが、無人基地など敵の不審な動きもあり、今後の動向をみんなで相談する事になった。

 

「楠木提督からは、状況によっては撤退してもいいけど見もしないで逃げるのは止めてくれって言われてるんだよね」

 川内さんによると、明らかに向こうの戦力が過剰だったりした場合は戦わない事も許可されているらしい。とはいえ、この隊のリーダーは300以上の敵の群れを殲滅して行く判断をする川内さんなのでその辺りの基準はかなり厳しくなっている。自然、話は罠だろうがぶっ潰してやんよという方向性に進んで行った。

「吹雪ちゃん、弾薬はどれくらい残ってるのかしら~?」

「六割強くらいですね。ただ対空砲や機銃の弾は他に比べると減ってます。航空基地相手だったので多めに積んで貰ったんですが……」

 航空機多過ぎなんよ。猫吊るしに普通より長い弾帯作ってもらったのに何回かリロードを挟んでやっとお帰り頂けたくらいいっぱい飛んでたからなぁ。あれ以上に敵が居るかもしれないと考えると、帰りの分が残らない可能性が出て来る。いや私は跳んで殴ればいいんだけども。

「一直線で行くのは良くなさそうだにゃ」

「どれくらいの精度で捕捉されてるのかにもよるクマ」

 道は幾つかあるため、今現在地を把握されていないのならぐるっと回って後ろから攻撃したりする事も出来なくは無さそうだと球磨さんは言う。夕雲さんの旦那さんの証言で通れなくなってる道が幾つか判明しているから、他の道も大丈夫だとは言い切れないのが不安要素だろう。

「でも、あまり時間を掛けても居られないですよね?」

 私達の目的は淡路島方面への敵援護を潰す事、なので慎重にやり過ぎて本隊側に悪影響が出るのはかなりよろしくないと言える。だからって短絡的に正面突撃じゃオラァ! となるような蛮族にはなれない訳なんだが。

 ただ個人的には、文句なくチートな転生者が二人居る部隊だから神の御加護任せで脳死突撃の方が効率はいいんじゃないかとは思わなくもない。調子に乗って死ぬタイプの転生者ムーブと言われればその通りなのだけど、拙速で人命が繋がる場面……かもしれないから色々と歯がゆい。楠木提督も転生者だと思うんだけど、私に比べると凄く慎重な人って気がする。聞き及ぶ評判は優秀、有能、勇敢と褒め称えるものばっかりだし、きっと作戦に穴とかも無いんだろうなぁ。

 だから私に単騎突撃させないのも何かしらの考えがあっての物だと思うんだ。もしかしたら、私一人じゃどうにもならない場面、なんてのがこの先に待っているのかもしれない。そんな相手が居たらチート転生者抜きでの攻略は無理臭いから、絶対に戦力を損なわないように徹底していたりとかするんだろう。たぶん。

 そんなこんなでなんやかんやと話し合いは進み、とりあえず今攻撃を受けてない以上は警戒しつつ前進、攻撃が来るようなら位置を把握され続けているという事なので、一旦身を隠してタゲ切りしようという事になった。

 あえて攻撃しない事で誘い込まれてたら? その時はプランBである。

 なお車両二つあるんだし二手に分かれて挟み撃ちとかどうよって案も出たけど、空探の精度とか戦力の薄い側――私の居ない方が集中攻撃されたら各個撃破になる可能性があるなどの理由で採用されなかった。さっきと同じだけの戦力展開されたら普通にキツいもんなぁ。

 

 

 

 周囲を警戒しつつ車に揺られる。車内の面子は特に変わっていないが、口数は今までよりもさらに少なくなっていた。元々そんな滅茶苦茶話してたりはしてなかったんだけども、それよりさらに減っていて皆の緊張度合いがよく分かる。私はと言えば普段と同じ事しか出来ない訳なので耳と目とレーダーで索敵に集中しつつ、さっきの戦いを振り返っていた。

 川内さんに指示されて建物を粉砕していた私なのだが、実はあの時ただただぶん殴っていたという訳ではない。あの基地は人間が建てたというには性根が捻じれ過ぎた構造をしてたが、確かに建造物ではあったのだ。だからここを壊せば一気に崩れる、みたいな場所が複数あって、私には無理だったけど猫吊るしはその位置を的確に見破れた。なので一方を殴り壊す合間にその位置に魚雷ぶん投げて爆破解体もしてたんだよね。

 尤もビルじゃないから一度に全部なんてのは無理な訳で、細かく複数回やってたから時間はかかってしまった。大きめの破片ぶん殴って砕いたりもしたけど、これはどこに格納庫があるのかよく分からなかったからである。深海棲艦の航空機ってサイズはラジコンくらいのものだから基地のどこからでも発進出来そうで怖いんだよあいつ等。

 おかげで援護が遅くなってしまったけれど、みんな優秀で誰もやられてなかったからセーフという事にしておきたい。跡地を見た別艦隊の人達にはちょっと遠巻きにされてた気がするけど、私が同じ立場でもそうするというか、補給は普通に受けてくれたからまぁ、うん。仕方ないね。

 私の暴力的な行為に対して宮里艦隊の仲間はまたやってるくらいの反応だったのだが、それはそれで訓練され過ぎじゃないだろうか。派手にやったなーって深雪に笑われたけど、巨大鯨の時ほどのインパクトは無かったそうな。良くも悪くもあれが基準になっちゃってるのか……

 それにしても誰一人敵の大群に襲われたり襲ったりしても文句一つ出ないのは凄いと思う。天龍さんとか私に投げられるの楽しそうだったからな、叢雲は微妙な顔してたが。川内さんは合わせて三回投げたけど飛び方がだんだん上手くなってって面白かったです。島風はなんか発射されながら自分で落下位置調整してたぞあいつ運動神経良すぎだろ。

 多数の雑魚を蹴散らしたあの戦い、私の見てた限りだと龍田さんが一番強かったように思う。私以外が地上でどれくらい戦えるのか不安だったんだけど、あれなら心配要らないなってくらい凄く凄かった。私なんてほぼチートさん任せで戦ってるだけなのに、龍田さんは業でズンバラリと行ってたからね。装甲がスパッと断ち切られてて、武術家の技術と艤装の能力が合わさるとああなるんだなぁって感動しちゃったよ。

 被弾したら痛いで済まないだろうに至近距離で戦える胆力も素晴らしい。二期の適性者って実戦配備からまだ二週間経ってないから新兵もいい所なはずなのに、あの人は歴戦の猛者みたいになってた。何やってた人なんだろう。

 吹雪や桃、文月も真っ当に戦えているようで、寄って斬るみたいなのは無理でも敵航空機を撃ち落とすのは問題無いようだった。じっくりは見てないけど、指示に従ってちゃんと必要な事をやり遂げているのだから悲観するような腕前じゃないだろうと思う。吹雪に関しては比較対象が私になっちゃうのが悲しい所か。チート転生者ってほんと理不尽。

 

 そんな事を考えつつ空に不審な影が無いか見張っていると、突然私の脳内艦これ編成画面――提督としての能力がイメージ化したんだと思われるそれが開かれた。これが勝手に出てくる時って碌な事になってないんだよなぁと意識を向けてみれば、そこには輝く中破の文字が。

「川内さん、飛鷹さんが中破したみたいです」

 私が物理無効化貫通能力を付与している相手は基本的に収集部隊や偵察部隊の面々なのだが、緊急時のために戦闘部隊にも三人だけ私が担当している人達が居る。それが飛鷹さん、川内さん、暁教官長だ。提督と艦娘の繋がりを羅針盤妖精さんが辿ってくれるため、必要なら私が駆けつけられるようにと三人は別々の部隊に振り分けられているのだが、それは今回も例外ではなく、川内さんは第三部隊、教官長は第二、飛鷹さんは第一に入って戦いへと臨んでいた。

「飛鷹が……? 吹雪、暁の方はどうなってる?」

「教官長は特に大きな被弾は無いようです」

 大まかな被害状況しか分からないし周囲の状況が見える訳じゃないから、実際どうなってるかまではさっぱりである。でも、空母で基本的に後方に居る飛鷹さんが攻撃を受けてるというのはあんまりいい予感はしなかった。本隊の戦況、あんまり良くないのかなぁ。

「やっぱり悠長にはやってられないか……」

 今壊しに向かっている基地からさっき見た量の援軍が本隊に殺到したらかなり不味いだろう、というのは第三部隊の共通認識である。こっちの方に引き付けられてるといいんだが、もしかしたら私達を無視してもう淡路島方面に意識を切り替えてる可能性もあるから、早く移動して出来るだけ時間を空けずに攻撃を始めたいところなのだ。

 車内では私と川内さんの会話の意味がよく分からなかった吹雪が、島風から私が提督でもあると説明を受けている。文月の事があるのでそういう人間も居るという事は知っていたようだが、私がそうだった事にはびっくりしていた。龍田さんはそうなんだ~と笑っていた。

 

 

 

 心なしか球磨さんもさらに速度を上げて、目的地までもう半分も過ぎたという頃。周囲には依然敵の気配はなく、並の人間なら集中の維持も辛くなってくる時分。またしても編成画面が開かれた。

 

「はっ?」

 

 声が出た。はとふぁの中間ぐらいの音が驚きと共に喉から飛び出してしまった。

 私は24人の艦娘に物理無効化貫通能力を付与している。その中で戦闘部隊は三名、その他は全員非戦闘部隊だ。その中で今日、淡路島まで一緒に行ったのは五人。戦闘部隊の三人と、後続車両で運転をしてくれている多摩さん。それともう一人。

「大和、小破?」

 戦艦大和。この日本で最初に造られた艤装であり、燃費が悪すぎる故にすぐに使われなくなったそれは、今回保険として淡路島まで輸送されていた。当然、よっぽどのことが無ければ使う事にはならないはずだった物だ。

 提督が貫通能力を送るのは艦娘ではなく艤装ごとだ。だから、たまたま砲撃やら爆撃やらが保管してある艤装に命中してしまった、というのも有り得る。艦娘本人は全然違う場所に居る可能性もある。いやねぇよ。っつーかそっちの方がヤベーよ。

 普通に考えて撃って撃たれてし合っているのだろう。使える当人が戦闘部隊水準の適性値を持っていないらしいから、そんな事まずやらないと思ってたんですけどね。本人も滅多な事ではやりませんよって今朝言ってたんだけどなぁ。

「宮里提督が戦ってる……?」

 宮里提督と私は互いに相手の艤装に無効化貫通能力を供給する間柄である。これはやっぱり救助なんかに使えるかもしれないというのが一番の理由になっている訳なのだが、根本的に宮里提督は艤装を使わないし、私は被弾したことが無いため全く機能する場面は存在しなかった。なのに、それが今回突然私にプレッシャーを掛けて来やがった。

 え、今第一部隊どうなってんの? 押し込まれてんの?? 淡路島の司令部まで??? あそこ長門さんとか加賀さんとか居るんだけど???? 最精鋭とか言われてる連中の半分以上第一に居るはずなんだけど?????

 私の呟きにみんなもぎょっとしたようで、島風はオウッと鳴いたし天龍さんもマジかよと目を見開いていた。川内さんがその場を鎮め私に詳細を尋ねてきたけれど、私にも分からないので分かりませんとしか答えようが無い。

 ただ、飛鷹さんもそうだけどガンガン被弾してるとかそういう事でなく、中破と小破からは特に変わっていないので一方的に不利な状況を押し付けられてるとかではない……といいなあと思います。飛鷹さんは引き上げたのかもしれない。この世界だと空母の人達も夜戦出来なくは無いけど不得意だし。

 しかし宮里提督、戦えてるのかなぁ。今朝の段階だと当たらなそうだったんだけど……感覚の修正は出来たんだろうか。

 

 そんな事があっても索敵を疎かにするわけにはいかないし、そもそもどうしようもないので周囲の警戒に注力する。気にはなるけど。滅茶苦茶気にはなるけど。私達の任務はあくまで基地の破壊なのだ。助けに行くとか行かないとかはそれが終わってからだ。

 しかし、私達の方には何にも来ないのである。空には偵察機とかそんなのすら飛んでない。野山を駆け回るイ級とかそういうのも居ない。しごく平和なもんである。

 そうして残っていた半分の行程も、私に伝わった情報以外は特にトラブルも起きずに殆どが消化され、敵の直掩機らしき物がレーダーに映った時にはもう敵航空基地は目と鼻の先にあった。

 

 

 

 見えた飛行物体を撃ち落とし、暫く。私達は車を降り、球磨さん多摩さんを残して道路から逸れて徒歩で基地へと向かっていた。直掩機を墜とした事で私達が直近まで到達した事はバレているはずで、実際龍驤さんが飛ばした偵察機は上空で追い回されたらしい。でも、何故だかさっぱり分からないのだが、私達に向けて爆撃機を寄越したりとかは一切行われていなかった。

 一応木々の多く生い茂る場所を選んで進んでいるから見失っただけって線もなくは無いのだけれど、それにしたって偵察機も来ないのはおかしくないだろうか。相手が何を考えてるのかさっぱり分からない。潰してきた無人基地とは違って普通に使われてはいると思う……というか、直掩機出てるから明らかに何かしら居るはずなのだ。それにさっきから、私の耳には何か金属質な異音が聞こえてきている。やっぱり稼働してるっぽい。

 私達の事は完全に無視して兵力を集中させているのだろうかと囁き合いつつ、隊は急ぎ足で進んで行く。基地の立地は結構平らな場所で、周囲には凹凸なんかがあんまり無い。なのである程度の距離まで来たらたぶん簡単に見つかってしまうだろう。規模的には四つ見つかった中で一番小さい基地だったという話なので、防衛用の砲台なんかはそこまで多くないと思われるのが救いか。

 視界の先には光が見える。深海棲艦はそんなに夜目が利かないからか、拠点にはちゃんと照明が設置されているのだ。木々の合間から漏れ出したその朧げな明かりを目指して進み、数歩進んでは周囲に目を配り、また前へと歩き出す。さほど長くは無い道筋の向こう、誘蛾灯のように部隊を導くそれが一際輝きを増した時、私達は見た。

 

 それは一見すれば死体置き場か何かに見えた。イ級、ロ級、ハ級、ニ級、その他様々な深海棲艦が組み合い、絡み合い、犇めき合いながら積み重なっている。個々の装甲と装甲の隙間は黒い金属のようなもので埋められ、互いに固着し、一塊となっていた。

 だがそれらは全て生きているのだろう。各々が身動きをしようとしているのか、そこかしこから流し込まれた金属が軋む不協和音が聞こえるのだ。耳障りな多数の異音は混ざり合い、誰かへの怨嗟の声として辺りに響いていた。

 深海棲艦達は不規則に、中心から無造作に積み上げられているようで、全形は歪な円錐形のような形になっている。壁面には重ねられた者達の物であろう砲塔が生え、天に地にと無作為な方向へと向けられていた。

 異形のピラミッドとでも呼ぶべきそれは三百メートルは向こうに建っているにもかかわらず、私達の視界一杯に広がっている。一面だけでも万をゆうに越える下級の深海棲艦とそれ以上の砲台が接着された巨大基地。深海棲艦特有の歯のようなものが並び口内が覗くその外壁は、凡そまともな神経をしていれば登ろうとは、そもそも近づこうとは思えないくらいに不快さが極まる邪悪な建築物であった。

 その頂には、探照灯で堂々と照らされ、鋭い視線で私達を見下ろす白い影があった。

 

『……オイテケ……』

 

 それは頭から四角い鈍角な二本の角を生やした少女の姿をしていた。首輪のような装飾とミトンのような手袋をして、ワンピースのような衣服を身に着ている。足元は基地であろう深海棲艦の塊に埋まっており、どうやらその子も一体となっているらしかった。

 北方棲姫と呼ばれる姫。やはり捕捉はされていたのだろう。基地型と言われ、本州に到達した際には多大な被害を生んだ少女が、オレンジ色に輝く瞳で私達を睥睨していた。

 

『フブキ……オイテケ……!』

 

 

 

 

 

「え、どっちの?」

 拡声でもされているのか、距離があるのに異常によく通るその声が耳に入って、つい、私は思った事を口に出してしまった。いや私だろうけど、どう考えても私だろうけども。

 私の声もまた拾われているのか、どうやら北方棲姫にまで届いたらしく、小首を傾げ、木の陰に隠れて自分を覗き見ている私達を観察し、私と吹雪の二人に気付くとあれっという顔になって軽く後ろを振り向いた。どうやら艤装の見分けが付くらしい。深海棲艦ってそうなのか、初めて知った。

「ド、ドッチダ……?」

「黒イ方ダヨー」

『クロイノダ……!!』

 後ろの誰かにこっそり聞いて、ばっとこちらに振り向くと私の方を指差した。これは拡声していなかったので私以外には聞こえてないと思う。奥に誰か居るのだろうが、こちらからでは見えない。大きくはないのだろう。というか、私も吹雪もほぼ隠れてるのによく見えたな。いや元から知ってたのか?

『フブキオイテ……カエレ……!』

 他は見逃してくれるつもりなのか北方棲姫はそんな事を言い出した。どうしてそんなに私にヘイト向いてるのかは分からない。いや敵倒しまくってるからだろうけども、だからってそんなの聞ける訳もなく。軽く川内さんとアイコンタクトすると、ハンドサインで簡潔な指示が飛んで来た。撃て。

 そりゃ当然の判断である。明らかにこの基地……基地かこれ? 分からないがともかく基地のような塊の統率者であろう姫級が上半身丸出しで居てくれているのだ。これで撃たないとかある訳ない。交渉の余地が有りそうにも見えるが、猫吊るしから聞かされたあいつらの本性を考えたらまず不可能だろうし、ともかく命令が出たからには撃っておこう。撃った。

 

 抜き打ちで放たれた二つの砲弾が北方棲姫に突き刺さる。軽い炸裂音がした。

 それだけだった。当たったはずの北方棲姫は健在だったし、基地の方も目に見えたダメージは受けていないように感じる。外してはいない。ちゃんと当たったのが見えていたから、絶対にそれは無いはずだ。

 通常私の砲撃を基地とリンクした姫級に当てればかなり大きなダメージになる。一撃は無理だったとしても基地の一部分は吹き飛んだり破損したりするのだが、今回の場合、全くそういう事が起きなかった。耐久力が高すぎるのか、それともそもそも効いていないのか。何故だと私が疑問に思う前に、ぎろりと小さな姫級がこちらを睨んだ。被害は受けていないように見えたが、撃たれた事は分かったようで、明らかに怒りを覚えた様子で私に向かって叫びを上げた。

『ヒキョウモノ……! チョウシニ、ノルナ……!』

 声に合わせて基地全体が振動を始め、北方棲姫の足元、超多数の深海棲艦達の落ち窪んだ眼窩が一斉に光を放つ。なんかヤバい。そう思った次の瞬間には、壁から突き出したバラバラの砲塔、万を超えるその全てから、一斉に弾が吐き出された。

 

 前に出て砲弾を叩き落とす。弾の数は数えようが無いが、そのほとんどはあらぬ方向へと飛んで行き、私達に直撃する物は百もない。問題なのはそれらが全て同一タイミングで飛んできているという事だ。素手で全部やるのはちょっと難しいだろう。だから、私は両足の発射管から計八発の魚雷を投げつけた。

 私の魚雷は爆発すると、小さな範囲ではあるがその中にある物を消滅させる。粉々に吹き飛ばしてるのか分解してるのかその辺りはよく分からないが、とにかく後には何も残らないのだ。基本的にそれ以外は割と普通の魚雷であるため、他の武装に比べると滅茶苦茶使い辛い。だから前は外していたんだけど、改二になった事でスロットに余裕が出来たからと持って来ていたのだ。今回はそれが役に立った。

 魚雷がそれぞれ別の砲弾に激突する。線で繋げば円になるよう投擲されたそれらは爆発を起こし、極短時間だが触れた物全てを飲み込む壁を私達の前に出現させた。それに巻き込まれ、迫っていた砲弾の殆どがこの世から去って行った。残ったのは僅かに三個、その内二つをつかみ取り、片方を残った一つに、もう片方を北方棲姫にぶん投げる。やっぱり炸裂音がしたが、怒りの視線がさらに強くなっただけで、損害は出していないようだった。後ろからは木々の薙ぎ倒される音が聞こえる。

「全員後退! 木の陰に隠れろ!」

 全員が川内さんの指示に従って動き出す。一斉砲撃の通った後には横倒しになった大木が転がり、それらは頼りないが遮蔽物となっていた。根元から砕けていたりはするものの、複数を挟めば砲撃もすぐには届かないだろう。掴んで分かったが威力は大したことが無いし。

 私も一旦まだ倒れていない物の後ろに身を隠す。近くには深雪が居て、低い姿勢で敵の塊の方を覗いていた。

「何だあれ、生きてんの!?」

「生きたまま建材にされてるみたいだよ」

 私の返答に深雪は不快そうに顔を顰めた。私だってあれはあんまり好みじゃない。というか、あんなの好きな奴居ないだろう。

 周囲を視れば全員無事なようで、すぐに撃てる態勢にはなっている。みんなちゃんと隠れているが、連射されると突破される心配があるんだよなぁ、所詮ただの木だし。と思ったが、敵はとりあえず追撃は仕掛けて来なかった。溜めが要る攻撃なのかもしれない。

 もう二発撃って、ついでに魚雷も投げつけてみたが怒りを買うだけで効果が見られないのを確認していると、川内さんが寄って来た。攻撃の事を聞かれ、当たったけど効かなかった事を報告する。

「吹雪、撃つのと殴るのってどっちが有効?」

「殴る方です」

 深雪からええ……と若干引いた声が漏れ聞こえて来た。仕方ないじゃん、単純な威力ならそっちの方が上なんだよ。射程が全然違うから普段は連装砲の方が有用なだけで。

 川内さんは一瞬だけ悩んだようだった。殴り倒せる可能性は有るが、効かない可能性も高い。私ならとりあえず殴ってから考えるけど、下手を打って私を失う訳にも行かないから難しい所なのだろう。何せこの基地破壊作戦、そもそもが私ありきなのだから。

 面子を見てもらえれば分かるのだが、この部隊は殆ど駆逐艦と軽巡洋艦で構成されている。敵基地へ攻撃に向かうのに、空母すら龍驤さん一人きりである。しかも夜なのもあってほぼ偵察要員だし。この人数、この編成で普通にやったら陸上の基地破壊とかかなりキツい。

 だからこの部隊には最初から私の超火力でぶっ潰す以外の選択肢って無いんだよね。勿論どうやってぶつけるのかは考えなきゃならんのだけれど、まず、私以外に私の攻撃性を再現出来ないから情報収集自体が難しいんだよなぁ。私の射撃や打撃が通用するのかを確認するために私が必要という酷い状態になっているのである。それでいて要求されてるのが援護潰しだから仕事は早い方が好ましいっていうね。

 なので常に即断即決が必要で、だからこそ思い切りのいい川内さんが部隊長に任命されたのだと私は思っている。

「よし吹雪、こっちの事はいい、ぶん殴って来い! たぶんあいつの攻撃近い方が当たらないよ!」

 敵の砲台、数は異様に多いもののどうやら動かす事が出来ないようなのだ。最初見た時と撃った時で全然変わってなかったし、今に至るまでも微動だにしていない。それに動かせるなら無駄に森林破壊とかしないだろう。深海棲艦だって弾は無限じゃないからね。環境破壊は気持ちいいゾイとか言い出す感じでもないし。

 少し残していくのに不安があったのだけど、行っていいというのなら是非もない。私は地面を蹴って飛び出した。

 

 一歩二歩と助走を付け、数百メートルを加速に使う。腕を思い切り振りかぶり、過去最大級に勢いを付けて目の前の壁へ高速の拳を突き入れた。普段通りでも壁一つくらいは余裕で突き抜け粉々に砕くその一撃は、しかし何の破壊も齎さない。手応えはある。深海棲艦を殴り壊した時にいつも感じる感覚が私の拳に返って来ている。だが少なくとも、見た目にそれは現れていなかった。

 正直、ピラミッド部分を叩いて済むなら精神的にも楽だったのだが、こうなってくるともう仕方なかった。絵面が酷いのであまり人様に見せたくないのだが、もう、やるしかなかったのだ。

 最下層のイ級を踏みつけ私は深海棲艦で出来た階段を駆け上がる。ついでに踏み壊す威力で蹴っておくが、やっぱり効果は無い。砲台は見立て通り動かないようで、障害もなく三歩で天辺へと辿り着いた。

 一番上は半径三メートルほどの空間が平らになっていて、その中央に北方棲姫が膝から下を埋めている。元が小さい姫なので、こうなると私の腰ほどもない。ああ、小さい。小さいなぁ、本当に。北方棲姫は何か言おうとしていた。でも、危ないからそれを聞いては居られないのだ。一人だったらちょっと考えたかもしれないけど、後ろに仲間が居るからさ。躊躇していられないので、私はその小さな頭に、己の脚を全力で叩き込んだ。

 一発。効果は無いようだ。二発。効果は無いようだ。三発。効果は無いようだ。オイオイオイ何だこいつタフとかそういう問題じゃない。私の体には艤装を通して物理攻撃無効化貫通能力が完璧に通っている。これで殴れば普通に深海棲艦にダメージが入るはずだというのに、目の前の姫級と来たら全く堪えた様子がない。

 四発五発と続けざまに蹴りを放ち、そのまま無停止の三十連打に繋げるが、敵は大きく仰け反る事すらしなかった。それどころか狂暴な笑みを浮かべて私に向かって強い瞳を向けて来る。

「イモウトノカタキ……! イノチ、オイテケ……!!」

 絞り出すような叫びと共に、北方棲姫の背後から複数の攻撃機が現れた。防いで話して登って蹴ってしている間に発艦されたらしい。成程、そっちを優先してたから追撃が無かったのか、と思いつつ、蹴る足を止めずに見えた奴らは機銃で撃ち落としてやった。

 しかし妹、妹ね。北方棲姫だし、たぶん北方棲妹の事だろうか。どうやら仇討ちのために私を狙っていたらしい。え、こいつらってそういう感傷あるの? 説明された出自的にそういうのとは無縁なのかと思ってたわ。意外。もしかしたら、この深海棲艦の山も私のために築いたのだろうか。でも、もしそうだったとしたら非常に申し訳ないのだが。

「心当たりが多過ぎてどの北方棲妹か分からないんだけど……」

「コロス!!」

 だってこの世界、同じ種類の姫級が複数居るんだもん。北方棲姫も北方棲妹も何回か倒してるしどれが目の前の個体の妹だったかなんて私には分からんのである。猫吊るしは頭上で煽りよると呆れた声を出した。

 返答が気に入らなかったのか――気に入る訳ないんだが――目の前の小さいのは白い顔を怒りに染めて自分の艤装を顕現させた。そのまま私に砲撃をかましつつ、体のそこかしこから球体の航空機を空へと発艦させる。それらは足元に広がる基地から飛び立った物と合流すると、私に牙を剥いた。

 気付けば四方八方を飛行物体に囲まれていた。どうやら低い位置を通って大回りで上空まで上がっていたらしい。私に向かって銃弾と爆弾を雨のように降らせ、個体によっては体当たりまで仕掛けて来る。北方棲姫自身が巻き込まれるのもお構いなしだ。どうやら自爆もダメージが通っていないらしく、私の避けた銃弾を全身に浴びつつ艤装からの砲撃も続行されていた。

 飛び交う敵機の位置は聴覚と視覚と肌感覚で把握出来る。なので避けるの自体は大した難易度じゃなかったが、どうしたって攻撃速度は鈍くなる。避けて蹴って、撃って避けて、避けて蹴って撃って。北方棲姫の周りをぐるぐる何回転もしてしまった。

 そうして回避している間にもガンガン発艦されている様で、周囲の飛行機は数を増して行く。私も北方棲姫に攻撃しながら撃ち落としてはいるのだが、やっぱり蹴りながらだとバランスが悪いのもあって効率がイマイチよろしくない。救いなのは憎い敵である私に攻撃を集中しているらしく、部隊のみんなは攻撃されていない事だ。本人たちもそれに気付いているのか、援護射撃をしてくれている。ただ敵の数が多過ぎるせいで上空から敵の数が減る気配はまるで無かった。

 砕けない北方棲姫と当たらない私。正統派タンクVS回避壁みたいな戦いになってしまい、どちらも決定打が無い。というか、私もう二百回は姫級の艤装でも余裕で崩壊するくらいの威力で蹴ってると思うのだけれど、本当にダメージ無いのかこの子。もしやあれか、ギミック解かないとダメージが行かないとかそういう類の奴か。え、そんなのある? ゲームじゃないんだよ?

 流石に一回退いた方がいいんじゃないかと頭の中に過ったが、しかしあちらの攻撃も当たらない以上、弾切れを待つという手段も取れなくはない。何せ私は肉弾戦が出来る訳だから、対空さえ諦めればどうにかなる。相手もそれを分かっていたのだろう。勝負を仕掛けてきたのは向こうからだった。

 北方棲姫が砲撃の手を止め、力を溜める様に拳をぎゅっと握りしめる。基地全体が鳴動し、一体化した深海棲艦達が昏い光を放った。先ほどよりも溜めは長く、それだけ力を注ぎ込んでいるように見えた。

 砲撃が来る! それは分かったが、私の立っている頂は平らで、砲台は設置されていない。まさか私じゃなくて部隊の皆への攻撃かと訝しんだその瞬間。私の足元、平坦だった山頂の全てが溶け落ち、密集した多数の砲口へと姿を変えた。

 

 

 

 

 

「大丈夫か吹雪!?」

「あー、うん、大丈夫っぽい」

 敵基地から少し離れた場所に着地した私を見て、深雪が駆け寄って来た。どうも最初に隠れた辺りまで跳んでしまったらしい。頭の上を確認すると猫吊るしも無事な様子で、私の頭の上で空を見上げて警戒態勢に入っている。立ち直り早いなぁ。

 敵は私の位置が分かっていないのか、すぐに追撃をしてくる感じではない。というか一蹴りでここまでぶっ飛んで来ちゃったから、倒せたのか倒せてないのかも判っていないんじゃないだろうか。

 それにしても罠とはやりおる。いや罠を警戒してなかった訳じゃないんだけど、足元が急にメタモルフォーゼするとか思わないだろ普通。融点の低い薄い板で誤魔化してたとかなんだろうか。普通に変形してたとしてもそれほど驚かないけども。

 北方棲姫を蹴りながら戦ってなかったらヤバかったかもしれない。足が相手の体に届いていたから、それを足場に強引に自分の体を弾き飛ばす事で、足元から撃ち出される砲弾を避けられたのだ。代わりにかなりぶっ飛んでしまったのだけど、見失わせる事にも繋がった様なので結果的には悪くないだろう。

「いや、どうするかなあれ。猫吊るし、攻撃通ってたと思う?」

「さっぱり分からん。まさか新しい無効化能力でも習得されたのかねぇ、対処法知らないぞそんなん」

 猫吊るしが知らなかったら誰も分からないんだよなぁ。とりあえず、ヘイトが私に向いているみたいだからここに残って避けまくってれば援護に向かわせないという目的は達成出来る。まぁ丸一日避け続けるくらいは出来ると思うのだけれど、問題は私は人間の生理現象を克服出来たりはしていないという事だ。端的に換言すると、私徹夜苦手なんだよ。戦いながら寝るとかは無いだろうけど、集中力が持つかどうかはよく分からん。

「いや、たぶん結構効いてるぜ」

 傍の深雪が、基地のある一点を指差しながら私に向かってはっきりとそう言った。

「あたし対空とかそんなに得意じゃないからさ、弱点とか無いか山の方をずっと見てたんだ」

 深雪は目がいい、らしい。私はほぼ一緒に戦ったことが無いからそこまで詳しく知らないんだけど、艤装を付けた時に出る身体能力強化の効果が感覚器に大きな影響を与えているとかで、集中していると水平線の彼方まで見えたりするらしいのだ。ただし集中しすぎてその一点以外が見えなくなるという大問題を抱えているのだそうだが。

「何回か自分でもやったからなんとなく分かるんだ。あいつ、吹雪が攻撃するたびに轟沈してるぜ」

 指先の示す場所には当然ごちゃごちゃと固められた深海棲艦の塊があった。だがよくよく見ればその中に、装甲が完全に砕け中身がはみ出し掛けている物が混ざっている。聞けば、それは私が上で戦っている最中、特に攻撃が当たった訳でもないのに急に圧壊したらしいのだ。

「艤装ってさ、壊れる時にダメージ吸ってくれるだろ? 艦娘も姫級もそれは一緒だから、たぶんそれを悪用してるんじゃないか?」

「融合してる内の一体にダメージ全部押し付けてるって事……?」

「……そうか、下級の深海棲艦を艤装に仕立てて高速で付け替えしてるのかアイツ」

 猫吊るしはそれで大体の絡繰りが理解出来たらしい。納得したと言わんばかりに握った拳と開いた手の平をぽんっと打ち鳴らした。

「つまり残機制だ! 一体が死んでダメージ持ってくから全体にはダメージが入ってないように見えてただけじゃねぇか!」

 数万体の深海棲艦の内、一体だけが艤装になり、それ以外は全て本体となる。

 攻撃を受ければその一体が全てを引き受け、死ぬ事で他へダメージを残さない。威力が大きすぎれば超過したダメージは本体へと向かうはずなのだが、そもそもその本体は数万体の深海棲艦で出来ていて、構造上全体に均等に分散されるため一体当たりのダメージは数万分の一。装甲を揺らす事すら出来なかったのだろう。死んだ直後にはまた別の一体が艤装となっていて、次の攻撃も耐えられると、そういう構造じゃないかと猫吊るしは言う。いやそれ倒すまでに何万回攻撃したらいいんですかね?

 あの深海棲艦の山、外観だけでも万を超える数が積み重なっているのである。中が空洞とか言わない限りは芯まで同じものが詰まってると考えられる訳なので、実際の数はもっともっと多いだろう。一秒に十回攻撃しても一時間以上掛かりそう。実際には撃たれるから回避しなきゃならんわけで、もっとレート低くなるし。

「攻撃全部避けながら地道に殴れと……?」

「流石に吹雪の艤装にも何万発も弾入ってないよなー」

「一応、今言った通りならどこ攻撃しても同じなのが救いかね」

 そんな訳で正しいのか検証する事になった。撃った。関係ないとこ壊れた。大体合ってるんじゃねって結論になった。

 

「あれさ、機銃で撃ちまくってどうにかできたりしないの?」

 こちらから砲撃したら流石に見つかってしまい、差し向けられた飛行物体を撃ち落としていた所、傍で山に向かって砲撃していた深雪にそんな事を問われた。

「吹雪の機銃がイ級とか倒せるなら行けると思うが……」

「私の機銃、レートはともかく威力は深雪のとそんな変わんないから無理じゃないかな」

 そっかーと深雪は残念そうにしながら砲弾を基地のようなものにぶつけ続けている。そうすると、たまにだが部品になっている深海棲艦が破損し、機能を停止する場合があった。つまり、深雪の攻撃も普通に効いているようなのだ。

「うん、やっぱりあいつ残機一個辺りの体力は高くない……っつーか、艤装にされてる下位連中の耐久そのまんまみたいだな」

 つまり、糞みたいな残機数を誇ってるだけで防御力とかは一切強化されてないのだあいつは。おそらく一番相性が良いのは金剛さんだろう、三式弾一発で数百の命を持って行けるはずだ。でもこの部隊にはそういう拡散する武装積んでる人居ないんだよなぁ。私が使える中なら一気に複数を投下する爆雷や魚雷が良いのかもしれないけど、今回ほとんど積んできてないし。

「吹雪に対空任せてあたし達で攻撃する?」

「弾が持たないと思う」

 機銃の弾もう三割も残ってないんだよね。改二でいっぱい積めるからってバカスカ撃ちすぎたわ。深雪と猫吊るしが敵の仕様大体解いてくれて凄く助かったのに、私がやらかしてる感がある。いやそれ以前に純粋に物資不足なのだ。輸送艦一個じゃ足りねーよ。敵の補給線断って戦闘機出せないようにして、こっちは完璧に物資供給しつつ戦艦で殴り続けるような大作戦立てなきゃ倒せない奴だろコイツ。イベボスじゃん。完全にイベントのギミックボスじゃん。そんなもん実装されてんのかよこの世界。

 可能性があるとしたらやっぱり私が殴る事だろう。結局そこに行きつくんだよね、弾が無いからしょうがないんだが艦娘の所業じゃない。いや艦娘である前にチート転生者なんだけどさぁ。

 どこを叩いても同じなら、わざわざ北方棲姫の所まで上がる事も無い。壁をぶん殴ってればいいだけだ。両手が使えるため効率も段違いだろう。ただ、結局避けながらになるのは変わらないから時間がどれだけかかるか知れたもんじゃない。空の連中は無限に見えるくらい際限なく湧いてくるし、もしかしたら先にあれを叩き落として回った方がいいのだろうか。一応飛行高度は跳べば届く程度ではあるんだが。

「あっ」

 ふと、私はそれに気が付いた。つい上げてしまった声に猫吊るしと深雪が気を引かれ、目線をこっちに持ってくる。

「あったわ、弾」

 深雪はマジで!? とびっくりして、猫吊るしは怪訝な顔になった。

 

 

 

 基地の真下まで助走をつけ、今度は殴らずに高く空へと跳び上がる。艦娘も深海棲艦も、航空機はそれほど高い所を飛んでいない。だから私が跳躍すれば余裕で足が届いてしまう。そういえば初めて墜とした時もこれやったなぁと思いつつ、その高度まで到達し、直近の一機を踏みつけて、私はさらに上昇した。

 実は航空機の真上は地上に比べれば割と安全である。深海棲艦の使っているそれらは海上の艦娘や陸上の人間を相手するのに調整された兵器であり、どれもこれも下か正面に向かって攻撃するための調整をされているからだ。もしそれらを踏みつけ足場にしてジャンプ出来るような赤か緑の帽子を被ったナイスヒゲみたいな御仁がいらっしゃったら是非お試しいただきたい。

 幾つか敵機を乗り継いで、やってきました基地上空。眼下に広がるそれはやっぱり大きく、航空写真でも撮ったら目立って仕方がないだろうなと思わされる。私達が見ていた側の反対にも深海棲艦畑は続いており、どうやら全壊するまではまだまだ余裕がありそうだった。だから自爆しながら戦えたんだなあの娘。

 だがその大きさは命取りだ。私だって初めてやる事なので命中率に関しては自信が無いのだが、流石にこれは外さない。適当にやったって余程じゃなければ当たるだろう。端に掠るだけでも本体に当てたのと同じになるみたいだし。

 頭の上の猫吊るしは深海棲艦がゴミのようだとなんだかテンションが上がっている。いや状況がおかし過ぎて面白くなっちゃったんだろうけどね。だって私今、深海棲艦の飛行機踏んではジャンプ踏んではジャンプって無限1upでもやってんのかって挙動してるしね。猫吊るし乗っけてここまでの奇行するの初めてだから仕方ないね。でも私に乗り続けるなら慣れて欲しい。

 それじゃあやるぞと声を掛けると、急にシリアスぶった声になった了解の返事が返って来る。いい返事になんとなく満足しつつ、私は艤装から全身に巡らせていた物理無効化貫通能力の供給を切った。

 宮里提督から空間を越えて送られてくるそれは艤装の中で停滞し、力の途絶えた私の体は深海棲艦にダメージを与えられなくなる。こうなればチート身体能力さんでもどうにもならないのは訓練所で艦娘の皆相手に実験済みだ。だけどそれが今は都合が良いのである。

 私は向かいから飛んで来た丸い敵機の銃撃を、足元の別の一体を蹴って上に躱すと、撃ってきたそいつをすれ違いざまに思いっきり、真下の基地に向かって蹴り飛ばした。

 

 深海棲艦は基本的に物理ダメージを受けないが、物理法則に従って押し出す事は出来る。

 これは自衛隊の皆さんが文字通り決死の作戦で証明してくれた事実である。彼らは艤装が建造され艦娘が配備されるまでの間、そうして戦車や装甲車、時には生身で海まで深海棲艦を押し戻していたのだ。

 たまに艦娘が出て来たから無駄死にだったとか、そんな声を聞くことがある。まぁ、普通に叩かれて消える程度の大きさではあるのだが、私としてはそういう事をいう人たちに大声で言いたい。

 今、現時点で最強の私が戦えてるのは、そういう人たちのおかげであると。

 私の足から射出された球状に耳が生えたような空飛ぶボールは、空気を裂き、音を追い越し、一切の損傷を受けないまま、北方棲姫の脳天に突き刺さった。

 

 完璧に命中した航空機は砕け散り、同時に端の方で一体のロ級が全壊するのが確認できた。よし行ける。深海棲艦で深海棲艦を殴ると攻撃が通るのはここまでの道中で確認していたのだが、航空機で基地をとなるとどうなのか分からなかったのだけれど、しっかりダメージになっているようだ。

 そうと分かれば最早躊躇う理由もない。私はまた一機を蹴り飛ばし、両の手で別の一機ずつを掴み取ると渾身の力で投げつける。三つの星が地へと駆け、基地へと着弾すると同時に三つの命を刈り取った。

 それを見届けながらまた他の機体を足場に宙を踊り、近くの奴を手当たり次第に投げつける。一発、五発、十五発。空から堕ちる幾筋もの流星は、全てが深海棲艦の一塊へと降り注ぎ、その一部を確実に削って行く。

 ああでもやっぱり、あんまり効率は良くないな。所詮私のリーチは中学生女子、高速で飛び回っても限度がある。敵は動くし射線上に入らない様に軌道も気を付けなきゃならないし。どうにも手足の届く範囲が狭すぎる。

 それを何か補えないかと艤装の中に積んでる物を思い出す。でも弾薬じゃあ意味が無い。使っても目減りしない物。それでいて遠くまで届くもの。何か有用なものは無いかと記憶を探り、そして思い出した。別に、武器である必要は無いじゃあないか。

 艤装は小型化した艦であるが為に、普段使わないのにデフォルトで備え付けられているパーツが幾つかある。人によっては外してしまっているが、私の艤装は改二になってから未調整故に、それはしっかり残っていた。訓練場でチート能力頼りの私に技術の大事さを教えてくれたそれは、明らかに間違った用途で振るわれようとしていた。

 足元の敵を蹴り、掴み、投げつつ私を狙う連中の位置を調整する。出来る限り一直線になるように、編隊がばらける事の無いように。条件をしっかり整えて、私は目の前に躍り出る。敵機が私を照準内に捉えた瞬間、渾身の力を込めて、私は鎖を振り下ろした。

 並んだ航空機が纏めて地上へ落ちて行く。勢いは素手でやるより無さそうだが、弱いの一匹倒すのには問題ないだけの威力はあるだろう。私はそのまま縦に回転すると、鎖でもって周囲の航空機を叩き落とし、その全てを砲弾へと変えた。十発、二十五発、五十発。射程が違うから効率は段違いだ。その分難易度が高いけど、それでもチート能力さんは何とかしてくれている。

 勢い余って足場にするための物を残しておくのを忘れたため、私の体は重力に従って落ち始めた。だがまだ慌てるような時間じゃない。丁度良く横を通ろうとしている機体が見えたため、それに向かって鎖を振るう。そして鎖の先端に繋がる錨をそいつに突き刺して、思い切り下へと叩き付ける事で自分の体を空へと再び引き上げた。

 私が振るっているのは艤装の錨だ。海底に付けなければいけないせいか、太さと大きさはともかく長さはかなりあるそれは、実は伸ばすと結構遠くまで届くのだ。これで罠を張られて負けたのが訓練場での私である。耐久力にハンデはあったけどこっちもチート能力ってハンデを付けてた状態なので、あれは実質同条件だったから完全に私の敗北である。異論は教官長本人の物も認めない。

 ただこの錨、普通に攻撃に使うと鎖が千切れる。当たり前だが武器ではないのである。壊れるの覚悟で使う事は出来るけども。しかしそこはチート転生者。チート能力さんを以ってすれば壊さずにさして重量の無い敵機を地面に叩き付けるくらいは出来てしまうのだ。ちなみに地上からだと流石に長さが足りないため空中での運用が前提になるのがネックである。

 周囲の敵機が全滅したため、他の一団の下へ跳んで行き、錨と鎖をぶん回す。撃たれる事は幾度もあれど、地上に居るより頻度は少なく、見切るに大して労もない。腕を振るい、脚を叩き付け、あまりに近ければ頭突きでもって周囲の全てを北方棲姫に向かって射出して行く。

 これでも殴った方がまだ効率は良いのだろうけれど、弾を使わずに安全が確保できるというのが何より大きい。深雪に伝えて貰う事で第三部隊の皆も基地への攻撃へと切り替えたためダメージはさらに加速した。

 この期に及んで北方棲姫は未だ私へのみ攻撃を続けている。余程恨みは深いらしい。私にとってはかなり都合のいい展開ではあるので文句は全く無いけど。そういえば、最初に相談していたらしき個体は影も形も見えないのだがどこへ行ってしまったのだろう。逃げたのか、それとも基地と融合しているのか。もしかしたら今もこちらを見ているのかもしれない、私の制服の色まで把握していたようだったし。

 また一団が消滅したので他の奴らに切り替える。航空機自体はまだまだ飛んできていて弾には困らないからどんどん喰らわせてあげようね。なんて幾つも叩き付け続けていたら、真下から砲弾が飛んで来た。丁度いいのでそれを蹴って自分の軌道を変更しておく。重量のある弾で助かった。

 

 敵は私を殺したくて仕方がないのか攻撃の手を緩める事はなかった。敵機は私をどうにか撃とうとしてくるし、北方棲姫本人も下から砲撃を続けている。一斉射撃はやって来なかったけど、それはたぶん砲塔が上を向いてるのが殆ど無かったからだろう。上空で跳ね続けるとか想定してなかったんだろうなぁ。北方棲姫の周囲、山頂で足場になってた奴らも真っ直ぐに直立し過ぎていて踏み入らなければ絶対に当たらないし。

 とはいえ、空の連中を引っ込めたとしても同じと言えば同じである。その場合は私が直接殴りに行くだけだし、DPSはそっちの方が高いのだ。ついでの話をするならば、この程度なら私の体力は回復速度の方が消耗速度より上である。だって下級一匹倒す程度の火力でいいから全力で振るってないんだもの。そりゃ疲れたりしないよ。殴るより繊細な作業だから神経はそこそこ使うけど。

 だからこの盤面、私が盛大にミスするか、北方棲姫が状況を打破する何かを持っていない限り、艦娘側の勝利になるのである。

 まぁ、時間がかかり過ぎて私の眠気とかが限界を迎える可能性は否定できないため勝ち確ではないんだけどね。とかく敵の物量がどれくらいあるのかが分からないのが痛い。航空機を全部墜としきればもう後は普通に殴って勝てると思うのだけど、建材にしてる奴らの数より少ないって事は無いような気がするんだよなぁ。

 

 打ち落として撃たれて蹴って投げて絡めて体当たりされて避けてと空中戦は長く続いた。機体が砲弾のような勢いで地上へ降り注ぐ度、基地に埋め込まれた深海棲艦達は軋みを上げ、僅かな破砕音と共にその命を散らしていく。

 その回数が数千を数え、空が白み、壁面にもひび割れ体液のようなものを内から溢れさせた個体が目立つようになった頃。北方棲姫は新しい航空機を発進させるのを止めた。

 それが格納している機体が切れたからなのか無意味と悟ったからなのか、正確には分からなかった。しかし、私を見つめる彼女の目には、怒り以外に諦観の光が宿っているのが見え、もしかしたら後者なのかと思わされた。

 私は突っ込んでくる残りの敵機を全て北方棲姫に投げつけると、空から落下を開始する。足場が無くなったので当然の結果だ。位置は基地直上の中央付近。当然天辺の罠の場所からは少し離れている。その罠の中心部に居る小さな深海棲艦の姫は、私に向かって唐突に、短く、率直な、自分の意思を口にした。

「シネ」

 音が聞こえた。それは基地の全体から響いて来た。出しているのは材料にされた全ての深海棲艦達。低く、呻くような、あらゆる物を呪う怨嗟の声。震えは大地を這い回り、私の表皮を撫で、辺りを悪意で満たして行った。

 北方棲姫の口角が吊り上がる。それは、その姿形に似合わない、邪悪を煮詰め顔の形に形成したような表情だった。

 悪寒が全身を走り抜ける。間違いなく私を殺すための何かが来ると理解出来た。

 瞬間、私の視界は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 音と認識すら出来ない衝撃波が辺りを襲った。木々は吹き飛び、大地は抉れ、基地から離れた場所から攻撃を続けていた艦娘達も地面ごと宙へと投げ出された。

 空には見事なキノコの雲。熱と瓦礫が周辺を埋め、攻撃を受けていなかった第三部隊の人員にも、ただ一瞬の破壊の嵐でそれぞれ大なり小なりの被害が出てしまっている。体が痛むのを堪え、起き上がった彼女達が見た物は、轟々と煙を上げ続ける爆発の中心部と、蹂躙しつくされた自分達以外の全てだった。

 自爆。つまりはそういう事なのだろう。戦い続けても埒が明かず負けが見えた北方棲姫は、生きた深海棲艦の多いうちに、その全てを破壊力へと変換して、たった一人を殺そうとしたのだ。

 万単位の深海棲艦が一斉に爆発を起こせばどうなるか。その答えが眼前の光景だ。距離のあった艦娘達ですら無事な者は居ない。衝撃は空間そのものがひしゃげるかのような威力で一帯を薙ぎ倒して行った。では、中心で戦っていた人間などはどうなったのか。

「伊吹……?」

 呟いたのは島風だった。位置が良かったのか部隊の中でも艤装の損傷が少なく、服も土埃にまみれてはいたが殆ど解れもない。それ故、一番に起き上がり、一番に状況を把握してしまった。基地の方向を見つめ、呆然と立ち尽くしている。

「何?」

 ので、後ろから返事をした。呼ばれたし。

 

 

 

 先に言っておくと私は無傷である。

 爆発の瞬間、魚雷を前方に射出して衝撃を軽減し、流れを見切って爆風から身を守ったのだ。私のチートボディと来たら、脱力と緊張を繰り返してそんな事までやってくれたのである。消力かよ。

 いや魚雷の功績が大きかったんだけどね、今度から絶対持ってくわ。使い辛いとか言ってすまんかった。どう考えても使い方間違ってるけど凄い有能な子だったわ。

 猫吊るしも無事で、そもそも半実体だからというのもあるだろうが、私と同じように受け流していたようだ。こいつも自分の体を完全に使いこなせるチートだからだろう。実は同じ大きさだったら私より格闘強かったりしない?

 私達は着地も無事に成功したのだけれど、空中に居たせいで滅茶苦茶遠くまで飛ばされて、走って戻って来たら丁度島さんが声を出したところに遭遇したという訳である。

 島風はオッ!?と驚いた鳴き声を上げると、こちらに振り向いて名状し難い表情になった。呆れてるのか喜んでるのか、よく分からんがとりあえず、無事を喜び合う前に言わなきゃならん事がある。

「前向いて島風、まだ終わってない!」

 私の言葉に驚きの声を上げつつ、島風は基地のあった方向を向いた。いや、まだ基地はあるのだ。遠くへ吹き飛ばされながらも、私のチート視力はそれを捉えていた。

「おいおい、あれで死んでないっての?」

 少し離れた所で無事に起き上がった川内さんがこちらに駆けて来る。中破くらいのダメージを受けているが、戦闘自体はまだ可能だろう。他にみんなも各々態勢を立て直し、全員でモクモクと上がる煙が収まるのを見つめていた。

「いえ、たぶん北方棲姫は死にました。ただ……」

 煙が収まりを見せ、空に広がった雲だけが残る。その真下には、黒い金属質の、深海棲艦の埋め込まれていない、普通の壁が見えた。

「おそらくあれ、小規模な基地の上に無理矢理積み上げたものだったんじゃないでしょうか」

 赤城さんの報告では、ここにあるのは比較的小さな施設であるはずだったのだ。なのに、私達が相手したものはかなりデカかった。おそらくは、発見してから数日中に突貫工事であのサイズになるまで組んだのだろう。だから砲塔の向きとか揃ってなかったのかもしれない。

 爆発の跡にはよく見るおかしな個所の無い、全く普通の敵基地が建っていた。基地の上部には姫級らしき影が動いており、それは自身の手に持った小さな別の深海棲艦――おそらくPT小鬼かなにかの死体を忌々し気に放り捨てていた。

「という事は、残ったアレさえ壊しちゃえばうちらの勝ちって事やな?」

 基地には無数のひびが入っており、どうやら無傷とは行かなかったように見える。味方の自爆ダメージで瀕死とかちょっと可哀想かもしれない。だがこちらとしてはかなり助かる。こっちもあんまり状況良くないし。

「って言っても、もうあれなら吹雪が撃って終わりじゃない、弾はまだあるでしょ?」

 叢雲の言う通りである。あれだけダメージが入っていて、さらに本体であろう姫級が見えているのでもう私が撃てば終わる。終わるんだけどね。

「それなんだけど、すみません、川内さん報告があります」

 どうした、と川内さんはこちらを向いた。そして、私の状態に初めて気が付いたようだった。

 私は無傷である。それは間違いない。何なら制服も破れたりはしていない。私は爆風を受け流して、全くダメージは受けなかったからだ。でも、受け流すのには力を抜いたり入れたり、柔軟性が必要だったんだよね。

 

「輸送艦吹雪改二、轟沈しました」

 

 私の背負った艤装はね、鉄の塊みたいなもんだからさ、柔軟性とか無かったんだよね……

 

 ぎょっとした視線が集まった。みんな事態を把握して、沈黙が下りる。どうすんだこれ、いや、別に私この状態でも殴りに行けるけど、その説明から始めなきゃいけないだろうか。

 基地の方からはあの糞餓鬼めと姫級の罵り声が微かに聞こえる。チート感覚さんのおかげとはいえだいぶ大声で叫んでいるらしい。キレ散らかしていらっしゃる。

 そんな周囲の沈黙を破ったのは、白い制服を着た司波艦隊の吹雪であった。

 

「あ、じゃあ私の艤装使いますか? 同じ吹雪……なんですよね? 一応」

 

 基地は壊滅した。

 

 

 




たぶんこの戦いで一番肝を冷やして胃や心臓を痛めたのは自分の出番が回って来た上突然吹雪が轟沈したのだけ伝わって来た宮里提督。
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