伊良湖さん特製の昼食を終え講義に入る。講義は校舎内の視聴覚室で行われ、基本的に他の教室は使われないらしかった。講師は主に電教官が行い、補佐に雷教官が入る。最初の題目は艤装とは何か、である。
この世界において艤装とは『対深海棲艦用装着式艤装型装備』の略称である。対深海棲艦とあるように深海棲艦討伐のために開発されており、通常の物理攻撃では傷つけられない深海棲艦に有効打を与える事の出来る、現状唯一の兵器となっている。
使用に当たっては特別な適性を持つ女性と、それとはまた別の適性を持つ提督と呼ばれる人間――こちらは性別は関係が無い――が必要となる。前者が居なければそもそも動かす事が出来ず、後者が居なければどのような攻撃であっても深海棲艦に損害を与える事が出来ない。
提督の必要性はここにあり、提督が持つ『対物理無効化能力を無効化する力』を運用するための兵器が艤装であり、その艤装を操作し実働するのが艦娘なのである。
純粋な兵器としての威力や射程、精度などは現状の自衛隊の武装よりも劣り、しかし、実際に戦えば確実に艤装の使用者――艦娘が勝利すると言われている。その理由は単純で、深海棲艦の持つ対物理攻撃無効化能力を艤装も有しているからである。
艤装の持つ対物理無効化能力は提督が居らずとも発動しており、対物理無効化能力無効化能力は提督の力が無いと発動しない。そのため、模擬戦やその他の演習などは後者の能力を使わずに行う事で安全性を高めた実施が可能である。
そこまで説明を聞いて私は思った。
これ私ら深海棲艦居なくなった後も解放されないよね?
艦娘同士で戦うのでもなければ提督すら必要無いじゃん。相手に艦娘居なかったら敵基地の迎撃とか無視して蹂躙できちゃうよね? どう考えても次世代の軍事力である。っていうか、飛べないISじゃねぇか! いやアレよりかは大分弱そうだけども。やべぇぞこの世界、深海棲艦も脅威だけど海を取り戻した後にも戦争が見えるわ! 日本が戦争する気なくても艦娘の奪い合いになるだろ!
とか思ったのだが、電教官によるとそういう事にはならないらしかった。その主な理由が妖精さんである。彼女たちが入っていない艤装はまともに動かす事が出来ず、妖精さんたちは人間同士の争いには協力してくれるつもりがないらしいのだ。インベーダーとかエイリアンとかプレデター相手なら協力してくれるんだろうか、と卓上でごろごろしているおサボり妖精さんにこっそり聞いてみたらいいよーと返事を頂けた。宇宙人は人類扱いでないらしい。
「まとめると、艤装に特殊な能力を働かせるために必要な力を供給するのが提督、艤装が動くための命令を現場で出すのが艦娘、艤装を実際に動かすのが妖精さん、という訳なのです」
「艦娘は艦長、妖精さんが乗組員に当たる訳ね」
何か質問はありますか? と聞いてくる電教官に、はい! と大きな声で手を挙げたのは朝潮だった。
「その役割で提督が提督と呼ばれているのは何故ですか?」
ああ……と電教官が微妙な顔になる。気になるわよね、名称周り……と雷教官も頷く。
「それは、大体妖精さんのせいなのです」
そうなん? と目線をやると、妖精さんは小さな鉛筆で私に配布されたノートに落書きしていた。
「そもそも艤装がどこから現れたのか、という話からになるのですが……一般的に自衛隊が開発した、とされているのは知っていますね?」
はい、と答える朝潮。島さんはへーって感じだった。お前私と同じ新聞読んでたよな?
「それも実物を作り上げるための環境を整えた、という意味では間違った話ではないのですが、実態は少し違うのです」
「設計したのとか、使われてる技術は自衛隊の物じゃないのよね」
自衛隊が多数の被害を出しながらどうにかこうにか深海棲艦を追い返している時に、それは現れたのだという。
「自衛隊内でも最初の提督――宮里提督が一人の妖精さんを見出したのです」
宮里提督はそれを幻覚と思わず、規律を無視してまで彼女を上層部に送り届けた。運の良い事に上層部の、それも幕僚長が提督適性の持ち主だった事で事態が動いたらしい。そうでなかったら病院送りだったんじゃないかなその人……
「その妖精さんが齎したのが艤装の建造技術なのです。だから私たちは妖精さんの事を出来る限り尊重しているのです」
技術提供から前線への出動までしてくれてるわけですから、と電教官は言う。
「それで何故提督が提督という名称なのかという話に戻りますが、それは妖精さんがそう呼んでいたから、なのです。提督だけでなく、艦娘などの名称も妖精さんからなのです」
「わざわざ変える必要が無かったからそのまま使ってるのよ」
机上の妖精さんはそーなんだーとおっしゃっていた。知らなかったのかお前。
「ああそうだ、それに関連してなんだけど、貴方達の事を艤装の名前で呼ぶのも妖精さんのためよ。あの娘たち提督以外の人間の名前なかなか覚えられないらしいのよね……」
雷教官の言葉に、妖精さんはごめんねーと申し訳なさそうな反応をしていた。不思議な生態のナマモノである。
「だから混乱を避けるためにも皆さんにも出来るだけ艦名で呼び合って欲しいのです」
電教官の言葉には特に不満は上がらなかった。基本的に知り合いは居ない上に初日でまだ名前も覚えていないからだろう。私と島さん――島風みたいなのは珍しいのだ。やっぱうちの中学校の艦娘、人数おかしいよな?
その後、制服も艤装の一部でありある程度ダメージを吸収してくれる事、艤装を起動すると身体能力も上がる事、艤装のメンテナンスは原則として妖精さんと工廠の専門の艦娘が行うが自分でもある程度出来るようにしておいた方が良い事などが語られ、一回目の講義は終了し休憩時間となった。
部屋割りと同じ順番なのか隣の席だった佐橋さん――初雪は、ファンタジー過ぎて逆にスラスラ頭に入ってきたけどおかげで寝れなかったとボヤいていた。いったい何がお前を睡眠に駆り立てるんだ。
講義の次はまた水上訓練だった。私は特に変わりなかったのだが、不思議と周りの訓練生達は先ほどよりも安定感が増していた。教官によると感覚が定着してきたのと、妖精さんが少し個別の調整をしてくれたからであるらしかった。勝手に定着してくってちょっと怖い。
午後の訓練は深雪がブレイクダンスしようとして沈んだり漣が逆立ちした状態で沈んで犬神家したりはしたが平和に終わり、艤装を置いてシャワーを浴び、夕食になった。
アジが出た。今の日本では見られなくなったはずの海のお魚が食卓に並んでいた。しかも冷凍っぽくもない。脂の乗ったいいアジの開きだった。感動した。招集されて良かったかもしれない。少なくとも食事に関しては良い物が期待できそうだ。私と同じく魚料理に色めき立った様子の一部の訓練生とお肉食べたい系女子とで一瞬にらみ合いになったが、伊良湖さんの明日はお肉にしますねという発言で即座に鎮火された。
アジに箸を入れると身から脂が湧き出してくる。口に運べば魚の旨味と程よい塩気が私の脳を揺らした。添えられた大根おろしも嬉しい。あっという間に食べ終わり、余韻に浸る。魚うめぇ……
食後、伊良湖さんに漁業出来るようになったんですかと質問が飛ぶ。その質問に伊良湖さんは笑顔で、だが若干答え辛そうな声色で返答した。
実はこの訓練所で出す食事は全て艤装で生産したものなんです。
どういうことだってばよ。困惑する私たちに伊良湖さんは説明を始めた。
伊良湖さんの食糧事情講座によると、青さを取り戻した海でも未だ魚介類は戻っておらず、そもそも戻ってくるのかも不明であるらしい。そんな状態でどこでどうやって夕食の魚を調達したのかというと……給糧艦の艤装に燃料と弾薬と鋼材とボーキサイト突っ込んで製造したらしい。そうはならんやろ。
養殖魚ならぬ量産魚。食べて大丈夫なんですかそれ、という質問に対しては成分的には完全に普通の魚だったから大丈夫ですと返ってきた。そもそも艤装が開発されてから今日まで自衛隊の艦娘達はそれを食べて生き抜いてきたらしい。実績あるなら大丈夫だな?
艤装で製造した食材には滋養強壮効果や疲労回復効果もあるらしく、体力の無い訓練生でもちゃんと食べれば翌日にはまた訓練に励めるようになると伊良湖さんは言っていた。良い事尽くめであるらしい。原料名が明らかに食料でない事を除けば。
そこを突っ込まれた伊良湖さんはあれ? という反応をした。一緒に食事を取っていた電教官がまだ教えてないのですとフォローを入れる。
艤装に使われる燃料や弾薬は通常そう呼ばれる物とは違う物体で、どちらかと言えば霊的資源とでも言うべきものである。詳しい説明はまた後日になるが、ともかく鋼材とかボーキサイトとか呼ばれてはいるがそれも妖精さん案件であり、実際には全くの別物である。との事だった。どっちにしろ食べていい物なのかはさっぱりなのだが、とりあえず金属なんかを食物に変換しているわけではないらしい。
まぁそれならいいか、と思う。だって美味しかったし。だって美味しかったし。だって美味しかったし。美食は七難隠すのだ。
オカルトが過ぎてもう感覚が麻痺してきた訓練生たちは、私以外も割とそんな感じだった。
「ああ~……そこそこ……あ"あ"あ"-……」
美味しいがちょっと不審な夕食を終え、部屋に帰って来た私は初雪の脚をマッサージしていた。初雪の脚は筋肉が無く、かなり細い。今日の訓練とも言えないような何かですら張りつめ、かなり凝り固まっていた。もみがいがある。
「はわぁ…………吹雪が同室で良かった……マッサージ上手いし、アニメ流しても嫌がらないし……」
「私もオタクだからねぇ」
初雪は持ち込んだDVDを再生していた。某巨大人造人間が心の壁を張る奴である。この世界で新劇場版完結すんのかなぁ、と思いつつ眺める。部屋の中に居た妖精さんも興味津々である。ちなみにマッサージにはチート能力を使っている。チート力加減を楽しむがいいわふはは。
ここの兵器の作画いいよね……。いい……などとアニメ談義をしていると、玄関のチャイムが鳴った。はーいと出ればそこに居たのは島さん――島風である。島風制服の際どい恰好のままで入り口からうさ耳のようなものを覗かせていた。
「伊吹ー、走ろー」
「走りません」
ガチャリとドアを閉めるとチャイムが連打される。
「は~し~~ろ~~~~よ~~~~~~~~」
ドアの向こうから恨めしそうな声が聞こえてくる。近所迷惑なので開けてやった。
「走る?」
走りません。と期待に満ちた視線を一刀両断する。
「訓練中なんだから体を休めて明日に備えなよ、そういう自己管理も仕事の内だよ?」
「えー、だってこの寮テレビとか付いてないし、暇なんだもん」
秋雲はお絵かき始めちゃったし、と島風はぼやく。ルームメイトに放置されて寂しかったようだ。
「あれ、テレビ?」
リビングを振り返ると、そこには寝ころびながら薄型テレビでDVDを鑑賞する初雪の姿がある。こちらの会話を聞いていたのか、起き上がりテレビを指さしながら言った。
「これ私の私物」
「テレビごと持ってきてたの!?」
持ち込み禁止に指定されてなかったから、と言う初雪はものすごいドヤ顔だった。
「テレビ持ち込むなんてやるねー」
島風は部屋へ上がりこんできた。リビングに座り込むと一緒にアニメを見始める。島風本人はオタク趣味はあまりないのだが、年末年始とうちで過ごしたのもあり理解はその辺の人々よりある方だ。暫く三人で鑑賞する。
「そういえば、初雪は伊吹の妹なの?」
EDに入ったタイミングで島風が聞く。
「それまだ引っ張ってたのか……てか、呼び方直さないと。怒られても知らんよ」
初雪は最初何を言われたのか分からない様子だったが、少ししてアイデアロールに成功した。
「ああ……吹雪型の妹……って事か。確かに、一番と三番だからそうなる……かな」
「おおっ」
本当にお姉ちゃんなんだーと島風は感嘆する。その言葉に初雪はこちらを見つめた。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……なんだろう、すごくしっくりくる……」
おねえちゃーんと言いながらこちらにしな垂れかかってくる。重くはないがうざいので床に転がして足つぼをマッサージしてやる。うごごごと妙な声を上げて初雪は轟沈した。年上だろお前。
チート指圧を足の裏に受け痛気持ちいいと呻る初雪の耳に、島風が口元を寄せ囁く。
「い……吹雪は甘えようとすると嫌がるけど、出来ないでいると手伝ってくれるよ」
なんのアドバイスだよ。
暫くマッサージしていると疲れからか初雪は眠ってしまったので、和室に布団を敷いて放り込んでおく。風呂は明日の朝入れよう。リビングに戻るとテレビを消した島風が待ち構えていた。
「じゃあ走ろうか」
「走りません」
どんだけ走りたいんだお前は。大体もう日も落ちていて暗いし、無用に出歩かないようにとも言われている。どこ走る気なのさ。
「廊下とか?」
「迷惑過ぎるわ」
「じゃあ……校庭とか?」
勝手に使えないでしょ、と返したら、島風は許可貰ってくる! と飛び出して行った。数分もせずに戻ってくる。
「駄目だったー。感覚定着させるためにもうさっさと寝なさいだってー」
それだけ言って仕方ないしもう寝るかなーと島風は部屋へと戻って行った。私も軽くリビングを片付けて、一風呂浴びて寝る事にした。ほら、妖精さんもお家へお帰り。え、うちで寝る? いいけど。
翌日の訓練は水上歩行から少し進歩して、水面を滑る訓練だった。定着が進んだのだろう、訓練生はそこそこの説明でも滑る感覚を理解できていた。意外な事に初雪は滑るのが上手く、足動かさなくていいから楽とまで漏らしていた。逆に大変だったのが島風である。彼女の滑走は速すぎて、細かい制動が出来ていなかったのである。
思い切りしぶきを上げて、島風が高速で走る。プールの端で止まれずに、そのままジャンプしてプールサイドを飛び越え、フェンスに突っ込み停止する。艤装に物理無効能力が無かったら怪我してたんじゃないだろうか。そんな事を何度か繰り返し、最終的には私がプール端でキャッチする形で落ち着いた。私の練習? 最初から急停止も急加速も出来ましたよ。チート便利だなぁ。
フェンスをとんてんかんてんとハンマーで修理する妖精さんを眺めながら、ターンしようとして曲がり切れずに横転する島風を受け止める。ターンより先にゆっくり滑る練習したら? え、今より遅くできない? お前の艤装どうなってんだ……?
お昼を食べ、体の休憩を兼ねた二日目の講義の時間である。
今日のお題は適性値について、だった。基本的には初日の朝食で響教官が話してくれた内容と変わらず、高ければ強く、低ければ弱いという話だったのだが、電教官はそもそも適性値というのが何であるかまで踏み込んだ説明を行った。
適性値とは、『死者も含めた人類の無意識や精神、記憶、魂などの集合体』の中に存在する『過去の軍艦の意識』と同調し、その力を引き出し増幅する能力の強さの値である。
つまり最初にやった艦娘との対話は艤装と話していた訳ではなく、艤装を通して集合体の中の軍艦の意識と話をしていた訳である。あれこの世界のオリジナル吹雪さんだったのか……
ちなみに提督も別口でこの集合体にアクセスして、そこから無効化能力を引き出してくるらしい。そのうち召喚能力者とか出てくるんじゃないかこの世界。
にしてもなんだろうね、このファンタジーワールド。グレートスピリットとかアカシックレコードとか英霊の座とかそういう類のに接続して戦闘プログラムダウンロードして脳か魂にインストールしたってのが昨日のあらすじだったわ。先に説明していただきたかった。
一般的に適性値が高いと制御も上手く、低いと制御も出力も低くなってしまうため戦闘に堪えるだけの人間はかなり限られるのだそうだ。そうなると島風って適性低いのだろうか、速度は出せそうだったけれども。私の適性値は……どうなんだろう、チートで完全制御してる感覚があるため高い低いはよく分からない。まぁ吹雪さんは要らないだろって突っ込んできたし、チート能力あれば要らない程度なんじゃないかなたぶん。
午後の訓練もプールでの滑走練習だった。相変わらず島風は滑って転んで転覆していたが、午前に比べるとマシになってきている。自然に定着するなら反復練習に意味は無いのではないかと少し思ったのだが、そんな事はないらしい。少しずつ曲がれるようになって行く島風を受け止めながら思う。減速の練習しろよ。
日が暮れ夕食を終えると、昨日と違いプールでの自己練習が許可された。島風にプールへと連行され、練習に付き合わされる。島風以外にも割と練習する人は多く、曙や夕雲さん、足立さん――夕立なんかも参加していた。当然のように初雪は不参加だった。
夕立はぽいぽい言いながら華麗に四回転からの三回転半ジャンプを決めていた。そんな適性値高そうな夕立の行動を複雑そうな目で見つめるのが曙である。彼女は滑るの自体は下手ではないのだが、とにかく加速が遅い。最高速度は悪くなさそうなのだがあれだと回避行動は難しいだろう。それでも聞こえてくる響教官のアドバイスを拾っていくと、曙の成長速度が遅いわけではなく上の方がおかしいだけらしかった。漣とか荒ぶる鷹のポーズで高速移動かましてたしね。あれは気持ち悪かった。
翌日翌々日と滑走の練習が続き、島風も小回りは利かないまでも減速を覚え、全員が様になって来た四日目の夕食後。私と島風、夕立、漣の四人は暁教官長に呼び出された。なんでも明日からの砲撃訓練に先立ってテストしておきたい事があるので手伝って貰いたいとの事だった。四人とも特段拒否する理由は無かったので、夕闇の中を教官達と艤装を背負って行く事になった。行き先は海に面しているという第二練習場である。
第二練習場までの道のりは暗く、電灯も灯いていない。町中を通っているのだが、海に近いこの地域はとうにゴーストタウンと化しており、人間どころかほとんど生き物の気配を感じない。荒れ果てたとまでは行かないまでも、手入れをされなくなった街路樹などは乱雑に枝を伸ばしている。そんな中を暁教官長の背負った探照灯で照らしながら進んでいく。適性値は低いと言うが、そういった装備は普通に使えているようだった。
第二練習場は海に面しているというか、港の倉庫街の一角だった。波止場がすぐそばにあるような舗装された岸壁から海に立てられた標的を狙い撃つ、とにかく砲の扱いに慣れるための練習場であるらしかった。
到着すると、響教官が倉庫の中から艦砲を運び出し一人一人に配布した。吹雪型がよく持っているあれである。たぶん12.7cm連装砲か何かだと思うが、見てもよく分からなかった。それを装備しろというので手に持ち、艤装を起動する時のように、本来人間に無い感覚を使って起動する。砲身を動かす感覚が分かるようになったので練習もかねて上下にうねうねさせておく。それを見た三人も一緒にうねうねやり始めたので、砲門を突き合わせて皆でうねうねする。教官達は生ぬるい笑みを浮かべていた。
そうしている間に練習場に設置された電灯が点けられ、海上を照らした。暗い水面には固定された標的がいくつか浮かんでいる。ではまず漣から、と暁教官長に名を呼ばれ漣は発射位置についた。
「それじゃあ漣、一番左の標的を全力で撃ってみて。持たせたのは連装砲だけど、一発だけでいいわ」
漣はおkおkと狙いを定める。初めてで一番手だというのに、少しも緊張した様子は見られない。自然体でネットスラング垂れ流す系女子なのだ。
「それでは第一射、用意! てー!」
暁教官長の若干可愛らしい号令と同時、漣の構えた連装砲から砲弾が飛び出す。真っ直ぐに標的へと向かったそれは、見事に上部の的部分を粉砕した。少し遠くで水しぶきが上がる。
「初弾命中キタコレ!」
漣が歓声を上げる。初心者のはずだが安定感のある射撃であった。連射しても結構当てそうな雰囲気がある。教官達も感心した様子だった。
漣が下がり、二番手は夕立である。同じように構え、渾身の力を込めるように一声ぽい! と鳴いた。暁教官長がごくりとつばを飲み込む。
「それでは……第二射。用意……てー!」
撃った、そう思った次の瞬間砲弾は標的の足と海面の接水点に着弾し、大きな水柱を上げた。轟音が鳴り、吹き飛ばされた海水が海面に叩きつけられる音がしばらく響いた。海水の雨が治まると、海面には根元を粉砕され折れ飛んだ標的が残されていた。
「外しちゃったっぽい?」
「威力ヤバくて草」
「うん、まぁ……外れかな、いろいろと期待は出来そうだけれど」
響教官の評に頑張りまーすと返答して夕立は下がって行った。三番目は島風だ。気合十分という感じで連装砲を構え、お願いしますと教官に合図した。
「それじゃあ第三射用意、てー!」
島風の発射した砲弾は標的の斜め上をすり抜け、遠くの海面へと着水した。衝撃が海面を削り、斜めの水柱が水煙を上げる。
「普通に外した……」
威力はともかく、完全に的から逸れてしまったそれを見て島風はしょんぼりした。
「初めてなんだからそんなものよ、これから当てられるように練習すればいいわ」
雷教官のフォローにはい! と元気よく答えて島風は下がる。最後は私である。私が一歩前に踏み出すと、暁教官長は心なしか後ろに下がり、その後何やら覚悟を決めたように一歩前に出た。
「では、第四射、用意!!」
一際大きくなった声を背に私は構えた連装砲に力を籠める。全力でと言うのだから全力の、手加減抜きで!
「てー!!」
発射音が鳴った。
暫く静寂が辺りを包み、数秒後、島風があれ? と声を発する。
「吹雪今撃ったよね?」
「弾どこ行ったっぽい?」
「空砲?」
三人の訓練生が騒ぎ出す。教官達も不思議顔をしている中、一人、双眼鏡で的の観測を行っていた電教官だけは何が起きたのか理解していた。
「命中、なのです」
電教官が双眼鏡を暁教官に手渡す。的を覗き込んだ暁教官はあ、と声を漏らした。的の中心部には砲弾の直径と全く同じサイズの穴が空いていた。私の撃った砲弾は確かに的に命中していたのだ。ただ音もなく命中し、中心を貫通し、的を揺らす事もなく水平線の彼方へと飛んで行ってしまったというだけで。
「ええ……?」
何がどうしてそうなった、という感じの声を暁教官長が上げた。私が聞きたいです。
暫く相談し、とりあえず問題なく訓練は実施できそうだ、という結論に達したらしい教官陣をよそに私は確信した。
私の適性値、絶対高いわこれ。
どこからどこまで説明書くべきなのかって悩みますね。
まぁこれの場合妖精さんSUGEEEEEEEEって事だけ覚えて貰えれば大丈夫なんですけど。