猫吊るしを乗っけた島風が海上で見事にすっ転び続けている。一応両足どちらでも出来るようなのだが、どっちでやっても歩幅が安定していない。バランス感覚は優れているので着地はなんとかなってるけど、あれだと普通に滑走した方がマシだろう。
先日の一件以来、島風は高速で一歩を踏み出す事が出来るようになった。集合無意識内でさんざん練習していたらしく、そちらではとうに形になっていたって話なんだけど、現実ではやろうと思っても発動せず、したと思っても不発に終わり、なかなか上手く出来なかったという。
それもそのはず、猫吊るし曰く、島風のこの動きはオカルトに属する超能力――何らかの物理法則を超越した力による速度ブースト的なサムシングであるのだから。
私の高速移動は身体能力由来だ。地面や水面を蹴り飛ばして無理矢理体をぶっ飛ばしているだけ、バッタみたいな跳躍を連続で行っているだけなのである。そのため私の通った跡は場合によっては破壊されている。人間一人を撃ち出す威力で踏み切っているのだから当然だろう。一応被害が少なくなる様にやってはいるけど、完全にとは行かない。
しかし島風は違う。この間は室内で発動していたが、後で調べたら着地した壁はともかく踏み出した廊下は何事も無かった。地を蹴る事を発動条件にしてはいるが、私が行っているのとはかなりプロセスが異なっているらしいのだ。
島風の超加速はどちらかというとスラスターを噴かせているのに近い。足から何かの力を噴射して加速しているのだそうである。発動個所は足だが力は進む方向と逆方向に発射されているため下の地面は影響を受けないという訳だ。
つまりこれ、瞬歩とか瞬動とか縮地とかではない。類似するものを挙げるなら、Fateの青王の魔力放出である。
いや島風さんマジで何教えてんの?????
島風が壁を突き抜けた直後、当然ながら轟音が立ったために戦闘部隊も夜勤の非戦闘部隊も大淀さんも九曽神提督も警備の人達もみんな集まってきてしまった。なので島風が転んで壁に衝突したら崩れたと挙動以外は嘘でない説明をしたら普通に納得された。いやぁ、皆のこの建物に対する印象がよく分かったね。
ただ、司令官である大淀さんには本当の事を話さないという訳にも行かず、場所を移して島風が私と同じような高速移動を生身で実現した結果であると報告したんだ。そしたら大淀さんは宇宙に放られた猫のような状態になってしまった。どうやらファンタジー世界で生きているという自覚はまだ薄かったらしい。
でもそんな状態になってもすぐ気を取り直し、ちゃんとした対応をしてくれて、島風は怪我がないかきちんとお医者さんに診てもらう事になった。結果は問題無しだったけど、そもそも島風の現状が現代医学で対応できる範疇だったのかが私には分からなかったので、さらに猫吊るしにも診てもらった訳だ。その結果分かったのが私の高速移動と島風の高速移動の差異という訳である。
「まぁそんな訳で、たぶん体には問題ないんじゃないかと思う。たぶん筋肉を限界以上に使ってるとかそういうのじゃないから、脚が壊れたりはしないだろ……たぶん。たぶん放出してるものも体を傷つけてる感じは無いから、たぶん無害」
「たぶん多くね?」
「専門家じゃないんだからしょうがないだろー」
島風の事について、猫吊るしがあんまり広めたい感じの話じゃないというので、私達は屋根の上でこっそりと話し合う事にした。誰かが来ても気配を察知できるからたぶん誰にも聞かれないだろう。この屋根歩くと音鳴るし。
「何かを出して加速してるっていうのは分かったんだよね? 目に見えない推進剤積んでるようなもんって理解したけど……何を出してるのかは分からない感じか」
「いやそれも大体分かるんだが……」
「分かるんかい」
「あ、たぶんなたぶん」
なんでそんなに自信無さ気な表現になるのか。いや、無さ気っていうか専門家じゃないから自信は無いのか。それでも私みたいに何一つ分からん奴よりはマシな答えを持ってるはずな訳で。
「じゃあ、参考程度に聞いておくから教えて」
そうしてくれと一つ頷いてから、屋根の一番高い所に座る私の顔を見上げて話し出した。
「まず勘違いしないで貰いたいから先に言っておくけど、島風は転生者でもないしチート持ってる訳でもない」
いやそれは知ってるが。知ってるが……猫吊るし視点で確定情報なのかそれ。
「見分け方とかあるの?」
「あるぞ」
あるんだ。
「俺なら体を触って魂まで時間かけて診れば分かる。転生者の魂って加工跡があるんだよ。俺のにもあるし、吹雪のにもある」
「あー……あれか」
そういえば、提督の能力を習得する時に機能が魂に後付けされてたような覚えがある。ああいうのが猫吊るしには分かるのか。猫吊るしは私が知っている事は意外そうだったが、話が早くて助かると軽く笑った。
「島風にはあの跡が無いからな、たぶん俺たちの同類ではない。と思う」
「たぶんなのは消そうと思えば消せそうだから?」
猫吊るしは頷いた。おそらくだが、わざと残しているか面倒だからわざわざ消さなかったかだろうと私も思う。あの自称魔法使い、その辺り自由に出来そうだし。
「俺等と同じようにしてると思うんだよな、もしあの時に与えてるなら」
島風は以前この世界の創造主と思しき魔法使いと対面してしまっている。本人は夢だと認識しているみたいだが、実際にあった出来事であり、何かされたとしたらその時だろう。サイコロは振らなかったらしいけど、本当にそれでチートを回避出来たのかは分かったもんじゃない。
というか、そもそもあの子は創造主的なサムシングだ。何も与えられなかったとしても、勝手に何かしらの影響を受けてしまうなんてのは普通にありそうな話である。いあいあ。
「じゃあなんでその話し出したの? 影響はあるかもしれないから?」
違うならわざわざ言う必要なくない? 私のそんな疑問に、猫吊るしは眉を寄せて回答を呟いた。
「そりゃお前……島風の放出してる力が俺等の使ってる能力と同じ力だからだよ」
ほうほう(梟)そうなのか。
ごめん意味が分からん。
「チート持ってないってさっき言ったばっかじゃん?」
「そういう反応すると思ったから先に転生者じゃないって言ったんだわ」
反応を読み切られていた私である。脳筋寄りで単純だからね仕方ないね。
「まずだな、吹雪はたぶんチート能力に関して思い違いをしてると思うんだ」
お前、自分の力をこの世界に存在しない、外部から概念ごと持ち込んだ力だと思ってるだろ。
猫吊るしはそう言った。私は一瞬意味が理解できなかった。
「……………………え、違うの?」
思ってるよ? どう考えてもなんか普通じゃない、逸脱した能力じゃん。違ったの?
「違うんだよ。実は俺等の使ってる力、それ自体は元々この世界にも普通にある力なんだ。俺の知ってるこの世界の法則に含まれてる」
「えー……? えー……んー…………えー?」
全然腑に落ちない。だってお前、こんな馬鹿身体能力してる奴が過去に存在してたら伝説になってるよ。いやなってるって事なのか? 髪伸ばしまくった怪力の人とか、あれが実在だとかそういう感じ?
「説明続けるぞ。その力は人間なら多かれ少なかれ誰でも持ってる物でな。使えた奴は過去にも存在してるはずだ、名前は魔力とか法力とか……まぁ、色々あるだろうけど」
他にも霊力とか呪力とか巫力とか。最後の方特定作品になってない?
「俺等が異常なのはその量と、それを決まった方向性でだけど使いこなせてる事。具体的な総量は分からないけど……吹雪が普段から発揮してる力だけでも平均……っつーかその辺の一般自衛隊員の億から兆倍くらいかな」
「それ普通は使い物にならん奴だな?」
「うむ。たぶん初春で一億人に一人とか十億人に一人とかそういうクラスだと思う」
つまり猫吊るしの言う事が正しいのであれば、初春の霊能力も私達のチート能力と同質の物であると。曙さんの魂の一部を摘出して封印したらしいからかなり強力なんだろうとは思っていたけれども、それは予想外だった。
「んでその力…………そのとかあのとか付けるのめんどくさいからもう魔力でいいかな? 魔法使いの女の子から貰った力の略で魔力って事で」
「ああうん。好きにしてもろて」
「じゃあそうするわ。その魔力はさ、特定の使い方しか出来ないとかそういうのが無いんだよ。ちゃんと制御できればたぶんどんな事にでも使えるようになる」
この世界に存在するのにこの世界の法則に従わない力。方向性も限界も特になく、制御さえ出来て量が足りればまさしく万能足り得る力。
だから肉体を強化したり、あらゆるものを使いこなしたり、霊が見えたり、足から放出して推進力に変えたり出来るらしい。あー、なんだろう、なろう系ラノベの魔力想像したら分かり易くなったわ。成程ね。
「つまり、私達が貰ったチート能力の正体は莫大な魔力と、それを扱うための制御能力であると」
「そういう事だ。吹雪と俺で全く違う能力に見えるのは使い方……言っちゃえば術式が違うからだな。術式なんて言うほどかっちりしたもんかは知らんが」
私と猫吊るしだと持ってる力は同じものだけど、出力するための回路が違うからまるで違う結果が出て来るらしい。たぶん、あの時振ったサイコロで決められたのがその回路の形なんだろう。
「あ、あとたぶんだけど、修行したらお互い同じ事が出来るようになると思うぞ」
さらにその回路、別に一人一つしか持てないとかそういう事は無いらしい。マジかよ。猫吊るしの能力便利そうだから会得出来るならしたいんだけど。
「『いろいろ』『つかえる』能力ってどれくらい修行したら使えるようになるかな?」
「たぶんだけど……早ければ一万年くらい? 修行だけに集中して」
「分かった諦める」
一万年修行漬けとか悟り啓いちゃいそう。文明の利器で何でも出来るようになるまで待った方がずっと早そうだわ。吹雪似さんのおかげで出来ない事も無いんだろうけど、やりたいかと言われると絶対やりたくない。
「っていうかさ、なんか魔力っていうか念能力感あるよね。発だけみたいだけど」
「俺もそれは思った」
私が強化系で猫吊るしは操作系、島風は放出系かな。初春は……特質? カリスマ性あるっぽいし。
「話を戻すけど、島風の使い方は俺等のに比べると滅茶苦茶単純だな。実体への影響力を持たせて足から噴出してるだけだから」
「単純なのそれ……?」
「俺の能力に比べたらずっとな。その分覚えるのは簡単だったと思うぞ、でなきゃ数か月で形になんてならないだろうし」
実際には月よりも週で数えた方が分かり易いくらいだと思う。たぶん練習始めたの、ポーラさんが撒き餌したあの日以降だろうし。
「んでだ、まぁ、能力の根幹とかそういうのが分かって貰えたところで問題について話そうか」
「問題、多そうだよね」
まあ問題だらけだろう。実用に足るのかとかもあるし、まずどっから湧いたのその力って話だしなぁ。全部説明しなきゃならんのだろうか。どうなるんだそれ、皆で修行する事になったりするの? 緊急回避に使えるだけでも明らかに有用そうだけど。
「まず使用回数の問題。チート転生者だったら魔力量が阿呆みたいにあるから問題無いんだろうが、島風は普通に現地人だからな……」
「やっぱり限度がある? もしかして使い切りで使い切ったら回復しないとかそういう仕様だったりする?」
「あ、それは大丈夫だ。筋肉みたいなもんだと思ってくれていいぞ、むしろ使うと後々増える」
けど疲労はするから使用限度はあるそうな。本当にMPとかそういう類の物だと思っていいらしい。私達のも増えるんだろうか、初期値が大きすぎて多少の増減じゃ誤差になりそうな気はするけれども。
「今後はもっと伸びるだろうけど、今の島風だと限界までやって200歩が限界かな」
「思ったより使えるね」
島風の才能が凄いのか燃費の良い技なのかは分からないけど、ストロークが長いのもあって結構な距離を進めそうな気がする。限界までやらせるのは問題しか無いから実際にはもっと少なくなるだろうけど。
「けど、航行と考えたら少ないだろ? 精々5kmくらいにしかならないからな。陸地通ってショートカットするのには凄い使えると思う」
25mくらいはぶっ飛べる計算なのか、初速と着地時の速度差ヤバそうだなぁ。歩幅を狭めれば最高速で走り続けられそうだけど、距離はもっと短くなるだろうし……ってそうだ。
「まず対応してる妖精さんが居ないじゃん」
「そう、それが二つ目の問題点だな」
高速移動に耐え得る妖精さんは少ない。っていうか、今の所猫吊るししか確認されていない。私だってさんざん悩まされた問題だし、今だって猫吊るしが居ない時は使えない訳で。
「……もしかしてマジで緊急時にしか使えない?」
「しかも島風の場合連装砲ちゃん達が一緒に居るからな。艤装にくっつけられるように改造するとかしとかないと、置いてくしかなくなるな」
島風の一番重要な任務は私が自力航行不能になった場合の曳航……というか、背負うなり抱えるなりしての撤退である。だからそれにだけ使うなら大した問題にならない――いや私が生身であの速度に耐えられるという証明をしなきゃならないのは問題だろうか。普通の人間だとGで死ぬ奴だからなぁ。つーか島風あいつ艤装無しでよく使えたな、体の保護も同時にやってるんだろうか。
「あ、でも島風さんが教えるくらいだから島風さんに何かあてがあったりしない?」
「えっ、あー……いや、でも島風だぞ……? そこまで考えてるか……?」
猫吊るしは眉を寄せ、何一つ期待してなさそうな表情になってしまった。島風さんの評価が酷い。
「もうちょっと艦娘を信用して差し上げろ」
「艦娘だから信用できないんだが?」
それは二次創作の読み過ぎだと思うよ。と思いつつ、善性や戦意はともかくそれ以外のうっかりとかポンコツとかについては私も完全に否定は出来ないのであった。
「まぁ艦娘の島風については島風に確認してもらうとして、後は社会性の問題だな」
「私達もそうだけど実験動物にされたりしそうだよね、社会にバレたら」
超能力者みたいなもんだもんね、マッドな人達にモルモットにされるかもしれないよね。いや日本でそこまで人権無視な事が許されるかは知らんけど。
そんな事を思ったけれど、猫吊るしが言いたいのはそういうのではなくて、もっと個人的な話だった。
「そうじゃなくてさ、気付かないか吹雪。以前お前が俺に言った事だぞ。島風はあいつ、短距離走者なんだよな?」
「……………………あっ」
そっか、島風もうあいつ、ある意味じゃ私と同じなんだ。
「艦娘の影響が抜けても、もう島風はまともに競技には出れない……?」
「たぶんな……常時強化状態の吹雪とは違って発動しなきゃ影響無いみたいだけど、使ってないっていう証明が今の科学じゃ不可能だろうからな。この力が公に認められたら、恐らくかなりの制限を受けるようになると思う」
今まではスタミナも脚力も魂が艦娘に引っ張られた結果でしかなかった。だから艤装を使うのを止めてしまえば元に戻れる可能性があったのだ。でも、今回のこれは違う。これは島風――島さん自身が習得してしまった、今まで周知されていなかったただけの、元々人間が習得可能な技術なのだ。私が艦娘になる前からチート能力を使えたように、島風が元の島さんに戻ったとしても、きっと使えてしまうだろう。
「一応言っておくが、俺は島風の能力について、きっちり報告するからな。大丈夫だとは思うけど健康被害が本当に出ないかは保証出来ないし」
「ああうん。それはもちろん。他にも使える人が出るかもしれないしね」
元々世界に存在する力なら、やり方さえ分かれば習得できる人は他にも居ると思う。習得難度と有用性が釣り合うのかは微妙な気がするが。島風だって管理する側が状態を把握してないのは不味いだろうしね、使い過ぎて魔力切れとか言われなきゃ分かる訳ないし。
それにまぁ……今までの反応を鑑みるに、競技に出れないとかそういうの、本人は大して気にしないような気がするわ。足が速くなったのを素直に喜んで、今のを極めたら身体能力強化も練習し出すとかそんな事になりそう。一番気にするのは……長良さんかな、すげぇ良い人だからまた泣くかもなあ。あ、あと赤城さんも気にはするかな、教え子だし。
「んでさ……これ、どうやって報告しようか悩んでるんだけど」
「どうって、それはまず司令官の大淀さんに……」
大淀さんに…………大淀さんか…………
「言って大丈夫かなあの人。ファンタジー耐性無さそうなんだけど」
「いやぁ……どうだろ。最悪吹雪がおかしくなったって思われるかもな。かと言って俺一人で信用してもらえるほど大淀と信頼関係無いし……むぅ、妖精さんぼでーだと滅茶苦茶めんどくさくなるなこれ。ちゃんと最初から楠木提督に言っとけば良かった。要らない情報だと思ってたんだけどなぁ」
猫吊るしは魔力の使用を後天的に習得する人が出て来るとは思っていなかったらしい。艤装や艦娘云々だけでも情報過多だったろうし、仕方ないね。たぶん胸に秘めてる世界の法則はまだまだいっぱいあるんだろうなぁ。
遠くから壁の修繕をする九曽神提督と自衛官達の明るい声が聞こえて来る。あの人多芸だなぁ、などと思いながら私達は報告すべき内容に頭を悩ませた。
「……という訳で、島風の高速移動に関しては一種の超能力のようなものだと思って欲しい。人間に元々備わった力の発展形だから危険性は低いと思うけど、要経過観察だな」
結局私達は私たち自身の事は省いて全部ぶっちゃけましたとさ。いや、転生とか魔法使いの子とかは直接島風と関係無いから言わなかったけど、それ以外は何が漏れると不味いか分かんなかったからね、仕方ないね。
ぶちまけられた側の大淀さんはと言えば、完全に無言で無表情になってしまった。処理が追いついて無さそう。しばらく私と猫吊るしを真顔で見つめ、眼鏡を直すと、ちょっと待ってと手だけでこちらを制し、座っていた机の引き出しをゆっくりと開いた。
私の上で猫吊るしがなんだなんだと中を覗き込む。見ればそこから出てきたのは一台の通信機だ。大淀さんはそれを淀みなく操作すると、その先に居た人間と短く言葉を交わす。そして通信機を私達の方へと差し出してきた。聞こえる声は楠木提督の物だった。ホットラインって実在するんだね、初めて見たわ。
そうして楠木提督と詳しい事を話し合った結果、中途半端に使える方が危ないのではないかという事で合意に至り、島風は完全に使いこなせるようになるまで出撃後に修行する事に相成ったのである。実用云々は後で考える事になった。また建物を壊されたら困るもんね。
猫吊るしを乗っけた島風が空中で派手に回転し、水飛沫を上げながら海面に着地する。その飛沫の掛からない位置で私は二人を観察しているのだが、たまに島風がこっちに飛んでくるから気が抜けない。艤装付けてるからダメージは無いので危険性は無いけど、びっくりするし集中が解けるから止めて欲しい。私だってただ見つめてる訳じゃないのである。
猫吊るしの話を聞いていて、私は気付いてしまったのだ。
私はある意味、島風未満であるという事実に。
島風は魔力を自分の力で制御して、噴射という形で能力として発揮している。これはちゃんと自分の意思で自分の力を引き出して、しっかり管理出来ているという事だ。
翻って、私はどうかといえば。そう、チート能力さん自身に全部任せっきりなのだ。私は能力のオンオフなんて出来ないのである。
体の制御は完璧だよ? でもそれはチート筋力をチート器用さで精密に操ってるって事であって、力そのものが消えている訳じゃないんだ。出力を抑えられるのと出力が出ない状態にするのは意味が違う。以前は身体能力が糞高くなる能力だから仕方ないねって思ってたんだけど、猫吊るしの解説聞いたらそうでもないんじゃないかという事に気付かされた。だって私、普段から延々魔力を消費し続けてるらしいんだもの。回復量が多いから疲れもしないだけだったんだもの。
つまるところ、私は転生してから今までずっと、チート能力が発動状態を継続していただけで、実際には一度も使えていなかったんじゃなかろうか、という話である。
これに気付いた時、正直滅茶苦茶恥ずかしかったよね。その前提で自分の行動を見返すと、完全に能力使いこなせてないイキり転生者ムーブしてるよね私。他の転生者に会ったらSEKKYOUされるところだったね。いや自分じゃ分かんねーよこれ。ありがとう猫吊るし、やんわりと気付かせてくれて。たぶんそんな気も無かっただろうけども。
勿論ずっとオンでも問題がある訳じゃないし、オフに出来るからってオフにするかは別なのだけれど……実はコントロール出来てませんでしたは不味いだろうやっぱり。猫吊るしはちゃんと出来てるから言い訳も利かないし。
それと、私としては島風の高速移動も出来れば習得したいのだ。だってあれ、構造的にたぶん空飛べるぜ空。超楽しそう。
そんなわけで、まずは自分の魔力を感じる所から始めてみている訳なのだ。なのだが……今の所、全然制御出来そうな気配を感じない。
自分の魂を探ってみると、提督の力の源である集合無意識との接続点は感じられる。ただ、これはチート能力とは関係が無いようで、ちょっと弄ってみても開いたり閉じたり出来るだけで魔力が揺らいだ感じは全く無い。
っていうか、そもそも魔力ってどんなんなんですかね? 私、今まで生きててそんなの自分から感じた事ないんだけど。提督の力を使いこなすのは全く問題なく出来たのに、そっちは気配すら分からないんだけど。
これはチート能力の対応範囲の問題なんだろうか。『なんか』『つよい』さんは身体能力や感覚器官、それとバランス感覚なんかも強化される。提督の力はその強化範囲の枠内にあり、それ故すぐに使いこなせたけど、魔力は枠の外にあるから無理とか、そういう話?
だとしたら、魔力に関しては私自身の、チート能力抜きの才覚で当らないといけないのだろうか。それは……どうなんだ? 今の所魂からも肉体からも魔力らしい気配は感じない。制御云々以前の問題で、話にもならない感じなんだけど。
日が落ちるまで続けたが、結局特に進展はなく、何も感じ取ることはできなかった。
あれ、もしかして、私ってそういう才能全くない……?
少々打ちひしがれつつ、島風に疲れが見え始めたのでトレーニングを終了する。オーバーワークは厳禁なのだ。筋肉と一緒ならインターバルを置かなくちゃね。
私達に付き合ってくれた猫吊るしを工廠へと投げ入れて、明石さんの頭上に十点の着地を決めたのを見届け手を振って分かれる。遅くならないようにさっさと食事や風呂を済ませて部屋へ戻ると、そこには神妙な顔つきで正座する卯月の姿があった。
私と島風が中に入ると卯月はそのままの姿勢で器用にこちらへ這い寄って来て、手を突きゆっくりと頭を床に擦り付けた。DOGEZAである。
ごめんなさい、とぴょんを付けるのを忘れながら卯月は島風に謝った。島風の方はそこまで気にしていなかったようで、オウッと鳴いて驚いている。ネックレスと指輪自体は壁が壊れたすぐ後に返してもらってるんだが、島風は検査に行ってしまったため私経由でだったのだ。そのため謝るタイミングが無かったのだろう。
口調とかから察するに本気で謝ってるようで特に悪意とかは無かったようなのだが……まぁ人の物勝手に触るのは良くないわな。卯月は特に自分の行いで島風が怪我をしていたかもしれないというのが堪えたようで、思い返せば壁が崩れた後は呆然としていたような気がする。なお島風本人は物が還って来たら刹那で忘れてた。根本的に粘性の低い気質をしているのだ。
そんな訳で島風の許しが出たので、卯月はぴょんっと元気よく立ち上がると、いつもの調子を取り戻した。他の子達も一安心である。島風も卯月もどちらも心配されていたらしい。
「そういえば島風、あの指輪って大事な物だったぴょん?」
口調は元気になっているが、視線はまだちょっと他所を向いている。本調子とは行かないか。聞かれた島風は寝巻の襟から指輪を出すと、手に取ってからちょっと悩んだ。
「指輪は別に……支給品だし、艤装のパーツみたいなものだよね?」
「ああ、まぁ似たようなもんだね。効果は機密みたいだけど」
私に確認を取って来たので言える所は言っておく。島風にも適性値の事については伏せる様に言ってあったが、どうやらちゃんと内緒にしておいてくれているようだ。
「ああ~、それ装備の一部だったぴょん! どうりで長門さんのと同じだったわけだぴょん!」
えっ、と思ったが、そういえば卯月、こいつ四国奪還戦に来てたんだったな。その時長門さんの指輪見てたのか。もしかしてそれで気になっちゃって犯行に及んだのか?
なんて思ってたら、卯月は長門さんの写真を見せてくれた。どうやら四国の時に盗み撮りされた物らしく、それが卯月の方まで回って来たものであるらしい。写った長門さんの左手薬指には、見事にケッコン指輪が輝いていた。さてはこれと見比べて本当に同じか確かめてたなお前。
「そーそー、だから指輪は別にそんなに大事じゃなくて」
島風の方も同一の品とはとっくに気付いていたようで、特に重要視はしていなかったらしい。一応能力上がって生存に繋がるかもしれないから大事にしてほしいんですけどねぇ。
「見たければ見てもいいよー」
そう言って島風は指輪をネックレスチェーンから外すと、卯月の方に差し出した。でも卯月の方も同一の物だとはっきりしたならそれ以上は見る意味もない訳で。若干脱力しつつ遠慮して、心遣いだけ受け取っていた。
「でもそれなら何故あんな鬼ごっこを?」
終わりそうだった話に、不知火が一石の疑問を投じた。鋭い眼光でこちらを見つめている。でもここ数日で分かった事なのだが、別に睨んでいるとかではなくて、目の上あたりの表情筋がよく動くせいで過剰表現になってしまっているだけっぽい。別に怒ってはいないのだ。
「首にかかってたもん取り上げられたら、つい追いかけてしまうんはしかたない思うけどなぁ」
隣の黒潮の言葉からは、だからってあんまり暴れられるのはちょっと、という言外の主張を感じる。コミュ弱の私にはこっちの方が厄介である。黒い子ではない。たぶん。
「指輪もよくはないけど、こっちはもっと嫌だったの!」
そう言って島風が掲げて見せたのは、ネックレスチェーンの方である。言わずもがな、私と交換し合った奴である。
「そっちは大事な物だったぴょん?」
「……そこそこ?」
島風は若干言い淀んで、自分で言って首を捻った。よく分かってないんだなそうなんだな。まぁ、送った物を大事にされるのは悪い気はしないけども。
「まあ、駄目になっちゃったら新しいの買ってもいいし、そんなに気にしなくても」
「えっそういう問題じゃないでしょ!」
正直半分以上照れで言った私の言葉に大きく反応したのは、目を丸くした照月だった。私の胸元辺りをビシッと指差すと、そのまま早足で寄って来て、その指で私を突きまわす。
「友達とお揃いのネックレスなんだから、大事にしてて当然でしょー?」
その言葉に私は固まった。実は私、貰ったチェーンはちゃんと身に付けて出撃していたりする。ただ、私は普段から服装はきっちり整えているため、制服の首回りは見えない様になっているのだ。そして部屋着の時は外して仕舞っているから、着替え中に遭遇でもしない限り気付かれないと思っていた。いやぁ、女子の観察眼舐めてたわ。
「お揃いにしてたぴょん?」
恐る恐るといった様子でそれが真実なのか確かめる卯月に、島風は笑顔で答える。知られてるなら否定する必要も無いもんなぁ。
「うん! これ、っ、吹雪から貰った奴だよ!」
卯月は再度土下座した。
あっ、魔力で作ったケーキが消化されてますわ……
まあいっか……別に悪影響とかありませんし……
――創造主の独り言