転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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※説明の許可は出ています

 四国への航路が確立して早二週間。宮里艦隊はまた拠点の位置を変えていた。今度の場所は四国側で、三人部屋だったので久々に曙と一緒になった。部屋の定員が度々変わるのは工廠を設置出来るかどうかを重視して場所を選んでいるかららしい。

 私と島風とは行く先が違うので朝晩くらいしか曙とは一緒にならない訳なのだけど、なんか前より雰囲気が刺々しいというか重々しいというか、やっぱり色々抱え込んで放出できなくなってるように見える。まぁ原因ははっきりしてるんだが。

 前回の大作戦、曙は小破で戦いを終えている。轟沈した艤装も多かった中でこれはかなり優秀と言える結果なのだが、曙はこれに満足できなかった。何故なら、本来なら曙は沈んでいるはずだったからである。

 まぁなんだ、つまり曙は庇われてなんとか生き残ったらしいんだよね、しかも代わりに沈んだのが漣だったとか。そのせいでメンタルは大悪化、以前より修練に身が入り、戦闘中は目がギラついてると聞く。漣自身は元気にしてるらしいけどそういう問題ではないようだ。

 ちょっと心配な状態なのだけど、別に悪い事をする訳でなし、私達に当たったりするわけでもなしで何か言うタイミングとかもない。そもそも一生懸命さが加速してるだけな人の何を注意すりゃいいのかという話である。休めって私達が言っても説得力無いしな。みんなほぼ毎日出撃してるし。

 なのでちょっと島風に押さえて貰って強制的にマッサージだけしておいた。抵抗されるなら話のとっかかりになるだろうと思ったのだけど、曙はやってる最中に寝息を立て始め、そのまま朝まですやすや行った。仕方ないので全力で解すだけ解したけど、割と柔らかかったから疲れが溜まったりはしてなさそうだった。

 セクハラ案件だけど許してほしい。ほら、女子中学生が上級生にじゃれてるだけだから。ガワは。

 

 

 

 今日も今日とて出撃だーと会議室に集まって本日の目標等の指令を受ける。前日までは概ね泊地潰しと迎撃だったので今日もそれかなと思ったのだが、今日は毛色の違う話がやってきた。決まったのが昨晩も遅い時間だったらしく大本営側も対応に追われたらしいその任務は、地上での護衛と討伐である。

 一昨日、四国内部で自衛隊の輸送部隊の護衛や索敵に当たっている艦隊が、陸上で姫級を発見してしまったらしいのだ。その時は偵察機を囮に全員撤退に成功、被害は特に出なかったのだが、その姫級は海へ戻って行くどころか輸送ルートのすぐ近くに居座ってしまったんだとか。

 だから少数で派遣出来て地上の姫級でも討伐可能な宮里艦隊の第四艦隊――つまり私と島風が派遣される事になったのだ。他のみんなは昨日までと一緒で、太平洋沿いに四国周辺の変色海域を解放して行く作業である。

 今攻めている海域は大阪湾付近のように大量の航空機が飛んでくるような事は無いのだけど、不定期に太平洋から姫や鬼を含まない艦隊がやって来て、油断すると核を設置して行く嫌な所だ。倒すのは楽だけど広範囲に散発的にやってくるものだから部隊がいくつか別れて展開、かつ適性外の空母の人達までフル稼働で警戒網を敷いている。そのために他所の鎮守府から異動して来た人達も居るくらいで、元居た所には民間から登用された適性低めな艦娘達が穴埋めで入っているらしい。なお安全性皆無なのでそういう人達は宮里艦隊には来ない。

 この海域何が困るって、襲撃が一日中やって来る事なんだよね。夜間飛行向きのを揃えてなかった――というか北方棲姫が対私用に温存していたっぽい――淡路島までの道中では夜中の襲撃はそんなになかったんで昼間に寝て夜戦だワッショイしてどうにかしてたんだけど、今回は朝昼晩と深夜まで遠慮なしの突撃をやたらめったらかましてくる。おかげで川内さんは今回もほぼ毎日真夜中に出撃する羽目になっている。本人大喜びだけど。

 

 

 

 

 

 そんな訳で四国を反時計回りに戻って行って、主に四国内部で活動している人達の鎮守府まで島風とぶっ飛ばしてきたのである。陸地を車で行くより艤装で滑走してった方がずっと速いため大して時間はかからなかった。まだ日も高くなく、さっさと終わらせれば今日中に帰れるかもしれない。まぁ護衛も仕事の内だからそっちがどうなるのかにもよるけども。

 今回は猫吊るしも同行してくれている。陸地での戦闘になる予定だから念のためだ。工廠は人数増加で航空機の整備に追われているが、こっちも少し増えたので何とかなっているらしい。出来るだけ被弾しないようにして負担を軽減したいと思う所存です。

 

 目的地が見えたので速度を緩めると、島風はいっちばーんと陸に向かって突っ込んで行った。連装砲ちゃん達もミューキューキャーとそれに続く。お前らその勢いで建物まで行く気なのかと思いつつ埠頭に着け、上まで跳び上がって、私は普通に歩く事にした。なんか恥ずかしいし。

 少し歩いて波の音より生活音や整備の音がしっかり聞こえるようになってきた頃、前の方から四角い頭に二本の砲身を生やしたシルエットがこちらに向かって短い手足でトテトテ走って来た。かわいい。何かあったかと思いしゃがんで目線を合わせると、その子は不思議そうな、でも少しふてぶてしい感じの表情でこちらを見つめ返してくる。

「連装砲ちゃん……?」

 いやなんか違うなこの子。可愛いのは可愛いんだけど、普段見慣れた無邪気な感じとはちょっと違う。ニヒルというか、斜に構えてる感じの顔付きをしているように見える。もしやこの子は別個体か。第二期の適性者に使える子が居たのだろうか。

 ちょっと気になり持ち上げてみると、驚いてしまったようで歯を食いしばって手足をばたばた振り回しだした。かわいい。でもどうして走って来たのだろうと思いそのまま奥の方を見てみれば、向こうの方から辺りを見回して何かを探している長髪の娘が目に入った。相手もこちらを見つけたらしく、小走りに駆けて来る。

 その子は最初は私が両手で掴んだマスコットのような兵器に注目していたのだが、近づいて来て私の顔を認識すると、おっと小さく声を上げ、私の頭上の猫吊るしを見てんっ? という表情になった。だが手の届く距離まで近づいてくると私のいで立ちに興味を引かれてしまったらしく、面白そうに顔を近づけて黒い制服の観察を始めた。

 私の方もその子の服装をよく見る事が出来たのだが、その子は何故か制服の上から白衣を羽織っている。まぁ、おかしくはない。なんせその下が高いヒールにガーターベルトを履いて、スカートは穿いてないみたいな服装だったからだ。長い銀色の髪は吹き流しを着けるためにかツーサイドアップにされており、その頂には小さな煙突のような帽子が被せられている。年代的には私や島風と同じか少し上くらいか、中学生くらいに見え、格好を恥ずかしがって上着を着るくらいは十分にあり得そうに感じた。

 島風が極端なだけなんだよなぁとまるで隠す気の無い僚艦を思い浮かべつつ、服装からして推定天津風であろうその子に連装砲――たぶん連装砲くんと思われる子をどうぞと受け渡す。どうやらちょっと忘れかけていたようで、受け取った時はそういえば探してたんだったという表情だった。

「ありがとう伊吹さん、久しぶりね」

 

 えっ、誰だっけ。

 

 辛うじて口には出さなかったけれど、内心私は凄く焦った。何しろ誰だかさっぱり分からないのである。私は県外に知り合いは特に居ない。いや親戚くらいは居るけど、それを含めても知り合いは大体が第一期の適性検査の範囲に住んでいて、駆逐艦の適性者だったら同じ訓練所になったはずなのだ。でも、自立稼働するタイプの装備を使えるのは第一期生には島風だけしか居なかったと思うんだけど。

 いや、もしかしたら一般公募で採用された娘とかかな? もし同じ学校の子だったら凄く申し訳ない。私、女子とは陸上部と金剛型の面々くらいしか仲良くなかったから顔を覚えてないだけの可能性が捨てきれない。

「その黒い制服、それが貴女の改二の制服よね? 色が変わっただけかと思ったけど光の反射具合からして材質自体が違うみたいね。面白いわ」

 ちょっと待ってなんで改二の事知ってんの? 機密だよねそれ???

「あなたも久しぶり、最近見ないと思ったら宮里艦隊の方に居たのね」

 今度は猫吊るしと目を合わせて言った。え、お前知り合いなの? って思ったら頭上からは猫吊るしが目をぱちくりとしている気配がしてきた。お前も分かんないんかい。

 私達が混乱している間にその娘は連装砲くんを地面に降ろすと周囲を見渡した。何も居ないと確認すると小首を傾げてこちらに向き直る。その顔をよく見て思い出そうとしてみるも、天津風だからか少し島風と似ているような気がするだけで該当する知り合いはいないように思えた。

「今日は一人……って事は無いわよね。単艦での運用は禁止されてるはずだし……」

 もしかして先に行ったのかしらと鎮守府の建物の方を天津風らしき娘は振り返った。丁度その時だった、何処かへと走り去って行った島風がこちらに向かって引き返して来たのは。どうやら私が付いてきていないと気付いて迎えに来たっぽい。私とたぶん天津風だろう艦娘に気付くと駆け寄って来て、何かを感じ取ったのか天津風の事をじぃっと見つめだした。

 島風はオウッと鳴きながら天津風の顔を間近に捉え、角度を変えて斜め下や真横からも観察すると、服装に目をやり、連装砲くんに手を振り、ぴょんぴょん跳ねると上からも天津風を検分した。何度かジャンプして無事に着地すると無言で二人見つめ合う。こうして並ぶと背は同じくらいか、島風の方も高いヒールを履いているため本当に差は無いようだった。薄い金と銀の髪が突然の海風に靡き、それが治まった頃、島風は眉を顰めて開きっぱなしになっていた口から物凄く胡乱げな声を発した。

 

「何やってんのおかーさん……」

 

 

 

 なんて?????

 

 お母さんって何? mother? your mother? いやどうサバを読んでもお前を産んだ年齢の人には見えねーよ。つーか私お前のお母様の顔知ってるよ? 若々しい表情の美人さんだったけどこんな幼い顔立ちはしてなかったよね?? 最後に会ったの新年あけてちょっと経っての一月末くらいだけどまだ忘れてないよ??? とりあえず発電機が安定したからって夫婦で一回帰ってきて、島さんの顔見てうちの両親に色々頼んですぐ戻ってったけど、中学生もかくやなんて見た目じゃなかったよ???? ちゃんと大人の女性だったよ?????

 島風の足元からひょっこり出て来た連装砲ちゃん達が連装砲くんに跳び付いて、キャーキャー言いながらじゃれ合っている。かわいい。いやそんな事考えてる場合じゃなくて。目の前にはじっとりとした視線で相手を見つめる島風とそれを受け止めて白衣をたなびかせる天津風。島風のお母さん発言を受けた彼女はふっと笑って言い返した。

「何言ってんのよ、どう見たって艦娘でしょ?」

「なんで艦娘の格好してるのって聞いてるの!」

 格好より年齢を突っ込めよ。

 え、何? 私が変なの? 二人の中では特に見た目変わってないの? つーか本当に島さんのお母さんなの? 研究者やって発電機開発とかに携わってたはずでは?

「それはね、あたしが古参の艦娘の一人だからよ。機密だったから風香には言ってなかったけど」

 まぁ古参と言っても半年くらいしか変わらないんだけど。そう言いながら天津風――天津風さんは距離を詰めると島風の頭を撫で始めた。久しぶりねと抱きしめて、長くなった髪を手で優しく梳く。島風の方も自然に受け入れていて、どうやら本当に島さんの母親、島 天香さんであるようだと納得させられてしまった。

 二人は暫くそうやっていたけれど、島さんの方が私が見ている事に気付くとオウッと鳴いて腕から抜け出し、照れ隠しみたいな声色で天津風さんに問い質した。

「それで! なんでおかーさん若くなってるの? 縮んでるし!!」

 あ、やっぱ若返ってるよね?

 

 

 

 天津風さんはとりあえず説明の前にここの指揮官に挨拶してきなさいと私達を建物の方へ促した。普通の鎮守府は提督ではなく自衛隊の艦娘が作戦指揮を執り行っていて、この場合指揮官とはその人の事を言う。この鎮守府だと鹿島さんで、丁寧な対応の出来る色気のあるお姉さんって感じの人だった。ちなみに提督は全提督中最年少、つまりは下限の十二歳の男の子である。性癖が危ぶまれる。

 ここで再度任務の確認をしたが、私達がやる事は輸送の護衛と補助、それと姫級の討伐となっていた。討伐対象は最短かつ多くの物資を運べる幹線道路のすぐ近くに陣取ってしまっていて、四国への支援物資や医療機材なんかの供給が滞ってしまっている。悪い事に出現が復興計画のための大事な荷物を運ぶ重要な輸送計画ともぶつかってしまい、早急な対処が求められた結果私達の出張が決まったらしい。

 道中ちょっとだけ見えたのだけど、この鎮守府の艦娘は大人が多い。たぶん戦わずに迂回や撤退をこなすのが主任務だから判断力重視の人選なんだろうと猫吊るしは言っていた。その分戦闘力は低いようで、護衛まで任務に入っているのはこれ以上深海棲艦に邪魔をされると期日までに計画を完遂出来なくなりそうだからだそうな。

 

 そして今居るのがその計画的に目的地まで輸送しなきゃならない重要な機材の目の前である。

 大きめのバックパック程度なそれは、明らかに人が装着するための機構が備わっており、各所にはコードを繋ぐためのプラグが配置されている。これだけなら何かのついでで運べそうだし、おそらく今はバラされているだけで使用時にはもっと巨大な何かになるのだろうと容易く想像が付いた。数は三つ、背負えるという共通点はあるものの、一つ一つの形はかなり違う。

 近くにはさっき別れたばかりの天津風さんが待っていて、じゃあ説明するわねと私達に向かって目を輝かせたとても楽しそうな表情で語りかけてきた。若干子供時代に還ってません? 私の頭上では猫吊るしが何か知ってそうな声色であー……と呟いていた。

「これがあたしの艤装、発電艦『天津風』よ!!」

 つまりどういうことだってばよ?

 

 

 

 去年末から本州では新型の発電機により電力の供給が再開されている。技術的には艤装の建造技術から派生して開発されたもので、小型ながら一基でも大きな電力を賄える変換効率に優れたものだと私達も教わった。

 今、私達の目の前にあるその実物はというと、これがどう見ても艤装そのものなのである。

 武装は取り払われ、ジェネレーターとして不全なく機能するようにか排熱機構らしきものが増設されているが、艤装の原型は失われていない。天津風さんの傍にある三つのうちの一つ、腰にマウントして使用出来るようになっているそれが元は普通に駆逐艦天津風だったのだろうというのは想像に難くなかった。

「ええと……つまり島さんのお母さんが艦娘として発電機に改造した艤装を動かして発電してたって事で合ってます……?」

 天津風さんはそうよと言いながら首肯した。成程、帰ってこれない訳である。艤装ってのは適性者が居ないと動かない。これが見たまま艤装と同じ性質ならば、おそらく天津風さんは発電のために一日中艤装に張り付き続けていたのだろう。まさに身を削るような献身。それでこんな姿に……いやそれは関係無いか。

 新型発電機の正体は、どうやら専用に改装した艤装だったらしい。微妙な差で悪化する燃料効率と発電量との戦いだったと天津風さんは語る。開発自体彼女の艤装で押し進められていたらしく、そのデータを基に他の艤装も改造可能になったのだとか。ただし、集合無意識側の許可が得られないと駄目だそうで、天津風や夕張などの一部の艦娘からしか承認されていないそうな。

 今、本州の方の発電は新しく採用された民間の人達が交代制でやっているらしい。一応ある程度……数メートルまでなら離れても起動を維持できるらしく、負担の割に高給で秘かな人気であるとか。ただ拘束時間は長い。天津風さんは起動したまま寝て、起きたら交代して研究や整備をしていたそうだ。あれ、あんまり厳しくない?

 今の本州には四国で生き残った人たち全員を受け容れるだけのキャパシティは無い。無理にやれば治安悪化や避難民への差別的な扱いなんかは避けられないと言われている。だから、伝手が無かったり住処が無事な人たちはなんとかこっちに留まって貰わないといけないのだ。その支援のために発電施設の復帰を、という計画であるらしい。

「二人に警護して貰うのはこの発電機一式と、携わる艦娘と技術者になります。勿論あたしも含めてね」

 天津風さんは戦闘部隊水準の適性値は無いらしい。戦えるなら自力で行くんだけどねと零していた。目的地に着きさえすれば組み立ての指揮から起動まで全部やれるみたいだし、かなり重要性の高い人材だろうから無茶はしないで頂きたい。

 

「それで、おかーさんはなんで小さくなったの?」

 さっきまでの説明は今回の任務の背景説明である。島風からしたらもっと重要な母の異変に関しては、なんのフォローもされていなかった。それはそれはご不満だった様子で、連装砲ちゃんを抱きかかえ顎を乗っけて頬を膨らませている。意味不明だもんなぁ、さっきまでの話と全然繋がりを感じないだろうし。

 逆に私と猫吊るしは何があったか予想が出来た。というか、他にそんな現象が起きる心当たりがない。間違いない、この人は改二に到達している。長門さんでもなれていない以上、チケットで無理矢理合格した私以外になっている人が居るとは思っていなかったのだけど、どうやらそうでもなかったようだ。戦闘部隊に入れないくらいの適性値でもなれるというのも意外だった。

 でもこれどう説明する気なんだろう。改二については現在機密扱いで話す事が出来ないはずだ。だからってそこで秘密だよ☆ とか言い出したら流石に島風も怒ると思うんだけど。

「それはね、艤装には若返りと美肌の効果があるからよ」

 島風はオウッ!? と鳴いた。いや間違ってないけども。それ副作用なんだよなぁ……っていうか、普通に言っちゃうんですね天津風さん。

 

 天津風さんは島風に語った。改二の存在、それに伴うメリットデメリット、そして自分が若返り不老の存在となった事まで洗いざらい。話を理解した島風は私の方を振り向くと、びっくりした顔でのたまった。

「じゃあ伊吹ももっとちっちゃくなるの!?」

「なりません」

 私と島風だと島風の方が身長が高い。私は女子平均くらいなので島風がちょっと高いだけだが、私は元男として出来れば男子平均くらい欲しいのだ。だというのに逆に縮んでたまるかというのだ。いや既に吹雪さんと同じくらいだからもう伸びないんだろうけども。つーか今の話で私もなってるって分かったのか……いや分かるよな、私改二って口走ってるし制服の色変わってるし。

「あの、言ってしまって良かったんですか? 私は知らされていましたが、一応機密ですよね?」

 私の問いに天津風さんはふふんと笑うと、大丈夫よと自信有り気な様子を見せた。

「改二の存在自体はもう今日明日中にも情報が解禁されるわよ」

 その妖精さんのおかげでね、と私の頭上に目を向けると、猫吊るしに向かって微笑みかける。

「設計図ありがとうね、ちゃんと完成したわよアレ」

「えっ、もう出来たのか!?」

 そっちに投げてから一月経ってねーぞと猫吊るしは驚きのあまり立ち上がって跳ねた。そういや知り合いなんだな、私と同じく誰だか分かってなかったみたいだけども。

「ほぼ組み上げるだけだったもの。発電の時とは違うわよ」

 猫吊るしの描いた設計図、それは間違いなく艦娘の魂の分離装置の事だろう。完成度が高かったようで、図面通りに造ったらそのまま使えてしまったらしい。

「ちゃんと自分で実験したから実用性も問題無しよ。何回もやったら天津風には怒られたけどね……」

 どうやら天津風さん、集合無意識の天津風さんから魂の一部を貰っては分離し貰っては分離しと試用を繰り返したらしい。よく怒られるだけで済みましたね……悪意からの行動じゃないからかなぁ。私がやったらあの深海吹雪に似た吹雪さんはキレそうな気がする。

 っていうか、一回分離してもまた分けて貰えるのね。意外。まあ流石にちゃんとした理由がないと駄目だろうけど。たとえば一回引退して、旦那さんが亡くなった後にもう一回とかなら行けるだろうか。

「テスト出来ないから実証どうするか悩んでたんだけどな、最悪吹雪でやるつもりだったんだけど、まさかそっちでやれるとはなぁ」

「ま、あたしもまだなったばっかりだから、長く改二で居続けた場合にどうなるかは分からないんだけどね」

 あれ、なったばっかりなのか。体が縮むくらいだから改二になってそこそこ経っているのかと思い込んでいた。聞けばなったのは私が改二になってすぐ、楠木提督から話を聞いて試しに艤装から接続してみたら許されたらしい。

「ただ私は話と違って体に影響が出てなかったのになれたから、ちょっとケースとしては特殊かもしれないのよね。体が変わるのも一瞬だったし」

 まぁたぶん他も分離出来るだろうと天津風さんは笑った。いやそこたぶんじゃ困るんですが。

 

「あれ、これがおかーさんの改二の艤装って奴なの? なんか違わない?」

 話をかみ砕いていた島風が発電艦となった天津風を指差して聞いた。言われてみれば、それは発電機に人為的に改造された艤装である。改二の奴はなんかもっと、妖精さんが弄った後にバーって光るものだ。

 島風の指摘は正しかったらしく、それは別よと天津風さんは微笑んだ。娘の気づきから成長を感じて嬉しかったのかもしれない。見る? と優しく聞く天津風さんに見る! と元気に返す島風。私も自分以外の改二は初めてなので興味があり、預けられている工廠まで見に行く事になった。

 

 さして距離がある訳でもなく、工廠まではすぐ着いた。ゆっくりと扉が開けられると、中の目線が一斉にこちらに向かって来る。

 まず目に入ったのは一番手前の連装砲くんと連装砲くん。その奥に連装砲くんと連装砲くん。一段上がって連装砲くん。クレーンに吊り下げられメンテナンスを受けている連装砲くん。工作艦の艦娘にネジを締められている連装砲くんと開けられている連装砲くん。寝そべった連装砲くんの上に乗る連装砲くんの上に乗る連装砲くん。艤装に取り付けられて動けそうにない連装砲くん。

 総勢十二体の連装砲くんが一斉にこちらを向いた。

 えっなにここ。流石に怖いんだけど。いやかわいいけど、多くない? 島風は驚き過ぎてオッと短く鳴いた。連装砲ちゃんもびっくりしている。

 天津風さんは工廠の中へするりと入り込むと、向けられる視線をものともせずに壁際に置かれたぴかぴかの艤装に手を置いた。すると、自由だった一部の連装砲くん達がわぁっとそこへ集まって、天津風さんを中心に円陣を組んだ。

「これがあたしの改二、多数の砲台を運用するのに特化した、多砲塔艦天津風改二よ!」

 どうやらこの場に居る連装砲くんは全てが天津風さんの武装であるらしい。明らかに駆逐艦には乗り切らない数の砲台だと思うんだけど、有りなのかそれ。そう突っ込みたかったのだけれど、よく考えたら輸送艦になってる私が言えた義理じゃあない。ちょっとこれからなるであろう皆の改二が心配になって来た。

 島風のとかどうなるんだろう、親子だし同じ方向性だったりとかしないだろうか。十二体の連装砲ちゃん……部屋が狭くなりそうだなぁ。

 

 

 




起動したまま寝て、起きたら交代して研究や整備をしていた(娘とその友人を心配させない表現)

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