転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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実は色々漏れてるのだが気付いていない系主人公

 ポーラさんを医務室に預け、ついでに寝落ちした那智さんから掛けられていたポーラさんの衣服を回収し、宮里提督にちょっと禁酒しましょうかと言われて半泣きになっている彼女の横にそっとおいておく。その時、提督から今日は待機してくださいと言い渡された。どうやら艤装の修理などの都合らしい。あと、予備だった艤装の改二への改装に私自身が要るからかな。

 失礼しますと退出して食堂へ向かう。道中響さんと合流したが、既に制服に着替え涼しい顔になっていた。トイレに駆け込んだ割には平素と変わりない様子で、あんまり表に出ないのか本当に大丈夫なのかは定かではないが、たぶん禁酒命令も出されずに済むのだろうと思われる。

 そのまま島風も含めた三人で朝食へ赴くと、食堂では既に多くの人達が食べ始めたり終わったりしていてそれなりの賑わいを見せていた。ポーラさん関連で色々あったせいで微妙に出遅れてしまったようだ。どうやら今日は焼きたてのパンが出されているらしく、妖精さんがミトンをつけて窯でごそごそやっているのが見える。どう見てもサイズ感おかしいんだけど、人間向けの大きさでちゃんと出て来るので結構力持ちなのかもしれない。

 私達も食事を頂こうとカウンターの方へ頼みに行くと、丁度そこで秋雲先生に出くわした。ちょっと夢見がアレだったせいで、先生の左腕をじっと見つめてしまう。でも、どうやら特に問題なさそうで手はちょっとペンだこか何かの痕はあるだけで綺麗なものだった。

「ん、どうかした?」

 秋雲先生が怪訝な顔になる。ちょっと注目しすぎて疑問に思われてしまったようだ。ただの夢なので何があるという訳でもなく、誤魔化しに今度また漫画を見せて欲しいと頼んだところ快諾された。許可取れたらweb公開したいらしいので、知り合いに読まれるのも抵抗は少ないっぽい。

 

「吹雪ー、走り方教えてー」

 流れで秋雲先生も合流し四人で相席してクロワッサンやサラダを頂いていると、島風がそんな事を言い出した。

 さっき今日はある程度の自由になると知らされたばかりで特に私達に予定は無い。だから、暇な時間にって事なんだろう。戦って帰ってきてから長良さんや最近では那智さんとも中庭や外周回ったりする事があるし、並走したりするのは全く構わんのだけども……それ以前の問題として。

「いや島風の方がフォーム綺麗じゃん……」

 私の方が速いというだけで走るのは島風の方が上手なのである。そもそも島風は、普通の公立校で専門のトレーナーが付いてる訳でもないのに同年代最速クラスのタイムを叩き出す天才である。お前もっといいとこ行けよって思うし、深海棲艦が来なかったらそうなってたんじゃないかと思うんだが、ともかく私から教えられる事とかは存在しない。チート能力さんは自分のフォームは最適化してくれるけど、私の場合不自然な筋力の方に合わされちゃうから普通の走る姿勢とは違う形になるし、いわんや他人の走り方をや、なのだ。

「そうじゃなくて! さっきのポーラさん持ってった奴!」

 あっ、さっきのやつかぁ、うん、まぁ、当たり前だけど見られてるよなぁ。その場で特に言われなかったから気にしてないのかと思ったけど、そんな事はなかった様だ。寮の廊下にポーラさんの口から出る淑女を巻き散らしたくなかったから咄嗟にやったのだけど、ちょっと面倒かもしれない。

 正直、転生云々はともかく、自分の身体能力を隠すつもりが最早私にはないので時間の問題だったとは思う。そもそも生放送の時に高速移動したしな。カメラの前で。あれ検証動画とか上がってて艤装ってヤバくね? って主張の論拠に組み込まれたりするから私のやらかしの中でも最上位のミスだったりするんだよね。

 だから速さを求め続ける島風がどうやってるのか知りたいと思うのは分かる。スゲーよく分かる。でも、今は止めて欲しかったかもしれない。向かいの秋雲先生が左手の箸を置いてネタを期待する目でこっちを見ているし、周囲のテーブルには真相を追う青葉さんや力を求める曙が居たりするのである。説明し辛い。

「私もあれやりたい!」

 島風は目を輝かせ鼻息荒めに言ってくるが、技術でやってるとは言い難い所業なのでとても困る。島風は艤装の影響が出てきているが、私レベルの筋力があるという訳ではないため、あれは出来ないんじゃないだろうか。

 というのを説明したい所なのだが、そもそも艤装を使っていると身体能力が上がるっぽいというのは秘密である。島風は知っている事だし、皆大体勘付いてるらしいけど、だからって雑談で言っていい内容じゃないんだよなぁ。

 秋雲先生には悪いけど、後で自室に戻ってから話せばいいだろうと判断して、どう言うか考える時間を稼ぐために口に入れたレタスを咀嚼していると、入り口から深雪と叢雲が入ってくるのが見えた。少し遅いのはまた深雪が手間を掛けさせたのかもしれない。二人――というか深雪は、私を見つけるとおはようと元気に挨拶してこちらに寄って来た。

「なあ吹雪、昨日聞きそびれたんだけどお前、いつ輸送艦になったの?」

 レタス吹くかと思った。

 そういや口走ったような気がする。淡路島で、報告のために。しかも改二って言ったような気もする。旗艦だった川内さんには説明してあったけど、他の娘達にはさっぱりだったもんね。そりゃ疑問に思うわ。制服も黒くなってるしな。っていうか今着てるしね。一人だけ服も変わってたらそりゃ目立つわ。でも一応機密です。不老化はやべーからさ。話せないんだよな。誰だよ機密漏らした奴。私だよ! 失態多めでお送りしてるよ!!

 秋雲先生の目から逃がしてくれなさそうな光が放たれる。曙も輸送艦……? と呟いてこちらを見た。青葉さんも聞き耳を立てているようでちらりとこちらを窺っている。響さんは二つあったクロワッサンの内一つをナイフで切るとサラダを詰め込みサンドイッチを拵えた。

「あとさ、あの爆発で艤装壊れてたんだよな? 着地の時に体痛めなかったか?」

 深雪様……お前結構鋭いのな。普通に心配してくれてるみたいなんだけど、なんとも答え辛い質問である。艤装が壊れ、その後に数百メートル吹っ飛ばされながら上空から落下したわけで。爆発で死ななくても普通はそれで死ぬもんなぁ。チート能力さんのおかげで無傷で切り抜けられたけど、受け身どうこうでどうにかなるレベルじゃない。

 深雪に他意は無さそうで、この後出撃で今しか機会がなかったから問いを投げかけて来たのだろうと思われる。でも島風のも深雪のも答え辛い。

「吹雪の艤装は機密だってー。そのうち発表されるって言ってたけど!」

 そう思っていたら何故か回答したのは島風だった。

「あれ島風知ってたの?」

「吹雪が黒くなってすぐ提督に聞いたよ!」

 そりゃそうか。私の説明だけで納得したわけでもなかったらしい。ちょっと改装しただけとしか言ってなかったから当たり前の反応である。深雪もそっかーとそれじゃあ仕方ないなって反応をしていて、私が思っていたより機密だから話せないというのは効果があるようだった。まぁ、知ってはいると公言してるようなもんだから多用はしたくないけど。

「体の方は大丈夫だよ。お医者さんも問題無いって言ってたし……着地はほら、私結構運動神経良いから」

 結構……? と叢雲が半眼でこちらを見つめて来た。いやだって、チート能力さんのおかげだから超良いと言い切るのもどうかと思われるんだもの。

 

 二人が朝食を貰いに行き、島風がさっきあった半裸ポーラさんの話を秋雲先生にし始める。明日には鎮守府中に広まってそうだなぁ、などと思っていると、今度は響さんがクロワッサンサンドを頬張りながら私の事を見つめている事に気が付いた。さっきぶちまけてたみたいだけど大丈夫なんだろうかと思いつつ見つめ返してみると、響さんはゆっくりと胃の中にそれを詰め込み、お茶を啜ってから思っていた事を口に出した。

「着地したという話は艤装を使うと身体能力に影響があるという噂と関係あるのかい?」

「話聞いてたんですね?」

 なんか全然聞いてない風だったのにちゃんと内容は頭に入れていたらしい。油断してて思った事が口に出てしまった。

「何故だろう、よく言われる。だけど私はちゃんと聞いているよ。そんな事より回答が欲しいな」

 慣れているのかあんまり私の失礼な言葉は気にしていない風で、知りたい事を追及してくる。と言われても、体への影響に関しては猫吊るしから提督たちにも伝わって、改めて内緒にするよう言われているので教えられないんだよね。

「申し訳ないんですが言えません……」

「そうか。まぁ、それならそれでいいんだ」

 響さんはそう言うとお茶を飲み干し、改めて私の方に向き直る。実は胃が辛かったりするんだろうか。

「もう一つ、私達の名前についても聞きたいのだけど」

「ああ、やっぱり皆さん気付いてるんですねそれ」

「第二期にも結構居たからね。一期の方が数的には多かった様だけど」

 スマホコミュニティの方でも相当話題に上がっているらしく、響さんも気になっていたらしい。しかしこれに関しては猫吊るしすら知らないらしいので本当に答えが分からない。楠木提督なら知ってるんだろうか。

「私もよく分からないんですよね、興味はあるんですが、被る場合があるのも最近知ったくらいです」

「そうか……うん。参考になったよ。ありがとう」

 どう参考になったのかはよく分からなかったけど、響さん的には収穫があったらしい。私に礼を言うとそのままご馳走様と席を立ち、トレーを厨房の方へと返却しようと歩き出す。その途中で、ふと足を止めてこちらを振り返った。

「そうだ、役に立つかは分からないけど、私の名前を教えておくよ。私は本名を真頼 響というんだ」

 つまり入っている側だね、と響さんは笑った。響さん、そのまんま響だったのか……

「それと、那智と文月も入っている側だよ。特に文月はなかなか……」

「待って響ちゃん!!」

 突然、愛らしくよく通る音が辺りに響き渡った。見るまでもなくその天使のような声の主は文月である。ガタリと音を立てて食事の席から立ち上がると、私達の方へと小走りに駆けて来た。

「自分で! 自分で言うからぁ……」

「そうかい?」

 響さんは小首を傾げて私の方へと道を譲った。文月はありがとぉと伝えると、こちらに向かってとぼとぼと歩いてくる。なんか凄い言いたくなさそうなんだけど。

「別に、嫌なら無理に教えなくてもいいんだよ? 私も知られてるだけで言い回ってる訳じゃないし」

「あっ、いや吹雪さんに言うのが嫌とかじゃないですからっ」

 文月は少し慌てた様子だった。私もそんなつもりは無かったので内心ちょっと慌ててしまう。言葉の裏で強要したみたいに聞こえたかもしれない。ヤな先輩である。

 文月は落ち着くためにか一回深呼吸をすると、思いっきり空気を吐き出した。よしと気合を入れるとペンと手帳を取り出し、そこに何やら大きめの文字を書き込むと、こちらに見える様にテーブルの上に差し出した。

 まず最初に文の文字があった。

 その次には月の文字があった。

 それで終わりだった。

「……これが本名って事?」

「はい」

「文が名字で、月が名前?」

「はい」

 成程無駄が無い。

 いや無駄が無いとかそういうのは置いておいて。確かに名前に意味がありそうという状況でこれは言い出し辛いかもしれない。まんまじゃんこれ。島風もオウッと鳴いている。文月は表情の無い顔ですっと名字を指差した。

「それで、これ『文』って書いて『かざり』と読みます」

 失礼ながら『ふみ』ではないのがちょっと残念だと思ってしまった。本当に申し訳ない。

 文月は次に名前の方へ視線と指先を向けると躊躇うように一瞬だけ目を閉じ、俯きがちにこちらを見て、おずおずと口を開いた。

「その……吹雪さんは『DEATH NOTE』って読んだ事、ある……?」

「あー」

 天使じゃなくて神であらせられたか。新世界の。

 

 

 

 

 

 戦闘部隊の面々が戦いに出てから大体一時間。お別れになる初雪と金剛さんを見送りに私達は門外まで出て来ていた。提艦隊までは車で行くらしく、スモークガラスで中が見え辛くしてある一般車が鎮守府に着けている。相変わらず普通の車に擬態して行くようだ。

 さて肝心の二人であるが、案の定というかなんというか、初雪はかなり抵抗した。割と宮里艦隊の人間――というか主に私や秋雲先生、最近だと文月とも趣味が合い、出撃時以外はだらけてもそこそこ許されるのが気に入っていたらしい。

 いや、これ初雪が優秀だったから許されてたらしいんだけどね。初雪はあんまり熱心に艦娘としての活動をするタイプではない。なので向上心の高い曙なんかとはそりが合わない訳なのだが、そこに文句を付けられるほど二人の能力差は無かったようなのだ。訓練所でも射撃の成績最上位だった初雪は、対艦対空対潜を問わず敵に当てる事に関しては駆逐艦の中でも群を抜いているのだとか。

 翻って提艦隊ではどうだったのかというと、なんか初雪さん、私生活だらしないけど頼れる年長者みたいな立ち位置だったらしいのである。

 これを最初に金剛さんから聞いた時、私の頭の中は疑問符で埋め尽くされた。だって私は初雪がしっかりしてる所とか見た事無いからね!! 逆に金剛さんからしたら年下に甘えに行く初雪の方がびっくりだったらしいけど。

 いや考えてみたら初雪は全艦娘の中でも年長の方なのでおかしくはないんだよね。っていうかむしろ年下に甘えてる方が変な訳で。もしかして私が居ない方がしっかりするのだろうかと思ったが、そのうち提艦隊に返却されるし、と本人の好きにさせていた結果が一回り以上年下の娘の膝でふにゃふにゃになりながらアニメ見てスナック摘まんでる初雪ちゃん(大学院卒)である。今考えると絵面が酷い。

「いやじゃぁ……あんな鎮守府に帰りとうないぃ……」

「なんで初春みたいな口調になってるんデス?」

 金剛さんに米俵のごとく担がれた初雪が泣き言を漏らしながら運ばれて行く。よほど嫌なのか肩の上でじたばたともがいているが、金剛さんは微動だにしなかった。艤装の影響出てない?

「でも初雪、提艦隊の方がちゃんと休み取れると思うよ?」

「そこに関しては本当に申し訳ないと思っています……」

 私の迂闊な発言に、一緒に見送りに来ていた宮里提督が少しだけ沈んだ表情になった。仕方ない所なので気にしないでくださいとフォローを入れておいたけど、やっぱ罪悪感強いんだなぁ。

「お姉ちゃんは……あそこの実態を知らないから簡単に言えるんだよ……」

「Hmm~? 皆いい子ばっかりでいい所だと思いますけどネー?」

 流石金剛さんは恋敵だろうがなんだろうが皆に対して好感度高めであるらしい。極根明の彼女にとっては大好きな提督も居る為早く戻りたいのが提艦隊という場所のようだ。

「金剛は当人だから気にならないんだろうけど……! エブリデイシュラバヤ沖海戦なんだよあそこ……!!」

 だがしかし、初雪からしたら金剛さん達はバチバチやり合ってるようにしか見えないんだそうな。なんで年長者だからって彼氏居ない歴=年齢の喪女が恋愛相談されにゃならんのだと初雪は嘆く。しかも複数に相談されるのに相手の男は一人である。穏便に事が進む様にかなり気を使わされるらしい。

「せめてお姉ちゃんを提艦隊にください……!!」

「Wow! それはnice ideaだネー!」

「勘弁してください……」

 二人とも私を持ち帰ろうとしたが、宮里提督にお断りされた。当たり前である。その後金剛さんに車に積み込まれた初雪は、涙ながらに提艦隊へとドナドナされて行った。まったねーと手を振る島風と連装砲ちゃん達にはちゃんと手を振り返していたので本気で気落ちしてるとかではたぶん無いだろう。どうせまた大きい作戦あったら会えるだろうしね、次は九州かな?

 

 

 

 

 

 二人を送り出してから暫くして工廠に呼び出され、予備だった艤装を改二に改装した。前回と同じように光る艤装に私が触れる事で完成したのだが、しかし中に缶詰が生成される事はなかった。あれは一回目にしか出て来ないらしい。レア装備の量産とかは出来ない仕様の様だ。残念。

 工廠の皆様はだいぶ疲弊してらっしゃる様子で、それでも妖精さん達がわちゃわちゃと高速輸送艦吹雪を改装している間も他の艤装を着々と仕上げていた。猫吊るしによると夜の間に戦艦や空母を優先して修理したらしく、予備のある駆逐艦の皆は今日はそっちを使って出撃していて、普段使いの物を現在修理中なんだとか。大変な職場だなぁと眺めていたら、猫吊るしに完成した艤装の運搬を頼まれて、ついでに調整待ちの間少しだけ働かされる事になった。

 仕事自体は別にいいんだけど、艤装付けてない状態で身体能力大公開になっているのはどうなんだろう。そう思いつつ大和の艤装を猫吊るしの所まで持って行く。やっぱりデカくて普通に持つにはバランスが悪く、材質も相まって普通の人間では持ち上げられそうにない。

 床置きだとやり辛いとの事なのでゆっくり傷つけないようにクレーンに吊るし、下からよく見てみると装甲が結構削れている。やっぱり戦って被弾していたのは間違い無いようだ。本人からは言われていないが、噂では姫級ぶちのめしたらしいとされていた。本当なら戦力になりそうだけど、そういう話は聞こえてこない。やっぱり燃費が問題になるんだろうか。食料に霊的資源を持ってかれるからなぁ。

 

 運んだり資材や在庫の整理をしている間に私の艤装の調整が終わり、とりあえず試用してみたが特に問題は無さそうだった。今まで使ってた奴と特に変わった感覚は無く、妖精さん達の匠の仕事ぶりが伝わってくる。

 折角なので海の上を駆けて気持ちのいい午前の風を受けつつ、妖精さんが大丈夫な速度の限界点を探っていると、陸の方から島風が呼んでいる声が聞こえてきた。行ってみればポーラさんと一緒になって私を探していた様子で、走り方教えてーと朝の続きが始まった。

 まぁ教えるのはいいけどたぶん出来ないよ、と言ったら島風は自尊心を刺激された様子で工廠へ向かって行った。とりあえず艤装を付けた状態で出来ないか試す心づもりらしい。変なフォーム覚えて走り方が崩れる方が問題だと思うんだけどなぁ。

 残されたのはポーラさんである。この人、どうやら今日は元々待機の予定だったらしく、そのせいで飲み過ぎてしまったらしい。と自己申告していた。どうやら昨晩の記憶は曖昧のようで、隼鷹さんや響さん、那智さん等と楽しく飲んだという結果だけが残っている。大破まで行ってる艤装を工廠で見たから、もしかしたら死線を潜り抜けた反動だったんじゃないかと思わんでもない。でも共同生活の場であられもない姿で爆睡キメるのは許されねぇんだ。未成年多いから仕方ないね。

 そんな訳で配属されたばかりのポーラさんの鎮守府案内を島風に任せて、私は自分の艤装にかまけさせて貰った訳である。ポーラさんは穏やかそうな表情で私達の遣り取りを見守っていて、島風が走って行った時もいってらっしゃ~いとふわふわした調子だった。基本はおっとりした感じなんだろうか。

「……うららかなこの日にこんな美少女たちにお酌されたいだけの人生でした……」

 いややっぱただの飲兵衛だわ。

「もしかしてポーラさん結構ネットとか見ます?」

「見ますよ~。仕事から帰って、缶ビール開けてぇ、パソコン立ち上げてぇ、ぐいっと…………飲みたぁい……」

 しょんぼりしてしまった。いやまだ禁酒半日もしてないですよね? なんならまだちょっと体にアルコール残ってるくらいですよね? つーかこの人自身結構な美人さんなんだけどなんか色々駄目な匂いがする。アル中系OLキャラみたいな匂いがする。誰かザラ姉様連れてきて。

「そういえばその節はご迷惑をお掛けしました~」

「ああいえ、凄く揺れたと思うんですが体調は大丈夫でしたか?」

 口から色々出てたしまず大丈夫ではなかったろうけど、今は顔色も悪くない。実際問題無いらしく、元気ですよ~とポーラさんは力こぶを作って見せた。あんまり出来て無い。

「禁酒命令が出たから…………一週間くらいは痴態をお見せする事も無いと思いますので~」

「期間開けたらすぐ飲むつもりなんですね?」

 艦娘は基本的に公序良俗に反さない範囲で自由に過ごしていい事になっている。なので提督直々の禁酒命令が出た事自体珍しい……というか宮里艦隊では初めてであり、期間も短く一週程度らしい。そもそも慣れるまではちょっとお酒は止めて戦いに集中しましょうって話だったみたいなのでポーラさんのためでもあるんだが、たぶんこの人は解禁即深酒する気だ。どんだけお酒好きなんだろう。

「前後不覚にならない程度に抑えておいた方がいいのでは……」

 私の言葉にポーラさんはゆっくりと頷いて、本当ならそうなんですがと言って説明を始めた。

「私、宮里艦隊にはいろんなお酒が売ってるって聞いて楽しみにしてたんです~」

 確かに、ここの酒保はやたら種類豊富なお酒を置いている。噂ではみんな給糧艦謹製のお茶で疲労回復に努めるせいでソフトドリンクが全く売れないからと、隼鷹さん需要の見込める高級酒を取り揃えたとか言われていた。実際生放送前くらいからだんだん増えていたので間違ってないと思う。

「来てみたら想像以上でした~。お値段も良心的で、お給料も増えたのでー、今まで我慢してた大吟醸……ちょっとお高めのお酒なんかも手が届いちゃうんですよ~。もう飲むしか無いです~」

 見た目はともかく中身が日本人なせいか日本酒も嗜むらしい。前世じゃ私も嫌いじゃなかったがその執着心はよく分からん。

「そう、お酒は百薬の長~命の水と申します~。つまり命の供給なので、止めたら心身ともに栄養不足で不調を極め、やがて死に至ります~」

 何言ってんだこいつ。

「そういう訳なのでもしポーラが一本開けてても提督にはご内密な方向で~」

「あっはい絶対通報しますね」

 ご無体な~とポーラさんは笑った。流石に冗談だったらしい。冗談だよな……?

 

 

 

 昼まで海で走り回り、結局習得は出来なかった島風と共に昼食を終える。ポーラさんが端の方で缶を開けていたのでちょっと見てしまったが、ノンアルコールだったので通報は止めておいた。執着が凄い。

 食堂を出て、四国関連の報道がどうなったのか調べようと部屋へ向かう道すがら、酒保の前を通りかかると会計の人に呼び止められた。何かと思えば私と島風宛てに荷物が届いていたらしく、さほど大きくない包みをそれぞれ一つずつ手渡された。ダンボールに入れられたそれは軽く、私の方の中身に関しては察しが付く。でも島風の方は何だろう、まぁ買い物の一つや二つはするだろうから同時に届いても不思議ではないけども。

 

 部屋へ戻ると島風は手早く中身を検め始めた。私もそれに倣って開封し、ちゃんと現物を確認する。中身はたぶん注文した通りの品で、ちょっと心配だったが思ったよりは頑丈そうだった。

「はい、これあげる!」

 私より手早く作業を終えた島風が、取り出した箱をこちらに向かって差し出した。虚を突かれてちょっと私の動きが止まる。それ自分のじゃないんかい。

「じゃあこっちのもどうぞ」

 かく言う私のも自分用じゃないのである。中身は以前注文した島風用の指輪を付けられるネックレスチェーンだ。銀色系のシンプルなデザインで、強度と島風の趣味から選考された物なのだが、ケッコン指輪とは結構合うと思われる。どっちも装飾少な目だしね。

 お互いに箱を向け合って謎の緊張感が走るが、島風の方が先に動き、同時に互いのを受け取って事無きを得た。島風が箱を開きに掛かるのを尻目にいったい何をくれたのかと手元を見れば、そこにあったのは渡した物と全く同じネックレスチェーンである。あれ間違えたかなと指輪を付けようと弄り出している島風を見るが、私の渡した物は間違いなく島風の手に渡っていた。

「島風これ」

「お返し」

 若干そっけない感じで、チェーンとリングを接続するのに集中してる素振りの返事が返って来た。まぁ、そんな高い物でもないし、悪い気はせんのだけれども。

「私これに付けるようなもの持ってないんだけど……」

「おうっ? じゃあそれはまた今度あげるねー」

 そこまで考えてなかったらしい。いや私があげた指輪は支給品だから、ちゃんと買って贈られるのはなんか悪い気がするわ。

「別に気にしなくてもいいよ」

「えー、収まり悪くない?」

 まぁ、これは本来何か付ける前提の物なのでそれはそうかもしれない。でもなぁ。

 とか思っていたら、顔にでも出ていたのか島風は私の感情を読み取ったようだった。

「じゃあ誕生日にあげるね!」

 誕生日プレゼントならいいでしょ、と島風は言う。漫画の単行本だったとはいえ私も贈ったから拒否権は無いものと思われる。どんなのがいいかとこちらに質問してくるくらいで、誰がどう見たって注文する気満々だし。

 ちなみに私の誕生日は11月だ。まだちょっと先なので暫くは何も付いていないこれを付ける事になる。まぁ付けるためのパーツはあるから本当に何にもないって訳じゃないし……まぁ、いいか。

 この日以降、島風はちゃんと服の下に指輪を提げている事が多くなった。これで適性値は上がるだろうか。上がったら上がったで改二に近づくのだろうし、良いのか悪いのかはよく分からん。けどまぁ、島さんはそこそこ気に入っているようなので良いのだろうと私は思いました。まる。

 

 




初雪はこの後自衛隊勢力の強まった提艦隊で多少しっかりさせられながらお前らショタコンかよとツッコみ続ける毎日を送らされます。健康的ですね!
なお中二がショタかどうかについては異論を認めます。
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