転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

52 / 92
みんな色々あったっぽい

 ワレ宮里艦隊ニ帰還セリ。

 いや、本当に久々に帰って来た。なんせ、明日には帰りかーとか思ってたら延長を言い渡されちゃったからね、その日の夜に。もうちょっと早く言って欲しかった。卯月とかなんだったらお別れだから今日は何か奢ってもいいぴょんとか言い出してたからね。ちょっと気まずかったよね。

 期間が伸びた理由は簡単で、変な変色海域の展開を行ったと思われる個体を取り逃がしたから、である。基本外からは入れないっぽいんだけど私は無理矢理突破出来そうだったという事で、また出た時の対策にと残された訳だ。でも結局、その後あの赤い海は私達の目の前には現れなかったんだけど。私達の目の前には。

 つまりは別の所に出現したという事ですねはい。最初に出た場所は瀬戸内海からは本州を挟んで反対側、京都府は若狭湾、舞鶴である。

 日本海側は提艦隊が変色海域を解放しながら先行し、通った後を他の鎮守府が護るという形で平定が進められているのだが、今現在提艦隊は若狭湾をとっくに通り越し、島根に入る所だったらしい。そのため鎮守府もそっちの方まで移動しており、遭遇したのは別の艦隊――井口艦隊という大半が二期生で構成された艦隊だった。

 一応既に侵入を阻む新型変色海域の事は各司令官達に通達されていたのだが、あれってごり押し出来る私以外に外から何とか出来る人なんて居ない訳で。そうなると犠牲者がね…………まぁ、出ませんでしたね。不思議と。

 いやもちろん理由はちゃんとあるんだ。あの変な変色海域、チートさんに頑張って貰えば侵入出来そうだったのは置いといて、基本的には外から中に干渉出来ないんだけど……中から外へ出るのは可能だったらしいのである。

 もちろん敵に追いかけられて一方的に撃たれ続けたという話なんだけど、それを凌ぎ切って変色海域の端まで到達できればそこは普通に通り抜けられたのだという。ちなみにその人、最後には大破状態まで追い込まれて浮く機能以外がほぼ停止したため自力で走って逃げ切ったそうな。境界を抜ければ追って来ないようで、そのまま弾き出された人たちと合流、赤い変色海域もいつの間にか消滅していたという。

 またその数日後にはさらに別の場所で出現が確認された。その時は展開した位置の問題か範囲内に陸地が含まれていて、そこまで逃げるとそれ以上は結界内でも追って来なかったらしい。ただしその場合でも結界から出るまで海から延々砲撃が来るらしいけど。

 これらの事から、変色海域を展開中に範囲を移動させる事及び連続での展開はしないか出来ない、陸地は嫌い、などの推論が立てられた。なのでとにかく遭遇したら逃げ一択。倒そうとか絶対にしないようにと厳命された。私や金剛さん以外。私達はいいのか……

 またいずれの事例も秋月が変色海域内で見た深海棲艦と特徴が一致しており、同一個体もしくは同型個体と考えられている。この特殊な個体、その名を地中海弩級水姫といい、その名の通りド級なクソデカ砲台振り回して物凄いステキ極まる笑顔で追い回してくるという。何故かお供などを連れておらず、艦載機も積んでいないようで一対一になるらしいのだけれど、正面から打倒するのは辛い相手だろう。何しろ戦艦のそれも水姫である。足はそんなに速くなかったらしいけど、気が付いた時にはもう射程内に入ってしまっているらしいし。

 さてこいつの登場により変わった事がある。それは、艦娘の士気である。いやもうね、駄々下がりらしいですよ。私は士気の低い鎮守府に行ったことが無いからあんまり実感ないんだけど。

 今までは群れて連携してどうにかしてたし、実際なってたんだけど、それが出来なくなる上いつそうなるかも分からない。そりゃ怖いよね。強い人達なら……って思うかもしれないけど、糞強いって言われる金剛さんや夕立、北上さん辺りならともかく、普通の艦娘は姫級どころかモブの戦艦クラスでも一人じゃどうにも出来ない訳でね。今回は逃げるのに成功したけれど、一般的な強さの艦娘なら秋月と同じような目に遭わされる事は想像に難くない訳で。かと言って生存率に関わっちゃうから情報封鎖をする訳にも行かなかった。赤くなったら即逃走、この判断が出来るか出来ないかで話が全く変わっちゃうから仕方ないんだけど。

 さらに一過性でない問題なのが、今まで発見された地中海弩級水姫が同一個体だったとして、そいつを倒せたところで他の奴が使ってこないという保証は全く無いって所だ。固有の技能――それこそ私達のチート能力みたいなもんだったらまだいいけれど、普通に他の深海棲艦も習得出来ましたーとか言われても何の不思議も無い。私が今すぐにそいつをぶっ倒したとしても即座に不安は取り除かれないだろう。酷い毒だ、誰だこんな糞能力許した奴。

 

 まぁそんな訳で、九曽神艦隊ではなく別の場所で大暴れされちゃったため、私が残る意味は薄いだろうという事で宮里艦隊へと戻される事になったのである。まぁつまり、他の所より宮里艦隊の人達守った方が利益になるって事なんだろうなぁ……悲しい話だ。

 宮里艦隊では私の出向が延びたのに合わせて、訓練に来た皆も期間が延長された。そのおかげか、曙や漣の問題は一応の解決を見たらしい。最後に支えになったのは結局姉妹艦だったらしいのだけれど、そこに至るまでの立役者となったのは改二になり霊能力も取り戻した初春だったそうだ。あまりにもあんまりな綾波型の惨状を見て立ち上がってくれたらしい。聞いたところによると……やったらしいっすよ、降霊会。

 

 鎮守府の場所が移っていたためちょっと探したりしたけど無事到着。宮里提督に顔を見せ、挨拶もそこそこに工廠の人達に猫吊るしを預けずに出撃である。明石さん達には申し訳ないのだけれど、例の変色海域が近くに出たら走って向かわないといけないから必須になっちゃったんだよね、猫吊るし。絶望の声が上がったが私にはどうしようもないのである。深海棲艦を恨むしかないと思う。

 やる事は普通の迎撃だったのですぐ終わり、ついでに周囲の探索も頼まれていたので探してみたが、特に周囲には何も無し。例の奴が出ないかなーなどと思ってみたがその気配も無し。私と1vs1してくれないかなぁ。

 なんて思いながら次の指示を受け、なんだかんだで五か所ほど倒して回った。これだよこれ。有効活用されてる感が凄い。懐かしい。

 

 

 

 そろそろまともにブーストを使って走れるようになってきた島風に普通の航行状態で少しずつ魔力放出して常識の範囲内で加速する新技を披露されつつ鎮守府に帰り着く。普通そっちの方先に覚えない?

 猫吊るしごと艤装を工廠に預け、慣れない場所で若干手間取りつつお風呂を済ませると、部屋では曙が私達を待っていた。今日は夜の出撃当番だったらしく荷物を置きに来た時も鎮守府に居て、出撃前にも一応顔は見たのだけど、急いでたのもあって話せてはいなかったんだよね。表情は出向前と比べるとずいぶんと晴れやかなもので、私と島風と向かい合うや頭を下げて謝罪と感謝の言葉を述べて来た。

 曰く、気に掛けてくれてありがとう、ちゃんと応答出来なくてごめんなさいとの事だったが、大して役にも立てなかったので気が引ける。島風の方も気にしなくていいよー程度の反応で、連装砲ちゃん達は曙が元気になったのを無邪気に喜んでいる様子だった。

「それで、その……あたし達に何があったか、聞く?」

 神妙な表情で曙は問いかけてきた。まぁ、興味が無いと言えば嘘になるけれど。隣の島風を見れば向こうもこっちを見返して来て、どっちでもいいよーと小声で伝えられた。私が決めていいらしい。

「いや、いいよ。もっと気楽に話せるようになったらにしよう」

 そんな軽くなる日が来るのかは知らんけど。でも、少なくとも目の前で真剣そのものと言った顔をしている曙に言わせたいとは思わないんだよね。大体予想が付いてるってのもあるけれど。

「まあほら、お酒の席で話せるくらいになってからって事で」

「何年後よ……」

 雪ちゃん13才だから最低7年後である。いやもう暫くで14になるからもうちょっと早いかな? っていうか、私の体って吹雪さん準拠の年齢で成長止まるはずなんだけど成人したら飲んでいいんだろうか。

「まあ、でもいいわよそれで…………そこまであんた達と付き合い続くかしら」

 島風がオウッと鳴いた。どうやら続ける気だったらしい。一応私とは進路希望が同じだから連絡は取り合うんじゃないかと思うけどね。7年もあれば変わってるかもしれないけど。

 曙の雰囲気は柔らかくなり、緊張が取れたように見受けられた。やっぱり話したい訳ではなかったらしい。曙だけじゃなくて漣の事情も絡むっぽいからなぁ。

 じゃあ別の事を、という流れで荷物を整理したり報告書を拵えたりしつつ、私達はこの一か月にちょっと足りない空白を埋めて行った。

 

 

 

「魔力、というのは私達にも扱えるものなのでしょうか」

 夕食やなんかを終え、帰って来た昼当番の戦闘部隊の皆とおかえりただいまと挨拶を交わし合い、川内さんに率いられた夜戦部隊を見送って、私は猫吊るしと一緒に宮里提督と長門さんの前に立った。九曽神艦隊での事、そして魔力関連の云々を詳細に説明するためである。

 もちろん言える事は大体向こうで報告したから目新しい事は特に無いのだけれど、宮里提督はもう一歩前に踏み出してきた。

「ちょっと動かしたり出来るようになれるかっていうなら誰でもなれます。でも実用レベルまで行けるかどうかはその人次第です」

 問題になるのは結局魔力の量であるらしい。元が少なくても頑張って増やす事は可能なのだけれど、実用圏内に至るまでにかかる時間を考えたら他の事を習得した方がマシじゃなかろうかと猫吊るしは言う。最悪百年単位になるらしい。そりゃ勧められんわ。

 長門さんは猫吊るしの声が聞こえないので私が同時通訳しているが、今日の猫吊るしは割と丁寧な言葉遣いになっている。テンションによって変わってる気がするのは気のせいだろうか。

「たとえば、私はどうでしょう。猫吊るしさんなら分かるんですよね?」

 猫吊るしは他人の魔力量を測れる。一応私も魔力の有無だけなら感じる事が出来るようになった訳なのだけど、猫吊るしは自分の中に何か基準を持っているらしく、一般的な平均と比べてどうなのかも判断が可能らしい。

 お体に触ってもいいなら調べますよと言う猫吊るしに、宮里提督はお願いしますと手を差し出した。どうも猫吊るし、基本的には個人情報だしお触りするのはセクハラだしそもそも実用レベルの奴なんて居ないだろうし居ても戦闘に使わないだろとか思っててまともに魔力計測は行っていなかったんだそうだ。一般的な平均が自分の認識と合ってるかだけ確認してそれきりだったそうな。例外的に初春は気になり過ぎて調べたらしいけど。ガチ霊能力者とか居たらそりゃ気になるよね。

 私の頭の上で猫吊るしと提督が手と指を繋ぐ。そのまま少し沈黙して、三十秒ほどで猫吊るしは手を離した。

「えー……平均未満なので、艦娘として普通に研鑽して頂いた方が宜しいかと存じます……その、被弾率的にも……」

 言い辛かったのか妙に丁寧さが増している。いやなんか、宮里提督……っていうか大和さん、火力は申し分ない通り越して全艦娘中三位四位を争うレベルらしいんだけど、他の戦艦と比べても被弾が多いんだそうな。工廠で猫吊るしが明石さん達に泣き付かれてた。宮里艦隊っていうハードモード部隊でいきなり実戦投入されてるんだから仕方ないとは思うんですけどね。

 宮里提督は少し気落ちした様子でそうですか……と呟いた。出るたびに攻撃を受けるのは自分でも気にしていたらしい。デカくて目立つから狙われやすいのかもしれない。だからこそ回避運動は習熟してもらわなきゃいけないんだろうけど。

「基本的には戦闘に堪えるものではないと思って貰った方がいいです。島風や初春はどっちも天才って言っていいくらいなんで参考にしない方がいいですね」

 猫吊るしの言葉に疑問を感じたのか、宮里提督は私の事をまじまじと見つめた。私の目と提督の目が合った。

「吹雪はどうなんですか?」

「こいつは才能とかそういう問題じゃないので……」

 正しいけどその言い方はどうなんだ。通訳するのに言わなきゃいけないの抵抗あるぞ。言ったけど。

 言われて眉を顰めたのは長門さんである。ファンタジー世界な事への苦情は例の魔法使いを名乗る不審な少女に言っていただくしかない。

「吹雪の身体能力は艦娘の影響ではなく、魔力の影響だった。という認識で合っているか?」

「あっ、はい。そうらしいです。生まれつきです」

 私の身体能力に関しても大体報告済みである。とはいえ、転生の事は言っていない。これは私自身というよりは他の転生者に配慮してなんだけどね。その辺り言って大丈夫なのか楠木提督に確認出来ないからなぁ。魔力周りは楠木提督が公……ではないけど一部の人には伝えたらしいから言って大丈夫なんだと思っている。間違ってたらごめんなさい。

 ともかく。私の返事を聞いた長門さんは自分の手の平を見つめ、何かを確かめるように閉じたり開いたりし始めた。何度かそれを繰り返し、私の方、というか猫吊るしの方へと指を差しだした。

「私のも測って貰えるか?」

「はーい」

 猫吊るしは軽い声を上げると長門さんの指をちっちゃいおててで包み込む。長門さんはその感触も感じられないので、今やってますと伝えておく。そのまままた三十秒ほどが過ぎ去った。

「うん……大体島風の六分の一くらいなんで、十分使えますね」

「……それは実用範囲内なのか……?」

「私はそれ未満なんですね……」

 二人ともどう判断していい物か困ったようだ。けど、猫吊るしによれば連続で使用出来る島風やそれ以上の魔力量を持つ初春が超優秀なだけで、長門さんでも普通よりはかなり多いらしい。宮里提督はうん。

「とはいえ、習得への道筋も拓かれてはいないですから、無理に覚える様な物ではないと思います。ぶっちゃけ長門なら普通に戦った方が強くなれると思いますよ、被弾率も高くないですし」

 初春は天然物で生まれつき使えるし、島風は道もないのに無理矢理突き抜けて行って習得した。私と猫吊るしに至っては使えるように調整されてるだけだからね。身に着けるための先人の経験や知識が不足しまくっているのである。

「だが、極めれば吹雪のようになるのだろう?」

「いやほんと吹雪を参考にしないでください。こいつの魔力量島風の億倍はあるんで」

 島風と比べてもそんななの? 兆倍って誇張無しだったのか……チートって本当にずるいなぁ。まぁ私の場合それに甘え過ぎてて極めるどころかまともに使いこなせてすらいないんだけども。それを言ったら二人ともかなり驚いた様子だった。そりゃ、すぐ目の前に島みたいなクジラ一匹素手で解体するような力の奴が居てそれを抑えられてないとか言われたらドン引きですわな。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず魔力に関しては秘匿する方向で行くらしい。まぁ、それにかまけられても困るもんね。みんなまだまだ普通の艦娘として伸びしろがあるみたいだし。

 そんなわけで翌日になり、私達は今日も今日とて楽しい楽しい出撃である。いや楽しいかは微妙だけども。

 昨日に引き続き迎撃と敵の集まっていると思しき場所の襲撃の両方をやらせて頂けるそうで。張り切って出た私を待っていたのは空母から発艦したと思われる敵機の群れだった。即時鎮圧である。

 周囲を回って敵艦隊を葬りつつ、並行して変色海域の核も探して行く。これがそれなりの頻度で見つかるのだが、どうもこの海域、様子がおかしい。

 というのも、昨日から幾つか潰しているのだが、紅い海が青い輝きを取り戻してくれないのである。と言ってもそれ自体は別におかしな話ではない。前にもあったけど、変色海域の核と変色海域の核で効果範囲が被ってしまうと片方を壊しても海は元には戻らないのだ。

 けど今回の場合、三つ壊しても四つ壊しても海は紅いまんまだった。もしかしてダミーなのかとも思ったけれど、猫吊るし曰くちゃんと本物であるらしい。一応範囲が狭まってもいるそうで、小さいのが大量に配置されているだけだろうとの事である。前も似たような事あったなぁ。もしかして時間稼ぎされてる? 資源的には結構美味いんだけどイラっとくるぜ。

 

 帰投命令が出たので鎮守府に戻り、艤装を置きに工廠へ行けば、格納場所の一角が目に見えて静謐というか、清浄な空気の漂う神聖な空間と化していた。

 その中心に居るのは初春である。目を閉じ艤装に手を当てて、どうやら集合無意識に精神がお出掛けしている様子だった。

 これもある種の結界かなぁなどと思いつつ、さっさと降ろして走り去った島風に倣い自分の艤装を片付けようとして、初春の居るそこへと足を踏み入れると、彼女は急に目を覚ましこちらを振り返った。もしや本当に結界かなんか張っていらっしゃった?

「む……吹雪か。何かおかしな気配がしたと思ったのじゃが……」

 どうやら普通とは違う何かを感知したらしい。初春は辺りを見渡したが特に周囲に変わった様子はなく、気のせいかと呟くとこちらに向き直って、何かに気付いて軽く目を見開いた。訝しむ様に私の少し後ろ辺りを見つめると、そこから目を離さずに厳しい顔で私に問う。

「吹雪お主、何から力を借りておる……?」

 何ってそりゃあなた、吹雪さんでは? 後は猫吊るしとか、チート能力さんだとか。ある意味じゃ魔法使いの子の力も借りてる事になるだろうか。そう考えると一切自分の力で戦ってないな私。

 少し魔力であろう力を体に滾らせた初春の目線は私を通り越して艤装の方に向いている。そうなるとチート云々では無くて吹雪さんの方だろう。いやでも、借りてるのは普通に吹雪さんの力のはずなんだけど――いや待って。もしかして初春、吹雪さんが見えてたりとかする? 吹雪さん(しんかいふうのすがた)が。

 

「つまり、害は無いのじゃな?」

「うん。見た目は深海棲艦に似てるけど、中身はいい人だよ」

 全く問題無いと説明してみたら、半信半疑と言った様子だけれど一応納得してもらえた。確かに見た目だけだと怪しいよなぁ。

 初春は以前、艤装を通して艦娘の姿が見えると言っていた。吹雪さんの姿だけは見えなくなっていたみたいだったけれど、それは元の吹雪さんが何処かに行ってしまい、代わりに出て来た深海似の吹雪さんは奥に引きこもっていたからだったと私は予想している。

「初春、今は吹雪さん見えるの?」

「……見えておるな。話の通りであるなら、出て来たか、わらわが力を取り戻してきたからじゃろうな」

 警戒はまだ少ししているような素振りだけれど、とりあえず敵意は収めてくれた。私を心配しての事だろうからちょっと反応に困る。私は吹雪さんを完全に信用してるからなぁ。

「改二になってから霊能力が戻って来てるんだよね? 大丈夫なの、それって」

 初春の改二改装に関しては顛末を見てはいないけど聞いてはいる。でもなんでそうなったのかとか、そういうのはよく分かっていなかったりする。初春的には戻っていい物なんだろうか。

「うむ、特に問題は無いぞ。そうじゃな、この際じゃ、吹雪にも説明しておこうか」

 そう言う初春の顔は少し恥ずかしそうだった。

「実はの、わらわの霊能力は使えなくなっただけで、無くなった訳ではなかったらしいのじゃ」

 初春は新興宗教的なアレの神託の巫女とかそういう類のソレだった訳なのだが、成長に伴い彼女の中には信者に対する罪悪感や自分の行いに対する忌避感なんかが育って行った。その結果、体はともかく心の方が不安定になり、霊能力が使えなくなって行ったという。おかげで初春頼りだった組織は瓦解。初春の肉体の方は叔母の尽力もあり健全に保たれたというのだが。

「要は、精神的な問題で使えなくなっておっただけのようでな。力そのものは全く衰えてはいなかった、という事らしいのじゃ」

 だから、曙の危機という力を振るう事に躊躇いを感じさせない場面では全力を出す事が出来たらしい。艦娘の初春さんは霊力――私達が魔力と呼んでいるそれが無くなっていない事を最初から理解していたとかで、それと向き合い自分自身の心を深く知る事を改二改装への条件に設定していたんだそうな。

「今思えば、口調が普通でないままだったのも精神の乱れの現れだったのじゃろうな……未練とは違うが、霊障を患う者たちの助けになりたいと思う心は残ってしまっておったようじゃ。知らず力を封じるほどに嫌気が差していたというのにのう」

 その辺りを自覚して、ちゃんと向き合って初めて改二になれる。予定だった、らしい。

「初春って初春さんに任せようとしたら自分でやれって言われて、実際曙さんの魂封印して見せたらそのまますぐに改二になったって聞いたんだけど……前々から自分の事を考えるように言われてたりしたの?」

 私そういうの一切無かったからなぁ、みんなそれとなく艦娘から魂を分けてもらうための条件を提示されてたりするんだろうか。吹雪さんは本当はどうしたら認めてくれたんだろう。チケットで無理矢理やっちゃったから謎のままである。

「いや、わらわも改二になってから初めてその辺りの説明を受けたのじゃ」

 え、それだと向き合う暇無くない? 曙任されて一瞬でその辺りの自覚から覚悟完了まで行ったの?

「いや……それがのう、どうも初春殿は……ノリと勢いで予定を全部前倒しにしたとかでのう……」

 自分の内面について深く考えたのは私達が出向しているこの数週間の間だったという。完全に自分の心根を理解出来たのは降霊会の最中だったらしい。

 初春さん……前に初春に憑依合体してた時もちょっと思ったけど、さては結構愉快な人だな?

 

 

 




やってたソシャゲが終わって虚脱感に包まれました。かなしいなあ。
まぁ何度もしてきた経験ではあるんですが。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。