転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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適性値速上々↑↑

 吹雪が一時的に宮里艦隊を離れると聞かされ、最も衝撃を受けたのは宮里だった。

 可能性としては考えていなかった訳ではない。太平洋に面する現状の海域は異常な頻度で深海棲艦が出没するものの、その質は――今まで宮里艦隊が相手をして来た連中と比べて――低く、吹雪と島風はその機動力こそ有効活用されていたが、戦闘力は持て余されていたからだ。きっと他の、姫級が徒党を組んでくるという日本海側や索敵能力が重要になる瀬戸内海側の方が、理不尽なまでのその能力を活かせるだろう。そういう考えは確かにあったのだ。

 だが、実際にそうなると決まった時、宮里の心中を占めたのは絶大な不安感であった。宮里にとっては恥ずべき事に、一人の艦娘に心の底で頼り切ってしまっていたのである。自身の采配の根底に、吹雪が居る事による安心感が影響している事には気付いていたが、その比重は思った以上に大きかったのだ。

 現在攻略中の一帯は回数こそ多いが、襲撃してきたのは下位の深海棲艦ばかりという事がほとんどである。しかし、姫級や鬼級がまったく居ないという訳ではない。思い出したかのように上位個体に率いられた中ほどの規模の部隊が襲い掛かって来る事もあり、大規模な侵攻がいつあったとしてもおかしいとは言えない状況であった。

 そんな海域である。当然、絶対的な戦闘能力を持つ吹雪がいつでも救援に行ける状態で控えているのといないのとでは、気の収まりようが全く違う。その上、宮里にとっては吹雪が居ない状況での指揮自体がほぼ初めての経験になるのだ。

 自分は恵まれている。宮里は今更ながらに強くその事を実感させられた。他の司令官たちは居ればほぼどんな状況でも覆せるような鬼札など、当然無い状態で采配を行っているのだ。そんな中で宮里だけ手厚い保険を掛けられているような状態だった。他が壊滅したとしても、吹雪さえ投入すればどうにかしてしまうだろうというのは誰の想像にも、宮里自身の想像にも難くなかったのだ。

 当然良い傾向ではない。それを前提としないだけの分別が宮里にはあったが、しない事と出来ないという事、それだけの違いの重さがどれほどのものなのか、今更になってようやく理解が出来たのだった。

 さらに問題な事に、その頼っていた相手が一般人から召集された中学生である。本人の適性や精神性が影響するという改二改装が、明らかに戦闘向きではなかったりする相手でもある。表面上の感情的には戦力として使い倒す事に抵抗すらあったのだ。なのに、実際には、心の奥では、居ないと不安だと考えていた。滅茶苦茶頼りにしていた。その結果。

 

 

 

 宮里 幸     戦艦 大和     4684

 

 

 

 その結果がこの適性値である。宮里はすごく恥ずかしかった。

 艦娘の適性値は提督との信頼関係で上昇するという。吹雪から好意的に思われていた事は素直に嬉しいのだが、自分側の感情が間違いなく褒められた経緯で育まれていない事に、宮里は忸怩たるものを感じてしまったのだった。

 執務室の机に向かい、自分の情けなさに走り出したくなるような衝動を覚えつつ、無論そんな事をする訳にも行かないので誤魔化すように書類に文字を叩き付ける。慣れたもので、それでも雑にはならないくらいには整っている。筆圧はちょっと強かったけれども。

 

 それにしても、と宮里は思う。吹雪は表情に出にくいだけで素直なので嫌われていない事は分かっていたが、半年と経たずに4000を超えるほどに信頼して貰えているのは予想外だった。

 宮里ならば、お国のためと大義名分があるのを良い事にほぼ休みなく戦わせるような相手を好きにはなれない。一応、上にも下にも修理の都合だなどと言い訳して待機させたりはしていたが、滅多にある事ではなかったし。

 戦うのが好きなのだろうかと思った事もあったのだが、改二は戦闘向きとは言い辛い物だったため首を傾げざるを得ない。結果的にただ出力を強化するよりもよほど有効に働いてはいたので、現状に対する最適化ではないかという説も飛び出たりしたのだが、それが出来るなら川内はもうちょっと違う形になったのではないだろうかと宮里は考えていた。

 現状、改二は性能が純粋に強化される者と少し違った方向性を獲得する者に別れるのだろうと言われている。前者は初春と夕立で、後者は吹雪と川内だ。どちらが良いと一概に言えるものではないのだが、川内に関しては正直使い所に非常に困らされていた。

 なにせ闇討ち特化である。速度や隠密性が高く、十全にその性能を活かすなら単艦運用が求められるのだ。そんな事はそもそも禁止であるし、今となっては戦闘部隊でも強力な部類に入る川内を特攻紛いの鉄砲玉扱いなど出来るはずもない。たまに勝手に裏を取って、姫級の首級を挙げてきたりはするが。

 そう、川内は明らかに適性値が高くなっていた。資源の問題で再度の適性検査は行われていないが、恐らくは宮里よりもさらに高い。空中で一度に複数回殴られ、水平に海面をぶっ飛ばされて、その直後に笑顔で吹雪と話していたのを宮里は目撃している。吹雪の方はやべっと呟いていたのだが、戻って来た川内の楽しそうな姿に安心するを通り越して感心しているようだった。空手――本当に空手なのか宮里には判断が付かなかったが――の指導をされたりといった積み重ねもあり、仲はかなり良好だったと言える。

 吹雪は好意を向けられると素直に好意で返してくる。恋愛的な云々は駄目なようだが、少なくとも遊びに誘われて用事もないのに断るという事は無いようだった。コミュニケーションを自分から取るのが苦手なだけで、拒否している訳ではないのである。その結果として、金剛や川内などの積極的に絡んでくる人間の適性値が上がっていくのだろう。

 それ以外にも、初雪が宮里艦隊から戻って以降さらに強くなったと聞くので、吹雪は甘えられるのは問題無いとも考えられる。もしかして頼り切りの自分はそっちのカテゴリに分類されているのだろうかと少し宮里は心配になった。

 周りの人間も、元プロの漫画家で尊敬され趣味も合う秋雲はかなり強くなっている。全く気兼ねなく話し掛ける天龍や深雪、叢雲、伊19なども相応に上昇を見せていて、龍驤も色々と言ってはいたが、結局生放送の一件以来出力が向上してきた実感があるという。一方で、山雲や速吸などの関わりの薄い娘はあまり変化が見られていない。例外的なのが秋津洲で、どういう理由か二式大艇ちゃんが強化され続けていた。吹雪と関係あるのかは不明である。

 長門に関しては完全に長門側の問題で上がっていないように感じる。長門自身は酷い事も言っているから好かれはしないだろうと考えているようだったが、宮里からはどう見ても吹雪にそう考えている事自体がバレているようにしか見えない。元々嫌われていない……というか、むしろ好かれていた事もあり、長門の意識が変わればそれで解決しそうである。でも吹雪……というか自分以外の提督に心を開かれたら、それはそれで複雑な気持ちという乙女心もあるのであった。2X歳が乙女かは議論の対象であるとしてここでは考慮しない事とする。

 総括すれば、なんでもいいから悪意無く話し掛けたら懐くんじゃないのかこの子というアレな評価をせざるを得ない事になるので、少し吹雪の将来が心配になった宮里なのだった。

 少し前に、艦娘達の知り得る情報から吹雪に適性値を上げる能力がある事を推理できる、という事が証明されてしまったのだが、吹雪本人が気付いた様子は無い。だがもし知られても、吹雪側はそんなに変わりそうにないなと宮里は感じていた。懸念があるとしたら――中途半端に仲良くなってしまった娘の事くらいか。書類を片付けつつその子に不幸が無ければいいと考えを巡らせていたら、部屋の外から騒がしい声が聞こえてきた。

 

 

 

 執務室の戸が叩かれ、夕雲に連れられて十名が入室して来た。全員が自ら希望して宮里艦隊にやって来た人間である。その全員の顔に宮里は覚えがあった。八人が四国にも来ていた艦娘であり、一人は淡路島での一件で顔を知っている。最後の一人も四国で顔を合わせていた。

 整列した十人に自己紹介を済ませると、今回の出向に関する注意点などを確認して行く。特にスキルアップに関しては気を付けてもらわないといけない事が多いのだ。主に暁と工廠の負担軽減のために。

 実戦をしながらの訓練になるが、担当は最初から暁だと決まっていた。本人もそのつもりだったし、宮里もそうなると思っていたし、楠木提督すらそうする予定で居た。異論を差し挟む余地も人間も無かったのでもちろんそうなったのだが、問題は別の所からやって来た。他の鎮守府から来た人材以外にも指導が必要になってしまったのである。

 

「この度は私達の要望をお聞き入れくださいまして、ありがとうございます」

 説明を終え、九人の艦娘達が夕雲に連れられて行くと、一人残された男性が宮里に丁寧に頭を下げた。

「いえ、こちらの都合でそうさせてもらった事ですので、気になさらないでください」

 何しろ最前線である。本来なら辞令一つで行かされる事に恨みごとの一つでも出てきて当然なのだ。だが男性達にはそれでも本当に有難かったらしい。

「こんな状況で妻と同じ場所で働かせて貰えるのですから、感謝の言葉くらいは言わせてください」

 男――三雲提督は四国で発見された提督適性の持ち主であり、宮里艦隊で働く夕雲の夫である。提督としての能力を獲得するや、宮里艦隊に配属になったのだ。

「夕雲も同じ事を言っていましたね……」

 宮里の言葉に三雲は照れるように笑った。二人とも根が真面目なのだろうなと、宮里も釣られて笑った。

 

「それでは三雲提督、貴方の任務について説明させてもらいます」

 三雲は宮里の部下として扱われる事になる。立場的には他の鎮守府の提督に近く、作戦指揮などには係わらないが一部の書類仕事には携わり、平時は戦闘部隊以外の艦娘への無効化貫通能力の付与が主な仕事だ。

「今までもこの鎮守府には提督が三人……私と文月、それに出向中の吹雪が居たのですが、それでも賄いきれていなかったので……索敵のために人員を増やした弊害ですね」

 夕雲だけは三雲に任せても良かったのだが、本人達が効率的でないだろうと辞退した。実際、夕雲の被弾状況は索敵の精度に関わるため情報を得られて悪い事は無い。夕雲は優秀なのだ。

「ただ、基本的に戦闘は行わない艦娘達ですので、必要なら供給を切ってしまって構いません。三雲提督にお願いする一番大事な仕事は、私に何かあった場合の交代要員です」

 二期適性者がある程度安定して護衛などをこなせるようになり、燃料供給はある程度安定した。最早適性値が4000を超える人間を遊ばせておく理由も無い。今回の練度向上作戦、参加するのは何も、出向して来た人員だけではないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出向二日目。今日も無事に深海棲艦退治を終えた。初日みたいな言うような事件は無かったけど、この辺りは変なとこから深海棲艦出て来るみたいだからすっごい危ない。猫吊るしが付いてきてくれてるんで陸上も行けるけど、そうじゃなきゃ遠距離攻撃を捨てなきゃいけなかったかもしれない。割と陸に居るんだもんそりゃ私来させられるわ。

 だがまぁ、とりあえずは私達の索敵能力なら何とかなっている。私のソナーよりは見張りの猫吊るしと島風のソナーの方が役に立ってる気がするけど。ちなみにたまに猫吊るしを投げていて、やっぱり発見率がかなり高い。居てくれてよかった。てーか航空機欲しいなぁ、攻撃はいいけど偵察がしたい。瑞雲欲しいなマジで(洗脳済み)

 ともかく怪我も無く九曽神艦隊の古い建物に帰り着き、私達は揃って工廠へ艤装を置きに向かう。荷物を降ろし、もう暗いけどとりあえずお風呂かななどと考えていると、島風が改二の事に関して島風さんに聞いてくると言って、目を閉じ意識を集合無意識へと飛ばした。

 思考加速でもしているのか、あちら側とこちら側だと時間の感じ方が違う。だからすぐに戻って来るだろうとは思うのだが、保障は無いし待ってるべきか否かを迷っていると、港の方に普通の船が戻ってきた。九曽神艦隊の収集部隊である。

 宮里艦隊だと今は護衛部隊が存在していないため危険な所にはあまり行かないらしいのだけど、こっちはちゃんと護衛を付けて敵が出てもおかしくない所にも行っているらしい。今日護衛に付いていたのは秋月姉妹と伊8、はちさんだ。少ししたら三人とも艤装を置きにやってきた。

「あっ吹雪だ。今帰り?」

 私を見つけて話し掛けて来たのは照月だ。偶然だねーとこちらに歩み寄ってきて、壁際に座って目を閉じている島風と連装砲ちゃんを見つけるとそっちに吸い寄せられて行った。

「あれ、みんなお眠? 夜更かしでもしちゃった?」

「艦娘に会いに行ってるだけだよ」

 連装砲ちゃんも一緒に。最近割と島風がよく行くので知ったのだけど、連装砲ちゃんも島風に引率されれば集合無意識に入れるみたいなんだよね。たぶん今頃みんなできゃっきゃしてるんだろう。

 それを説明すると秋月は眠っている連装砲ちゃんを撫でながら羨ましそうな顔を見せた。かわいいし強いから仕方ないね。私だって使えるなら使いたいもん、私が使った場合どんな動きするのかも興味あるし。

「装備として使えなくてもいいから一体作って貰えないかなぁ」

「資源の無駄過ぎる……」

 こんなんだけど連装砲ちゃんは結構維持コストが高いらしい。私も明石さん達から聞いただけだけど修理もかなり手間みたいだし、定期メンテナンスも必要だろうから普通にペットでも飼った方が安くつきそうな気がする。

「ええー、でも吹雪だってかわいいの好きでしょ?」

 妖精さん頭に乗っけてるくらいだし、と私の頭上を見ながら照月は笑った。そういや降ろしてなかったわ。

「いやこれはこの方がいいから乗せてるだけだからね」

「じゃあかわいいのは嫌い?」

 いや嫌いじゃないけども。そういう問題じゃないんだよなぁ、中身が完全に同類だし。オタ仲間だし。TS転生者だし。確認したら前世普通に男で、子供を助けて轢かれそうだった女性を助けて死んだとかいうテンプレ転生者だったし。本人覚えてなくてそう聞いただけらしいけど。現世でも色々忙しく働いていて、給料とか出ないからそれらは全部好意からである。なんかもう凄い良い奴なんだよなぁ。っつーかよく考えたら今世では全然オタク的な活動出来てなくない? まぁでもそれはそれとして。

「そもそも猫吊るしかわいい?」

「は? 滅茶苦茶プリティだが?」

 頭上から猫吊るしの抗議の声が上がった。いやお前動きとか仕草とか完全に男なんだもん。それはそれで需要あるかもしれんけど、私からしたら普通の妖精さんの方がかわいい。

「えーかわいいよ! ねー?」

「ねー!」

 猫吊るしと照月が一緒に首を傾げてねーと言い合っている。中身知ってると結構アレだぞお前。生中継で全国に媚びた私が言えた事ではないけれども。

「私も妖精さん乗っけようかな?」

「あ、それはやめたげて。普通の子は落っこっちゃうから」

 無情のマジレスである。私もやった事は無かったけどやっぱり落ちるのか。チート能力で張り付いてるだけだもんな猫吊るしも。

「やっぱりその子は特別なんだ……?」

 いつの間にか艤装を置いて来たのだろう、スク水に帽子を被り膝上のソックスを穿きさらに眼鏡を掛けた金髪の女性が一冊の本を携えて後ろから声を掛けて来た。潜水艦の伊8……はちさんである。どうやら猫吊るしの事はある程度聞き及んでいる様で、物珍し気ではあるが疑わし気な様子ではなかった。妖精さんが見えているのはたぶん本のせいだろう。あれ召喚用の魔導書みたいな奴らしいから。それだけでいいってのは初めて知った。

「スマホコミュでも話題になってたよ。凄い妖精さんが宮里艦隊にいるって」

「そうなんですか?」

「そうなんだ! 君って凄いの!?」

「スゴイぞー! カッコいいぞー!」

 はちさんによれば、どうも猫吊るしは結構有名になってしまっているらしかった。私の頭に乗っているせいで。うんまぁね、同じ妖精さんずっと乗せてる現最強とか乗っかってる奴も有名になっちゃうよねそりゃそうだ。一番の需要は工廠らしいけど。

「艤装に乗せるとやっぱり違う?」

「そうですね、だいぶ違いますよ。動きがかなり滑らかになりますし、心なしか出力も上がります。無駄が無くなるんでしょうね。たぶんはちさんのに乗せても実感できるくらい変わるんじゃないかと思います」

 へぇ~とはちさんは感心したように私の頭上の猫吊るしを撫でた。猫吊るしは抵抗せずに可愛がられているが、お前それでいいのか?

「おお、人懐っこい……割と逃げて行くんだけどね、妖精さんって」

「あー、俺等にとっては人間ってでっかいからなー」

 別に構われるのが嫌なわけじゃなく、お触りされるのが普通に怖いだけらしい。個体差が結構あるから大丈夫な子も居るだろうけど。

 話している間もはちさんは猫吊るしを可愛がり続けている。私の頭の上の。普通の人には私が撫でられてるみたいに見えるだろこれ。

「はちさん、あの、くすぐったいので……」

「あ、ごめんね」

 抗議すればすぐ止めてくれて、代わりに私を見つめて悩ましげな表情になった。猫吊るしはぐしゃぐしゃになった髪を整え始めた。

「私の事、はっちゃんでいいし、敬語も使わなくていいよ? はちしゃ……はちさんって言い辛くない?」

 噛んだ。

 確かに言い辛いのかもしれない。私自身はチートのおかげで余程焦ってなきゃ大丈夫な気がするけど。

「年上ですし……」

「年齢の事いうなら照月もそうだよね?」

 若干恥ずかしそうだったので噛んだ事には触れなかったら、こっちの痛い所に触れられてしまった。その辺り完全に感覚でやってるからなぁ。

「駆逐艦の皆には何故か自然とため口になるんですよね……成人してたりするとそうでもないみたいなんですが……」

 人妻な夕雲さんとかにはならないんだけど、高校生くらいの秋月姉妹なんかには自然と口調が緩くなるのだ。かと思えば山城さんには丁寧語になっちゃうし、自分でも基準がどうなってんだかよく分かってなかったりする。

「……艤装の影響?」

「ですかねぇ」

 たぶんその可能性が一番高いと思う。コミュの方で口調に関しても取り沙汰されてたとかで、はちさんもすぐにそう思い至った。クマクマにゃーにゃーぴょんぴょんぽいぽい言わされるより遥かに分かりにくいけれど、私も確実に影響を受けてたって事だろう。吹雪さん準拠を完全再現するなら、たぶんちゃん付けでみんなを呼んだりしなきゃならんのだけど、いつか私もそうなるんだろうか。

「まあ無理強いはしないけど、気は使わなくていいからね。緩く行こう、割とそういう艦隊だし」

「確かに宮里艦隊に比べると空気緩いよなここ、戦いに対して前向きでも後ろ向きでもない感じ」

 猫吊るしの言う通りで、ここは好戦的な雰囲気も厭戦の空気も無い。なんというか、良くも悪くも気負いがないのだ。真剣みが無いというのとはまた違うのだけれど。

「概ね北上さんと卯月と九七が居るおかげのような……」

「九七て。もう提督あだ名呼びなんだ? 距離の詰め方エグいね吹雪……」

 いや九曽神提督が九七式艦娘被攻撃機って名前で動画投稿してるからなんですけどねこれ。昨夜一緒にゲームやって呼び慣れてしまった結果だから許してほしい。公的な場とかで出ないよう気を付けないといけないなとは思います。

 本当に男子との距離感凄いんだねと、これまた話題になってしまっていたらしい事をジト目で言われてしまった。中身が男だからなぁ、自分からは誘いに行かないけど誘われたらホイホイ付いて行っちゃうのだ。なお恋愛感情は一切生まれない模様。

「んー、楽しそうだなぁスマホコミュ。ある事ない事色々ありそう」

「あれ、照月はスマホ持ってないんだ」

「避難する時にね、持って来れなくてそのままなんだよー」

 そういえば避難組なんだっけ。泣いてご飯食べてたらしいしかなり食い詰めてたんだろうなぁ。なんて思っていたら、艤装を片付けて身軽になった秋月が丁度こちらへやってきた。話は聞こえていたらしく、照月の傍までやってくると困った顔で妹の頭を撫で始めた。

「我慢しないで買ってもいいんだよ、深香」

 須増 深香、照月の本名である。秋月の方は須増 真深という。何歳差なのかとか細かい事はよく知らないけれど、秋月はしっかり姉をやっているようだ。私みたいな似非姉とは格が違う。そもそも似非妹の方が年上だったし。

「んー……いいよ、みんな困ってるんだし、ごはん優先で!」

「そう? スマホ一台くらいで誰も文句言ったりしないと思うけど……」

「真深姉の分もいるでしょー?」

 それに最近高いしなー、と照月はぼやいた。通信費はそれ程でもないのだが、本体はだいぶ価格が高騰してるからなぁ。壊れると修理すらままならなかったりするのでみんな扱いには気を遣うようになってたりするくらいだし。怖くてトイレにも持ち込めないと誰かが言っていた。

 いや実際の所、普通の部隊でも姫級一体倒せばお釣りがくるはずなんだけどね。手続き手続きで自由に引き出したり出来ないからかまだみんな金銭感覚は崩壊してないのだ。一番ヤベーのは私と島風じゃないだろうか。昨日だけで一人数千万稼いでるし。なお税金。

「二人は仕送りとかしてる感じ?」

「うん。同じ村のみんなに……漁村だったから、稼ぎようが無くなっちゃって」

「あー……深雪もそんな感じだったな。けど、村単位?」

「私達は村でも特殊な家系だったから」

 聞けばこの二人、地元じゃほぼお姫様扱いだったらしい。代々まとめ役というか権力者というか、法的な権利を持たない指導者の家柄だそうで、そりゃあもう大切にされていたんだそうな。子供が少ない地方の集落って事もあったのかもしれないけど、今どき珍しい話である。

 ただ当然、何かあった際には村の皆の保障とかをしなきゃならない立場のようで、両親も喧嘩の仲裁とか漁場のトラブルなんかの対応はしっかりやっていたそうな。姉妹も自分達を大事にしてくれた地元とそこに住む人々に愛着が湧いていたという。古い慣習とはいえ上手く回っていたらしいのだが、そこへやって来ちゃったのが深海棲艦である。村は襲われ人は撃たれ、みんなで逃げて避難所へ行き、最低限寝床の確保は出来たが、問題はその後だったらしい。

「避難所ってさ、本当に最低限の生活しか出来ないんだよねぇ」

 米はある。水もある。だからそうそう死にはしない。でもそれだけ。同じ立場の人達がいっぱい居るから働き口は少ない。その僅かな席だって、仕事に役立つ技能を持った人が優先される。漁師たちには居場所が無かったのだという。

 だが一番悪かったのはまとめ役であった彼女達の父親が、一連の騒動で命を落としていた事だったらしい。優秀だったようで、居ればその益荒男が先頭に立ってどんな状況でもなんとか立て直せただろうと思われていたんだそうな。支柱が居るかって大事よね。

 けどそんな音頭を取っていた人間は居なくなり、しかし行く当てのない村の人達は知り合いで固まってどうにか暮らして行くしかなかった。そうなった時、船頭を引き継ぐ者がどうしても必要だったのである。

「だから今は秋月姉がうちの当主なんだよ!」

「村を代表してここに来てるんだ……出稼ぎみたいな感じだね」

 尊重される代わりに生活の保障をする。当主となってすぐには出来なかったけど、艦娘として選ばれたおかげでそれが不完全ながら可能になったという。孝行娘過ぎる……何人養ってんだこの二人。単位が村って。いや村民も自助努力を欠かしてる訳じゃないっぽいけどさ。ちなみにお金の管理は母親に任せているらしい。その母親は外様だから当主引き継げなかったとかなんとか村社会めんどくせーなおい。

「だから危険手当も欲しいんだけど、現実は甘くなかったね……」

 たとえばだが、私が同じ立場なら余裕で養える。何せ既に姫級数百体倒してるからね。島風と半分こしてもなんとかなるだろう。だが秋月姉妹は、残念ながら弱い。海域攻略中に収集部隊の護衛に回されるくらい弱いのだ。いやたぶん対空が得意って特性も加味した結果だとは思うけどね。

「ああ、連装砲ちゃん欲しいってそういう事情もあってなのか。悪い、かわいいからだけかと思ってた」

 猫吊るしがごめんなーと二人に謝った。秋月は艤装をしてないので見えてないだろうけど。

「あはは、護衛も悪くないから気にしないでよ! なにしろ前線よりよっぽど安全だから。長く続けられるっていうのも大事だよ」

 っていうか、使えなくてもいいって言ってたから可愛いが理由の大半じゃないだろうか。使えるに越した事は無いだろうけれど。それを言ったら照月は正解っ! と辺りに響く声で大笑いした。

 

 島風を待っている間そんな話をしていたら前線へ行っていた面々も帰還して、工廠はにわかに活気付いた。なんだか結構被弾している人が多く、結構な激戦になった事が窺える。全員居るっぽいから轟沈とかは無かった様だけど、やっぱり結構大変な所に行かされてるみたいだなぁ。

 明石さんが猫吊るしを迎えに来たので受け渡すと、大喜びで走って行った。戦艦でも大破したのかもしれない。ばいばーいと護衛部隊の皆に手を振る猫吊るしを見送りながら島風起きないなぁと思っていると、艤装を付けたままの卯月がなにやってるぴょんと話し掛けてきた。秋月姉妹の来歴について聞いてたと言うと、何かを思い付いた様子でにんまりとしながら私の目を見つめて来る。

「二人は自分のお小遣いも貰わないで全部仕送りしてるぴょん! 偉いぴょん!」

 せやな。首肯してやると卯月の方もうんうん頷いて、そうだろうそうだろうと自分で自分の言葉を肯定し出した。

「ところで吹雪はこっちに越してきてまだ引っ越し蕎麦は配ってないぴょん?」

「そもそも出向で配るもんなんですかねぇ」

「でもちゃんとご飯がでるのにお蕎麦はちょっと重いぴょん!」

 それはそう。みんな女の子だしな。秋月姉妹とかそんな食べそうにないし。

「だから、ちょっと良いお菓子を秋月と照月に買ってきてあげるといいとうーちゃんは思いますぴょん!」

 ふむなるほど。

「でもそれ二人だけにやると角立たない?」

「じゃあうーちゃんの分も一緒に買ってくるぴょん!」

 お前自分が食べたいだけであろうそうであろう? いやお菓子買うのはいいけど。どうせ私も食べるし、この艦隊だと配るかはともかく用意しとくのはいいだろうし。

「じゃあなんか買って来るかぁ……」

「わーい、ごちそうさまでーす!」

「ちょっと照月、中学生にたからないの!」

 秋月は遠慮がちだけど、照月は素直に喜んだ。まぁ私年下だから秋月の方が常識的な反応であろう。

「吹雪、気にしなくていいからね。私達の問題は私達だけの問題なんだから」

 寄付とかも募ってないらしい。いやまぁ、それやり出したら同じような状況の人どんだけ居るんだよって話にもなりかねないし、そこまでやる気は元々ないけどさぁ。

「でも秋月、正直さ、事情知ってて横でお菓子食べるの凄く気まずいから、個別に送るかはともかく大入りの奴は一緒に食べてよ。同室のよしみで」

 この鎮守府……っていうか泊地、なんかやたらと大部屋で駆逐艦全員同室なんだもん。私普通に部屋でお菓子食べるのに、横に節約してる子がいたらちょっと抵抗あるじゃん。年上だけど後輩の二期の人達も居るし、自分だけパクパクですわと行く訳にもいくまいよ。

 そんな理由で照月と酒保に行く事になった。秋月も照月が調子に乗らない様にと付いてきてくれるようで、ここの酒保は利用したことが無かったのでとても助かる。宮里艦隊と違ったら困るからね、運営が一緒だから同じだとは思うけれど。

 卯月と照月が艤装を置きに走っている間も秋月は遠慮し切りだったが、口調からしてたぶんお菓子自体は嫌ではないんだろうと思う。そういう子にお腹いっぱい食べさせたいと思うのが我々チート転生者だ。自分じゃあんまり高いのは食べないんだけど、ちょっとだけいいのを買ってみても良いかもしれない。そもそも酒保にお高いのがあるのかは知らんけども。

 

 待ってたら島風も起きてきたので一緒に買い出しに行って、卯月主導で夜にはみんなで色々食べた。

 興味も有り、ちょっと良いお菓子を買ってみたところ秋月には遠慮されてしまったのだが、人数分買っちゃったからと説得してお口に入れてもらった。幸せそうだった。やっぱ好きなんすねぇ。照月はあんまり遠慮してなかったけど、人の分を取るとかそういうのは無かった。島風はやろうとしたので制裁しておいた。

 卯月はやっぱり自分でも食べていたけれど、案外遠慮がちというか、どうやら秋月姉妹に食べさせたいって方が本音だったっぽい。自分であげすぎて秋月が遠慮するようになってしまったと漏らしていた。ついでに本当に買いに行ったからちょっと焦った事も聞き出せた。冗談だったらしい。

 二期生とも話せて多少警戒心も薄れてくれたと思うけど、布団に散ったカスを外にはたきにいかなきゃならなくなったのは不知火の落ち度だからなお前。

 途中で北上さんと提督が乱入して来てカオスだったのだが、最終的に九曽神提督は霞に退治された。それが平常運転らしい。おもしれー艦隊である。

 

 

 




冷静に考えて訓練付けにするより一個人と仲良くした方が強くなれるの凄い酷いなって思いました。
いや訓練や実践もした方が掛け算的に強くなる設定ではあるんですが。
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